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謎解き島田、斜め屋敷の犯罪 [島田荘司]

* はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 本文
* プロローグ

** 1) 世界の奇妙な建築

世界には奇妙な建築があるが、日本には斜め屋敷というものがある。

** 2) 斜め屋敷の所在

北海道、宗谷岬のはずれのオホーツク海を見下ろす高台の上に斜め屋敷が所在する。名称は地元の通称、正式名は流氷館である。
1) エリザベス王朝風の白い壁に柱を浮き立たせた三階建ての西洋館とその東に隣接した、ピサの斜塔風の円筒形の塔から成る。
2) 斜塔は周囲にびっしりとガラスがはめられ、そのガラスにはアルミニウムを真空蒸着させた鏡面フィルムが貼られている。
3) 西洋館の手前に、随所に彫刻が設置された石造りの広場、塔のふもとには扇形の花壇がある。
4) ハマー・ディーゼル株式会社会長、浜本幸三郎が建設したものである。

** 3) 奇妙な斜め屋敷

斜めについて説明する。
ピサの斜塔が鉛直線から南北方向に、5度11分20秒傾むいているという。斜め屋敷もこのように傾いている。
西洋館の向きは、東西、南北に正対している。つまり、南面壁は南に正対し、他の壁も同様である。

** 4) 傾きの詳述

傾きを詳述する。傾斜度は上述のとおり。
1) 床についいう。その南北方向において南が坂下となっている。しかし東西方向は水平を保っている。ここで玉を転がせば、当然、北から南へ転がる。
2) 窓についていう。南面壁、北面壁の窓はこのとおり傾むいている。しかし東面壁、西面壁の窓は傾けない。水平、鉛直に対して通常の関係にある。
3) 人間の錯覚についていう。このような部屋に入って壁を見る。例えば東面する窓は壁の長方形に対し、右側あるいは南側が上方に、左側あるいは北側が下方にある。長方形に対し窓が歪んで設置されている。この相対位置から人間は南側が坂上、北側が坂下と錯覚する。
4) ところで、玉を北から南へ転がすと、既述の1)のとおり南側に向って転がる。人間の感覚に反する奇妙な現象を生じるわけである。

** 5) クリスマスの夜の部屋割り

事件が起きる12月25日の夜の部屋割りは次のとおり。
1号室 相倉クミ
2号室 浜本英子
3号室 (骨董品室)
4号室 (図書館)
5号室 (サロン)
6号室 梶原春男
7号室 早川康平夫婦
8号室 浜本嘉彦
9号室 金井道男夫婦
10号室 上田一哉(スポーツ用具置き場)
11号室 (室内卓球場)
12号室 戸飼正樹
13号室 日下瞬
14号室 菊岡栄吉
15号室 (空室)
斜塔 浜本幸三郎

** 6) 浜本幸三郎

ハマー・ディーゼル株式会社会長。富と権力を極めた大富豪。クラシック音楽、ミステリィーを愛好し、西洋のからくり玩具、機械人形の研究を道楽とする趣味人である。
68歳、妻を亡くし、末娘と流氷館に隠居生活を送る。

** 7) 事件の発端

事件はまず、1983年12月、吹雪の吹いたクリスマスの夜に発生した。そこには招待客と主人、娘、使用人がいた。

** 8) 登場人物

流氷館の住人
1) 浜本幸三郎、68歳、流氷館主人
2) 浜本英子、23歳、末娘
3) 早川康平、50歳、住込み運転手兼執事
4) 同千賀子、44歳、妻、家政婦
5) 梶原春男、27歳、住込みのコック

招待客
1) 菊岡栄吉、65歳、キクオカ・ベアリング社長
2) 相倉クミ、22歳、菊岡の秘書兼愛人
3) 上田一哉、30歳、菊岡のお抱え運転手
4) 金井道男、47歳、キクオカ・ベアリング重役
5) 同初江、38歳、金井妻
6) 日下瞬、26歳、滋恵医大生
7) 戸飼正樹、24歳、東大生
8) 浜本嘉彦、19歳、慶応大一年生、幸三郎の兄の孫

警察官など
1) 牛越佐武郎、札幌署、部長刑事
2) 尾崎、同、刑事
3) 大熊、稚内署警部補
4) 阿南、同、巡査
5) 御手洗潔、占星術師
6) 石岡和己、その友人

* ふたたび警告

この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)

斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1992/07/03
  • メディア: 文庫



* 第一幕
** 1) 流氷館の玄関

*** 1) 幸三郎の出迎え

幸三郎が娘英子とともに玄関でお客のキクオカ・ベアリング社長の菊岡栄吉とその秘書であり愛人でもある相倉クミを迎える。
しばらく経って東大生、戸飼正樹が到着する。最後にキクオカ・ベアリングの重役、金井道男とその妻、初江がやってくる。
招待客の日下は既に到着していた。

** 2) 流氷館のサロン

*** 1) 夕食

一階サロンで夕食が始まる。英子が南側の裏庭に設営された見事なクリスマス・ツリーを披露する。次に誇らしげに幸三郎を紹介する。幸三郎が音頭をとり乾杯する。

英子が着席者の紹介をする。
1) 菊岡は雑誌でも取り上げれた有名人。菊岡は、女性問題で裁判沙汰、映画女優との醜聞で登場した。
2) 相倉はお隣りにいる素敵な洋服のかた
3) 金井はキクオカ・ベアリングの社長。英子はクミとの火花散るやりとりで少々疲れ、肩書を間違えた。
4) 妻初江はグラマーな女性。初江は太っていると揶揄されたと気分を害した。
5) 日下は目前の医師国家試験準備と幸三郎の健康チェックのため滞在
6) 戸飼は将来有望な東大生で参議院議員の息子
7) 嘉彦は兄の孫、慶応大一年生、スキーで滞在

英子が使用人を紹介する。
1) 早川は、幸三郎が鎌倉に住んでいたころから20年近く執事をしている。
2) 妻千賀子はいろんな雑用をお願いしている。
3) 梶原は自慢のコック

英子は菊岡のお抱え運転手の上田の紹介を失念していたことに気がついたが無視する。
豪華な七面鳥料理など東京の一流ホテルに負けない食事である。食後の紅茶が終り、日下が裏庭のクリスマス・ツリーを見ていた。その時、雪上に立つ棒を発見した。さらに西の角あたりにもう一本あることを発見した。それは今日昼間、日下がクリスマス・ツリーの準備を手伝っていたときにはなかった。それは暖炉に使う薪のようだった。

*** 2) 幸三郎の謎

大人同士の会話に飽いた幸三郎は若い人にといってクイズを提出した。そのいくつかを日下が見事に解いてみせた。幸三郎は戸飼に対抗心が生じたことみて、突然、これから出すクイズで英子の結婚相手を決めようといいだした。それは勿論、英子の同意を条件とすると付言した。そこで自分の部屋である斜塔の上に案内するという。日下、戸飼、コックの梶原、さらに菊岡と英子が幸三郎に従った。

** 3) 塔

*** 1) 斜塔から謎を提示

ホールの南側に付設された階段で二階に登る。踊り場を北方に移動し、そこから三階に連絡する階段を登り、三階の踊り場の南側に戻り、そこからまた登ると東面壁に近くなる。
そこに垂れ下がっている鎖を引くと扉にみえた部分が向こうに倒れる。斜塔への架け橋となった。それを登ってやっと斜塔に到着した。
部屋の周囲は回廊で囲まれていた。回廊の最南端に行き、そこから花壇を見下ろす。その形は斜塔のほうが要である扇のようである。扇面に多数の曲線が描かれ模様を表わしている。幸三郎は一同に斜塔と合せて意味のある答を出すよう求めた。
この時、降雪中だった。

** 4) 一号室

*** 1) 怪人物の登場

クミの部屋である。降雪は止み月が出ていた。
1時過ぎ、ここの静寂は都会暮しのクミには就寝の邪魔であった。また英子のことを考え、ますます眠れなかった。微かな音に気がついた。何かが外壁をカニのように登ってきている。嫌だと思っているのに南側の窓を見た。窓の下、カーテンの隙間から人間の顔がじっとこちらを覗いていた。
少しもまばたかない狂人の目、青黒い皮膚、白い鼻の頭、ヒゲ、頬の火傷の跡、薄笑いを浮かべた唇、異常な顔であった。
クミの悲鳴、その後にはるか遠くで吠えるようなうな男の悲鳴。またクミの悲鳴。ドアが叩かれ英子が入ってきた。外を確認したが何もない。幸三郎、金井がやってきた。不審さが解消されないまま、その夜は過ぎた。

** 5) サロン

翌朝、暖炉のまわりに、クミと金井夫婦、日下、嘉彦がいた。クミの熱弁にもかかわらず昨夜の話しは信じてもらえなかった。

*** 1) 上田の殺害

戸飼、幸三郎、菊岡が入ってきた。菊岡が上田一哉がいないことに気がついた。日下が気をきかせて起しに出た。英子の声で一同は朝食を始めた。やっと戻ってきた日下が部屋の異変を知らせた。
一同が外に出たとき、雪上には日下の足跡しかなかった。日下が指差す西の角に黒ぽい人影らしいものが倒れている。近づくとそれが幸三郎の蒐集品の一つの人形と判明する。しかも手足がバラバラに散在している。
西面する10号室の扉の前で呼びかける。応答がないので体当たりをして開けた。倒れた上田には心臓の上あたりに登山ナイフが刺さっていた。死体はベッドの足もと、あおむけ、右手首に白い糸、その端がベッドにつながれていた。
手足の状態が奇妙だった。両手を上方にあげており、足は左を胴体のほうに直角、右を左よりさらに曲げ110度曲折させた状態だった。それに左腰のあたりに直径5センチの赤黒点があった。
最も奇妙なのは、ナイフの柄尻に長さ1メートルの白い糸がついていた。その糸の柄から10センチの部分がパジャマを汚している血に触れて茶色に染まっていた。

*** 2) 警察の来訪

稚内署の大熊警部補、札幌署の牛越佐武郎部長刑事、尾崎刑事が到着する。

*** 3) 警察の捜査

警察から説明があり、次が明きらかとなる。
1) 犯人は、流氷館の住人、招待客に限定される可能性が高い。
2) 死亡推定時刻は昨夜の零時から零時半。降雪は昨夜11時半に止む。
3) 二つの砲丸のそれぞれは十文字に糸がかけられて、木の札がつけられている。7キログラムのほうの糸が1メートル48センチあった。
4) 犯人の動機が不明である。
5) クミが昨夜の異常な顔と男の声について話す。また、男の声を聞いたという金井夫婦、幸三郎、英子の証言を得る。
6) 日下から棒の証言を得る。

** 6) 図書室

*** 1) 建物の構造について説明する

尾崎が建物の構造について詳細に牛越らに説明する。
正式名は流氷館という。地下一階、地上三階の西洋館と斜塔から成る。この他、概要を説明し、部屋の所在、窓、入口、廊下について説明する。
1) 西洋館には15の部屋がある。建物を東と西に二分する。原則として各部分の各階は居住部分、吹抜け部分から成る。
2) 部屋には東側の三階の南側から1号室、北側を2号室、二階も同様に3号室、4号室と付番される。一階は5号室、つまりサロン、地下が6号室、7号室となる。西に移って、8号室から順次、降りて15号室に至る。
3) 東側は吹抜けが一階から上に抜ける。地下にはない。部屋の大きさは吹抜け部分と空間を分けあっている南側が小さく、それがない北側が大きい。
4) 西側は地下も含め各階とも居住部分、吹抜け部分に分けられる。部屋の大きさは既述どおり。
5) 部屋の使用目的は、既述の部屋割りにある。
6) 階段による移動について、二階は例外的である。東側のサロンから階段を経て二階踊り場に至るが、ここから二階階骨董品室、図書室に至る廊下は付設されていないので、移動できない。
この踊り場に付設された階段を経て、三階踊り場、廊下、一号室、二号室へと移動できる。斜塔にはこの踊り場に付設された階段を登り、さらに東面壁に付設された跳ね橋を倒し、斜塔にある部屋に至る。サロンから地下には直接移動できない。西側一階から移動するほかない。

*** 2) 部屋への移動

1) 西側における移動においても二階は例外的である。一階から階段を経て二階踊り場に至るがそこから十号室、十一号室に至る廊下は付設されていないので、移動できない。これは室外に出て、敷地西側に付設された階段によるほかない。
他方、迂遠であるがサロンから西側に移動し、階段を登って二階踊り場に至ると、そこの廊下を経て骨董品室と図書室に移動できる。二階踊り場から階段を経て八号室、九号室に移動できる。一階踊り場から地下の十四号室、十五号室に移動できる。
2) 奇妙な構造であるが、三階、二階の東側と西側を直接結ぶ廊下はない。一階に降りて移動するほかない。一階は可能である。地下は西側の吹抜けを経て可能である。
3) 骨董品室は「天狗の部屋」と呼ばれて、その南面壁には一面に天狗の面がかけられている。
4) 換気孔について、東側、西側とも吹抜けに面する壁に付設されている。位置は西側は南側の部屋については東面壁の南上の隅にある。北側の部屋については南面壁の東寄り上部にある。東側については、地下の部屋とサロンを除いて、西側と同じ位置である。地下については、西側吹抜けに面した壁面の然るべき位置にある。
5) 窓は原則的に外部に面している。三号室は例外で南面壁になく西面壁に窓がある。
6) 廊下あるいは踊り場が付設されているところがある。これの形状はすべて逆L字形である。この南端と南面壁との間に20センチの空隙がある。
尾崎と牛越との間でこの奇妙な構造を利用しての犯行が可能か検討されたが、とくに結論はなかった。

*** 3) 事情聴取

部屋に関係者が呼ばれ事情聴取される。質問事項は、1) 上田一哉との関係、2) アリバイ、3) 不審事項、である。
1) 日下、戸飼から、いずれもなし。
2) キクオカ・ベアリング組から、1)は若干あるが極めて希薄。2)は困難。3)について、金井から、怪人物騒動の後、部屋に戻る際に不審な人物は見なかった。
3) 英子から、1)はなし。2)は困難。3)は特にないが、寒さから目が覚めた。跳ね橋の開閉を確認したら、ちゃんと閉鎖されていなかったので閉鎖した。零時30分ころだろう。
4) 幸三郎から、1)は親しく話したことがある。軍隊経験者だから自衛隊の様子を聞きたいと思い、来訪時に尋いた。2)については、跳ね橋の開閉時には音が鳴り響くので10時半に部屋に入り、朝になるまで外に出なかったことは判るはず。3)は特にない。
5) 梶原、早川千賀子から、いずれもなし。
6) 早川康平から、いずれもなし。しかし、不審を感じた刑事たちの追求に成果はなかった。
大熊の提案から稚内署から応援を一人呼ぶこととなった。

* 第二幕

** 1) サロン

豪華なディナーが刑事を含めた一同に出された。食後の紅茶の後に英子のピアノ演奏が始まった。盛大な拍手で終了した時、英子がクミに演奏を慫慂した。それには悪意が感じられた。
応援の阿南巡査がやってきた。刑事たちの宿泊のため、部屋割りが変更された。十二号室戸飼が八号室に移動し、その十二号室に、大熊、阿南が宿泊する。牛越、尾崎が空室の十五号室に宿泊するといものであった。

*** 1) 幸三郎の菊岡への忠告

荒れ狂う吹雪を外に幸三郎と菊岡が話す。軍隊時代を思い出しませんかとの唐突な問いに、菊岡が、それには良い思い出がないと答える。さらに上田の怨念かなと吹雪を見る幸三郎が菊岡に睡眠薬をちゃと服用して就寝するよういう。最後に戸締りを厳重にするよういった。

** 2) 十四号室、菊岡栄吉の部屋

*** 1) すねるクミ

菊岡とクミがスケデュール打ち合わせと称して早々に部屋に籠った。英子の言葉に傷付いたクミが滞在を切り上げて早く帰りたいとすねている。なだめすかして機嫌をとる菊岡。そこに英子が登場した。慌てる二人に何か問題はないかと尋ねる。
クミにも話し掛け、嫌味を二つほどいってから、退出を促した。

** 3) 九号室、金井夫婦の部屋

吹雪の凄さに感激している金井に初江が突然怒りだす。英子の発言が体型を気にしている初江を深く傷つけたのである。さらに不満は発現し、金井の腰ぎんちゃくと称さられる卑屈な処世術に及ぶ。悪口が英子、クミから菊岡に及んだころ、菊岡本人がにこやかな顔を覗かせた。

*** 1) 菊岡、英子の来訪

みごとな豹変ぶりを示す初江は、次に顔を出した英子にも同様ににこやかであった。

** 4) 再びサロン

菊岡、金井夫婦、英子を除く人々はまだサロンにいた。荒れ狂う吹雪に部屋で一人になりたくないという気分だった。そうはいってもやがて大熊が部屋に戻った。

*** 1) 花壇設計の逸話

ディナーテーブルに戸飼と嘉彦が並んでかけ、その向いに日下が医学書を置いてかけている。戸飼が嘉彦に尋ねる。花壇の設計は幸三郎がやったものか。英子が加わり、全部自分でやった。あれこれ注文が多った。アルミホイールをもってこいというので、梶原のを借りてきたという。
クミが阿南に興味を示し話し掛けた。やがて強引にビリヤードに誘って始めた。幸三郎が戸飼、嘉彦、英子を従え、そこにやってくる。緊張する阿南に模範演技を見せる。

*** 2) ビリヤードの模範演技

尾崎は退出する。幸三郎が嘉彦と英子に、阿南は筋がいい。今夜は離れず十分にコーチしてあげなさいいう。牛越は大袈裟な幸三郎の態度に違和感を感じた。
幸三郎は牛越を自分の部屋に誘い、階段のところまで行き、気が変わって菊岡の部屋のドアの前に立った。ドアを叩いてみたがなかから応答がない。あきらめて二人は斜塔に登っていった。

** 5) 塔の幸三郎の部屋

*** 1) 牛越が同宿

吹雪は依然として吹きすさんでいる。幸三郎と牛越が斜塔の部屋でコニャックを飲む。牛越に同宿を求め、幸三郎が連絡のボタンを押す。下から登ってきた千賀子にその旨を知らせる。10時44分だった。2、3分後に英子が跳ね橋を閉鎖するよう幸三郎に頼んで降りていった。

** 6) サロン

翌朝、牛越と幸三郎は8時に起床する。風と降雪は止み、曇天だったが微かな朝日の光が見えた。9時過ぎ跳ね橋を降りるとき、牛越は母屋の東面壁に「コ」の字型の金属が縦一列に並んでいるのを認める。埋込み式の梯子だった。サロンには金井道男がいた。
大熊、尾崎がやってきた。初江、英子、クミと続く。玄関に車の停まる音がする。玄関の英子が思わず悲鳴のようなものをあげた。幸三郎が注文したしょうぶの花束だった。各部屋に花を配ることとなる。日下、戸飼が来る。

*** 1) 菊岡の殺害

午前11時5分前だった。英子が嘉彦を起しにゆく。阿南もやってきた。ここで菊岡がいないことが気になりだした。幸三郎が花の入った花瓶を持って部屋に向う。応答がない。緊張が走る。ついに斧で扉が開けられた。菊岡がナイフで殺害されている。幸三郎が思わず花瓶を落し、周囲に水滴が飛散した。

その状況は次のとおりである。
1) ドアの近くにソファ、テーブルが横倒
2) 菊岡がパジャマ姿で背中にナイフが刺さっている。
3) かなりの出血。血痕がベッドのシーツ、床にずり落ちた電気毛布、床の中央
4) ベッドは固定式、その他、動かされたものはない。
5) ドアには通常の鍵の他に上下にカンヌキが施錠
6) 死亡推定時刻は昨夜11時、その前後30分の範囲

*** 2) アリバイの確認

アリバイが確認される。
1) 日下、戸飼、嘉彦、早川夫婦、梶原、阿南はサロンいた。
2) 幸三郎は牛越と同宿
3) 英子、クミは在室。十四号室への移動はサロンを通るので不可能
4) 金井夫婦は在室。アリバイは困難だが動機が薄弱

** 7) 図書室

刑事たちが犯人捜しに智慧を絞る。

殆ど全員にアリバイがある。アリバイ工作を追求する必要がある。まず隠し扉、隠し棚はない。天井の仕掛けも認められないことを前提に考える。

*** 1) トリックの可能性

何かトリックは考えられないか
定刻にナイフが落下するような仕掛けはどうか。大きな落下速度が必要である。仕掛けに無理がある。
何処かに潜んでいる未知の人間が犯行に及ぶといのはどうか。幸三郎ないし英子との共犯関係が必要である。幸三郎とは仕事上の関係しか認められない。英子との関係も殆どない。共犯関係は無理がある。その他の共犯者も想定しにくい。

*** 2) 動機からの可能性

動機から追求できないか
早川に新たに動機の可能性が判明した。一人娘が交通事故死した。この娘が菊岡と愛人関係にあった。ただし愛人関係と事故死には直接の因果関係はない。
金井にも動機があるかもしれない。初江が菊岡の愛人であった。ただし、これは二十年も前の話し。現在、自分の後楯てとなっている。動機として薄弱である。
クミにも動機があるかもしれない。恨みが生じるような背景関係がない。現在享受している利益を失なう。動機はない。

*** 3) 今後の方向

1) 大熊は徹底した捜索による仕掛け、隠し部屋などの発見を主張する。
2) 尾崎は犯人は10号室、14号室に密室を作り出す他に、数々の工作を施している。この線からの追求を提案する。

10号室では、上田の手首につけられた紐、床の砲丸に付け加えれた糸。
14号室では、ソファ、テーブルを倒した。争った跡としての工作である。
14号の密室性は高い。換気孔の周囲、床に工作の跡はない。

*** 4) 10号室の宿題

尾崎が10号室の事件で棚上げの事実があるという。
1) 足跡がない。
2) 日下のいう二本の棒
3) 雪中に放置された人形の問題。25日の昼には三号室にちゃんとあったと確認された。話の途中で尾崎が三号室にいってきて、ゴーレムの右手首に白い糸が巻きつけられているのを発見したという。

*** 5) 換気孔の可能性を追求

食事を知らせにきた早川を牛越が一人娘のことを隠していたことを追求する。特段の成果はないが、合鍵がないこと、事前に部屋に忍びこんだ可能性がないことが判明する。
これで換気孔から釣ざお、細長いもの、改造銃、とにかく可能性のあるものを使い殺害する方法しかないとの結論となる。食事後に捜査、そのようなものがないと結論された。

*** 6) 最後に金井のアリバイの結論

尾崎は金井のアリバイについていう。部屋に戻った後、再度外には出なかったか確認のため、扉に髪の毛を付着させた。それがそのまま残っていたといった。

** 8) サロン

翌28日の平穏な朝がやってくる。捜査に進展がないまま夕食の場となる。牛越が重い口を開いて良い智慧がないかと尋く。

*** 1) 日下がドアのトリックを解き明かす

日下が十号室のトリックについていう。砲丸には紐が結ばれその先に木の札が着けられていた。この紐が犯人により長いものに替えられていた。あの錠の踏切の遮断機ふうに上下する金具をあらかじめ持ちあげて、支える恰好に木の札をセロテープでとめておく。そうして砲丸をドアのところに置いてドアを強く閉める。すると床の傾斜により坂下に転がり、紐につけられた木の札が剥がされる。これがトリックであるという。
さらにテーブルが倒れることにより錠前がかかるような仕組みを作ったのではないかと示唆するがたちまち尾崎がそのような大袈裟な仕組みは跡が残る。そのような痕跡は一切ないという。

** 9) 天狗の部屋

*** 1) クミの発見、ゴーレム

幸三郎が天狗の部屋に、クミ、金井夫婦、日下を案内する。
名前を書く少年、ティンパノンを奏でる伯爵夫人という人形付きのオルゴール、キリスト降誕場面のある時計、女神の鹿狩り、卓上の噴水、水撒き人形などを紹介する。南面壁には天狗の面が多数、鼻を突き出して並べてある。
初江が南面壁の右側、窓近くにあるゴーレムのところに行き、怪しげな微笑に見入る。元々、鉄棒ジャックと呼ばれていたがプラハの古道具屋の店主が、嵐の夜に一人で井戸端に降りて水を飲むといい、ユダヤ教伝説の人工人間の名前を取ってこうなったと幸三郎がいう。そこにクミも近寄ってきて、悲鳴とともにこの人形が吹雪の夜に目撃した怪人物だったといった。

** 10) サロン

クミの発言とその事実は翌30日朝、動機不詳のままそんなこともあるだろうと刑事たちの認めるところとなった。また、謎が増えた。

*** 1) 斜めに入ったナイフ

菊岡殺害のナイフの件が検討される。
1) ナイフが斜めに入っている
部屋に迎え入れた犯人の犯行でないか。それでは幸三郎のノックに答えていない菊岡が、いつ、どのようにして部屋に入れたのか。
2) ナイフは右側にない
右利き、左利きから犯人が絞れないか。

*** 2) ついに東京の一課に協力を求める

牛越は動機が不詳である以上、さらなる殺人が生じないと断言できない。面子を捨て東京の一課に応援を求めるといった。

* 第三幕

** 1) サロン

*** 1) 御手洗の登場

受けとった電報によると、占星術師御手洗潔が来訪するとあった。梅沢家鏖殺事件から御手洗の名前は知られていた。
御手洗、石岡を見る目は冷たかった。御手洗は早速演説を始めた。そして犯人はゴーレムであると宣言した。さらに演説は続いたが牛越が制止したので石岡の紹介をして終了した。

** 2) 天狗の部屋

*** 1) 服を着たゴーレム

紅茶の後、御手洗を天狗の部屋に案内する。ピエロをみて映画スルースのものと同じという。幸三郎はこの映画の影響もあり蒐集を始めたという。ゴーレムを見た御手洗が驚き、むき出しは不適切である。服を着せるようにいう。服のゴーレムを見て、帽子が足りないといいだし、梶原のテンガロン・ハットを借りて着せる。やっとこれで満足する。
二人に当てがわれた部屋は十号室だった。

** 3) 十五号室、刑事たちの部屋

*** 1) 御手洗の悪口をいう

その夜、呆れた刑事たちがさかんに御手洗の悪口をいった。

** 4) サロン

31日朝、御手洗が稚内署までの道順を阿南に尋ねる。サロンを出た御手洗と入れ換わりに幸三郎が来る。御手洗がゴーレムの首をもう一度鑑識にもってゆきたいというので刑事に断りをいう。

*** 1) 日下の殺害

午後、御手洗が長田という法医学者を連て戻ってくる。サロンの大時計が三時を知らせたとき、石岡、御手洗、刑事三人、阿南巡査、幸三郎、金井夫婦、嘉彦がサロンにいた。厨房には梶原がいた。突然、男の悲鳴が聞こえた。
御手洗が迷わず日下のいる十三号室のドアを叩いた。応答がない。合鍵も効かないので刑事たちがドアを破って入った。日下が倒れていた。まだ息があった。尾崎が必死に問いかけた。長田医師がそれを制止して、御手洗とともに日下を担架に載せた。そして病院に搬送された。
部屋の様子は、ドアは施錠され、二つの窓も閉鎖され、あらされ、細工された跡はまったくなかった。さらに換気孔はベニヤ板で塞がれていた。壁には次の文章が掲示されていた。
私は、浜本幸三郎に復讐する。近いうちにあなたは自分の最も大切なもの、すなわち生命を失う。
約一時間後、日下の死亡が知らされた。

*** 2) 梶原の遅れた証言

梶原が今になって菊岡殺害の午後11時ころ、シュウシュウという蛇の這うような音を聞いたと証言した。大熊が、もうたまらん、お手あげという。尾崎がこの家にとんでもない仕掛けがあるのではないかという。牛越がそうならば犯人は客の側になく、招待の側にいるといった。

** 5) 図書室

*** 1) 石岡が御手洗を大いに心配する

1月元旦、石岡と御手洗が図書館に閉じこもっている。石岡は日下殺害から御手洗の様子がおかしいと心配になる。天井を剥す音に立ち会はないのかと尋く。まったく関心を示さない。

石岡が見かねて次々と質問する。
1) 何を考えるべきか分かっているのか
分かってないという。
2) 日下が何故死んだのか
あれで仕方なかったという。
3) 自殺でなかったのか
そのほうがよかったのかもという。
4) 文章が下手だ
他に書きようがなかったという。
5) 何故復讐になるのか
そこが問題という。

英子とクミが登場し、英子が日下を誘惑したことを非難する。反発するクミとの間に聞くに耐えない口論が続くが、やがてクミが退去する。残った英子が二人の存在に気づく。非難する英子に御手洗が非常識な弁論をして、絶望的に怒らせる。石岡が大いに呆れる。

** 6) サロン

*** 1) 御手洗と幸三郎の会話、迎賓館

その夜の夕食後、刑事たちは無力感に苛まれぐちばかりが口をついた。幸三郎は、ここ数日で10歳も老けたようだ。しかし御手洗とリヒャルト・ワーグナーやそのパトロン、ルートビッヒ二世の話しとなり大いに盛り上がった。音楽から建築、都市計画へと話しが移り、御手洗はこの流氷館は迎賓館であるといった。

* 幕あい

** 1) ボヤ

1月1日の夜から幸三郎が、大熊と阿南に護衛されて十二号室に眠ることとなった。翌2日、牛越が石岡を尋ねてきたので、4つの疑問をぶつけた。
1) 上田の両手がV字にあがっている。その意味
2) 菊岡の背に立ったナイフが心臓のある左側でなく右側にあった理由
3) 上田殺しと菊岡殺しが一日も間をおかず、連続して起きた理由。もっと時間をおけば警備が手薄となったはず。
4) 階段の構造が特殊で、東側と西側の部屋の間の移動がサロンを経由しなければできない。これは間違いないのか。

*** 1) ゴーレムの首の帰還

3日、業者が入り修理作業が始まる。お昼頃、分析が終ったゴーレムの首が屆けられた。御手洗がそれに帽子を被せて三号室に戻した。

*** 2) 二号室のボヤ

3日午後、吹雪となった。夕食時、全員が揃ってテーブルについているところに、突然、わずかな白煙が降りてきた。御手洗が火事だといった。刑事たちが二号室に駆けつけボヤで消し止めた。英子のベッドに灯油が撒かれ燃えていた。

* 終幕

** 1) サロン西の階段の踊り場、すなわち十二号室のドア付近

*** 1) 不思議な明かり

嘉彦が八号室から降りてくる。その時、牛越は御手洗を尋ね十三号室にいるはずだった。他の者は菊岡殺害の夜と同じように一人の部屋に戻りたくない気分でサロンに残っている。嘉彦は天狗の部屋の前の廊下から一階に向う階段の途中で十号室の換気孔を見上げた。するとそこに明かりが見え、すぐ消えた。驚いた嘉彦はサロンの全員にそのことを知らせる。
牛越、御手洗も現場にきて、見上げる。この館の全員が集っている。どうしてそんなことが起きるのか。怪訝な顔の一同に梶原が、冷蔵庫にあったハムが少しなくなっているという。刑事たちは十号室を確認した。人の気配はなかったという。

*** 2) ゴーレムの顔

その騒ぎから1時間ばかり後にサロンから出た初江が部屋に戻ろうとする。薄暗い地階廊下に人影を見た。思わず見入る初江が見たものはあのゴーレムの顔だった。初江は自分の立てる悲鳴をまるで他人のもののように聞いていた。半信半疑の一同は三号室に向った。ゴーレムは相変わらず天狗の面で埋まった南面壁の前で廊下側の窓わくにもたれるようにすわっていた。
御手洗は勝ち誇ったようにゴーレムが犯人といたでしょうと繰返し、一同を十四号室に誘った。そこで謎解きをするという。

** 2) 十四号室

*** 1) 英子の異変

午前零時、御手洗は紅茶カップをかいがいしく英子に手渡した。犯人を一刻も早く知りたい一同にむけ、またゴーレムが犯人と繰返した。苦々しい雰囲気のなかで御手洗はアイヌの悲恋物語に登場する男女の怨念がゴーレムを動かしたという。
そこで突然、英子がくずおれた。御手洗が睡眠薬の効果といい、ベッドに寝かせる。うろたえる幸三郎が二号室に運ぶよう求めたが、燃えたベッドに気づく。次に換気孔を塞ぐよう求めた。静謐が必要という指摘になおも不満だったが、牛越が護衛をつけることとして納得させた。さらに牛越が一同に就寝を促し、部屋を退出した。

** 3) 天狗の部屋

*** 1) ゴーレムの告発

外は吹雪、寝静まった館内で三号室に怪しげな人影が動く。天狗の面を次々と壁からはずしてゆく。その背後にゴーレムが立つ。振り向いた人物の表情は恐怖で凍りつく。蛍光灯が点灯され、明かるくなった部屋には刑事たち全員がいた。現場を押えたとゴーレムがいう。
それは御手洗の変装であった。天狗の面をはずしたのは、それを利用して菊岡を殺害した。その事実を知っている犯人だからという。すべてを悟った幸三郎は、犯人は自分であると告白した。

** 4) サロン

サロンに、英子と阿南を除く全員が集まる。

*** 1) 上田殺しの動機

御手洗は動機の探求が最も困難だったという。上田殺しの動機は、練りに練った菊岡殺害の計画が無に帰す惧れがあったから殺害を決意したという。幸三郎が、自ら手をくだして殺害しなければならない義理があったという。
娘の葬式から帰ってきた早川から上田に菊岡殺害を依頼したことを聞き出した幸三郎は早川を通じ撤回を求めたが承服しなかったという。上田は母親を侮辱した菊岡を許せないとして殺害を決意していたという。

*** 2) 上田殺害の方法

御手洗は、幸三郎は殺害を決意し、次の菊岡殺害の導入となるように配慮したという。
幸三郎は、そのためナイフに糸をつけた。しかし、上田の右手首とベッドを紐でつないだのは、特別の理由はない。動顛の結果であるという。
自衛隊出身の上田殺害には、奸計をもちいたという。セーターの上にジャケットを着て部屋に向かった。このジャケットを上田に進呈すると申し出て、試着させた。予想どおり小さかったので脱がしにかかった。ボタンをはずして、襟を緩め肩から下にはずした。この瞬間に襟を下に引き、両腕を制した。ここでセーター右袖に隠したナイフで刺した。上田は不思議そうな顔をしていた。
犯行後、セーターの返り血をジャケットで隠して戻った。そのセーターは洋服ダンスの底の方にしまった。警察の捜査は幸三郎に遠慮し不徹底だったのでセーターは発見されなかった。
御手洗は、右手首に糸をつけたことは、犯人の侵入を意味し、自殺の可能性も消去した。次に殺人の謎を深めるかっこうの伏線となったという。

*** 3) ダイイング・メッセージ

さらに、半死半生の上田はダイイング・メッセージを残すことを考えた。両腕を上げ、手旗信号の「ハ」を両足で、「マ」を両足と血痕で示したという。

*** 4) 足跡のトリック

二本の棒は、屋根からの落雪を利用して足跡を消すための目印として設置した。二本が示す直線上を歩くと屋根からの落雪が足跡を消す。流氷館は傾むいているから軒下から2メートルの線上となるという。
バラバラにされた人形は落雪が利用できない場所に足跡を残さない工夫である。その上を歩く。階段は手すりに外からぶら下がるようにして足跡を残さない。勿論、犯行後屋根に登り、雪を落した。こうして足跡を残さないようにしたという。
首の処置について質問があった。そこから幸三郎が説明する。人形の体の上を歩き、目印の棒を抜き、ざっと足跡のついたところを平にならして家の中に帰ってきた。その時、首を持っていた。その首を三号室に返却して翌朝までどこかに潜んでいるつもりだったという。
まず跳ね橋のところに行き、埋め込みの梯子で屋上に登った。そこで足跡を消すため雪を落し、帰ろうとすると、英子が跳ね橋を閉鎖したことを発見した。困ったが業者が残していた3メートルのロープを使って一計を案じた。

*** 5) 怪人物の登場、男の大声

ロープを屋上南側の手すりに結びつける。クミの部屋の窓のところまで降り、ゴーレムの顔で驚かせる。クミが悲鳴をあげる。すぐ英子の部屋の窓のある北側の手すりに行く。ロープを結びつけてから、幸三郎が大声をあげる。そこで英子が窓を開けるが、誰もいないと判断し、そのまま放置して急ぎクミの部屋に行く。その瞬間に幸三郎が中に入りこむ。
この目論見どおり行くとは限らないことだが、英子の性格を熟知していたので可能性が高いと判断した。実際に成功したという。

*** 6) 菊岡殺し

次に菊岡殺しに移る。

*** 7) 凶器は

御手洗は凶器はナイフを埋めこんだつららであるという。この地方では1メートル以上のつららができる。糸の先にナイフを結びつけ、そこにつららを生成させる。これを冷蔵庫に保存しておく。

*** 8) 殺害の方法

殺害の方法は、流氷館のもつ奇妙な構造、それは幸三郎がこの館を建築したそもそもの目的であったが、それを巧妙に利用したものという。
つららが滑落中に横に飛び出さないようにするガイドが設けている。
1) 三号室と十四号室上部付近の南面壁と逆L字廊下の南端に設けられた20センチの間隙
2) 南に5度11分20秒傾むいた階段の踏面と南面壁
3) 天狗の部屋のお面から突き出た鼻
感嘆する一同に促され、幸三郎が天狗の面の位置、つららの大きさは実験を重ねて決めた。大きさは残存する氷が溶ける時間、あとに残る水痕も留意したという。

*** 9) 種々の配慮

犯行のに際に払われた種々の配慮が明きらかとなる。
1) 天狗の部屋の西面壁の窓、30センチの開放
2) ベッドは固定式で非常に狭いこと
3) 薄い電気毛布を用意したこと
4) 部屋に残存する氷を溶かすため、強めに暖房したこと

幸三郎が予想外の事があったという。
1) 暑がって毛布を剥いで寝ていたので直接ナイフが刺さった。
2) うつぶせであったので急所を外した。瀕死の状態で外部の助けを求めたが、警戒のあまりソファ、テーブルを立てていたため、なかで絶命した。これはなかで犯人と争った痕跡とみなされ、謎を一層深めた。

御手洗はクミの部屋にゴーレムの顔が覗いたことで跳ね橋を頻繁に利用している人間によるものと見当をつけた。犯行方法はすぐ分かった。犯人の目星もついたが抗弁されたときにその他の人物の可能性を否定できない。そこで犯人に犯行を告白するように追い込む必要があると考えたという。
最も大切なものを同じ方法で殺すと脅迫して時機を待つ。そして吹雪となる。この犯行はつららが滑るとき音を立てるので外で大きな音がしている必要がある。英子をうまく十四号室で眠らせる状況を作り幸三郎の動きを待つ。
犯行を防止するために幸三郎がどのよな手をうつか予想した。斜塔の上からつららを滑らすことは無理でも、脅迫者は三階の上の階段から勢いをつけて滑らすと考えるだろう。そこで幸三郎は天狗の面をはずすだろう。言い逃れの余地をなくすためには面をはずしている瞬間を押える必要がある。そこで御手洗はゴーレムに変装して待ち受けることとしたという。

*** 10) 十三号室の殺人

最後に十三号室の説明が求められた。日下が登場し、偽装殺人が明きらかとなったので殆どの謎は解消する。英子の部屋のボヤ、初江の見た幽霊、知らぬ間に食べられたハムなど。
御手洗の変装用のお面の作成は京都在住の名人に依頼し日下が御手洗に屆けた。

*** 11) 殺害の動機

御手洗が終始疑問としていた動機について幸三郎が説明する。
四十年前、村田発動機という町工場でナンバーツーとして働いていた。社長から信頼され行く行くは娘と結婚させ後継者とすると期待されてたと思う。そこに平本という政治家の次男坊でどうしようもないやくざな男が登場した。社長はこの男との縁談に大いに気持が動かされた。幸三郎は自分の利害を離れてこれを阻止しなければならないと思ったという。
その時、古い友人で野間という男が現われた。戦争で体を壊し痩せこけた彼の話しでは、彼は人間として許しがたい行為をしたかっての上官を追っていたという。ついに発見して隠しもっていた拳銃で打ち殺そうとしたら、この男は復員後すべてを失ない、死ぬことは救いである言い放った。そこでどうしても殺せなかったという。
幸三郎はその話しを聞き憤り、つい自分の不安を野間に話した。すると野間は自分はもう長くないのでその平本を殺す。そのかわりあのかっての上官が失なう物がたくさんできた時、殺してくれと持ちかけられた。幸三郎は悩んだ。ただ平本の死とい事実は残った。
幸三郎が町工場から現在の会社にまでのしあげたとき、かっての上官、菊岡も会社を興したのを聞いた。何事もなく過ぎていったところに妻の死が訪れた。それは若過ぎる死であった。衝撃とともに野本のあの世からの声を聞いた気持になった。ずっとせかされているようだった。現在、幸三郎は自分との約束をやっと果したという開放感があるという。

*** 12) 花壇の謎

最後に幸三郎が御手洗に花壇の謎が分かったか尋ねた。曖昧な返答の後、丘まで散歩しようと刑事たちを誘った。

** 5) 丘

*** 1) 首の折れた菊の花

一行は丘の頂上から流氷館の右にある斜塔を眺めた。朝日の輝きが去ったとき、花壇の模様が斜塔の円筒に写った。それは首の折れた菊の花であった。
御手洗が塔に傾斜があるから、この程度の高さの丘からでも模様が浮かびあがる。そうでなければヘリコプターからででも眺めないと見えないという。石岡は、これで菊岡の殺害を予告していたのかといった。

* エピローグ

機会があったので石岡は再度、流氷館の見える丘に一人立った。
御手洗の言葉を思い出す。早川は幸三郎の実験を手伝っていた。だから幸三郎の殺人を阻止するために上田に殺人を依頼したという。
幸三郎はまったく自分一人の行為として早川の名前を出さなかった。また早川もこの関わりを明かすことなく幸三郎を見送った。おそらく一人残される英子の行く末のため必要と考えたからだろうという。

(おわり)

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