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謎解き島田、魔神の遊戯 [島田荘司]





* 010000 はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 020000 プロローグ、御手洗と教授仲間
** 020100 2002年1月、メーラレン湖のカフェ
*** 020101 ウプサラ大学の教授仲間の話し、ジョージは今どこ
メーラレン湖のほとり、カフェ、シアルビィ館のガラス張りのテラスでウプサラ大学教授仲間、血管生物学のカーステン・ストゥナーがいう。ジョージ・ハイアンズはどうしてる。今どこに。誰もこたえられない。去年は、よくここにと免疫学のアレキサンダー・ヒューストローム教授。だがきゅうに大学からきえた。彼はセスナ機のマニア。どこかで遊覧飛行でもとスヴェンド・オルケン教授。アメリカでも。なら噂が。妙だ。キヨシ、君なら何か。カーステンが御手洗潔にきく。さあね。ふむ。彼は君とおなじ畑。ストックホルム大の研究室時代からずっと君にくっついてた。こっちのハインリッヒと一緒にね。君ならしってると。皆んな、フィカはどうと御手洗。

*** 020102 御手洗の話しが
ミタライならもっといいね、とこたえた。これはスウェーデンではコーヒーをのみながら雑談する習慣がある。これはフィカという。経験ゆたかな御手洗はフィカの名手。数々の興味ぶかい話しを披露。そこでミタライといって、話しを要求したのである。今からきいてもらうのは、そのような話しを披露。これはその話しのひとつ。スコットランドのちいさな村の話しであると御手洗がいう。

ネス湖畔の高台。そこに古城。イングランド王と和平締結がなるまで、この土地を支配していた豪族の城だった。そこに、倫敦塔ににた石の塔。ここからネス湖がよくみえる。終日ここからネッシーがうかぶのをまってた人もいる。へえ。できるのか。然り。だって誰も。廃虚。子どもたちの最高の遊び場。でも夜には誰も。だって中庭に犯罪者の首をはねたというテーブル石。冬には雪、夏にはふかい霧。人情は友好的。人柄もわるくない。ただしそれがわかるまでに時間が。あまり人とまじわらない。自分の家にとじこもる。勤め先と自宅の往復のみ。一日中、羊をおう。また、裏の畑でリンゴづくりなど。

森と草原だけの土地柄。土地はやせて冷えている。だから薔薇苑などできない。緑の起伏の間をはしる道。背後は森。たいていブナに針葉樹。秋には紅葉。その中に点々と石造りの家。しろい石積み。石の壁に木の窓。家の中は板張り。石積みの暖炉。テーブル、民芸品の皿。そんな村であのひどい事件がおきた。去年の11月末。よその者とまじわらない。イタリーのあのポルタトーレの村とおなじ。そんな土地に変異がでる。10年おきに。そんな人間が。昔の貴族の家系におおいという。最近の例。

*** 020103 ロドニーの誕生から
ロドニー・ラーヒム。1947年、生れ。ずっと母親と二人暮し。彼女は昔この土地で死んでる。ロドニーはティモシーの小学校卒業と同時に村をはなれた。12歳。強制的。モントローズの王立精神病院に隔離。村の住人たちの合意。動物への虐待、殺害が頻発という。他人の家を覗きみしたり挙動が不審。時に凶暴な発作。だから土地の人たちが隔離を要請。ティモシー村を追放。テストの結果。精神障害者というほどに対外的な症状はない。知能指数は多少ひく目。刑事事件の記録はない。それでモントローズの精神病院に隔離、1年間収容、おなじ敷地内の精神障害児童用の施設で成人。

*** 020104 症状、施設からロンドンに
カルテ。低セロトニン、高インスリン、低血糖。反社会的障害者のうちにはあった。しかしとりたてて病的でない。側頭葉癲癇。フランスの神界医アンリ・ガストーがゴッホにたいしていったことが部分的にあてはまる。ノーマン・ゲシュヴィンドのドストエフスキー評価でもいい。ロドニーは癲癇の影響で圧倒的な追憶の暴力におそわれると、感情生活が、はげしく、せまくなった。彼の場合、40歳をこえていきなりあらわれる。

多少警戒すべき人物とおもわれた。しかしインスリンの分泌過剰を薬物でおさえて血糖値をあげセロトニンをたえずチャージしつづけるなら。社会的に適合、平和的に生活可能。モントローズの医者の判断はそう。そこで彼にロンドンの医師を紹介。彼の監視のもとという条件で社会に復帰。これは彼が35歳(1982年)。ロンドンにでた彼はソーホーのイタリアン・レストランのコックに。ロンドンの病院に通院。注射を。生活。48歳(1995年)のある日。感情の暴力におそわれた。そばにあったカレンダーの裏に絵。

*** 020105 記憶の嵐、絵画に開眼、コックから画家に
天啓をえて、くる日もくる日も脳裏に飛来するイメージを絵に。最初、どうかくのか技術的問題があったがなれた。するとパスタづくりより簡単。目の前のもの。絵筆。うつすだけ。モデルも写生旅行も不要。不思議なことだが、彼がモントローズの施設にいた時、絵などかいたことがない。絵をかきつづけ、レストランを無断欠勤。創作への暴力的衝動がさるとまたレストランに出勤した。

自分が何をかいてるのかわからない。何10枚の絵。これを部屋中にならべてみる。するとはじめてわかった。どれもおなじ場所のようだ。おなじ場所のあちらこちら、何10枚もの風景画に。彼の絵は異様なまでに精密。そう。カラー写真のよう。ふるい城壁の一角を。つまれた石の数、石の組み合さり方。角度。完全におなじ。つまりそいうことが後で確認。やんだ人間の脳の偉業。しかしそれがどこなのかながくわからなかった。

*** 020106 記憶の画家に
この絵にはある顕著な特徴。絵にあらわれる村は、何でも皆んな実際よりおおきい。家々、木々、城、塀、木の柵も。実物よりすこしおおき目。このようにどこかの村の風景を正確にうつしとれたが、それ以外はできなかった。絵のほうはかくにつれ、ますますピントがあい、正確に鮮明に。

*** 020107 マッド・ティーパーティ事件のはじまり
これが事件前までの経緯。まったくひどい事件だった。バーニー・マクファーレンがかいってる。彼自身もアルコール中毒でスコットランドに流れてきた。そこで遭遇したもの。原稿を完成させたらまたインバネスの病院に入院。本のタイトルは「オーロラの下のマッド・ティーパーティ」。

本当に信じられない事件。われわれの土地の魔神が、あの年、ネス湖畔の村に上陸したようだった。湖水の上空に魔神の咆哮が日夜とどろいて土地の者たちをふるえあがらせた。この世にどうしてあんなことがおこるのか、あの土地にすむ者でわかる者はなかったろう。(私が主人公の物語が後に紹介される)

* 030000 ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

魔神の遊戯 (本格ミステリ・マスターズ)

魔神の遊戯 (本格ミステリ・マスターズ)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2002/08
  • メディア: 単行本



* 040000 Bの書、ロドニーとの出会い
ここからバーニー・マクファーレンがかいたもの。ただし別途資料によりまとめたものは、その都度記載する。

** 040100 1999年、ロンドン、二人の会見記
*** 040101 御手洗がロドニーにあう
ぼく、御手洗潔がはじめてロドニー・ラーヒムにあったのは1999年秋。ロンドン、コベント・ガーデンのカフェテラス。雀。沈黙。雀にあきる。心にあるキャノンという場所での追憶についてしゃべる。年齢は52歳。子どもの頃、この村にあるキャノンという廃城に一人でゆく。雀や鳩にエサをやる。彼は友だちができない子ども時代を。いつも一人ぼっち。自然を相手の暮らし。家がすぐちかく。毎日この城で一人遊び。城の内部をしりつくしてた。屋上の回廊の端から端。矢をいるためのくぼみ。石積み。それは彼がかいた沢山の絵。それをみて周囲にわかった。何度も強迫観念に襲われかいた。だんだんと細部が明瞭になってきた。正確なのかは、ながい間わからなかった。しかし整合性があった。

おなじ石組みをかいた複数の絵。ちがう角度からながめた城全体などの複数の絵から。彼のかく絵は城にかぎらない。鉄道、貨物列車、踏切、田舎道、飛行場、教会、消防署、学校、湖、その渚、船着場、丘、森、果樹園、木の柵。これらもどうやら同じ場所にあるもの。風景画以外、かいた絵は1枚もなかった。

*** 040102 ある村の風景、どこにある
もし実在するなら。ちかくに湖。冬には雪。そんな場所は。イギリスにはない。では外国。しかしロドニーは外国にいったことがない。パスポートをもってない。過去、おとずれた場所にこんな景観のある場所はない。12歳以降彼はずっとスコットランド、モントローズ王立精神病院。その後、ロンドン。めずらしいので、われわれの世界ではしられてた。しかし世界の症例にはない。興味を感じてロンドンを訪問であった。だが理由があって秘密にしなくては。で、ゆっくりできなかった。以上一言。印象がよいロドニーをまったく信用したわけでない。過去にあった殺人鬼のおおくは好印象だったから。

かいた場所がわからない。これはロドニー自身がキャノンという固有名詞以外しらなかった。彼は1995年、オランザピンの副作用で昏睡状態となった。通院してるロンドンの病院でだった。ためされた薬はのちにジブレキサという製品名でアメリカで商品化。分裂病、鬱病の治療薬だ。副作用がすくないことで学会で注目されてた。しかしこの薬は今日では糖尿病患者、高血糖の患者には使用が制限されてる。ロドニーの場合、そのいずれでもなかったが、危険な状態になり血糖値は急上昇。糖尿病性昏睡を急発症。

後にロドニーがいうには、昏睡の間、夢をみてた。それもおなじ夢だ。ずっとおなじ場所のあちこちの風景、さまざまな角度から何度もみた。その光景は後に彼がかいたようなものだった。彼は無事に生還した。そして変貌した。退院後1週間。それはあらわれた。側頭葉癲癇をもってたが、ある日、自分のアパートでこの発作に。うごけなくなった。手近の紙に線をひいた。絵をかいてるという自覚がなかった。城の石積みらしいものだった。ロドニーはたびたびこの発作におそわれた。そのたびに絵をかいた。ねむれば夢をみた。おなじ場所の風景だ。だからおきたら、これを絵にうつした。彼に絵の天分があることがわかった。

*** 040103 突然に画家となる
それまで経験がなかったのに、48歳(1995年)になっていきなり絵をかいた。1日10枚をしあげることも。昏睡からさめると画家に。それ以外の変化も。自分と社会を関連づける情報を想起できなくなった。モントローズ時代のこと以外で、おぼえてるのは自分の名前、すんでるソーホーのアパート、その場所、イタリアン・レストラン、名前と所在地、キャノンのことだけ。ほとんどすべてのことに興味をうしなった。わずかにパスタのつくり方、あるき方、英語の話しほうがなどがのこった。記憶は保持されているかも。しかし再生して取りだすことに、すっかり関心をうしなった。元々の病名は不明だが。側頭葉癲癇だけでは説明がつかない。少年時代たびたび高熱、死にかかったという。やせ、錯乱、半狂乱。たびたび。だがサイコパス(精神病質)とよばれるものはなかった。

** 040200 同年、同場所
*** 040201 村がわかる、ティモシー村
ロドニーはキャノン村をかいた絵を1枚、主治医におくった。それをもとめたのは、昏睡からさめ、あたらしい状態の彼に関心があったからだろう。医師は次第にその絵の意味の重大さに気づきはじめた。調査にとりかかり、ティモシーという小村の出身であることをつきとめた。彼は6歳(1953年)の時にうつってきて12歳(1959年)までいた。医師は彼の部屋で絵のすべてを写真におさめた。1997年、スコットランドにでかけた。そこの廃城が絵とまったくおなじであることを発見。キャノン城の石積み、噛みあい方、おおきさ、色、汚れ方、数、アーチの形状、そこの石の様子、数、城の足元にあるちいさな墓地、墓石にきざまれた墓碑銘の碑文、まったくおなじだった。実在した。

城の名前がキャノン、ティモシーの村は昔キャノンと。これは18世紀にほろんだ名前だった。医師は村をみてまわった。消防署、教会、小学校、飛行場、鉄道、ネス湖、船着場、森、丘、村のすべてがおなじだった。彼の脳に40年も長期保存されてた。しかし少年、少年の親について記憶してる人はいなかった。一言。ロドニーがかいてる巨人についても、村でしってる人はいない。巨人の伝説などなかった。

*** 040202 ロンドンでもとめられ芸術家に、ここで御手洗があう
ロンドンにもどった医師がきいた。自分の親について。どんな親か、親子関係は。いっさい思いだせなかった。村人とのつき合い、どんな人が。名前も。人となりも。おぼえてない。光景が湧いてでる。すると彼はこれをキャンバスにかく。はやくとあせる。するとパスタをゆでてても、通勤途中の地下鉄の中でも、部屋にもどってしまう。その光景は静止画でないようだ。彼がうごくと幻想もうごく。宗教体験ににた恍惚としたものらしい。これは彼がもってる側頭葉癲癇のさせるわざのようだ。コベント・ガーデンで彼の絵とカラー写真を一組にして展示する個展を開催した。これは評判となりロンドンの精神科医と芸術家から注目された。だんだんと精神に障害をもった芸術家として有名となった。イタリアン・レストランをやめ、贅沢さえしなければ生活できるようになった。ぼくがあったのはこの頃だった。

*** 040203 思い出話しをえんえんと、自宅を訪問
コベント・ガーデンで個展がひらかれ、彼はこの画廊にいた。ぼくがさそい、カフェにいった。ロドニーは自分の子供時代を知識としてもつようになってた。だから実感がなかった。彼の態度は友好的だった。時にはだまりこんだが、またしゃべりだした。あかるく快活にはなしてくれた。彼は自分の作品がカラー印刷されたコート紙の美術本をもってきてた。これをひろげて、この教会でよくあそんだ。この裏手の宿舎の窓で神父さんがよく自分の靴下をつくろってた。そこにあそびにいくとよくいたずらをした。だからわかい神父がお仕置きと、おいかけてきた。だからぼくはにげた。このゲートから通りにとびだした。30分、1時間。1時間半。なんだか拷問のようになった。

彼の話題がティモシーのことだけだから。神父においかけられる話しは5回きいた。はげしい記憶の洪水。だが話しは前後の脈絡がなく、どうつなかるかわからなかった。以前はほかのこともはなしたという。絵をかくという衝動がやてきて以来、そして担当の医師から自分の子供時代の知識をえて以来、つまり自分がどこをかいてるかの知識をえて以来、彼はティモシー以外の話しはしなくなった。気分転換のためチャイニーズ・レストランにさそい、中華料理をたべた。その間もおなじ話しをしつづけた。彼のアパートにもどった。部屋がくらく、せまいので、大作をながめるのが困難。はやくソーホーの芸術家村にうつりたいといった。

*** 040204 部屋をながめる、作品をもらう
本棚がなく本がほとんどない。デスクもない。イーゼルと椅子。ベッドが。テレビとVCR、ラジカセが。雑然とした印象。世界中から専門家がくるようになった。よいというとよろこんで引き出しをあけた。ぼくもそれにならった。人形、玩具のピストル、漫画、南米の小石、ウクレレ。ガラス球、何かの種、動物のマスク。部屋の隅に革製のトランク。その中に安物の万華鏡、砂時計、新旧訳の聖書。もっていってもいいという。作品がもらえるか。暫時、よい。

*** 040205 村の風景
ぼくはきいた。絵に奇妙な法則性が。写生の対象物がいくつかの場所に限定されてる。くりかえしかかれる場所は、その中のさらに5、6ヶ所。もっともおおいのが城。次が消防署。署内の消防車。角度をかえながら何枚も消防署をかいてる。20枚以上。次は樹木。どうやらおなじ一本の樹らしい。ヒイラギ、年末につくるクリスマスツリー。クリスマスのイルミネーションをまとってる。この上に雪がしろくのってる。10枚以上。その絵の大半には巨人がかかれてる。それから時計台。ギリシャ風のしろい円柱が2本左右に。立派な玄関。その上の三角形の煉瓦壁に。るいおおきな時計が。これは学校らしい。この絵にも巨人が。空から見おろしたふうにおなじ建物。学校の校舎の屋根。煙突が沢山。ほそいオレンジ色の煙突が4、5本ずつ。イギリス風。雪がつもってるものも。そして貨物列車。はしってるところ。駅に停車してるもの 。線路の風景、踏切の光景。田舎駅の様子。旅客列車はない。貨物列車ばかり。線路ぞいの道をはしるバスと競争。雪景色の中を。

*** 040206 飛行機、戦車、道に豚
飛行場。かなりの数。周囲は緑の丘陵地帯。イギリス空軍のマークを翼に。複葉機がいくつも。何機かは草地に。単葉機の絵も。が、小型機ばかり。教会の絵。正面玄関、裏手、神父が繕い物をしていた窓のあたり。意外なところで戦車の絵、5、6枚。ティモシーの田舎道を。背後に森。常に1台きり。皆んなおなじ型。豚の絵も。ティモシーらしい田舎道。ぽつねんと。背後は森。囲いの中ではない。しかも1頭だけ。5、6点。

あとはネス湖の光景。何枚も。霧。背後は森。湖面を雨がたたいてる。雪がおちてるのも。船着場、渚、ボート。湖面に巨人が半身をだしてるものも。頭だけのも。それから煉瓦敷きの広場。かわった形。長方形の細ながい形。四方から細道がやってきてる。象の絵。ティモシーらしい枯葉のちりしいた丘陵の中途に。ぽつんと1頭。3枚。天体望遠鏡の絵。くろい犬の絵。果樹園。手前に柵をいれた遠景の絵。各1点ずつ。

*** 040207 虎、象をふくむ絵のテーマ、巨人は聖書からか
絵は点数がおおい。100点以上。だがテーマが限定、戦車、豚、象、虎、森、くろい犬、望遠鏡。ほぼ1点。城、ヒイラギの樹、時計台、消防署、列車、飛行場、教会、湖、煉瓦敷きの広場。くりかえし登場。すべてティモシーのもの。ぼくはこの点をきいた。写生の対象が限定。何故。不知。豚、虎、象について。こんなものがティモシーにいたか。動物園があったのか。否。そして不知。のちにしらべたが、付近にもない。巨人について。ただ脳裏にうかんだ。然り。これらは聖書にでてる。ぼくは驚愕した。

** 040300 2001年、無人の街で再会
*** 040301 自分の石膏像をつくった、時計台の上の女性、シュールな絵
その次にロドニーにあったのは翌々年(2001年)。ひろい無人の街。波の音。街の一角の倉庫を改造したアトリエ。その頃にはずいぶんと有名。記念館にかざるので石膏で上半身の型をとったという。音楽をききながら、ティモシーの話し。いつものように何もみず絵をかいてた。その日イーゼルにみたのは、時計台の上に女性の顔。非常にシュールな印象。これまで人間が登場したことはなかった。彼の心の中で何かが変化とおもった。

*** 040302 絵について質問
無言。顔を付けくわえたのは君自身の考えか。否。ただ、こういうものがみえたから。夢の中で。ううん。夢の中ではもっと沢山。この顔は君自身のこと。否。女性。うん。女性は下をみてる。うん。でもわからない。絵の中のことなんか、いつもわからない。この女性の体は。顔だけ。顔だけが存在してるのか。そう。空中に。不答。すると彼女の精神は。精神はこの絵全体に。この女性は死んでるのか。生きてるし死んでる。そう。そう。笑い。生きてる女性と死んでる女性が雲のようにかさなってるのか。

*** 040303 何故、青みが、街を彷徨、無人、交通なし、不可解な対話
そう。この絵はすこし青みがっかてる。そうみえたから。彼は外にでたがってた。ぼくの頭の中で物理学のことがうかんだ。しばらく街をぶらついた。大通りの中央に白線。道路をはしる車は一台もなかった。通行人も。ぼくがいった。人がいないね。うん。空気もすんでる。こういうところがすきか。向こうを誰かがあるいてる。おいかける。通りをまがっておう。すると彼女はただの絵だった。理想だ。ずっとここにいたい。ミタライ先生、この世界の時間は過去から未来にながれてる。うん。一般的な考え。では過去と無関係な未来はおこらない。現在も未来も過去の因果からのがれられない。本当に。ニュートンはそういった。ここに酒場があるとロドニー。アルコールがすきに。きらいだが。雰囲気がすき。

*** 040304 無人の酒場、ガスステーション
ロドニーは酒場のドアノブに取りついて引っぱった。うごかない。絵。すすむ。サルーンという文字のあるガラスの前で。中には大勢の人が。ガラスをたたいた。合板の音が。絵。何週間も前から絵だったのか。昨日までは本当のガラスだったとおもう。ぼくがここにきたから絵に。たしかめたのか。うん。あの柱の陰から。音楽だってきこえてた。また歩きだしガスステーションの前に。敷地の中に。ポンプのホースをはずし、ノズルを下に。でない。でも前はでた。君は何がいいたい。

この現実は過去からの積み重ねだ。嘘。現在は何通りも。それが折りかさなって存在。ぼくらは毎日そのどこかに突きあたる。けっしてえらんでない。さまざまな今が重なりあうように宇宙に存在。君はそいうのか。ぼくはいつも、その中のどれか一つをかいてる。デビッド・ウィッチだとぼく。なんだって。宇宙理論だ。それは何。物理学者はそこまで追いつめられた。物理学。そう。それはこの地球上でもおこりますか。うん。

*** 040305 物理の話し、現在の多重性、絵の話しにもどる
でも原子核と電子の世界かな。人間の世界では。この地球上ではニュートンで間にあう。未来から何かを思いだすってことは。へえ、どういう意味とぼく。うまく説明できない。宇宙を考 えるならニュートンのものとはずいぶんちがう。過去、現在、未来という一方通行の時の流れは宇宙の全体像をとらえられない。量子力学がかえてしまった。人間が何かを観察する。その行為自体が歴史に参加してしまう。どういう考え方。デビッド・ホイラーという教授がいってる。観察者が今を観察することで過去をつりくだす。現在を観測した人こそが過去をかたる資格をもつという。つまり未来が今を決定してゆく。ああ。

それより君の絵の話しを。さっきかいていた絵のイメージを君は何時、どこから。とてもむずかしい。説明は。あれがきた。かかなくては。だからかいた。あの女性は誰。君のしってる人か。わからない。でもあれは自分でないといった。うん。その点ははっきりわかる。男でなく女だと即座にいった。そうだね。君は自分の絵にあらわれたものは皆んな経験してる。ではこの女性についてもしってる。沈黙。すくなくとも巨人程度にしってる。

*** 040306 夢の話し、光速のスペースシップ、外の世界は
夢の話しを。どんな夢を。そして、あれらのイメージはどのように、おとづれる。スペースシップにのって宇宙空間をとぶ。すると光がぼくを追いぬく。地球からやってきた光が。光、どんな形をしてる。ううん。先端はくらげみたい。しろくてまぶしい。透明。すすむにつれ、変化。槍みたいにとがったり。ぼくもずっと横をとんでいるから。半透明の体の中にいろんなもの。どんなもの。街、人の姿。それがこおってる。こおってる。うごかない。でもそれはぼくが光とおなじ速さでとんでるから。ぼくの船が追いこすと、人はあるきだす。おくれると、いっせいに逆向きにあるきはじめる。成程、それで。ぼくはスペースシップの速度を限界まであげて光を追いかけつづける。一生懸命おう。ずっとそうしてたら、いつか光と合体する。

ぼく自身も光に。すると光の中にある風景がどんどんみえる。ぼくは光の中を前にどんどんすすむ。光の先端の前にすすむ。すると。あおい世界がみえるとぼく。そう。先生どうしてわかった。後ろをふりむくと、あかくなかたか。ああ、そうだった、かも。視野は前方のせまい円のリンにあつまてた。後方の星さえその中にはいる。それらの星々はすべてあおく、その周りを黄、オレンジ、赤といった色のリングがかこむ。虹がかこむ。そんな見え方。ううん。かも。スター・ボウ(星の虹)だとぼく。ロドニー、アインシュタインはすきか。と、そうきくしかなかったよ。わかるだろう。ロドニーのこの幻想はベルンで彼がえた特殊相対性理論によく合致。しかし、ロドニーは。1個の医師(アインシュタイン)だって。先生ぼくもペルーの石をもってる。命がふうじこめられた。

*** 040307 また村の話し、追憶になじむ
これまで物理の本をよんだことは。否。ふん、それで。その時に。いくつかのキャノンの風景。石の匂い、草の匂い。ぼくはこれをどう解釈したものか、なやんだ。ロドニーは淡々としてた。

君は村についてずいぶん思いだしたようだね。全然。ただ景色がみえているだけ。どんな住人がいる。その名前、年齢。どんな生活。全然おぼえてない。たまに、そこで何をしていたか、わかるだけ。自分の意志とは無関係に光景がよみがえるだけ。それは思いだしてる、のとちがう。然り。ただティモシーとい名。イギリスのどこかの村の知識が最近ふえただけ。皆んながあれこれおしえてくれるから。それは君がよくしる村の情報じゃないのか。否。それに思いだすことに何も馴染みはない。ぼくはこの追憶に。ただひたってたい。追憶はティモシーでない。別の場所だ。ちがう。それは時間がちがう。ではないか。無反応。君は何故思いだしたくないのか。ううん、わからない。ところでそれはたのしいことか。光景、そう絵をかこうとする時は。

*** 040308 癲癇のこと、恍惚の状況
側頭葉癲癇のこときいてるか。はい。絵をかけという指令がやってくる時はたのしい気分か。ううん。で、笑い。表現する言葉はない。今、先生が治療して、あれをなくす。そういったら必死でにげる。生きる意味がない。ふむ。そんなにすごいこと。然り。全世界がぼくの脳の中。キャノンの村。何時かの。城、時計台。消防署。教会。鐘が。鼓膜がいたい。石の塀。蔦の葉の匂い。感触、花の香り。風が頬に。建物の壁。つまれた石。そこにあいてるちいさな穴。傷、ひび割れ。苔。落書き。石がもってた匂い。消防車。オイルの匂い。ゴムの香り。裏庭の洗濯物。洗剤の匂い。みんな一瞬にして。人生の経験。どんなものとも全然ちがう。でも本当のことをいうと...。麻薬の体験かとぼく。かも。でも比較にならないだろう。

*** 040309 絵をかく意味、追憶のキャノン
その体験は子どもの時から。あった。たびたび。そのたび、ないた。親たもいない。もう死ぬと。子どもの時は再現する手段がなくて。ふん、再現して作品にしなくてはね。自分の体の内においてた、爆発。君の体がか。そう。人にはなしては。おおざっぱ。だしたことには。もっと高度な正確な仕事でなくては。君がかく目的は自分が楽になりたいから。ううん。ちがう。

それはささいなこと。キャノンのため。なつかしい小道、通り。たまらなくあるきたくなる。うつくしい廃虚。身近に感じたい。だからぼくはこの場所を過去、自分の体の一部みたいにかんがえてた。この村はぼくのそんな思いにこたえてくれなかったんだろう。でもぼくはそういうキャノンをこの世にのこしたいんだろう。ぼくが死んでも、この村がほろんでも、思い出はのこる。ふうん、楽とか苦とかでないんだんね。くるしい。でもそんなことじゃない。ぼくにしかできないこと。もしあるのなら、ぼくがやらなくてはいけないこと。そのとおりだ。ロドニー。ぼくはいう。君は何時かのキャノンという。村の建物、城、時計台は実際よりおおきくかかれてるようだ。特に柵だ。これは大人ならまたぐ。子どもならくぐる。つまり君の子ども時代の記憶の風景と理解したい。どうか。ながい沈黙。センターラインに腰をおろす。ぼくもおろす。そう。でも今になってちがうって。

*** 040310 未来からきてるもの、女性をしってると
どう。あれは記憶じゃない。では、何。ああ記憶かも。でも、あれは過去からきてるものでない。ふうん、ではどこから。未来。ほう。あれは未来の光景だ。そう、どうしてわかる。そう。はっきりわかる。アインシュタインの考えでは、光速にちかく移動してる。近づいてくるものは青。遠ざかるものは赤に。ロドニーの潜在意識はそういってる。きちんと説明はできない。何故だ。君の心にうかぶ言葉をいってくれ。

先生、これは治療。そう。過去であるわけがない。ぼくにはかきかけの1枚の絵が。あのヒイラギの枝から女の顔がある。うん、時計台の上の女性と、ヒイラギの女性、二人ともしってる。へえ、しってる人。名前はしらない。関わりの記憶がないが。ないのに。うん。今はティモシーという村がスコットランドにあることをしってるように。あの女性たちをしってる。あの村に。知識として。で。ぼくは毎日FMのニュースをきいている。

*** 040311 復讐心、村にかえったら
沈黙。ぼくは絵についてしらない。シュールリアリズムなんて。先生、神を信じるか。ううん。信じる。その神は復讐をゆるすか。ひどいことをされた相手に。いや。先生の宗教は。自然の中に啓示としてあらわれる。数式や真理、芸術の中に。それらは磨きぬかれた鏡だ。神の意志はそういうものにうつる。人格をもつ神をぼくは信じない。沈黙。先生は揺るぎがない。ふん、ところがどうして。悩みの塊だ。君はキャノン村にいってみたいか。身震いして否。そう、かえりたくないんだね。ゆっくりと、否。何故。ぼくはまるで上の空にいるみたいに毎日を。それはキャノン村のせい。何をしていても生きてる実感がなかった。この感じはちょうど。ふむ、ちょうど。沈黙、でてこない。いったら落ちつくかも、とぼく。

*** 040312 かえると大変なことが、でも運命
ぼくの治療のため必要と。いや。君の精神が安定して芸術家でなくなる。これが治療とはかんがえない。何故。説明。それが嫌になるほどむずかしい。先生はこの感じはどんな感じときいてた。うん。ちょうど明日つるされる死刑囚みたいな感じ。あの村にいったら。つるされる。そう。だからこんなに落ちつかないのかも。ぼくは処刑前夜なんだ。そう。そう。その証拠があの絵。わからないよ。でもあそこにいっちゃ駄目。それはあの創作衝撃がこなくなる。だからじゃない。しばらくアスファルトをみたまま。ぼくの運命はもうきまってる。だって未来がきまってる。かえられない。ぼくは大変なことをするだろう。ぼくには使命がある。正義の使命をはたすだろう。大変なことを。この国は大騒ぎ。君は多重宇宙理論者だったんだろう。何。いろんな未来が折りかさなって存在してる。その中の一つに大変なことがふくまれてる。そうじゃないのか。そう。だがただ一つあれば、それで充分。とにかくぼくは運命からのがれられない。どうしてわかる。絵。と、さけんだ。

*** 040313 一緒に村にもどって、とめよう
ぼくは記憶の画家。虫眼鏡でみても、すっかりただしいといわれた。ティモシーという村でおこること。ぼくはすっかりしってる。絵からそれを。絵だけじゃない。それには君が関係してるのか。すべてぼくがやる。では、とめよう。未来のことを。できない。これは決定事項。一緒にいってとめよう。身震いしていう。運命、悪魔の誘い。ぼくはこれからあの村にいかされる。ロドニーはわめいた。そしてひどいことをする。ぼくが一緒にいる。そしてぼくがとめる。駄目だ。先生にも。だってはっきりおぼえてる。もう無理。何がおこるのか。いいたくない。おそろしいこと。泣き声。わかった。ではいい。ぼく一人でいっても。

* 050000 Bの書、ロドニーの手記
** 050100 Rの書、イギリス、約束の地に
ロドニーがかき、バーニーがそれをまとめた部分。

*** 050101 キャノンにかえる、おそろしい
ミタライ教授はぼくにいう。絵にあらわれた顔だけの女について彼女を個人的にしってるか。それから、ぼくがもうキャノンについてかなり思いだせたと。どちらともいえない。絵の女の生死についてもおなじ。ぼくの心の中のキャノン村はティモシーという名の村とは別もの。キャノンはティモシーの下10ヤードに。ミラーのような世界。いや。その反対。ティモシーのカトリック教会の下に外観、建築材料もおなじのキャノンのカトリック教会がたってる。消防署も。二つの村でおなじ顔かたち、おなじ性質の人間が。思いだしてるのはキャノン。だからティモシーを思いだしたかときかれたら。答はノー。

ミタライ教授はいった。キャノンの村にいってみたいか。またこうも。いく、いやかえりたくないんだね。キャノンに。さらに。そこにいけば気分がおちつくかも。これがどんなにおそろしいか彼はしらない。キャノンの村にもどっていくとの幻想がながく心をしめてる。だから40年気持がひどかった。でもぼく自身がこの村にもどるという想像にくらればずっとマシだ。彼が本当にききたかったのは。何故、あの村にいったんだ。彼はぼくの秘密のすべてがあの村にあるとわかったのだ。ぼくは普通の人間とはちがう。ぼくは時計台の上の女をしってる。思いだしたのだ。時計台の女もヒイラギの女も。思いだしたのだ。

*** 050102 あの女の名前、ユダヤの苦しみ
名前もいえる。時計台はコニー・タウンゼント。ヒイラギはボニー・ペニー。二人ともビッチ(メス犬)だった。ビッチがおおい村だったがあの二人はひどかった。人のあとをかぎまわっり下衆な噂をながした。ぼくら母子が何故いったか。それはあそこが親子にとって約束の地だったから。母はそこの近くが出身地。

ぼくらは自分たちの運命から解放されたかった。ぼくは、うまれつき自分の存在に悩み。どうしてぼくらの人種だけがこんなにつらいのか。どうして周りに血の匂いが。何故クリスマスをいわいながら当たり前にくらせないのか。どうしてさまよいつづける。イギリス人がうたってたあの歌。生誕地教会でキリスト教徒と一緒にうたった。

「古代。その足はイギリスの山の緑。牧場。子羊。そして聖職者が。われわれの丘に。そしてエルサレムは魔王の挽臼の間にうまれ。もえる金の弓。願望の矢。槍。二輪馬車。私の精神の闘い。剣。イギリスの緑の地にエルサレムをきづくまでは」

ぼくらはカナンのエルサレムにうんざり。この地に安らぎはなかった。イギリスにあたらしいエルサレムを。そこでやすみたい。二人だけでは。だから心の中に。ぼくら家族は。イスラエルでは西エルサレムのアパートに。1年。全国土が戦乱。イギリスの提案。イスラエル有利。アラブ諸国が派兵。にげまわり。成長。第1次中東戦争はイスラエルが勝利。毎日。殺人。ラーヒム一家のアパートは神殿の丘、嘆きの壁の近く。西エルサレム一番の繁華街、ヤフォ通りの近く。高級な住宅街だったと母が。街がしずかになり、家族に蓄え。父がヤフォ通りに二軒の店。ブティック、コーシー・レストラン。ベーグル(ジュイッシュのパン)とコーシャー・フード(ジュイッシュ用の食事)を提供。二軒ともよくはやった。ちかくにパレスチナの女性のブティック。ぼくの服を購入。彼女も父のレストランに。

*** 050103 父の死亡、母とイギリス、約束の地に
ぼくらもモスレムも豚肉は禁止。コーシャー・フードはモスレムにもよい。信じる神は親戚。6歳の頃のエルサレムはひどくなかった。万年筆をひろった。食卓でいじってたら爆発。父が病院に。1週間後に死亡。母は二軒をうった。あの「エルサレム」にうたわれれるイギリスにいくことに。その頃からエルサレムはひどくなった。エジプトと第2次中東戦争に。エルサレムに固執するパレスチナ人が不可解。父の死後、平和共存をすてた。ユダヤはいう。神殿の丘には2000年前までユダヤの神殿が。モスレムがいう。モハメドがここから天上にと。イスラエルイスラムの二分についておおくの意見が。母は神託を。イギリスの地に。決心。

*** 050104 村でのくるしい暮らし、母の転身
ジュイッシュであることをかくすようになった。ティモシーで母は廃城の近くにちいさな家を購入。繁華街にレストランをひらいた。美人だったので男性客をひきつけたが、すぐ客足が途絶えた。それは信仰が関係。村にはカトリックの教会しかなかった。でもユダヤの戒律をまもった。村人がちかよらなくなった。母のレストランには肉がなかった。コーシャー・ミートが手にはいらなかったので、肉料理ができなかった。生活がくるしくなった。しかし約束の地と信じてた。店はアルコールをだすようになった。母は客の下品な要求にくっしたのだろう。自宅にはキッチンの壁からおりる地下室があった。

*** 050105 村の女の糾弾
2部屋。とっつきの部屋に排水孔が。金属板をはがし中にはいることが。子どもならできる。城の地下廊下につながってた。階段をあがると城の中庭にでた。この秘密を自分だけに。抜け道を石でふさいだ。母が秘密の仕事をするようになって裕福になった。家には毎日いろんな男が出入りするようになった。そのたびにぼくは地下に追いやられた。母はふんだんに玩具をかってくれた。母は村の女を敵にまわした。家のドアに紙がはさまってた。叱責の言葉とボニー、コニーのサインがあった。母がこういう女性たちに糾弾されてるのをみた。

*** 050106 問題行動を、教師の叱責
コニー・タウンゼントは小学校の教師。担任だった。ぼくはいじめられ、怒りから兎をころした。死体をばらばらにしたことも。自転車で意味もなく村をはしったり、あるきまわったりした。女たちはいう。浴室、寝室をのぞいた。動物を虐待した。事実でない。ただ母の寝室はのぞいた。男と一緒にいる時。

教師のコニーは皆んなの前でぼくを馬鹿にした。知能がおくれ残酷趣味があるという。学級でしたしくはなす人がいる。すると彼をぼくからとおざけた。ぼくは学校でまったく友人ができなかった。後でしったが、コニーなどの女たちは恋人をもってた。彼らが母との関係があったから、怒り、わかれたという。だからぼくを虐待し精神障害にすることは正義だった。フェイ、リンダも事情はおなじ。宝石店のペギーも仲間にくわわった。ペギーは外国人で美人だから事情がにてる。だが夫がいた。ある日、学校からかえると、母が地下室で首をつってた。

*** 050107 母の死、施設に
あの女たちにころされたと確信した。ぼくをほおって自殺。しない。かりにするなら、後のことをいう。ない。遺書もない。前日、当日朝の様子。普段通り。思いつめた様子。ない。もし死ぬなら。地下室か。おかしい。そこはぼくの領地。母は遠慮。ぼくに玩具をあたえた。ぼくはそれで別世界をつくった。寝室に別の男をいれる代償だった。また母親が子どもの勉強部屋で自殺するか。だが事情をしらない他人なら。キッチンからひそかに地下室。格好の場所とみえる。それからぼくは毎日復讐をかんがえた。しばらく小学校の老校長にあずけられた。時々、自宅にもどることがゆるされた。この時期、ボニーやフェイの家をうかがった。気味がわるかったろう。だからモントローズの施設にぼくを押しこむことにしたのだろう。自宅も店も売却され養育費となった。

** 050200 Rの書、イスラエル人の苦難
ロドニーがかき、バーニーがそれをまとめた部分。

*** 050201 復讐へ
復讐はゆるされるか。ゆるされる。ならどの程度。名誉をよごされた。生きることも否定された。奴隷におとされたも同然。なら相手をころしても、体を引ききちぎることも。ヤーハエがしたように。村の皆んながぼくのママにしたことはゆるせない。エリヤがバールの崇拝者たちをころしたように。ぼくはころしたい。

*** 050202 旧約聖書の話し、モーゼへのお告げ
旧約聖書の世界が大好き。中東の西のカナン人はもと多神教。その中心がエル、息子がバール。妹のアナト。嵐、豊穣、収穫の神々。アブラハム、イサク、ヤコブの三人は、このような神様にかこまれ生活。紀元前4000年頃の神様は人間と話しあったり食事をしたりした。多神教は生け贄の宗教。神は時には人間に最愛の息子を犠牲にささげることをもとめた。ある時、ヤコブは丘の上で神と格闘してかった。神はお前はもはやヤコブでないイスラエルだといった。イスラエルはあなたのお名前はときくと、きいてはならないとこたえた。

紀元前3600年頃、カナンを飢饉がおそった。賢者の族長ヤコブはイスラエルの民をひきいてエジプトに移動した。エジプト、ナイル。肥沃な土地でおおくを収穫し繁栄した。ある日、エジプトのファラオは彼らをおそい奴隷にした。ある日、カナン人のモーゼがサイナイの山でモーゼとよぶ声をきいた。はい。履物をぬげ。そこは聖なる地だ。これからすぐエジプトにゆきエジプト人にしいたげられているヤコブの子孫をすくいだせ。

*** 050203 ためらうモーゼをはげます神
おどろきおそれるモーゼにむかって、どのようにしてときくな。おそれるな。すぐにゆけといった。モーゼがいう。わたしがいっても話しをきいてくれない。きくようにしろ。なら、ハンサムな男を。それとも声のいい男を。わたしはお前をえらんだ。奇術師は。踊り子は。つべこべいうな。奴隷のまわりには見張りが。では体格のいい男を。お前はできる。私がたすけるから。本当ですか。約束。エジプトをでてどこに。ここに。ここか。そう。この山のもとでイスラエルの民は幸せに。助けだし、ここに。その間ずっとまもってくださるか。約束。

*** 050204 エジプトで説得する
イスラエルの民も、私も。そう。あなたのお名前は。エヘィエ・アシェル・エヘィエ。モーゼはげらげらわらった。それはむにゃむにゃというような、無意味な言葉だった。ふざけないでください。もう応えはなかった。翌日、モーゼは。エジプトにむかった。息もたえだえに、やっとついた。ナイルのほとり、肥沃な農耕地にイスラエル人がはたらかされてた。その一人にここからにげだすよう、さそった。とおざかった。別の男もさそった。にげた。三人目。エジプト人の監視になぐられた。その夜、沙漠でねむり、翌日。別の作業場で。話しを。きいてくれなかった。来る日も来る日も。無駄だった。助けの声もなかた。一日オリーブの木の下でかんがえた。そして河岸神殿の工事現場で演説をした。イスラエルの神がまもってくれる。するとエルは駄目だとの声。われわれの神はおだやかすぎる。奴隷になってもちっとも、たすけてくれなかった。

*** 050205 1年、無駄にすごした、奴隷が決起
今度のは別の神だ。たすけてくださる。つよい神か。つよい。イスラエル人の神か。そう。名前は。エヘィエ・アシェル・エヘィエ。奴隷たちはわらった。皆んなさっさと作業にもどった。監視がやってきた、またなぐられた。翌日も 河岸神殿で演説をした。また監視になぐられた。次の日も次の日も。頭のおかしい男とみなされた。監視がナイルの河になげこんだ。金がなくなったので夕方、物乞いをした。自分でも疑問を感じるようになった。1年ほどたった。自分には無理とおもい、今日を最後ときめ、 河岸神殿の作業場にたった。またなぐられた。乾燥煉瓦でころされそうになった。すると一人の若者が監視をおそった。次々に若者たちが監視を打ちたおした。モーゼは立ちあがった。 河岸神殿に立てこもることにした。武器、食料をうばい、イスラエル人をすべてつれてゆく必要がある。

** 050300 Rの書、エジプトを脱出
ロドニーがかき、バーニーがそれをまとめた部分。

*** 050301 神殿に立てこもる、神が敵を引きさいた
神殿にこもると、食料、水、武器を一カ所にあつめた。ナイルをのぞめる屋上にのぼった。あつまった人びとに、心配するな。約束お地までつれてゆくといった。後悔、批判の言葉がでた。神が私に約束されたと繰りかえした。ファラオの軍隊が広場にやってきた。モーゼはひたすら神にいのった。すると轟音がひびいた。ナイルの水がしろく泡だちはじめた。巨人の顔がうかんだ。嵐のような水音をたて岸にむかった。兵士の体をひきさいた。馬上の司令官をつかみあげまた引きさいた。

*** 050302 エジプトを闇に、雹を
次々に兵士の体をひきさき、ころした。巨人はファラオの神殿にむかっていった。ファラオよ、エジプトのイスラエル人を解放せよ。さもなくば、二度とこの地に陽がのぼることはない。世界は暗転し闇がおとづれた。巨人はファラオの神殿からの返答をまった。2日後、広場に殺害された妻子の死体があった。いかった巨人はおおきな雹をふらせた。それでもモーゼの神殿にむかうイスラエル人を次々に処刑した。

*** 050303 ナイルを血の河に、イナゴ、シラミ、子どもの死、約束の地に
巨人はナイルの水をすべて血にかえた。大量のイナゴが発生した。すべての作物をたべつくした。またシラミの大軍がわきでた。難病の病原菌が人びとに蔓延した。民の懇願にもかかわらずファラオは降参しなかった。巨人は拳を天にあげ怒りの声をあげた。エジプトの子どもの第一子がすべて死んだ。ついにファラオが降参し、イスラエル人がエジプトをでることをゆるした。広場にあつまったイスラエル人にむかってモーゼがいう。かなしみの時はおわり。これから助けあい約束の地にむかおう。巨人は仕事をおえナイルの水にもどる。イスラエル人がエヘィエ・アシェル・エヘィエとさけぶ。やがてヤーハエとかわった。巨人はふりかえっていう。必要なら敵をすべてころす。水の中にさった。

* 060000 Bの書、連続殺人
** 060100 Bの書、201年11月29日、スコットランド
*** 060101 パブの前でオーロラを
スコットランド、オーロラがみえた夜。ティモシー村。ここにきて4年。オーロラはめずらしいのでさわいでた。アーヴィンズ・パブ。ホテル・ティモシー・インに隣接。騒ぎをよそに私はリンダの前でのんでた。リンダがさそうので外にでた。11月、さむかった。リンダがバニー、あれをみてといった。さわぐ声。不吉の前触れとか。かならず人が死ぬ。男の声。蛍光灯の中とおなじ。地上100キロか500キロは空気がうすい。磁気をおびた電子がただよってる。そこに太陽からとんできた微粒子がぶつかって発光する。極点から23度の一にオーロラ・リング。その下はオーロラがよくめえる。太陽からとんでくる。なら昼間のほうがよくみえると私がきく。

*** 060102 ヒイラギの樹、枝に女の顔
何らかの理由で微粒子が地球の夜側にあつめられる。それが地磁気にひかれ徐々に極にあつまる。それでひかる。そう。何らかの理由とは。不知。酒場にもどろうとした。ホテルの横にたってるヒイラギの横に何か。あそこに人の顔が。誰かが。樹はは毎年12月にはクリスマスツリーとなるものだった。おーい。頭上に声を。枝の奧。人間か。顔が。でも体がない。フラッシュ・ライトを。

*** 060103 ボニーの首と犬の胴体
しろい顔がうかんだ。何。お面。誰か、樹にあがったほうが。梯子をもってきた。誰かがのぼっていった。上でステッキでついた。落下のおおきな音。犬だ。ボニーだ。それはしろい女の顔。胴体がない首だけ。その下はくろい体毛でおおわれてた犬の体だった。

** 060200 Bの書、29日、事件現場
*** 060201 隣町から警察が、被害者はボニー
私たち関係者はアーヴィンズ・パブに。隣町のグリシャムから警官がやってくる。リンダがないてる。ボニー・ペニーとはしたしかった。バブリー・ダンフォース署長の声。バニー。お前も目撃者か。ああ。私もとリンダ。今夜は11月29日と署長。さあ事情をはなせ。不知。はやく。リンダがほとんどはなした。ヒイラギの上にと署長。そう。で、誰かが梯子でのぼった。で、あの女性はボニーか。そう。職業は。ここにつとめてた。いくつ。61歳。へえ。わかくみえた。主人は。いない。独身。そう。結婚は。ないとおもう。どこにすんでた。ブランウェル・ロードの貸家。

*** 060202 ティモシー・インの自転車置き場の梯子でのぼった、死体発見へ
一人で。いえ、ルームメイトのバーベラ・ベーカーと。一時的といってた。その女性は。この先のシャーロッツ・レストランで。無事。とおもう。誰かにうらまれてたか。いない。いい人。ふうん。その梯子はどこから。自転車置き場の壁に。へえ、自転車は。ティモシー・インの泊まり客にかすため。村の観光用か。
はい。その梯子、夕べは。夕べも。そのまま。誰がのぼった。ここにいるタッド・シューメイカーが。ええ部下が聴取中。あんたらはオーロラをみてた。そしてついでにあれもみつけた。そうだなバニー。そう。あれは何かとバニー。いえない。

** 060300 Bの書、30日昼前、村役場
*** 060301 被害者の事件前後の様子は
私は昼前、村役場の広間に。昨夜の目撃者たち20人が前方に。総勢100人。ここを警察の取り調べにつかうらしい。むかいあって署長。その横に外国人のような男。署長がいう。個別聴取はおわった。ボニー・ペニーについてしってることをおしえてくれ。私はやりかたがひどいと抗議。無駄。おととい28日の晩、ボニーにあった。上機嫌だった。誰かにうらまれてないか。ない。借金は。かも、でもない。最近あやしい奴は。いない。彼女はいつ死んだか。昨夜のようだ。推定時刻は。不知。ここで隣りの男がいう。

*** 060302 スウェーデンからの教授が検死を説明
アメリカ訛りだった。体がないから、胃がない。だかれ推定時刻がでない。まあ夜の8時。昨夜私の隣りでオーロラの説明をしてた。で、署長にきいた。スウェーデンウプサラ大学医学部ミタライ教授。たまたま当地を訪問。協力をお願いした。私がきく。先生、事件は。いえることは限られてる。材料がすくない。狂人。ああ、常軌をいっした。ボニーを一昨夜の何時にみたかと署長。不明。

*** 060303 28日の様子、トラブルは
酒場のマスターのアーヴィン・ワッサーマンが28日の午前零時には帰宅とこたえた。同宿人のベーカーさん。29日は。あってない。前日は。あってない。誰か。29日のボニーは。彼女はいつも部屋で読書かテレビ。食事は自分で。時間になったら家をでて、あるいてアーヴィンズに。男性は。私がしるかぎりないとバーバラ。男性関係はない。ふうん、酒は。楽しみは、裏庭のバラと女性の集まりとリンダ。集まりでの彼女は。何も問題はなかった。

*** 060304 借金、死因、何故プードルに接合
集まりは共通してた。お名前は。コニー・タウンゼント。職業は。以前小学校の教師。今はリタイア。悩みなどない。そう。で、どうして、あんなころされかたをと署長。誰もうらんでるものがないのか。署長、ボニーがとられたものは。不明。部屋はあらされてない。とられたものはない。金も無事。ボニーはころされたのか。そう。死因は。死体がないので不明と教授。場所は。さあ。悪魔の所業。そう。よみがえった。私がじれてきいた。どうしてプードルの体にくっつけた。

*** 060305 引きちぎって切断
ボニーの首は凶暴な力で引きちぎられてた。断面はぼろぼろ。刃物での切断面でない。魔物。教授、つづけて。プードルのほうもそう。プードルにもボニーにも首の切断面で、食道に木の棒。それでつながってた。魔物。プードルはボニーの犬か。ベイカーさん。いえ。では誰の。わたしのとペギー。キャッスル・ロードで店舗経営を。何の店。宝石店、洋品店。レストランと。未亡人。村一番の金持ち。彼女の愛犬だった。犬の名は。テン。テンの死亡推定日時は一昨夜28日。犬がいなくなったのは。

*** 060306 ペギーの愛犬、怨みは
その頃。犬は。毒殺でない。毒物の注射でも。絞殺でも。溺死でも。老衰でもない。では。頭部への銃殺か、殴打。誰が何のため。あなたはうらまれてたか。いえ。さらに縫合と教授。何。ボニーの頭部とテンの体とが縫合。首の周りを。何故。本当にうらまれてないかと署長。ちょっとやそっとのうらみでない。本当にうらまれてないか。

*** 060307 両腕が発見
ない。あやしい人。誰も。見しらぬ人といえば、そちらの教授。突然、おおきな音、破裂音も。何。雹。ふん。すると電話のベル。署長にかわる。おおきな声。雹の音。今日はこれまで。何かあれば連絡を。私は何があったときいた。ここに犯人がいるかもと躊躇。やがて、両腕。飛行機の中。どこの。この村のはずれ。グリシャムの場外飛行場。セスナの座席に。何故。不知。ここにいればおしえてくれるか。暇なら。私はここにもどってくることにした。

** 060400 Bの書、30日、飛行場
*** 060401 現場検証
飛行場は役場から30分。滑走路南の中央。署長が整備員とはなす。駐機中の沢山のセスナ。ロープでコンクリートに。ここではこんふうに。はい。スペースがない。格納庫にはいらないのか。ない。民間所有のセスナは。このラインでかこったスペースに。あの四角のラインの中に。はい。斜めに。はい。これらは雨ざらし。はい。それ大丈夫。はい。でも心配な人はシートでカバー。この飛行機もそう。はい。両腕は、あなたが。はい。持ち主から整備をと。シートをめくると腕が。おどろいたか。はい、人形の腕かと。死んでる。この人は。ああ。ひどい。どんな怨みが。このドアはロック。されてた。この窓があいてた。この窓はあくのか。

*** 060402 あいてる飛行機に、もぎとられた両手
ちょっとすき間。下端を手前に。20センチほど。窓の上端は蝶番で機体に固定。スティによりこれ以上あかない。腕2本を押しこめる。これ以上は。あかない。この窓のロックは。できるが、わすれた。よくわすれるのか。さあ、それほどは。ふむ、つまりあいてるのも。あり。ミタライ教授の声。飛行場の周囲の金網は。のりこえられでしょうね。ここには監視、警報装置。ない。ここは正規認可でない。だから。夜間の照明設備も。滑走路は夜は。つかえない。そう。でもとんでるうちに夜になったら。インヴァネスにゆくしか。あっちは警備が厳重。ふむ。乱暴なやり方。人間の両手をもぎとってる。飛行機のドアだって。えっ。裁判がある。口外無用。はい。肩の間接を脱臼させもぎとってる。ひどい。風があるねと教授。この飛行機なら許可はださない。この飛行機の名前は。セスナ182R、アメリカ製。そろそれグリシャム病院に。あの両腕をくわしく。聞き込み終了。

** 060500 Bの書、30日、村役場
*** 060501 両腕発見
もどってきた署長はストーブで暖をとってた。私はペギー、コニー、アーヴィン、リンダとともにいた。皆んなボニーとしたしかった。両腕がでたのかと私。ああ。今どう。口外は無用。腕はグリシャム病院、教授がしらべてる。発表しないのか。否、質問を各社別でなく一本にしぼってくれ。被害者、容疑者等は匿名。現在は初期捜査の段階。大騒ぎはさけたい。それも教授の智慧か。ああ。たよりきってる。経験が豊富。法医学、脳科学、メディア学にも精通。ふうん。カーターさん、お店はと署長。ひらいてない。成程。

*** 060502 ちぎって切断
男性は仕事にと署長。事件の説明をと私。いえない。ほう、でも事件の話しをと私。両腕はグリシャム場外飛行場で。182R型のセスナの座席で発見。飛行機はカンバス・シートをかぶってた。整備の時に気づいた。両腕は肩の部分からちぎるるように切断。むきだし。着衣の切れ端はついてない。血もほとんど。これは死後の切断を。もきとるように。刃物できってない。関節部分のまるい骨が露出。へっ、どうやって。さあ。

*** 060503 犯行は一昨夜か
何故そんなところに。何故両腕を。頭部と10マイルもはなれてふ。不明。飛行場での目撃者は。ない。ここは正規の飛行場でない。誰でもはいれる。警報器も監視カメラもない。でも飛行機にはいれたのが夜。これはたしか。昼間なら空港の誰かが。犯人はそういうことをしってた。おそらく。ではこの村の誰か。バーニー、お前はこの村にはながい。監視カメラがついてないことをしってたか。否。そう。しらないのもいる。でも知識があれば、よそ者でも。腕をいれたのは昨夜か。そう。ちょっととアーヴィン。ボニーはおととい、28日の零時に帰宅。彼女をみかたものはない。翌朝も。おとといの零時から夜明けまでの間にころされ切断された。かも。おとといの夜のうちに両腕は飛行機の中に。成程。切断された時刻の推定は。教授が。電話の音。教授から。

*** 060504 別人、フェイか
何。あればボニーの腕でない。では誰。失礼、わからない。血液型、DNAがちがう。切断されたのは今から20時間以内。年齢は。ボニーとおなじくらい。白人、性別は女性と。血液型はO、ボニーはBだった。指紋などは。ない。先生の宿泊先はティモシー・イン。もう一人、女性がころされた。もしかしてフェイ。昨日から姿が。誰。

*** 060505 胴体が消防署の上に
ボニーの友だち。たまにあってた。特徴は。腕ですか。ない。でも体に。妊娠線がのこってた。お臍の上。姓名は。フェイ・エマーソン。結婚歴は。あり。子どもは。たしかリバプール。とにかく一人暮し。年齢は62歳。犯人は友人グループをねらってるのか。どうするか。また電話のベル。消防車の上に。死体が。切断。胴体が。人の胴体。

** 060600 Bの書、30日午後、消防署
*** 060601 署員にきく
私、署長、教授。消防署は煉瓦造り。消防車が2台。消防署脇のひくい木の柵。その木戸からバックヤード。ほされた洗濯物。その向こう。ふるい消防車が1台。黄色の立入禁止のテープ。私は見学。空にくろい雲。午後。雲が太陽をかくす。役場のホールにいた女性は帰宅。アーヴィンは店へ。だからここには私だけ。消防署の署員に声を。消防車の上で死体が。でた。発見は。自分でない。あなたは。ロバート・グレイブリー。大変な事件。そう、裏庭の消防車の上に死体をすてる。実地検証中の署長も途方にくれてる。ああ。裏庭には誰でもはいれる。

*** 060602 死体の状態
ああ。誰もそんなこと。予想も。はじめて。ここ10年で。それもバラバラ死体。みたのか。ああ。車の上に。女か。ああ。スカート。長髪。顔があった。えっ、あった。大人の女。体がちいさい。へえ。異様だ。手足がないから。スカートはペタンと。中身がない。つけ根のところから。両手も肩から。へえ。鼻先でみた。車によじのぼってみた。血と肉の臭い。裏庭の車は。もうつかってない。子どもの遊び場だった。子どもがみつけた。否、スカートの端がちょっと。あれがなければ誰も。死体の周囲に血は。ない。

*** 060603 身許は、フェイ
ほかに特徴。凶器。遺留品。ない。被害者は。ううん、みたかも。何故、消防署においたか。不明。消防署の誰もしらない。署内にうらみが。ない。ボニーの事件は。しってる。ボニーで。ない。フェイ・エマーソンという女性は。へえ。キャッスル・ロードのほうの家で一人暮らし。60くらい。独り者。子どもはいるがリバプールに。沈黙。亭主が弁護士。離婚。たぶん。そうフェイ。フロッデン・ロードの家、彼女の家であった。署長がもどってきた女性の身許はフェイ・エマーソン。えっ。離婚した亭主は弁護士、住所はフロッデン・ロード。ええ。消防署員が証言。間違いない。ええ。ちょうど教授が。

*** 060604 検死の状況
検証はと私。おわり。顔が。ある。ボニー。ではない。あれはフェイ・エマーソン。へえ。死体の様子から何か。それはどんな女性か。説明。ふうん。わかったことは。署長の判断は。でも役にたつと私。何がききたい。手足が。ない。今度も。ちぎりとられてた。刃物をつかってない。関節の骨がとびだしてた。肉はぼろぼろ。死体の周囲に遺留品は。ない。血も。刃物も。指紋も。指紋はまだ。

*** 060605 何故、消防車の上か
死因は。ノーコメント。死亡推定時刻は。まだいえない。犯人は何故消防車の上に。さあ。車はどんな。あれとおなじ。すると車高がある。消防署にうらみをもつ者の犯行か。いえない。先生、こんな辺鄙な村に消防署。不思議では。ふうん。連中が出動したのはきいたことない。石造りの家。もえない。まるで死体をすてるためだけかと教授。でも消防署は必要。電話。胴体がでた。精肉工場で。

** 060700 Bの書、30日、午後、精肉工場
*** 060701 工場の冷凍庫に
私がポリス・カーにのりこみ、署長、教授とともに現場に。ティモシー精肉工場。車で10分。敷地に。男の先導。大型の金属ドア。スライド式。廊下。左手にガラスの窓。ぶらさがった肉塊。透明なヴィニールがさがった入口。中に。セメントの床。ここと男。ステンレス製のドア。あれを。金網のカバーのかかった裸電球の下。肉片。しろい肉の山の上。あれかと署長。人間。

*** 060702 死体の状況の確認
服をきてないと署長。たしかにと教授。いつから。さあ、気づいたのはさっき。豚肉のした になってた。集荷しようとして。この肉片は皆んな豚。そう。モスレムなら銃殺かと教授。引きだす、このまま。病院の車を消防署から、こちらにまわすようにと教授。外で。ここの鍵は。あるが、ここしばらく施錠してない。ほう。こんなことはじめてだから。この工場に泥棒がはいったこともない。でもおきたと教授。

*** 060703 誰もはいれるが、昼間は従業員がいる
では、この中には誰もはいれるということか。そう。その気になれば。ふむ。誰ですか。うむ、足と腕がない。頭部も。しかも切断面はちぎったみたい。女性。乳房が。もう若い人ではない。ボニーと私。かもと教授。2人の死体。死亡推定時刻はだせる。誰がここに。お前、どうしてここにと署長。手助け。不要。必要。不要、援軍が。捜査を混乱させるな。気にせず捜査に専念を。名前は。ミュエル・テイラー。誰がここに。昼間なら従業員がいる。夜。成程。おととい28日の晩からあった可能性は。ううん。

*** 060704 何時、死体が、何故ここに
かも。昨日は出荷がなかった。きまり。28日の晩。まだ、はやい。外はさむい。雪もふってきた。捜査の邪魔をするな。手つだってる。この床は常にぬれてるのかと教授。そう。夜も。血はたえずあらいながす。匂いがつく。ふむ。この村はどこにも鍵がない。まるで中世。死体はどこにでもうすてられる。でも、ここは平和な村。そう。しかしいったん凶悪事件が。厄介な所だ。そのとおり。なんとか手をつくして犯人の動きを規制。すぐ非常線をはると署長。サミエル、従業員があやしい人物を目撃。ない。確認した。ボニー・ペニーという女性はと署長。名前は。従業員でボニーとしたしかった者は。いない。ではフェイ・エマーソンは。誰。署長が説明 。私が口だし。署長が私を外へと。退出。

** 060800 Bの書、30日、酒場
*** 060801 現状を確認、署長が私の酒量を心配
アーヴィンの酒場。私とリンダ。教授がやってくる。先生はティモシー・インに宿泊。事件はどうなってる。インヴァネスから警察。被害者2人の家を。村の周辺を調査。街道筋。細部。ここの前にも。へえと私。君。酒量は制限を。表の雪は。やんでる。つもらなかった。ふうん。いずれつもるとリンダ。何のため。私の見張りは。酒代がはらえないからか。飲み代ほしさに郵便局をおそうと教授。ほう。人間はおいつめられるととんでもないことを。相当な知性をもってる者でも。だが署長は君の健康を。本当か。彼は君を親友と。へえ。

*** 060802 食道ガン発症のしくみ
乾杯。私の食道ガンのため。否、二人の友情のため。私がどうして食道ガン。発病する前に死ぬと私。そうか。なら署長はさびしくなる。何でそうおもう。推理。成程。先生は欧州1の名探偵。では推理は。

君は顔があかい。ああ。で。酒飲みには2種類。天然自然にいける口、最初はそれほどでも。徐々になれる。のめるように。後者は顔があかくなる。成程。そうかも。アルコールは胃や腸壁から吸収。肝臓にあつまる。ここでアセトアルデヒドニという有害物質。これは発ガン物質。細胞を傷つけ、身体各所にガンを発生。あまりアルコールがのめない人に不快感、吐き気など悪酔い。成程。

肝臓にある酵素が。アセトアルデヒドを人体に無害な物質に。ううん。のめる者、のめない者は、つまりこの酵素の力の大小。力がよわい。のみない。つよい。いける口。その中間が、まあまあのヤケ酒組。それが私と。かも。ふむ。こういう人は割合いつまでも顔があかくなりつづける。さてこのアセトアルデヒド。もしうまく分解されない。すると肺にも、よくたまる。するとそれが呼吸のたびに気管をかけあがり口からでる。酒くさい男ときらわれる。否。皆んな同類。

*** 060803 フェイが消防車、絞殺、ボニーが冷凍庫、絞殺
この息は食堂にも。またアセトアルデヒドは唾液の中にも。食道から胃に。これがアルコール中毒の日常。君は毎晩これをくりかえし。いつかガン。ふん。でもそれ本当の話し。まだ仮説。いずれ立証される。では先生、事件の話しをとリンダ。

まずフェイ、消防車の上の女性。たしかにフェイ。うん。近所の人の証言。タウンゼントさんの面通し。死因は。絞殺。ほう。首の皮膚に索条痕。体には傷がない。では冷凍庫の中の裸の首なし。ボニー。そう。骨組織 。血液型、DNA、細胞の組織。すべてが頭部のものと一致。死因は。絞殺だろう。索条痕は不明瞭だが。他の状況は。首のつけ根。鎖骨付近に引っかき傷。被害者はくるしみのあまりつくる。飛行機の中の腕の爪にはエマーソンさんの首の皮膚のかけらが。

*** 060804 フェイの腕が飛行機、死亡は、ボニーは29日未明、犬は28日
これらもフェイと確認。体はきれいだった。ボニーは頭部と体。でもまだ足と腕がとリンダ。またフェイは頭部と体はでた。腕も。グリシャム場外飛行場の飛行機から。まだ両足がと私。後でころされた死体のほうが沢山でてる。でもフェイのほうが後なのとリンダ。腹の中身で。死亡推定時刻は。だいたいだが、ボニーは11月29日の未明。つまり28日の深夜。やっぱり。署長は間違ってた。つまりボニーはころされて20時間ちかくもたってから、この横の樹の上に。犬の体と組みあわされてと私。犬はそれより1日ほど前に。ボニーがころされるより前に。そう。ということは犬は2日間、ボニーは1日、どこかにかくされてた。つまり犯人にはそのための場所が必要。首を切断。縫いあわせの場所も必要。そうと教授。

*** 060805 容疑者は、死体のかくし場所は、山狩りを
よそからの流れ者は除外できそう。つまりこの村に家をもってすんでる。すんでる必要はない。すんでなくていい、どういう意味と私。この村に自分の家があればいいとリンダ。つまり普段は空き家でも。そうね。この村に空き家はあるかと教授。ない。きいたことない。署長もそういってた。

では村の家を全部しらべればいい。トイレ、浴室、納屋、屋根裏、血の跡。切断された腕、足はかくされてないかと私。浴室、シャワー室にルミノール反応がと教授。ううん、法的にはむずかしい。死体の隠し場所は民家でなくてもよい。このさき の森の中。丘。洞穴だって。そう。で、署長たちは山狩り。今日の午後いっぱい を。インヴァネス署からの人員も。明日も継続。現在までのところ、それらしいい場所、隠れ家、洞穴、森、焚き火。森にひそむ不審者もみつかってない。のこる死体の部分も。

死体切断の道具も。犬の死体もない。不思議ね。だが、スワンソンさん。ボニーの胴体はころさたのち即刻ティモシーの精肉工場に。冷凍庫の中に。かもしれない。ならボニーについては、かくすべきは手足だけ。これなら場所をとらない。成程。

*** 060806 切断は、引きちぎる、どうやって
でも先生、道具は。野獣みたいに引きちぎった。そう。これが難問。誰が、どうやったら、あんなことを。ほかに例があるか。バラバラ死体。なら例が。でも、ない。あと一人は。

*** 060807 フェイ、死亡は30日未明
フェイ。おお。死亡推定時刻は30日の未明。今朝ということ。そう。あるいは昨夜おそくとも。どうして犯人は胴体は消防車の上、両腕は飛行機の中に。そう。それを昨夜おそくに。ということは飛行機の中に腕をいれたのは未明より前でない。そう。ちょっと下品なことを。うん。性行為か。なかった。ふうん。じゃあフェイも。ない。ふうん。

*** 060808 痕跡はまったく、女性に関心がない、怨みは
体液がのこってれば第一級の推察材料。だが、なかった。指紋も自分の血も体液も所持品も足跡ものこしてない。仕事なれした奴なの。それとも人間でないか。犯人は女か。体を引きちぎれる女ね。だが、その首を犬の体に縫いつけてる、怪力の上に繊細と教授。ああ。とんちんかんね。第一、この犯人はどうしてころしたの。つよい怨み。あり得ないわ。ボニーもフェイも。60年もくらして波風をたててない。そうだな。噂の一つぐらいありそう。つよい怨み。あり得ないわ。ないな。かりたお金。きちんと。約束、まもる。ボニーもおなじ。

*** 060809 痴情問題はない、盗みもない
男関係はなかった。私もボニーもフェイも。きいたのはペギー。へえ。つきあってる人が外国にいるとか。美人だから。アーヴィンの声。二人とも独り者。老後のためにためてた。二人を表でころす。二人の家に忍びこむ。ゆっくり金、貴重品、貴金属、指輪を物色。亭主も子どもも家にはいないから。格好の標的。

警察が二人の家に。徹底的な調査。家は二人の殺害現場じゃない。そして家の中からなくなったものはない。金も貴重品も手つかず。銀行預金も無事。宝石貴金属ももってた。二人ともかなり財産を。特にフェイのわかれた主人はかなりの資産家。しかし、何もなくなってない。これは友人、近所の人が立ち会い確認。ふうん。

おまけに消防車にのせる。何故。豚肉の上にも。どうして消防車。森の中でない。ネス湖でも。消防署、精肉工場。見つかる可能性。そう。なんでわざわざ。人間がやったとおもう。だからわからないと私。動物は。ほう。

*** 060810 誰が、人間か、獣か
たとえばオランウータン。フランスの古典的大事件のように。ただころして、バラバラに。それをいろんなものの上に。消防車に意味はない。たまたま。消防車は無意味か。それも財布もお金も無意味。フェイの家と消防署ははなれてる。徒歩15分。おもいフェイをもってなら30分もかかる。車だったら。運転免許証。いや車の音はきいてないと消防署の連中がと教授。

動物の怪力なら、そんな距離は問題ない。飛行場もある。10マイルの距離。たまたま飛行機が。1時間もかかる。リンゴ園にひかれそう。ううん。オランウータンが説明する。つかまえれば。それより精肉工場の工場内の奧。そうしなければいけない理由があったのよ。どんな。くさらせたくない。じゃあころすな。それなら何か証拠が。体毛、爪の跡。足跡。目撃者も。鳴き声も。こいつは意図的にかくれてる。オランウータンが糸と針で縫うかと教授。そこに制服の警官。

*** 060811 ペギーの店に空き巣
同行を。何。ハウス・オブ・タイム・ジュエラーズに空き巣が。宝石店、時計も。ああ。ペギーは無事か。無事。本筋とは無関係な事件かな。この村に空き巣なんて、なかった。宝石店か。ペギーのもってる店の中で一番金になりそうなところに。何をぬすまれた。何も。へえ。ガラスをわられ、はいられただけらしい。

** 060900 Bの書、30日夜、宝石店
*** 060901 店への侵入、内部の様子、柱時計
宝石店。表のスリット型のシャッターはしっかりおりたまま。店の脇の路地。従業員専用のドアがやぶられてた。扉の上部にまるくわられてた穴。ローブ姿のペギー。話しをきいてる警官。この鎧戸、しめるのをわすれていたのよ。わられたところから手をいれてと私。ええ。するとすぐにロックをはずせる。ここは他人をやとわず一人で経営。ショーケースが周囲に四角く。真ん中に正方形のフロアがあいてる。その中央にソファ。その横に人間の身長ほどの床置型の振り子時計。時計の周囲には観葉植物が2鉢。教授が正方形のフロアを左回り。右手のショーケースをのぞいてた。ガラスケースの中に宝石。腕時計。その周囲に宝石。

*** 060902 象の置物が盗難、ほとんど無価値
ショーケースと壁の間に通路。何もとられてないのかと教授。何もとペギー。署長が登場。これも一連の事件と関係があるのかと私。それを調査中。ふん。何もとられてない。そうですかと署長。はい。本当ですか。ここにある埃。カーターさん。中央部分がぽっかりとあいてると教授。右手のサイドテーブルの上をさしてる。ここに何かのっていたのでは。あっ。ここに象が。なくなってる。象。木彫の象。タイランドの製品。高価なもの。否、10ポンド。

*** 060903 ペギーは探偵小説がすき、教授に興味、どこかであったか
あなたは無価値と。でも実際は高価。中に宝石がはいってた。成程。ああ、6つのナポレオン像。そう。いえ、本当に価値は。石膏製でなく木彫。中に宝石など。ペギーがいう。私もホームズがすき。ストックホルムでよく。ふむ。だから先生のような本物の素人探偵にあえた。うれしい。失礼、われわれは初対面でないかも。今朝、村役場の集会で。こうして言葉をかわす。それは初めてとペギー。やはりおあいしてないよう。ふむ。ぬすまれたのが無価値のものだけなら。そう。ではこれ以上ここには。誰も死んでないと私。

*** 060904 釈然としない盗難、子どもが犯人か
だが先生、釈然と。宝石があるのに木彫の象。二つの殺人。女がいるのに何も。何故。宝石店に忍びこんで宝石をぬすまない。これは、犯人がホモか女。だがここで。女ならぜったい宝石を。非常ベルがついてる。子どもというのは。それとも両方とも興味がないと教授。表のガラス越しにみえた。ほしくなった。ドアをやぶってはいってきた。そしてとってった。今頃、ベッドサイドで動物園遊び。そんな馬鹿な。俺なら機関車。おもちゃ屋。携帯電話の音。両足がでた。どこで。

** 061000 Bの書、12月1日、午後
*** 061001 教授の部屋のヴェランダに腕
ベッド。さむい。ドアがあけっぱなし。昨晩のこと。署長、教授が外出。私は酒場に。起床外出。キャッスル・ロードに。アーヴィンズの前に人だかり。リンダが声を。何事。あそこにはちかづかいほうがとアーヴィン。メディアの取材。教授のとまってる部屋のヴェランダでボニーの腕が。おそらくヒイラギの樹の上から、ティモシー・インのヴェランダに。犯人が。そうだろう。ほかに誰が。どんなやつ。目撃は。ない。腕はむきだし。いや、スポーツ・バッグに。両腕か。そう。でも、ちょっとおかしなこと。ええ。君はランチにきたかとアーヴィン。そう。頭痛は。うん、だいぶいい。どうしてわかる。あれで頭痛は当然。あそこのスープ・エクスチェンジに。それとも。夕食だって。ああ、夕食。これから仕事だから。何時だ。4時半。

*** 061002 昨夜、ボニーの足が教会で、腕もボニーのもの
うん。店はバフェ・スタイルのセルフ・サービス。クラム・チャウダーとパン。二人も席に。昨夜、署長は何を見つけた。ボニーの足。教会の脇の植込み。やわらかい地面にさされてた。カラリリーや、沢山ある植込みの陰でみえなかった。ふうん。2本とも。そう。この足がボニーのものと。間違いない。引きちぎられてた。教授が血液型、DNAから。さっき腕がでたと。そう。これも一致。やっぱり引きちぎられてた。ヴェランダで。そう。誰がみつけた。煙突掃除人。屋根から。ホテルの支配人に今朝。教授はしらない。しらべると天体望遠鏡と一緒に。何と。望遠鏡。

** 061100 Bの書、1日夕方、村役場
*** 061101 捜査本部に、教授が顔写真をださない条件で記者会見を
二人とわかれキャッスル・ロードに。書店前。デイリー・ガゼッタを一部。そのフロント・ラインに。ティモシー村に無差別連続殺人。村役場に。ホールの机に記者がたむろ。関係者か。否、署長の友人。彼は。隣りの部屋。集会場の演台脇のドアを。署長、教授が。挨拶。教授に。ずいぶん記者連中が。顔写真、名前をださないことを条件に取材に。顔をだしたくない。英国一のスターになれるか。そう、ホームズみたい。無益。署長が。お前は胃をこわしてるな。医者はミルクをのめと。残念ながらここにない。

*** 061102 教授が事件は無差別でないと
署長が記者連中の悪口。教授に。新聞に無差別連続殺人とかかれてる。そうですか。否。ある種の法則性が。へえ。たとえば、被疑者は女。男はいない。ああ。それに60代ばかり。若い娘は。成程。年齢差別と署長。それが。今は不明。ではまだころされる。その危険性は。ふうん。教授はあのヒイラギの樹のすぐそばの部屋に滞在。そう。最初にボニーの首がでた時から。

*** 061103 教授の部屋はあのヒイラギの樹にちかい
そう。何か気づかなかった。犯人はあの樹によじのぼったから。何も。ぼくは部屋をでがち。名探偵の部屋の横。大胆。ああ。でも、わかったことがと署長。お前のような酔っ払いの爺さんでない。ぼくも犯人を絶対にあげなくては。記者が何故かと質問。ぼくへの挑戦。電話。足があったと刑事。虎の看板。どこの。すぐいく。ジャーメン・ストリートとソウブ・ウェイのT字路に虎の看板。どこ。村のはずれ。虎、何故。看板に虎の写真。それがこわされた。そこに女の足が2本。ささってる。どうして。中国製の薬の広告。天体望遠鏡の次は虎。教授がこっそりとぬけだす。

** 061200 Bの書、1日、夕方、虎の現場に
*** 061201 狂人の仕業だろうか、死体をわざとバラまいてる
署長の呟き。ブラック・プードル、精肉工場、豚肉、飛行機、...、精肉工場、教会、消防自動車。何か意味が。こいつはただの狂人。教授は法則性がと私。60女しか。あれか。それだけでは。今いえる確かなことはそれだけだが。確実にいえること。狂人がこの村のどこかに。あの人は慎重。だが頭の中には。ふうん。お前にそれがわかるか。あんたよりは。いえ。いい。いえ、法則性とは。それを村のあちこちに、まいてる。そう。で、何故。ううん。何故だ。つかまえて本人にきけ。で、わかることは。うん。まいてるのでなく、配置してる。ほう。配置か。そう、だから法則性。

*** 061202 何かと利益になる、損得、達成、怨みか
各パートを意図した場所に。ふむ。切断死体を消防車上で発見。豚肉の上に。何らかの意図の上かと署長。そう。すると、そうすることが犯人に何らかの益があると。そう。犯人の益。つかまらないこと。うん。自分がつかまらないこと。そして、何らかの目的をはたすこと。何らかの目的。何と署長。怨み。それをはらす。つまりボニーにもフェインにも怨みを。ううん、金か。金はぬすまれてないと署長。やっぱり怨み。これをはたし、にげきる。まあ、そうするとフェイの死体を消防車の上に。それが保身につながる。そうか。ううん。ボニーを裸にして豚肉の上に。自分を逮捕させない。つながるか。沈黙。どう説明できると署長

*** 061203 見つかる危険があるのに、結局、利益になるか、法則性は、まじない、地名
道端でなく、消防車の上。何故、自分の身をかくすのに。苦労をしておもい死体を消防署に。自動車をつかってない。かも。さらに頑張って自動車の上。それに見あう利益があると私。もしかすると、そのために切断、引きちぎる。わからん。お前は。まだと私。でも何らかの法則性。法則性。とはルール。ああ。そのルールとは。まずバラバラ。それらのパートを村のあちこちに。配置。このあちこちの場所に意味が。何かのまじないか。かも。ない。いや、場所、その地名。はたまた事物、消防車、飛行機。かも。それが保身に。多分。それが、まじないでなく、具体的に保身の意味。そうか。ああ。豚に虎にブラック・プードル。飛行機に消防車に天体望遠鏡、保身に。わからん。順番に意味が。

*** 061204 順番、組合わせ、現場に到着
順番。そう。ブラック・プードルが先頭。それとも頭部は頭部。各パートはパートで。ううん。もしかして消防車にまつわる怨みと私。消防車、飛行機。天体望遠鏡にまつわる。怨みか。ついでにプードル、豚に。ついた。

大勢の警察関係者。教授の姿も。 日暮れ時。虎の看板。TIGER BALMの文字。ややちさな文字で、BALSEM HALIMAU ENG SAUN TONGと中国語らしい表現。この文字の下、はしってる虎の背の下。おおきな穴が。そこに両足が。今、どこに。あそこ。ワゴン車。記者が到着。看板は紙か。

*** 061205 足は引きちぎられ、フェイらしい
否、裏は鉄板、その上に合板。ポスターはこれにはってる。それには馬鹿力が。相当の。足は女のものか。そう。切断面はささくれてるから、まずフェイと教授。看板には血はない。死体がふるくなった。血染めの指紋痕は。断定は検査の後だが、フェイだったら。これですべてがそろった。ボニーもフェイもこれで、すべて。これがフェイなら。犯人はどうしてこんな場所にと署長。教授は病院に。

** 061300 Bの書、1日、夜、酒場
*** 061301 死体をむきだしにするのは
リンダ、アーヴィン、私。香港製の軟膏だそう。何にきく。頭痛、肩凝り、筋肉痛。万能薬か。まあ、私のママも。ともかく、これで二人の女性の体はすべてでそろった。テレビのニュースでいってた。あの足はフェイ。検査の結果もでた。私は署長との会話を思いだしてた。

バーニー、何をなやんでる。いや、俺じゃない。署長。犯人が誰か。それもそうだが。死体を遺棄。うむ。豚肉、消防車、飛行機。犯人にとってはそこで発見させることに意味が。ふうん。袋にいれ飛行機のどこかにかくした。なら別だが。そう。むきだし。だからどこかにはこばれ、所在不明にならない。それにこのセスナはまたもどってくる。飛行中におっこったりしない。そうね。消防車も。もうこわれてる。裏庭からうごかない。

*** 061302 風景画家が風景をみせたかった、猛禽類のようにバラまいただけ
そう。そういう光景をみせたいのか。ううん、そう。風景画家が風景画をみせるように。バーニー、絵描きの風景画はけっして自然のままじゃ。画家の好みで修正。昼間かいたのに夕景。ああ。犯人は消防車にのってる手足のないフェイの体。これを警察にみせたかった。成程。すると、これは犯人の保身には直接つながらない。そんな目的でない。つまりこいつは人間でないとリンダ。ああ。なんだって。人間ならこんなひどいことは。へえ。人間なら情が。限度が。くるってても限度があるわ。人間じゃない。悪魔よ。そうだな。野獣。動物とか猛禽類。とった小動物の体を枝にさす。あれだ。

*** 061303 引きちぎるのは人間業では、魔物か、魔神か
あれはみせてはいない。たださしただけ。俺はみせるためにやったとほいってない。そう人間じゃない。切り裂きジャックだってできないとリンダ。沈黙。物理的にみても無理。引きちぎるなんて。じゃ、魔物。野獣じゃなければ、そうじゃない。ううん。自分はファンタジーはと私。でもそうよ、魔物。それが今、この村を通過してる。ハリケーンみたいに。ええ。では、われわれには何も。そう、できない。私の番かもとリンダ。魔神が通過して北海にさる。それをじっとまつだけ。われわれは弱き羊だ。だがパニックになって魔女狩りはしたくない。同感。でも今後、これ以上の犠牲がでたら。それは魔神のしわざ。そうおもわないか。何故。今、イギリス中が大騒ぎ。

*** 061304 今、村は厳戒体制、そこでまた殺人がおきる、おきたら魔物
過去に似た事件がないか。レポーターたちは血眼でさがしてる。それで。こんなぴりぴりした状況で、また犠牲になる女が。そうね。私は一人で夜道をあるかない。昨晩からティモシー・インの従業員室でねむってる。携帯も。警察への電話番号も。バーニー、電話番号は。しらん。笑い。君はバラバラ殺人事件があったのに部屋のドアをあけたままねむってた。だが女たちはそうじゃない。そこでまた殺人が。なら人間のしわざでない。すくなくとも、この村の女たちは人間の悪人には絶対に引っかからない。そう。署長登場。見当はついたか。この場の結論は人間でない。まだ。

*** 061305 もう殺人はないと署長、だが
情報は全部出そろった。これから。死体ばらまきの理由は。つかまえて当人にきく。じゃあ、もう誰も。そう村中を警官で。街道筋、これまでの現場の周囲も。これで安心だ。絶対に。そう。魔神でもか。そう。それでこそ、われらが警察。だから、ここに。そう。で、尻尾をだすのをまってる。刑事がパブに。また死体。サイナイ・スクールで。本当か。今度のはひどい。

** 061400 Bの書、1日深夜、学校
*** 061401 空に咆哮、学校へ、正門、校舎の玄関
サイナイ・スクールはネス湖を見おろす高台に。小・中・高校がおなじ敷地。空に暗雲。急に霧が。到着。おそろしい音。得体のしれない恐怖が天から。闇をおそろしい音が支配。ごうごうという音。振動。轟音はあきらかいに空から。とてつもない魔物の吼え声。魔神がほえてる。署長。インヴァネス署の警官。私。車外に。ネス湖にすむ魔神。上半身を水面に。ほえていた。ながく尾をひくような声。何と署長。門。ひくい植込みを左右にもつ小道。正面に建物の玄関。校舎にちかづく。先導役の警官がフラッシュ・ライト。空に。しかし何もない。校舎。2階建て。校舎の屋根。何と署長。前進。

*** 061402 三角屋根、大時計、人の陰、コニーか
建物は横にひろがる。正面に玄関、T字の構造。ギリシャ風の三角屋根、みじかい張り出しの棟。T字のつけ根に石柱をもった玄関。その上の煉瓦壁に大時計。そのさらに上、屋根のとんがり部分に誰か。人影は異様。あの屋根のと警官。そこに誰かいるかと署長。フラッシュ・ライトの光。不動。装飾か。屋根の飾りか。人の顔、あれは人間の。コニーでは。上空の轟音がとおざかる。しずまる。きえた。コニー。何と私。

*** 061403 今日昼には無事だった
彼女は昔、ここの教師。私は思いだした。昼、役場のホールでコニーはフェイのことをはなしてた。頭だけかと署長。扉。あかない。当直者は。今、きます。彼からの連絡で。老人が。屋根にでるには。こちらへ。私はしゃがみこんだ。署長。教授の声。

*** 061404 切り口はきれいでない、コニーの録音の声
頬に雪。私と署長は降雪の中、時計塔の大騒ぎをみてた。頭部だけだった。警官の声。切断面がきれいでない。額に「Y」。ナイフ。頭がグリシャム病院の解剖室に。給水タンクの中で足が。2本。タンクの屋根の上。教授が検分してると。腕が煙突の中。体はと署長。携帯をもって刑事が署長に。何。コニーの声。おそろしいものをみた。信じられない。犯人は。声はきえた。

** 061500 Bの書、2日昼、村役場
*** 061501 昨夜は降雪、女たちは戦々恐々
自宅。起床。外は積雪に降雪。村役場に。演台脇のドアから部屋に。署長が声。調子は。よくないと教授。表は雪。そう。雪は昨晩中ずっと。いったんやんでまた降雪。夜半にはやんだ。昨晩でたのは、頭部と、両手両足。そうと教授。胴体は。でない。ふうん。コニーは何をみたのか。沈黙。まだ女性がころされる。村の女性は皆んな携帯をだいてねると。刑事が自分の番号を大勢にきかれたと。リンダは一人ずまいの自宅にもどらない。事件解決までは。夜道を一人であるかないと。では何故コニーがころされたのか。魔神が犯人というなよバーニー。

*** 061502 サイナイ、キャノン、旧約聖書にゆかり
だがコニーをどうやって。そんな話しをするな。いや役にたてるかもと私。何をしってる。うん、その前に教授、夕べのコニーの死体の切断面は。ちぎられてた。筋肉がささくれて。脂肪もたれて。骨が露出。巨大な力。うん。怪物のような。そう。3人目。犠牲者は。バーニー、しってることを。これはサイナイ・スクールで。丘の上。つまりサイナイ山。へっ。モーゼが神と出あった山。十戒のモーゼか。そう、イスラエルの民をひきいてエジプトを脱出した。へえ。さらにこの村には城。廃虚が。名前は何だ。

*** 061503 キャノンは約束の地、カナンに対応、凶暴な神、ヤーハエのやったこと
キャノン。キャノン・キャッスル。ふうん。この村の旧名。それで。エジプトをでたモーゼひきいるイスラエル人は。われた紅海をわたって。カナンの地。ふむ。それは神がしめした約束の地。で、何。誰だがしらないが、もしこの一連の事件を人間業でないというなら。ふむ。ヤーハエ。ええっ。何だ。ユダヤ教の唯一神。凶暴な神。自分以外を神としてはならないとユダヤの民に要求。ふうん。くわしいのか。まあ、宗教学は昔。じゃあ、説明。英語流にいえばJehovah。ああ。ヘブライ語でYahweh(ヤーハエ)。ラテン語系でヤーハウェ。で、どこまではなせば。簡単に。また殺人があるかも。ないといったのに。

*** 061504 自分だけをしんじよと要求、しんじないエジプトの民を惨殺する神
いった。だがおきた。必要な部分を。これは人間のしわでない。そうか。ヤーハエとは何。昔、カナンの地に飢饉。イスラエルの民はエジプトに移動。肥沃な土地で繁栄。しかしふえすぎた。エジプト人が脅威を。皆んな奴隷に。ながい奴隷生活のあげくイスラエルの民に救世主が。

サイナイの山でもえる芝生の中から神の声。モーゼ。モーゼはイスラエルの民をひきいてエジプトを脱出。神がしめす土地に。しかしエジプトのファラオががゆるさない。そこにあらわれたのが凶暴なユダヤの神ヤーハエ。ナイルを血の川に。全エジプトの民をふるえあがらせた。ほう。

さらにおそろしい疫病をはやらせた。エジプトの民を病死させた。つづいてイナゴの大群。作物を全滅。真昼の空を闇でおおった。しかしファラオはゆるさない。そこでヤーハエはエジプトの全家庭にうまれた最初の男子をすべてころした。ようやくファラオはゆるした。紅海をわたりモーゼは約束の地に。彼はサイナイの山にのぼり神と対話。そして十戒をさずかった。それは。

自分以外を神として崇拝してはならない。偶像の崇拝を金じた。イスラエルの民は約束の地で平和裏に。だがおそろしいことも。ユダヤの民はバールという神も信仰。これはヤーハエの教えにそむく。ユダヤの民はもともと多神教。カナンを、ある年、干ばつ。ヤーハエを崇拝する預言者のエリヤがカルネル山の山頂に祭壇を2つ。それぞれ薪と生け贄。まずバールを信じる預言者たちが雨乞い。何事も。次にエリヤがヤーハエに。天から。生け贄の薪に点火。つづいてカナンの地を豪雨。天候をつかさどる神はヤーハエだった。その後エリヤはバールをしんじてた預言者たちを山にヤーハエの名のもとに惨殺。へええ。

*** 061505 この村を約束の地に見たてか、生け贄の儀式、ヤーハエ自身か
まるっきり殺人鬼。唯一神はこのように誕生。ジュイッシュはもともと多神教。おだやかな神を信じて奴隷的な境遇。そのためにヤーハエのような神をもとめた。荒々しすぎる。信仰にはそんな狂気の側面もと教授。つまりマクファーレンさん、この一連の事件は、この村を約束の地に見たてたものと。そう。キャノンとカナン。サイナイと・スクール。コニーの額のヤーハエの「Y」。

ヤーハエにささげられた生け贄の儀式か。それとヤーハエ自身がやったのかと教授。それはどんな。うう、わからないが。でもコニーのあの声は。どんなものをみたのか。うむ。それは彼女が予想してなかったものと私。成程。怪物では。だから魔神ヤーハエか。へええと署長。そう自分でも不思議な気が。ジュイッシュでも、信心ぶかくもないのに。ほう。でもここはスコットランド。わかる。でもどうやって人間の体を。怪力が。夕べのあの声は。サイナイの丘できいた大声はと署長。

*** 061506 魔神か、馬鹿な、でも不思議な暗合が
警官だらけ。女たちは緊張の極地。それでどうして連続殺人が。だからヤーハエか。できればいわないでおきたかった。ふうん。俺をクビにしたいか。否。いや、そう。ううん。やっぱり俺をアーヴィンズの皿洗いにしたい。と、教授。彼の意見は無視できない。

ぼくも不思議な暗合に気づいてる。ええ。不思議とおもうのだが、最初はボニー・ペニー。うん。イニシャルはB・P。彼女の頭部はくろいプードルと合体。B・PからB・Pに。2番目はフェイ・エマーソン。F・EはFire・Engine(消防車)の上。ふうん。3人目はコニー・タウンゼント、C・T。サイナイ・スクール。それともサイナイ、小学校(elementary・school)。いや、そうでない。Clock・Tower(時計台)。沈黙。被害者は女、年齢が60台。携帯の音。刑事がはなす。はい。胴体が。操車場。材木をつんだ貨物列車の上に。死体の上に雪がたっぷり。ではおいたのは昨夜ですね。グリシャムの操車場のD-4の引込線。体の上の雪をはらわないようにと教授。

* 070000 Bの書、犯行の暴露、遂行
** 070100 Rの書、2日、村、城、地下室
ロドニーがかき、バーニーがそれをまとめた部分。

*** 070101 またやってきた、ぼんやりとした記憶と退屈な村の姿
ぼくはこの3日間の行動がすこしも思いだせなかった。この記憶がぼくの生存にとって危険だったから。脳が思いださせない。脳が自己防衛してる。あのスウェーデンの教授がおしえてくれた言葉。クロスモダリティ。ことなる感覚領域によってえた感覚を統合する能力のこと。うまれつき全盲の人。成人後、角膜移植の手術により視力を獲得。こんな場合、盲人の時代に三角錐と円柱の違いを触覚と言語によって理解してた。ところが視覚をえて後、三角錐と円柱を目の前。両者を言いあてるのは至難。子犬と子猫もそう。目をとじて抱きあげ、これは猫だ犬だという。三角錐も目をとじて手でふれてから三角錐と。このように人間の感覚処理はふかい。システムが完全に切りかわるのに時間。

ぼくがティモシー村の小道をたどった時、全体が雪に。ぼくの気分は混乱。ここは42年ぶりで42年ぶりでない。昨日も、おとといも、ずっとここにいた。ぼんやりと霧がかかった頭で、この小道を何度も。ティモシーはぼくがしるキャノンによくにてる。でも両者はちがう。たとえれば、よくしるしたしい人がいて、その人の顔写真でつくった面をかぶって別人が目の前にきた時のよう。

ぼくは時に立ちどまり目をとじてみる。頭の中で2つの映画が上映。あたらしい映画とふるい映画。そっくりだが別の世界。キャノンとティモシーもちがってる。両者は別の場所。夜があけるたびに、ぼくはこんな感慨をもつ。このぼんやりした霧の中で怒りにあやつられさまざまな行為をした。思考はぼんやりした霧の中。行為は生々しい。記憶がぼくをくるしめる。行為がついにぼくの絵にあらわれるように。これい以上、絵をかくことは危険だった。

ぼくの気持をぼんやりさせる理由は、記憶が未来からのものだから。ぼくは複数の場所で複数の時間をいきている。記憶がくる場所が未来。と同時に今。1000年の未来、ほんの昨日。今をいきてるぼくの意識とちがう場所から風景はやってくる。経験が収納された箱の中からしか思い出はやってこない。だがぼくはちがう。これはヤーハエのため。ぼくがヤーハエと合体する時ヤーハエが未来に確定的におこなう行為はぼくの記憶になる。

ティモシーとの再会(?)は劇的でなかった。ぼんやりとし、退屈だ。未来からの風景が脳に飛来するあの感じ。それをいそいでカンバスにかく時の興奮。それにくらべると現実の村はたださむい。はやくこれを切りあげたい。あの幸せな仕事を再開したい。そればかりかんがえてた。雑多な記憶が拡散、かがやく砂金が思い出となる。未来からふいてきて、ぼくの思い出をつくる。

思いだすには技術と努力が。それがない。だから思いださない。昨日のことも。どこでも無感覚。今、踏みしめてるこの村は抜けがらだ。

*** 070102 キャノン城、抜け穴に
カノン城の前にたってもそう。もうここから引きだせるものがない。城の石積みの中に。中庭も首切りの丸石も。裏の墓地も。雪をかぶってる。石段をあがる。外壁の上の回廊。人間の足跡がない。村の上空に霧。緑の丘は、しろい雪の丘。倫敦塔をあがる。螺旋状の階段。頂上。眼下に霧をのせたネス湖。湖から城までつづくキャッスル・ロード。商店街の屋根。城全体も塔もこじんまりしてる。塔の屋上のスペースもせまかった。塔の上にあった瓦礫、小石もすくなかった。ぼくは塔に立ちつくして寒さにたえた。ぼくはぐずぐずと仕事をのばしてた。あそこにゆけと声がひびく。

塔の石段を。あちこちに鳩の巣が。まるで鳩のアパート。中庭。地下への入口。フラッシュ・ライトをつける。地下道。廊下。石の蓋。この石を押しこむ。入口からトンネルへ。中から石を元の位置に。暖気、臭気。四つんばい。汚れ。ズボンの膝が心配。10分間。ようやく横穴。

*** 070103 家の地下室に、机の中のノートを発見
コートをぬぐ。横穴に。子どもの頃とちがう。窮屈。ひたすら前進。10分間。行き止まり。天上をおす。すっかり昔のまま。この地下室はぼくがでた後、封印。上の家のキッチンの壁にあるドアは壁土で塗りこめた。だから上にすんでる家族は地下室の存在をしらない。室内に。20分の苦行。内部をてらす。臭い、湿気、埃。頭がぼんやりしてる。何故ここに、何を。机。引き出し。中に綺麗なノート。自分の筆跡が。物語が。ああ。いつもこんな感じだった。思いだした。今日は12月2日。もうすぐハヌカ、ぼくはジュイッシュ。

** 070200 Rの書、29日の行動
ロドニーがかきバーニーがそれをまとめた部分。

*** 070201 11月29日、ぼくはヤーハエをさがしてる、復讐をゆるしてもらう
ぼくはいつもヤーハエをさがしてる。ブナ の枯葉にひざまづきいのった。ふるい塔の上にたたち湖を見つめていのった。でも出あえない。約束の地にもどったカナン人はヤーハエをさがした。だがいなかった。

おあいしたい。ぼくの復讐心をきいてもらいたい。ぼくは追いつめられてる。ヤーハエの声がきこえたら、どこへでもゆく。ぼくはいのる。するとヤーハエがぼくと合体する。力がみなぎって正義を実現する。力がなければ、ガス室におくられ石鹸になる。たとえころされなくても世間から葬りさられる。皆んなぼくをモントローズの精神病院に閉じこめて、ぼくら親子のことを世間から抹殺したいのだ。だからぼくは復讐する。イスラエル人は定期的に復讐をしなくてはならない。

*** 070202 ボニーをころした
のぞんでうまれたこの世でない。低能ではない。人とはなしたくないだけ。空想の世界にいてヤーハエと対話したいだけ。だからばぼくはボニー・ペニーをころし、引きちぎった。ヤーハエと合体したから力がある。犬と合体させた。これで本当のビッチ(メス犬)だ。下品で詮索ずき。弱点ばかりを。それからぼくはボニーをクリスマスツリーに押しこんだ。それをながめた時、恍惚となった。ヤーハエがおしえてくれた。ボニー・ペニーとブラック・プードル。B・PとB・P。一緒になるべき運命。神の思し召しにかなう。

*** 070203 死体をバラまいた
ぼくを色情狂の母親からうまれた色情狂とののしった。ぼくは色情狂でない。そんな奴。胴体は豚の上に、両足は教会の礼拝堂入口脇の植込みの上、両手は天体望遠鏡の上においた。

*** 070204 11月30日、フェイをころした
信仰は一人のもの。大勢の中で宗教をおこした教祖なんていない。奥地の洞窟の中で孤独にたえ神と出あえる方法を発見した。神に出あうまでの過程の記録は後世にのこるだろう。ぼくは神をおいかけた。それはぼくほどしいたげられた人間はいないからだ。神にもとめられる人間は孤独でなければならない。ぼくは親も友、兄弟も親戚もいない。孤独だ。

今日、フェイ・エマーソンをころした。胴体を消防自動車の上、両足は虎に、両腕は飛行機に。フェイ・エマーソンと消防自動車も相性がよい。一緒になるべき運命だった。そうしたら、またぼくは神にあえた。神の声をきいた。

神と合体した。もうヤーハエだ。何だってできる。フェイはおしゃべりで噂話しが大好き。それも悪口。皆んなと一緒になってぼくの悪口言いふらした。

*** 070205 12月1日、コニーをころした
ぼくが女をころし復讐するとヤーハエがあらわれてくださる。一切を記録したこのノートは聖なる書だ。生け贄の血によって神はょろこばれ、ぼく自身はたかめられる。欧州のカトリック教会も中世に。魔女たちをころし、その血で聖職者は地位をたかめ世の平和をたもった。今日はコニーをころした。彼女こそ罪がおもい。教育者が、その特権をつかって子どもの精神を傷つけた。モスレムのラマダンの、この時期、罪ぶかい。だがユダヤ教徒である。モスレムでない。それにこの時期、神が人間たちをゆるす。ぼくもまた罪ぶかい女どもを抹殺し、その魂をゆるしてやる。残念なことだがころせば、もう二度と存在しなくなる。一度ちぎった体はもう二度とくっつくことがない。どこかで手にいれなくては。彼女はぼくをのろまな大型哺乳動物みたいにいって子どもたちの笑いのタネにした。到底ゆるせない。

一体、ぼくや母が何をしたのか。皆んなよろこんでた。被害をこうむったのは自分たちだけだ。ぼくはクラスで一番作文が上手だった。ほめてくれなかったばかりか、とうとう作文の授業をやめてしまった。だから学校の玄関の時計台の屋根に突きさした。登校してくる生徒たちからも教師たちからもみえるょうに。ヤーハエがやったとわかるように。ヘブライ語のYの頭文字を額に。時計台とコニー・タウンゼントもC・TとC・T。相性がよい。神があたえられたこと。

*** 070206 体をバラまいた
両足はタンクのハッチに。両腕は煙突の中。胴体は貨物列車の材木運搬車に。彼女の胴体は村の周囲をめぐって、皆んなの目にさらされる。こんなぼくをしれば村の皆んなは森をさまよう冷血漢というだろう。だが神性とはそういうもの。正義と狂気。道徳と破壊が隣りあわせになってる。それが信仰だ。キリスト教も無実の人たちを弾圧、拷問、ころした。そうでなければ民の心をよわせることができない。

エジプト人の奴隷にされたイスラエルの民は、それまで自分たちの神、エルでは力不足を感じてた。より力のある神、ヤーハエをもとめた。ヤーハエは奴隷をまもりエジプト脱出を可能にした。ヤーハエはイスラエルの民には守護神。でもエジプトの民には冷血の災い。最悪の悪魔。ヒトラー以上だ。ぼくは皆んな本でよんだ。

ヤーハエは血に耐性がある。体を引きさかれたエジプト人をみて何も感じない。そればかりか血をみて感動する。たとえ子どもであっても。嫉妬ぶかく怒りっぽく自分以外の者を神とすることを禁じた。違反者はころした。今の神が寛大なのは神性と若さをうしなったから。今のユダヤの神はもう抜けがらだ。そんなのは崇拝しない。だからぼくのこれもヤーハエの裁き。ぼくはそいう神の意志をきいて、その命を実行してる。

*** 070207 12月2日、ペギーをころした
神はスコットランドのはずれのこの地にもおられる。ぼくは今日、ペギー・カーターをころした。両腕、両足を引きちぎり、頭を胴体から引きちぎった。頭を柱時計の裏蓋をあけ、振り子ケースにいれた。P・CとP・C。そしたら神があらわれた。ペギーが一番ひどいかも。ぼくら親子からの被害はなかった。母はペギーと無関係。それどころか沢山の買い物をした。

*** 070208 体をバラまいた
ペギーは村一番の金持ちのカーターさんと結婚した。老人だった。死後、店を3軒経営。それは淫売そのもののやり方だ。ぼくが家の前をとおる時、ドアをばたんとしめたり、女同士の集まりでぼくを肴にして嘲笑した。あの女がスウェーデンで淫売だったことを、ぼくはしってる。それをしられたくないから、母をうらみ嘲笑する女たちの集まりにはいり、嘲笑し仲間としての忠誠心をしめした。ペギーの胴体は船にのせ、両足は象にのせた。両腕はバスにいれた。

*** 070209 12月5日、リンダをころした
もう破壊にあきた。でもころすべき女がまだ一人。リンダ・スワンソン。何もせず、ただころした。リンドバーグ広場の中央に放置した。もちろんL・Sだから。

** 070300 Rの書、2日
ロドニーがかきバーニーがそれをまとめた部分。

*** 070301 ぼくは未来の記憶をこのノートにしるす
ぼくはすべてを自覚した。何故絵をかくのか。何故未来の記憶があるのか。ぼんやりした記憶の中でぼくは人を大勢ころした。でも自覚が鮮明でなかった。記憶は濃霧の森をさまよってるようだったが、殺害の感触は鮮明だ。けれど、もうはっきりした。すっかり思いだした。ぼくは殺人者だ。このノートもぼくの画想とおなじ。未来からやってきた。これが今までわからなかったから話しに辻褄があわなかった。ぼく自身が未来からきたのだ。行為した事実を未来においてその記憶だけをもって、ぼくはこの過去世界にやってきた。このノートがその証拠だ。

*** 070302 警察に逮捕された、12月2日午後4時40分
ぼくの筆跡。かいた時の記憶。かかれていることは事実だ。やった記憶が鮮明。復讐をはたした時の快感。これは未来にぼくがかいた。それが今ここにやってきた。過去にきたぼくをおってノートもここにきた。しばらく放心したが、ノートを引き出しに。また溝に。金属板をしめ、せまいトンネルを。ひろいトンネルに。コートをきて四つんばい。出口に到着。石をうごがし城の地下道に。石をうごかし蓋を。フラッシュ・ライトをコートのポケットに。地下道。中庭。もう夕刻が。雪はふってない。城をでようとすると大勢の警察官がやってきた。失礼。われわれは非常警戒中。村の人でないですね。そう。では署まで。ここでは。いや。警官の一人が12月2日、午後4時40分といった。

** 070400 Bの書、3日夕
*** 070401 警官が城、湖をパトロール
3日の夕、インヴァネス署の警官がポリスカーでキャノン城をパトロール。霧。ネス湖がみえない。昨日から今日一日、雪はふらず。1階の回廊、城の地下道に。倫敦塔に。眺望はなし。中庭から裏の墓地に。一人の男の足跡がのこる。墓石の間にカラス。何かをつっついてる。警官がちかづく。紐がみえた。引きあげた。網だった。捕虫網のようなもの。すてた。中庭にもどりかんがえた。魚のネットか。城をでて城壁にそって迂回、坂道をくだる。湖面にそった道をあるく。冷気をふるわせ異様な声。動物がほえるような声。湖面に目を。伝説のネッシーか。湖面か。しばらくかんがえてパトカーに。桟橋。船着き場。ボートが4艘。ボートの中にくろいもの。丸みをおびた視覚い荷物。しかし表面は女性の夜着か。一人の警官がその場を監視。もう一人が車に。

*** 070402 ボートで胴体を発見
私と教授。村役場の本部。雪が舞いはじめた。二人は事件の法則性の話し。全員が村出身で村の外でくらした経験がない女性と。携帯の音。胴体がでた。ボートの中、キャノンの桟橋。で、誰。わからない。女もの、くろいロウブ。手足も頭も。ない。何の音。ネッシーだって。体かと教授。そう。サテン地のロウブだって。署長に連絡した。また携帯音。やあ、リンダ。ペギーの姿がみえない。アーヴィンと君が彼女の家に。そう。

*** 070403 ペギーか
教授の声。携帯で。ミタライです。君は何故ペギーの家に。何故ペギーだけが気になった。しばらくはなす。ボニー、フェイ、コニー、そしてペギー。彼女たちは何かの糸でつながってないか。どんなかすかなものでも。また間違っていても。思いつきでも。了解。その話しを後で。連絡する。

ここの刑事が署長と桟橋に。遺体を回収。自分は病院に。検死の準備を。あれはペギーーかと私。まあ。刑事がでてゆく。やはり連鎖があった。無差別殺人ではなかった。へえ。ああ、ちがう。たぶんリンダが。はっきりするだろう。誰かが。ペギーも60代です。

** 070500 Bの書、3日夜、グリシャム病院
*** 070501 死亡推定時刻、体の特徴は
私と教授。病院に。教授は解剖室。私はカウチ(椅子)でかんがえる。署長は顔をみせなかった。どうしたのか。そこに署長の声。病院の廊下。刑事、リンダ、アーヴィン。何をしてたと私。さあ。そこに教授。あれは。誰かわからない。

特徴をあげることは。だがまず死亡推定時刻。成程。12月3日、つまり今朝、深夜の午前1時前後。もっとはやくは。どのくらい。2日の夕方とか。いや。午後8時より以前は。絶対。絶対。つまり日没後ということ。そう。リンダがきく。特徴といわれた。どんなこと。彼女としたしかった。はい。私以外には親友はいなかったとおもう。彼女がかくしたかったことかも。彼女の名誉にかかわること。

*** 070502 整形してた、ペギーはスウェーデンで女優
かも。私は秘密をまもれます。あれがペギーなら村でしたしい友人は。皆んなうしなう。ではペギーかどうかしりたくない。いえ、しる必要が。そうなら私は自分の身をまもる必要が。どこかとおくににげるか。それとも皆んなと片時もはなれないようにするか。こっちがいいと署長。では申しあげる。ただしここだけの秘密と教授。それはインプラント。へえ。あの死体の乳房にはプラスチックが。豊胸手術を。心当たりは。わかりません。でも彼女はスウェーデンでは女優を。だから。有名だったのか。ええ。ここにきてからも、たまに帰国。

*** 070503 スコットランド人
あなたがほかにしってることは。いえ。血液型は。いえ。年齢は。67歳に。えっ、そんなに。引っぱてたの。しわとり。ああ。彼女の死因は。毒物はでない。ふむ。ともかく心臓がとまったということ。ペギーはスウェーデン人。いえ。人種的にはスコティッシュ。スウェーデン人の血がはいってるって。スコティッシュか。はじめてきいた。次なる捜査はカーターさんのお宅。リンダ、アーヴィンも。

** 070600 Bの書、3日夜、ペギーの自宅
*** 070601 自宅に警察ほかが
署長、私、教授、リンダ、アーヴィン、警官たち。大空からあの異様な声。ゲートの煉瓦柱。インターホンを。返答はない。こんなおおきな家に一人でと教授。はい。金属扉を。この扉は向こう側に金属板。鉄骨のすき間からみえない。乗りこえ中からあけて。庭内に。足跡に注意。フラッシュ・ライト。建物は木造。足跡に注意と署長。中央に植込み。彫刻がひとつ。四輪駆動車。犬か猫の足跡と私。

*** 070602 門、玄関、ホール、階段脇に振り子時計
処女雪の上をすすむ。玄関に。呼び鈴。リンダ、中にはいる方法をしらないか。いや。鍵しかないな。どこにある。窓をしらべる。明かりがきえ車がある。ガラスをやぶれ。依然、大空には魔神の声。扉がひらいた。玄関ホール。正面に階段。観葉植物。大理石の彫刻。床置き式の振り子時計。署長が呼びかける。返事がない。スイッチ。ブルーのカーペット。

*** 070603 1階、2階、地下、見あたらない
綺麗なブルー。いれたばかり。スウェーデンの国旗の色にとペギーが。成程。署長は2階に、教授は1階の各部屋。署長、教授がもどってきた。どこにも。カーターさんは。地下室もみた。2階もいない。今この家にいないのはおかしい。旅行にいくなら、ことわって。もう夜もふけた。こんな事件が進行中に旅行はない。この事件は無差別連続殺人でない。どこかに関連があるはずと教授。

*** 070604 連続殺人の関連をリンダにきく、貴重な美術品
それをしってるのは君だけかもとリンダに。へえ。どういう意味。さあ。たぶんあなたがかんがえてる意味で。このホールの装飾品は配置がおかしいと教授。 ガラスの陳列ケースが引っこみすぎて中が見にくい。中身はガラクタ。みせたくないものはない。アフガン人とスイス人にはかくしたほうが。へえ。観葉植物、整列してない。これからやろうとしてたよう。さっきの国のこと、意味は。ペギーに東洋美術品の趣味は。すきだとか。へえ、そんなレベルかな。この小石に価値が。すきな人には。これがアフガニスタンからきた。間違いない。この石はメダリオン、ギリシャのコインの鋳造につかわれた。たかい。この家が2軒かえるくらい。へえ。寝室の仏礼拝図のレリーフ。3世紀のクシャン王朝のもの。

*** 070605 壁に血の手形、絨毯に人の形の窪みを発見
ベグラムの象牙細工も。両方ともインドの仏教美術。クシャン王朝のものはよくしられてる。人にみせないほうが。たかい。モスレムにとては石ころ以下。信仰心のあついモスレムはすてる。偶像崇拝だから。どうしてここに。真面目なモスレムが大勢いたということ。たかい。たかいだろう。値段がつけられないほど。ええっ。冗談でしょう。それが一般市民の家にあると署長。なら国宝。国の美術館がだすはずない。そう、これはおかしい。こんな位置にあるはずない。ガラスケースに。ちょっと手をかして。前方に。やあ、こんなところに。おおっ。背後に茶色い手形。ケースでかくしてたのか。血の手形のよう。教授がカーペットに腹這い。やはり。あそこに人の形が。あのあたりに誰かがたおれてた。カーペットが真新しいからわかった。壁際に浮かびあがってた。

*** 070606 絨毯に黄色のダヴィデの星が浮かびあがる
これは何。立ちあがり、人形(ひとがた)のほうにいった教授が。絨毯の上にかすかに黄色の線でちいさな図形。星のマークのよう。ダビデの星。ジュイッシュのマーク。イスラエルの国旗でもある。だがゆがんでる。くるしい中でかいたのだろうと教授。人形の頭のあたり。そう。ダイイング・メッセージと。

*** 070607 ダイイング・メッセージ、犯人は
へええ。カーターさんは探偵小説のファンと教授。それは犯人をしめすためのもの。うむ。つまり犯人はジュイッシュと。ペギーが、いや、ここにたおれてた人が。そういうことになると教授。ジュイッシュがいるか。この村に。いないとおもうとアーヴィン。リンダも同意。ペギーもスコットランド人。一人いる。誰。ヤーハエだと私。誰。ジュイッシュの神。さっきもほえてた。おお、もうやんだみたいだが。その話しはもういいと署長。だがよくかけたものだな。これは複雑。いやかける。よほどの怨みが。あるいはよほどおどろいたかと教授。

*** 070608 黄色は化粧道具から
それでなんとかしらせたかった。彼女はとんでもないものをみた。怪物をみたのか。私は同意。それ以外ないだろう。ペギーがかいたなら、この黄色は何かしら。これでは。教授が長方形のものを。あっ。裏蓋にカラー・アソート・レインボー。ペギーのものか。はい。指紋はなかった。ふきとってあったのか。そう。これは何。化粧道具よ。へえ。こんなに。女優なら。先生、どこでこれを。さっきいえなかったが死体のロウブから。おお。

*** 070609 何故、黄色、状況の不自然さが気になる
黄色がすくなくなってる。たぶん直接指で。どうして黄色。白のほうが目だつのに。それとも黒だ。たまたまだろうと教授。私には疑問が。

犯人の行為。ペギーはここでころされた。血がないから絞殺あたり。そしてここにたおれた。で、死因はとんでもないのをみた。そのショック死か。コニーとおなじ。で、コニーの死因は。ともかく。ペギーは死ぬまでに時間が。くわえて犯人はしばらくペギーの前からきえてた。でないとペギーにこんな作業は。その間にこの図形を。ここまではいい。

問題はその先。ペギーの死体は切断されてた。とすると、犯人はこの図形をかいて、こときれたペギーの体をここからどこかに。それから切断した。そうすれば犯人もこの図形をみたはず。図形をかきおわってペギーはケースをポケットに。そうなら犯人がポケットの中を見のがした。そんなことがあるか。図形とケースもカーペットの上にころがってた。あるいはペギーが手にもってた。この可能性のほうがたかい。

いや、わすれてた。教授は今、指紋がふかれてたといった。犯人がやったといこと。なら犯人がわざわざこの化粧品のケースをひろってペギーのロウブにいれた。何故だ。何故、ケースをすてなかったのか。

犯人が図形をみた。これはけせないと判断。こっちは放置。これはあり得る。だがケースをわざわざひろっていれるか。それでは証拠品を警察にわたすようなもの。ケースがあったからペギーがかいたとなった。なかったら工事人の悪戯がきと。声。中断。ともかく犯人は神でない。時には間違う。

*** 070610 死体はどこ、P・Cがヒント
死体はペギーとしたら、彼女の体はどこに。捜しだす方法はある。体はボートの中。しかしこれはちがう。何。これまで発見場所は被害者のイニシャルと一致。P・C。ペンシル・ケース。死体ははいらない。ペット・セメタリー(動物墓地)。うむ、どこに。ない。ピクチャー・カード。死体ははいらない。プレス・カンファレンス。ピッチャー、パーソナル、ポリス・カー。ポピュラー、パブリック、パンチ、パープル。言葉遊びのよう。パイプ、ペーパー、サイコ、パーティ、ペグ、パラソル、ペガサス。警官の一人が背中に羽根はえた女神像をさす。いや、あれはニケのヴィーナス。ピーナッツ、ピーチ、パンドラ、パッケージ、パフューム。Cはどう。キャビネット、コンピュータ、キャンドル、ケージ、カメラ、カーゴ、キャッスル。キャッスルは。Pがつかない。キャビネット、パーソナル・キャビネットだと教授。さっきの寝室。1階の廊下。ドア。

*** 070611 振り子時計か
スイッチ。小型、観音開き。あけた。棚。いくつかの石造の首。ない。引き出し。戸棚、扉。皆んなあけた。ない。壁面に作り付けの大扉。あけた。折り畳み式の扉。あと半分の扉。服の収納庫だろう。棚。仏の像。石のレリーフ。美術品。ない。と、ペンジュラム・クロック(振り子時計)だとアーヴィン。玄関ホール。時計の針が11時すぎをさしてとまってた。文字盤の下にガラスのケース。植物の鉢でみえない。どけた。ペギーの顔。

** 070700 Bの書、3日深夜、ペギーの自宅
*** 070701 首、綺麗な切断面、リンダが秘密を
一つ妙なこと。死体の切断面が綺麗。斧のような刃物らしい。また教授が東洋の美術品のことを。貴重なものであれば注意、警告すべき。だが何もなかった。軽口だったのか。

私、リンダ、アーヴィン、教授は玄関ホールの右のゲスト・ルームに。教授はリンダとはなしこむ。仲のよい4人がころされた。境遇がにてる。ペギーをのぞいておなじ村の出身。都会的な感性。こういう女性はあなたたちだけ。このグループで生きのこてるのが君だけ。わるいが君の命もあぶない。自分の安全のためにもはなしてほしい。君たちのつながりには何か。今回の事件の説明になる。ミッシング・リンク。そう。大勢の人の前ではなすのはとリンダ。とっさの時に助けが必要。皆んなが事情を心得てたほうほうが。敵が誰かわかる。ようやくすこしずつ。内容は以下のよう。昔、この村に一時的にラーヒムという母子が。イスラエルからながれてきた。ユダヤ教徒。

*** 070702 イスラエルからナオミとロドニーの母子が、売春宿、酒場、女たちは恋人をなくした
ナオミという母親もロドニーという子どもも問題が。二人がくるまで平和な村。城のちかくのちいさな家を購入。この家は売春窟だった。若い男たちが身をもちくずした。自分の婚約者も。さらにナオミはいかがわしい酒場を経営。若い男を篭絡。ボニー、フェイ、コニー、自分たちは恋人をうばわれた。フェイ・エマーソンは別の男を見つけたが、他はできなかった。ずっと独身をとおした。

ペギーは直接の被害がなかったが、不快とおもってた。だから団体行動をとった。彼女は動揺しなかった。この息子だが、何をかんがえてるのか不気味な存在。いつも一人であそんでた。小学校の高学年になって自転車で村を徘徊。家の中を覗きみた。またとんでもない高額の玩具を購入した。他の子どもに悪影響、教育にわるい。われわれがうっえてもナオはまったく受けつけなかった。その後、息子が学校のウサギをころした。頭、手足を放置してこわがらせた。ウサギはとうとういなくなった。次に、ネズミ、鳩、昆虫と。あちこちにバラまいてこわがらせた。この地方に昔、キャビングという異常者が。

*** 070703 ロドニーの異常行動、殺人淫楽症か、村にもどってくると噂
屋敷にまねいてころし、死体をバラバラに。各部分を串刺し。庭にならべたという。また家の中にはガラス瓶にはいった敵兵の首が保存。自慢のタネとして客にみせた。しんだ妻の首も保存。お気にいりの召使の首も。殺人淫楽症だった。ついに村人は王の承認をえて屋敷をおそった。キャビングは放火し自死。この息子をキャビングの生まれかわりと噂。ロドニーもあきらかに殺害をたのしんでる。母親が自殺したのを契機に彼をモントローズの障害児童施設へと。親子は天涯孤独。でも、しばらく校長先生の家に。やはり手をやいて結局、収容施設に。これはもう40年前の話し。彼はやがて退院、ロンドンにいったという。心配してたが、それが的中したということ。

こんなことができるとしたらロドニー以外にない。逆怨みによる復讐。これは私、アーヴィンには初耳。本当よ。私はまだうまれるかどうかの頃。当時、親子がすんでた家はと教授。まだある。案内できる。もちろん。様子がかわってます。どんなふうに。売春宿、首吊りの現場。不動産屋が手入れ。内装工事。間取りはかえてない。壁をうごかしてホールをなくした。首をつった地下室は扉ごと壁に塗りこめ。かわってないのは外観。石積みだから。今はマンチェスターから引こしたモリソンとい会社員の夫婦が。

*** 070704 母子の家は現存、足がでた
彼らはこの事情をしらないだろう。あなたはこの息子の仕業とと教授。はい。ユダヤ教の神でなければ、犠牲者の顔ぶれから、ほかに。でもよくおぼえてたもの。42年も前。その時、廊下をはしる音。足がでたらしい。どこに。この家の裏庭に面した壁の前。ちょっとした張り出し屋根が。ために雪がない土の上。特徴は。ある。どうなってたとおもう。ううん。象にのってた。へえ。ペギーのハウス・オブ・ジュエラーズから木彫の象がぬすまれてた。ああ。象の背に。どういう意味。わからない。リンダ、君の考えは。ロドニーです。彼は死体の一部を放置したから。

*** 070705 両腕も
熊の人形にものせてたから。両腕も。どこで。バスの中。グリシャムのバス・ターミナルにとまってたバスの一台。そして右手の人差し指に顔料が。その切断面はどう。割合、綺麗。どうした理由。さあね。怪力のヤーハエも斧をつかえば簡単と気づいた。だがずいぶんこっちを馬鹿にした話し。

** 070800 Rの書、3日、留置場
ロドニーがかきバーニーがそれをまとめた部分。

*** 070801 ロドニーの指紋、犯行時間が矛盾する
ぼくの右手から採取した指紋をみながら署長はこれがペギー殺しの現場からでたとという。つまりぼく、ロドニー・ラーヒムが犯人だ。しかしペギーのものとおもわれる胴体 は12月3日の午前1時前後に殺害と署長。胃の内容物からいえる。この胴体とペギーの頭部とはよくくつながる。頸部の切り口の形状と一致。血液型、皮膚の組織も胴体と共通する。署長はさらに教授が今、犯人の指紋、殺害の方法を調査中というが。

これが意味するところは、
1) ペギーーは12月3日の午前1時前後にころされた。
2) 死因は絞殺の疑いが濃厚
3) 指紋の件を突きあわせれば3日の午前1時前後にぼくがペギーをペギーの家でころした。
4) だがぼくは2日の夕方5時からずっとグリシャム署の留置場にいた。
5) だからこの時刻にペギーをころすことはできない。
6) だらら犯人ではない。

そういって署長こまっていた。ぼくはこまってない。あのノートは未来からきた。警察官にそういってないがぼくはころしてる。これで確認きた。あのノートにころしたことがかかれてる。だから確実だ。間違いなくころした。しかし、この世界ではない。時間がちがう、おなじ村でだ。

ぼくは未来のキャノンでペギーをころしてる。ペギーだけでない。ボニーもフェイもコニーも。リンダもだ。性悪の女たちへの当然の報いだ。ころすことが神の願望を実現すること。それがぼくの人生だ。ぼくが地下のャノンで性悪の女たちをころす。するとぼくの手足は歯車やベルトをかいしてヤーハエの巨大な手足につながる。それが増幅され地上のティモシーでまたおなじことをする。あの性悪の女たちの体を引きちぎる。ぼくは偉大だ。イスラエルの神は偉大だ。

署長はダビデの星をかいてしめした。これがわかるか。はい、それはジュイッシュのシンボルか。はい。君はジュイッシュか。はい。署長はおおきく溜息をついた。

** 070900 Bの書、4日朝9時半、
*** 070901 病院で教授に謎の手紙が
病院。教授と刑事。解剖室、分析室。そこに警官。封筒を。病院の玄関で女の子が教授にと。え、女の子と教授。10歳くらい。この先の道でしらない大人からたのまれた。封筒の表にミタライ教授と。30歳くらいの男。ふうん。背のたかい男が病院にいるミタライという男に。名指しか。何故、ぼくに。さあ。了解、あとで。昨夜はずっとここに。そう。この部屋に彼と。今から仮眠室でひと眠り。化粧品の筆から指紋は。でた。ペギーの。ではあの図形はやはりペギー自身が。そう。警官がさる。

*** 070902 署長から、リンダが殺害と連絡
ベッドサイドの電話の音。元気か。誰。お前もよんだほうがよいとおもって。署長。おおい。今おきたばかり。ちょっと心配に。へえ。バラバラになったと。ああ。何時だ。12月4日の午前10時15分前。大変だ。ええ。すぐこっちに。ころされた。誰か。リンダ。リンドバーグ・スクウェア。ティモシー・インの裏。広場の中央にたおれてた。すぐ病院に収容する。すぐ表に。濃霧。はしる。リンドバーグ・スクウェアというのは四方向からきた道が縦長の広場で合流した場所。

*** 070903 現場の状況
広場に人だかり。署長、アーヴィンの後ろ姿。ヘイ、バーニー。リンダは担架で車に。体を切断されてなかった。だが奇怪千万。何が。こっち。レンガをつんだ花壇の囲いの上に。みろ。足跡がない。担架往復の足跡、この一筋は今朝自分がつけたもの。たまたま今朝、リンダを発見した。あっちの一筋がリンダ。彼女を発見した時。これだけ、ほかにない。足跡は往復でない。やってきてるだけ。へえ。連れの足跡はない。雪は夕べ3時から今朝の5時まで。そこにただ一筋だけ。

*** 070904 リンダ・スワンソン(L・B)とリンドバーグ・スクウェア(L・S)
その時、魔神の溜め息みたいな音。またあの不気味な吼え声も。リンダは刺殺では。絞殺。ええっ。まだ首に紐が巻きついてた。索条痕がのこり、喉骨がおれてた。即死。あるけるような状態じゃない。ええっ。異様な怪力。でも犯人の足跡がない。そう。私は気づいた。リンドバーグとリンドバーグ・スクウェア。L・SとL・S。

*** 070905 インヴァネスの病院に搬送
教授が何かつかんでくれるかも。いやグリシャムでないインヴァネスの王立病院。何故。リンダにはもう一つおかしなことが。車が霧の中にきえた。何。顔をにあかい湿疹、ちさな水疱がいっぱい。悪質な伝染病の疑い。専門の対処ができるおおきな病院にいれて隔離。水疱。そう。リンダ。そう。おかしなことだらけ。お手あげと署長。これは何だ。どうおもう。旧約聖書の中の話しか。ああ。これからどうすると私。まず朝食。ティモシ・インで。俺はお断り。絶望的な気持に。教授に連絡、もうすぐここにという。

** 071000 Bの書、4日、教授の提案
*** 071001 難問にお手上げ、教授が提案、モリソン家に
リンドバーグ・スクウェアに教授が。人波はひいてたが、空にはまだ魔神の咆哮が 。リンダの着衣に弾痕はと教授。ない。ふうん。何か。いやちょっとリンダのことをね。さっきわれわれは、これから先のことを相談。ふむ。この馬鹿げた騒ぎに決着。できないまでも。何。君はこの連続殺人に解決はいらないと。今、空にあるこの声は何。誰がこんな大勢の人間を。ここはちいさな村。よそ者はすぐわかる。どこで誰がこんなことをと私。ふむ。解決はほしいが。署長は沈黙。悪魔に魂をうっても。酒はどうだと署長。何。お前の断酒と引きかえに解決をおしえるという取引。この問題は保留にして。で。先生はこれを解決できますか。できる。へえ。これは城のちかくにすむモリソンさんの家にある。誰。ああ、夕べ、リンダがいってた。昔、売春宿だったという。そう、そこにいけば。でも様子がかわってる。40年前の昔と。封印された地下室がある。

まず腹ごしらえを。ご自由に。私はいい。モリソンさんの家はわかりますか。それはすぐに。では、お願いする。城壁の前で、1時間後に。夫妻にいって、壁を一カ所こわす許可をとって。事件の解決に必要。それからコード、ランプなども。

*** 071002 教授の説明に疑問を
ホースつきヴァキュームも。へえ。封印さたモリソン家の地下におりる。積年の土埃を吸いだす。ヘルメットや防塵マスクも。では。先生は。一人になってリンダのことをかんがえる。先生、一つ教えて。何。ペギーの玄関ホールの壁にのこってた血の手形、あれは。ペギー・カーターのもの。

食事だが、私は考えこんんだ。署長らとわかれ湖畔の道に。サイナイ・スクールの丘ではじめてこの声をきいた時は恐怖を。だが今はなれた。教授のいうことを私は信じてない。一つ心に引っかかるもの。あの血の手形が何故壁にあったのか。ペギーは刺殺、惨殺。なら、わかる。大量の出血。しかし絞殺。一滴の血も。犯人の手に血がついた。とすると彼女の死体を切断した。その時。ならそれは浴室か表のどこか。だったらその場所。玄関ホールでない。別の場所でついた血をわざわざ壁に。おかしい。

*** 071003 私はさまざまな疑問を
すると、あれは犯人の作為。なんのため。ここに死体があったと捜査陣にしめすため。では何故、わからない。もう一つ。

犯人を推定のため。こんなことかんがえた。村の皆んなのアリバイ・チェック。まず犠牲者たちの死亡推定時間帯を書きだす。そこにアリバイのない人物を書きこむ。でも、これは無理。リンダを別にして、ほかは深夜。こんな時間はベッドの中。当人に利害関係のない第三者の前に姿をみせない。思いはひろがるが結論がでなかった。

** 071100 Bの書、4日、モリソン家で発見
*** 071101 地下への壁穴をさがす、斧で穴を
モリソン家の玄関。警察の車。警官。署長。私は居間に。たぶんモリソン夫人。アーヴィン。教授は家中の壁を叩いてまわってた。教授、わかる。どこをこわせばいいか。簡単、あの壁の向こう側は表だ。この壁の反対側は隣室。境目のドアのところにたち、隣室に首を突っこむ。そしていう。向こう側がつかわれていない空間をもつ壁だ。ここも一見そう。だが隣室のクローゼットにつかわれてる。おなじくトイレの空間も駄目。こんな消去法で。教授は一カ所でとまった。音がかわる。あきらかに空間が。ここと斧をもった刑事。そう。ひどいなとおもわず私がいった。いやわれわれは夫人にもう一部屋プレゼントすると。穴があいた。風。もう一人も斧。おおきな穴。フラッシュ・ライト。茶色の石段。

*** 071102 地下室を発見
ヴァキューム。ヘルメットの2人。もどってきた男。下にまた壁。たぶんドアが。また斧。照明。やがて作業おわり。教授が下に。OKの声。こわされたドア。浴室程度の広さ。隅に小型のデスク。私、アーヴィン、署長。刑事、教授。ロドニーのくらしてた部屋。この梁で母親が首をつった。

*** 071103 ロドニーの部屋、城につづく地下道
より正確には母親が上で客をとると地下室においやられ、そこですごした。彼の真実の暮らしがここにあった。ふうん。今回の一連の事件の間も彼はここに。この部屋にこもり仕事をこなした。秘密のアジト。ほう。どうやって。皆さんそうおもうかもしれない。ここをつかった。

私にちかづき、かかんでスリットのはいった金属板を持ちあげた。この下に溝が。せまいトンネル。キャノン城建設当時に付属物としてつくられた。この家にとっては下水溝。城にとっては脱出口。これは城の地下につうじてる。蓋をもとに。デスク脇に。つまりロドニーは、外から城、トンネル、ここへと。彼はここに入りこみ計画のアジトとしてつかってた。

何の計画。村に舞いもどってたのか。計画とはここ数日みてきた一連のもの。理由は昨晩リンダがはなしてたこと。復讐だと。そう。母親はここでしんだ。自殺か他殺か、もう不明。ロドニーはこの村の民の総意によってモントローズの精神病院に押しこめられた。と彼はかんがえた。以降23年間、幽閉生活。その間、彼の精神にそだったのは復讐心。村への怨みはきえることがない。それが彼の精密画になった。彼はロンドンでこの村の絵をかいて有名になった。そこには復讐心があった。

*** 071104 怨み、復讐心、記憶により精密画をかいた、ロドニーは0711 逃走、だが証拠があると、机の中に日記
彼の驚異的な記憶力、記銘力はこの復讐心に起因。そして今、彼は時をえた。成長し有名に。母を追いつめ、ころした者たちは60代、老境た。彼は有名、経済力、行動力。かわらぬ復讐心。最良の時がおとづれた。ではロドニーが。では、つかまえなくちゃ。もうとっくににげてると教授。ええ、では証拠を、ここにあるのか。ある。かならず。アーヴィンが引き出しを。あっ。一冊のノート。日記だ。よんでみたまえと教授。11月29日、日付がかわっばかりの深夜、アーヴィンズがえりのボニー・ペニーを絞殺。ティモシー・インの自転車にのり城にはこんだ。そして倫敦塔に運びあげ斧で首筋や両腕のつけ根を傷つけ...。何。教授がノートをとり、よむ。馬鹿な。大声。

*** 071105 犯行の記述に教授が激昂、制止され、読みつづける、ボニーの犯行の詳述
ノートを引きさこうとした。警官たちがとめた。君、つづけてよんでと警官の一人が。で、私がよむことに。それら首の部分と両手首にロープを。岩を結びつける。両足首にもロープ。これは塔の壁にむすぶ。そしてボニーをおとした。足首のロープが伸びきった瞬間、岩の重みで両腕と首がちぎれておちた。また引きあげ。胴体と足だけになった体を、今度は足のつけ根に斧で切りこみをいれ、次に胴体に別の岩を。もう一度おとす。両足だけのこし、胴体もちぎれておちた。

両足をもち斧は地下のトンネルにかくし、城壁の下に。バラバラになったボニーを拾いあつめ袋に。これをかついで自転車にのり精肉工場にまわって、まず服をはいだ胴体を冷凍庫の豚の上に。つづいて教会に。今度は両足を礼拝堂脇の花壇の土に。死体の配達だ。ティモシー・インの自室にもどり両手は天体望遠鏡をいれたスポーツ・バッグにいれヴェランダに。首はあらかじめころして用意したペギーのプードルの体に。29日夜になったら自室のヴェランダからヒラギ の枝に梯子をわたし、これをつたって枝の奧に...」。つづけろと署長。

*** 071106 フェイの犯行の詳述
11月30日、まだ日付がかわったばかりの頃、オーロラをみるために自宅前の表に出ていたフェイを後ろからおそって絞殺。またかつぎティモシー・インの自転車にのってキャノン城に。斧で両腕のつけ根に切りこみをいれ両足をロープで固定。重しの岩を両腕にくくりつけ倫敦塔からおとした。両手がちぎれたら引きあげ、今度は両足のつけ根に傷を。胴体に重しをつけてまたおとした。少々手荒でも、ロープの跡が体にのこっても後で検死するのは自分。なんとでもいえる。斧は地下のトンネルに。また死体を袋に。深夜の配達。胴体は消防署の裏庭に両足はジャーメイン・ストリートの虎の看板に。両腕はグリシャムの飛行場。窓からセスナ機に。

30日の夜があけたら飛行場のフェイの両腕がまず見つかった。つづいて消防署の裏庭にフェイの胴体が。その次に精肉工場にボニーの胴体。最後は教会脇の花壇にボニーの両足が見つかった。

*** 071107 教授が殺人を告白するロドニーの日記があったはずと、御手洗潔が登場、本物と偽物
私はかんがえた。どうしてこんな記録がここに。次にと署長。
12月1日、ここまでは予定どおり。ところがヴェランダにおいてたボニーの両腕が煙突掃除人に見つかった。なんとかとりつくろった...。もう沢山と教授。ロドニーの手記があったはず。自分がすべてをやったという。フェイ、コニー、ペギーところしたという。そのことかい。刑事の一人がノートをだした。私がもってるものとにてる。こんなことをする男は。そうだねジョージ。本物の登場か。皆んな彼をしってるのか。警官だけさ、ジョージ。 君の演説の場面、ショーが必要だったから。わるいがしらせなかった。これで君の計画を見学させてもうらった。誰、彼は。自己紹介を。ミタライ教授、ウプサラから、いや日本からきたホームズだと教授。では、あんたが。ちょっと彼の真似をしてみただけと偽物の教授。

*** 071108 ロドニーも出現、偽教授の目的を暴露
名前は。いやと御手洗潔。ロドニーでもないあんたが何故と私。ロドニーの血縁か。否。では彼に同情して。否。どうしてここがわかったと教授。むろん彼にあえたから。左の男をさした。教授がみると防塵マスクを押しさげた。成程。彼に後ろ手錠をと御手洗。署長が手錠を。この斧はこっちに。ロドニーに再会しようとしたら「記憶の画家」ロドニー・ラーヒムはロンドンから行方不明。誰もしらない。さんざんさがしてサウス・ドッガーバンク島に一人でいた。発電機と保存食料をもって。ええ、それは何。訓練用の飛行場がある無人島。旅客機の操縦士の訓練につかってた。今はもうつかわない。ロドニーはここに一人で。絶対に安全な場所だ。何にというと、人にあわないから。操縦免許と自分の飛行機をもつ者以外、誰も。気紛れか特殊な目的をもった漁師か。彼はまったく人間界から隔絶。何故か。君の計画と目的の見当がついたよ、ジョージ。ロドニーを一連の殺人事件の犯人に仕たてるため。

*** 071109 御手洗とロドニーが来訪、逮捕の経緯を、教授の犯行と目星を
殺人の現場への不在証明をつくられては。だから隔離した。ロドニー自身は絵がかければ。この環境をよろこんでた。で、ぼくが黒幕と。そう。何故。彼のもとに押しよせた学者のうちセスナの操縦免許をもてるのは君とぼくだけ。飛行機でロドニーをかくす。サウス・ドッガーバンク島。完璧な場所をえらんだ。あれでは飛行機マニアのジョージ・ハイアンズが犯人と宣伝してるようなもの。沈黙。

やがて教授。何時ここに。おととい、2日の午後。彼と一緒。その時、一緒にここにも。もうすこしはやければ犠牲者の数をすくなくできたのだが。すっかり見ぬいてたのだろう。だったらどうしてペギーをすくわなかった。午後にここにいたなら可能だったはず。そうしたかった。でもグリシャム署の留置場にいた。ええ。警察はよそ者をさがしてた。警戒網に引っかかり一晩とめられた。犯人でないと署長を説得するのに丸一日かかった。だがおかげで署長の話しから君のかんがえてることの全貌をつかめた。

自分の名前をかたっている男がティモシー・インにいる。村中に死体をバラまいてると署長からきいたか。いや。そんなに親切では。では、どうしてぼくがティモシーに。ペギーの切断面。あれはちぎりとってない。斧。君としては不本意だったはず。そう、でも、できなかった。死体を城まではこべなくなった。ちぎりとるには倫敦塔が必要。しかし雪の上を自転車では跡がのこる。すべったり、タイヤをとられたり。うまくはしれない。それで運搬に自転車を使用しているとわかった。この村でよそ者があやしまれずに自転車をつかえる場所はティモシー・インだけ。、

*** 071110 私が手口の説明を、2種類の日記が存在
成程。私は混乱して話しにわってはいった。何がわからないと署長。まずサウス・ドッガーバンク島。ラーヒムさんが隔離。これがどうして犯人に仕たてることに。この手記のためだ。ふうん。では先程この教授がどうしてあんなにおどろいた。そっちのノートには一体何が。御手洗がノートを私に。それを。特に後半を。するとロドニーがボニー、フェイ、コニー、ペギーを惨殺していくくだりが。

*** 071111 教授はノートどおりに犯行、大変な無理をした
そう、この事件の特異性はころしてからノートをかいたんじゃないこと。殺人告白のほうが先にあり、この記述にあわせ説明のとおりころした。だからジョージは大変な無理をした。それは悪魔の子が悪戯したような奇妙奇天烈なもの。人間の体をバラバラに、頭を犬の体と縫いあわせたり消防車の上においたり豚肉の上においたり、そのノートの説明どおりにころし、死体をおいてゆく。ちがってれば犯人がちがってしまう。だから彼は夜もねむれない。犯人、探偵、配達人の3役をこなした。

*** 071112 コニー殺害の説明
さっき君はさえぎったが、コニートの首や手足のはいったバッグと、ついでに梯子もかついで自転車でサイナイ・スクールにむかって、あがるところ。圧巻、一番のよませどころだった。こんな超人的な努力。研究でやれば。それだけ見返りがあったと教授。学者の世界はきたない政治。この仕事は一人でできる。たった5日間。辛抱は5日。でもこれからすごす監獄はながいせ、ジョージ。君が出しやばらなければ、それはなかった。そうかな。

*** 071113 教授と御手洗の研究対話、
もしそうならロンドンの「記憶の画家」の症例にぼくがつよい興味をもつ。そんなこと君にもわかったはず。これはぼくの分野。何故、手をだした。ぼくも精神医学の学者。ぼくにも面白い。それに君が興味をもってることはしらなかった。ぼくの興味は君にしられないよう気をつけた。こんな配慮は役だたないようねがったが。だったらどうしてとめなかったと教授。ぼくがここにきたのは、君をとめるためだ。間にあわなかったが。

*** 071114 どうしてロドニーを犯人に仕たてられるか、どうしてロドニーが殺人の告白を
ちょっとまってと私。それでラーヒムさんをサウス・ドッガーバンク島に隔離。すると犯人に仕たてられるのか。ロドニーが名のりでる。それでおわり。今まで島でティモシー村の絵をかいてたと。そう。しかし彼が自殺すれば名のりでられない。つまり、女を5人もころした。それで。自殺。そうか自殺をよそおってころす。成程と私。だが、ちょっとまって。まだわからない。ころしてもいない彼がどうしてこんな手記を。ドクターとロドニー。ぼくにははっきりした記憶が。リンダをふくむ5人をたぶん。いや、ころした。リアルな感触。その愉悦がある。ぼくはあのノートを空想でかいたのでない。それは何故。どう、ジョージ。君の見解は。つよい偽の記憶の記銘がおこった。それはわかってる。問題はそれが何時、何故かということ。

*** 071115 何故殺人の記憶がうまれたか、御手洗の見解をもとめる
それは1995年、昏睡状態からさめた。その時、彼の記憶はリセット。いわば初期化。その直後、猛烈な勢いで想起、再生された最初の幻想があり、これを実体験と同等のエネルギーで彼の記憶分野に保持。だから彼はこれを事実としてしか再認できない。ふむ、ではこのクラッシュを彼の脳におこさせたものは。オランザビンだ。賞賛すべき仮説だ。おおくの学者はこれに賛成したがる。よほどのヘソまがりでなければ異論は。君は異論を。その発言は政治家のものだよ、ジョージ。多数派にはいりたいか。多数派でいるから政治が必要に。一人でいれば政治に用はない。ふん。一人で多数派と拮抗してれば、一対一でまける局面などかんがえることもない。君がいつもいう一匹狼の論理だな。そのあたりが君の限界だなジョージ。

学問やアートの世界はそんなもの。政治を持ちこむことこそ無理。ではその意見は。政治屋の凡夫にない圧倒的仮説を。ぼくの意見。君はいつも自信満々。あこがれたことも。今回のはどんな。意見かい。意見は言葉。圧倒的ではあり得ない。どのようにでもとれる余地がある。そうと御手洗。それを承知でいうか。そう。では説明を。ぼくの意見か。そう。

*** 071116 斧をふるう、あたらしい地下室が
ぼくは何も。いう気がないか。にげるか。否。この斧が君にいう。ええ。その斧を私の頭にと教授。君には裁判をうける権利がある。斧がかたる真実を否定しないね。女たちもそうだったと教授。状況がちがう。40年も前のことを裁判にかけらない。そうおもうか。なら脇に。斧を壁に振りおろした。手つだって。御手洗は防塵マスクを鼻まで引きあげ、また斧を。すすんでゆく。さっきとまったく同じ。空洞があいた。

ライトを。あっ。そこには床一面にディオラマが。床全体をぐるりと模型機関車のレール。レールの輪の中、周囲に。無数の玩具の家々。模型の木々。それらにあつく雪が。ディオラマは真っ白。でもそれは埃。壁には三角形の旗。宗教絵画らしきもの。中にはいる。御手洗、署長。刑事、教授。ロドニー、私、アーヴィンも。

*** 071117 ロドニーのキャノン村が、空想の復讐を日記に告白
君のキャノン村、ロドニー。君のママが買いあたえた当時最高級の玩具群。君はこれをつかってここにティモシー村をつくった。君が自由に振るまえる約束の地。フラッシュ・ライトが一本の樹を。これがヒイラギ。隣りにある家はティモシー・イン。そしてこの樹の枝の奧に犬の体と接合されたボニーの顔が。ふうん。頭部だけ。犬の玩具に女の人形の頭部が。これがサイナイ・スクール。これが時計台。その屋根のとんがり部分にコニーの頭が。消防自動車。その上に手足をもがれたフェイのが。コニーはこれ。壁の時計をてらす。振り子時計だった。文字盤の下のガラスのケース。中にペギーの顔。おおう。傑作はこれ。床の一部を。ドイツのタイガー戦車。砲塔のハッチの蓋がひらき、そこから人形の2本の足が突きでてた。タンクだ。給水タンクでない。戦車(tank)のこと。さらにこれ。置物の虎。その上にもがれた2本の足。

*** 071118 日記を教授がロンドンのアパートで発見、これで教授が殺人を計画
望遠鏡はこちら。三脚でたってる。真上をむいたレンズに人形の腕が2本 。象はこれ。置物の象の上に2本の足が。これが豚の貯金箱。これが飛行機、バス、これが貨物列車。ロドニーと御手洗。君は子どもの時、この悪戯をノートにかいただけ。それをソーホーの君のアパートで見つけたジョージが、これをつかった今回の計画を思いついた。君はころしたのは人形と一言もかいてない。君には文才があり、文字も上手だ。子どものものと思えない。だから誤解。ジョージ、大変だったね。人の体は簡単にちぎれない。無言。

*** 071119 あたらしいノートは御手洗が作成、リンダは無事
こっちのあたらしいノートをかいたのはと私。ぼく。留置場の中は退屈。これがリンドバーグ・スクウェアか。署長がティモシー・インの裏手にフラッシュ・ライト。そこには手足も首も無事な人形が仰向けに。リンダ。これはしらないと教授の声。リンダの死はノートより1日はやかったからね。御手洗がさっきこわした戸口に。リンダ。彼女は無事だった。

* 080000 Bの書、エピローグ、御手洗と犯人の対話
** 080100 Bの書、留置場での対話
*** 080101 教授に連続殺人の目的をきく、反論が
鉄格子越しに教授と御手洗が対話。君の仮説はおおむねただしい。しかし初期化された彼の脳にやってきた最初の幻想は、ただの空想ではない。実体験だったと御手洗。私は御手洗の脇にたってた。何故、あんなことを。どういう利益がと私。どうなんだい。ロドニーの身内でない。その境遇に同情したわけでない。それともユダヤ教徒なんですかい。ちがう。わからない。何故。キヨシ、君はわかってるか。君はロドニーがやってないことを証明した。だがぼくはまだまけてない。ロドニーが犯人と主張する陪審員がすくなくなったろうが。ペギー殺しの時は檻りの中だったらしいから。犯人はぼく以外にいるかも。いやどこかにある録音マイクにむかっていっておく。

*** 080102 ペギーのダイイング・メッセージの謎
犯人はぼくでない。何故ならペギーがしめしてるでないか。ダイイング・メッセージで。犯人はジュイッシュだと。ロドニーでないなら、彼以外のジュイッシュ。彼女は死の間際、ダヴィデの星をかいてた。化粧品をつかい。右手人差し指で。君はこれをどうかんがえるかと教授。黄色の化粧品、そしてかいた場所はブルーのカーペットだ。無言。わかったようだね。首をしめられ、もうしんだと判断。犯人に放置。そんな人間があんな複雑な図形をかけるか。沈黙。犯人でもない男が、ぼくがかいたノートをみて何故あんなに取りみだす。想定外のものをみれば。当然の反応。

*** 080103 スウェーデン国旗の十字をかいたのを教授がダヴィデの星にかえる
ほう、あれがどうして想定外なのか。はじめて地下室にはいった君なのに。他の人間の名前がかいてあればおどろかない。しかし、あれはぼくがやったとかいてある。おどろくのは当然。ジョージ・ハイアンズとかいてない。沈黙。まって先生、ペギーのダイイング・メッセージは。

コニーと同様、ペギーはとんでもないものをみた。信頼してた警察関係者の一人が犯人だった。スウェーデンからきた教授だった。なんとかしらせたい。そこでロウブのポケットの化粧品のパッケージをあけ、くるしい息の下で黄色をえらんで絨毯に指で十字をかいた。へえ、十字を。そう。何故かわかる。いや。十字のクロス・ポイントは上下線では中心だが、左右線では左によってる。絵をかいて私と教授にしめした。これぐらいならかける。黄色の十字にブルーの地。何か。スウェーデンの国旗。そう。スウェーデンからきた人物だといった。

*** 080104 御手洗が犯行の目的を説明
でも、あれはダヴィデの星。そうかな。十字をのこしたペギーをみてあわてた。しかしかんがえた。ペギーの指をもち化粧品をつけてこんなふうに。かいた絵を修正した。このとおり。ダヴィデの星。これが星がゆがんでた理由。成程。三人がすわり、対話がつづく。

君がこんなことをした理由だね、ジョージ。犯人はあがった。ぼくは、この他のこと、あまり興味がない。警察がやればよいが、もうすこしはなす。まず全体の構造。

*** 080105 まずロドニーを犯人に仕たてる手口、犯行の実施
すでに存在したロドニーの告白手記を活用し、そのとおりの事件を君がおこした。そしてその手記が自分の殺人の後、ロドニーによってかかれたと主張する。すると殺人もまたロドニーがやったことになる。だから君は5人すべてがしんだら、あの地下室に皆んなを案内し手記をみせるつもり。ロドニーには過去のはっきりした記憶がない。彼が精神に障害をもってることは周知。ロドニーが死に、あの手記があらわれる。これでうまくゆくだろう。君は大学教授でイギリスの筆跡鑑定者がロドニーの自筆と保証するだろうし。成程。だがそのためには手記どおり完全に再現する必要がある。

*** 080106 真の狙いはペギーだけ、義理の姉、幼児期の不幸が怨みに
そこで君はころしたくもない女性を何人もころした。そう。君がころしたかったのは一人だけ。へえ。それは誰です。これが君が事件をおこした惟一の理由。それはペギー・カーター、旧姓でペギー・ハイアンズ。彼女は君の姉か。腹違い。ふうん。君は子どもの頃、ハイアンズ家をだされた。だから向こうは顔をしらない。施設にはいったのか。ああ、そんな話しは退屈。とにかくひどい人間たちだ。ペギーもその母親も。ぼくは動物。ペギーがスウェーデンにいった、ぼくもいった。復讐の機会があるかと。だがなかった。彼女は女優として成功。君はちかづけなかった。だがその地で大学教授となった。そう。

*** 080107 弁論の手掛かり、リンダに過去の犯罪を告白させると
だが学問の世界は魅力的でなかった。子どもの頃の怨みをわすれさすほどは。ただし、これは殺人の自白でないぞ。へえ、自分の復讐のために3人を巻きぞえに。いや、あの女たちはひどい。まずナオミ、ロドニーの母親をころしてる。それから梁にぶらさげた。その証明はむずかしいね。告白する。ぼくが一対一で尋問すれば。成程、サヴァイヴァーズ・ギルト(仲間をうしなって生存した者の罪意識)をつかうつもりか。彼女には目撃した光景からの惨事ストレス(PTSD)も。ここをつけば。殺人事件の被告にはゆるされない。では裁判までに別の主張をかんがえる。リンダという証人がいる。彼女がいなければこんな計画はかんがえもしなかった。かんがえることはかんがえたわけか。ああ。だが実行にうつしてない。リンダをころさなくてよかったね、ジョージ。一縷の望がある。

*** 080108 御手洗の匿名の手紙、教授への圧力
子どもに駄賃は。それは作り話し。するとあの警官はしってたわけか。しってた。あの仏礼拝図を寄こせといってもよかったが、君が反対するとおもってね。そう、あれは価値がある。そう、大変なもの。値段をつけられない。カブールの国立博物館を代表する。へえ、では国宝と私。そう。どうしてそんなものがここに。しらない。ジョージ、君はしってるか。

*** 080109 ペギーは国外流出の美術品を入手、教授がそれに目をつけてた
彼女の後援者の一人がパキスタンの大物政治家だった。美術品の蒐集家としてもしられる。たぶん彼をかいして。ふうん、石膏製のメダリオンもあった。ひと財産だ。仏礼拝図はうまくすれば大金になる。それは違法ではと私。さらにどうして国外に。戦争。1979年のソ連のアフガン侵攻。その後の内戦が20年間つづいた。特に1992、93年がひどかった。イスラム原理主義者が跋扈した。偶像破壊をもくろむ者により文化遺産が破壊され、一部は国外に流出した。

文化遺産の国外持ちだしを禁ずる条約がある。しかししらずに買った者を免責する条項がある。ふうん。では違法でない。今のところと御手洗。その大物政治家が仏礼拝図をペギーに託したなら、違法というより緊急避難と教授。そのまま国内におけば破壊。問題は、秩序が回復した時、ペギーがおとなしく返還するか。君ならと御手洗。条件次第と教授。

それに仏礼拝図はインドのもの、アフガニスタンのものでない。それはどうかな。当時アフガニスタンは仏教国だった。君の断定は疑問。手ごわい君にうつるよりペギーがもってたほうがよかったろう。手紙というのは。何故、彼にだしたのかと私。リンダがころされたようにみせるため。あるいはロドニーの手記より1日はやい。だからジョージが手をだすはずはない。何故そんな芝居を。

*** 080110 何故、御手洗が手紙を、教授への圧力、事態の展開をうながし、犠牲者をへらす
リンダの命をまもるため。君とアーヴィンがうまくジョージをのせてくれるため。それにジョージの計画終了をのんびりまつ気になれなかった。何かでわれわれの存在に気づき、計画を放棄して4日朝に高飛びするかも。4日朝の時点で署長が彼の前にいき被疑者として逮捕してもこちらがつくる推察のストーリーを否定されるおそれ。きたるべき法廷で優位にたつために彼の逮捕は計画の全貌をみた後にすべきだった。

*** 080111 美術品こそ泥からの手紙をよそおう
ふうん。そうか。まだわからないことが。日記のとおりにリンダをころさないと、さっきのジョージの演説はなかった。ああ。ところが日記のとおりにリンダがしんでは不安を感じたジョージが逃亡するおそれも。不安。つまり自分の計画を誰かが見ぬいたと。成程。だから見ぬいてる者が味方だとジョージにつたえてやる必要が。多少目端がきいても美術品ほしさのこそ泥だ。なら安心と。そこであのような手紙を。成程。完全なものかと教授。リンダがあんなふうにしねば、計画を察知されたと逃げだす。逃げだせばどうなる。あきらかな犯行の自白。グリシャム病院にいけば。警察隊が厳重に警護。もう質問はないかと私に。

*** 080112 あの魔神の咆哮は
いえ、あの魔神の咆哮は。御手洗がポケットから鈴ににたものを私に。クルミ大、瀬戸物、表面にスリット、底部の両側から針金が飛びだしている。中国の鳩笛。へえ。鳩を1羽ずつつかまえて尻尾の羽に、この針金で笛を固定。そうしてとばすと風がこの笛のスリットを通過する。おおきな音。それが何10羽にもなるとあんな不気味な咆哮。鳩は集団でおなじところをぐるぐる旋回する習性。音はいつまでもきこえる。中国人はこれに目をつけて中世の頃、北京で王侯貴族たちがさかんにこの遊びをたのしんだ。

*** 080113 裁判対策、犯行の証拠品、痕跡の収集を
ジョージは中国旅行時に大量に購入。成程。ほんの手品。でも鳩はどうやって。ネットをもってキャノン城にいく。そこは鳩のアパート。ではティモシー・インにもどりたいと御手洗。まだ教授の部屋が御手洗教授名でリザーブ。いや、人間の首と犬の体を縫いつけた作業場は。別の部屋を。リンダにたのめばいい。

それに浴室、洗面場。血液のルミノール反応が。きちんと調査を。凶器も一つのこらず確保。まだ斧が見つかってない。たぶん最後の現場、ペギーの家のちかくだろう。キャノン城で鳩笛の回収。ボニーの首、犬の体を縫いつけた針と糸も。Yの字をかいたナイフ。配達につかったバッグ。それから指紋入りのロドニーの手のひら。そう、あれは何。ペギーの家の壁の血の手形は。あれは以前ロドニーの裸の上半身を石膏でとったことが。その時、手だけを別に複写。ジョージはこれを入手。そこで駄目押しで。余計な仕事。これらはティモシー・インの自室に大半はあるはず。私は署長がこれからコマ鼠みたいに精勤する。先生もつかわれるといったら、溜め息。あきらめたよう。

*** 080114 犯行の記録となる日記、手記も
犯行の細部を説明した原稿は。それはぼくのノートとロドニーの手記。ではと御手洗。リンダへの尋問が可能となるようはたらきかけてくれと教授。それはことわる。ロドニーがはなしてくれるかも。ぼくのために何を。すべては自分でやれてことか。ドアがあく。こちらにと署長。ではお別れだ。
(物語おわり)

* 090000 感想
壮大な構想のもと精密な細部をえがいて齟齬をきたさない。整合しておわる結構に、あらためて作者の圧倒的知力をかんじる。正直に告白するが、はじめてよんだ時、何となくぼんやりとした物語り、探偵役をえんじる医者が偽物であり犯人だったという、いわば禁じ手が印象にのこった。あらためて筋を丹念におうと、これほど精密に作りあげられてるとはと印象がかわった。好作品である。

* 100000 テーマ
テーマは低セロトニン、高インスリン、低血糖。側頭葉癲癇の障害をもつ主人公ロドニーをどのようにして、すくうかである。子細にみれば、成長期のトラウマの解消であり、そのため原因をなした村に帰還。そこで生じた冤罪の解決である。冤罪ははれた。しかしトラウマの解消はどうだろうか。

1) 約束の地をもとめ移りすんだ村にもどった。しかし母の死の真相は解明されず、まして家庭の崩壊をもたらした中東の混迷や宗教対立にまったく役だってない。
2) 空想の世界の復讐がトラウマとなってた。真実の解明が軽減に役だったが、その解消は中途半端である。
3) かりにトラウマが解消あるいは軽減されたとして、作家活動の活力減少につながるかもしれない。

ネジ式ザセツキー(blog、2014/12/31)の主人公エゴン・マーカットが、自分が巻きこまれた事件の真相をしり、恋人ルネスのもとにもどってゆく。この終わりと比較して物たりない。

* 110000 評価
1) 原理的に可能か、2) 現実にあり得るか、について特段引っかかるところはない。なので物語りとしてどう成立してるかをかんがえる。

2) 主人公の復讐心の爆発。これ程までにあるのか。ヤーハエは圧倒的な力でイスラエルの民をすくったが、復讐の神でない。それは主人公の心の中にうまれたもの。神はゆるしてないとおもう。主人公の障害、不幸な境涯に起因する側面がおおきいとおもう。空想とはいえ残酷すぎるとかんがえる。
3) ロンドン、無人島での御手洗との対話をつうじ、たかまる心の葛藤が主人公を村にみちびく。思い出の中にある不思議な風景、絵画の中にすむ無人島の人びと、光速ロケットからみえる宇宙の姿など、これらが反映した複雑な心理。村への帰還にどうつながるか。よくわからない。
4) 子どもをかかえた母親が地縁といいつつも、スコットランドの村にうつる。この追いつめられた心理は何なのか。生活のためとはいえ、売春宿を経営し村の女性の反感をかう。そこまでするか。だったら財産がある。ロンドンのような都会にうつりジュイッシュの地域社会にたよる選択があったようにおもう。
5) 他方、もう一人の主人公の教授も復讐にうごかされ、村にやってくる。ここにいたる心理もよくわからない。御手洗との対話の中に両者の葛藤がある。これも犯行の遠因か。

要するに、物語としてのまとまり、最後の盛り上がりにかける。推理小説の読後感に大切な爽快感がたりない、とおもう。

なおボニー・ペニーとペギー・カーターの混同(98p)、バール神とエルとの混同(290p)があるようだ。
(おわり)

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