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謎解き島田、UFO大通り [島田荘司]

* 010000 はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 020000 鎌倉署刑事課猪神俊正の捜査日誌
** 020100 昭和56年4月10日から
*** 020101 4月7日に造田が小寺に襲撃、入院、聞き込み
4月10日の記載事項。K会鎌倉中央病院。湘南オートガスKKのチーフ、造田信義に面会。本人の言い分。4月7日午前1時頃、由比ヶ浜のコンビニ、セブン・イレブンの駐車場で、元部下の男から殴打暴行。左上腕部、左肋骨1本を骨折、左足首にひび。事件にしたい。造田は湘南オートガス材木座のチーフ、犯人はこのスタンドに昨年末まで勤務。極楽寺、極楽寺3丁目在住の小寺隆。この男が準備してた鉄パイプで殴打暴行。材木座の湘南オートガスは、ほぼタクシー専用の給ガス所。小寺は夜勤専門要員。勤務がきびしいと去年末に退職。

何故暴力、元社員と喧嘩か。ない。柔道をやってたか。当り。ふうん。どうしてやられたのか。相手が武器を。それで武道家か。不注意。相手の動機は。自分は新人のバイトの教育係。逆怨み。ふうん。深夜は気がたってる。店内で喧嘩か。否、喧嘩でない。表で注意。やつはやめて10年だが。元暴走族。怠け者。それでクビに。そう。うらまれた。然り。コンビニの駐車場でばったり。話しかけると、いきなり鉄パイプ。目撃者は。なし。逮捕して。小寺はふだんから暴力を。不知。本官は病院から湘南オートガス。聞き込み。小寺をしる者はない。ただ一人、依田を発見。話しを。要領をえず、断念。

*** 020102 4月13日、同僚に聞き込み、トラブル
依田の勤務終わり。同僚のいない場所で尋問。夜勤はきついので喧嘩が。やめる者も。残りの者にしわ寄せ。これからいうことは秘密に。了解。小寺はかって半年間、暴走族。しかし勤務態度は良好。他方、造田は表向きはともかく、よくいう者がいない。威圧的。暴力を。本官がいう。教育はきびしいもの。否、あれは教育でない。弱い者いじめ。自分も暴力を。小寺がやめたのも、そう。しかも小寺はやめる前、造田をおこらせた。仕返しを口に。しつこい奴。本官は女々しい態度を注意。

** 020200 5月5日、小寺の死亡
*** 020201 5月5日、小寺が死亡、
小寺が寝室で死亡。急行。小寺の家は。日本家屋。四畳半の自室。中から小型のかんぬき錠で施錠。布団の中で死亡。発見の経緯。昼前におこしにいった婚約者。返事がない。錠をこわしてはいる。死体を発見。小寺はしろいシーツを体にぐるぐるにまいてた。オートバイ用のフルフェイスのヘルメット、バイザーをぴったりとしめてた。首にマフラー。両手にゴムの手袋。天井からは、ちぎってはったガムテープの切れ端が、まるで逆さの森のようにぶらさがってた。婚約者、柴田朱美に。何のまじないか。不知。で考える。自殺か。否、それこそ狡猾な造田の仕業か。

外傷はない。しかし毒物注射の跡。何らかのショックによる突発性心拍停止。ただしその理由。不明。朱美にきく。最近の小寺。体調は。病気は。特に心臓に持病は。何もない。部屋に1つの窓。スクリュー錠。きつく施錠。窓と窓の間の隙間、窓と窓枠との隙間。ガムテープがはられ、ふさがれてた。部屋は厳重に密閉。本官の考え。造田対策。造田はLPガス屋。ガスのタンクを部屋の窓の外に。就寝中に部屋に注入。これを小寺は警戒。ならば、ヘルメットは。元暴走族。これで悪者と世の中にアピールしたい造田の仕業。ころしてから、わざわざかぶらせた。部屋にあったヘルメットからの思いつき。すぐ解剖に。ガス中毒なら。血液中に異常。あるいは毒物注入の跡が。

*** 020202 造田を尋問
都合のわるいこと。小寺の部屋。内側から小型のかんぬき錠。これは、ドアをしめたら、ドア側についた金属製の小型かんぬきのつまみ部分をもって右にスライド。柱側にある軸受けにおしこむ形式。バーはさび加減。横にすべらせるのはきつい。挿入したらつまみをもって、下方に半回転。下にきられた溝にはめる。死体発見時にはこれは、きちんとはまってたよう。密室トリックの糸による仕掛けが成立するか。ない。で、造田のアリバイである。

4日夜から5日朝。すでに退院。アリバイがない。きく。自分でない。しかし密室のことをしってた。本当か。やってないか。現在はLPガス屋、かって土建屋。部屋の小細工は容易。やったか。ない。とりあえず、おわり。

*** 020203 5月6日、解剖結果に異常なし
解剖の所見。外傷はない。胃、内臓、血液中から毒物反応。なし。命にかかわる持病。なし。では、まったくの自然死。すると何らかのショックによる心拍停止。ということ。否、造田のトリック。何らかの方法でショック。とにかく解剖を念入りに。元暴走族。シンナー、シャブかも。

*** 020204 5月8日
小寺の家の一軒おいて隣りに小平ラクという老婆。彼女がいう。7日に家の目の前の正面で宇宙人が戦争してた。空飛ぶ円盤。テレビに登場、しゃべってた。朱美によれば小寺もその類の話しがすき。でも二人はしたしくなかった。嘘としても、それなりの訳が。要注意。では何故か。実は老婆は造田の知り合い。造田の完全犯罪に協力。陽動作戦か。本人にあった。要領を得ない。この線は断念。

また造田とは一面識もない。本当らしい。宇宙人といいはる。なので自衛隊、付近の交番、保健所に民間の各種ボランティア団体に電話。7日の早朝に極楽寺3丁目の山に出動したか。なし。やはり。一人暮し。さびいしい。世間の注目がほしい。といことで骨折り損。

* 030000 ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

UFO大通り

UFO大通り

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/09/01
  • メディア: 単行本


* 040000 UFO大通り
** 040100 5月9日、少女の依頼
*** 040101 Nロケットの爆破のニュース
昭和54年(1981)。わたし、小説家石岡和己が、あの事件の痛手がいえ、御手洗と共同生活をはじめた頃。5月9日。日本のN2ロケットが打ち上げ。成功、だが成層圏で爆発。原因不明。民間の国防研究所というところから何者かにより意図的に爆破という主張が。御手洗にきいた。

ロケットはナチス・ドイツが最初に開発。戦後、その技術がソ連、アメリカに二分。両国の独占状態。戦後、日本もロケットの開発を。だが、そのエンジン部分はアメリカの技術。その中身を見ることはゆるされず。ブラック・ボックス化。で、独自技術で開発を目ざす。できたのがN2ロケット。今回打ち上げ、爆発。

ふうん、撃墜されたか。否、しかし北朝鮮、中国にその願望は。なら、あり。日本は平和目的に限定と。しかし軍事目的に転用が可能。米国からみてもソ連以外に人工衛星打ち上げ成功、脅威。ソ連ほか共産圏にとっても脅威。今回の失敗は好都合。さらに爆破の破片回収など採取もない。なら次回の打ち上げの成功もより困難。つまり、これは日本のロケット打ち上げが抑止力になってる証左。で、とぼしい家計をやりくりしてる主婦が旦那を空手道場にかよわせるようなもの。成程。

*** 040102 地球外生命対策研究会が宇宙人がやった、地球人は防衛を
その後、奇妙な展開が。UFOおよび地球外生命対策研究会という一種の宗教団体が信州の山中で国道を閉鎖、電磁波を測定するとパラボラアンテナを設置。その主張。N2ロケットの事故は地球外生命体による妨害、彼らは日本列島を地球侵略の足がかりに。日本人の絶滅を計画。支障があるから撃墜した。彼らは全身を白布でくるむ。大型のマスク、ゴムの手袋も。そのようにすれば宇宙人が常時放射してる電磁波から身をまもれる。この電磁波は日本に重点的に。このままでは日本人は数年で体も精神も破壊。殺しあい、集団自殺して自滅。会員以外もそのような服装を。しろい布でつつんでれば飛躍的に危険が減少という。そうかときく。

かも。恒常的に電磁波。DNAのコピーの際にエラーの確率が。このような団体は世界中に。しかも人間は宇宙人の遺伝子操作により地球に誕生と。カナダの団体、スイスの団体。そこに友人も。へえ、本当なのか。午後に散歩。馬車道から天神通りに。御手洗がいう。君、ガールフレンドができたのか。えっ。

*** 040103 二人が少女とあう
否。ほう。できる訳ない。へえ。君はうるさい小姑。ぼくにかかってくる電話、手紙、皆んなしってる。どうして、そう思った。デートをぼくにかくす方法は、いくらもある。スニーカーはセブン・イレブン。革靴は伊勢崎町の小学校。今日は革靴、小学校か。何故いちいちかくす。小姑がうるさいから。何故、小学校だ。ではどこで。ええ、映画館とか。ふうん、アニメをみて、帰りは公園の滑り台だ。ええ、ぼくの彼女は幼稚園児か。否、もっと年上。で、こっちへきて。御手洗がふりむいて10歳ぐらの女の子に声。何か用か。ゆっくりとうなずく。ぼくたちが誰かしってる。うん。誰。御手洗さん。で、こっちは。石岡君。当り。皆んな御手洗さんにきてみたらって。それはクラスの皆んな。うん。

*** 040104 喫茶店で事件の依頼
わからない宿題。否。では事件。うん。ながい話し。うん。ではあの喫茶店。当時はあった店。三人は店の奧に。お名前は。松島めぐみ。めぐみちゃん。あるきつかれたでしょう。笑った。部屋がわからなかった。うん、ちょうどでてくるところが見えたから。よくぼくらがわかったね。前に雑誌の写真で見た。そう。でも声をかけにくかった。うん。どうして。有名な先生だから。へえ、ぼくらが有名か。皆んなしってる。そうか、で、相談は。ええっと。お婆ちゃんがね。成程、お婆ちゃん。

*** 040105 お婆ちゃんの話し、宇宙人、UFOがとおる
家の外にいつもUFOがとおるって。えっ。はっ。UFO。うん。家の前の道。うん、いつもUFOと宇宙人。ちかくに家がある。ふうん、宇宙人の家。君の家は。極楽寺、鎌倉の。極楽寺に宇宙人の基地があるのか。うん、裏の山にUFOがおりてきて、それからすみついた。そのお婆さん。君のお婆ちゃん。ちがう。近所のお婆ちゃん。名前は。ラクさん 。小平ラクさん。極楽寺のラクさんか。そのラク婆ちゃんの家の前をUFOがとおるの。うん。何度も。うん、おおきいUFOが道をはしって、後ろに宇宙人が3人のってる。宇宙人はどんな格好で。ならんでたってた。ははあ。それはお婆ちゃんが君らのために面白い話しをつくったんだ。絶対にちがう。絶対。うん、絶対。どうして。

*** 040106 テレビに出演した、老人ホームにいれられそう
女の子はカバンからVHSのビデオ・テープをテーブルの上にだした。これは。テレビのUFOナマ特番。お婆ちゃんがでてる。テレビで話したの。そう。これは何時。昨日。お婆ちゃん、テレビにでた。テレビ局までいった。否、極楽寺にテレビ局の人がきた。それでお婆ちゃんの家でインタビュー。そのお婆ちゃん、家族は。いない。一人暮し。そう。子どもはいないの。いる。横浜の方に。それでお婆ちゃんは老人ホームにいれられそう。その子どもに。そう、ボケたからって。で、お婆ちゃんは同意した。いやだって。ボケてないって。わたしたち、お婆ちゃんちにあつまる。いつもしっかりしてる。話しが。いやか。君たちはどう。いやだ。わたしたち毎日あつまってる。いなくなったらこまる。さびしい。ボケたっていわれるのは皆んなに宇宙人を見たといったから。そう。でもテレビにでていいっただけ。ああ。テレビでいえば充分だな。御手洗がしばらく沈黙。で、きく。何時。

*** 040107 戦争してたからテレビ特番に電話した
明け方。縁側から。そう何度もか。何度か。縁側から道が見えるのか。縁側にガラス戸、ちっちゃい庭。うん。庭に生け垣。木がうわってるがまばら。そこで表の道がよくみえる。じゃあ縁側からかなりはなれてる。見間違いかも。ううん、だってすぐそこ。そうか、テレビでいったのはそれだけ。否。へえ、あと何。宇宙人が戦争してるところも見たって。戦争。うん、おととい。それは5月7日。うん、それでお婆ちゃんがテレビ局に電話したの。わざわざ電話。うん、わたしたちも前からいってたから。君たちも、UFO見たからUFOナマ特番に電話したらって。そう。そうしたらUFOのみなず、宇宙人の戦争まで見たから電話したと。そう。じゃあ、君たちにも責任がある訳か。うん。少女が沈黙。5月7日にどんな戦争を見たのかな。婆ちゃんちの前の山で。家の前に山があるのか。うん、山、木や草。。そうか、そこで。そこで宇宙人が戦争してたの。誰と、地球人。しらない。でも、どうして戦争とわかった。

*** 040108 光線銃、火花、煙、宇宙服、ヘルメット、老人ホームにいれられないよう、助けて
宇宙人はいっぱい。光線銃。火花がちって。あたりは煙で何も見えない。へええ。本当。本当。煙はどれくらい。霧、街中皆んな見えなくなるほど。でも君が見たわけじゃ。ない。ねてた。でも婆ちゃんが。婆ちゃんはもうおきてた。早起き。夜も早寝。でもそれがどうして宇宙人と。夜があけたら、皆んないそいで、にげたみたい。縁側で見てた。銀色の宇宙服。ヘルメット。体がすごくおおきかった。すごく背がたかかった。御手洗が真剣にきいてた。

婆ちゃん、毒ガス。心配。でも大丈夫だった。匂い、異常なかった。うん。病人は。いない。そう、よかった。でも婆ちゃんは老人ホームにいれられちゃう。そうか、それを何とかしてほしいのか。うん。宇宙人はいる。ボケてない。こう証明すればいい。そお。婆ちゃんは嘘つきじゃない。そのとおり。でもねえ。ボケてないよ。宇宙人はいるよ。

** 040200 お婆ちゃんの家に、話しをきく
*** 040201 約束、お婆ちゃんの息子はひどいか
返却を約束して、めぐみちゃんからテープをかりる。彼女は駅に。散歩を再開。御手洗がいう。ラク婆ちゃんが養老院に。自分たちのせいと必死。この息子、あるいはでないかも。とにかくひどいと石岡。UFOにのった宇宙人を見た。これで充分。母親が心配、遠距離、念のため、医師、ヘルパーのいる施設に。でも本人がいやがってる。そのとおり。しかも心配は、その家か、売却金か。だとして、ひどいか。その息子は生活苦かも。ぼくらもいろんな理由を。さまざまな価値観が。そこからつまみ食い、組み合わせ。これで正当化。道徳はいいかげんと御手洗。うん、でも。UFOと宇宙人を見たといったら。君は信じてたはず。然り、でも極楽寺で宇宙人が戦争。UFOを信じて戦争は信じない。そうか。変かな、でもUFOは平和使節では。映画ではね。これは映画、未知との遭遇のこと。それだけが理由でないがと石岡。

*** 040202 まだよくわからない、まず材料を。
まだ材料不足。なのに見当つけて推論。愚か。変に経験に自信、経験の範囲からでれない。結論先行、材料見繕ろいに。もしちがってたら面子意識が発動。ますます意固地。過去、犯罪捜査の誤りの大半はそう。材料不足、なら見当はつけない。これが肝要。で、あそこの駅から電車に。へえ。どこに。極楽寺。一刻もはやく現場周辺に。桜木町駅に。散歩にはやくでた。さいわい鎌倉駅についても陽がたかかった。江の電で由比ヶ浜、長谷。石岡がきく。君がさっきいった朝鮮の正義とは何。

韓国とする。たとえば進出した日本企業が、現地採用の社員の勤務態度が不真面目。そこで慎重な勧告の末、解雇。としても仲間の誰かが日帝36年と口にする。すると正義は即刻向こう側。マスコミの論陣。半島植民地化のいきさつ、支配時代の日本の悪徳。すると勤務態度なぞなんだ。という話しになる。北朝鮮なら。N2ロケットをうちおとす。正当化の理由はおなじ類。ある日本帰りの人物。宴会の席。酒の勢いで日本の新幹線につきはなす。朝鮮の列車技術はおくれてる。ついもらした。即刻、警察に逮捕。収容所入り。政治犯として。そう、親類縁者も連帯責任で。収容所内で強烈な道徳観による殴打暴行。思想矯正。それで拷問死したときいた。

成程。でもどうしてそこまで。儒教の礼をわすれ、ありもしない電車の嘘。金首領樣に恥をかかせた。堕落した商業主義の日本を賛美した。へっ、新幹線は事実。でも北朝鮮国民総体がたしかめてない。だから証明となってない。それはひどい。まだ日本はましか。どうだろね、石岡君。なんだい。この窓の外。電車はずいぶん家々の軒先をかすめてはしる。うん。

*** 040203 江の電の歴史、エゴイズムについて話す
何故。ううん、土地がなかったからか。開通は明治35年、土地はあった。これは当時の主要交通手段の人力車。その車夫が大立腹。自分たちの生活手段をうばう。電気で車がはしるか。妄想。非常識、馬鹿、危険、ブルジョア的。足ではしる人力車で充分。と立腹。当然だろ。北とおなじ。ううん。彼らは命がけの抵抗。まずしい車夫。感動のうねり。湘南全域に。涙、座り込み。で工事不能。市民の共感、涙。そこで鉄道側は住宅用土地を借り受け。これをつないで線路と。それで江の電は街の中をはしることと。

今、鉄道側は住宅内をのぞかぬよう呼びかけ。これが道徳の正体。まずしい全体主義国家では禁止罰則の裂け目に涙でいろどられたエゴイズム。そして国家百年の大計をあやまらせることに。感動の涙が常に戦争の正体。だから石岡君、われわれは何者にも影響をうけない中立に。極楽寺についた。

極楽寺3丁目は高台。小平と表札のでた和風の平屋。道との境に生垣。せまい庭。ガラス戸のならんだ縁側。中にしろいカーテン。道の右が山、左が住宅街。これがUFO大通り。

*** 040204 極楽寺、葬式、ラクさん宅
斜面は樹木、雑草。道は舗装。おやと御手洗。黒の花輪。葬式か。小平家から一軒おいた隣り。やはり平屋。しかし塀はブロック。ずいぶんしずかな葬式だ。なくなったのは2、3日前か。なら宇宙戦争を見たかも。まさか宇宙人にころされた。うんうんと石岡。でもまずはラクさん。いそがないと陽がおちる。門柱。玄関のガラス戸。ごめんください。眼鏡をかけた小柄なお婆さんが玄関先に。ラクさんですねね。はい。わたしは御手洗、こちらは石岡。松島めぐみさんの訪問を。小平さんが、UFOや宇宙人を見た。最近に彼らの戦争を目撃したときいた。ああ、はい。めぐみちゃんがあなたのことを依頼。どうもすみません。いえ、テレビにもでられたと。はい。めぐみちゃんがいうには、小平さんの証言が事実だと証明してくれと。

*** 040205 明け方、縁側から宇宙人たちの戦争を
でないと老人ホームに。本当。はい。そういうような依頼を。どうもわざわざ。で、どちらから。横浜の関内から。めぐみちゃんも今日そちらにきて依頼。ああ。あっちの縁側で宇宙人ののったUFOを見た。早朝に。はい。わたしは早起き。縁側でお茶。夏はガラス戸をあけるが、今頃はあけないで。成程、この家の前で宇宙人たちの戦争も見た。はい、ところで、ちょっと座布団を。否と御手洗。陽がおちる前に戦闘の現場を見たいので。一緒に表にでて場所をおしえて。あ、はい。

表通りに。あのへん。右前方の斜面の上方を。御手洗は背後をふりかえり、小平家の垣根、その隙間から見える建物の縁側。ガラス戸を見てた。成程。見とおせる。光線銃をうってたとか。はい。まだくらいから光線がひゅっ、ひゅっと。そしてぱあっと火花も。火花、何度も。何度も。あのあたりに木がたくさんたおれてる。あらもその時に。そう。それまでは一本もたおれてなかった。大規模な戦闘があったみたい。音は。音も、声も。声が。はい、悲鳴みたいな叫び声がさかんに。叫び声を宇宙人が。はい、そう。だから戦争だって。すごい悲鳴も。

*** 040206 光線、火花、悲鳴、煙
失礼ですが、お耳は。すこし、とおい。でも、きこえた。然り。明け方で周りがしずかだから。煙もでた。はい、このあたりが真っ白に。だからこの山も見えなくなった。うむ、音がないのに煙だけ。では今からあがってみます。テレビ局の人もあがったか。はい。それから警察の人も。警察もきた。はい。警察もですか。はい。テレビ局の人と一緒に。いえ、別に。警察の人は昨8日。警察が、宇宙人のことで。ああ、それはあの小寺さんのこと。そしてくろい花輪を指さした。小寺さんはあの葬式の人。はい。あの人の死に方がちょっと変。この戦争と関係があるような。はい、そう。成程。まあそれは後で。御手洗は斜面にはいる。石岡をよぶ。このあたりですかと上方から御手洗がラクさんに。はい。すごい穴があいてた。

*** 040207 山の中、穴4つ、痕跡がない
直径が1メーター、深さが2メーター。本当。切り株の跡かと石岡。そうだが、それをさらにほりさげ、ひろげてる。危険はないのか。何の。汚染。ないと御手洗。どうして、わかる。わかる。御手洗は指で土をほじくり観察。ボールペンでつっついてた。気にいらない。何が。穴は、4つ。深さはまちまち。その内の2つはおおきな石のそば。ほかには穴はないらしい。足跡は無数。その靴跡が宇宙人のものかわからない。いろんな人間がここに。やはり戦争のすぐあとにくるべき。何が気にいらないと石岡。何もない。えっ。紙くずひとつおちてない。これが気にいらない。銃なら薬莢、弾丸。ないにしても、必ず何かが。それを分析すれば、どんな部隊、どんなことを。何時間かけて。わかるのに。ふうん、どうしてない。ひろいあつめたから。誰。不知と御手洗。まさか宇宙人。でもそれはたしかか。こんな穴をほれば、虫の1匹や2匹は。それもない。何者かが。何故だろ

*** 040208 何故、倒木、爆発音なし
あぶない。土が汚染。ふむ、何故、こんな穴。木がたおれた穴。否。それもあるが、さらにひろげてる。切り株によるものが2つ。あとの2つは木とは関係ない。ほられた穴。それ爆弾でできた。ふうん、おおきな木が2本たおれてる。ひくい木が5本ばかり。これは何故。それは光線銃。そうかも、でもこげた痕跡がない。霧のような白煙が。なのにこげたあとがない。ものをもやした痕跡もない。ああそう。石岡もしらべる。爆発、爆弾は。小平さん、爆発音はと御手洗。いいえ。爆発でない。着弾ならすり鉢状。地雷の穴とも形状がちがう。ではやっぱり宇宙人のものと石岡。だったら地球の探偵には無理。じゃあ、かえろ。後で病気になるかも。木をたおしたのは、枝の先にある何かをとろうとした。ちがう。先端をしらべていう。どの枝もきったり、おったりした様子はない。枝の先にも根にも何もついてない。その気配もない。こいつは何だと御手洗。だから宇宙人の戦闘現場だよ。ああ、そうだった。もうおりよう。ラクさんの話しをきこう。

** 040300 54、3、宇宙人の戦争、小寺の葬式に、婚約者朱美にきく
*** 040301 縁側できく、宇宙人4人、ながい棒、駅に
御手洗が縁側にすわっていう。ここなら往来がよく見えますね。それから戦争があった山の斜面もよく見える。はい。宇宙人を見ておどろいた。そりゃあ。粗茶ですが。ありがとうございます。子どもたちがUFOのこと、さかんに。だからそれほど、おどろかなかった。子どもたちはUFOがすきですねと石岡。はい。さむくないですかとラクさん。大丈夫。彼らが戦争してる時はずっとここで。はい、ずっと。どのくらい。30分、もうすこしみじかいかも。夜があけて煙の中からあの道に。駅に。成程、煙がたちこめてた。で、何人ぐらい。宇宙人は。4人。と思う。皆んなながい棒をもって。ふうん、武器か。彼らは皆んな背がたかかった。はい、とてものっぽ。30分といった。それは見はじめから、おわるまで。彼らはその前からずっと戦争を。

*** 040302 銀色の宇宙服、ヘルメット、UFOは車
ああ、そう、きっと。そう。誰が相手、敵は。見えません。全然。透明なのかな、石岡君。銀色の宇宙服をきてた。はい。ヘルメットも。はい。それはどんな形。バケツみたい。前にガラスがついて。宇宙服、人間も宇宙にゆく時、かぶる。然り。オートバイのヘルメットでは。ない。あれは簡単。本物。ロケットにのる時の。御手洗、沈黙。きく。それはたしか。夢ということは。ない。全部、本当。ボケてない。時々ぼんやりは。でもボケてない。自分でわかる。ぼんやりなら、この人もしょちゅう。石岡、腕組み。戦争の時、UFOは。あの時は見ません。ええと、極楽寺の駅の方に移動。宇宙人は。はい。電車できたのかな、石岡君。沈黙。小平さん、UFOがどんなものか、ご存知。はい。宇宙人の乗り物。子どもらがはなしてる。そう、お皿みたいにまるく、空をとぶ。えっ、空を。沈黙。そうです、飛行機みたい。ご覧になったUFOはどんな形。こんなにおおきくて、平らで前にまるいものが。2つ。それがぐるぐるまわる。タイヤですか。

*** 040303 小寺はどんな死にかた、布団の中、ヘルメット、マフラー、手袋、シーツ、地球外生命対策研究会の会員
いえ、タイヤなら縦、横向きだった。はあ......。お隣りの、ええ。小寺さん。どんな亡くなり方を。昼前に寝室で。布団の中。一人で。ヘルメットをかぶって。えっ。何を。ヘルメット。マフラーを首に。ゴムの手袋。体もシーツにくるまって。沈黙。どうしてそんな格好と御手洗。だから光線銃にあたった時にと石岡。あんなにはなれれてる。いや、だから戦闘に参加を。その人。あの装備でふせげるか。宇宙人の光線銃を。うん、いや。小寺さんは地球外のなんとか。研究会にとラクさん。地球外生命対策研究会。お昼のニュースでさわがれてる。ああ、そう。はいってた。こんなところにも会員が。寝室にも鍵がかかってたとラクさん。じゃあ誰が。婚約者の朱美さん。食事をつくろうと。でも小寺さんがおきない。寝室にいってドアたたいた。返事がない。ドアをあけようと。すると鍵。

*** 040304 朱美が昼前に発見、今、葬式に
名前よんで返事が。錠をこわして。それ誰から。朱美さん。さっきお焼香で。今、その人は。いるでしょう。家に、喪主だから。お邪魔しました小寺さん。話しの展開ではまた。よろしいですか。はい。でも9時にはねます。了解。朱美さんの名前。柴田朱美さん。ふうん、これで小寺さんと結婚できなくなった。はい。小寺さんお名前。小寺隆。ところで小平さん。お電話番号は。石岡がかきとった。外にでた。全然ボケてない。そう。ああ、UFOも宇宙人も親戚の人みたい。あの人、UFOのことを誤解してる。道路をはしる乗り物。御手洗が小寺宅に。ごめんください。はい。御手洗が元気よく。

*** 040305 研究会を名のって葬儀に弔問、解剖をしる
地球外生命対策研究会、関内支部の御手洗といいます。小寺さんの訃報で、ご焼香を。それはどうも。こちらは助手の石岡君です。ご愁傷さまです。まずご焼香を。つづいて石岡も。さて柴田朱美さんですね。部屋は和室の8畳の間。一軒おいた隣りの小平さんですが、7日の明け方。そこの斜面で来訪宇宙人の戦争を見たという。この話しをしってるか。いいえ。小寺さんが亡くなられたのは。5日。はあ。じゃあ宇宙戦争の犠牲者ではない。無反応。5日の昼前にご遺体を発見。うなずく。では5日もいれたら、5、6、7、8、9と5日もたってる。これは何故ですか。

*** 040306 その結果は異常なし、でも殺人か
警察が解剖を。司法解剖。不知、それは。失礼ですがまだ奥さんでは。ない。成程。でも結婚の予定。うなづく。解剖の結果は。何もなかったらしい。いっさい何も。はい。不審な点も。はい。つまり警察は殺害をうたがってる。たぶん。外傷は。えっ。体に傷が。血がながれていたり。全然。警察も。そう。隆さん。ご病気は。なし、健康そのもの。では、あなたは小寺さんが何故亡くなったと思っておられるか。ながい沈黙。御手洗がきく。自然死。沈黙。健康そのものだった。うなづく。では殺害、警察がうたがうような。沈黙後、そう。えっ、やはり殺害。

*** 040307 犯人は宇宙人か、部屋を点検、事情をきいても沈黙
うなづく。では誰に。無反応。宇宙人にころされた。うなづく。えっ、そう。沈黙。心臓がわるかったか。いえ、まったく。どうして宇宙人に。沈黙の末。傷がない。病気もない。心臓もわるくない。寝室には鍵。窓も鍵。窓の隙間はガムテープで。でもころされた。なら。宇宙人と。沈黙。でもガムテープ。なら窓はあかない。ずっとあいていませんでした。へえ、ちょっと拝見できませんか。寝室を。だまってたって部屋に。おや、これは。無数の奇妙なものが天井から。沢山のガムテープだった。いったい何のまじないですか。さあ。きいていませんか。ない。4畳半で、畳に小寺の洋服類やマンガ本が。ねてた布団はたたまれてた。

*** 040308 窓、錠、宇宙人が電磁波で攻撃、その防護をといってた
窓は2つ。それぞれに2枚のガラス戸。計4枚。それらを中央でとめる畳はスクリュー式のもの。きつくしまってた。その上に窓の桟と柱が接する四方の線。ガラス戸とガラス戸の隙間。しっかりとガムテープ。カーテンがすっかりあいてる。ガラス越に庭の立ち木、隣家との境のブロック塀。その手前にバイクが1台。

窓のところにはデスクと、付属の椅子。脇に本棚、テレビとビデオ・デッキ。ビデオ・テープのならんだラック。デスクの上には螢光スタンドと月球儀、ロケットや奇怪な姿の宇宙人の模型、自動車、ジェット機のプラモデル。壁には土星、宇宙空間のポスター。本棚には宇宙と、地球外生命体についての本、SF小説が。入口は洋式のドア。すぐちかくにトイレ。かんぬき形式の小型錠がこわれてる。これはあなた。うなづく。ねてるはず。よんでも全然返事がない。成程。こんなふうにガムテープで厳重に窓の目張りをした。

ドアにはない。すればあかなくなる。しゃい。この目張りは何故と小寺さんはいってたか。沈黙。沈黙。宇宙人がガスを注入してくると。電磁波が日本にそそいでいる。だから毎晩シーツにくるまる。そういってた。天井のガムテープもそのため。たぶん。成程、やっとわかった。このテープは電磁波を拡散する。これがもっともよい。はい。しかし、あるきにくい。頭にガムテープが。ヘルメットをかぶってた。はい。ジェット型。いえ、フルフェイス。それはバイザーもしめる。首にマフラー。そう。密閉。密室の中で、さらに頭部まで密室。それでは呼吸もくるしい。はい。

*** 040309 でも呼吸がくるしいが、ずっとやってた、やめたかったと
毎晩ですか。このところ。ねむる時。はい。ここにいる時はずっと。はい。この部屋にいる時、ねむる時以外も、そんな格好で。はい。うむ、よほど電磁波がこわかった。賢明な処置です。それらは今。ヘルメットとか、警察に。ふうん。この密室状態で、誰が殺害できる。沈黙。人間じゃ駄目、宇宙人でも。だから電磁波なんだろうと石岡。それなら跡がのこらないぞ。隆さんも宇宙から電磁波攻撃と。うなずく。ヘルメットもゴム手袋もシーツもそのため。うなづく。それでふせげるか。えっ、駄目ですかと朱美。え、勿論ふせげます。しかし完全では。完全にふせぐにはどうすれば。アメリカにゆく以外。沈黙。フルフェイスはバイクのもの。そう。四六時中。だからはやく、やめたいと。やめられるのか。そういってました。で、小寺さんは何を。

*** 040310 誰をおそれたか不知、まだ結婚してない
そう。どう。不知。彼は宇宙に興味があった。はい。そんな方面の学問を。いえ。では卒業してから興味を。はい。大学の専攻は。いえ大学には。ああ。ここにあなたがはいった時、ガスの匂いとか。全然。警察にもきかれた。警察の人にも、おなじことを。はい。警察の人は人間による他殺を。うなづく。でしょうねと御手洗。またきく。誰かにうらまれてた。勿論、宇宙人以外。沈黙。隆さんは、おいくつ。34。で、職業は。やめて失業保険を。4ヶ月は大丈夫だと。で、その間に結婚を。いえ、勤めをきめてから。賢明です。世間は意地悪です。警察が他殺をうたがってる。それは勤め先で。何かありましたか。沈黙。やめる前のお勤めは。LPガスのスタンド。タクシーの。はい。ずっと夜勤、体がまいってた。夜勤はきつい。はい、仕事のピーク時は夜中の3時。タクシーが行列。それで明け方かえる。皆んなやめる。休みがとれない。自分は全然ねむれない。で、やめたいと。

*** 040311 職場でトラブル、部屋の隅、戸外を点検
で、やめた。上役にいやな人。喧嘩したみたい。ああ。その上役からうらまれてた。ちょっと怪我を。ふうん。その上役の名前は。造田と。ゾウダ。ほう。スタンドの場所は。 材木町9丁目。彼のご両親は。死亡。兄弟は。ない。一人。ほう、天涯孤独。とおい親戚は。ふむ。ちょっと失礼。部屋の隅。四つん這い。角を見つめたまま移動。石岡がきく。警察もこんなことを。いえ。御手洗が本棚の前まで。これを拝借。懐中電灯。ガラス越に表の木々。軒下。そのまま部屋の中を移動。ちょっと外にと御手洗。庭にまわる。御手洗は懐中電灯を上下。家の軒下、壁を。壁にそって、なんとか一周、玄関に。何もないと御手洗。何がと石岡。てっきり。ない。残念。庭にもどって立木、1本、1本。ブロック塀の上から隣家の庭まで。ちぇっ、何も。さあかろう。

** 040400 解決にこまる猪神にヒント
*** 040401 ラクさん宅に猪神、しつこく尋問
小平家の前に。男の声。中に。玄関のガラス戸のかげからきく。小寺隆とは知り合い。はい。だから小寺の上司の造田とも。誰ですか。とぼけるな。小寺がLPガスにつとめてるのをしってる。はい。その会社の上司もしってるな。しらない。嘘つくとよくない。いえ、嘘は。本当か。何を。ずっとついてたろ。ずっと、何を。嘘。ない。テレビにでてた。どうして嘘ついた。さびしかった。はっ。とぼけるな。男は怒鳴った。さびしかった。どういう意味。テレビで、何とかいった。宇宙人のこと。

*** 040402 宇宙人の戦争、嘘、ついてない、御手洗が真相をしってると
そう。この山で戦争したといった。すべて見通しだぞ。いった。何にっ。いいました。だからそっちが、いわないといっても。だからいいました。じゃあなんで嘘つく。嘘って。だから宇宙人が戦争してる。してました。どこで。この山。どこ。あそこ。そんなわけないだろ。こんな田舎で。何かたくらんでる。なめるなよ。じゃあどこで、と御手洗が登場。原宿表参道、新宿アルタ前。な、なんだ。こちとらは公務中。邪魔するな。ほう、猪神さん。逮捕状もなしに。素人が余計な口をだすな。事件の真相をおしえようとしたから公務執行妨害。そう裁判官に。おまえが事件の真相をおしえる。いいですよ。頭をさげてたのむなら。

*** 040403 論争、猪神の態度をなじる
馬鹿にするな。近頃の若い者は。宇宙人がでたという婆さんも、どうなってんだ。わらう御手洗に、何がおかしい。日本の将来をうれうる姿には感動するが、あなたのような人がいなくなると日本の将来はあかるく。これが目にはいらないかと警察手帳を。成程、それを真っ先に見せることをおすすめします。でないと。暴力団と。いや、いや。教授だとか偉い人とか。しばし沈黙。やがて。宇宙人の戦争。UFO。常識ある人間なら。あなたはあの山にあがった。べらぼうめ、江戸っ子だ。へえ。江戸っ子でないが、ぼくはあがった。それがどうした。穴、倒木。見たか。それが。見たか、見てないか。だから、それがどしたときいてる。嘘なら地面に穴が。何故。沈黙。じゃあ宇宙人が戦争か。警官がお年寄りをいじめる社会なら宇宙人が鎌倉で戦争だって。

*** 040404 犯人がわからないと指摘される
この、この。何ですか。いっていいいこと、わるいことが。どっち。なにい。それはもういいでしょう。真相をしりたくないなら。真相はわかってる。裏がとれてる。それで無関係な小平さんを。あなたがわかってるという真相は上司の造田があやしい。という憶測。じゃない。現場百回。裏を。しらない情報も沢山、沢山。これが犯人は造田ということ。小寺さんが怪我させたという。はっは、は。造田は左腕、肋骨の骨折。足首のひび。全治2ヶ月。そんな大怪我、ではまようのは無理ないな。何、無理ない。ぼくはついさっき、この事件をしったばかりなので。こっちは全然。ではすこしはまよっては。よけいなお世話。おまえはしってるのか。すこしは。何。だからあなたに、おしえたい。不要。無理してる。こんな無関係の小平さんを尋問をするのだから。

*** 040405 死因もわかってないと指摘、朱美が危険と
やつ当りでない。死因がわからない。小寺さんの。わかってる。ほう。では。おしえない。LPガスの寝室への注入。そう。そんなところね。何。直接吸引でないと、まず無理。沈黙。別のガスかも。じゃあ包丁もあたらなきゃ。あるいは天井のガムテープ。あれとガスが反応。別の毒。ない。その方向は時間の無駄。沈黙。おまえはわかるか。おまえ、専門家。ですよ。何だ、一応きいてやっても。ぼくの見るところ、柴田朱美さんは危険。注意を。どういう意味。ぼくはしったばかり。だからこれまで。話しにならない。とにかくラクさんは嘘をついてない。造田と一面識もない。

*** 040406 御手洗の協力を拒否
保証する。おまえは誰だ。医者か。そんなところ。猪神さん、お名前は。猪神。鎌倉署の刑事課。何かわかればお電話します。いらない。多忙。造田さんの逮捕で。いわない。もっと恥をかくかも。電話をとったら。ふん、宇宙人とか、電磁波とかいう奴に。電磁波とはいってない。わらう御手洗。シーツにくるまる。ヘルメットをかぶる。どう説明します。何だ、礼儀しらずの態度。成程。電磁波だと。いってないですよ。だから。だから。何と思ってんだ。きいてるのはこっち。ガスならシーツは無関係。頭がいたい。いや、同感。もう、無駄。ほかをまわりましょう。どこ。おしえてほしいですか。

*** 040407 御手洗がヒント、特殊IgE抗体
きかない。かえるのをとめないが、一つヒント。被害者の血液サンプルは。その中から特殊IgE抗体の検査を。はああ。特殊IgE抗体。それで理由がわかるはず。専門医が必要かも。メモしたか。馬鹿にすんな。憤然とさる。ラクさんに。ちょっと朱美さんのこと。はい。ご兄弟は。いないと。ご両親は。離婚して母子家庭とか。お母さんは現存。亡くなったみたい。何時。不知だが、だいぶ前みたい。お家はある。ない、アパートぐらし。職業は。夜のお仕事。苦労したとか。ホステスさん。まあ。成程。小寺さんとの結婚がすくいって思ってたよう。わたしたちに挨拶しに。では、いよいよ気をつけたほうがと御手洗。何かあれば電話をといってわかれた。

** 040500 5月10日、朱美の死、保健所をうたがう
*** 040501 夜、ラクさんから電話、小寺家で異変
5月10日。ラクさんが出演したビデオをみた。内容はきいたとおり。テレビスタッフが近所の聞き込みをやってた。宇宙人もUFOも見たことはない。むろん宇宙人の戦争も、たちこめた霧のこともしらなかった。夜、電話。ラクさんから。御手洗がいう。何か。暫時。小寺さんの家に沢山の警官。そのどこ。庭で。事情は。わからない。ふむ。それは何時から。隣りの隣りの庭に警官きたのは。さっき。ふむ。10分くらい前。猪神さんも。うん。何があった。庭にはながいもの。上に白い布が。すぐ行きます。あなたは家に。

電話。外出の用意を。夜はさむくなると御手洗。関内交通のタクシーをよんだ。タクシーの車内で石岡に。こんな時のためオートバイを一台確保しておくべきだった。小寺家に何かがおきるとは。どうして、あわてる。何かわかってる。うん、死体がある。誰の。いいたくない。見せてもらえるか。猪神が。死体はさまざまな推理の材料を。小寺隆と今度の死体。これできっとわかる。ええ、何。いいたくない。見ないうちは。解剖させてくれれば。もっとわかる。今度の事件はそういうものだが。横浜新道。戸塚警察署。住宅街。大船観音。踏切。鎌倉街道。極楽寺坂。極楽寺の駅。ついた。

*** 040502 現場で朱美の死体を、銀色の顔、銀色の着衣
警官に猪神さんからたのまれたといって、御手洗が小寺家にはいった。死体がまだあると御手洗。庭の中央。上には布。あんたは。猪神さんに。猪神の声。小声で御手洗が邪魔しないでくれ。おい。お久し振り。図にのるな。一瞬もみあう。あぶない、くらい。足元が。沈黙。死体の頭部の布を。これはと御手洗。銀色の不可解な物体。女の顔、銀色の彫像のよう。柴田朱美。朱美さんには注意をといった。御手洗が布を下に。等身大の銀細工、着衣の立像。

*** 040503 御手洗が再度、協力を申し出、外衣がない、どこに
おまえなあ。こんな死体見たことは。どうしてこうなったか。沈黙。おまえな。ぼくと出あったのが不運。それは間違い。こんな風変わりな事件。おしえてくれるのはぼくだけ。あなたは幸運。ぼくが答え。あなたが手柄。どう。さてこの死体にはコートがない。夜はさむい。彼女は表でころされた。ブラウスだけではさむい。で、コートはうしなわれた。わかりますか。猪神さん。無言。これが事件の核心、謎をとくクリスタル。家の中に銀色の塗料は。ない。成程。では、コートは。どこかで見ましたか。こたえない。ふうん、解決する必要もないですか。家の中にない。ならどういう意味か。わかりますか。いって死体のそばにしゃがみこむ。カッターや眼鏡はもってますか。猪神さん。ない。ない、ふむ。ポケットからペンライト。彼女の額や頬を。ブラウス。匂い。布の端。指紋に気をつけろ。死体にはふれさせん。下部が。白だった。下はジーンズ。かけだす用意。冒険の夜。おい、本当か。大丈夫か。

*** 040504 死因は頭蓋骨陥没、江の電とぶつかった、保健所をしらべろ
はい、死体の状況だけでは。そして銀色は上半身のみ。猪神さん。この指先をビニールでつつむことをすすめる。爪のすき間から加害者の皮膚組織、血液が 。爪に泥はつまってない。猪神さん、死因は。ふうん。頭蓋骨に陥没骨折。おおきい。出血も。宇宙人がなぐった。おや、わかりましたか。人間なら、銀色などに。だから宇宙人。その柔軟性は進歩。さらにしらべる。宇宙人がなぐった。銃尻で。いえ、江の電です。何。江の電で。何にい。事態は急をようするかも、保健所はしらべたか。何故だ。庭ををあるきまわる。そしていう。宇宙人が戦争。住民から相談が。小平さんがテレビ出演。住民の相談窓口。今すぐあったってください。何故。どうして。

*** 040505 住民相談窓口の課長、江の電沿線に
うん、責任者。課長だ。この人は江の電の沿線にすんでる。おい御手洗と石岡。すんでるものか。ならば次。次。課長の下。係長か。おい、御手洗、真面目か。大真面目。ぼくはあと10分、小平家にいる。8時半。一段落したら声を。しらん。それは自由。だが解決したいなら声を。しかも事態は一刻をあらそう。では石岡君、お隣のお隣に。

** 040600 容疑者をしぼる
*** 040601 ラクさんに担当者の住所をきく
ラクさんに案内されて応接間にはいった。御手洗がいう。保健所の住民相談窓口の係員。しりませんか。ええ。ここにはそんな窓口は。あります。宇宙人の戦争やUFOで相談するかと石岡。する。そうかなあ。保健所で何ができる。できる。土壌汚染など、消毒するだろう。ああ。でもするか。自分の知り合いに保健所を退職した人。その人にきいてみますか。是非。その人はきっと名簿を。担当者の住所をしりたい。はい。電話のほうに。

*** 040602 羽山課長が沿線に
わかりました。今の勤務者。はい。メモを見ながらいう。素晴しい。課長は羽山さん。由比ヶ浜の3丁目。6人分。メモをうけとる。羽山、村山、大上。竹中。斎藤。藤木。これもらえますか。どうぞ。すいぶんしぼれた。石岡君。しぼれた。さらにしぼる。事態は急。その方が得策。ふうん。住民相談窓口だけでいいのか。小平さん、鎌倉の地図は。はい。では、拝見。課長の羽山輝雄。藤木孝一さんの2人だけ。江の電沿線。この2人にしぼれた。いこう。どこへ。2人の家。

*** 040603 免疫力が大事と
ちょっとまって。さっき猪神に。こない。またタクシーか。たかい。人の命の方が。ふん。でも本当か。いくのは極楽寺駅。江の電でいい。まだうごいてるか。はい。ほっとしたか。石岡君。この人は10円のお金にもうるさい。無駄な雑誌、レコードにつかう。アイドルがどこで買い物したとか。ああ、アイドルはすき。2人だけでいいのかと石岡。そんなこと。江の電にのってから。小平さん。免疫力をたかめて。ではおやすみ。お医者さんみたい。免疫力のことは地球人の最大の課題です。ぼくの見るところ。小寺隆さんもそれで亡くなった。何、本当か。本当。まず極楽寺と反対の方に。

*** 040604 担当者にむかった猪神を確認、極楽寺駅に
われらの猪神君に手柄を。ほうっておけば、永遠にヒラ。猪神はいなかった。どこに。いわない。暴力団がどなりあってたら民事不介入。紳士的な市民には居丈高。何をいう。暴力団に。いや市民の方を問題に。でも、猪神さんは。保健所に。いわない。時間の浪費。いったのか、いかないのか。いった。ほう。では、極楽寺駅に。

** 040700 羽山課長宅に、逮捕
*** 040701 小寺の死、石岡がガムテープのトリックを、御手洗がすべてを否定
江の電。ガムテープのことだけど。御手洗の目は窓の外。いまはなしていいか。いい。ガムテープは殺人トリックのために。あんなに沢山必要か。だから、ほかはカモフラージュ。で、何にどうつかった。で、考えた。粘着性。当り。で。何かをぶらさげる。何を。ううん、殺人ができるような何か。ほう。でも、小寺はそのトリックの下でねむった。真下でない。たくさんある、その一つ。だからカモフラージュ。自分の部屋。沢山のテープ。他人の仕業なら、ぎょっと。自分でやった。カモフラージュでない。まあ、そこが問題だが。そのままねむった。自分でやった。ということ。朱美さんもそう証言。うん、だから小寺さんがやったテープを利用した。で、何をぶらさげた。しかし小寺さんはそれを見てながら、自分で内側からかんぬき。その異物の下でねむるか。だからちいさなもの。その何かは。ぼくは、テープを。特に布団の下あたりのを、しっかりしらべた。何も異常はない。だからとった。そのテープだけを。誰が。

*** 040702 朱美が犯人か、結婚で幸せと自宅を得る彼女がか、がっがりする石岡をなぐさめる
ううん。朱美さんしかいない。すると犯人は彼女。何のため。結婚してどん底生活から脱出しようとしてた。えっ。きいてなかったのか。両親は離婚、母親は死亡。財産はない。天涯孤独。賃貸アパート。仕方なく夜の仕事。小寺さんと知りあった。ようやく結婚すれば財産なしの貧困から脱出できる。彼の家が自分のものになる。えっ、そんなことを。おいおい石岡君。おきてるか、大丈夫か。じゃあ彼女は小寺さんの家をねらってた。そんなこと。気の毒そうにいう。世の中はそういうもの。彼女が結婚前に小寺さんをころして、どうする。ころすなら籍をいれてから。女性界の常識。はあ。くらくなるなよ。由比ヶ浜駅についた。

ここはおりない。次の和田塚だ。発車。しばらくして異音。タン、タン、タン。だんだんおうきくなる。意外なほど身近な窓外を、こうこうとあかりをともした工事現場が異音とともにとおりすぎた。大型のハンマーが杭を地面にうちこむ作業をくりかえしてた。大型建造物の基礎工事らしかった。窓のところにいってずっとたってた。 石岡がそばに。わかった。一つにしぼれた。犯人がわかった。和田塚駅でおりた。御手洗は線路にそい、極楽寺の方角にもどっていく。柵をのりこえ線路にはいった。

*** 040703 杭うち現場ちかくに、猪神にあう
杭うちの現場に。足元がゆれる。作業員は2人。そこにまた2人が。おおい猪神さん。こっち。藤木さんの家は無関係。こっち。おまえ、線路立入は軽犯罪。犯人逮捕がさき。こっちへ。あの家。どの家。課長の羽山輝雄の家。あのブロック塀の家。どうしてわかる。あのブロック塀の前の地面をしらべて。朱美さんの血痕があるはず。御手洗どうしてあの家にしぼった。どうして。あそこで工事してるから。へっ。何故、工事。羽山なんだ。プロのレベルじゃわからん。アマチュアの技倆が必要。ではついてきて。ブロック塀の下まで。

*** 040704 羽山宅をのぞく、塀をのりこえ突入へ
姿勢をひくくして。このあたりが現場だ。御手洗が塀から顔をだす。あかりがすくない。2階だけ。留守かな。石が2つ。ここから塀をこえる。令状がないと猪神。そんなの。羽山には家族。家族に危険も。もしちがってたら、おまえ責任とれるか。勿論。おまえには責任はないだろう。ここでまようなら、何故ここまできた。ただの情報収集。朱美さんのことは警告したでしょう。宇宙人といってたぞ。ええ、それは中にいる。猪神が塀から顔を。おまえら線路の中で何をしてると声。工事現場の男だった。警察だ。猪神さん。声がでかすぎる。ここは犯人の家。これで羽山輝雄は逃げ支度。では、突入。ターゲットは羽山輝雄。一人でいい、即刻拘束。何の容疑。

*** 040705 空気銃の狙撃、玄関と庭から突入へ
もう説明の時間がない。二人がのりこえようとした。ひゅーという音。猪神がころげおちた。いたい。光線銃かと猪神。空気銃。弾丸がそのへんにおちてるはず。空気銃。猟銃でなくてよかった。顔をうたれないように。おまえは。玄関にまわって突入。前後からいっせいに。石岡君、いこう。門柱の間に金属扉がしまってた。横にすべらせる大型のものと下の穴におとしこむ小型のかんぬき。しかし鍵はかかってなかった。金属扉のスリットとから手をいれ、そろそろと。下のも。あけた。1分経過。いくぞ。左手で目を。玄関に。ドアノブ。ロック。玄関ドアをはなれ周囲の灌木にそって右廻り。

*** 040706 玄関、施錠、庭に、物置小屋に
1階はどの窓もあかりがない。庭が見える。せまい芝生のグリーン。ネットで三方をつつんだゴルフ練習用のケージ。御手洗の向こうに工事現場のあかり。課長はどこだと御手洗。猪神がやってきた。ちょっと手をあげ、なおもめぐる。物置らしい小屋。銃をぬいてと御手洗。ない。ドアに御手洗。われわれはドアの左右にたった。御手洗の手がドアのノブに。

*** 040707 突入、首吊りを阻止
御手洗が突入。がたんとおおきな音。やめろ。石岡君、あかりのスイッチ。床に尻餅をついた男。その周囲に3人。首をつろうとしてた。脚立がたおれてた。間にあった。おいと猪神。それを制して御手洗。家族、奥さんや子どもさんは。ころしたのか。沈黙。実家にあそびにやりました。ほう。賢明な処置。

*** 040708 コートを発見、鎌倉署に連行
床からベージュのコートをひろう。朱美さんのもの。うなずく。それを猪神に。注意して。塗料が剥落する。大事な証拠品。塗料、何。ここではなさない。あとで。コートをとりかえした。パトカーは。きてる。こいつ、ここにいる。どうしてわかったと猪神。ドアをさして、銀色に。ぬったばかり。内側にはぬりのこし。それに窓に人の気配。では鎌倉署に。

** 040800 謎解き、朱美の死、小寺の死
*** 040801 コートの電車の塗料、御手洗、事件の構造を説明
鎌倉署に到着。羽山が取調室に。御手洗がコートをひろげて。前側を。御手洗がいう。コートのここ、右袖、胸の一部。緑色の染みが。成程。これは何。沈黙。石岡がきく。何。江の電の塗料。えっ。どうして。ぶつかったから。どうして。朱美さんの頭蓋陥没はぶつかったから。その時、着衣は車体とつよく擦過。コートに付着。ふうん。塗料、でもそんなこと、どうして。 自動車ならおきない。電車は熱心にワックスかけない。劣化し塗た料が粉末化の結果だろ。それでと猪神。

この塗料により染みは朱美さんの顔面、コート下のブラウスにも。わずかだが。これらは刺青のように皮膚、繊維間にはいってなかなかおちなかった。するとどうなる。どうなる。自分で考えて。いそがしい。それはお互い。で、これはそちらに。あとは犯人から。ちょっとまって。何。おこったのか。ああ。立場が逆なら、あなた、どうします。沈黙。あなたがいうべき言葉をと御手洗。わるかった。では。犯人を効率よく尋問するため。事件の構造を。この塗料が被害者の着衣に付着してる。そのまま捜査陣にしめすと。

*** 040802 殺害現場・犯人特定をおそれた羽山、証拠隠滅、銀色の塗装
殺害の場所が。江の電の線路のそば。すると。線路端の家にすむ羽山がうたがわれる。これはすぐでないだろう。ところで別のアプローチから羽山が容疑者のグループにあがったなら。そこで、この事実が加味されたなら。羽山が特定される。すくなくとも羽山はそう考えた。で、どうする。江の電の塗料の付着を捜査陣の目からかくす。で、コートをぬがす。ではブラウスは。これもぬがす。羽山は考えた。ところがそれは駄目。顔。これはかくせない。ふうん。

顔についた塗料は刺青化。簡単におちない。自宅には妻子が。死体を長時間放置。できない。翌朝の勤めがある。すみやなに処理を。そこで彼に一計が。ちょうど物置小屋のドアを塗装中。銀色のラッカーのスプレー。緑の染みの上にかける。それでかくす。これが朱美さんの顔、上半身が銀色にそまった理由。成程と石岡。

*** 040803 運転手がきづかない理由、殺害の推理
これは電車による人身事故。運転手は気づかなかったか。気づかなかった。馬鹿な。運転手に責任が。業務上過失致死。それはどうかな。羽山ともみあってつきとばさた。それとも突発的ににげだした。その結果、電車とぶつかった。とすると運転手には責任はない。朱美さんがあぶないと警告した。それを無視したプロとくらべて責任がおおきいか。ふん、人間がぶつかれば、おおきな音。気づかなかったのか。ああ。そう工事の音。もしかしたら朱美さんも、そのため電車の接近に気づかなかったかも。ううん。

*** 040804 犯人特定の理由、死体遺棄、説明おわり
だから、現場は羽山家のそば、犯人は羽山と特定と御手洗。無言。それから死んだ朱美さんを家に。物置で処理。自分の車で極楽寺まで。小寺さんの家の庭に遺棄。どうて庭に。いそいでたから。彼には殺人者という認識はとぼしい。朱美さんとは一面識もない。よってころす動機などない。面識がないのか。おそらく。あるいは羽山は朱美さんの気持を推察。どうしてもくらしたかった家にもどしたのかも。さて、これでよいか。

えっ、それでおわり。だって終電がでてしまう。話しの途中でか。あとは本人に。ぼくよりよくしってる。でも、おまえ、いった。こちらがよく心得てないと、相手にしてやられるって。ではパトカーでおくってくれるか。できない。かりだして、あなたが運転すれば。できない。どうして。大手柄をたてたでしょう。免許がない。えっ。ではぼくが運転を。できない。石岡君、関内までタクシー。金は。ない。

*** 040805 交換条件で説明を継続、ラクさんが見たものは
当人からきけるのに。どうしても。どうしても。あんなに、きかないといってた。では条件が。それを約束するか。何。ある人物をこちらに。そうしたら小平ラクさんが見たものが何かを正確に説明してくれるか。なら、はなす。誰。小平さんの息子夫婦。ラクさんがボケてないことを証明する必要がある。警察官ならうってつけ。ここへよこす。そう。そうしたら正確に説明を。これからぼくが、くわしく説明する。わかった。では紳士的に。沈黙。お願いしますよ。わかった。ではとソファに。

では何から。小平の婆さんが見たあれは何。宇宙人の戦争。ふむ。それから小寺はどうして死んだ。またヘルメット、天井からたれたガムテープ、何故。御手洗、あんな密室でどうやって小寺さんをころした。あれも羽山か。それからNロケット、地球外生命対策研究会、小寺さんの死と関係は。朱美さんとの死との関係は。御手洗がいう。それらは皆んなつながった一つの問題。ただしNロケット、地球外生命対策研究会は無関係。

*** 040806 アレルギー体質、検査で発見された、これは毒がはいる、危険な抗体が生成、ショック死も、医師が厳重注意
研究会としろいシーツだけ。小寺さんは別の理由でヘルメット、しろいシーツが必須だった。へっ、ガムテープも。そう。まとめて説明する。小寺さんの特別な体質から。彼はアレジーがあった。花粉アレルギーとかの。もう断言はむずかしくなったが。あったことは確実。その理由は次のとおり。

小寺さんはアレルギーの専門医に検査にいった。この検査で、抗原、これへの特殊抗体、同時に感作化された特異的な特殊IgE抗体が発見された。通常の検査、治療ではこの抗原抗体検査まではしない。まだ日本にはこれをおこなう専門医もすくない。彼の異様な行動から受診を推理できる。

この検査の時に卵、杉の花粉の抗体以外に非常に危険な特異的IgE抗体が発見されたと思う。ある特定の毒物に起因するつよいアレジー。通常、くしゃみ、鼻炎、かゆみ、じんましんなどをひきおこす程度だが、これは30分程度で激烈なショック、すなわち全身痙攣、呼吸停止、心拍停止にいたる大変危険なアレジーだった。そんなのあるのか。ある。これを称してアナフィラキシーという。無防備という意味。つまり小寺さんはアナフィラキシー・ショックをおこす可能性を体にもってた。これが検査で発見さた。だから専門医はこの毒からとおざかるよう厳重に警告した。それは一つの毒物か。そう。小寺さんは過去にこの毒素が一度体内にはいってる。そして体内に特異的IgE抗体をつくってる。もう一度この毒がはいると抗体に結合して命をうばう。だからとおざかるよう。体内にいれないよう。厳重に警告したはず。

*** 040807 免疫とは、アナフィラキシー、ありふれた毒
免疫、アレジー、アレルギー、アイ何某、何。時間がかかる。IgE抗体。これは免疫グロブリンE。一種のタンパク質。血液中にある。抗原抗体反応に関与。IgEのほかIgM、IgA、IgG、IgDの5種類がしられてる。免疫とは抗原抗体反応のこと。現象面的にいえば、疫、つまり病。これを免れるという意味。人体にもともとある機能。一度かかった病気には二度とかからないという現象。これを利用して種痘などの治療法が確立されたこれを毒素を中和する抗毒素、すなわち抗体の働きによると立証したのが日本の北里柴三郎やドイツのベーリングだった。免疫機能とはこのように抗原という悪者にたしする正義の抗体反応として了解される。人体をまもるありがたい機能とのみ理解されてきた。

ところが1902年に、イソギンチャクの毒素を犬に注射、時間をおいてふたたびおなじ毒を注射。すると犬は痙攣をおこし死んだ。この現象は免疫機能の何らかの作用。だが有害な作用。なので医学界の免疫理解に混乱。この現象はアナフィラキシーと名づけられた。体をまもる機能が逆に体に害をおよぼすこともあり得ること、この混乱を統合整理するためにアレルギーという考えをピルケが提唱。

これにはいろいろあるが、I型からIV型までがよくしられてる。アナフィラキシー・ショックはこの名でも激烈なもので、I型によってひきおこされる。ある特定の毒、つまり抗原が体の中にとりいれられると、体質によっては特異的IgE抗体がつくられる。おなじ毒が二度目に体内にとりいれられた時、鼻とか腸の粘膜でその特異的IgE抗体が毒と合体、つづいてこれが肥満細胞と結合、この細胞表面で抗原抗体反応がおこる。肥満細部が活性化。すると肥満細胞が内にたくわえてたヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学伝達物質をどんどん放出。これが人体内の各臓器に作用してさまざまなに深刻な障害。これにより生体機能は致命的なダメージを。命をおとすことも。ということ。

ふうん、小寺さんは特異体質。その抗原、毒素を一度体内にとりこんでいる。すると血液の中に特殊IgE抗体がつくられる。これは危険。もう一度その抗原がはいってくるとこの特殊IgE抗体というものの作用で死ぬ可能性も。そうかい。そのとおり。小寺さんの場合、別のアレルギーの検査でこの危険な特殊IgE抗体が偶然発見。だから医師の勧告により小寺さん当人にもアナフィラキシー・ショックの危険がよく自覚されてた。で、その毒素とは。これはごくありふれたもの。この毒の日常性が一連の不可解ぶりをつくりだした。不可解ぶり。

*** 040808 蜂の毒、オオスズメバチの巣、厳重な防護策
宇宙人の戦争、霧の発生、天井のガムテープ、テープによる窓の目張り、ヘルメット、マフラー、手袋、そしてしろいシーツ。わからない、何。猪神さん、わかりますか。無言。答は蜂。蜂。蜂毒。そうか。蜂の中で獰猛なオオスズメバチ。この巣が小寺さんの家のちかくにあった。成程、殺人蜂という。蜂にさされて死ぬ人の9割がこのアナフィラキシー・ショック。それで窓に目張り、ヘルメットか。そう。窓の目張り、蜂の侵入を。天井のガムテープは侵入した蜂を。それでも飛びまわられらた時、ヘルメット、首にマフラー、手袋。体にはしろいシーツ。蜂はくろいものをおそう習性。それでしろいシーツ。成程。ぼくは蜂の可能性を考えた。だが巣は軒先、木の枝に。そういう場所ばかりを。全然なかった。ちがうのか。蜂の巣は地面の下、地中につくる。そうか。石の下、ふるい木の根の下。ビルディングみたいに何層も。兵隊蜂たちは地面にあけたトンネルをつかって出入り。

*** 040809 巣の除去を相談窓口に依頼、朱美も懇願、殺意を秘めて沈黙、証拠隠滅が宇宙人の戦争
へえ。それがあの地面にあいた大穴。オオスズメバチの巣をとりさった跡。4つ。オオスズメバチの大コミュニティ、一大発進基地。小寺さんは毎日が不安だったろう。えっ、するとあれをとりのぞいたのは誰。鎌倉の保健所、住民相談窓口の、羽山課長以下の保健所員。保健所には、さっきいったでしょう。猪神さん。そう、でも本当のことをいえない理由があった。皆んなに。そう。ええ、どういう。あの除去作業は5月の7日。ところが小寺さんが死んだのは5月の5日。この意味は何。無駄だ。だから、こう推理できる。

うん。小寺さんは命の危険を感じて住民相談に再三うったえた。巣をとりのぞいて。駆除してくれ。自分はかってオオスズメバチにさされた。特異な体質。もう一度さされたら死ぬかも。はやくしてくれ。なるほど。アナフィラキシー・ショックといっても誰もピンとこない。窓口はうごかなかった。ひどい。保健所は専門家。症状の勉強くらいやっておくべき。

朱美もそう考えた。えっ、彼女はしってたのか。そう思う。でも何も。君がたずねても。そう。何故。怒り心頭に。だったらなお、いうだろう。まあ、まよってたとは。しかし、どうしてもいえなかった。いえば相談窓口の羽山課長がころされた時、犯人が自分と。じゃあ、あの時すでに彼女は殺害を。彼女は怒りから狂気へ。小寺さんとの結婚が惟一の希望。だから彼女もまた必死で相談窓口に。フィアンセが死んでしまったら、自分はひどい暮らしから脱出できない。ああ。とこが死亡。さされたか。

おそらく。部屋を懸命にしらべた限り、蜂の死骸はなかった。目張りしてても駄目。ドアがあいてる。玄関から、トイレの汲み取り口から。ふうん、あれは殺人でない。ちがう。電磁波でも。ひどいじゃないか。出鱈目ばかり。あれはフィアンセにあわせておく必要が。警戒させると情報が。ともかく朱美は窓口にはげしい怒りを。自分の幸せをうちくだいたのは羽山課長となった。ああ。そうだね。彼女がおこった理由はほかに。何。連中のみにくい保身。死んだときいてあわてた。保身をはかった。保身。あれがあの宇宙人の戦争だ。そういうこと。小寺さんの死が蜂毒。これが医師により立証。彼が住民相談窓口に何度も。露見すれば放置してた。これは問題に。先送りはお役所のお家芸。もし裁判。なら証拠は隠滅。人目につきにくい明け方に。証拠をもちさった。それが宇宙人の戦争だ。

*** 040810 防護服、ヘルメット、発煙筒、煙の中の懐中電灯、道路清掃車
なるほど。ヘルメット、宇宙服顔負けの防護服。巣をほりだし除去。煙は。発煙筒。大量の煙を注入。すると蜂が仮死状態に。作業が安全に。じゃあ火花は。発煙筒着火するとしばらく火花を。ふかい穴にいれるためにはながい棒が必要。じゃあ、光線銃は。ただの大型懐中電灯。大量の煙。光の筋ができる。光線銃。声は。悲鳴は。尋常じゃない蜂が。悲鳴も。はあ、戦争じゃない。極楽寺みたいな田舎に。宇宙人が。UFOは。ただの道路清掃車。前に大型のタワシがついてた。はあ。さらに課長は 念には念ををいれて蜂の死骸を一匹のこらずひろった。当日はもちろん、後日も。緻密だね。あると思ったがないからね。ふうん。課長は小寺さんの遺体から特殊IgE抗体がでないことを。変死で刑事事件の疑いが。なら司法解剖にまわる。しかし通常の血液検査ではIgE抗体のチェックまではしない。結局何もでず。遺体は家に。課長は命拾いだ。そう。でも朱美さんは、うったえなかったのか。なかった。おそらく金がないから。和解金は数10万。弁護費用をはらえば。

*** 040811 朱美の復讐、ジョギング時を襲撃、反撃、死亡、辞去
朱美さんはどうしても羽山課長をゆるせない。それで復讐に。成程、でもどうやって。彼は夜ジョギングにでる習慣。え、どうしてわかる。これは推測、芝生の真ん中が一筋うすくなってた。塀の際には踏み台になりそうな石が。塀の外にもおなじような石。ここから出入りという可能性。ともかく朱美さんは、この習慣を小寺さんにきくなりしてしってたんだろう。それで彼女は夜、塀のそばに張り込み。羽山課長がでてくるのをまった。で、おそおうとした。失敗。もみあい。その末、江の電にぶつかり、死亡。その後の羽山課長の工作は、すでにのべたとおり。さて、説明は以上。質問は。では造田は。誰ですか。ああLPガスの。小寺さんの元上司。無関係。では猪神さん、ぼくは話しをした。あなたは約束をまもる。お願いします。あんた名前は。へっ。いいでしょう。もうお会いすることもないから。で免疫の話しはわかったでしょう。怒りがすぎると病気になりやすく。ではさようなら。

二人はちかくの海岸で缶入り紅茶をのみながら夜明けをまった。

(物語おわり)

* 050000 感想
落語の人情話のようである。少女が散歩にでた御手洗に依頼する。自分たちの何気ない言葉が、したしくしてるお婆ちゃんを老人ホームにおいやる。江の電沿線の極楽寺駅のちかくにすむお婆ちゃんが宇宙人の戦争を見たとテレビでいった。大人たちは老婆をボケたと考えてる。御手洗がたずねる。すると近くで葬式。死者は地球外生命対策研究会の会員だった。焼香。婚約者の朱美に生前の様子をきく。異様な状況におどろく。お婆ちゃんを嘘つきあつかいする強引な刑事が登場。やがて朱美の死体が発見。事件は急展開、御手洗が見事に解決する。

御手洗が大活躍。その名探偵ぶりと奇人ぶりが目だつ。ほどよいキャラの石岡と好対照をなす。江の電にのってでかければ、いまでも見ることのできる日常生活の中におきた事件である。登場人物の誰も悪人とはいいきれない。御手洗は少女の依頼にきちんとこたえて、物語がおわる。ロンドンの221Bで共同生活をしたホームズとワトソンを現代の横浜にうつしたような探偵小説の好編である。

* 060000 テーマ
少女が胸をいためたお婆ちゃんをすくうため、どのように事件を解決するか、がテーマである。

依頼をうけた御手洗はただちに現場におもむき、翌日第2の事件にも現場にタクシーで急行、遺体検証の後、犯行現場にのりこみ、犯人をとらえた。依頼をうけて翌日に完了した。移動手段は公共交通とタクシー。解決後、鎌倉署から横浜までの交通手段がなくなったので、ちかくの海岸で石岡とともに夜をあかした。御手洗の解決の鮮やかさを際だたせた。

* 070000 評価
1) 理論的に可能か、2) 実際にあり得るか、について、問題はないと思う。

2) についてだが、オオスズメバチが土の中に巣をつくることを御手洗がしらなかったという事実、住宅街である極楽寺で夜間土木工事をしてたことは、疑問がのこる。

ここでこの作者の推理についてのべる。推理はもっとも確率のたかいものをえらんでおこなうと御手洗にいわせてる。その実際の過程は、丹念にいろいろな可能性を検討してすてる。それが煮つまるとあたらしい場面に展開する。また可能性を検討する。これをくりかえし、正解に到達してる。また、すてさられた可能性のなかに正解への重要なヒントをかくしてる。

沿線にすむ羽山課長のところにむかう途中、御手洗と石岡が江の電の中で会話する。石岡が小寺が布団の中で死んでたトリックにつき御手洗にきく。ガムテープがトリックであり、それは粘着性だ。御手洗は石岡が提示する考えに一々反論し、論破する。一見無駄なようだが、石岡が最後にあの粘着テープを天井からぶらさげたのは、何かちいさなものをひっつけようとしたといった。それは小寺がオオスズメバチによりショック死したことの重要なヒントになってる。

物語の中に展開される推理のおおくはすてられる。そこに御手洗の飛躍した論理、とぼけた石岡の論理、強引あるいは常識的な論理がいりみだれる。個性ゆたかな登場人物、急展開する場面の連続とあいまって、推理小説の醍醐味を感じさせる。

(おわり)

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