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謎解き島田、ネジ式ザセツキー [島田荘司]

* はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 本文


*エゴン・マーカット(1/2)
** A 記憶障害者との出あい
*** 1) 日本のこと、映画のこと

1) 11月、ウプサラ大学の研究室で御手洗はエゴン・マーカットとその友人ハインリッヒに会った。エゴンは記憶に障害がある。
初対面の挨拶と自己紹介をした。快活な人柄だった。日本からきたというと、ためらった後で、日本のお陰で生きている。それが何故かわからないといった。壁にかけてある絵を見て、何かときいた。抽象画はすきでない。アメリカのエドワード・ホッパーの「夜更かし」がすきという。映画の話しとなった。ヒッチコックの熱心なファンだという。「トパーズ」「フレンジー」を見てるという。しかし監督最後の作品「ファミリー・プロット」を知らなかった。

*** 2) 治療が必要、訪問の目的

1) ここは何を研究するところか気にした。自分の脳がおかしくなってるといった。社会に適合できてるか。然り。毎日楽しいか。然り。人生に後ろ向きか。否。ではエゴンに電気ショックをあたえるような治療はしないと安心させた。御手洗がしかし患者として時には治療の必要があるというと、すこしガッカリした。
御手洗がエゴンを呼んだのでないというと、やっと訪問の目的を思いだした。毎日が空虚。帰るべき場所がある。思いだせない。それを御手洗にみつけてほしい。できるかも。ところでハインリッヒとは。知りあってどれぐらいか。???、体重のこと。時間だ。エゴン思考が飛躍したようだ。綿が鉄のかたまりと同じ速さでおちるか。真空なら同一。目がかがやく。軽いものなら浮かびやすいでしょ。うむ、で、どうやって浮かぶか。もちろん羽ばたいて。ハインリッヒが横から口をだした。

*** 3) 肩甲骨は翼のなごりか

1) エゴンのレントゲン写真をみせて、両方の肩甲骨の中央部に突起がある。これは人工骨でないといった。エゴンがいう。肩甲骨は翼のなごり。しかし自分のがそうかはわからない。重量の話しとなる。地球がないところでも物体の重量があるか。ある、光すらある。強い重力により光が外に飛べだせなくなる。ブラックホールだ。御手洗が太陽系の惑星についてきいた。

*** 4) 帰還、どこへ

1) よく知ってた。原人についてもよく知ってた。恐竜についてもさらによく知ってた。しかし最近の地震竜は知らなかった。エゴンが書いた童話「タンジール蜜柑共和国への帰還」の話しとなった。「帰還」とは何か。不知。主人公の少年は物語の中では帰ってない。本来の願いが実現しなかった。これが「帰還」という言葉をえらんだのでは。そうかも。それを御手洗にみつけてほしい。それは自分でみつけるしかない。タンジール蜜柑共和国でないか。否。あれはファンタジー。では帰るべき理由は。

*** 5) 物語の世界は実在か

1) エゴンがいう。帰るべき場所も理由も頑張って考えた。わからなかった。エゴンの現実の体験と記憶が、物語と密接に関係。成程。鼻のない老人を描けるか。可能。それは実際に見たからだ。妖精も見たのでは。実際に見たものしか描けないとエゴンがいった。スケッチを見て御手洗が他の作品も実景を描いていた。実際に見たという実感がわく。ただ記憶がないだけ。それはどこにあるか。不知。でもそこにボートにのっていった。エゴンが住人の首がネジ式になってる不思議な国にいったと思うようになった。

*** 6) ネジ式も日の丸も嫌い

1) 御手洗がキャンディのはいってるガラス壜を見せて、ネジ式となってる蓋を回した。とたんにエゴンが苦し気になった。鼻のない老人、妖精を描いてもらった。どれも同じような顔だった。主人公の妖精の顔はとても可愛いい、それは。むづかしくて描けない。最後に御手洗の顔を描くようたのんだ。最後にエゴンのサインを付記するよう指示した。その3枚と物語を重ねて机上におき、さらに黄色のハンカチでおおった。
2) 第二次大戦中の各国の戦闘機の模型を見せた。零戦が嫌いと。日の丸が嫌いといった。御手洗は休憩をとることとして部屋をでた。

** B 二回目の対話
*** 1) 対話を繰りかえす

1) カフェ・ラテをもってもどると、二人がいた。前回と同じように挨拶、自己紹介をした。同じようにすすんでいった。日本について恐怖感をもってた。前回とちがい抽象画がすきといった。映画では、ヒッチコックのフレンジーまで知ってた。ここには、はじめてきた。病院か。研究室というと、ちょっと、ためらって自分の脳がおかしいのかといった。治療したいかときく。否。必要は。無。では御手洗が治療するつもりはないといった。何故自分がここにいるのか、とまどってた。横からハインリッヒがエゴンには探し物があるのだろう、と助け船をだした。

*** 2) 空虚な人生を指摘

1) 御手洗が自分が、ここまで何をしてきたのがわからない。それを知りたい、といったら、否。自分は、スウェーデン、イエテボリ生れ。小中高もイエテボリだ。大学では生物学科を卒業、海洋調査船に乗船、次に貨物船に乗船。1947年生れだった。全部わかってるといいはる。現職をきかれ即答できない。童話作家と指摘された。ハインリッヒが同業者である。知りあったって何年。即答できない。御手洗が前回の会話を繰りかえす。重さでなく時間をきいているという。話題をかえた。

*** 3) エゴンの脳をさぐる

1) 御手洗がエゴンの肩甲骨は特別ときく。その突起は人工でなく自然のもの。それは翼のなごりか。否。しかし先祖がえりかも。猿人の歴史をきいた。前回同様、ネアンデルタール人が数10万年前、ジャワ原人が50万年前、クロマニヨン人が2、3万年前と正確な説明があった。猿から人類に進化する長い道程、それをたどるのに重要なミッシングリンク。エゴンはその話題に夢中になった。1953年に捏造が発覚した「ドーソンのあけぼの人」のことも知ってた。エゴンが人類の起源について話す。

*** 4) 恐竜をかたる

1) 三畳紀、白亜紀、ジュラ紀がある。白亜紀のねずみのような哺乳類が生きのびて猿人、人類と進化したといわれる。しかし白亜紀、ジュラ紀にかけて鳥に進化していった鳥脚類がいる。人類に似た二足歩行をする。人類の起源は複数という考えがある。それが肩甲骨が翼の名残りとの考えにつながる。6500万年前に絶滅した恐竜の話しとなる。
2) 絶滅の原因をエゴンが世界的に海が乾き、生態系が変化し、草食恐竜が絶滅、それを食料にする肉食恐竜が死滅といったので、メキシコのユカタン半島沖におちた巨大隕石原因説を話す。不知。驚愕してしばらく無言。太陽系の惑星についてきいた。

*** 5) 記憶の欠落をさぐる

1) 正確な説明があったが、無人探査機ガリレオがもたらした情報から、木製の衛星ヨーロッパの表面の氷が潮汐作用により二重の峰をもつ筋がある。これを知らなかった。タンジール蜜柑共和国への帰還の話しとなった。

*** 6) 自作物語をきく

1) これは自分が書ける最初で最後のものといったエゴンに何故ときく。もう頭の中に書くべきものがない。ではこれはどこからきたか。暫く無言、苦闘、どこからかやってきた。エゴンの過去は一つ。そこらやってきた物語が一つだけ。当然といった。さらに御手洗が物語を説明する。

*** 7) 記憶の仕組みを説明

1) エゴンの過去がこの物語に奇抜な形となってあらわれてる。記憶は、一定のパターンで活性化するニューロン集団のこと。それはすぐ消滅するものも、長期に保持されるものもある。最初、脳内の海馬に収納される。すくなくとも、2、3年はここに保持。再体験の頻度がたかまると皮質にうつされる。こうなると海馬の助けなしで保持できる。記憶が分解され保持される時、それぞれに取っ手がつく。脳に何らかの故障があると問題がおきる。
2) ワインの味覚とヴァイオリンの演奏の記憶に同じ取っ手がつく。間違って取りだされると、そこで、質のちがいをフィクションによって合理化する。さらに異種の記憶が側頭葉にうつされると分離しがたい形でうつされる。ストーリー自体は似てるがまったく架空のエピソードとなる。こうなると各所に辻褄のあわないところがでてくる。するとこの人の脳は別のフィクションを用意して別の方向から辻褄あわせをするといった。エゴンの過去はこの物語にかくれてる。エゴンは納得したようだ。

*** 8) 過去の記憶をなくしてる、時期を指摘

1) 今、話してるのはエピソード記憶である。過去はエピソード記憶によりよみがえる。エゴンにはこれが機能してない。大学を卒業してから数年後から現在にいたるまで、この過去がすてられている。御手洗が机上の黄色のハンカチの下に何があるかきく。不知。エゴンのサインをしめし、さっきエゴンが描いたことをしめした。悄然、自分はアルコール中毒者の集まりに参加してるといった。

*** 9) 御手洗がエゴンの脳を診断

1) 御手洗が推測する。日の丸に恐怖感。てんかん治療がこの感情がうすれさせることがある。それはない。重度のアルコール障害で記憶の欠如。ありそう。この物語のエピソードは安定。進行性の健忘はなさそう。場所、時間の失見当。ありそう。
2) エゴンはストックホルムの重度アルコール依存者更生医院にいるエゴンはハイりッヒをつうじて御手洗に面会を希望した。帰るべき場所をみつけてほしいという。この医院の院長もすすめたらしい。御手洗がエゴンの脳を診断する。
3) 過去の記憶がないと、人生はないも同然。今、ハインリッヒとずっと同席してるから友人でいられる。わかれて明日会ったら初対面の挨拶をするでしょう。エゴンの記憶脳は正確な記名、保持ができない。再生も円滑にできない。だから過去がないと託宣した。エゴンにはその重大性が理解できない。あるいは記名も保持もあるがエゴンには再生のスイッチがはいっていないとも考えた。そこである実験をすることとした。

*** 10) ある実験をする

1) 8本の薬壜をならべて、蓋をまわした。その拒否反応は予想より軽かった。次に零戦をみせた。拒否反応はこちらの方が強かった。飛行機へのあこがれはあるか。鳥のよう自由に飛びたい。あこがれはある。飛行機には特にない。では、物語に愛らしい妖精が登場。瞳にプロジェクターをもち、ダイヤモンドのように輝き、あるいは万華鏡のように見える。それがどこからきたのか。わからない。しかしとても魅力的。では鳥のように飛ぶこととその魅力とくれべたら。断然、妖精。彼女に実際に会ってるならすばらしい。しかしもう会えないだろう。御手洗が鏡文字を書くようにいった。
2) AからZまでを四度書いた。それをタンジール蜜柑共和国への帰還の上におき、それらを黄色のハンカチでおおった。御手洗はすぐもどるといって、廊下にでた。

*ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

ネジ式ザゼツキー (講談社ノベルス)

ネジ式ザゼツキー (講談社ノベルス)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 新書




*タンジール蜜柑共和国への帰還

** 1) 探索の旅のはじまり
*** 1) バルディに会う

1) 小さな肘の骨を持って、少年のぼくは一人でボートに乗っていた。ぼくは骨の持ち主を探して旅にでたのだ。三階建ての高さのひまわりを眺めていたら岸のほうから茶色の熊がいう。そこから先はサンキングの領域だ。危ないと叫んだ。
2) 上陸後、その熊はバルディという。ぼくはエッギーと名のった。どこからときく。スウェーデンからという。ずいぶん遠くからきたねといって案内してくれる。ひまわりの並木道が切れるあたりに巨大なタンジール蜜柑の樹がそびえてる。てっぺんは雲の中にとどいているようだった。幹の太さは大邸宅の周囲くらいもある。幹のぐるりには螺旋状の階段が上まで設けられている。
3) 上空では枝が四方に張りだし葉をつけていた。無数の葉の間には鮮やかなオレンジ色の蜜柑の実がたくさんなっている。

*** 2) マーマレードの野外製造工場

1) バルディが指さすところを見ると、背中から羽がはえた女の子が浮かんでる。なってる果実をもってどんどん下におりてきた。卓上に女の人がならべて、輪切りにする。それが籠にあつめられ、女性によりプールにほおりこまれる。多数の裸足の女性がにぎやかにしゃべりながら踏みつぶす。これはマーマレード製造工場だという。壜につめられたマーマレードは夕陽の色と同じだった。バルディが旅の目的をきいた。村長のダイソンに会えという。Cの11丁目だといった。

** 2) 村長をたずねる

1) 蜜柑の樹はバベルの塔のように巨大だった。木製の螺旋階段をゆっくりゆっくりとのぼっていった。果実のなってる枝にくると、蜜柑をいっぱい胸の前にかかえた女の子が浮かんでた。さらにのぼって広場にでた。そこから道がAとかBとかにわかれていた。へとへとになってCにやってきた。樹を背にした家屋がならんでた。家屋はベランダでつながってた。まだ店をあけてないレストランもあった。ベランダの上に寝台をおいて、その上でねそべってる老人がいた。ダイソンさんはどこかきいた。自分だという。骨をみせて持ち主をきいた。ルネスだろうという。マンギャン族の娘だという。川のむこうのサンキングの町ではたらいてる。どうしたら会えるかきいた。
2) 夕方になると船にのってもどる。ルネスは右腕がなく、目にプロジェクターがついている。それがダイヤモンドのように光かるのでわかる。だがマンギャン族の娘は見しらぬ人を警戒する。どうしたら骨をもどせるか、きいた。どうしてもかえしたいのなら秘密をおしえる。左足の小指の爪がボタンになってる。それをつよく押すと話しをきくようになる。ダイソンさんはルネスの幸せを第一に考えてくれ。幸運をいのるといった。

** 3) ルネスとの出会い

1) 熊のバルディと桟橋にむかった。ゲートのところでまってる時、バルディが、このところずっと満月ばかりだ。三日月にならないと住民が文句をいってるといった。川の下流から三階建の大型フェリーがやってきた。サンキングの町ではたらいている労働者がおりてきた。まず、バルディと同じ、足が車になってる熊の一群だった。ここでバルディが家族といっしょにかえるといって、わかれた。
2) 次は普通の足をした人たちだった。全員がスキップをしてかえっていった。ルネスはいなかった。心配になって見ると、一人の小柄な女の子があるいてた。人形のような綺麗な顔をした、ミニスカートがかわいい子だ。ルネスだった。いそいで声をかけた。しかしポーンポーンと飛びはねて泉のそばの橋までにげていった。やっとのことで追いついて用件をはなした。危害をくわえないといったが、羽音をひびいた。そして東に飛んでいった。がっかりして、もときた砂浜の方にもどっていった。ひまわりの幹の後ろからエッギーとよばれた。ルネスが骨をみせてといった。飛びたとうとするルネスをつかんで左足の小指のボタンをおした。
3)空中に浮かんでいたルネスが地上にころげおちた。立ちあがって、肘の骨だけではたりない。サンキングの博物館にある骨が必要だといった。ぼくはもう、さようならしようとしたら、駄目、協力してといわれた。あきれてどうしようかと思ってたとき、サンキングの見廻り機がやってきた。サーチライトをのがれてルネスと二人でひまわりの陰にかくれた。飛びさる見廻り機を見ながらルネスが、あなたはもうサンキングにマークされている。わたしに協力しなければいけないといった。

** 4) ルネスと夜間飛行

1) ルネスにさそわれて、タンジール蜜柑の樹の家にいった。途中のレストランはやっていた。おおくの人の声がひびいた。家は20丁目にあるという。ルネスは羽で浮かんでいたが、ぼくはまた歩かねばならなかった。ルネスが緊張した声で、見廻り機がやってきたといった。身をひそめていると、葉のざわめきとともに、サーチライトの光が下からのぼってきた。二人はマークされているといった。

*** 1) ルネスの体の秘密

1) 家についた。お爺ちゃんとよんだ。鼻がかけて鼻道がむきだしの、やせた老人だった。ホセと紹介してくれた。寝室が二つ、キッチンのまずしい家だった。豆のスープとパンとハムのつつましい食事をすませた。ホセ老人はすぐ寝室にひっこんだ。ルネスは自分の体はプロジェクターがついてるが、普通の生き物だ。中央管理のコンピュータが利用できる。関節はねじ式や蝶番の「ねじ式ザゼツキー」だといった。

*** 2) 博物館への侵入路

1) 中央管理のコンピュータの情報を利用できるといった。サンキングの博物館への侵入路をプロジェクターから壁に投影して説明してくれた。この時の武器には麻酔銃をつかう。明日決行するという。ぼくはルネスのように飛べないと文句をいった。すると飛べるといった。キッチンの窓をあけて、自分にしがみついて飛ぶようさそった。こわごわルネスにしがみついて、空中を浮遊した。タンジール蜜柑の樹の上までのぼり、さらに飛んだ。地上の光景は綺麗だった。月影を反射してる川、街路灯にふちどられた道路が見えた。

*** 3) 月の秘密、マウラン・ハンギン

1) 月のところまでのぼると、月はぶつぶつの無数の穴があいていた。そこから風が吹きでていた。そのお陰で快適な気温がたもたれていたのだ。ルネスがこの月が壊れるとみな生きてゆけなくなる。マウラン・ハンギンとよばれてるという。ここはどこだときく。タンジール蜜柑共和国といった。羽がはえてるのは女だけ。それも小さなものだという。男でも飛ぶことができるといった。こわがるぼくの手を振りほどいて、ルネスは空中に浮かぶことをおしえてくれた。でも、地上の物にふれたら駄目、落ちてしまうといった。下を見ていて変なことに気づいた。東西の道路は直線なのに、南北はぐにゃぐにゃとまがってる。明日地上から飛ぶことをおしえるといった。

** 5) ルネスに同情する

1) ルネスが小箱をくれた。連絡用だという。チャイムがなったらでるようにいわれた。朝食後、キッチンの窓からでていった。桟橋までいってサンキングの工場に出勤するという。ホセ老人とふたりきりになった。無口で話しがはずまなったが、昼前、酒をのんですこし快活になった。身の上話をしてくれた。サンキングの残虐行為によって鼻をけずられた。出血多量の瀕死の重傷だったが村人の親切でたすかった。風邪をひきやすくなった。もとどおりに働けなくなった。ぼくはどうしてそんなことをするのかと、きいた。
2) 特に理由はない。サンキングは自分たちを偉い人種と考え、われわれを馬鹿にっしてる。しかし、この世界をつくったのはサンキングだ。彼らの科学はすすんでる。ルネスはサンキングに強い反感をもってる。心配だ。それをとめてほしいといった。やがた酔いつぶれてねむってしまった。チャイムがなった。ルネスからだ。日暮れ時にタンジール蜜柑の樹の下でまってるといった。時間はずっと先だったが、下におりた。バルディにあった。
3) 昨夜はルネスの家のソファでねむった。サンキングはひどい奴らだといったら、同意した。人びとの体をバラバラにして分解する。連中はモンスターだ。どうして闘かわないのか。ルネスは闘うらしい。あの骨はルネスの肘の骨だった。彼女はサンキングの博物館から取りかえしたいといった。バルディはおどろいて、ぼくに彼女は危険人物としてマークされてる。手つだうのはやめるよういわれた。そしてルネスはサンキングの上層部の人物と特別に親しいといったが、具体的のことはおしえてくれなかった。
4) ルネスといっしゃに空を飛んだといったら、笑ってそれは夢だと信じなかった。月に無数の穴があいてることも信じなかった。しかし東西の道と南北の道がちがってることは認めた。ザゼツキー構造のことをきいた。バルディの体もそうだと認めた。さらにまたルネスと仲よくするのは危険だと助言してくれた。しかし、ぼくはもうルネスをたすけなければいけないという気持になっていた。

** 6) 博物館への侵入
*** 1) 見廻り機におわれる

1) 夕方、まってるとルネスがやってきた。エッギーといって、うれしそうに抱きついてきた。それから、ぼくにこれからどうするのかきいた。とまどうぼくに、よそ者は1週間しかいられない。ここの人になりなさいといった。もっていた紙袋をぼくに押しつけて、こっちにきてといった。秘密の洞窟にゆくという。サンキングの見廻り機がやってきた。マーマレード工場の小屋の角をまがり、ぶなの林をぬって全力疾走した。サーチライトが追っかけてくるのを感じながら、暗い洞窟の穴に飛びこんで一息ついた。

*** 2) オーニソプターを組みたてる

1) 中にはマーマレードの壜を梱包した荷物が何段も積みあげられていた。ルネスの指示により奧から不思議な機械を引きずりだした。それを素早く組みたてた。オーニソプターという飛行体だ。左右それぞれに透明の二枚の羽をもち、その下に主翼をそなえている。燃料カプセルと人工筋肉を装填した。それを見廻り機の発見をおそれながら、坂の上に押しあげた。ルネスはここからの道が惟一南北に直進している。この坂を利用して、オーニソプターを走行ささせて飛行させる。ルネスは飛行体を押し、ぼくは操縦席についた。速度メータが20mile/hrとなった時に思いきり操縦桿をひく。すると飛びあがるという。

*** 3) 空を飛び、結婚を約束

1) 羽がうがだし、最速になった時、飛行体はすべりだした。はげしい振動にたえながら、速度計をみつめて、20mile/hrになった時に思いきり操縦桿を引いた。浮いた。喚声をあげた。昨日みた光景がよみがえった。川も見えた。ルネスが操縦することとなった。レーダーをさけるため、川面すれすれを飛行する。ルネスが右手を取りもどしたら、ぼくたちは結婚しようと約束した。前方に都市の建物群がせまってきた。どの窓も灯りがついていた。光の都市だった。川に停泊してる船をとおりすぎて、前方にやや低い建物がせまってきた。博物館だ。四角の入口が見えた。スロットルをしめた。飛行体はフロアの上にゆっくりと着地した。

*** 4) 博物館に侵入する

1) ルネスはこの飛行体はここですてるといって、建物の中にはいった。長い廊下を右、左にまがった。正面に白い壁があらわれた。ルネスがちかづき、足で押した。両開きの扉だった。中は円形のステージをもつ大劇場のようだった。壁に無数の猿人の像がならんでいた。それを天井のそれぞれの照明が照らしだしてた。その目だけが動く。骨をさがすぼくたちの方を一斉に見ている。像の前に透明の箱がおかれ、そこに骨があった。ルネスが突然、声をあげた。骨があったのかと思った。そこには一枚の紙がおさめられていた。「ルネスの骨は返却された」とあった。

** 7) ルネスの死
*** 1) 爺さんが店で酔いつぶれる

1) 11丁目の店でホセ爺さんが酔っぱらてた。ぼくは、せまい店の中で爺さんの話しをきいた。両耳のない爺さんもいた。サンキングにやられた。しかしこの世界はサンキングがつくったといた。ホセ爺さんはぼくにルネスと結婚するのかときいたので、うんといった。ルネスは男勝りのむづかしい女だといった。もう充分生きたので、いつ死んでもいいといった。

*** 2) 部屋に爺さんをつれもどす

1) 酔いつぶれた爺さんを上の家につれていく。ぼく一人でも大変なの、もうへとへとになった。途中で突然、ルネスとの結婚を祝福してくれた。家にもどるとヴァイオリンをきかせるといいだした。玄関のドアをあけた。まっくらの部屋に蝋燭の明りをつけた。部屋のソファにルネスが横たわってた。どうしたのかと声をかけると、うっらと目をあけて、また還ってきてね。待ってるわといった。その胸に血がにじんでいた。撃たれたのだ。あっと気がついた。右手がついていた。ぼくは爺さんがたたいたルネスの頬がぷるぷる振るえるのを見た。

*** 3) ルネスの首

1) その時、どーんという音とともに、体が1インチ飛びあがった。キッチンの棚から沢山のカップや皿が床におちて、こわれた。ルネスの体に不可解なことがおきた。顔がゆっくりとまわる。後ろの髪の毛がみえる。すると首が床にごろりと、ころげおちた。ルネスの首はねじ式に装填できるようにネジ山がきざまれていた。ぼくは悲鳴をあげた。

*エゴン・マーカット(2/2)

** C Lucy in the Sky with Diamonds
*** 1) 帰るべき場所をおしえると宣言

1) 1分後に戻った御手洗にエゴンはまた、初対面の挨拶をした。前回のやりとりを繰りかえすかと思うと、エゴンがお願いがあってきたという。御手洗の期待が高まった。しかしそこから先に言葉が続かなかった。
2) 御手洗は、帰るべき場所を探しているので、ここに来たと先回りしていうと感嘆の表情を浮かべた。そこで、エゴンの協力でその場所を教えることができると宣言した。

*** 2) 意味記憶はあるが、エピソード記憶がはたらかない

1) 不審がるハインリッヒをしりめに、エゴンに鏡文字を書くよういう。不安気だったができた。どうしてできたかきかれた。不知。御手洗がさっき練習したから。ただ、それを思いだせなかっただけ、という。記憶の概説をはじめる。記憶には、「意味記憶」と「エピソード記憶」がある。エゴンには意味の記憶はあるもののエピソード記憶がうまくはたらかない。記憶は断片となって脳の各所に収納される。その際、取っ手がつけられる。これがうまくつけられないと、再生をしようとした時、必要な記憶が再生できなくなる。すると、記憶があるにもかかわらず、ないと判断してしまう。そして再生が放棄されるといって、黄色のハンカチの下に何があるかきく。不知。しかし御手洗はエゴンの物語脳がはたらきだしたとみた。ハンカチの下は土。下に何が。たたまれた猿人の骨...。正解。タンジール蜜柑共和国への帰還をしめし、これが猿人の骨。この地面はどこか。沈黙、不答。エチオピアだ。無反応。つづいて妖精、老人、御手洗の絵をみせた。驚愕、さらに鏡文字の練習の紙を見せた。驚愕、驚愕。ハインリッヒがどうしてエチオピアとわかるのか、ときいた。

*** 3) エチオピアが帰るべきところか、否

1) わかる。すこしの専門知識で。それが帰るべきところか。否。まだわからないが、何かとてつもないものがひそんる。エゴンにきく。帰るべきところは、スウェーデンのどこかか。多分、否。外国か。多分、然り。いつからそう思うようになったか。沈黙、不知。では職業は。海洋調査船、普通の貨物船、...。船乗りか。然り。その後は。沈黙、下船した...。何時か。不知。では、アルコール依存症のリハビリセンターにいたか。...、...。アルコールはすきか。否。多分。飲みたくなることもあるでしょうと同意をもとめる。御手洗がエゴンが過去を思いだせないと指摘すると、即座に否定。

*** 4) 失なわれた過去を知る

1) 自分の経歴を語りはじめる。しかしそれは誕生から卒後、乗船のところまで。そしてきく。今は西暦何年か。手鏡をだして自分の顔をみよという。半白の老人をみとめて、呆然。これは誰か。自分か。御手洗は一瞬、解決に真実が最重要との信念がゆらぎそうになる。今は2003年です。呆然、自失。しかしパスポートがある。わかるはず。御手洗は科学者としての思考力がのこってることをみとめた。現在のようなコンピュータ管理がなかった。だから不知。ハインリッヒがヨーロッパの移民局に照会、無回答。アメリカは。否。日本は。否。あなたはタンジール蜜柑共和国にいた。それがどこか知りたいとやってきた。納得。では、現在からさかのぼると。アルコール依存症の施設にいる最近6年間は確実。共和国はどこですか。ない、火星にだってない。ファンタジー。ハインリッヒも同意。御手洗は反論する。
2) 彼の脳がうみだした共和国はある。東西が直進し、南北がうねってる道の姿、20mile/hrで走行して飛びたつ飛行。まったく理論的に整合性がある。でたらめなファンタジーでない。

*** 5) タンジール蜜柑共和国はどこに

1) エゴンがきいた。You mean the Tangerine Orange Republic is a weird figment of my imagination?。No. 、I mean the Tangerine Tree Orange Rupublic does exist.。御手洗が本の一文を次々にしめした。
2) I followed her down to a bridge by a fountain ...。
3) during the night, they were sitting on rocking horses, eating mashmallow pies, ...
4) everyone smiled as I drift past the flowers that grow incredibly high. The sunflowers were three-story high ...。
5) celophane flowers of yellow and gree towering over my head ...。
6) a tangeine tree and marmalade skies ...。
7) Her eyes are shining like diamonds ...
8) a girl with kaleidoscope eyes ...
9) これらは、60年代のポピュラーミュージックの歌詞を思いださせる。ビートルズの「Lucy in the Sky with Diamonds」といった。

** D 猿人Lucyをエチオピアで発見
*** 1) 何故Lucyがでてくるのか

1) エゴンはこの歌はまったくしらない。ロック音楽にもポピュラー音楽にもほとんど興味がない。にもかかわらずLucyがでてくる。そこには何か強い衝撃をあたえるような出来事があったにちがいない。

*** 2) 1974年から記憶がない

1) 鮮明な記憶がある時期から、記憶が失なわれた時期をさぐる。ヒッチコックの映画でフレンズィーを知てるが、ファミリー・プロットは知らない。これで1976年まで鮮明な記憶があることがわかる。ディノザウルス・ジャーナルを読んでる。恐竜の知識からも総合して1974年と特定できる。エゴンはイエテボリ大学の生物学科を卒業し海洋調査船にのった。しかし海上をきり地上にもどった。時期、専門、関心から、出来事のもつ衝撃性を考えると、人類学におけるミッシングリンクにかかわる発見が関係する。大胆な推理におどろくハインリッヒに物語の展開を説明する。肘の持ち主をさがす主人公が登場する。腕を取りかえすため、猿人が多数陳列された展示場にしのびこむ場面となる。
2) 1974年に画期的な大発見があったと断言した。御手洗がPCでイギリス人がつくったデータバンクを検索する。エチオピアのアファール地区の沙漠で、まず大腿部の骨、ついでほぼ完全な女性の骨が発見された。およそ300万年前の猿人の骨だった。調査隊のキャンプではBeatles の歌がながれていた。Lucyと名づけられた由縁である。

** E 調査隊を組織したザゼツキー
*** 1) 講演会、パーティでLucyがながれた

1) エゴンの物語はBeatlesの歌の前の部分が関係する。新聞紙のtaxiとか、鏡のnectieをつけた駅員はでてこない。Lucyだけが関係してる。化石発掘には多数の人手がいる。エゴンは調査船をおりて、発掘隊に応募したのだろう。ドーソンのあけぼに人発見はイギリスで大騒ぎとなった。講演会、食事会、charityなどに関係者がひっぱりだされた。同じことがおきたろう。行事のたびにLucyの歌がながされた。エゴンはこれをきいた。

*** 2) 調査隊を組織したのがザゼツキーだ

1) 御手洗が驚愕の事実をあのデータバンクから発見した。調査隊を組織した男の名前がカール・ザゼツキーだった。スペインのマラガ大教授であり、実業家だった。御手洗が思いだしたといって、女好きで金儲けがうまかった。しかし1970年代に突然失踪した。これだけの大発見をしたのに、一般の人びとにはしられてない、という。

** F 御手洗が物語を分析する
*** 1) 物語りをまず三層に分ける

1) B(basic)層、S(science)層、T(truth)層からなる。B層はビートルズのLucy in the Sky with Diamondsから生まれたもの。S層はエゴンの科学者としての感性から生まれたもの。T層は真実そのもの。この三層からなっている。

*** 2) 物語の部分を分類する

1) 小さな肘の骨、T層
2) ボートに乗り、オールをこいで川を下る、B層
3) 葉も花弁もセロファン云々のひまわり、B層、S層
4) エッギーを呼ぶこえ云々、B層
5) 巻き毛、テディ・ベアの熊、T層
6) エッギーという名前、スウェーデンから来た云々、T層
7) タンジール蜜柑の樹、B層、かつS層
8) 背中に羽根が生えた女の子云々、B層かつS層
9) マーマレード工場、B層
10) タンジール蜜柑の樹の上の、Cの11丁目にある中華街、ここにいるダイソンという名前の長老、T層
11) 空にかかる月、S層
12) 船から大勢の人が降り、全員がスキップを踏む云々、S層
13) ルネス、T層。右手をもたないことは重要
14) サンキング、T層
15) サンキングの見廻り機、S層
16) ホセ爺さん、T層
17) ルネスとエッギーが博物館に忍びこむ、判断保留
18) ルネスは目にプロジェクターを持つ。脳の一部がスーパー・コンピューターとリンク云々、S層
19) 二人は空を飛ぶ、S層
20) 月に小さな穴が開いて云々、S層
21) 宙に飛び出すとルネスの背中の羽根は停止する、云々他、このあたりの記述は、すべて、S層
22) DNA操作で作り出した人工筋肉云々、S層
23) ルネスの首がネジ式になっていて、地震の時に振動ではずれた、T層
24) 最後の判定について、とうとうハインリッヒは承服できないと大声をあげた。

** G 実在性の裏付けをする
*** 1) T層の問題は合理的に説明できる

1) ルネスの首の問題は合理的に説明するのは難問だが、ひとまずおいておく。まずほかのS層やT層から説明する。

*** 2) 人びとがスキップする

1) 物語の住人がスキップして移動してる。これは重力のすくないところでは合理的な方法だ。月面着陸したアポロ11号の乗組員がやってたことだ。

*** 3) 高い樹の上の住居

1) 高い樹の上に住居をつくるのは重力のちいさいところでは合理的。大風もいっさいない環境だろう。三階建のひまわりも不合理でない。
2) これはB層やS層に属する。ここは月でない。妖精が羽のはばたきをとめても落下しない。はばたきは充分な空気があることをしめす。北にむかって20マイルで走行すれば飛行できるオーニソプターもそうだ。妖精の羽が意外にちいさいこと。羽をもたないエッギーが妖精ととも飛行した。妖精も浮遊の時ははばたきをやめる。この意味は重力がないということと御手洗がいった。

*** 4) 人工地球

1) 重力になれた人類は無重力空間は不都合だ。だから重力をつくりだした環境だ。地球からはなれた宇宙にうかぶ人工地球のことだ。これは円筒形をして、中心軸のまわりを回転してる。円筒内面の床に固着したものには中心からはなれようとする遠心力がはたらく。それは床にひかれるという人工重力となる。ハインリッヒが何故そんなものが必要かときく。
2) いずれ地球で人類が生活できなくなる。イギリスのホーキングも1000年先にそうなるといってる。人工地球という証拠ははまだある。回転速度と丁度同じで反対方向に走行すれば、回転運動はなくなる。つまり遠心力がなくなる。北に20マイル走行して飛行にうつるという合理的説明である。月のまわりにはいつも霧がかかってる。これは反対の地表が見えないようにするスクリーンである。
3) サンキングがこの世界をつくった。だから管理者として君臨してる。おそらく住人にはこの仕組みを知らされない。事情を知るルネスはそれに反抗した。Lucyの子孫たちの中で冒険心にあふれる人びとが居心地のよいアフリカから極寒の地に移動していった。自然とたたかいながら進んでいった。おそらくこの犠牲がなければ人類は自然災害や疫病で滅亡していただろう。ルネスの反抗は人類の歴史をなぞってるのかもしれない。未来の人類も地球を飛びだして宇宙に進出してゆくかもしれない。ハインリッヒがルネスのプロジェクターについてきいた。ルネスのプロジェクターの話しとなる

*** 5) 機械人間、ザゼツキー構造

1) あれは眼に組みこんで、中央管理のコンピュータにつながっている。だから中央のコンピュータの情報を取りこみプロジェクターで映写することができる。体内に遺物がはいると拒絶反応がおきる。ルネスはDNA操作により免疫細胞をのぞいてない。だから機械人間の段階だ。ザゼツキー構造がそれかもしれない。しかしDNA操作で体内に組みこまれたものもあるかもしれない。ネジ式というわかりやすい方式をとってるのは、この種別をはっきるさせるためかもしれない。はばたき機能も人工筋肉による機械式だろう。ハインリッヒがどうしてエゴンがこの発想をえたのかきく。

*** 6) 実在の科学者からきいた

1) 宇宙生物学者に会ったからだ。固有名詞に着目すればよい。まずザゼツキーだ。Lucyの発見からこの実在の人物にたどりついた。固有名詞は結局のところうT層に属する。またPCで検索した。
2) ミシェル・バルディ、カリフォルニア工科大学教授。宇宙生物学。車椅子の愛用者。すでに死亡。
3) クリストファー・ダイソン、プリンストン大学教授。宇宙物理学。すでに死亡。
4) 両者の死亡を知りハインリッヒがすこし落胆した。御手洗がまだまだ話しはつづくといった。

** H 物語の虚構から事実をえらぶ
*** 1) アメリカでない

1) これはアメリカのことでない。エゴンに渡航歴がない。ハインリッヒがネジ式のルネスの首の実在に疑問をしめす。あれはT層に属する。固有名詞の人物が実在した事実から実在を信じるべきだ。エゴンの脳が破壊された。それにこの衝撃的事実が関連してる。肩甲骨の突起は交通事故を推測させる。これも脳の破壊に関係しただろう。突起は人工骨により修復されたものだろう。
2) 人工骨は1970年代、日本人医師により提唱された。これはアパタイトとコラーゲンからなる人工骨をつかう。すると体内で破骨細胞がはたらき人工骨をとかす。その後に骨芽細胞がはたらき骨を再生する。これで異物でない人体の一部としての骨となる。エゴンはこの手術をうけたようだ。突起が目だつのはまだ技術が確立してない1970年代初期のものだったから。場所の特定の話しとなった。
3) 人工骨から日本人医師がいるところ、物語のサンキングから日本企業が進出し、日本軍の影響がのこっているところ。米国人教授の別荘があったところ。ザゼツキーに好都合なスペイン語がつかえるところ。見事なまでに失踪して行方が知られない事実と物語の地震から1970年頃に大地震があったところという。御手洗がPCで検索した。
4) 1976年1月24日、フィリピン、ミンドロ島をおそった大地震をみつけた。御手洗は物語からこの地域の予想がついていたという。マウラン・ハンギンという月がでる。表面の無数の穴から風をふかせ雨から霧をもたらしてた。タガログ語で風と雨を意味する。ルネスはマンギャンの出身とされた。ミンダナオ島の原住民のことだ。ザゼツキーの母国語スペイン語がつかえる地域である。1970年代のフィリピンの状況である。
5) 御手洗がフィリピンにとり地獄の時代だったという。戦争がちかくてつづき、マルコス追放の前だった。すさんだ人間があつまり、薬物パーティがひらかれた。こんな時代だったから、首がネジ式であった人間がでても不思議はないといった。ハインリッヒはやや憤慨して反論してきた。御手洗はまたPCで検索し、犯罪を発見した。

*** 2) フランコ殺人事件が登場する

1) 1976年1月24日、フランコ・V・セラノ、ネジ殺人事件。バタンガス、デル・ピラール通りのオフィスビルで、フランコ・セラノ(56)の射殺死体を発見。フランコの死体は、胴体部と頭部とが切断分離され、頭部の頸には、直径9センチほどの大型の牡ネジが覗いていた。胴体頸部にはそれがちょうど納まる穴があき、頭部の牡ネジが填まる、牝ネジのスクリュウ溝が見えていた。

** I殺人事件がみえるが
*** 1) 殺害されたのがザゼツキーだ

1) この結果にハインリッヒもおどろいたが、御手洗もおどろいた。フランコ・セラノはザゼツキーとわかった。しかし死亡したのがルネスでないことにショックをうけた。PCを検索したがファイルがバタンガス署にないことがわかり、電話をかけリコという刑事にエゴンの事情を話し、治療に必要だといって援助を求めた。

*** 2) バタンガス署リコ刑事に照会する

1) 事件を掲載した警察学校の教科書を送付すると約束してくれた。さらに退職しているが担当刑事の連絡先もおしえてもらった。ついで、とりあえずリコが知っていることをおしえてもらう。
2) バタンガスのデル・ピラールという目抜き通りに、ジェイセムというオフィスビルがある。この中にフランコ・セラノのオフィスがあった。フランコはその頃、結婚によってフィリピンに帰化がかなってまもなくだったが、フィリピン人の妻とはすでに別れていた。たいへんなやり手の起業家で、当時バタンガスやカラパンで最大のデパートに育っていたパラワン・デパートメント・チェーンを買収したばかりだった。
3)このデパートは、もともとは店頭ディスプレイを作っていた小さな会社から始まった。これが大いに発展したものだが、社長はラウル・リゲルという立志伝中の人物である。彼は以前からフランコと親しい関係にあった。その縁でラウルはフランコにデパートを売却し引退する気になったのだろう。

*** 3) 事件の詳細があきらかとなる

1) そのラウルのオフィスもまた、デル・ピラール通りのジェイセム・ビルにあった。1月24日夜、ラウルがジェイセム・ビルの自分の事務所にもどってくると、フランコの射殺死体ががソファにあったので、驚いてちかより、ゆすったら、肩口から首がはずれて床に落ちた。見ると頸の下部からネジがのぞいており、この頸が填まるべき胴体部の肩口には穴が開き、牝ネジの溝がのぞいていた。
2) ラウルは仰天したが、この時にちょうど大きな地震が起こったので、街は混乱し、電話も通じなくなった。そこで彼の警察への通報はかなり遅れることとなったが、通報を受けたバタンガスの刑事課が迅速に行動して、その夜のうちに有力容疑者を逮捕したという。
3) サイコパスが、死体を異常なかたちに損傷した特異なケースとして、フィリピンの犯罪関係者の間では有名になった。前例のない事態に、警察も司法も大いに戸惑ったが、心理学者たちが多くの解釈や見解を示し、先天的な異常者とする以外にも、麻薬の影響とか、ヴェトナム戦従軍の影響などがいわれた。

*** 4) 犯人が服役中

1) 犯人は逮捕され、終身刑で服役中である。
2) カール・ザゼツキーについて不知。
3) エゴン・マーカットについて不知
4) ミンドロ島のナウハンにサンフラワー・リタイアメント・ヴィレッジがある。バタンガスからはフェリーで45分である。
5) 犯人は服役中。女性で片腕がない。ルネス・シピットという。

*** 5) ルネスをすくえ

1) 電話をおえて、御手洗はルネス・シピットは犯人でない。非力で片腕の女性が死体の切断、ネジ式の首の装填などできない。緻密な組立作業が必要な犯罪である。通常、精神異常者の犯罪の特徴にそぐわない。もう手遅れかもしれないが、この女性をすくわねばならないといった。
2) 間違いで殺人犯とされ、30年間牢獄に放置されている。助けなければいけないといった。

*フランコ・セラノ、ネジ事件

** A 警察学校の教科書から事件を再現
*** 1) ラウルが9時すぎにオフィスへ

1) ハインリッヒが思う。御手洗の超人的な働きで、奇妙な物語の中からエゴンが帰るべき土地にたどりついた。しかしそれはさらに、奇妙で不可解な殺人事件をもたらした。心待ちしてた警察学校の教科書に掲載された資料がフィリピンからとといた。その概要である。
2) 1976年1月24日午後9時すぎ、バタンガス在住で、パラワン・デパートメント・ストア・チェーン経営者のラウル・リゲルは、なじみのバーや飲み屋を何軒も飲み歩いたのちに、デル・ピラール通りに面して建つジェイセム雑居ビル2階の自分のオフィスに戻ってきた。
3) ラウルはパラワン・デパートメント・ストア・チェーンをすでに知り合いのフランコ・セラノに売却していたので、このオフィスも1月いっぱいにたたむ気であった。社員、機器類もなく、鍵はかかっていなかった。ここで酔を醒まそうと立ち寄った。ところが、フランコ・セラノが応接間のソファに横になっているのを発見した。彼を待って眠っているうちに眠ってしまったと思った。

*** 2) 殺害の状況

1) 照明をつけてみると、グレーのスーツの左胸に、焦げ目の付いた小さな穴が二つ開いており、襟から覗くワイシャツは血で真っ赤であった。射殺されていると思い、ラウルは屈んでフランコにとりつき、頬を軽く叩いたり、上体を揺すったりした。体はすっかり冷たくなっていたが、最も仰天すべきことはその直後に起こった。フランコの頭部が肩口からはずれ、カーペットの上にどさと落ちたのである。そしてころころと転がって、部屋の中央に置かれていたテーブルの脚に当たって止まった。
2) フランコの頭部は、頸部を切断されることで、胴体部と切り離されていた。仰天したラウルがバタンガス署に電話をしようとした時、突然大きな地震が起り、周囲が破壊された。揺れは10秒程度続き、オフィス内のキッチンの皿やティーカップが、戸棚の戸を押し開けて崩れお落ち、割れたり、窓のガラスも大半が割れた。ラウルのオフィスには何もなかったので、被害はその程度ですんだが、ジェイセム・ビル自体は外壁が剥落するなどの被害をこうむった。

*** 3) 連絡を受け警察が10時半に到着

1) 電話が不通であったので徒歩で警察に赴いた。バタンガス署も大きな被害を受けており、結局10時半頃に現場を隔離し捜査に入った。

*** 4)被害者の身元

1) 被害者はフランコ・ヴィクター・セラノ、56歳。帰化フィリピン人で、起業家だった。とかく噂のある人物で、金貸し業も営んでおり、各方面から怨みもかっていた。既婚だが子どもはなく、フィリピン人の妻とはすでに別居しており、女性問題の噂も絶えないよううだった。

*** 5) 異常な死体、ネジ式

1) 死体の態様はきわめて異常、頸部切断によって、胴体部と頭部とが切り離された上に、頸部切断面の下端から、直径9センチの牡ネジの溝が覗いていた。この材質は金属で、中空、メッキされており、外観は銀白色であった。
2) さらに異常であったのは胴体部で、頸部が填まるべき肩口中央部には、これも直径9センチの穴がぽっかりとあき、この内部には、牝ネジのスクリュウ状の溝が覗けていた。
3) この牡ネジ、牝ネジはあきらかに対になったおのおので、試しにねじ込んでみると、ぴたりと填まった。このネジが本来は何に使われていたものかは不明であった。

*** 6) 被害者の服装

1) フランコ・セラノの遺体は濃いグレーのスーツを着ており、その下は白ワイシャツ、ノーネクタイという姿だった。

*** 7) 死因

1) 死因は銃による射殺で、弾丸が左胸心臓部をほぼ正確に二度撃ち抜いており、これが死因であることに疑問の余地はない。しかしこのケースは、他の射殺例とは異なる、あきらかに特徴的な要素を数多く持っていた。次のとおり。

*** 8) 銃創、A孔、B孔

1) 弾丸は38口径、輪胴式のハンドガンから発射されれたものである。この点にも疑問の余地はない。以下、これが遺体に作った銃創について述べる。
2) 被害者の上半身は、既述した通り上から上着としてグレーのスーツ、その下が白ワイシャツ、その下には白の綿肌シャツを着用していた。そしてこれらの胸部左側、すなわち心臓の側に、3枚ともA、B、2つの貫通孔があった。この銃弾孔に関しては重大な証拠物なので、以下に詳述する。
3) A孔、B孔ともに、表面部の上着には焦げ跡をともなっている。よってスーツに銃口を密着させての接射と考えられた。これを補強する状況として、
4) 上着のA孔、およそ3.2x3.4cm、その下のワイシャツの穴、およそ5.6x4.3cm、さらに下の肌シャツの穴、5.6x5.2cmである。
5) B孔も、上着、3.2x3.3cm、ワイシャツ4.8x4.5cm、肌シャツ5.1x5.5cm
6) どちらも下の着衣に向かうほど穴が大きくなっている。これは接射が示す特徴である。

*** 9) 凶器、S&W社の製品

1) さらに上着には、弾丸孔周囲のカーボン以外にも、この左右に、輪胴式のシリンダーから噴出したとみられるカーボンの黒い付着が認められたので、輪胴式のハンドガンと判明した。そしてのちにこれは、S&W社の製品と解った。

*** 10) 三つの弾丸

1) さらに特徴的なことには、銃創孔は二つであるのに、体内の弾丸は3発で、背骨付近に留まっていた。このことから、銃口を上着左側(犯人からは向って右側)に密着させて1発を発射し、2発目は多少位置を横にずらしてやはり銃口を密着させ、今度は動かさずに2回引き金を引いたと考えられた。この順は逆である可能性もある。
2) 入射角は、双方ともに、斜め上方から下方に向かっておおよそ45度である。これは、弾が侵入した穴が2つともに上方にあるのに、弾丸の留まっている場所は、3発ともに腰部に近い下方となっているために分ることである。
3) 双方とも心臓をよく破壊している。A孔、B孔、どちらから入った弾丸が先に致命傷を与えたものかは、体内の破壊の度合いが大きいから、判別はむづかしい。

*** 11) 接射

1) この射殺が特徴的であると述べる理由の一つは、銃口を密着させての射殺なら、入射角が上方から下方へと斜めになることはまれで、たいてい90度に近い角度となる。このことから、犯人はよほど長身の男ということも考えれたが、被害者のフランコ・セラノも1m82cmの身長を持っている。
2) さらには、3発の弾丸ともによく心臓を破壊しているから、致命傷を与えるには、最初の1発で充分であった。にもかかわらず、3発も続けて撃っているのは珍しい。

*** 12) 殺害後に切断

1) 白ワイシャツの襟部、ならびに上着の襟部が比較的きれいであるということも、ここが切断箇所に近い点を考えれば特徴的である。これはむろん切断が射殺ののちであることを語るが、頸部の切断による出血は、きわわめて少なったことを示すから、切断やネジの装填は、射殺後30分程度が経過してのちと考えられる。
2) ソファへの血の付着もほとんどなく、切断面からのは少なかったと解るが、同時に射殺は、被害者がソファに横たわった姿勢で行なわれたのではないと考えられる。

*** 13) ルミノール反応が検出されず

1) また犯人による遺体の切断や損壊が、殺害してのちであることから既述したとおり議論の余地がないが、鑑識課が現場応接間の床部、および浴室タイル床や排水溝を捜査したところ、ルミノール反応は検出されなかった。死体切断の現場がここか、別の場所かは特定できなかった。

*** 14) 4発目の弾丸

1) また部屋の調査から、壁にかかるヴァイオリンを、縦方向真っ二つに破壊して、38口径の弾丸が壁に入っていることが解った。このフランコ・セラノを殺害したハンドガンからのものと見て間違いはない。

*** 15) 紛失した遺体の一部

1) 遺体から紛失した体の部位は、食道上部などのごくわずかで、内臓部分を含め、他はすっかり遺っていた。

*** 16) 死亡推定時刻

1) これらを検分するためにすみやかに解剖に付されたこと、また被害者が午後6時頃に中華料理を食べていたことなどから、死亡推定時刻は午後の7時から8時の間と、比較的狭く絞りこむことができた。

*** 17) ルネスの逮捕

1) 死体を解剖に廻し、遺体発見現場のルミノール反応などを調査するかたわら、ジョジョ・ラモス刑事、ロベルト・マカティ刑事の二人は、同じジェイセム雑居ビル内にある被害者フランコ・セラノのオフィスも調べようとした。この時、被害者と以前より愛人関係にあり、確執もあったとされているルネス・シピットが、オフィスにひそんでいるのを発見した。事情を訊くために任意同行を求めると、拒絶し、激しく抵抗した。逮捕状がないので刑事がひるんでいると、ルネス・シピットがいきなり発砲し、マカティ刑事が腹部に被弾して重傷を負った。ルネス・シピットは走って逃亡をはかったので、ラモス刑事が彼女の脚と肩部を撃って転倒させ、逮捕した。
2) 被害者フランコ・セラノのオフィスから、ルネス・シピットの右手義手がが見つかり、この指先部から硝煙反応も検出された。ルネス・シピットは日系人の経営する履物工場に勤務していたが、ここでの作業は、サンダル裏にゴム底を貼る部所で、彼女の右手は義手であったが、接着剤の引き金を引くことは義手で行っていた。よって義手であっても、右手でハンドガンを発射してフランコ・セラノを殺害することは、可能と考えられた。

*** 18) ルネスの起訴

1) また、ルネス・シピットが所持し、警察官に発砲してきたハンドガンは、S&W6連発の輪胴式で、フランコ・セラノを撃った弾丸とライフル痕が一致した。指紋もルネス・シピットのものしかなく、弾倉内に38口径の弾丸が1発残っており、はずれたものも含め、被害者に4発、警察官に1発使ったということで計算も合った。また犯人でない者が警察官に発砲することは考えられないので、ルネス・シピットをフランコ・セラノの殺害犯と断定して、逮捕起訴した。

*** 19) 御手洗の疑問

1) ウプサラ大学の研究室で御手洗とハインリッヒが資料を一読後に対話する。御手洗が疑問をのべる。
1) 身長180cm以上のフランコにたいし、下方の角度にうつのは不自然。2) さらに、接射するのは困難。ハインリッヒとともに実演した。ひざまづかせてうつのもあるが、その弾丸がはずれて壁のヴァイオリンを破壊するのは無理とわかる。また一度で致命傷をあたえた。そのたおれた相手にうつ。むしろ体に直角になるのが自然だ。周囲に知られるおそれがあるのに二度もうつのも不自然だ。
2) さらに孔は二つで弾丸が三つ。犯人はそうしなければいけない理由があったという。くわえて下方の角度でうつ。スーツに密着させてうたねばならなかった。御手洗はハインリッヒをためすようにどう考えるかきいた。時間がほしいといって、御手洗に血液の質問をした。死斑は殺人のような突然死におきる。病死ではおきない。死体から血はほとんど流失しない。血液は8分で乾く。乾くと衣服などにこすれた跡がのこることがある。ルネスの話しとなる。
3) 御手洗が何故、裁判で犯人と認定されたのか興味がある。ルネスを逮捕した二人の刑事のうち一人が存命。先方に照会した。電話をしてジョジョ・ラモス元刑事と話しがしたいといった。


** ゴウレム(1/5)
*** ゴウレムの由来

1) ラウルが夢を回想する。ザゼツキーが人造人間ゴウレムの歴史を説明する。旧約聖書詩篇139のダビデの言葉にでてくる。迫害にさらされた歴史の中でゴウレムは神の力の象徴となる。この研究が11世紀にイスラムが支配する南スペインで最高潮にたっした。しかし、十字軍の遠征によりおおくのユダヤ人が虐殺されるとともにきえさった。

*** 1) 人体を解体する

1) ラウルになぜヴィーナスの彫像には両腕がないかをきいてきた。ユダヤ人の優位性をしめす姿勢が両腕によりしめされていたからという。大学の階段教室にたつザゼツキーは白いヴィーナスの彫像に電気ドリルで各所に穴をあけた。まず血をぬくためという。生命の秘密を知り、神の言葉を知り、ゴウレムをつくるため、解体する必要があるといった。電気ノゴギリで腕や腿を切断した。悲鳴がひびいた。ブルーシートの上にたおれたルネスからだった。ザゼツキーは血にまみれた頭髪に指をつっこんで首をまわした。ルネスの頸はネジ式になっていた。

** B さらにラモス元刑事からもきく
*** 1) 複雑な歴史をもつフィリピン

1) 翌日、ウプサラ大の研究室でハインリッヒと御手洗が対話する。ハインリッヒの質問にこたえ、複雑なフィリピンの歴史について説明する。15世紀、イスラム教がミンダナオ島にはいり完全にイスラム化した。16世紀に世界一周の途中にマゼランがセブ島にやってきた。そこで戦死した。スペインが襲来して、その後300年間を植民地として統治した。モスレムからカトリックに改宗するとともに名前をスペイン風にした。19世紀に独立運動がおきた。それに手をやいたスペインがアメリカに2000万ドルで売却した。第二次大戦前に日本の統治下にはいり、戦後独立し、現在にいたる。

*** 2) ラモス元刑事に電話する

1) バタンガス署から連絡があった電話番号から、御手洗がミンドロ島のリタイアメント・ハウスにすむラモス元刑事と対話する。ハインリッヒはスピーカーの音声をきく。外国人がすこしはなれたところに住んでることをたしかめる。事件発生の頃、バルディやダイソンとい名前の外国人がすんでたか。不知。電話の趣旨、エゴンの治療に必要と説明した後に、御手洗が順次質問した。

*** 3) ルネスは犯人かときく

1) フランコの妻は飲み屋を経営してたようだ。フランコの前身は。事件が解決したので詳細は不知。おおきな家を一軒購入できる程度の現金をもってた。死後は妻が継承。その他、チェーンストアの株、履物工場の株。死体の発見者、ラウル・リゲルは欧州出身のフィリピン人。日本から技術をまなび、ショー・ケースの食品模型をつくる会社をおこした。それから、チェーン・ストアの経営者にのぼりつめ、バタンガス立志伝中の人物だ。事件当時は模型会社はやめてた。現在の所在は不知。ルネスは犯人かときくと一瞬沈黙があった。
2) 自分は同僚刑事をうった犯人として逮捕した。裁判が犯人とした。ルネスは何といってるか。取り調べでも、裁判でも沈黙。その理由は何か。不知。何故フランコの事務所にひそんでたか。不知。何故、刑事をうったか。不知、ルネスからの説明無し。弾丸について確認。フランコに3発、壁に1発、刑事に1発。ルネスの弾倉に1発か。然り。ただし壁の弾丸はルネスが所持してたものでない。警察学校の教科書は間違い。ただし銃の形式は同じ。フランコのオフィスにハンドガンは。無し。ルネスの義手は。脇にはさんでた。理由は不知。常に沈黙があった。では取り調べは。3、4日後の病室で。自白は。無し。フランコとの関係は。
3) 愛人関係だった。未成年だったようだ。噂ではラウルから金で買ったという。フランコはデパートを買い、ルネスもか。然り。ビジネスライクな男。帰化目的で結婚、当然、金をはらったろう。ラウルは経済的に困窮か。同意。ルネスは売買に同意か。不知。ネジ式の死体についてきく。

*** 4) 首がネジ式、不可解

1) ネジ式にした理由は。自分は不知、関係者も不可解、不知。ルネスが異常にネジにとらわれる精神の持ち主か。でもルネスがいつどのように犯行か。非力な片腕の女が、道具は。ルネスは不言故不知。犯行時間は約30分、それで、どうやって。履物工場との関係もない。不知。この時間帯のルネスのアリバイは。無し。ネジは。大型のランプのもの、ホワイトランプだったろう。犯人がすぐみつかったから、裏付け捜査があまくなった。然り。協力した男は。不知。現場が作業場所でない。同意。ルネスの行動が不可解では。同意。地震と犯行のタイミングの話しとなる。

*** 5) 何故、首がはずれたのか

1) ラウルが死体をゆさぶった。その時、首がはずれておちた。地震は、はなれて電話してる時におきた。では犯人は首がはずれることを期待していたのか。同意。特異な犯行方法を暴露することでルネス以外の第三者に嫌疑を誘導する可能性は。無し、前例もない。ルネス以外に 嫌疑者はいない。ではエゴン・マーカットというスウェーデン人は。不知。しかし、ザゼツキーのこときくと、エゴンの名前に記憶があるという。当地にいるというと、関心をしめす。突然、思いだす。

*** 6) エゴンの名前がでた

1) ルネスが意識を回復した時にはじめていった言葉が、「エゴ・マーカット」、それ以上は不言。現場に放置されてたスクーターの持ち主かと問いつめると、認めた。事件当時の新聞を看護婦に要望、何かをさがす。数日、それを繰りかえした。さらにフランコの家は地震で破壊されたかときいた。ひどかった。屋上、2階につづく、外壁についた階段がくずれた。御手洗がきく。そこには、人間やや動物の骨の化石、古文書、さらに義手、義足はあったか。然り。その時、名がでたか。否。スクーターを通勤に使用。勤務先で聞き込み。おおくは運転を男にたのんだ。その名がエゴン。この線はおいかねて立ち消え。御手洗がもっと徹底すれば真相が見えたと残念がる。話しがネジにとらわれる異常精神にもどる。

*** 7) ネジ山を見せたかったのか

1) 何故、ラウルにネジ式を見せたかったのか。沈黙、さらにどう考えても不可解。あれだけの大作業をたった一人、あるいは警官に見せたかった、というのは不合理、不可解。ではと元刑事がいう。どのような理由か。わかるところがある。材料がもっとそろえばわかるはず。そして質問がつづく。ネジはしっかりはまるようになってたか。然り。なのにしっかりはめてなかった。そこに理由がある。では、その理由はと元刑事の質問。不答、質問をつづける。
2) 頭部はテーブルの脚のあたり、胴体はソファの上、胴体にはグレーのスーツ、下に白いシャツ。到着時間は10時頃。ではズボンは。黒。スーツの左の胸に銃痕が二つ、下のシャツにはべったりと血痕。スーツの裏地には。ほとんどなし。切断された頸部にせっするシャツのカラーには。ほとんど無し。頸部は長かったか。まあそう。場所柄は繁華街か。然り。拳銃発射の音が気になるか。治安も悪かったから、時にはきこえない。スーツに財布は、中に金は。有。フランコの事務所に金、貴重品は。有。スーツに拳銃は。無し。財布にはクレジットカード、運転免許証は。有。御手洗は材料はこれで充分考えをこれからのべるといった。

** ゴウレム(2/5)
*** 1) またゴウレムの歴史をのべる

1) ラウルの夢の回想。ザゼツキーの講義が12、13世紀からはじまる。ユダヤ教の高僧ラビのハシドは逸話をのこし、フランスのガオンは儀式を体系化したという。17世紀、学術の中心地であったチェコのプラハでラビ、レーブは王ルドルフと親しく話し、市内をながれる川の土かゴウレムをつくったという。十字軍による虐殺の後も脅威にさらされつづけたユダヤ人にとりゴウレムは自分たちを守ってくれる存在と意識されるようになった。超人的な力をもつ存在への関心は、科学が進歩し電気が発見されたとき、電気ショックにより出現するフランケンシュタインとなった。原子力の発見から、別のモンスターがうまれた。

*** 2) ゴウレムつくりは科学にちかづく

1) 創世記は神が暗号の文字により無数のことなる生命と天地を創造したといっている。時代が進歩し科学がゴウレムの物語にちかづいてゆく。神の文字を知り、優れたゴウレムをつくりだそうとした歴史は科学が発展してきた歴史と同じである。もうユダヤ の教えにとらわれる必要はない。ザゼツキーは不思議な廊下をすすんでゆく。右の窓から野外がのぞける。そこにはミサイルがつくった擂鉢状態の穴がみえ、バラバラになった兵士の死体がある。アメリカはベトナムで屈辱の敗北をきっした。しかし次に中東への介入をねらっている。それは石油を大量消費する石油権益の確保であり、ユダヤ人の利益確保である。ユダヤは米国という巨人をあたらしいゴウレムにかえたのだ。このベトナムはアメリカのゴウレム化の最終段階である。わたしのゴウレムをみせるといって左のドアをあけた。

*** 3) ザゼツキーのつくったゴウレムをみせる

1) そこにおおきな鳥籠のようなものがあり、中にT字型に拘束された男がはいっていた。ザゼツキーはほほえみを浮かべながら、電気ノコギリで左足を切断した。鳥籠には丁度、電気ノコギリがはいれるような隙間があいていた。ほとばしりでる血流に無頓着のまま透明な義足を装着した。可動式の金属の心棒、筋肉の役目をする油圧装置、とりどりのコードが、制御用のマイコンがみえた。次に右腕を切断し、また透明の義手をつけた。おどろくわたしに、とくとくとその利点を説明する。

*** 4) この義足、義手には利点がおおい

1) 義足、義手で最低限の機能は確保できている。米国の情報部が情報をえるため、たとえ手足を切断しても、人道上の問題はすくないので味方の生命をすくう貴重な情報がえられる。義足、義手それぞれ独立して制御するマイコンが装備されているから手足4つを切断可能だ。カール、カールという声がきこえた。それはルネスだった。

** C 事件に目撃者がいる
*** 1) 事実確認をする

1) 御手洗がラモス元刑事にきく。グレーのスーツの左胸に穴が二つか。然り。念のため確認をくれ。二つの穴には焦げ目、輪胴式のシリンダーからの煤があった。然り。貫通孔は、スーツ、ワイシャツ、肌シャツにあり、その口径は下にゆくほど拡大。然り。二つの穴の弾道は下方に約45度。然り。穴は二つで弾丸は三つ。然り。肌シャツ、ワイシャツは血で真っ赤、頸部切断面ちかくのワイシャツカラーはわりときれい。然り。スーツの裏地にはかすれたような血の跡。然り。フランコの頸部にネジ。ネジはゆすってゆるみ、そして落下。然り。だが目撃者なし、ラウルの証言のみ。然り。現場にきた刑事は事態を追認しただけ。無反論。材料はこれだけ。では、考察をすすめる。

*** 2) 事件の考察にはいる。

1) 下にゆくほど穴が拡大、接射を意味する。でも抵抗が予想される相手に接射は不合理。無言。無理にそんな状況をつくったとして、たおれた相手をまたうつ。ならば90度になるはず。無言。ここに犯人と意図的作為を読みとるべき。無反論、そんなこともあるとの態度。これを無理なく説明する。そのため別の不可解をかさねるべき。???。

*** 3) 目撃者の存在を覚悟してた犯人

1) まず何故別の目撃者がいないのか。???。何故、この奇妙奇天烈な事件が解決したのか。???。それはルネスがフランコをうった銃でルネスを尋問しようとした刑事をうったから。無言、然り。さらにつけくわえると、その銃にはルネス以外の指紋がなかった。この出来事がないと想定して事件を考察してください。???、???。犯人はそんな出来事を予定してなかった。えっ。真犯人は別にいてこんな出来事は予定してなかった。御手洗が然り。で、考察してください。迷宮入りか。まさか、猛然と捜査するでしょう。然り。では、あり得る捜査を想定します。フランコの事務所にいった。

*** 4) 警察に急転直下の解決をもたらしたルネス登場

1) そこで不可解なものを発見した。???。義手だ。ルネスの所持物だ。ちがう、ルネスがいなければ刑事が発見してたはず。他に。えっ。ハンドガンです。ルネスがいなければ不可解な発見でしょう。もともと未成年の女性がハンドガンをもつのは不自然。しかし、義手の存在から犯人はルネスだと嫌疑がかかる。で。

*** 5) 義手や銃だけでルネスを逮捕できたか

1) 捜査。するとルネスのアリバイが問題となる。???。犯人と思いこんで問題にしなかった。さらに犯人と思いこみ逮捕、それが公表された。共犯にされるかもしれないのにアリバイ証言者がでますか。うーむ。いたかもしれないと思いませんか。うーむ。未成年の女性がこんな困難な作業ができますか。場所は、道具は、協力者は。うーむ。発砲がなければ、逮捕できなかった。一応、納得。

*** 6)ルネスの不可解、何故、発砲

1) しかし何故発砲したのか。それは後程。否、否、今。やむ得ず、ルネスの大事な人間が瀕死の重傷、すぐかけつけないと命があぶなかったから。えっ、そんな馬鹿な。地震を忘れてます。成程。祖父のホセか。今の考察には無関係です。元刑事がきく。死にかかってる人間はデル・ピラール通り、警察署、ルネスの自宅にもいなかった。さらにきく。その前に、何故、フランコの事務所によった。病院にかけつけるべきだろう。御手洗がいう。然り、でもその前に必要があり、簡単にすむ用事であり、それが瀕死の大事な人をすくうものだったから。面白いが本当か。でもおかしい事がある。フランコをうった銃をどうしてもってた。それは事務所でひろったからでしょう。普通はひろはない、しかし地震の非常時、女性だから。それに義手もひろたのでしょう。義手???。その義手の指先には煤、それと銃。元刑事がいう。義手をひろいによったのか。然り。

*** 7) 何故義手がフランコの事務所にあったか

1) ルネスはフランコに義手を取りあげられてた。煤と銃。自分に発砲の嫌疑。元刑事がいう。フランコが自分殺しの嫌疑をルネスにかけるか。否、フランコは別の人物の殺害を意図、その嫌疑だ。フランコを殺したのはその別の人物。うーむ、その証拠は。壁にかかったヴァイオリンをうった弾丸。これには別の銃のライフル痕があった。成程。これで事件が見えたはず。???。じゃあ。フランコはラウルの事務所に別の人物をうつつもりでいった。でも相手がうって、死亡、自分は失敗。うーむ、で、その銃はどこに。変な話しだが、別の人物がフランコの事務所においた。

*** 8) フランコをうった銃が何故、フランコの事務所に

1) そんな馬鹿な。御手洗がいう。ルネスがひろったから、警察が確保できた。そんな馬鹿な。だから、別の人物が自分の銃を間違えてのこした。そんな馬鹿な。だって、二つの銃は、同口径、同型、同メーカー。犯人は予想外の展開に動転、放置してもよい銃をフランコの事務所におく。それは間違えて自分の銃だった。うーむ、納得、ではルネスはその事情を警察に話さなかったか。御手洗がいう。現場では、きいてもらえないと思い、病院で意識回復後では、いってはいけない事情を意識した。???。瀕死の重傷をおった大事な人物がいる。根拠は。ルネスは病院で事件当日の24日、翌日、翌々日の新聞を要求、熟読。大事な人物の安全を確認できた。うーむ。御手洗がいう。推測は可能。場所が場所なら死亡記事となる。どこか。目立つ場所だった。ルネスはそう信じたから警察にいわなかった、という事実も。一応、納得、話しをすすめてくれ。

*** 9) ルネスが真犯人でないとして考察する

1) ルネスが犯人でないという可能性を認めたとの前提で話す。とにかく話しをすすめてくれ。で、ルネスが現場で発見され、発砲せず連行されたとして考えたら。起訴できたか。うーむ。犯人でないとなったらどんな捜査をしたか。うーむ、物取り、金品はあったから無理か。御手洗がいう。銃をわざわざもどすのも変。さらにこんな大変な作業をするか。うーむ、ラウルのアリバイか。当り。警察はアリバイを気にしなかったが、ルネスが犯人からはずれれば、問題になる。ラウルがかならず被疑者となった。ラウルがおちついていたら何をしたか。元刑事がいう。何をいわせたい、御手洗がいう。目撃者を用意した。でも、でなかった。然り、でもその事情があったから。いたと断言します。元刑事、無言、怒りをこらえて証拠は。御手洗がいう。もし間違ってたらご希望のことする。自分が正しければ希望をきいてくれ。了解。弾丸の貫通孔の話しとなる。

*** 10) 一発即死の穴にまた一発の不可解

1) 御手洗がいう。犯人は正確に心臓をうちぬいてた。しかし、さらにもう2発うった。何故か。???。うつ必要があったから。危険な接射をいとわず、やってる。???。犯人がうち、フランコもうった(硝煙検査はしなかっでしょう。然り)。次に、犯人は一度うった穴にさらにもう一度、さらにその横にもう一度。すべて接射、角度も同じ。うーむ。御手洗がいう。気づかれるかもしれない危険をおかしてやったのは。それは、死体の穴とスーツの穴がずれてたから。そんな馬鹿な。スーツの穴とワイシャツ、肌シャツの穴がずれてたら、どうするか。成程、納得。御手洗は納得した元刑事をこまらせる。ずれてたら、スーツはきせず、ワイシャツと肌シャツだけにすればいい。なぜスーツをきせたのか。???。そんな不自然なことをする必要があったから。どうしてと思うか。

*** 11) 御手洗、目撃者の存在を断言する

1) 敗北感にしおれている元刑事をおいて、それは、弾丸で穴のあいたスーツをみた目撃者がいる。その目撃者に不審の念をおこさせないためスーツが必要だった。穴が二つだったが、そこまでまじまじと見てないと信じられた。沈黙。だからこの事件には、まだ登場してない目撃者がいると確信したと御手洗がいった。


** ゴウレム(3/5)3

1) ラウルの夢の回想。ザゼツキーの頸を切断した後、たえられない悪臭がする。くさった動物の内臓を鍋でにて悪魔を呼びだすカバラの秘儀を思いだす。そこでは悪魔がこの世界成立の秘密をおしえてくれる。この苦しみにみちた世界に人は何のためにつくられたのか。悪魔はこたえる。
2) 目的なぞない。ただ神の退屈しのぎのためだ。民の苦難をたのしみ、みだらな姦淫をよろこぶ存在だ。この世はヤーハエがつくった悦楽のチェス盤だ。神は定期的に飢饉をつくりだし、困窮した民は隣国をせめる。互いに略奪する。魔女は邪悪な存在だ。八つ裂きにしなければならない。神は多数いる。知り合いの神の信者を殺せと命令する。どうして人は殺人をこのむのか。残虐をたのしむのか。人は神がつくったちいさな悪魔なのだ。だから殺しあい、辱しめあう。どんなに、たかい洋服をきて、高尚ぶって学生相手に講義していても同じだ。
3) 切断された頸部の醜悪さを見ていると、わたしはフランコを殺さねばならなかったと思った。これが自分の使命だった。その頸部に手をのばした時、首が90度回転してこちら見た。薄目をあけて「もうやめて...」と女の声がした。ルネスだった。

** Dエゴンの苦闘
*** 1) 更生施設の院長もくわわり4人が対話する

1) 後日、ハインリッヒ、エゴンと更生施設の院長が御手洗の研究室で対話する。御手洗がヴァイオリンで難曲の練習をしていた。早速、エゴンが前回と同じ初対面の挨拶をする。事情を承知の御手洗が会話をすすめた。エゴンから治療の必要がない。現状に満足という同一の結論をのべた。「ただ」と言葉がとまった。エゴンが御手洗がやってたヴァイオリン演奏のことをきく。チゴイネルワイゼンだった。サラサーテがハンガリーでロマの即興に感銘をうけて採譜したものといわれてる。西洋の理論と東洋の即興が衝突、融合してうまれたものだ。エゴンがひかれるものと混乱を感じたという。御手洗が東洋と西洋の衝突と融合がフィリピンのフランコのネジ式殺人事件にもあるという。エゴンがハインリッヒから自分が帰るべき場所ができたときいた。その場所をきこうとした。御手洗がもうすこし時間をくれといった。ロマの話しとなった。

*** 2) ロマの音楽を語る

1) 世界に1000万人いるといわれ、もともと北西インドを故郷にとする。1000年前、異民族の侵入をうけ流浪の民となった。ヨーロッパにも多数いる。ロマは彼らの言葉で「人間」を意味する。「ジプシーは差別の意味がある。自分がすきなフラメンコは南スペインのジプシーの音楽。これはアンダルシアの哀歓のメロディが北アフリカをぬけてやってきたロマのつよいリズムがぶつかって生まれた。両者の奔放で華麗な音楽は、彼らの悲しみに色どられた生活に光をもたらす喜びだった。ハインリッヒがわってはいって、院長を紹介した。御手洗が失礼をわび、ソファにすわるよう案内した。
2) 院長が御手洗の話しに感銘をうけたように、自分は「ひばり」が好きだというと、御手洗もおおいに賛同し、ロマの音楽の魅力をかたった。モルドヴァン・シュテファンという。生まれをきく。ルーマニア、ナチによりハンガリー領だった。「魔法の馬の帰還」という曲は知らないという御手洗にすこし気落ちしたようだが、施設でエゴンのための療養をほどこしてる。今回、御手洗とともにエゴンのためにできればよい。患者が満足してれば危険な治療はさけたいという。御手洗が、エゴンはフィリピン時代、大量のアルコールをのんでたか。然り。御手洗がいう。治療の必要がないとはいえないが通常の方法は無理。ではどのように。奇跡が必要か。奇跡。御手洗がいう。奇跡がおとづれをまつのも賢明。大陸移動説も天体衝突恐竜絶滅説も時がおとづれ市民権をえた。まつもよいが、彼には寿命がある。ハインリッヒが前回に謎解きのつづきをもとめた。

*** 3) 謎解きを再開する

1) ハインリッヒがいう。目撃者がいた。フランコの体に銃弾の穴二つが必要だった。だから犯人はフランコのスーツを着せかえたのか。然り。フランコのワイシャツ、黒ズボンはいつもどおりだったが、スーツはちがってた。犯人の予想がはずれた。だから、グレーのスーツにかえなければならなかったのか。何故。御手洗がいう。犯人がグレーのスーツを目撃者に見せていたから。ハインリッヒ、だから目撃者にもう一度みせたかったのか。否、警察が見たものとちがってくるから。えっ、誰と誰のことか。御手洗がいう。フランコの偽物とフランコだ。えっ、もっときちんと説明を。自分が説明しては真の解決にならない。エゴン自身が説明しなくては。エゴンはとまどうばかり。ハインリッヒが目撃者とは誰かときく。勿論、エゴン、その肩甲骨になごりももつ彼だと御手洗がいった。

*** 4) 苦しむエゴン、思いだせない

1) 御手洗がいう。ラウルを思いだしたか。否。エゴンはラウルとジェイセム通りのラウルの事務所にはいった。思いだしたか。否。では、6時すぎからラウルと一緒にバタンガスの飲み屋街でさんざん飲みあるいてた。それから事務所にはいった。どうだ。否。ならばエゴンは1976年1月26日の夜、事務所にいった。事務所となってるところから応接間にはいった。たぶんラウルが先だ。ラウルがそこでエゴンに何を見せたか。今、すわってるようなソファの上で、何を見たか。思いだしたか。否。心配して声をかけるハインリッヒに、御手洗が「帰還」の物語の中に彼の脳にある記憶の部分が存在してるといった。

*** 5) 真の解決、エゴンがすべてを思いだす

1) 事件の解決は彼が思いださねばならない。今、刑務所にいるルネスの開放もむづかしいだろう。それでハインリッヒは納得。どうしてわかったか。御手洗がいう。簡単な推理だ。あらためて「帰還」の物語をしめし、すべてここにある。???、では目撃者だというのは。御手洗がいう。肩甲骨だ。???。科学的、医学的療法はないのか。御手洗がいう。無し、ペンフィールドの電気療法、心理カウンセラーの催眠療法か、事件の解決にはならない。解決が必要だ。

*** 6) 奇跡をまつ

1) 何故フランコは殺害されたか、誰によってか、何故頸部を切断されたか、何故、首がネジ式だったか、何故スーツを着せかえられ、体に二つの穴をあけられたのか。それにエゴン、彼の役割、何故、大怪我をしたか、何故、目撃者だったはずなのに途中できえたか。これができなければ、助けるべき人を助けられないといった。すると机上の電話がなった。

** ゴウレム(4/5)
*** ルネスがザゼツキーをたおすといった

1) ラウルが夢を回想。ルネスが戦闘服をきて、きしむ機械音をたててやってきた。白い透視光のもとで体内がみえた。頭蓋骨、脳に機械はない。だが頸はネジ式だった。胴体部には骨のかわりに金属のフレームがはいってた。機械をとめるボルトやリベットがひかり、ダイオードが明滅してた。機械の間に肺、心臓が顔をだし消化器のチューブがはしってた。右足はすべて機械、手足は胴体とネジ式で装着されていた。
2) 透過光をぬけたときラウルの問いに答え、ルネスはザゼツキーを「やっつける。すぐにやる」といった。

** E ルネスから電話、エゴンの帰還
*** 1) 恋人ルネスがよみがえる

1) 研究室の電話がなる。御手洗は少し話し、それからスピーカーに切りかえ、電話の声をエゴンにきこえるようにした。電話からルネスがエゴンに呼びかける。祖父のホセ、食事のアドボ、魚の塩焼きにしたイニハウ、デル・ピラール通りのレストランでの食事、スルー海の珊瑚礁の話しをした。エゴンが今、どこにいるかときいた。刑務所の中、あなたは元気か。スウェーデンで元気にくらしてる。アルコールはのんでるか。否。元気を知って満足。驚き、エゴンが自問自答。ルネスが十分間だけはなせるという。もどがし気にいう。

*** 2) ルネス、エゴンは殺してない

1) 1976年1月24日の夜、バタンガスに地震。あなたは、わたしのアパートにかけつけた。うれしかった。おぼえてるか。無言。すぐ二人でスクーターにのってフランコの家に義手を取りかえしにいった。呆然。寝室、居間、陳列室になかった。あの日の朝、フランコは自分から無理矢理、義手を取りあげた。犯罪の臭いがした。エゴン無言。で、エゴンは屋外に取りついけられた階段をおりようとした時、轟音、地震。岩場に転落。電話は不通。スクーターにのって病院にむかった。おぼえてるか。 無反応。ルネスがいう。緊急なのできけなかった。エゴンは極度に興奮。ジェイセム・ビルでおきたことは不知。病院への途中でジェイセム・ビルによった。フランコの事務所で義手をみつけ、さらに銃も。電話は不通。そこに刑事が出現。瀕死のエゴンが心配、抵抗し銃撃、逃走。病院で意識回復。
2) フランコの殺害を知り、ルネスはエゴンが自分のためにやったと思った。生きてると信じ、沈黙。刑事にもエゴンのことは不言。ルネスが告白。エゴン以外の二人の男と愛人関係。エゴンを傷つけた。ラウルも好きだたが、事業に行き詰まり、事業とルネスをフランコに売った。フランコはフィリピンをまだ植民地と思ってた。ラウルとの関係をつづけ、エゴンも愛した。ききたい、本当にエゴンがフランコを殺したのか。不言、答えられない。

*** 3) 苦しむエゴン、思いだせない

1) 自分の脳ははたらかない。かくすつもりはない。どうしても思いだせない。自分がどうしてここにいるのもわからない。辛い。どうしても自分がいるべき国にもどらなければ、そこに帰る。ルネスが感謝。ヨーロッパ人に怒り、復讐心。自分の魅力や力をつかう。傲慢でエゴンを傷つけた。エゴンが一番好きだったと告白。スルー海でエゴンとおよいだことをわすれない。ラウルの家で自分がつくったアドボをたべた。ワインをのんで大騒ぎ。ヴァイオリンの名手のラウルが「魔法の馬の帰還」をひいた。エゴン大喜びだった。もうこれ以上語れない。涙になる。すると後ろで声がひびいた。

*** 4) ラウルが魔法の馬の帰還を演奏する

1) 院長が告白。ラウルを名のった。ルネスにあやまった。人生が終わりにちかづいている。エゴンのために療養施設をつくった。だがルネスのことを忘れてた。フィリピンにもどる。驚くルネス、看守に電話の猶予をたのむ。御手洗が冤罪をはすのに必要、延長をたのむ。沈黙。ルネスの声、感謝。御手洗がラウルにヴァイオリン演奏をたのむ。フランコの弾丸がヴァイオリンを二つにさいた時、演奏を封印とちかった。御手洗がエゴンの脳に奇跡がおきるかも、再度たのむ。ラウルがヴァイオリンをとる。突然、つよい音がひびきリズミックに草原をかける馬が登場する。陽気な演奏、手拍子がくわわる。調子がかわり、憂鬱な弦の音、聞き覚えのあるメロディにかわった。演奏は拍手をもっておわった。

*** 5) ラウルが自分を語る

1) 御手洗が、こんな素晴しいチゴイネルワイゼンははじめてという。ラウルがロマであることをたしかめる。自分はトランシルバニア、ハラトウカ村にうまれた。そこは西にむかうロマの大通りだった。政治的に複雑な場所だった。第一次大戦でルーマニア領、第二次大戦でハンガリー領となった。父はヴァイオリンの名手、人気楽団をひきいていた。ハンガリーを支援するナチのため演奏をした。ハンガリー敗戦、チャウシェスク独裁にむかった。一家は白眼視された。父はブタペスト、スペインとのがれた。母は旅の途中で死んだ。困窮の生活でヴァイオリンの技術もおとろえ、やがたフィリピンに仕事をもとめ、アフリカ経由、渡航した。貧窮の生活の中で父からヴァイオリンをならった。音楽は政治に利用されると音楽家になることは反対だった。その頃に名前をかえた。そこから父とともに日本にわたった。全国の都市を演奏してまわった。九州で食品模型にであった。蝋でなく塩化ビニールでつくる精密でリアルなものだった。タチバナ食品模型研究所に長期特別研修生というかたちで住みこんだ。蝋細工とちがい、ビフテキなどはたべられそうで、さわってもやわらかでリアルだった。
2) フィリピンにもどり食品模型の会社をおこして、猛烈にはたらいた。会社をおおきくし、レストランを買収、デパートまで拡大した。その頃、父がなくなった。ミンドロ島の別荘でだった。時代がかわった。拡大しすぎた事業は行きづまった。その頃にフランコにであった。事業家で学者でもあった。放浪のヨーロッパ人という親近感もありしたしくなった。これが自分の最大の過ちだった。フランコをつうじエゴンともであった。ミンドロ島の家にちかくにはアメリカ人のビレッジもあった。そこの学者と交流がうまれた。アメリカ人学者の自由な発想にエゴンは魅惑された。交流を心からたのしんだ。可愛いやつだと思った。あんな事件があり記憶をなくし、アルコール依存症でホームレスの収容施設にはいってる。そんな状況はたえられなかった。欧州にもどる際にスウェーデンにつれていって、自分はまた放浪の旅にでた。スウェーデンにもどるとヘルシンクボリでエゴンがひどい生活をしてた。自分の財産のすべてをつぎこみ重度アルコール依存症患者の更生施設をつくり、収容した。

*** 6) ルネスをフランコに売る

1) 自分はいつかロマの女と結婚しようと思ってたが、かなわなかった。ルネスのことを思えば心がいたむが、ロマの血があったのだろう。事業に行きづまり、嫌気もさした。フランコに売却を提案した。はじめしぶっていたが、ルネスを売れという条件をつけた。彼の提案は好条件だった。
2) フランコは義手、義足に関心があった。当時、ベトナム戦争はおわっていたが、カンボジア内戦があり、イスラエル、中東、アフリカと戦火はつづいてる。フランコは補助器具の需要を見こんで研究していた。一見何でもなさそうな研究だが、あの男は悪魔だった。ルネスは右腕がないが、両親もなく、祖父の老い先もながくない。まったく親類縁者のない者になる。彼女を愛人とするという口実で、実験材料のモルモットにしようとしたのだ。

*** 7) フランコの殺害を決意する

1) 右腕のない彼女が、右足もなくすると、その左脳が特殊な機能を発揮するようになるといった。カンボジアにつれていって口実をつけて右足を切断するとまでいった。1970年代は異様な時代だった。戦争が身近にあり、悪魔がそのちかくによってくる。義手、義足は戦争捕虜を拷問するためだ。定型化された義手、義足を用意し。拷問の時、それにあうよう手足を切断する。効率的、効果的な拷問だ。悪魔の研究だった。自分はおそろしくなった。計画が中止させられないとわかったので殺害を決意した。その計画をはなそうとした。それを御手洗が中止させた。

*** 8) エゴンに事件がよみがえる

1) エゴンの変化を見のがさなかった。エゴンがいう。魔法の馬の帰還、ヴァイオリンにあわせて、ルネスが踊った。ルネスの声。アドボ、挽肉となすのオムレツ、レリエロン・タロン。これらを一生たべたい。あれはルネスへの求婚の言葉だった。ルネスの声。思いだした。うつくしいスルー海のそばで一緒にくらしたいといった。エゴンが御手洗をみた。ラウルをさししめした。抱きあう二人、ラウルがエゴンの奥さんをたすけにいこうといった。

*** 9) エゴンに語らせる

1) 御手洗が1976年1月24日の夜に何があったか。エゴンがいう。ラウルにつづいて応接間にはいった時に何を見たのか、ときいた。ラウルが声をあげた。見るとフランコがソファの上で仰向けでねてた。ワイシャツが真っ赤でスーツにちいさな孔があいてた。ラウルが穴に指をつっこみ血だといった。エゴンがさらにいう。眩暈、エチオピアから一緒にやってきたのに。吐き気をもよおした。休止。御手洗がそれは何時ころ。八時前。ラウルがフランコの体をゆさぶり、頬をぺちぺちとたたいた。その後で、穴にふれた。頬の肉がぷるぷるふるえた。御手洗がきく。フランコのスーツの穴はいくつ。不答。壁のヴァイオリンはこわれてたか。否。それから。警察に電話しようとした。そこに大地震、部屋が暗転、外は土埃。御手洗がきく。揺れの時間は。10秒くらい。その揺れの中で何を見たか。躊躇、やがて、フランコの頭がゆるゆると後ろをむいた。後頭部、どすんと床に落下、エゴンの前をころころところがった。御手洗がきく。どこまでか。部屋の中央にある卓子の脚のあたり。電話はそこにあったか。否、隣室。ラウルが証拠保全を警告。徒歩の連絡も考えた。結局、ルネスの安全確認を優先。現場をラウルにまかせ出発。御手洗が事件の全容が見えたことに満足。

*** 10) 見えてきた事件の全容

1) これでルネスの説明につながる。目撃者がきえた理由がわかり、ルネスが気がせくあまり刑事をうった理由もわかる。ラウルには事件を糊塗する必要があり、警察への連絡をおくらせた。ラウルが沈黙。ルネスの逮捕はラウルのアリバイ問題を解消した。さらにラウルが発見時間をおくらせ9時とし、首がおちたのは地震前、ゆさぶった時にした。理由は架空犯人の意図どうりと印象づけたかったからだろう。犯人の異常性に注目をあつめるのが得策と考えたのだろう。一方、エゴンは岩場におち肩甲骨を粉砕骨折し、おそらく海側から発見救助、病院に搬送。日本人医師のいる病院で人工骨による手術。これが肩甲骨の突起としてのこった。ラウルは、あわてて銃をフランコの事務所にのこした。それがルネスさんの狙撃、犯人としての逮捕、アリバイの問題が解消したが、冤罪者をだしたと指摘した。御手洗がきく。

*** 11) フランコ殺害の実相

1) フランコが残業してることは。承知、事業引き継ぎで多忙。ハインリッヒが何故、エゴンを目撃者にする必要があったかきく。フランコの死体発見時までずっとエゴンと一緒ならば、アリバイができる。推定死亡時刻は7時から8時、6時からずっと一緒なら完全だ。ハインリッヒが誰によりどのようにフランコが殺害されたかきく。御手洗はエゴンに、どうしたと思うかきく。エゴンが冤罪をすくうため、一番事態を理解してる必要があると指摘。エゴンが語る。犯人は自分でなく、ラウルでもなく、ルネスでもない。犯人がいない。御手洗がヒントはタンジール蜜柑共和国への帰還の中にある。壁にヴァイオリンがかかってた。ルネスの頬がぷるぷるふるえた。胸にぽつんとひとつあいてる穴を見たと記述を指摘。エゴンが思いだしながら、真相にちかづく。警察の発表とちがうところがある。ヴァイオリンは壁にかかってた。スーツの穴は一つだった。御手洗が歓喜の声をあげて、エゴンが見たのは、警察が発見したのとは別のものだったといった。しかしエゴンはフランコという。エチオピアから一緒だったフランコを間違えるはずない。双子がいても殺人がふえるだけ、御手洗がアリバイつくりだったといった。
2) 御手洗はエゴンがまた明日になれば、もとにもどる可能性がある。記銘をつよくするために自分で語らせる必要がある。また、奇跡のヴァイオリンが必要かもしれないという。推理の原則は犯人の立場にたって推察すること、犯人はどう見せようとしたのか。それができなくなったのが地震、では地震がなかったらどうか。ゆすったり、頬をたたいたが首はおちなかった。地震があったのでおちた。フランコの射殺死体を見た。それが犯人がエゴンに見せたかったものだ。電話は。隣室は駄目といわれた。下の公衆電話だったろう。もし公衆電話を事前に細工する。out of order の看板、とすれば、さらに遠くでかける。何故犯人はこのように時間をかせぐ必要があったか。何をしようとしたか。

*** 12) あきらかとなる事件のからくり

1) 御手洗がいう。犯人はフランコの事務所にいって、ラウルの事務所に変なものがあるとさそう。やってきたフランコは死体を見ておどろく、ちかよってしゃがみこむ。その瞬間、犯人は左胸に弾丸をうちこむ。素早く偽装死体を処分する。これなら時間をすこしかせげば充分。ねじ式が見えたのは偶然の事故。ではあれは人形。ようなもの。塩化ビニールはやわらかい。たたかれればぷるぷるふるえる。でも、体もやわらかだった。ゆすったり、すこしもちあげた。やわらかな自然な動きだった。ルネスが補足した。右手の義手をフランコの指示でためした。ほとんどは無理なく自然にうごくものだった。御手洗が指摘した。ラウルがこの人形をつくった。然り。数々の試作品を見せられた。デスマスクも。精魂こめてつくった。我ながらよくできたと思った。しかし彼の首は人並はずれてながかった。そのため、首のネジをゆるめざるを得なかった。ゆする時も注意してやった。ところが地震がすべてをぶちこわした。
2) 非常に困惑したが、計画は修正できると思った。エゴンをルネスのところにやったので余裕ができた。右手に手袋をはめフランコの事務所にいった。声をかけた。灯りがある廊下にでてフランコの衣服を見た。紺色のスーツ、白色のワイシャツ、黒のズボン。人形はグレーのスーツだった。やるしかない。応接間にはいり死体を見せた。しゃがみこんだ瞬間、ポケットのハンドガンでうった。成功したが、フランコもポケットにハンドガンをしのばせていた。ほとんど同時にうたれた弾丸は壁にかかったヴァイオリンを破壊した。いそいで人形をばらし、大型バッグにつめた。下におり地震でごったがえす道を横ぎって自分の会社の倉庫にいった。そこで人形の頸部のネジ式の部分を切断した。塗装用のプラスチックシート、ナイフ、ノコ、手袋などを大型バッグにつめ、現場にもどった。死体の血はもうかわきはじめてた。スーツの裏地に血はしみつかないだろう。
3) プラスチックシートの上に死体をおき、頸部を切断した。胴体部には内部をえぐり、牝のネジをおしこんだ。頸部のほうも筋肉、脂肪をリング状にえぐり牡ネジをおしこんだ。紺色のスーツをグレーにかえた。スーツの穴とワイシャツの穴がずれてる。そこで、慎重にスーツの穴から一発うった。さらに下のワイシャツの穴にあわせ、スーツをうった。頭部のない死体をソファにおき、首はテーブルの脚のあたりにおいた。いそいで後片付けをして、大型バッグをもって倉庫にもどった。手を充分にあらい、流しも何度もあらった。海にすてる余裕はない。ナイフ、銃は自分の車のシートの下にかくした。

*** 13) 国外に逃亡したラウル

1) 地震で混乱するバタンガス署について、まってる間に後悔がうまれた。血の臭いも気になった。現場に同行し予定どおりの説明をした。たいしてきかれなかった。心配したアリバイのこと、倉庫の捜索もなく、ルネスの逮捕を知らなかたので意外だった。目撃者は自分一人となっていた。自分はフラ ンコをうった銃をフランコの事務所においてきた。間抜けたことだ。いそいで出国しまだ市民権がのこってるルーマニアにひっそりと暮していた。そこでルネスの逮捕をしり愕然とした。 バタンガスにもどりエゴンの消息をしった。スウェーデンにつれて帰り、ヘルシングボリで彼のためアパートをみつけた。また放浪の旅にでた。失意の連続だった。もどったヘルシングボリで公園にくらすエゴンをみつけ、決心した。ストックホルムで重度アルコール依存症患者更生施設をつくって、エゴンを収容した。

*** 14) エゴンとともにフィリピンに帰還

1) 暫くの沈黙の後、ルネスにたいする罪の意識がつよくなった。今回のことは最後の審判をうける気分だった。フィリピンにもどり罪を告白しルネスの冤罪をはらすといった。御手洗と握手をかわした。エゴンから、ルネスから感謝の言葉があった。のこったハインリッヒから賞賛の言葉と夕食への招待があった。

** ゴウレム(5/5)

*** 1) ラウルのわかれの言葉

1) ラウルが夢を回想。ルネスがラウルにこたえる。ザゼツキーをたおした。あの悪魔は地獄にもどっていった。悪魔がいるなら神もいることがわかったといった。輝くように青いスルー海の船上だった。ルネスがいう。一時、ラウルを愛した。しかし悪魔が乱舞する戦争がおわった。騒がしかったアジトも静かになった。すべてがかわった。ルネスはエゴンを愛するようになったという。ラウルはエゴンは自分の子どものようだ。自分は旅にでて、旅で死ぬ。ふたりの幸せをいのってるといった。

注) 二つの銃の扱いにかんし、作者にミスがあった、と思う。謎解きの醍醐味をそこなうものと思わないが、本作品の趣旨から一言しるす。

(おわり)

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