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謎解き島田、龍臥亭事件 [島田荘司]

* 1) はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 2) 3月30日、石岡・佳世の旅、龍臥亭、幸子殺害
** 1) 佳世とのであい
探偵、御手洗潔が小説家、石岡和己とくらしてた横浜馬車道のアパートをはなれ一年以上たった。平成7年(1995)の春、二宮佳世という20代の女性の訪問をうけた。

** 2) 佳世の懇願
*** 1) 不幸な人生
石岡にいう。御手洗は。いない。では石岡でも。どうしてもの時は御手洗の助言は。不明、でも可能かも。成程。では霊感を信じるか。否。でも嫌なことばかりづづく。だから何。父が死亡。原因は。老衰。母が卵巣摘出。それで。弟が交通事故、相手をはねた。傷害は。骨折、家内不和。それで。田舎に帰ろうか。生活は。で、断念。それでと石岡。四谷の霊能者に。自分に霊が。不幸は自分のせい。心当たりが。然り。夕方、学校のプールでおおきな動物が、樹のてっぺんに人の顔、金縛り。それで。おおきな樹の下、根元にうまってる手首をほりだせ。それを供養といわれた。佳世をみると手首があった。どこにと石岡。高尾山の「仙」の字がつく寺の樹の下。あったか。否、仙の字のある寺がないので、それらしい樹の下。駄目。

*** 2) お祓いの旅への誘い
また四谷の先生に、岡山県の伯備線の新見から姫神線のりかえ。それから列車にのって霊感を感じたところで下車。驚、それで。下車したら水のそばに、そこの村の一番おおきな樹の根元をほる。成程、話しは了解、で自分に何を。たすけて。へ、無理。でもどうすれば、手首をほりにいったらよいか。いきたければ、いく。ついてきて。無理、母親は。無理、病院通い、職場がある。ついてきて。無理。石岡は後悔したがついてゆくことにした。

** 3) 岡山、伯備線、姫神線、貝繁駅、龍臥亭
3月30日昼、出発、空路岡山に到着、伯備線経由、新見から姫神線の列車に乗車。午後7時すぎ、佳世が白いシャツの男の背中がという。下車を懇願。貝繁という名前の駅だった。駅舎に。無人の改札口。駅前。半月の光。停車中のバスに乗車。発車。運転手に下車場所をきかれる。川はあるか。葦川か。どこにゆきたいか。その川のそばに旅館があるか。無し、昔はあった。西貝繁村の龍臥亭という。琴をひく人もすくなくなったから。琴か。先代がすきだった。では、そこにいってくれ。ちかくまで、貝原峠まで。ではそこまで。そこが東貝繁村、そこから西貝繁村へゆけ。そこに葦川。そこをこえて1キロほど山道、龍臥亭。大丈夫か。然り、停留所からは。2里ほど。半月と星空の下をあるいた。おおきな門の前にでた。門柱に龍臥亭と墨書。

** 4) 輝く三階の硝子窓
*** 1) 硝子窓にかこまれた三階、女性
門の大扉、左右に黒塗りの板塀。龍臥亭は山の中腹に鎮座。建物が斜めに配置。ちかづくと右手にたかい石垣。白木と透明硝子と裸電球を特徴とする風変わりな趣向。木造三階建、三階部分はほとんんど硝子。カーテンがない。そこに人影、小柄な娘。手を硝子にあてこちらを見おろした。

*** 2) 親子との出会い
右手から4、5歳の女の子。つづいて母親。あわてて母親に挨拶。事情を話して宿をたのむ。母親が子どもの手をひいて左手に。玄関は施錠。裏手に。小柄な男にはなす。主人らしき男にたのむ。しぶる。母親と子どもをおいやった。たのむ。拒否。宿だけでも。拒否。お礼はする。拒否。そこに琴の音。佳世もたのむ。拒否。勝手口に身をいれる。そこにどーんという音、血相をかえて周囲を。ごうごうという音。火事。

*** 3) 火事の発生
主人が長屋のほうに。その渡り廊下をこえ、階段を。石岡も。石段の頂上に竜の彫物。頂上でたちどまる主人。回れ右。石岡、佳世も。すると三階がもえてる。主人は階段をおり、勝手口にはいった。二人もつづく。板の間、厨房の前。主人が火事だ。階段をかけのぼる。無人の二階を。三階につく。声をかけた。消火器を。主人は扉の前で「幸子さん」。小柄な初老の男が。消火器で硝子をわる。三人で扉をやぶる。男は消火器で消火。石岡がバケツで水をはこび、消火する。中でたおれてる女性を発見。主人がおこす。額にコイン大の穴が。ほぼ鎮火。炎がのこてるのは暖炉の前。琴の残骸。窓の類はすべて施錠、石岡が確認。

*** 4) 怪人の油絵、女の死体
正面暖炉脇に百号もある巨大な油絵。不気味な男の立ち姿。で、主人と二人で遺体を脇の小部屋まで。人の気配、階段室のガラス窓を開放。藤原。男がドアをあけたので、もう一つのくらい部屋にはこびこむ。布団に。二人が階段室にもどり、火事の部屋をのぞく。煙を外にだしたがってたが初老の男がとめた。さらにサッシや錠に手でふれた者がいないことを確認。石岡は現場は密室に。密室殺人。半身を中に、のぞく。左右の壁に窓が。すべて施錠。鍵に手でふれたか。否。石岡が中にはいり。引き戸形式の硝子戸の錠を確認、スクリュー錠はすべて施錠。佳世にも確認、誰かが中にはいって施錠したか。否。駐在をよんだことを確認し主人が階下におりよういった。

** 5) 龍尾館一階、応接間
*** 1) 石岡、佳世、一男、坂出、幸子の死、守屋
一階の応接間で待機。午前1時。 自己紹介をした。主人は犬坊一男、旅館の主人。石岡。佳世を奥さんかと。否。次に坂出(小次郎)あ、岡山で雑貨商。旅館は閉鎖したのかと石岡。然り、ただ先代と縁がある人だから。被害者はと石岡。菱川幸子、琴の演奏家。先代の犬坊秀市は琴の研究家。ここにはおおくの種類の琴、龍臥亭も琴にちなむ。琴は一面を一匹の竜に見たてて各部位の名前をつける。有名な小野寺推玉の弟子。療養のため投宿。どこかわるいか。精神的。佳世がきく。死因は。額に穴が。一男の制止にかわわず石岡。うたれたのだろう。主人が悲鳴。涕泣。そこに茶菓。大男が主人を心配。だが医者をことわる。大男は守屋敬三。どうしたのかと守屋。幸子がうたれて死亡。驚。石岡が考える。

*** 2) 密室のトリック、室内の幸子
密室の中で射殺。可能か。幸子が開錠、すると誰が侵入、それから脱出、施錠、不可解。さらに彼らの異常な怯えは何故か。本当かと守屋。然り、穴から弾がみえた。石岡が守屋と藤原(彰)にきく。現場は密室か。然り。ではどこからうったのか。口にするな、警察にまかせろと主人。襖があいて女性。犬坊里美。石岡、佳世、坂出がのこった。佳世がいう。犯人は。たよりない石岡にたのむ。謎をといて。また石岡が考える。

鍵穴だ。それから。施錠された鍵穴に弾丸をさしこむ。ドアのしたの隙間に封筒を。待機。封筒がピクリとうごいた瞬間。薬莢の尻をハンマーでたたく。弾丸が発車、頭部に命中。成程、でもドアに鍵穴無し。内側から閉鎖。坂出がいう。内外を貫通する形式の鍵はほとんどない。各種錠前をあつかったから。さらにこのトリックだった頭頂部に穴。額でない。自分は一部始終みてたと坂出。

*** 3) 硝子窓の部屋で犯行、坂出の目撃証言
本当か。然り、偶然、琴の音に部屋の前の廊下にでて三階のあの部屋をみた。皓々とした電気の照明、中はみな見えた。さえぎられる1メートル下をのぞく。どこから。30メートルの距離から。視力はよい。成程、戦闘機乗り。然り。琴の音が5分、 バタンとたおれた。あわててとんでいった。窓の下から炎。では演奏中の狙撃。然り。トリックは無し、自殺も無し。では、立ちあがらなかった。然り。琴の前にすわり、演奏、うたれてたおれる。この間立ちあがらなかった。然り。隣室の小窓、破壊されたドアの上部の硝子から内部の光が階段室からみえる。ずっと四つんばいでなければ人の動きはわかる。人がはいった形跡はない。隣りの部屋は。無し。人がはいった形跡はない。演奏の姿勢は。背中をむけてた。左の後頭部がみえてた。前には何が。暖炉。成程、それか硝子窓。坂出からみて窓の外に何がみえたか。空。まだつづく。

*** 4) 暖炉、ガスバーナー、もえた琴
暖炉で何が。ガスがもえる、昔は薪。薪ににせた鋳物。部屋は。板の間。被害者も座布団の上に。何故、カーテンがない。稽古の女性の様子を龍胎館の廊下から客にみせるため。成程、何故、火事になったか。おそらく、うたれてたおれた。琴が暖炉のガスバーナーにふれてもえた。成程、では被害者の目の前に暖炉、空しかない。否、もう一つ、油絵。

** 6) 応接間、事情聴取、部屋での就寝
*** 1) 幸子の来亭、睦雄の祟り
駐在所からきた森安太郎巡査が応接間に消火に関係したメンバーを。それに妻、育子をくわえた。で、きく。被害者は。菱川幸子、京都、生田流の箏曲の演奏家。滞在期間は。2月26日から。こちらとの関係。先代が面倒みてた人。年齢は。25、26歳。一人か。然り、目的は療養。症状は。不明、精神がつかれたとか。命をねらう者は。不知。怯えてたか。否。敵は。不知。村に知り合いは。無し、こちらだけ。では、何故。不答。村に鉄砲をもってる者は。無し。沈黙。やはり祟りか、と守屋。それは何。法仙寺の住職か釈内教の二子山にきけ。すると。たぶん睦夫の祟りと守屋。明日県警が。どこにもゆくな。事情聴取はおわり。

*** 2) 石岡、佳世の配室、龍尾館、中庭、縁側、欄間、竜の透かし彫り
主人が二人のため、裏板の間と蒔絵の間を用意した。簀の子をしいた渡り廊下をすすみ、石積みの三段の階段をのぼって部屋に。見あげると「龍胎館」という額。ふりかえると今までいた建物の出口脇に「龍尾館」の表札。廊下はずっとのぼり坂。右にまがる。部屋は廊下の左側に整列。右側は素どおし。ただ柱のみ。その足元にはレール、天井にも凹み、戸がはまる仕組み。右側には石垣、視界をふさいでた。しかしのぼるにつれ石垣はひくくなった。花壇がみえた。そのむこうには起伏をもった芝生。のぼりつめると地面よりたかい地点に。裸電球が点在。左側の各部屋の縁側に面するところに葦簀張りの葦戸(よしど)。天井との隙間には欄間、竜の透かし彫り。

*** 3) 部屋の構造
部屋の葦戸をもつ入口脇に「尾布の間」などの名札。裏板の間に到着、佳世が入室。自分は隣りの蒔絵の間に。すぐ二畳敷の部屋、奥の間には襖からはいる。四畳の間の廊下側は壁、上部は欄間。葦戸にはつっかい棒。二畳の間と四畳の間の仕切りの襖にもつっかえ棒がつかえる仕組み。四畳の間の奧は窓をもつ六畳の間。その押入には布団。四畳と六畳の仕切りの襖にはつっかえ棒はない。三つの間には家具として座卓、灰皿、行灯、押入の中に座布団。六畳の間の曇り硝子の窓。そこにさびたスクリュー錠。あけると竹製の筧。トイレは廊下にでてちかくにあった。もどって布団をひいて寝た。

* 3) ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1999/10
  • メディア: 文庫



* 4) 3月31日、手首発見、晴殺美害
** 1) 鐘の音、応接間、朝食
*** 1) 鐘の音、覚醒
ごーんという音。覚醒、午前6時。外の廊下にでる。靄、雨。廊下にたってながめる。龍胎館は山のスロープにそってつづく。その先端、末尾に建物、建物は石垣の上。龍臥亭の構造を把握する。

*** 2) 龍臥亭の構造、龍尾館、龍胎館、龍頭館、連絡橋
建築物のむれは山の斜面に所在。山の中途に平台。これを中庭と。龍胎館が斜面にそって展開。建物の廊下は右回りで、のぼってる。龍胎館下部の廊下では右に石垣を。この石垣は平台の支える擁壁。上部にいけば廊下は中庭よりたかく。そうすると石垣は斜面をおさえる擁壁。中庭の上に。のぼりつめた先に、また建物。黒々とした仏舎利塔のようなもの。これは龍頭。鐘の音のする方をみると竜頭館の上方に山寺。右をみる。龍尾館の三階のみ。坂出も昨夜このあたりで見てたのだろう。龍尾館の頭頂から龍頭館の足元に長々とのびてるもの。連絡橋。手洗いに。スリッパが部屋の前に。これで使用されている部屋とそうでないのがわかる。

*** 3) 幸子の狙撃音、二度寝、事情聴取
部屋で考えた。どーんという音。幸子がうたれた時の音。やっと気づいた。しかしどこから。入口の戸はあつい木造。施錠された窓、完全な密室。さらに動機は。銃をもつ者がいるか。突然ひらめいた。油絵の男は猟銃をもってた。御手洗向きの事件だと思った。また就寝。佳世の声。午前10時半。押入の中にあった琺瑯のカップをとりだし、窓をあけて歯をみがいた。雨の中、手前の木立、川、岸の桜並木の一部、水田がみえた。

** 2) 渡り廊下、応接間、食堂
*** 1) ミチ母子
佳世とともに県警のまつ応接間に。石垣の上にある竜の彫像がみえた。廊下をおりきる渡り廊下の簀の子の上におりた時、龍尾館からでてくる昨夜の母子。子どもは4歳、ユキ子。母、ミチ。三人の警官に。50代が福井、鈴木、20代が田中。

*** 2) 刑事とのやりとり、御手洗の実在、室内の生存
刑事とのやりとり。御手洗はどこに。外国。どちらに。北欧。本当に御手洗が実在か。実在。今回の来訪は。自分が依頼と佳世。佳世は心霊ツアー、石岡は取材旅行かと刑事。不答。今回の事件に心当たりは。無し。刑事にきく。三階の硝子窓。とじてた。スクリュー錠は。施錠。硝子窓は。破壊無し。ドアは。内側からロック。換気扇、空気抜きの類の穴は。無し。密室で殺人といいたいのかと刑事。ちがうか。否、結論は時期尚早。鍵をかけてから生きてたとの証拠はない。でも琴の音がきこえてたと石岡。それは別の人かも。別の人、心当たりは。不答。幸子がひいてたという姿を見たものがいた。それは坂出か。署で事情聴取する予定。まだつづく。

*** 3) 密室殺人、戦争中の生存
石岡がいう。銃声を、火のでる前。その時、密室だったか不明。すると、消火の時、窓の施錠を確認したと藤原。本当かと田中。石岡も確認。部屋の中で生存したと証言したのは坂出だけ。否、自分もと石岡。本人か。然り。夜。電気の明かり。他人(ひと)違いかも。否。主人が登場。

*** 4) 生存の時刻、ダムダム弾、驚愕の一男
刑事がきく。うたれる前の生存を再確認。否。石岡に確認。石岡は不答。主人に銃声はきいたかときく。不知。琴の音をきいたか。然り。その時何をしてたか。ミチの声で裏口にでて石岡にあった。その前はどうしたか。三階のドアをたたいたら、中から返事。刑事に怒、はじめてきいた。然り。では、生存したのか。不答。幸子の声か。不知。県警からの電話が福井に。鈴木が幸子の声かときく。否。では誰の声か。もどった福井が弾丸はブローニング1930年代の製造。主人が驚愕。ダムダムと。たおれる。室外にはこびだされた。福井が説明。ダムダム弾とは猟銃などで獣をうつ時につかう。一発でたおせるよう、鉛の弾丸に傷をつけ体内で拡散するようにしたもの。

*** 5) 食堂、刑事3人、石岡、佳世、二子山親子、ミチ母子、育子
石岡が食堂に。六十畳の部屋。正面は一段高い演壇、膳はこちらを上座に配置。刑事、佳世、石岡とならび、向かいに中年の男性、鼻のおおきな男性、ミチ母子がならんだ。そこに女主人の育子がはいってきた。紹介があった。向かいに釈内教の神主、二子山増夫、息子、神主、二子山一茂。どんな用件でと石岡。お祓い。家人の紹介。里美、高校生、現在学校に。二人の娘、村からの手伝い。中丸晴美、倉田エリ子。息子の犬坊行秀。食事がすすむ、石岡がきく。神主の用件は。不答。ユリ子がお化けがでるといった。どんな。不答。誰にきいた。お婆ちゃん。トトロのことかと福井。石岡が、幸子の事件を二子山にきくと刑事が外部への発言に注意。

** 3) 葦川、佳世、手首
部屋にもどる。佳世がよぶ。川のそばにいきたい。同行を。躊躇したが同行。雨。坂をおり川に。土橋をわたる。上流に。桜の樹のしたをほる。手首の骨。お寺で供養してもらうと佳世。

** 4) 法仙寺、墓場、供養依頼
*** 1) 法仙寺を訪問、墓場の住職、殺人事件
二人が龍臥亭の門前。のぼる。山門に法仙寺の表札。またちいさな門、境内に。正面に本堂、左手に鐘撞き堂、右手に庫裏。雨の午後。庫裏で住職は。墓。庫裏の裏手に。石岡がいう。龍臥亭に投宿の者、供養を。何の。躊躇。龍臥亭で死者がと住職。然り、幸子。また琴弾く人か。

*** 2) 幸子の死の状況、ブローニング製造銃
どのように。三階で演奏中にうたれた。誰に。不明、警察が捜査中。窓からか。否。戸口か。否。部屋に他人が。否、一人という証言。そんな馬鹿な、すでにうたれていたのでは。では誰が証言。坂出。嘘。演奏の音をきいた。テープレコーダー。否、部屋に無し。部屋でない別の場所では。否、響きがちがうから本物の演奏。自分も窓に立ってるのを目撃。馬鹿な、額をうたれたのなら、その前に何が。窓、暖炉。暖炉に仕掛けは。無し。馬鹿な。猟銃か。不明、弾丸はブローニング、1930年代製造。驚、冗談か。否。住職が口の中で呪文。何か事情が。教えて。否。

*** 3) 手首の供養、失神する住職
はなれようとする住職に供養してほしい、と石岡。その時、真新しい墓に小野寺推玉の名。何を供養か。川の樹の下でみつけた手首の骨。住職は驚愕。たおれた。石岡が庫裏にはこんだ。

** 5) 法仙寺庫裏、鐘撞き堂、龍臥亭、中庭、むかで足の間
*** 1) 住職を庫裏、父娘の異様な反応
庫裏にはいり住職の急変を。父と娘だった。寝かせる。娘が事情を。変なものをみせた。何。手首、どこで川のほとり洗濯場で。「よし子」という声。石岡が娘にはなしかけるのを制止。二人に辞去を懇願。石岡が過剰反応について考える。一男は弾丸が1930年代の時、住職は手首の時。異常な反応。

*** 2) 佳世への不審
鐘撞き堂の脇から龍臥亭をながめる。左手前に立派な建物、そこから龍胎館。うねってつづき最後に龍尾館。左手前のすぐ下。龍尾館の屋上と左手前が鉄橋で連絡。石段をおりる途中で行秀と。龍臥亭の門をはいった時、考える。佳世が簡単に発見。不審。罠か。屈辱、怒り。龍胎館の渡り廊下をつっきり、お花畑に。行秀が鐘をついてる。石岡がきく。佳世、君は何者。驚。あの手首は誰の者。驚。あの手首が誰か知ってる。否。馬鹿にするな。石岡が駄目になった、自信をもってくれ、と佳世。鐘の音。女の悲鳴。

*** 3) 晴美の殺害、状況、銃声、人影
場所を確認。「誰か、助けて」。崖っ縁にたつ竜の像に右手をのせて下をのぞく。縁側にミチと娘。晴美に変事。三人の刑事が。おくれて石岡。

晴美が左手の仏壇の前、こちらに背中をみせてたおれてた。刑事がミチにきく。状況は。不可解。晴美がユキをあそばせてた。自分は仏壇でお祈り。隣りに晴美とユキ、祈り。すると晴美がたおれてきた。銃声は。否、無し。位置は。ミチ、ユキ、晴美。晴美が一番廊下側。この戸は。閉鎖。人影は。不明。葦戸にはハンガーに女物の衣服が二着。二人は外にだされた。石岡が考える。

*** 4) 狙撃場所、葦戸、ハンガーの遮蔽
廊下から、とっつきの二畳の部屋の人物はぼんやりみえる。庭にたった者も。うった弾は細い葦をとおる。紙のような明瞭な跡をのこさない。狙撃者にとっては中にいる人物の狙いをつけやすい。ところがむかで足の間の場合、衣服が邪魔。廊下はともかく中庭からは無理。では龍胎館のとっつきに所在のむかで足の間。可能か。中庭にたって検証、不可能ではない。でも最短距離の地点から。衣服が邪魔。晴美がみえない。実際、ハンガーの衣服に穴は。無し。しかも日中。目撃者は。ここを眼下に見おろせる場所に二人。自分はみず。佳世はみず。福井がきく。

*** 5) 犯人の逃走経路を刑事確認
ミチがでてきた時、どこに。事件がおきた時、ここをみてた人は。佳世。どこに。石段の上。犯人は。否。ミチの声がきこえた時、人は。否。銃声は。無し。では他の人。銃声は。無し。福井がいう。声はうたれてすぐでない。たおれて気がついた。一瞬の間があった。犯人はこの廊下、または地面の上にたって狙撃。場合を考える。左、石垣に。右、石垣に、正面も行き止まり。左手の廊下に誰か。二子山増夫と二子山一茂。みたか。無し。この石段をかけあがって上の中庭に。無しと石岡。では龍尾館へ。刑事がいたから、無し。で、龍尾館にぶつかって左手に。守屋が戸口で休んでた。無し。で、藤原の行動は。厨房で晩飯の仕込み中。エリ子とあわせ三人でやってたが、声がきこえ外にでた。庭をとおってか。否、渡り廊下の簀の子をとおって。準備手伝いの分担は。二人が交互。今回は倉田。福井がいう。犯人は右手ににげ、龍尾館か、ぶつかって右手ににげた。その時、里美が渡り廊下を横切り龍尾館の手前にあらわれた。一男がきく。今まで。アヒル小屋でエサを。アヒル小屋はどこにと福井。龍尾館の右、陰のところ。刑事が指摘した逃走路。里美は。ずっとそこに。然り。何分。10分。誰か。否。ミチ の声は。きかず。アヒルがうるさかった。里美が石岡に一礼して去った。

** 6) 大広間、龍臥亭配置、過去の因縁、手首の身元
*** 1) 龍臥亭の由来
大広間に一同があつまる。この機会に石岡は龍臥亭のことを勉強する。龍胎館の各部屋の名称は。琴の名称に由来。そもそも龍臥亭という名称は。先代が琴の趣味。琴は。日本では竜にたとえる。ところで琴の名称を専門家は。つかわわず、箏。龍臥亭は。山の中腹にとぐろをまく一匹の竜。ここ龍尾館は。尻尾。龍臥亭全体で龍尾館は。最大の建築物、部屋数多数。犬坊家の人びと居住。各自が自室。龍尾館からのびてる長屋風建物。龍胎館。のぼりつめると。法仙寺からながめた建築物。龍頭館。別名が龍頭の湯。つまり大浴場。もともと細々とわいてた土地の温泉。犬坊家がながく独占。本来は村人に公開する意図で建築。従って外来のお客は有料、地元は無料。純粋の温泉にもかかわらず犬坊家のみ使用。湯量がすくない。旅館をたたんだ現在も地元に公開。でも実際は。集落のはなれにあることから法仙寺住職と二子山増夫のみ。

龍胎館が斜面を一周。だから龍頭館は龍尾館のすぐ頭上。ために龍尾館の屋上から龍尾館の裏口まで。鉄橋。なければ大回り。龍尾館が三階建。こういう理由。龍胎館はそれだけのぼってる。で、一列にならんだ各部屋は。リゾート地の高原のバンガロー。床は水平。隣室との高低差は約40センチ。各部屋の名称は。

*** 2) 各部屋の説明
1)「むかで足(あし)の間」ミチ、ユキ親子
2)「尾布(おぎれ)の間」
3) 「柏葉(かしわば)の間」
4)「下音穴(しもいんけつ)の間」
5) 「雲角(うんかく)の間」
6)「甲(かぶと)の間」
7)「磯(いそ)の間」
8)「裏板(うらいた)の間」
9)「蒔絵(まきえ)の間」
10)「べっ甲(こう)の間」
11)「螺鈿(らでん)の間」
12)「柱(じ)の間」
13)「弦(げん)の間」
14)「四分板(しぶいた)の間」
15)「 枕角(まくらづの)の間」
16)「龍角(りゅうかく)の間」
17)「六分板(ろくぶいた)の間」
18)「龍眼(りゆうがん)の間」
19)「龍額(りゅうがく)の間」
20)「上音穴(かみいんけつ)の間」
21)「 口前(くちまえ)の間」
22)「龍舌(りゅうぜつ)の間」
23)「猫足(ねこあし)の間」。そして
24)「龍頭(りゅうず)の湯」
である。

1)の部屋は、流し、テレビ、ステレオ、仏壇、家具、食器、暖房器具が付属、自炊可能、親子は犬坊家の客人として長く逗留らしい。
8)の部屋は、佳世、テレビ、ラジオ、暖房器具なし。ただし卓袱台、ちいさな水屋あり。
9)の部屋は、石岡、同上
10)の部屋は、坂出
5)の部屋は、二子山親子
3)の部屋は、刑事の福井、鈴木、田中
23)の部屋は、晴美、
22)の部屋は、エリ子

*** 3) 各館との連絡、暖房、家具備品、一般客、VIP、家人
龍尾館にかようには。龍頭館から龍尾館の屋上鉄橋。あるいは中庭から小径、石段、龍頭館。あるいは龍頭館から石段、花壇脇の小径。竜の置物、階段を。龍尾館にゆく。二人の部屋からさほど遠くない。龍尾館や龍頭館からみて不便なのは、柱の間、弦の間、四分板の間。廊下か、中庭の小径、階段を。犬坊家の家族は全員、龍尾館の二階。龍尾館は家族、龍胎館は一夜泊まりの温泉客。龍胎館は暖房器具、勉強机、テレビ、ステレオがない。それがある家族と一緒が生活によい。暖房器具は。龍胎館の全室には無し。むかで足の間にストーブ。これは石油でなくプロパンが燃料。なら建設当初に付設するはず。設計当初の考え。しかし、むかで足の間は秀市が個人的に使用。ならわかるが、1) から5) の5室がそう。不思議。守屋、藤原は龍尾館一階。幸子が三階。その師匠である推玉も。VIPは龍尾館か。事情聴取は応接間。

*** 4) ミチの過去
応接間で事情聴取。刑事たちには非日常の事件。当惑。石岡が考える。母子が心配。だがユキ子は大声で朗読、周囲は拍手喝采。育子や義母の松子と積み木。京都にもどりたいとミチ。警察が不許可。ここにきた事情はと石岡。運勢をみる人から先祖供養を。悪運が。沢山、詳細は不答。

*** 5) 佳世とミチの対話、因縁の過去、仏前の礼拝
そこに同感と佳世。霊感の先生の指示とミチ。肩に人が、肩腰が重い。ここも。霊感の先生。貝繁は凄い因縁の村、でも霊感でたどりつくのはすごいとミチ。また、自分の先祖の地。何かがついてたか。水子。驚。然り。何人もか。不答、それにひどい霊、祖先の因縁。だから半年、仏、墓の生活。こちらに先祖の墓か。然り、母方、戦前にでて京都に。法仙寺に無縁仏、不明。龍臥亭に無理にたのむ。育子の好意で。自分も娘も命の危険、耐えるようにと指示。よかったと佳世。二人共感。あの部屋を移動かと石岡。否。ほかに仏壇がない。どこでも一緒、龍尾館でも幸子が死亡。幸子はどんな人。神経質、無口。それに犬坊が冬用の戸をつけるといった。葦簀をはずす視界がさえぎられ、風も、だから安全。行秀が作業中。手首をどうしたのかとミチ。さがしてここで発見。感心。そこに刑事の鈴木。佳世に声。

*** 6) 推玉の手首と判明
推玉の手首を法仙寺に。推玉て何。しってた。否。一同驚。鈴木が佳世をよぶ。石岡ははいれない。石岡が田中にききたいととめる。許可をを得て田中が了承、廊下に。

** 7) 厨房隅、田中との対話、御手洗への依頼、情報の入手
*** 1) 推玉のこと
厨房の片隅。田中がいう。どんなこと。推玉とは。津山市出身の琴の演奏家。津山で多数の弟子ををもつ。秀市と親交、よく投宿。一週間投宿後、3月6日に行方不明。この家からか。然り、殺害死体で発見。驚。龍臥亭で発見か。不答、御手洗に言及、自分は現場の人間、捜査の実態はもっと地味。成程。自分は御手洗の実在を信じてる。勿論、実在。否、スーパーマンとしての御手洗が実在か。それで。

*** 2) 田中、御手洗への依頼
自分は信じたい。貝繁は因縁のある村、現在世間に事件はひろまってないが、間もなく大騒ぎになる。その因縁とは。詳細は他人にきけ。しかし、昔、好色で乱暴者が事件、ある春の晩、発狂、30人を一晩で殺害。驚、実話か。然り。それに村にはウランがでた。人形峠か。否、荒坂峠、大騒ぎ、だから祟り。成程、でもウランはよくわからない。事件は貝繁村の大事件。もっとひろがるかも。自分はこの手の事件はまったく無知。おりいって依頼事項が。もっとひろがれば。解決すれば。然り、それも迅速に。で、御手洗か。然り、自分の一存で。で、今どこに。オスロ、ノルウェー。住所は把握。率直にきく、実在か。驚、創ったものでない。実は石岡先生。否。協力を願う。成程、で、御手洗との交換でなければ情報は。だせない、自分の一存でいう。繰りかえし、御手洗の存在は信じたい。つまり交換ですね。まあ。

*** 3) 石岡、依頼の約束、情報の入手
手紙で依頼、確約無し。石岡が質問する。推玉の死体は。

*** 4) 推玉の遺体の詳細
村から。どこ。あちこち。何。胴体は西貝繁村字川西、農家犬坊厚夫方裏手の下水溝、頭部はこの200メートル北の及川始方裏手の下水溝、左右の手及び左右の足は葦川橘暗渠。発見者は。そろぞれの家人、暗渠は小学生。担任の教師が通報。なお、右手部分は梱包紙の一部がやぶれ手首から先が紛失。成程。田中からさらに。非公表の情報。何。切断された頭部の前歯部分の上下が油性の塗料で黒く塗られてた。歯が。然り、前歯上部が4本、下が6本、奥歯は無し。目的は。不明。頭部の額に「7」。意味は。不明。死体は長く水に。否、一晩。消えなかった。然り、油性の塗料。マジックインク。歯も同じだろう。「7」は確かか、仮名の「ク」とか。かも。関連があるか。不明。逆に石岡にきく。無理。ダイイングメッセージがあるが、これでない。書いたのは犯人。まだ。何。切断死体は新聞紙で梱包、ビニールでしばる。その新聞紙に多数の鳥の絵。どんな。すべて横向き、二本足。すべての梱包の新聞紙に。しばらく茫然。死亡原因はと石岡。心臓の下を銃で一発。その弾丸は。1930年、ダムダム弾。幸子も晴美も同じか。然り。同一の銃か。確認中。因縁という言葉がうかぶ。石岡がきく。

*** 5) 晴美の狙撃方法、幸子の銃弾、推玉の墓地、因縁
晴美の事件、最短距離からの狙撃。ならミチの衣服が邪魔。穴は。無し。ほかの場所にも。否、それとおぼしき跡は。無し。衣服をさけた。ならどこから。非常に困難。しかも一発で完了。腕がいい。練習をつんだかと石岡。葦簀に痕跡無しで。不可能と田中。では、これも密室殺人。次に幸子のことと石岡。室内から、それも至近距離。否、硝煙反応無し。相当の遠距離。不可解。推玉はわからないと田中。話しをもどす。墓は地元に墓地確保が困難。こちらで独立の墓。今日、住職が墓の掃除。そこに手首。衝撃。成程。それで。回復。住職の因縁。警察は関係があると。不答。

*** 6) 推玉死亡の詳細
では推玉の推定死亡日時。3月6日。発見は7日早朝。龍尾館で6日、午後2時から5時まで三階で幸子と稽古。その後、応接間で面談。6時前にお開き。自室にもどろうとしたが、思いなおして中庭の方に。これが最後。龍臥亭で殺害された可能性は。自分たちがすぐかけつけて捜査、痕跡は無し。自室は。三階。幸子と同じ。そこや硝子張りの部屋が琴の稽古場。演奏発表は大広間。幸子は龍額の間をつかってたかも。今のメンバーはみないたのか。然り。では事件以来ここからはなれられないのか。否、そこまで要求してない。滞在は彼らの意志。3週間経過。

石岡は、これらを書きとめて御手洗に事件の依頼をすることにした。田中にお礼をいって、佳世のことをきいた。悪いようにはしないので扱いはまかせてくれといった。心配する石岡に手首の発見にいたる経緯に不審があるともいった。

* 5) 4月1日、生首の浮遊
** 1) 廊下、自室前、四分板の間前、龍頭の湯
*** 1) 里美のあこがれ、大都会
石岡がもどりながら考える。むかで足の間が板戸に。しかし欄間から無理すればのぞける。中庭、靄、裸電球の光の列。幸子が3月30日、晴美が31日に死亡。推玉が3月6日。ふりかえると青銅の竜。蒔絵の間の前、里美。驚。風呂に案内。さらにシャンプーをもって。後ろに。会話。小説家。然り。どんな。犯罪小説。本屋には。この村には本屋は。一軒。どこ。貝繁銀座。東京から。否、横浜。どんなとこ。東京の隣り。いったこと。無し、ここに東京の人はこない。町といえば。岡山。ほかには。広島、松江、出雲。驚。すこし教えてと石岡。何。色々、龍尾館の三階がみえた。中庭にたつ平屋のよう。

*** 2) 四分板の間、菊子のこと
ここはと石岡。四分板の間、犬坊菊子。縁側から普通の中庭のように見おろせる。もう寝たか。然り、早寝。療養か。否、病気、昔、結核、今は癌。腰痛もち。女性の器官の病気かと石岡が考える。神主は何故。今は。いえない。では明日。然り、土曜日だから昼に。勉強の都合は。すこしなら、可能。アヒルを葦川につれてゆく。その時。龍頭館についた。

*** 3) 竜の湯
壁板から天井まで白木。壁の上に何頭もの竜。竜の上の軒、五重の塔をおもわせる組み木とその上にのせる横板。厚い扉。観音開き、上部に湯気ぬきができる格子造りの窓。入口の脇に龍頭館の木札。中に踏みこむと小部屋。裸電球。右と左に引き戸。右が「男湯」、左が「女湯」。上部は曇り硝子。スイッチを点灯。明日を確認。里美が辞去。檜風呂、岩風呂。湯気の中に龍頭。石造りの口から湯。左下の石一つがまだ新しい。

** 2) 朝食、中庭、菊子、花壇、坂出
*** 1) 朝食、警察の佳世、中庭、菊子、ミチ母子、変わり琴
翌朝、4月1日、晴天。エリ子が朝食をしらす。今日は鐘の音無し。大広間で朝食。母子の隣りの松子がきく。父は。お星さま。二子山と挨拶。ストーブをつかう息子に文句。アトピーと言い訳。息子がユキ子に声。育子に確認。佳世は。連行。よい風呂。檜風呂。毎年、はりかえ。近年資金ぐりに苦しむ。二子山増夫が桜前線のことをいう。食後、中庭に。芝生。花壇。小径。龍頭館にちかづく。階段をのぼる道がある。芝生に子どもの声。ユキ子。四分板の間の前に老婦人。恐竜。ちかづく。くるなという。母にも注意。ミチがいう。菊子はもう目がみえない。ミチがユキ子をはなす。石岡に釈然としない気持が。四分板の間をふりかえった。葦簀、板張りでない。しかし欄間にベニヤ板が。とっつきの二畳の間に侍の刀受けのようなもの。ミチにきく。あれは。箜篌(くご)、変わり琴。職人につくらせた。いろいろいな琴がある。博物館のよう。琴のことは。里美にきけ。その職人は。もういない。推玉のことをきく。

*** 2) 推玉の失踪
3月6日5時過ぎまで。いた。誰と幸子、松子、母子。エリ子とお茶。里美は。給仕のあとすこしだけ。自分は6時に部屋に。何故。仏壇で定時のお祈り。推玉は渡り廊下から下駄をはいて中庭に。それは何時。6時5分前。それから推玉をみた人は。無し。幸子は。龍胎館にはいって自分の部屋、龍額の間にいったと証言。中庭にいるはずの推玉をみたか。否と証言。その時間は。6時過ぎ。神主の二子山が廊下で幸子とあったと証言。推玉はみなかった。然り。どこに。不明、ちょっとでるという感じ。そこに人影をみた。花壇に坂出。

*** 3) 警察から坂出、琴の仕掛け、猟銃の弾、連絡橋からの侵入
ユキ子が坂出にかけよった。ミチが声。ひどい目にあった。警察かと石岡。然り。佳世にあったか。不知。推玉の手首をほりだしたので警察に連行と石岡。不知、どうして。霊感、自分も同行。どこで。葦川の桜の木の下。成程。エリ子がユキ子をよぶ。母子とわかれた。聴取の様子。耄碌して誤認したろう。警察は琴の演奏中にうたれたという事実に困惑、自分が誤認したと認めさせたかった。然り、で、琴に拳銃の仕掛けがと石岡。同感、警察にただした。しかし現物を調査、連中は無しと断言。さらに拳銃でなく猟銃の弾、それも昭和初期。へえ、どうしてそんな弾。ではと石岡。ダムダム弾は猟銃にかぎるのか。パイプでも。坂出がいう。旋条痕がのこるから、その線は無理。でも琴に仕掛け。やはりのこる。

あ琴の中まで確認か。否。仕掛けがあった。ところが刑事がくる前。何者かが撤去。成程。自分たちがはいった。その時。密室でない。龍頭館から鉄橋。屋上。ドア、階段と。成程、では宿泊のすべての客が。ところが警察は無しと。ドアは当時施錠。鍵は守屋が管理。成程。さらに琴に仕掛け。絶対ない。痕跡がないと。無しですか。然り、弾はさびてた。またさらに決定的事実、何。ちかい。硝煙反応。ところがない。成程、ところで、夕べの晴美もなかった。晴美の死亡が自分の解放の理由らしい。晴美と無関係、まさか共犯でも。という訳。成程。晴美の事件にうつる。

*** 4) 晴美事件、狙撃の場所、天井の仕掛け
石岡がかいつまんで説明。成程、また密室か。さらに、誰からも硝煙反応無し。隣りの人が。可能性無し。では庭先から。どこに逃げた。むかで足の間からみて、地面なら、左は石垣。行き止まり。では廊下へ。左。二子山。では右。龍尾館にはいる。刑事が。で、左。守屋。右は。里美。で、石段、中庭。自分と佳世。不思議。そこで葦簀張りが本当か。刑事は否と石岡。しかし、たまたま痕跡をのこさなった。やはり葦簀。ところで晴美は。頭頂部。なら葦戸ごしでなく、真上から。驚、天井と石岡。二人は現場に。声をかける。

板戸。暗い。ほかの部屋には。仏壇があるのはここだけ。箒をかりて坂出。天井をどんどん。異常無しと。警察も点検とミチ。頭を前屈みにした時とミチ。推玉とそっくりと坂出。彼女は射殺だが外。ちがう。でも途中できえた。驚、何のこと。全員が中庭。なのにきえた。では外出。否、門に食料品屋の軽四輪。厨房なら守屋、藤原。法仙寺なら、そんなことをする人。否。成程、これは被害者、晴美は犯人。坂出がミチにいう。三人が仏壇。いきなり。然り、たおれてきた。何事か理解できず。では銃声は。きかず。本当。然り。では無音でたおれた。石岡にきく。銃声は。きかず。

** 3) むかで足の間、死体窃取、法仙寺鶏小屋の死体
むかで足の間で坂出、石岡、ミチ母子。そこに血相をかえた一男。幸子と中丸が。森安巡査のところから死体が。ぬすまれた。今、午前10時、森安が連絡を躊躇。遅れ。法仙寺の夫人。鶏小屋に変なもの。きて。坂出、一男、石岡が。住職親子の会話。最初からわかってると住職。よくみたか。否、電話する。あれ何か。いうこと無し。庫裏の裏の鶏小屋に。幸子の死体。頭部が無し。衣服がゆるむ。破廉恥行為か。刑事がきた。住職親子が尋問。三人はもどった。

** 4) 法仙寺、龍臥亭、葦川ぞい
*** 1) 推玉、幸子、晴美の事件整理、疑問
法仙寺からの帰路、石岡が考える。まず、3月6日、津山の琴の師匠、推玉が失踪、葦川上流の橘暗渠に遺棄、翌日、バラバラ死体の各部が発見、ただし手首は30日に発見。次に3月30日、推玉の弟子、幸子が殺害、さらに3月31日、住み込みのお手伝い、晴美が殺害。同日の夜、二つの死体が盗難。4月1日、幸子の首なし死体が鶏小屋で発見。ただしその首は不明。また晴美の死体は依然不明。三人ともすべて銃殺、1930年代のブローニング社製。幸子ほか三人は、ほぼ密室殺人。推玉は変種。これは多数の注視の中で失踪、殺害。中庭にでる直前から失踪。彼女も銃殺。沢山の疑問を考える。

中庭を見ながら自室にもどった幸子、晴美が殺害、これに関係。あるかも。推玉の死体切断の理由は。何故、右の手首だけ桜の樹の下に。何故、額に「7」。死体をつつんでた新聞紙に何故、鳩の絵。幸子、晴美の死体が何故盗難。幸子の頭部、胴体の切断。何故、鶏小屋。変質者、狂人。それですむか。そこに里美の声。

*** 2) 里美とのデート、幸子、晴美、推玉の人物評
平太をつれて葦川にゆく。手首発見の桜にむかう。岩でできた洗濯場からアヒルをはなす。来年から。広島の大学。東京からと里美。横浜。都会はどんなところ。岡山と大差ない。でもマックや喫茶店が。おおい。ここには喫茶店が一軒きり、冬は黄な粉餅。あべかわ餅か。たべたいと石岡。貝繁銀座に、ただし父兄同伴。映画館はうるさくいわれない。畳敷き、座布団もってゆく。明日ゆく約束をした。事件についてきく。

幸子は。無口、わらう、神経質。冗談も、すぐ怒る。藤原を馬鹿にしてわらってた。晴美は。いい人。エリ子は。いい人。平太に声。推玉が行方不明の時、どこに。応接間で後片付け。いないというので廊下から中庭をみた。姿は。みつけられなかった。すごい雪。驚、大雪の中でみんなが中庭にでたり、見にいった。然り。傘は。さしてない。みんなは。すぐかえってくると思った。

*** 3) 大雪と推玉、鐘の音と銃声
大雪。然り、そこに鐘の音がきこえた。驚。6時に。つく。天啓が石岡にひらめいた。鐘の音がひびく中で銃。だから銃声がきこえない。いつも行秀が。然り。ながいのか。然り、もう5年以上。犯人は鐘の音になれてる。タイミングがわかってる。鐘の音に銃声をかくせる。だから犯人は家族か寺の人。でも、幸子は。深夜、午後6時でない。神主のことをきく。

*** 4) 幽霊のお祓い
何故、神主が逗留か。幽霊がでるから。どこに。龍臥亭のあちこち。村の人もいってる。犬坊家は因縁のある家。どんな因縁。不知。じゃあ誰がみた。みんな、自分は否。どこで。つかわれてない地下の風呂とか。どんな風。くるしそうな声。ほかに。風呂場にたつ睦雄の幽霊。睦雄といのは誰。不知、ほかの人にきけ。土地の昔話か。否、実話、戦前の話し。

*** 5) 睦雄伝説、油絵の人物、ダムダム弾
鬼の生まれ変わりとか。おかしくなって村人を30人殺害。いつ。昭和13年ころ。驚。娘、奥さんをかどわかし座敷牢にとじこめる。警察も手がだせない。本当。然り。では子どもができたりした。然り。その人はどうなった。不知。子どもは。不知。それから睦雄は。不明、山の中とか荒坂峠から仙人山のほら穴。本当。然り。学校の先生も本当と。そうなら新聞の記録をみたい。鬼は三階にあった油絵にかかれてる。成程、でも精神異常なら病院にいかなかったか。然り、さらに大金持ち、実力者の息子。それで殺す。然り、いつも猟銃をもってた。それはブローニングか。然り。天啓、昭和13年は1930年代、事件の弾丸は同時代製造の同社製から。30人を殺した弾丸はダムダム弾か。然り。60年もたって睦雄が生存か。否。幽霊。村人が龍臥亭の人を殺そうとしてると。でも、どうして。人間わざでないから。成程。両親も毎日お祈り。犬坊家が特にうらまれる理由は。有、曾祖父吉蔵。それを殺しそこねた。 理由は。曾祖父と祖父秀市が村の相談役。逆恨み。

*** 6) 異常な浮遊物
上流で子どもが騒ぐ声。睦雄に乱暴された女は必ずしも同情されず馬鹿にされた。それだけ恐れられてた。然り、睦雄に何かされた女や家族は必死にかくした。睦雄はどんな家系だったのか。と、石岡が川面に異常なものをみとめた。

** 5) 葦川、生首発見
小学生が4、5人が指さす。30センチ四方の筏。その上に物体。バレーボール大。苦心して河原にひきあげる。生首だった。犯人の意図について考える。異常。この情熱はどこから。どこで。上流から。時計は午後1時。白昼、目撃者は。上流は無人か。昭和13年以降に怪物が出現。三階で殺害された女性の首か。油絵の怪人が。でも本当か。日本昔話か。声がきこえた。福井だった。

** 6) 354p、生首の検証、昼食、佳世の電話
県警の事情聴取をうけた。筏は上流にある橘暗渠にうかんでた。推玉と同じ。筏は。松の小枝を鋸で切断、長さをそろえ、板で釘づけ。下手な素人の作品。生首をつつんでいた新聞紙は。昨年11月8日づけ。検証の立ち会いが許可。頭部と確認、鼻をのぞいて原型をとどめない。肉塊。頭髪がない。皮膚ごとはがされてた。両目がえぐられてた。額部分に穴。両耳無し。額の銃創の横に「7」の数字。新聞紙には鳩の絵無し。幸子らしい。幸子とすると、犯人は和服をぬがせ、何らかの行為。鶏小屋に遺棄。生首は筏に固定しうかべる。その理由は。身元の隠蔽か。現代の法医学では特定は可能。別の理由か。佳世は解放されたという。田中が声をかける。

詳細は電話でといってわかれる。龍臥亭の大広間で昼食。母子と松子。育子が電話。でる。若い女性。佳世。貝繁の駅前から。警察が東京にもどれと駅に。荷物は。警察がとどけてくれた。成程。一緒に帰京して。否。警察でいやなこをいわれ、東京に。否。自分がまきこんんだ。申し訳ない。一緒に帰京を。否。佳世は断念。

* 6) 4月2日、お祓い、貝繁銀座、留金の行方、丸ノコの小屋
** 1) 夜、むかで足の間で幽霊
ミチが寝床で考える。現在、ユキ子がうまれて幸福。寝顔が可愛い。自分のこと。異常体質。子どものころ柱時計が深夜にとてつもなく大きくなる。添い寝の母が小山のよう。一人でねかせて。金縛り。異様な柱時計の音。悶々。いきなり朝。成人した時のこと。ドアの覗き穴。深夜、子どもが廊下を裸足であるく。子どもがうまれてからは精神が安定。寝床で子どもの手をにぎる。ではもう眠よう。と、外をあるく足音。突っかえ棒をはずしおそるおそる二畳の間。亡霊が正座。右手に猟銃。気づくと寝床の子どもをだいて悲鳴。柏葉の間の刑事が。四畳の間の襖はあけはなし。二畳の間への襖もあけはなし。無人。板戸をあける。刑事がきく。無事か。然り。何が。油絵の男が。否、異常無し。刑事がたてかけた座卓の足にかけた白布を。これか。否。刑事が退出。二子山、坂出。刑事が夢と。母子就寝。

** 2) 朝、廊下、階段脇地下のお祓い
*** 1) 幽霊騒動、生首は幸子
4月2日朝、石岡が廊下で二子山親子にあう。でてきた田中にきく。夕べミチの悲鳴。幽霊。どんな。油絵の怪人。本当か。不明。では神主は。龍尾館地下の風呂場に。犬坊家が依頼、幽霊がでるとの村人の噂でこまってた。成程。よくでるのが地下の風呂場。現在は未使用。見物は。できるだろう。幸子の死体は。首の身元は幸子。石岡は龍尾館に。

*** 2) 厨房脇の板戸、地下の元風呂場、お祓い、琴の元作業場
そこに守屋。地下の風呂場はどこ。あそこは汚ない。厨房にまねきいれ、藤原のそば、足元の四角の穴。残飯処理の穴。これが地下。どこからはいるか。こっち。厨房をでて、階段脇の板塀、おしあけると縦1.5メートル、横1メートルの穴。以前は玄関をはいって浴場へおりる大階段。それをつぶしたので、ここから。床の黒いしみを気にする石岡に。かっての絨毯をはってた接着剤のあと。守屋にしたがい現場に。家族風呂。脱衣場で二子山親子。手前に育子。沢山の箱、物置場だった。浴室の中の浴槽。その奧に人工の岩場。上方に湯の噴出孔。この上方から左に竜の尾の浮き彫り。祝詞をきくかと守屋。否。もどる。正面に大階段。中途にふさがれたあと。かなり手前の壁の穴からもどる。階段をふさいだ理由は。方角がわるい。小階段への途中、左に部屋。これは昔の琴の職人の作業部屋、閉鎖。もどるか。然り。

** 3) 朝食、里美の部屋、貝繁銀座、映画館、喫茶店
*** 1) 幸子、G線上のアリア
朝食、里美が隣り。石岡がきく。琴は。ひく。30日の深夜、幸子がひいていた演目は。不知。育子はきいたか。否。里美がメロディを。それ。なら、「G線上のアリア」。琴でクラシック。否、生田流の推玉の派だけ。成程。でも、変。何故。17弦が必要、あの時は13弦。

*** 2) 里美、琴の解説、樽元の消息
食事後、二階の里美の部屋に。畳の上に琴。おおきい。長さはと石岡。1メートル91センチ。実演を依頼。六段。上手。否、幸子がもっと上手。爪の素材は。象牙。琴は。桐。里美が琴の各部の名称を説明。弦は。テトロン。弦の端は。裏板の上下にある穴から手をいれてむすぶ。琴の中は空洞。然り。菊子の部屋の変わり琴は。箜篌、かっていた職人の樽元純夫が作成。三つのうちの一つ。現在、樽元は。不知、夫人が病気で荒坂峠仙人山にもどったよう。

*** 3) 家の窮状、村の因縁、使用人の動揺
二人で座布団をかかえて貝繁銀座にゆく。蔵を改修したらしい。二階にのぼり、ウェディング・アンド・フューネラルという映画を。喫茶店で「きなこ餅」をたべる。葦川がみえる。首が筏とは。驚、幸子かと里美。然り。この事件について何か考えることは。因縁かな。どんな。母も、旅館たたんでも許してもらえない。村をでるかもと。成程。この村の人たちは業がふかい。それは何。不答。具体的には。否。事件が解決すれば、村をでなくてよいのでは。自分はあきらめてる。晴美が死亡。エリ子もでる。すると藤原、守屋も。留金八十次がいなくなってから、どんどんいなくなる。樽元も。秀市が死んでから。その留金とは。

*** 4) 留金の失踪、容疑、人柄、事件解決の決意
以前はたらいてた人。何時まで。2月くらい。家の雑用、大工を担当。突然。驚、よくあるか。否。最大の容疑者かもと石岡。幸子への殺意、推玉への動機、晴美への恨み、というより犬坊家破滅をねがう動機。しかし本当か。曲折しすぎ。犬坊家への恨みなら。留金は強い恨みもってるはず。どんな人と石岡。いい人。いくつ。50歳、20年以上いた。恨みは。無し。病院代たてかえに非常に感謝。どこの出身。荒坂峠、樽元にわりとちかい。では、額の「7」に心当たりは。無し。両親は。無し。事件を解決すれば。犬坊家をたすけることになる。御手洗に本気で手紙をかくと決心。

** 4) 龍尾館電話、田中と対話、中庭、坂出、守屋と
*** 1) 留金。警察、動機なし
またもどり、田中に電話。何かあたらしい発見はと田中。留金のことと石岡。龍臥亭の使用人、今年の2月に失踪。それは最重要容疑者、かくしてたのか。否。峠の家を捜索、空き家。驚。有力な動機無し。

*** 2) 幸子、異常な死体
では電話連絡の趣旨は。内密にすることを前提にかたる。鶏小屋の幸子の遺体、着衣の下には下着無し。性器がきりとられ、両方の乳房も同様。驚。警察は捜査の方向がみえたと。留金は50歳、母親っ子、長年の独身。はなやかな女性、きれいな女性に異常な関心をもった、として不思議ない。成程。で、自分は石岡に独断で依頼したことを反省する心境。成程。ところがさらに考えれば、幸子、晴美の殺害方法を吐かせるのは困難、で、依頼はとりさげれない。成程。で、石岡の見解はと田中。

*** 3) 留金。知能犯、変質者。鐘の音と銃声の秘密の解説
絶句、警察が世間にださない部分を認識。しかし釈然としないものが。留金は頭がきれる方か。否、だから女性に軽んぜられ、かえって劣情をいだく。成程、劣情はわかるが、これだけ巧妙な犯罪が実行する能力はない。然りというべきかも、だが虚仮の一念、偶然の思いつきかも。でも、筏、「7」の数字、これは自信家の仕業、イメージがあわない。でも頭のきれる人が鶏小屋もおかしい。指紋、足跡は。無し。でも留金なら、鐘の音の間隔の問題は解消と石岡。何と田中。銃声がきこえなかった。石岡がこの謎を解説する。でも姿をみせずにどのように銃撃か、と田中。然り。でも犯人は知能犯でしょう。反論なし。

*** 4) 坂出、守屋と対話。留金の人柄、黒い歯の意味
中庭にもどると坂出と守屋。田中との話しをきかれる。御手洗につき説明、留金についてきく。容疑者とも。否と守屋。女性に関心がなかったかと石岡。否、年増。さらに人柄は円満、それほど愚かでもない。では、犯人はどこに。無言。坂出が生首の発見をきく。驚。その筏は留金でない。上手な大工。その他の残虐な行為も理解不能。石岡が考える。女性器などの行為は劣情の発動として理解できるが、そうすると筏の生首は理解不能。坂出がいう。推玉殺害犯人と同一か。生首をつつんだ新聞紙には鳥の絵がない。然り。歯を黒くしたのはお歯黒と守屋。何のため。昔の武家の奥さんも。それを真似た遊女も。何のため。交友関係が派手だったと訴える。遊女のような派手な存在というとして、お歯黒にしてどれだけの人がわかるか。もう一つ疑問と石岡。推玉と幸子の額の「7」の意味が不明。然り。幸子の額には穴、そのよこに無理して数字、この意味。それは予告かと守屋。何の。殺人者の数。根拠は。不明。現在3人。女性ばかり。女性への劣情で犯行におよぶ変質者の犯行、警察の考えらしいと石岡。否と守屋、二人は幸子の死体の損傷はしらせてない。この事件は混乱してると石岡。

*** 5) 混乱する犯人像、不明な動機
性犯罪説、知能犯説、睦雄の幽霊説。動機不明で混乱と坂出。警察が現状でつかめてない。不明。犬坊家への怨念か。しかし間接的。どうしてこんな手のこんだ犯行か。行秀がとおりすぎる。話しがかわる。ここの温泉は実は冷泉かと坂出。然り。わかしてる。昔は薪、今はプロパン。行秀がまさにそのためにいったようだ。

** 5) 龍尾館、守屋と対話、夕食、田中に電話、中庭、丸ノコの小屋
*** 1) 藤原の失踪
夕方、蛍光灯スタンドをかりに龍尾館に。守屋にあう。藤原が失踪。心配。どこの出身。世能尾(せのう)、ずっと奧。かえった。否。では守屋と喧嘩は。否、田中への連絡が必要かも。食事。隣りの二子山一茂と幽霊払いについて話す。食事後、守屋が依然、藤原が失踪と。

*** 2) 田中との対話、外部犯行説
石岡が田中に電話。対話。石岡が犯人は愚か者による性犯罪説に疑問。「7」は捜査員への挑戦。冷静さをもつ。矛盾。留金にこだわらないと田中。しかし外部の犯行。でないと無理。幸子の時、石岡、ミチ母子、一男にアリバイ、その他が不確かだが嫌疑は薄弱。晴美の時、石岡、佳世は一緒、行秀は鐘、守屋、藤原、エリ子は厨房、二子山親子も部屋、坂出は警察。さらに一男、育子、里美、松子は一緒に龍尾館の奥の間、菊子は部屋で動けず、盲目と全員にアリバイ、外部犯行に。成程、で、推玉の時も。然り、ほぼ同じ、犯行時刻を午後6時とすると、二子山親子、坂出は廊下、守屋、藤原、里美、エリ子、幸子は厨房か応接間、一男、松子一緒に奥の間、行秀は鐘。これも外部犯行に。成程、ちょっと疑問と石岡。菊子は本当に動けず盲目。たしか。だから留金。でも留金は巧みな大工とか。しかし殺人という異常事態なら失敗も。仏様のような好人物と石岡。否、外見だけかも。でも外部の人間が劣情で連続犯行か。不可解。然り、依然外部説が有力。

*** 3) 守屋との対話、樽元、留金
里美に蛍光灯スタンドのことをきく。明日までかかるかもと。中庭で心配する守屋とあう。田中との会話をはなす。守屋が意を決して樽元のことをはなす。龍尾館の地下に仕事場、口ごもる。石岡がきく。樽元が仕掛けのある琴をつくったか。どんな。琴に銃が内蔵。否。樽元は8年前にやめた。でも先代秀市は一昨年、それからやめたのでなかった。本人の体調と夫人の看護のため、仙人山にかえった。成程。彼とは一年ほど一緒。では。自分は9年前に。藤原は。4年前。つまり、守屋、1年で樽元、3年で藤原、2年で先代、旅館閉館、今年に留金か。然り。それに藤原か。然り。了解。

*** 4) 丸ノコの小屋の不審
では先程いいたかったのはと石岡。守屋が小径に石岡を。龍頭館を左に。裏の空き地。長方形の池。すると龍胎館と裏山の竹薮の間。小屋。その中に丸ノコ。守屋が小屋の脇、引き戸に。2センチの隙間、施錠でそこで停止。格子窓から丸ノコの姿。その奧におおきな土饅頭、焼き場。猫足の間か龍舌の間にちかい。かって樽元が管理。今はと石岡。留金。でも失踪後は。不答。小屋からのもどり守屋がいう。この中で藤原が殺害。驚、それがいいたかったこと。今、鍵は誰の管理。きけばと石岡。不可。では石岡が。でも推測は。誰。行秀。それがいいたかったのか。さらに丸ノコなら筏つくりもらく。それに行秀は不器用と守屋。

* 7) 4月3日、野外演奏、エリ子、菊子、4月4日、留金の発見
** 1) 石岡の部屋、幽霊を追跡、丸ノコの小屋、焼却場
石岡が寝床で異音にきづく。廊下を裸足で。葦戸をあけ中庭をみる。右の方の廊下に怪人がたってた。黒い姿、鉢巻、その両端に懐中電灯、右手に刀、左手に猟銃。龍尾館の絵だった。また足音、すすり泣きの声。竜の彫像の横、階段をのぼりつめたあたりに人影。そこに瘤。尾行した。龍頭館の裏、小屋のあたりの竹薮にたった。生臭い臭いに気がついた。竹薮をぬけ法仙寺境内。鐘撞き堂の横。本堂、裏手の墓地。人影がとまる。椿のそばにいった。人影をみうしなった。墓碑銘である。金井貞子、勝裕、康夫。山門へとくだる木戸にきた。施錠されてた。鐘撞き堂から竹薮をくだった。気がつくと丸ノコのある小屋の横だった。生臭い。人がやかれてる。人影が。頭に二本の角をはやした影がこちらにちかづく。恐怖にかられて逃走した。

** 2) 廊下、大広間、龍尾館角、昼食、竜の彫像横、野外演奏会
鐘の音で覚醒。廊下、守屋に昨日の幽霊の話し。藤原が依然失踪中という。大広間。怪人の話しをする。裸足の音、きいた。すすり泣き、きかない人も。顔の前に布、ないと石岡。竃について、今朝、掃除した時には異常無しと育子。あの絵は何故。二子山に依頼する。ここにはいった時、何をはなしてたかと石岡。育子と里美の 演奏会の開催。蛍光灯スタンドは地下の風呂場のところと里美。ではいいと石岡。部屋にもどり仮眠。エリ子の声、昼飯。昨夜、生臭い臭い。気づいた。否、さらに今日で旅館をやめるとエリ子。昼食後、龍尾館の角で警察にあう。藤原がもどらずと石岡。警察が守屋から事情を聴取。村に知り合いは。無し、泊まりにゆくほどの知り合いは無し。年齢は。21歳。親しい女性。無し。そこをはなれ竜の彫像の台座に腰掛け。守屋がきた。警察は村で聞き込み。今日の演奏会は。連弾、芝生で。

** 3) 石岡の部屋、井戸、丸ノコの小屋、演奏、鐘の音
*** 1) 演奏準備、里美の接吻
下書き、午後4時。中庭に緋の布、その上に2台の琴。和服の里美に声を。里美がいう。龍頭館裏の井戸で手をきよめる。演奏前のジンクス。里美が小屋にちかづく。上方に丸竹の導水管、各部屋の筧の源流となってる。格子窓から中をのぞく。里美も。だきあげてのぞかせる。ここはこわいところと里美。この部屋の鍵はと石岡。不知。焼き場にゆく。異常がない。突然、里美が接吻、すぐはなれ中庭に。

*** 2) 観客の中の演奏、鐘の音、エリ子の殺害
廊下には観客として、坂出、石岡、二子山増夫、二子山一茂、三人の刑事、ミチとユキ子、エリ子、一男、守屋、松子、行秀と龍臥亭の全員がこの順序でそろう。低いところの部屋の住人はその廊下からみえない。それで順次、上方に移動。演目は「二つの個性」と「三つのパラフレーズ」。見事な演奏。菊子が部屋からでて坂出にはなしかける。アンコールの声にこたえて「海の詩(うた)」。菊子が部屋にもどる。行秀が廊下をおりる。ミチ、ユキ子母子とエリ子も部屋に。彼方に行秀。鐘が一つ目、次に二つ目の時、悲鳴。部屋にいそぐ刑事。エリ子がうたれた。

** 4) むかで足の間、検証、四分板の間、菊子の殺害
*** 1) エリ子の検屍、狙撃場所、天井、銃声の隠れ蓑
検屍が終了。死体から1930年製ブローニング銃のダムダム弾だった。警察は混乱。弾はどこから。欄間から。否、板戸を閉鎖したか。ミチの証言は本当か。あやしい。馬鹿な、子どもが横、母親が手引きするか。否、第六感があやしいという。冷静に。二度とも被害者は手前、不審。否、危険すぎる。ともかくミチが不審、何故ここに滞在か。不審だから、子どもをだまして犯行。とにかく警察に。子どもにもエリ子にも硝煙反応無し。突っかい棒をしてたと証言、嘘。ならこんな証言は無し。では犯人はどこに。だから欄間と田中。で、どこから。屋根から。どこの。むかで足の間の廊下の屋根。犯人はどこ。屋根にはいつくばり軒から銃身を欄間にいれる。それでねらえるか。練習すれば。不可能ではない。でも一発は心配、複数。それは鐘の音にあわせるから。またそれが銃声がきこえなかった理由。前回も今回も二回目。タイミングの便宜。二発、三発。なら逃走が発見。だが、屋根の上から鐘撞き堂をみて一回目のほうが。否、みえない。でも銃声をかくすこと。狙撃より優先か。然り、きかれれば所在が判明。なら無差別殺人か。然り。ではその理由。不知。全部か。然り。犯人は留金か。ここにいない外部の人間が犯人と田中。留金が屋根。それで逃走路は。龍頭館の方。否、育子、里美がみる。では龍尾館。安易な結論。しかしどうして鐘の音の時刻を最優先か、他の時間での犯行は。そこに声、晩飯の連絡か。

*** 2) 菊子の殺害、狙撃場所、変わり琴、銃声
育子が菊子の殺害をしらせる。食事をもっていったら発見。四分板の間に死体。浴衣をきて大の字、足は窓の方、両手は横。現在9時すぎ。部屋の明かり無し。窓からうったか。外をみた。石垣より上。屋根からの犯行は可能と福井。演奏の6時には生存。銃声をきいた者。否。食事をもってゆくまで、この部屋にいった者。おそらく否。屋根の上に不審者。否。菊子は。実母。年齢。78歳。布団をでて死亡。窓をあけた時、うたれたか。石垣からか。手でささえるところがない。筧にのる。無理。福井がいう。二畳は全部、四畳は半分が板の間。四畳には琴。琴は。固定。もといた樽元が一本の松から琴が上にのった板をつくり、はめこんだ。二畳の間の百済琴も同じ。はめこみ。弦は。はってない。外に。弦締め。百済琴をみる。西洋のハープみたい。然り。弓のところに穴。これは枝をもった幹からか。然り。幹を板に。然り。幹に右手が一本はいる穴をくりぬいてある。ここから弦をはった。然り。田中がもどった。坂出は6時から部屋、銃声。きかず。石岡は6時から1時間外出、それから銃声はきかずという。

** 5) 石岡の部屋、文房具店、郵便局、夕食、自室
*** 1) 御手洗への手紙
石岡は龍臥亭をさるといってたエリ子の死に衝撃。身近に危険を感じる。覚え書きづくりに集中。守屋に同行してもらい貝繁銀座にある文房具屋に。30枚のコピー。郵便局に。午後8時をすぎてた。局長不在だが受付。ノルウェーにいる御手洗に郵送。エクスプレスで依頼。帰途、守屋に睦雄の事件をきく。本当に。あった。ある春の夜、発狂し30人を殺害。ギネスにのりそうな大記録。然り、新聞にのった。庄屋の息子、金持ち、座敷牢を。もってたらしい。

*** 2) 菊子の殺害、銃声の有無、疑心暗鬼
部屋にもどり事件を考える。自分の命すら危険。外から声。田中。菊子が殺害。驚。銃声をきいたか。否。どこに。守屋と外出、御手洗に依頼の手紙。何時ころ返事。3、4日くらい。御手洗のことは口外無用。了解。時間がないとでていった。石岡が考える。4月3日に2人が殺害、異常なペース。菊子殺害で利益をえる者。無し。エリ子も。無し。疑心暗鬼、坂出も危険か。夕食は沈痛。食後、四分板の間をのぞく。田中に声をかけ、丸ノコのことをいうが、すぐ自室にもどった。

** 6) 朝、自室、廊下で田中と対話
*** 1) 事件の整理
石岡が4日朝6時起床。また考える。守屋の言では、丸ノコの小屋の鍵をもってそうな行秀。あやしい。が、鐘の音というアリバイ。強し。犠牲者を列挙、推玉、晴美、エリ子。すると次は里美。驚。何としても守る。しかし失踪中の藤原、菊子は、無差別。然り。若い女性にかぎらず誰も危ない。最初の推理にもどる。5人、すくなくとも3人は鐘の音。行秀にはアリバイ。本当に行秀か。共犯者が。体格が似てる者は。藤原、否、守屋、然り。でもまて。共犯者である守屋が行秀を告発した。あり得ない。今は小屋の丸ノコが問題だ。声が。田中だ。

*** 2) 菊子の射殺、非密室、硝煙反応
廊下をのぼってきた田中にいう。この鐘の音ではねてられない。否、上司はねてる。犯行は午後の6時の鐘、何故と石岡がきく。今なら皆がねてるからでしょう。菊子に新事実は。あり、葦戸の突っかえ棒無し、二畳と四畳の間の突っかえ棒も無し、外にあいた窓もあけっぱなし。つまり。密室でない。さらに。ダムダム弾でない。銃は。同じ。どこを。心臓、一発。成程。さらに硝煙反応。成程。至近距離からうたれた。晴美、エリ子は遠距離。どうやって、不可解。丸ノコのこと。

*** 3) 丸ノコの秘密、留金の炭焼き小屋
調査済み。驚。二度、推玉、幸子の時。結果は。シロ、丸ノコの血痕、体液痕、肉片無し。成程、がっかり。切断は手挽きノコ。筏もそう。小屋の鍵の保管は。警察がたのむと育子がわたした。保管者か。不知、何故こだわる。行秀では。毎日鐘をつく、それをみられてる。臭いという人もいる。鐘の音は6つで終了した。密告は守屋と田中。扇動癖、少年院で。驚。それで京都にいられずこちら。成程。こちらで問題も。どんな。不答。で、藤原は。生きてるでしょう。本当か。川べりで目撃との証言。たしかか。そこまでは。では守屋に何故、一言。不明。行秀でないなら、留金か。不知、しかしあり得る。田中が荒坂峠の留金の家、今は空き家、それと仙人山の炭焼き小屋を調査する。同行するか。考えとく。ところで次の犠牲者は里美では。高校で問題児、とがめられても化粧をやめない。

** 7) 537p、朝食、仙人山へ、車中、留金の家
*** 1) 留金の家の調査計画
朝食食時、二子山増夫と福井が対話。警察は四分板の間の外の平地と部屋の中を徹底的に調査。留金は炭焼き小屋がすきと二子山増夫。どのくらいかかる。まず車、次に徒歩、大変。道はわかるか。困難。軽四でゆけるか。なんとか。道案内できるか。不安。他にしってる者は。里美が声。去年いった。二子山増夫、坂出も同行。学校は。大丈夫。では下校後、午後1時出発。

*** 2) 坂出の意見、菊子の状況、鐘の音のタイミング
石岡も同行。人数を収容できるマイクロバスで出発。石岡が坂出と対話。一発でたおしてる。零戦のパイロットとして感想は。相当の手練。戦闘機の手練も無駄弾はうたない。やがて留金の家に停車。帰った形跡。無し。対話再開。菊子の事件で銃声はと石岡。無しと坂出。ではいつ。福井の説明をいう。スイッチがはいてなかった。つまり明るいうちにうたれた。さらに硝煙反応。目の不自由な年寄に至近距離の必要があったのか。不可解。しかし、だから至近距離も容易ともと石岡。演奏会の時、坂出にはなしかけた。その内容は。琴をひいてるか。育子と里美が正座してひいてるかときいた。それだけ。然り、部屋にもどる時、それじゃといった。菊子は鐘の音のきこえる時にうたれたと坂出。成程。エリ子は2回目。3回目はミチの悲鳴。4回目、菊子が育子に何がときいいた。5回目で育子が四分板の間。菊子は「ああそう」。6回目がなる。ここでうたれた。成程、では犯人の行動は。エリ子殺害、移動。待ち伏せ。6回目で殺害。成程、それから逃亡と石岡。部屋の窓の下は石垣、地上まで5メートル、やわらかい地面だから、いったんぶらさがって着地、法仙寺方面に逃走と坂出。成程。ところが刑事たちはとびおりた形跡はない。何ヶ月も人がはいった形跡がないという。困惑。さらに徹底的に室内を調査、仕掛けは無し。停車、ここから徒歩となる。

** 8) 炭焼き小屋、雨宿り、留金の死体
*** 1) 大雨、雨宿り
ほそい山道をすすむ。湖面がみえた。右手にみてすすむ。空が雨模様。やっと小屋に。茅葺きの六畳の広さ。大小の石がごろごろ。30分ほど調査。成果無し。マイクロバスに。雨がふりだした。全員走りだした。気がつくと里美と二人っきり。右側斜面に岩棚があった。大樹のもとににげこむ。雨が両側を音をたててながれる。里美がスカートをしぼる。手伝ってという。突然わらいだした。天啓がはしった。

*** 2) 村の因縁
石岡には因縁、睦雄の鬼伝説、丸ノコの小屋をのぞいて怖いといった里美がつながった。幸子の死体の猟奇性には性的な衝動がある。さらに彼女との対話を思いだした。因縁とはときいた時、村人の業。では業とは。言えない。あの時、答があったが口にだせないと拒否した。因縁には性的意味がふくまれている。やっと気がついた。そこでまた因縁のことをきいた。言えない。石岡はきりだしながら口ごもった。自分の母親について、綺麗でしょうという。然り、だが何。貝繁村には綺麗な人がおおい。何。村には女の秘密がある。石岡にはわからない。成程。石岡は思う。だから事件がわからず、解決もできない。

*** 3) 女の業
足元におかしな石。貝繁村の業は女の業と里美。目の前にふるい革靴が。その上によごれたズボン、両手、ろくろ首。悲鳴をあげた。里美が雨の中にとびだした。泣きじゃくる里美をつかまえた。東京にゆくという。広島では。否、母もどこかに、自分は一人。東京にいく。何でもする。大学だろうと石岡。否、いいブティックもない。では東京の大学へ。父親が反対。でもどっかにいくのでしょ。でも反対する。冷静になった里美がいう。変なことをいった。みんなにしらせようと石岡。

*** 4) 留金の異様な死体、自殺、ふかまる謎
自分の家がつぶれたら東京にいきたい。然り。面倒みてくれるか。了解。安心してわらいだした。道をもどった。マイクロバスをみつけた。話すと、車内がどよめく。福井がきく。留金か。そのよう。事件はおわりと鈴木。石岡が案内。もどってきた福井にきく。あの頭は。女の髮。幸子からはいだ。鬘のように。収容された死体とともに龍臥亭にもどった。5日の夕方田中から電話。留金、頭にあったのは幸子のもの、作業着の左右のポケットに両目、両方の乳房、両方の耳。足元の石は固化した女性器。石岡がいう。留金は幸子にかなわぬ恋情、殺害、その後、死体を窃取、劣情をとげ、さらに性的部分を切りとって身につけ逃亡。最後に自殺。ですね。否、留金の頭に「7」の数字。それは自殺の判断をくつがえすか。然り、しかし推定死亡時期が2カ月前。驚。今年の2月、上着の下にセーター。一番最初の殺害の推玉も不可、ほかの4人も不可。成程、では誰が死体の部分を。不明。死因は。不明、でも銃殺でない。よく発見したと田中。では2月から自殺体があの場所に。犯人がしってた。それに死体部分を。では、留金も犯人が殺害か。不知。
(上巻おわり)


龍臥亭事件〈下〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈下〉 (光文社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1999/10
  • メディア: 文庫



* 8) 下巻はじまり、死体の窃取、4月8日、合同葬、4月9日、救出劇
** 1) 四分板の間、合同葬、沈痛な夕食、御手洗の電報
*** 1) 懐中電灯の怪人、遺体安置
それから、龍臥亭、貝繁の村、警察官たちは混乱におちた。警官は無口。村人は龍臥亭の住人、宿泊客を忌避。石岡は4日夜、四分板の間の葦戸の中で懐中電灯の二つの光のうごめきをみた。その後。留金、菊子、エリ子の合同葬。なお幸子の遺体は家族が引き取り。推玉は津山で葬儀済み。晴美の遺体は不明。

*** 2) 留金、エリ子、菊子の遺体窃取、合同葬強行
4月7日から貝繁の村のはずれ、橘暗渠にちかく棚藤という場所の焼き場の待合室に安置。翌日には合同葬。翌朝、石岡は御手洗に知らせるため菊子、留金の死の記録をまとめた。朝食後、1時間後に全員で出発。葦川にそい徒歩。橘暗渠は葦川の流れをひきこんだ水田灌漑用の水路。そこに水をためるプールが付設されてた。ここに筏がうかんでた。

山裾の山間部に煙突とレンガ積みのふるい火葬場。建物の裏手に待合室。戸の硝子窓が一枚われてた。先客に刑事三人と一男と育子。異様な雰囲気。何ごとか。一男が棺桶の一つ。石岡が棺の小窓からのぞく。遺体がない。ぬすまれた。窓がわられ、こじあけられ、3人の遺体が。アルミの粉は指紋の検査。また、何故と坂出。こんな簡単。だが盲点。二度目、最初の遺体はぬすまれてバラバラ。今度は。死体をとって、何か細工、遺棄、何かのメッセージか。「7」の数字、バラバラ。バラバラのやりかた、遺棄場所に意味。何をいいたい。迂遠すぎ。石岡が考える。直接手段がとれず。字がかけない。肢体不自由、筆跡か。新聞雑誌の切り貼り。否と育子。しかしそれからは無言。たいした情熱。同感。遺体のないまま葬儀がおこなわれた。沈痛な夕食となった。

*** 3) 御手洗の電報、リュウコワセ
犬坊一家は事件が一段落後に身のふりかたを考えてる。石岡あての電話。電報の連絡。御手洗。「リュウコワセ、ミタライ」。他に何か。無し。電話をきった。食事中の一男にきく。竜の彫像は高価。50万。設計料などいれると100万。気にいってるか。然り。壊してよいか。否。いけないと二子山一茂。頑丈か。然り。

** 2) 入浴、自室、廊下、丸ノコの小屋
*** 1) リユウコワセの意味
電文に茫然、龍頭館の湯にゆく。部屋。電文の意味。とまどう石岡が御手洗を考える。尊敬。然り、だが異次元の世界。畏れ。御手洗の電報の意味が。2、3年後に。判明。やっとわかった自分に。恥る。あれが友情。たしかにそんな気が。おこがまし。対等の能力があってこそ。御手洗がさって、ひたすら卑小な世界に。ひここもり。横浜馬車道をでて、ここにきた。やっと事件の道筋を自分でみつめる。「リュウコワセ」。不可解。事件についてのべた御手洗の惟一の言葉。考える。ほかない。

*** 2) 竜とは何
壊せる竜。竜なら龍臥亭、竜になぞらえる琴、龍臥亭は壊せない。琴。ならどの琴。やはり竜の彫像。で、壊すか。高価。さらに頑丈。ハンマーか。ロープを車でひくか。ひょっとして他にあるのか。廊下にでて四分板の間に。竜の彫像ははるか向こう 。針の先。と、竜の横に和服の人影。

*** 3) 育子と藤原の不倫
龍頭館に。人影をおう。龍頭館の陰に。井戸の横、竹薮。そこで女の悲鳴のような声。丸ノコの小屋にちかよる。中からの声だった。やがて足音、戸がひらく。それは。藤原。これは。何。生存してた。それはよい。しかし、無断で失踪。守屋に心配をかけた。職人世界の仕来り。あり得ない。普通は追放。だから藤原には。その覚悟。それほどの理由は。また一人。育子。不倫の情交。やがて里美の言葉。よみがえる。母は綺麗でしょう。了解できた。娘は正確に事態を。把握。井戸で手押しポンプをおし、水をかぶった。裸体の背中にケロイドの跡。石岡はまさに沢山のことをみた。考えねばならない。

** 3) 朝食、育子、御手洗の手紙、帰室、坂出、里美、帰室、ミチ
*** 1) 育子と一男の比較、守屋の失踪、藤原
4月9日、起床。育子のこと。考える。一男とくらべる。こんな混乱に。冷静な対処。尊敬の念がある。廊下にでて坂出に。昨夜のこと。いわない。二人で龍尾館の大広間にはいる。守屋がいないと育子。驚。は昨夜のことをしれば激怒。納得できると石岡。今朝の料理は守屋が仕込み済み、しかし今夕がこまると育子。でも守屋はどこへ。不知。手紙、伝言は。無し。こういうことは。昔あったが。するともどる。然りと育子。人数のへった食事がおわった。また藤原を考える。どうして。職場放棄、不倫。あえてする理由。初めてでない。前からの情事。育子が失踪と関係。了解。不可解。もどって文章にまとめることとする。

*** 2) 御手洗からの手紙、茫然自失、犬坊家の分裂
郵便配達人が石岡に御手洗からの郵便をとどけた。部屋で開封しよむ。内容は自分で解決せよ。必要なら命をかけてたすけよ。ない。どうすればと茫然。自分の腑甲斐なさにないた。廊下で坂出が声を。犬坊家が大喧嘩。育子が離婚を要求、それを一男が拒否。部屋にもどり文書にとりくんだ。御手洗の手紙を考える。自分で何とかしろ。無理、無責任。何もうかばない。事がここにいたって、そんな主張は無益。才能の配分は不公平。御手洗には自分の辛さはわかるまい。腑甲斐ない。昼食の時間。食欲がない。夕食はみすぼらしかった。厨房の勝手口前で里美がないてた。

*** 3) 失意の里美、事件解決の決意
声をかけた。石岡がきく。島根の親戚のところか。然り、自分は否、あの人たち、すきでない。あの人、一男、行秀はゆくか。然り。里美は。東京。成程。育子は。不知、二人ではなせば。離婚か。不知、一男は拒否。成程。龍臥亭を。どうする。売却、1000万円。全部で。然り。土地、畑は。親戚のもの。自分の家はおしまい。否、ここにいればよい。駄目、親族会議できまった。自分たちがきめる問題。今の状態では無理。では、事件が解決すれば。無理。どうして。祟り。では何時。警察が許可したら。では解決すればゆかなくてよい。然り、でも無理。祟りでない人間の仕業、犬坊家と無関係とわかったら、どう。出来ない。無理。では、2、3日待って。といって石岡は部屋に。

*** 4) 電報と手紙の作成順
事件を文章化。すると筆がすすみ解答まで。出来るか。虫のよい話し。何時間も考え執筆の手をやすめ、また御手洗のことを考える。電報と手紙の順。電報のほうが速い。手紙はおそい。つまり手紙、電報が作成の順。御手洗一流の友情か。しかしそれはそれとして、わからない。無理。部屋の外から声。

*** 5) ミチの看護依頼
ミチがいう。部屋でユキ子をみて。了解。でも何故。心配。部屋では寝息をたてたユキ子。発熱、溶連菌のため。で、何故。すこしの間、ユキ子をみて。了解、で、何をすれば。布団をはいだら、またかぶす。おきたら、すぐ帰るという。午後11時だった。で、どこへと石岡。法仙寺。何故。しってると思った。お百度参り。驚、不知。毎晩夜10時に。何故。百日つづけたら、自分の悪い因縁がはらわれる。それで。今夜は熱でせおってゆけない。毎日、せおって。然り。成程、あの時、法仙寺にむかってた人影。然り、おぶってた。何故いわなかったか。あの後、食事の時、きいた。でもいわなかったと石岡。他言は無用。成程、しかし今夜は。病気、もうしられたと思ったから。もしユキ子がはげしくせきこんだら、この薬。にがくないか。あまい。了解。何度も頭をさげられた。ながいスカート、厚手のストッキング姿で外出。考えた。

*** 6) けなげなユキ子、発砲事件
4歳の子ども、深夜のお百度参り。何故。瘤のようにみえたのがユキ子。おぶってコートをかぶってたのだ。椿の化身でなかった。部屋の電気をけそうか。ユキ子が目をあけた。なきだした。ママとユキ子。石岡。やさしくいったつもり。ママ。なきやむ。ママは。法仙寺、まってられるねと石岡。うん。どこかくるしいか。喉、頭。風邪か。ホーレンキンとユキ子。然り。くるしいようだった。石岡に気をつかって我慢。突然、石のところが、パーンとはじけたとユキ子。何。昨日。うん。何日前でも昨日という。石岡がきく。どこで。お寺。お墓か。うん。墓石のあるところ。うん。ママはどうした。きゃってはしる。鉄砲か。不知。驚。何度もか。うん、昨日だけ。驚。ママをたすけて。どうして。時々、こわいて泣く。今、二子山を呼ぶ。まってられるか。うん。二子山に声をかけた。二子山一茂がでてきた。事情を話して部屋にいく。ユキ子の頭をなぜ。あとを二子山一茂にまかせてでかけた。

** 4) 法仙寺、墓石群、発砲
*** 1) 墓場のミチと対話。お百度参りの由来、睦雄の恨み
夜の霧、龍頭館の裏、井戸、熊笹、法仙寺境内。本堂の角をまがり、墓石群。ユキ子はとミチ。二子山一茂が。ここで。然り。馬鹿な。謝。どうしてと石岡。これまでの不幸。自分の業ですごい怨念。怨念か。然り、鬼の怨念。先祖への怨念が自分に。誰がうらむか。この人たちとこの人たちを殺した人が、と墓石をさしながら。この墓石は何。昭和13年に都井睦雄事件で殺された人たち。睦雄の事件はよくしってるか。然り、両親から。どこで生活。盛岡。しかし両親は事件をよく。祖母が事件直前までこの村に。思いだすと符合することがおおい。自分の業はこの事件だと気がついた。成程。ここにきて、因縁をひきずってる人がおおい。でも自分の方がもっとひどい。だから命懸けでご先祖の身代わりになった人たちをとむらう。ゆるしてもらえれば今の因縁からぬけでる。霊感の先生から。でも今の生活がひどいか。否、それまでが。どんなひどい目に。不答。謝。睦雄の事件をきいて納得。睦雄に祖母が殺害されそうになったのか。然り、誰よりもうらんでた。

*** 2) 逃亡した祖母きみえ、睦雄の子、ミチの実母
祖母世羅きみえは計画を悟った。一週間前、家族と京都に。そのため多数を惨殺。身代わりに。世羅きみえは既婚。子ども多数。年齢。34、5歳。成程。子どもが4人、上3人が男、末っ子が女。その女が。母親のよう。はっきりしないのかと石岡。末っ子は京都から里子。成程、両親はきらってた。母、育ての母が恨み言。睦雄と睦雄に殺された人の怨念で世羅の家はむちゃくちゃ。自分の生みの母がその末っ子か。きけば。不可、自殺。で、この人の父、祖父が豆相場で破産。この母は借金のかたに売られた。人身売買か。詳細は不明。成程。自分も。祖母も。祖母は睦雄に乱暴されたよう。ずいぶんひどい目にあった。成程。睦雄の人柄は。異常者。成程。因縁、業が祖母、母、娘の三代につづく。だから子どもが心配。成程、で、この墓の人たちは一晩で。然り。どうしてにげなかったか、騒然となったろう。最初は刀でひそかに、次に猟銃。知能犯。自分の祖母を斧。実の祖母。

*** 3) 睦雄に殺された人びと
両親はすでに死亡、祖母の首をきって、次に金井貞子、勝裕、康夫を日本刀で。長男の勝雄は広島の海軍。勝雄は何歳。20歳。貞子は50歳。親子ほどの年齢差、その次は。この墓の吉田かね、修一、芳子、智子。ここから猟銃。ここの女性に乱暴してた。色情狂か。そんなすき放題で何をうらむ。村をハーレムにしたかった。ずいぶん勝手な。次にあの墓の金井高次、智恵子、やす子、犬山丈夫を猟銃で、やすは一命を。よくおぼえてる。墓石に名前、次に犬坊正雄、貞夫、定子、なみ、猟銃で。次に犬坊高一郎、外から狙撃、殺害。犬坊米一、トミ。トミとも関係。希代の殺人鬼。という前に希代の色魔。犬坊千代吉に。犬坊という家がおおいが。然り。犬坊が開拓の村か。千代吉の妻タマ、蚕の仕事でいた金井綾子、丹野未千代、未千代とも。隣りの未千代の家で母、母とも。次に今村修二の家で妻の満、安市、トシ、明を猟銃で。それから龍臥亭へ。当時あったのか。否、祖父、吉蔵、村一番の資産家。村の御意見番、睦雄には煙たい存在。龍臥亭は息子、秀市がつくった。睦雄はこの人からも意見され、うらみをもってた。睦雄は坂をのぼり銃撃、吉蔵は無事、妻は翌日死亡。地獄で睦雄は吉蔵と秀市をうらむ。然り、村人はだから今度の事件と噂と石岡。

*** 4) 睦雄が恨みをのこした人びと
男でこの二人、女では祖母。それで事件は終了か。否、荒坂峠の及川辰男、とよを猟銃で。で、30。否、うたれたのはたしか32。その後は。村をでた。悲惨な思い出の村はでたかった。否、いじめも。何故。不明。及川とよと睦雄は関係があった。然り。不可解、何が不満。不知。たすかった人を村八分というのも不可解と石岡。睦雄の亡霊をみた人がおおい。然り。それが原因と考える人もおおい。然り。あれだけ勝手放題をして死後もうらむのか。然り。不可解。然り、村の人の気持ははかりかねる。死後60年たっても。成程。当時20なら80、本人かも。風をきる音。

*** 5) 発砲、ミチの命がけの決意
墓石のかけらがとぶ。ふせてと石岡。霧の中で相手の所在は不明。また銃声。にげろと石岡。ふるえるミチをうながす。本堂脇の階段から怪人、顔の中央がくらい穴だった。ミチをつれてにげた。ユキ子の顔がうかんだ。住職の家の裏手。しかった。今度で。二度目。顔をみたか。然り。すぐかえろう。然り。二度とやらないで。不答。明日もくるか。然り。ユキ子の面倒はみない。一人で。死んだら。仕方ない。馬鹿な。自分がせおってる業がどれだけふかいか、わかるか。死んでもか。仕方ない。ユキ子に業がひきつがれないため。不可解。うまれてこなければ。よかった。誰かを殺すかも、誰かに殺されるかも。自動車の免許はとらない。飛行機にはのらない。毒物にふれない。死ぬかも、殺すかも。電車のホームの端にゆかない。刃物も。できるだけふれない。こんな人生だったから、ここにいるのも同じ人生。不安の中の人生。自然流産をした。事前に奇形かもといわれ、また罰か、失神した。ユキ子の妊娠でなやんだ。

*** 6) ユキ子への思い
奇形かもしれない。何週間も。それも運命と生む決心をした。生む時、とても痛かった。やっぱりと覚悟した。おかしな子でも殺さないでそだてると誓った。立派な顔の赤ちゃんといわれた時、わあわあ泣いた。もうこれ以上の幸せはほしがらない。これはユキ子のため。了解、もどると石岡。鐘撞き堂をぬけもどった。ユキ子がまってた。二子山一茂がそばで居眠りしてた。石岡がとにかく明日にといって部屋にもどった。

* 9) 4月10日、守屋、一男の殺害、菊子、エリ子の死体
** 1) 起床、廊下、帰室、昼食、中庭、四分板の間、育子
*** 1) 守屋の死体、犯人の狙い
4月10日、鐘の音。昨夜の冒険で朝食抜き。廊下の音で覚醒。一男、二子山親子と対話。守屋の死体発見。どこで。貝原峠のバス停で。驚。その待合所の中。何故。不知。何時。昨夜の終バス以降。否、その前かも。警察はそれ以降で、始発までの間。というと。7時10分。終バスは。10時5分。死因は。銃殺。ブローニング製でダムダム弾か。不明。前方から心臓。何故、待合所。山越えなのに。警察の考えは。不知。推定時刻、手掛かり。不明。石岡が考える。昨夜の事件と同時間帯。しゃべるか。否。坂出がいう。時刻は不明。だが、おかしな点。失踪時はセーター。ところが死体に柄物のワイシャツ、ズボン。セーターも肌シャツもぬがされてる。しかもワイシャツのボタンがはまってない。肌がみえる姿。何の意味と石岡。不知。犯人は最初、若い女性、次に菊子、年寄だが女性。留金、これは自殺、しかし龍臥亭事件以前、だから凶行の対象は女性。ところが男性。男女ともか、と石岡。部屋にもどる。

*** 2) 四分板の間、育子と対話、桐、松、琴、箏
ノートにまとめていたが、御手洗の協力がないので絶望的。昼食後、中庭を散歩。四分板の間に育子。百済琴をみがく。ではもっと琴のこと。石岡がきく。それは。百済琴。箜篌とも。桐の木か。否、百日紅(さるすべり)。桐以外もあるのか。否、特別。あの琴は松。やはり桐。育子がきく。琴に関心。然り。どんなこと。全般。では、楽器の定義からと育子。この箜篌は、弦が23本、おおいのは指でおさえて音程を調節できないから。一本の弦はある音程のみ。本来これだけを琴。通常のものを箏というべき。常用漢字にふくまれず。やむ得ず琴を流用。柱をもちい一本の弦で音程の高低をつくるのが箏。古来から。箏は何本。奧の板の間にうつり、変わり琴をさし、13。でも前の演奏会では17。宮城道雄が創作。成程。ふとい弦で低音。西洋音楽の演奏に必要。

*** 3) 幸子が演奏した変わり琴
幸子がバッハを演奏。13。然り、松でつくった変わり琴。もといた樽元の作。驚、はじめてしった。然り、変わり琴。ここの琴と同じく糸締めがここに。成程。一本の丸太から削りだし。それでよくなるか。共鳴箱がいる。たしかに、でもあれはよくなった。樽元はよくなる木材をみつける名人。琴にてきした材木は重いもの、桐も育ちのおそい、重いものを。成程。樽元は仙人山育ち、樹木を知悉、よい松を選定。でもそれは道楽、本来は桐。売ってた。然り、評判。距離がちかづきすぎたので石岡がたちあがる。

*** 4) 守屋、藤原のこと、家族の分裂
守屋の死体が発見と育子。然り。ひどい。然り、藤原は大丈夫か。無事だとよい。旅館を売るつもり。然り、ここにはいられない。どこへ。未定。出雲か。主人は。同行は。否。成程。生まれ育った地、売却したくない。事件が解決すれば不要では。疑問、でも内容によれば。外から里美の声。外にでた。田中から電話があった。龍尾館に。

** 2) 茶の間、田中に電話、御手洗に電報、渡り廊下
*** 1) 菊子の死体、御手洗に期待
龍尾館茶の間から田中に電話。菊子の死体、貝原峠の山中、バス停の近く。おそらくバス停に守屋を遺棄。そのついで。死体、特徴は。ありだが、御手洗の返事は。ありだが。どんな。興味深い内容、だが多忙につき、しばらく頑張れと。来日は。然り、とはいえ多忙、手紙、電報かも。手段を指示すると。然り、流動的だが。成程、状況はひどいと田中。分裂症の狂人の仕業。上司も御手洗の出馬要請でしょう。地獄の混乱。で、状況は。御手洗が了解した。として。

*** 2) 異様な死体
秘密の話し。嘘をついた。了承、意見を手紙でしらせる。了解、警察のだらしない内情を暴露。それなら勝算がなければ。然り。午後2時40分に菊子の死体が発見。異様。どう。白い和服だが、その下に守屋の肌シャツ、パンツ、懐に新聞紙の包み、その中は守屋の男性器。驚。では守屋の死体から。切断。裸の体にズボンと柄物のワイシャツ。守屋も菊子の額にも「7」。男性器をつつんんだ新聞紙の内側には鳥の絵。鳥の絵か。然り、二本足、横向き。何か質問。守屋の銃殺、ダムダム弾か。否、1930年代のブローニングだが。硝煙反応は。あり。菊子の死体の焼却に異存。何。つまり御手洗に異議。了解、特段の指示無し。守屋は。まだ調査。死亡推定時刻は。死後2日。石岡がそれは失踪直後と考える。龍臥亭の住人は。どういう意味。アリバイは。就寝中。確定は不可能。これは外部の犯行。成程と石岡。御手洗の助言を期待するといって電話をきった。

*** 3) 御手洗に電報、ミチの御百度決行
おいつめられた石岡がKDDに方法をきき、ヒントだけでもと御手洗に国際電報。渡り廊下でミチ母子にあう。石岡がきく。ゆくか。ユキ子の面倒を誰が。石岡がことわる。誰もいない。どうする。おぶってゆく。危険、ユキ子にあたるかも。ミチがたすかりユキ子が死ぬかも。だったら自分も生きてない。ユキ子が成長して祖母、母、自分と同じになったら、死ぬも同然。本当に効果が、誰が保証するのか。信頼する人、でも自分できめた。もうすこし早い時間は。それなら里美にたのめる。10時ときめた。誰が。自分。喉はなおったか。ほぼ。みんなにも言ってとめる。やめて。竜の彫像のそばの里美に声をかけた。

*** 4) 里美、看護の依頼
さびしそう。然り、やはり生まれ育った地。売るか。然り。お願いがある。何。今夜10時にむかで足の間にきて30分から1時間ユキ子の面倒をみて。どうして。ミチが法仙寺にゆく。危険、睦雄の幽霊が銃撃。願かけ。然り。われわれが防護。鉄砲相手にどうする。ほっておけないから。否、おおくの他人を危険にまきこむこと、拒否。

** 3) 夕食、坂出の部屋、廊下、墓地、エリ子、一男の死体。
*** 1) 坂出、二子山にも依頼
粗末な夕食後、ミチの法仙寺行がせまる。石岡が坂出にうちあける。とめるべき。とめたがきかぬ。百日。なら、たぶんあと10日。どう護衛。負傷なら救護、できること。然り。二子山一茂にユキ子をたのみ、二人でゆく。了解。里美が廊下に。

*** 2) 里美の看護、ミチの追尾
ねむってるユキ子をたのむ。 ミチが出発。石岡、坂出、二子山がおう。龍頭館の裏、竹薮。ここをのぼるかと二子山一茂。然り、危険、低姿勢。どこで亡霊をみたかと坂出。一度は小屋の奧の焼き場、もう一度は法仙寺本堂前の石段で。いやだな、石岡をたよると二子山一茂。驚、たよられる。境内に到着。ずいぶん近道。さすが推理作家、調査済み。霧のない夜。ミチの姿。本堂正面の階段か墓地へ。椿の姿がある。ミチをみまもりながら目的場所、犠牲者の墓石群に。墓地にせまる山の斜面。

*** 3) 異物の発見、エリ子、一男の死体
あれは何と二子山一茂。何。狙撃手か、警戒。然り。ミチはおがみおわり、帰路に。石岡がまってと声。変なもの、確認。しばらくかくれて。三人で相談。三方からせまれと坂出。白いものは白衣の人物。坂出が声、死体。成程。女、若い娘。棺の中にあったエリ子の衣裳。もう一体と坂出。声、しっかりしろ。石岡が四つんばいですすむ。一冊の本をみつける。誰か。一男。

* 10) 4月11日、評人の教示、犯人への罠、4月12日、評人を再訪
** 1) 朝、門横の車、自室、葦川散策、里美
*** 1) 現場検証の結果
その夜は狙撃、亡霊無し。ミチをふくむ一行はいそいでもどった。刑事たちはすぐ法仙寺にむかったらしい。

翌11日、鐘の音で覚醒。中庭で刑事ほかにあった。田中に身元をきく。エリ子と一男。何故、わざわざ寺まで。両者ともか。一男の犯行現場はそこか。ほぼ、鐘撞き堂のちかくのよう。犯人への手がかりは。明確なものは無し。他に。エリ子の場合、衣服は納棺時のまま乱れ無し、ただ和服の上から布紐。しばる。どこを。臑(すね)。理由は。あとで考察。手の方は。自由。一男の場合、猟銃による銃殺、心臓一発。硝煙反応、銃口をおしあてた。前方から。然り、ダムダム弾でない。ほかに。額に「7」。ほかに。賛美歌の本。石岡が昨夜さわったもの。ほかに北原白秋詩集。驚。お手上げ、無能を自認。二冊の資料の目次、冒頭部分の複製をみたいか。然り。龍臥亭の門のところの車。田中から資料をうけとった。この事件について考える。

*** 2) 詩集、賛美歌
二冊の本は清浄のイメージ、幸子、守屋には淫靡な加虐性。真逆のイメージ。何故か。同じ犯人か。火葬場から死体を窃取、淫靡な仕打ち。なのに詩集、賛美歌、どんな意味。詩集の中には死体遺棄の状況になじむものも。しかし賛美歌にどんな関係が。二人の死体をならべて遺棄。その関係は。部屋にもどり、事件を俯瞰。一連の事件の経過、つまり殺人と死体遺棄、発見者側からみた現場の状況を箇条書きする作表を考えた。

*** 3) 一連の事件箇条書き
1) 3月7日、推玉、橘暗渠、以下略
2) 3月30日、幸子、龍尾館3階、以下略
3月31日、同上、盗難、以下略
4月1日、同上、寺鶏小屋、以下略
同日、同上、葦川、以下略
3) 3月31日、晴美、むかで足の間、以下略
同日、同上、盗難、以下略
4) 4月3日、エリ子、むかで足の間、以下略
4月10日、同上、寺墓地脇、以下略
5) 4月3日、菊子、四分板の間、以下略
4月10日、同上、 貝原峠、以下略
6) 4月4日、留金、仙人山山中、以下略
7) 4月10日、守屋、貝原バス停、以下略
8) 4月10日、一男、寺裏墓地、以下略

*** 4) 犠牲者の数、「7」
犠牲者は8人、「7」の意味。7人か。留金の額にも「7」、犯人の犯行にかかわる。のこる当事者はすくない。逗留客なら、坂出、二子山増夫、二子山一茂、ミチ、ユキ子、石岡和己。龍臥亭の主一家は、育子、里美、行秀、義母お松。藤原。生存を目撃、重要容疑者、警察は気づいてるか。育子と藤原の共謀は。数々の疑念。

*** 5) 硝煙反応
硝煙反応は、推玉が不明、幸子、晴美、エリ子が無し。菊子、守屋、一男にあり。無しは遠距離、ありは至近距離。時期的に早い3人は無し、それ以降の3人が至近距離。両3人グループをわけるのは午後6時の鐘の音。この点から推玉は遠距離のよう。この明瞭な区分は何によるか。この区分を藤原と関連づけようとすると、エリ子、菊子の死亡前に失踪。無関係か。藤原を容疑濃厚とした。しかし幸子、晴美、エリ子の殺害方法の不可解さはただちには解消しない。とりあえずこの項目はおわり。弾のこと。

*** 6) ダムダム弾と非ダムダム弾
ダムダム弾と非ダムダム弾。推玉、幸子、晴美、エリ子がダムダム弾、菊子、守屋、一男は非ダムダム弾。この区別は4月3日午後六時の鐘の音でわかれる。ダムダム弾あるいは非ダムダム弾ともに1930年代のブローニング社製の弾丸。旋条痕から同一銃か否か。まだ不明。

*** 7) 「7」の意図
「7」についてである。全員にのこってる。例外がない。しかしたいてい再遺棄された時にあらわれる。この点の法則性。再遺棄。「7」。たとえば幸子、密室内で射殺。額になし。窃取、発見で「7」。晴美、エリ子も同じ。菊子も同じ。菊子は至近距離。犯人が額に「7」が可能。何故無し。わざわざ窃取。「7」、再遺棄。で、考え方。至近距離は「7」。遠距離は窃取。「7」、再遺棄。菊子の例外は何故か。そろそろ頭痛。御手洗のようにできない。挫折感。疑問点だ。

*** 8) さまざまな疑問、鳥の絵、黒い歯、筏、散歩
晴美の死体は行方不明。どこに。鳥の絵。ささいかも。しかし気になる。とんでるところでない。横向き、下手な絵。筏も下手。最初は推玉のバラバラ死体。二回目は守屋の男性器。これは菊子の懐中。異端の宗教の儀式か。推玉の黒い歯も。幸子の筏の生首も。この死体からの女性的部分の削除。守屋の男性器切断、エリ子のかたわらの賛美歌と詩集。支離滅裂。鳩の絵も、推玉、守屋にあって、幸子の頭部に無し。葦川の岸辺に腰掛け、また考える。

*** 9) 一貫性の欠如、気まぐれ、清浄な心中事件、淫靡な狼藉
一貫性のなさ。鳥の絵のほか、たとえば歯。推玉の黒い歯。しかし幸子に無し。死体にさんざんの残虐行為にもかかわらず。「7」は全員、黒い歯は一人。

ここできりあげて、エリ子と一男のこと。臑の部分を布紐、賛美歌、詩集。これは古来よりの心中死体の状況。死にさいして裾のみだれをおそれる女性の心理。詩集、賛美歌もこれになじむ。しかし二人は心中ではない。心中死体になぞらえようとした。これは理解できる。ならば何故。不可解。では別のテーマ。淫靡な狼藉。都井睦雄伝説。この睦雄に天誅をくわえる意味。男性器の切断。この原則なら他の男性犠牲者は。無し。声。里美がやってきた。

*** 10) 里美の発言、阿部定事件
平太は元気。然り、2、3年の命といわれた。父親の方が先。法仙寺境内か龍尾館裏の小屋とか、では何故と石岡。不知。寝室は別だね。然り。ではでてゆくところは、しらない。然り。おびきだされたか、母親はしってる。不明、最近は寝室別。最後に父親をみたのは。食事後、部屋にもどる時、午後9時。一男の就寝時間は。不定。一男をすくえなかったと謝罪。否、祟り。何を。事件のこと、守屋のこと。死体に犯人がしたことをしってるか。然り。ひどいね。まるで阿部定みたい。え、天啓がはしった。里美にきく。高校の図書室にはいれないか。可能。二人で高校に。

** 2) 高校図書室、事件年表、郷土史家
*** 1) 阿部定の資料
図書室の顧問の教師に事情を話す。何をみたいか。阿部定事件。どうして。岡山県警の依頼。手わたされた資料をよむ。昭和11年の新聞記事。5月18日、東京荒川区尾久町1881の待合「まさき」の一室で、50歳ぐらいの遊び人風の男性の死体が発見。この男性は1週間ほど前から31、2歳くらいの玄人風の美人と長期逗留、18日朝、女が外出、女中が部屋をしらべると死体が。首に細紐、男性器が切断。敷布団のシートに鮮血で定吉二人きりとかいてあった。男の左大腿部に定吉二人と刃物できざまれてた。

被害者が中野区新井538、料理店「吉田屋」店主、石田吉蔵40歳。女はもと女中埼玉県入間郡坂戸町、田中かよこと阿部定31歳と判明。阿部定は3日後、品川区の旅館で逮捕。取り調べの結果、阿部定は情交中に首をしめて、やりすぎて絞殺。所持してた風呂敷包みから包丁、石田のメリヤスシャツ、メリヤス猿叉、男性器がつつまれたハトロン紙の紙包み。待合をでる際、女中にふれられたくない。男性器を切断、懐中にしのばせ逃亡。また彼の肌を身近にかんじたい。メリヤスシャツ、猿叉を。

*** 2) 守屋、菊子事件の関連性、犯人、藤原か行秀
守屋と菊子の不可解さ。解消。菊子が守屋の下着、男性器を懐中。包装紙はハトロン紙。これは鳩、鳥の絵。犯人は阿部定をなぞった。馬鹿馬鹿しい。まるで幼稚園児、知恵遅れの人。でも不可解さ。説明。守屋、吉蔵。菊子、阿部定か。で、考える。銃無し。でも待合はバス停の待合室。決定的。しかし、待合、ハトロン紙が理解できず。知恵遅れ。子どもか、否。では藤原は。知恵遅れでない。行秀か。犯人は昭和11年の事件の資料をよんでる。なら一応知識人。また頭痛。

*** 3) 御手洗の方法を再考
御手洗が手紙で特定の人をねらってるという。事件はまだ謎。まだ犠牲者。一連の犯罪にテキスト有り。なら発見。次の犠牲者をふせげ。里美もミチもユキ子もかなしませたくない。事件の解決か。御手洗は。ふせげるなら何でもする。死んでもよいか。御手洗ならどうする。かっての「眩暈」でやった。事件年表だ。

*** 4) 事件年表の調査、昭和10年から13年の巻
書棚に講談社発行の「昭和二万日の全記録」をみつけた。昭和10年から13年の巻をだした。昭和11年の項に阿部定。この巻に期待したのは。貝繁村の事件。桜の頃。なら4月。なかった。もう一度、昭和11年。今度は猟奇事件。阿部定のほかは無し。間違い。否。時期に問題。なら、時期は。どうしぼる。頭をつかっても無理。足をつかう。で本棚にゆく。

*** 5) 昭和7から9年の巻、地元郷土史家の紹介
本の背文字に「昭和7年〜昭和9年」。昭和7年の項をみる。3月7日の項、東京府下寺島町の泥溝で中年男性の手足のないバラバラ死体を発見。玉の井バラバラ事件。これで7年はおわり。で、百科事典を。昭和7年、東京府下寺島町の通称「おはぐろどぶ」からハトロン紙につつんだ男性の首、胸、下腹部が発見とある。おはぐろどぶと推玉の黒い歯。あった。さらに。犯人は長谷川三兄妹、被害者は浮浪者、財産家といつわりちかづき、嘘がばれて暴力、ついに殺害。おはぐろどぶとハトロン紙。テキスト。額の「7」は昭和7年。でも図書室の調査はもう限界。顧問教師に返却しにいった。お茶をだされ話しをした。地元の郷土史家を紹介してもらった。

** 3) 上山評人宅、犯行のテキスト、罠
*** 1) 評人を訪問、睦雄事件の確認
すぐ郷土史家、上山評人をたずねた。石岡との対話。評人先生か。然り。高校の教師に紹介された。教示いただきたい。成程。裏手に案内。どんなことを。思いきってきりだす。昭和13年の都井睦雄事件。しばらく沈黙。横浜からここに。当地は不案内、種々きいた。実話。この事件はしってるか。勿論。図書室の昭和の二万日の全記録の13年4月の項でしらべた。未発見、実はつくり物。本当か。然り。事実。4月でなく5月。成程、しかし夜桜の場面。それは伝説。昭和史に記録。5月にあるはず。全国に周知。成程、現在の事件を知悉か。多少噂を。現在、秘密事項も、口外無用をお願いするが。了解、郷土史家として、今度の平成7年の事件が過去の因縁をひきずってるのが興味ぶかい。驚、「7」は平成7かも。石岡がいう。

*** 2) 類似猟奇事件の事例
不道徳なことをきくが昭和7年に阿部定事件の反対、女性が殺害、その女性の両方の乳房、眼球、頭髪が頭皮ごとはがされ、さらに異常なことだが女性器がきりとられ、たぶん犯人の男性がこれらをみにつけて自殺した事件。実例があるか。一瞬、茫然、7年か、ここの場所か。否、たぶん東京あたり。評人がいう。猟奇事件、あり。たしか名古屋。ファイルをしめす。昭和7年2月。石岡がみる。内容は次のとおり。

2月8日の朝、名古屋市西区の養鶏小屋に首なし娘の死体。両方の乳房、女性器がきりとられ、首とともに行方不明。被害者は東区、青果商の次女、吉田松江19歳。聞きこみから増淵倉吉44歳の情婦となってたことが判明、倉吉を犯人と断定、捜索。死体発見の4日後、木曽川の筏師が浮遊してた人間の首を発見。頭髪は頭皮とともはがされ、耳、上唇、両方の眼球も無し。これが松江の首と判明。その1ケ月後、木曽川くだりのシーズンをむかえた犬山にある掛け茶屋をあけたところ奇怪な姿をした男が首吊り自殺。倉吉が松江の女性的な部分をみにつけ自殺。関係ができたが年齢差のある倉吉を松江が拒否、情痴にくるって犯行。

*** 3) 驚愕の類似事例、名古屋の事件
石岡、驚。玉の井バラバラ殺人事件の模倣は似て非なるものだが、これはそっくり。でも相違点も。松江の首をただ木曽川に、今回は筏。露骨に世間にアピールするためか。否、犯行の隠匿とまったく逆である。名古屋には加害者、被害者には異常な愛憎関係、今回は無し。とりあえず。 両事件の理解が。満足する。玉の井バラバラ殺人事件の資料は。あり。犯人は本郷区新花町の無職、長谷川市太郎31歳、弟の東京帝大土木科写真室雇いの長太郎23歳、銀座裏カフェの女給、妹とみ子30歳。被害者は秋田県出身の千葉龍太郎30歳だった。テキストとなったのは間違いない。ちょっと感想を。

*** 4) 龍臥亭事件犯人のユーモア、見たて殺人、時代錯誤
悲惨な龍臥亭事件の犯人にユーモアがのぞく。幸子の事件のテキスト。筏師。で、筏。これがないと両者の関係があいまい。玉の井バラバラ殺人事件との関連。推玉の黒い歯とおはぐろどぶ。普通の凶悪事件にはないユーモア。これは推理小説でいう「見たて殺人」。犯人には探偵小説の素養。でも平成7年の時代に効果的か。つまりテキストがふるい。事実気づかせようとした刑事たちにとどいてない。でも何故こだわる。意味は。苦労させることが目的か。おかしい。結局矛盾。この犯人には緻密な知性と幼児なみの知性が共存してる。評人がきく。名古屋と玉の井の 両事件が今回の事件に関係があるか。石岡。秘密をあかすこと。躊躇。でも、すべてを話す。

*** 5) 評人による坂田山心中の紹介、性と猟奇事件、この土地の風俗
3年間他言無用と要請。了解。育子の不倫と背中の傷もうちあけた。感にたえない風情。やがていった。まず。坂田山心中。一男とエリ子の死体遺棄ににてる。それは何。神奈川県の大磯の猟奇事件。7年か。然り、集中した。性的なもの。然り、歴史的には江戸からつながり。浮世絵は現在、教科書にも掲載。だが大部分は春画。昭和初期は犯罪も性風俗の影響下。成程。さらに軍国主義。その抑圧への反動かも。龍臥亭の事件。この地方にもあった風俗。やりきれない気持。その時代の亡霊が生き返ったという印象。成程。

*** 6) この心中の猟奇性、性と死の伝統、昭和初期、軍国主義の時代背景
天国にむすぶ恋。昭和7年、神奈川県大磯の心中事件。坂田山という山の頂上の雑木林の中で若い男女が昇汞水をのんで心中。男は慶応大学の制服をきた25、6歳。女は21、2の令嬢風の美人。現場にヘリオトロープの花と白秋の詩集、賛美歌集。女性は処女。男は慶応大学3年調所五郎、女は静岡県の裕福な家庭の湯山八重子。どこが猟奇事件か。身元不明のため地元の法善寺に仮埋葬。翌朝、墓がほりかえされてた。中の遺体がなくなった。周囲に女の衣類が散乱。転々として海につづいてた。海岸の船小屋の砂の中から女の全裸死体。これは墓掘り人夫の犯行、のちに逮捕。本当に7年か。然り、2月8日名古屋、3月4日玉の井、5月9日坂田山。成程。きな臭い時代、上意下達の締めつけ。それから昭和11年の阿部定。然り、2・26事件の直後。この時代の抑圧から種つけ願望のあらわれかも。成程。吉原のちかくに小塚原の刑場、岡場所に無縁仏の投げ込み寺。性と死は隣りあわせ。男女の情死がすきな国民。成程、戦前の日本には性的な匂がつよい。然り、貝繁の都井の事件も。

*** 7) 埋葬のエリ子、掘りだしの罠
でも睦雄の傍若無人は、といおうとして、エリ子の遺体遺棄が湯山八重子のテキスト。額の「7」も昭和7年。これはさらに平成7年にもかかる。すると現状は。テキストにしたがえば。埋葬、発掘と展開。しかもまだ犯人は不知。石岡が気づいたことは不知。犯人に罠。怪訝な風の評人を無視し興奮の極地となった。

** 4) 夕食、車中対話、仮埋葬を提案
*** 1) 昭和の類似事件の説明、時代錯誤、ハトロン紙の誤解
龍臥亭で質素な夕食。すぐ田中に電話。午後9時、門にやってきた車中で対話。何かと田中。推玉は昭和7年の玉の井、それと気づかせるため黒い歯、幸子は同年の名古屋事件、これもそれを気づかせるため生首の筏。さらにエリ子、一男は同年、坂田山。賛美歌集でそれと気づかせようと。さらに「7」もそう。成程、驚いたと田中。今回の事件は昭和7年と11年をまねたということか。然り。でも釈然としない。昭和7年の事件が今の人たちにとどくか。然り、警察がわからなかったのも当然。だから犯人はずれてる。成程。龍臥亭事件が戦前におきたならわかる。当時の人はすぐ昭和7年も11年もきづく。

*** 2) 立案者と実施者、計画書の実在、作成時期、昭和11年から13年
然り、この計画を立案した者にとって「鳩の絵」でない。ハトロン紙。何故これがおきたか。それは計画の立案者と実行者がちがうから。実行者がテキストをみた。ハトロン紙。わからない。それは50年もたっているから。で、何時、立案。阿部定事件からさほど昔でない。この不可解さが解消。推玉と守屋には鳩の絵。幸子は無し。一貫性のなさ。たんに計画書になかったから。幸子の生首は新聞紙でつつんだのは実行者の一存。松江の首はむきだしだった。テキストの記述もむきだしの指定かも。石岡の説明を理解しかねた田中。計画書が実在。成程。ではいつ計画。戦争がはじまる昭和16年より前。で、昭和11年以降。13年。驚。睦雄の事件の年。これは連続殺人の計画書。

*** 3) 二人でミチを追尾、さらなる推理
お百度参りの時刻となった。田中に話し護衛をたのんだ。同行。鉄砲は。不所持、危険か。実例あり。不審、確実に命中できる。おどしでは。でも完全にねらってた。不審、彼女をとめられなかったか。不可。小柄の彼女の姿は命懸けのひたむきな姿。事件解決のプレッシャーをかんじた。犯人は何のためにやるのか。11年から16年の期間に一連の犯罪の実行を要求する犯罪計画書がかかれ、それを平成7年の現在、誰が入手、計画を実行して何のメリット。平成7年に現に実行してる犯人にとっては。然り。石岡は田中に反論。計画書が実在してた。ならば推玉、幸子、晴美は存在してない。成程。計画立案者は同時代の誰かを想定し てた。然り。ではどんな結論が。むづかしい。自分はまったく不得意と田中。

*** 4) 立案者、睦雄か。睦雄像の調査、計画書の現存
立案者はこの村の住人。被害者も村の住人。成程。昭和11年5月は今から59年前、当時20歳の標的なら79歳、現存、当時30歳なら89歳、これも現存の可能性。この計画書を入手した犯人は当人が現存してたら本人をねらう。然り。今回の犠牲者は睦雄事件と無関係。然り。では計画書のターゲットはすべて死亡なら。病気、老衰か。否、睦雄によって。ならば、この計画書は13年5月以前に作成。犠牲者もすべてかさなってた。じゃあ、30人。そこまでは、しかももうすこし巧妙に計画。では立案者は睦雄。でも希代の乱暴者、色魔では。それはどうか。再調査が、どんな。人柄、たとえば手記、もしかしたら計画書。

*** 5) 睦雄に関係する人物、ミチの祖母、実行者、菊子
睦雄がうちそんじた者、犬坊吉蔵、秀市。両者死亡。然り、でもミチの祖母は再確認が必要。すると睦雄は。然り、この仮説がただしいとして、あの淫靡な行為をおこなう計画書をかいた。しかし実際は実行してない。然り、計画を放棄し大量殺人に変更。成程。ミチがかえりはじめる。睦雄は計画を実行しようとしてたのかと田中。不明と率直な石岡。では最初の疑問にもどると田中。かりにこの計画を実行しようとする馬鹿者がいた。この行為は睦雄のためにならない。然り。では何のため。ミチをおいながら考える。まだわからない。エリ子、晴美、推玉、守屋は無関係、でも菊子は。70歳をこえる。睦雄と関係があるかも。菊子のこと、睦雄との関係はと石岡。未完、早急に。でもよそ者にはむづかしい。一点大事なことと石岡がのべる。

*** 6) エリ子仮埋葬の罠
エリ子を仮埋葬にしたら犯人は掘り出しにくる。この可能性は。成程。村中に法仙寺に仮埋葬と宣伝。考えこむ田中。

** 5) 朝食、中庭、ミチとの対話、仮埋葬
*** 1) ミチの実母の出生
4月12日、朝食後、ミチをさそって中庭。村のみんながいう因縁が。わかった。どんな。それはのちほど。石岡がきく。ミチの祖母。世羅きみえ。睦雄にうらまれてた。その事情は。おおく不明。世羅きみえ、当時35歳。祖父は農業、子どもは4人、3人は男、13歳、9歳、6歳、一番下が女、マイ子。事件当時は誕生日前。すると。昭和12年(1937)の暮れ誕生。この一番下。ミチの母。ミチの年齢は。昭和27年(1952あ)生まれ。すると母が15歳の時に誕生か。おかしくない。然り。当時自分は気がつかなかった。それを父は自分にかくさなかった。家には別の母。この人とは年齢が整合。ある人が指摘。整合しない。この母という人の生地に。その生涯は。特殊。どう。昭和13年に貝繁の村をすてて、京都の北、宮津に。世羅保、祖父が親戚の畳屋に。職人見習い。うまくゆかず魚屋、漁師の船に。あるいは飲み屋。祖母も子ども4人の面倒。小豆相場に。で、膨大な借金。

*** 2) 実母、睦雄の子、ミチ、ユリ子も血筋
末っ子、生みの母といわれる人が養女。借金が棒引き。では、人身売買。いろいろ。この人は一家の中で冷遇。祖父は里子にだしたがった。祖父は酒をのんであれた。祖母は何もいわなかった。で、想像した。祖父の実子か。ない。祖母もみとめてた。誰の子。睦雄。つまりミチには睦雄の血。然り。当然、ユキ子にもと石岡が考える。だから自分の業は睦雄の血のせい。成程。生みの母という人は15歳で。しらべたら中学3年の夏休みにうんだ。2年生の一学期は休みがち、卒業式には欠席。病欠。ということは妊娠中。自分の出生届は父の戸籍、それから盛岡に移住。育ての母と一家をかまえる。生みの母という人も同行。しかし居候のような存在。つまり妻妾同居。然り、父は高利貸だったらしい。

ミチが一男とエリ子の仮埋葬を。本当に。棚藤が工事中とか。誰が。育子がいった。成程と石岡。

** 6) 評人宅、睦雄像
*** 1) 睦雄のこと、伝説の怪人
評人を再訪。ききづらいと石岡。睦雄のこと。いいづらいか。否。でも自分以外のおおくがタブーとしてる。でも周知の事件では。然り、然れど。ではいえることだけ。伝説というが実事件か。然り。睦雄は凶悪、凶暴、色魔か。やや無言。道にであって家につれこみ暴行、家は庄屋、中に座敷牢など事実か。否、わらって否定。腕力がつよい怪物、あばれだしたら警察も手出しできず。否、わらって否定。それは小説の話し。30人殺害は。事実。凶暴でないか。一応。被害者の中には睦雄に乱暴された女性も。事実。では不可解なのは、それだけ勝手放題で何を逆恨み。不答。2人うちそんじ。事実。相談役という。人格者。一応。勝手放題で逆恨みの怪物か。

*** 2) 睦雄の実像、龍臥亭事件の解決
そうなら、怪物。事実でないか。然り、睦雄だけが狂人。世間がいう。しばらく沈黙。龍臥亭の事件の解決に睦雄が必要か。然り、みんなが睦雄の事件の因縁をいう。ではきく。事件の背景、村の事情などをしりたいのか。然り、必要。石岡が犯罪計画書の存在、作成時期の推測、それは昭和13年。作成者が睦雄自身。すべてを話した。評人の表情がかわった。成程、睦雄か、あり得る。

*** 3) 事件の真相、土地の淫風、育子のふしだら
一般的にもいえるが、あの事件を睦雄一人のせいにするのは酷。成程。淫風という言葉は。不知。この村の陰口。どういう意味。みだらということ。育子の不倫をはなした。それのことと評人。貝繁の村の最大の恥部。育子のこともきいてるが何か釈然としない。さらに評人。淫風は今はまったくすたれた風習。今の若い人には無縁。たちいりたくない。誤解もよぶ。自分はわりきってた。睦雄怪物説、それもよい。でも龍臥亭の事件がこの村の恥部をひきずってる。なら。白日のもとに。そして事件を解決に。そのとおり、ではケロイドは何か。折檻。どういうこと。琴の工場がある。桐の木の表面を焼き鏝でやく。これで折檻。その理由は。あまり男出入りがはげしい。村中の噂。驚。精神の病。淫風の村への先祖返り。と思う。

*** 4) 夜這いの風習、暗黙の了解
かっては夫婦者の男が夜這い、それを夫婦者の女がまってた。驚。道で気にいった女がいたら家につれこむ。否、嘘。若い男女は道をならんであるくのを禁止、映画館にいくのも禁止。恋愛禁止。恋愛結婚は法度。夜這いはこの反動とも。暗黙の了解か。では夜這いをかけられた妻の夫は文句をいうなと。否、自分は無縁にすごした。互いに了解、高度な政治的判断。どうして。山間の集落、閉鎖的人情。娯楽のすくなさ。男同士の酒飲み話しから発展かな。では妊娠も。あり得る、だから間引きをうたった手毬唄。成程。民俗学的に貴重だとか。間引きも横行か。昔は。家の口べらしではと石岡。否、それだけでない。他人の子と自覚された時。夜這いは女性には迷惑。わらって評人がいう。

*** 5) 女性からのアプローチ、夜這いでうまれた子
女性の方からのアプローチも。江戸時代から日常的。黄表紙に夫婦交換が。いわゆる浮世絵も大半は春画。日本は道徳規制はきびしい方と石岡。然り。しかし裏腹の問題。表の規制がつよすぎる。裏での解放が沸騰。村の者は口をつぐんで睦雄一人のせいにした。怪物となった。成程。龍臥亭事件の動機は、誤解からかもと評人。誤解とは。常人でない怪物ならばこその事件。ならその血筋はたちきる。一段落。石岡が沈思。ミチとユキ子のことがうかんだ。事件の核心にふれた気がした。ミチの生みの母という人は夜這いによりうまれた。世羅きみえと睦雄の子。ではこの母子をほろぼしたいと思うものがいるのではと思った。

* 11) 實録都井睦雄、生い立ち
** 1) 祖母と3人の生活
*** 1) 誕生、両親の早逝、睦雄、姉、祖母の生活
都井睦雄の実像をたどる。大正6年(1917)3月5日、岡山県苫田郡貝繁村(仮名)大字倉見に誕生。父、振一朗は明治13年(1880)2月16日生れ。農業、炭焼き。酒豪。大正2年(1913)、小田君代と結婚。当時、父は死亡、母いねは存命。君代は明治25年(1892)8月24日生れ。農地、一町三反、三反の山林の中流農家。大正3年(1914)8月14日にみさ子、同6年(1917)に睦雄。大正7年(1918)に父が肺結核で死亡。睦をは相続、母が後見人。この年、大正の米騒動が勃発。村にもおよんだが平和的なものだった。大正8年(1919)に母が死亡。死因はおそらく肺結核。睦雄の後見人は祖母。肺結核を睦雄が極度におそれる由縁。土地の者が肺結核の家を忌避する気風があった。3人のまずしい生活がはじまった。

*** 2) 祖母の地に引越し
米の暴騰がつづいたので小学校長たちが報酬の十割増の陳情書。いねを失望、学校嫌いの遠因。大正9年(1920)、貝繁村大字小中原塔中にひっこ。大正11年(1922)、ふたたび西貝繁村大字行重字貝尾にひっこし。いね出身地だった。500円という金額を倉見の山林を売却してつくった。永住するつもりだった。この家には因縁があった。睦雄事件で殺害をまぬがれた犬坊ヤエの話しである。

*** 3) 睦雄事件に類似する事件
睦雄事件より63年前、犬坊ヤエが居住してた。その当時の夫、犬坊忠次郎は同村の楢井の藤木徳蔵の妻と密通し、現場を徳蔵にとがめられた。いったんもどった忠次郎は日本刀をもって、きりこんだ。密通相手のたえを殺害、無理心中をはかろうとした。しかし失敗し徳蔵をきりつけ自分は割腹自殺した。忠次郎は22歳、事件当時の睦雄と同年齢だった。

** 2) 小学校時代
*** 1) 姉とあそぶ睦雄
姉のみさ子が小学校にあがる。大正12年(1923)、7歳の睦雄は小学校にあがった。内気だったので、村の子どもの集団にもまじらず、学校にも恐怖をかんじてた。早生まれであった。いねはもう一年家におきたがった。いねの拒否で就学延期がみとめられた。下校する姉をまって遊んだ。周囲の悪童はそれをからかった。

*** 2) 1年遅れの就学、優秀な学業、溺愛する祖母
大正13年(1924)、睦雄は入学した。自分とおなじような子どもがいるのをしり安心したらしい、普通に通学するようになった。学校の成績である。満点で10。修身が9、国語9、算数が10、図画8、唱歌8、体操8、操行中と非常に優秀だった。風邪をひきやすく72日欠席。しかしいねがささいな理由でやすませることもおおかったらしい。二年に進級、欠席減少、友だちに家にあそびにゆくようにもなった。そこでちょっとしたけがを。もどってきた睦雄をみていねが相手の家にどなりこんでおどろかれた。

** 3) 小説家の夢、挫折
*** 1) 級長になった睦雄、よろこぶ祖母
三年に進級して級長になった。任命状をいねにみせた。おおよろこびでいねば近所にみせてまわった。

*** 2) 警官を殺害、鬼熊事件、読書の楽しみ
大正15年(1926)、鬼熊事件がおきた。千葉県香取郡で荷馬車ひきの岩渕熊次郎35歳は妻子があったがおけいという水商売の女を愛人としてた。他の男に心をうつしたのにいかり、薪で撲殺し、その男の家に放火して山中ににげた。逃亡中に警官2名を殺害した。民衆の警察への反感を背景に、新聞に掲載されたインタビュー記事などで一躍有名人となった。49日間の逃亡生活ののち自殺。この事件は映画にもなった。睦雄事件後の姉みさ子の発言である。鬼熊の妻子がなしんでる写真をみていねにたずねた。説明をして「おとうがおらんでかわいそうじゃのう」というと、睦雄が「おかあがおるけぇ、わしよりええの」とこたえたという。その頃から雑誌「少年倶楽部」を愛読しだした。何より本をあいした。新刊の少年倶楽部をすぐよみおえ、姉の少女倶楽部までてをだした。

*** 3) はじめての恋文、優秀な学業
昭和2年(1927)、級長の任をとかれた。学業は優秀、動作は正確、だが機敏ならずと評されてる。頭痛持ち、校医の精密検査をうけたが何ら異常はなかった。尋常科をおえ高等科に進級した。学業は優秀、病気欠席もほとんどなくなった。級長をつとめた。ここでちょとした恋愛事件をおこした。恋文と精密な鉛筆画「孝子さんの肖像」をわたした。昭和6年(1931)、高等科の2年生、成績は、読方、歴史、地理、理科、農業が10、修身、綴り方、書方、図画、手工が9、算数、唱歌、体操が8だった。

*** 4) 評判の自作小説への波紋
夏休みがおわって親友の牧村康治にある原稿をみせた。「ユーモア探偵」と題する。私立探偵に金持ちが誘拐された娘を救出してほしいと依頼された。ドタバタ活劇がづづられ最後は「続く」とあった。面白いと牧村。クラスに回覧された。好評だった。清原武とい級友が「小学教師のなやみ」と題する原稿をみせた。牧村は本当に清原がかいたかきいた。うんという。睦雄より文学的。しかし自分でなく兄。でも睦雄は衝撃。しかしそれは石川啄木の「雲は天才である」を複写したものだった。事情はクラスで評判になったことを帰京の兄にはなしたら、複写をすすめた。睦雄は自分にたいする反発を感じた。

** 4) 祖母、姉の反対、中学校進学の断念
ある日、いねに中学校にいきたいといった。衝撃をうけたらしい。姉みさ子もはいってきた。岡山に下宿する。一人暮らしができるか。いねを一人ぼっちにさせる。金がない。担任に祖母の面倒をみるので進学できないとつげた。この年(1931)の9月18日、満州事変あ勃発した。

** 5) 地元の青年学校、飲酒
*** 1) 肋膜で療養、昭和7年の猟奇事件への関心
昭和7年(1932)、進学断念の影響が睦雄の性格に一種すねた風をもたらした。俗世間の風、この地方の淫風にながされるようになった。高等小学校業後、高熱をだし肋膜炎と診断、3カ月の静養を余儀なくされた。肋膜は結核性の病気である。はげしい衝撃をうけた。祖母、姉との会話がへって部屋にとじこもることもふえた。みさ子が部屋にはいって新聞切り抜きを発見した。昭和7年2月8日、名古屋の養鶏小屋で女性の首なし死体が発見された。もう一つは玉の井バラバラ殺人事件の経緯をほうじたものだった。もう一枚は神奈川県大磯町坂田山の心中事件だった。睦雄にただしたが要領をえなかった。それらをすてた。顔色がよくなった頃、医者にみせたら完治したといわれた。村にある補習学校にかようこととなった。

*** 2) 青年会、飲酒の悪弊、夜這いの自慢話し
これから青年会の集まりに参加し酒をのむようになった。酒席では自分らの夜這いの成果を吹聴する場でもあった。みさ子は睦雄のノートに間引きをとりあげた子守唄がしるされてるのを発見した。各地で歌いつがれていたものだが昭和の時代までのこってるのはめづらしいという。事件発生後、村の男女関係 の退廃の記事が頻出した。しかし津山署長から岡山県警察部長あての文書でつよく否定している。その根拠が恋愛結婚がわずかに一件。だから退廃はないという主張だった。また表では男女が立ち話をするのも厳禁という。要するに事実の直視をさけ、かえって不道徳な慣行を潜行、刺激してることを無視していた。

** 6) 悪友との交流、姉の結婚
*** 1) 悪友、内山との交流、秘密写真の購入
昭和8年(1933)、三原山の噴火口に自殺者があいついだ。睦雄は同郷、貝繁五郷出身の内山寿という小悪党と遭遇してる。昭和16年(1941)に窃盗で浅草署に逮捕され、その供述から判明したことである。睦雄と同じ高等小学校卒業後、川崎の鉄工所に勤務。仕事をやめ、やがて浅草の不良仲間と交流。警察の目をさけ昭和8年(1933)に帰郷。睦雄と映画館の席で隣り合わう。帰りの列車内で再会。会話。まったくはずまない会話に内山が浅草で飯の種にしてた女の裸の写真をみせた。意外にくいつく。家にさそって写真を売りつけた。その後も親交があった。内山は大阪を転々、やがて天六の娼婦街にながれついた。

*** 2) 姉、みさ子の結婚、専門学校資格試験の受験勉強
昭和9年(1934)3月、みさ子の結婚式に列席。また自室にとじこもる。ふたたび作家への道をこころざしたようだ。「雄図海王丸」がひとつだけがのこっている。子どもたちにかたってきかせた。内向的な人柄だったが子どもたちにやさしかった。青年学校の教師である中田昭一が睦雄に話しをきいた。専門学校入学資格検定試験制度を説明した。これは中学卒業と同等のものだった。難関だが一教科ごとに合格、つみあげることができる。2、3年で合格すると漏らした。

** 7) 内山と再会、最初の女性
昭和10年(1935)6月、内山と再会した。今どうしてると睦雄。大阪。何をかった。参考書、専検の問題集。成程、合格後は。先生。女の話しがでた。内山は大阪の女性を紹介するといった。2日後、大阪の天神橋筋の裏町で最初の経験をした。

** 8) 肋膜の再発、専検の断念、小説家の夢
*** 1) 肋膜の再発
昭和10年(1935)、内山が大阪にもどるため貝繁駅にいった。そこで睦雄にあった。顔色があおい。元気か。病気、肋膜が再発。で、診断は。軽症、静養。成程。回復したら大阪にこい。元気がない。睦雄は結核で若死にした両親を思いだし、恐怖してた。

*** 2) 2・26事件、受験断念、「雄図海王丸」、小説家志望
昭和11年(1936)2月26日、青年将校、野中四郎大尉が400名の兵をひきいて永田町を占拠。2・26事件。屋根裏部屋で雄図海王丸の執筆を再開。また子どもたちをあつめ物語も再開。専検の受験をあきらめ小説執筆をはじめた。物語をきいてた子どもから、作中の立花が野中大尉とにてるといった。睦雄は立花は天皇陛下のために世界を相手にたたかってる。野中大尉はその足元にもおよばないといった。5月18日、阿部定事件がおきた。睦雄は猟奇趣味があった。2・26事件には無関心っだったが、これには猛烈な興味をしめした。以下は内山の証言。

*** 3) 阿部定事件
阿部定事件の直後に睦雄と再会。4月8日に姫路、新見間の開通をいわって津山で産業博覧会。会場でであった。女が男をもとめるものとしらなかった。淫売は別。普通の女は。ちがう。それも経験者のほうがよい。睦雄は納得したようだ。

** 9) 地元青年と交流、夜這い自慢、阿部定の記録
16歳で実業学校にゆくようになった。それにつれて青年会の若者と交流する。そこで泥酔するときまって自慢話。とくとくとして夜這いの成果。最初、話しをきくだけの睦雄も女性をしり、自分も参加するようになった。その実情は。例によって内山の証言。昭和12年(1937)1月に睦雄が大阪西成の松寿荘に。内山がきく。成果は。うまくいかん。阿部定の事件調書は。みる。これは予審廷調書を研究者が閲覧。ひそかに民間に流出。本物。いくらと睦雄。たかい、50円。買う。だがこれは売却済み。筆写。する。10円で成立。睦雄は一晩をかけうつした。主要部分のみ。全部は無理だった。

* 12) 實録都井睦雄、惨劇まで
** 1) 最初の夜這い、世羅きみえ
これからは睦雄の性的冒険譚、夜這いの話し。まず世羅きみえ、33歳、青年会の集まりでよくでた。小柄、色白、肉付きよく、人ずきのする顔、すこし知能がおくれたところがあり、ちょっとした物をかすめる盗癖も。村で農業をいとなむ夫、世羅保との間に3人の子どもがいた。世羅きみえは昭和11年(1936)、春に電気代の集金にきた。畳の上によこたわってる睦雄に声。睦雄の結核性肋膜炎のことは村人にはしられてなかった。恋情をうちあけ、50銭をわたした。子どもづれ。でなおすという。心配になったので世羅きみえについていく。納屋で思いをとげた。これで自信をえたのか、人がかわったように娘たちに攻勢をかけた。しかしすべて失敗だった。

その反動から世羅きみえと関係が。それは常に金品のやりとりがからむ。味気なさをかんじた。また行為中、我慢できず、子どもができるとこっぴどくしかられたことも。ほかの女性と関係をもとめる気持がつのり、ついに犯罪行為にちかづく。

** 2) 徴兵検査の不合格、及川とよ
昭和12年(1937)5月。役場の書記兵事係の西川昇に自分は肺病とつげた。兵役適齢届の時に肺病を自己申告する者はまずいない。びっくりした。津山市の津山男子尋常小学校で徴兵検査。丙種合格。衝撃をうけ泣きくずれた。その後、2、3日はずうと家にひきこもった。また症状がすすんで不眠になやまされる。夜、及川辰男の家にいった。樵として山にはいれば何日も家にもどらない。辰男は50歳、妻とよは30歳。戸口で男がでてくるのをまった。やがて犬坊吉蔵がでてきた。犬坊吉蔵は資産家、金貸しもやってた。返済を督促して女性としばしば関係をもった。何日かあとに、夫の不在をしって家をおとづれた。いやがるとよに吉蔵との関係を暴露するとおどして関係をもった。睦雄は不眠で夜歩きをする。その目的が他人の家の覗き見となった。

** 3) 結核療養の挫折、金品のエサ
*** 1) 療養所入所の資金調達、反対で断念
結核の療養に全力をあげた。当時もっともすぐれた啓蒙の書。探偵作家、酒井不木の闘病記を熱心によんだ。郵便配達員をおどろかせるほど、多種類の薬を郵送。岡山農工銀行にゆき400円をかりた。蓄牛目的といったが結核治療。療養所入りを。祖母、姉が反対。孤独ないねを放置か。断念。その代替か、バター、ミルク、バナナの贅沢品を購入。自分もたべ、世羅きみえにも。そうすると睦雄にちかずいてくる女。

*** 2) 吉田かね、金井貞子、犬坊トミと関係
まず吉田かね。42歳。夫は吉田修一、50歳。子どもには芳子、21歳。美貌だったがすでに友田良治にとついでた。かねがやってくる。食べ物のはなし。奧にさそう。ハム一本をやるといって関係をもった。次は金井貞子だった。50歳の未亡人だった。勝雄、綾子、勝裕、康夫の4人兄弟がいた。金品をあたえ関係をもった。犬坊トミ、45歳もそうだった。息子に米一という息子がいる。金品をあたえ関係をもった。トミは犬坊吉蔵とも関係があった。

*** 3) 若い女性に失敗、トラブル
こうして昭和12年(1937)は比較的気分よくすごせた。彼が夢想するエロスの世界が出現したようだ。でもながくはつづかない。6月のはじめ吉田かねが家の前をとおった時、さそった。行為におよぼうとしたら拒否、激昂。いねに暴露すると反撃。平謝りにあやまった。これですこしはこりたか。否。三井由美子、21歳に夜這い。成功。若い娘と関係をもちたいというのが本心。金井綾子には執心。にげられた。かなり悔しい思いがのこった。7月の末である。

*** 4) 猟銃の購入、猟銃を肩に闊歩
津山市二階町の片山銃砲店で二連発の猟銃を75円で購入した。猟期にはいった10月27日、津山警察署の乙種猟銃免許をえてる。その際、健康回復の時にはただちに兵隊に志願する。その間も銃の錬磨につとめるなどと説明した。村にもどると猟銃を肩に村中をねりあるいた。

** 4) 睦雄周囲の非難
*** 1) 肺病病みの非難、危険人物への転落
昭和13年(1938)正月。夕方、及川辰男が自分の家で睦雄ととよが行為中を目撃。肺病病みと非難。裸足でにげだした睦雄は、夕方、辰男の家に猟銃をもってのりこんだ。興奮した辰男はまた肺病病みと罵倒。とよが睦雄をとめ、さらにいねがかけつけてとめた。睦雄は肺病病みといわれ、徴兵検査におちたことをいわれ悔し泣き。これで睦雄がかって神童、その後も一応の人物という評価が、病気持ちの危険人物に転落。この噂はたちまち村中にひろがった。

*** 2) 保身にはしる女たち、非難の声
吉田かねも、世羅きみえも、犬坊トミも、保身にはしった。しいられた被害者の立場ににげた。悪いことに睦雄の病状はこの頃から悪化。ある日、喀血、失神。医者にいく。薬をだす。きれたらまたこい。冷たい。不思議なことに性欲ばかりがたかまった。一面雪の畑で金井貞子にいどむ。きびしく拒否。関係があった女たちが、せまられ、はねつけたと、いいふらす。夜、目がさえて寝床におきあがった。世羅きみえと犬坊トミが特にゆるせない。二人は自分を拒否するくせに犬坊吉蔵との関係はつづく。考えると涙がでる。きずかれないように外にでた。金井綾子が気になった。

*** 3) 若い女性に狙い、失敗、成功、非難
村に鍵をかける習慣がない。夜這いに成功のチャンス。近所の犬坊正雄の4女菊子、22歳、丹野未千代、21歳、その母親、丹野トキ、47歳と関係をもった。女たちは当然関係をつよく否定。丹野トキには祐一、28歳がいた。昭和13年(1938)1月に菊子と結婚。睦雄との関係をきらいその3月に離縁。女にさんざん悪口をいわれたが特に菊子には怨念。今夜の目的は綾子である。金井の家にしのびこみ、寝床にはいった。貞子。さわがれ肺病病みと罵倒、さらに綾子の前で恥辱。数日後、吉田かねがよってきた。声。嫌味の交換から肺病病みと、最後は殺す、やれとの売り言葉に買い言葉。にげだすかねをおってはしったが、5メートルで立ちどまった。苦しくてすすめなかった。そして堅く心にちかった。このままにはしておかない。

** 5) 毒殺騒ぎ、所持武器の領置
*** 1) 祖母が親戚に相談、毒殺騒ぎ
遠い親戚の犬坊丸一のところ。いねがとめてくれ。丸一が翌日になってもかえらないいねに。どうした。睦雄が毒をのます。どうしてわかる。臭いで。何時。10日ほど前。医者からもらった薬。すすめる。臭いがひどい。中止。しきりにすすめる。ことわる。昨夜、味噌汁に薬。いれてたか。おそろしくなり逃げてきた。では睦雄にたしかめると丸一

*** 2) 役場で親戚相談、世羅の文句、半鐘撤去、警察隊への攻撃
翌朝役場の西川昇に相談。そこに世羅保。睦雄の文句。妻のきみえのこと。夜這い騒ぎのこと。さらに大事件をおこす。すると人をあつめるため半鐘がなる。それで半鐘をはずす。誰がと西川。きみえ。睦雄は警察隊、消防隊がやってくる。第一陣地、第二陣地をつくる。待ち伏せ。鉄砲で狙撃。どんどん殺す。西川が駐在所に連絡。

*** 3) 警察の立入調査、猟銃など領置
今田巡査が津山警察署に連絡。警部補、巡査二人。いねが急変。孫と喧嘩、薬はわかもと。睦雄の態度は。丁寧、狂人とは思えない。しかし本人の承諾のうえ、調査。猟銃3挺、日本刀ひと振り、短刀ひと口、猛獣用実包81発、三段実包311発、雷管つき薬莢111個、雷管121個、火薬50匁などが発見。これは領置。さらに身体検査。短刀1本を携帯。あわせ領置。猟銃免許の提出は拒否。結局そのまま。さらに駐在所まで連行、説諭。涙ながらに反省。親戚の犬坊俊に身柄をひきわたし。以後、たびたび今田巡査は都井家にでむくようになった。

** 6) 甘え、逆恨み、殺人計画書
*** 1) 女性への甘え
睦雄は世羅きみえとも諍い。スキャンダルが公然の秘密となった以上、保身のため女たちは事実を否定し、あるいは被害者の立場ににげ、さらに肺病病み、徴兵不合格、嘘つきと睦雄を非難。それを機会あるごとにいいふらす。このような心理を睦雄は理解できなかった。また女性への依存心がつよい。自分の母のようにやさしくつつみこんでくれることを期待する。睦雄には極限までおいつめられた女性の心理を理解する余裕はない。さらにいまだにかっての優等生のイメージがいきていると能天気に心得てた。

*** 2) きみえとの諍い、殺人計画の妄想
道できみえにあった。五円の札をひらひらさせながら大声。当然、にげられた。昼間、公然と男女が口をきく。ふしだらというのが建前。当然の反応。なおもおいすがる睦雄に口ぎたなくののしった。茫然としたが、やがて、きみえも、かねも、貞子も、トミも、未千代も、トキも、菊子も、みな殺してやる。さらに警察隊、消防隊がおしよせても攻撃陣地をつくってたたかう。戦闘の勉強もやってる。自決するまで絶対に死なない。という。睦雄は雄図海王丸は脱稿してた。これは時局に迎合したものだが、自分のために小説もかいてた。殺人計画書ともいえるおぞましいものである。

*** 3) 昭和7年の天誅
この犯行計画は昭和7年の天誅をもちこもうとするもの。昭和7年の皇国に連続した異様な殺人事件は、ぼくのみるとろ日本国と日本人への天誅である。これらはすべていやらしいセックスがからんでる。玉の井バラバラ殺人事件も千葉竜太郎と犯人、長谷川の妹との間にセックスの関係がある。みんなセックス、セックスで堕落してる。この堕落は貝繁の村にいちじるしい。昭和7年の一連の猟奇事件がこの村におきてたらどうなるか、考える。東京、名古屋では事件以降、沈静化したという。ならば警鐘として効果があったわけだ。この村にも同じ事件を考える。

自分が神のように天誅をくだそうとするが、残念ながら個人的恨みを動機の中にふくめねばならない。恨みに思う者をつよい順からならべる。吉田かね、世羅きみえ、金井貞子、犬坊トミである。トミは吉田かねの娘、芳子、犬坊菊子の結婚式に媒酌人をつとめて、善人ぶりを演出してる。つづいて及川辰男である。

辰男の妻、とよ、菊子、綾子、芳子も陰でさんざん自分の悪口をたたいてる。とよは犬坊吉蔵と関係ももってることに口をぬぐって自分を色情狂とののしってる。さらに犬坊吉蔵である。おおくの女と関係をもってる。しかし夫は金貸しの力をおそれだまってるが金のない自分には悪口雑言をなげかける。それから身内ながら、無教養ないねだ。その事勿れ主義は田舎者の典型だ。道でであっても男女はくちをきかない。表面上をとりつくろって堕落しているこのは村は地上からきえたほうがよい。では、計画である。

*** 4) 名古屋の事件、世羅きみえと及川辰男
世羅きみえと及川辰男を駆け落ちさせる。まず辰男を殺害、樵で山中にはいった時をねらう。死体をこのところ射撃の練習をしてる仙人山にひきづっていって、松の木のところで首吊り自殺にみせる。銃弾を消費するのは無駄。絞殺。きみえは猟銃で殺害。自分の家の納屋で首と胴体を切断。両方の乳房、女性器をきりとる。両方の目、耳をきりとる。また頭皮ごと頭髪をはぎとる。それらを油紙にくるんで辰男の死体につける。名古屋の事件と同じ体裁。辰男の額に「7」。これは昭和7年の再来ときづかせるため。きみえの胴体は服をきせ犬坊俊の鶏小屋にほうりこむ。頭の額には「7」、葦川にすてる。目的をわからせるために、さらに筏をつくり、そこにのせる。

*** 5) 坂田山心中、 吉田かねと犬坊吉蔵
吉田かねと犬坊吉蔵だ。二人とも警戒心、銃で心中させるが、まず一人を至近距離で胸を銃撃、硝煙反応をのこし「心中の1」、殺される側。次に、もう一人を銃撃、これを「心中2」、殺害する側。心中2が女性でもかまわない。心中2の指紋を銃身にのこすこと、これは引き金は足指でひく。両手は胸にあてがった銃身をしっかりにぎってるはず。そして銃は発射の反動で死体と反対側にとんでるはず。死体は二体とも荒坂峠にのこす。両方の額に「7」。自殺につかった銃、北原白秋の詩集、雑誌「青い鳥」、ジャン・コクトーの詩集、賛美歌集に羽仁もと子の著書「みどり子の心」、枕元にヘリオトロープの花をのこす。大磯の坂田山心中の見立て。銃は三挺所持、ここで一挺つかう。死体が発見されたら検屍後、埋葬。そこでかねの死体だけ発掘。裸にして水辺におく。これで昭和7年の神の警鐘であることに気づくだろう。おそらく法仙寺に埋葬されるので坂田山心中の法善寺とよく照合する。裸にしたかねは及川の家の黒池あたりにうすく埋葬するのがよい。

*** 6) 玉の井バラバラ殺人事件、金井貞子
次に金井貞子だ。射殺。首と、両手、両足の6つの部分にわける。ハトロン紙につつんで紐でしばり、水にすてる。ここは「おはぐろどぶ」に暗合させたい。玉の井バラバラ殺人事件に見立て。貞子の歯を黒くぬる。額に「7」。

*** 7) 阿部定事件、丹野祐一、犬坊トミ
神の天誅なら昭和11年の阿部定事件をはずせない。丹野祐一と犬坊トミである。祐一は菊子との結婚を3カ月で解消し自分の悪口をさんざんいいふらしてる。トミは額をうって殺害、硝煙反応をのこす。しかし着衣の不整合をさけるため額がよい。トミ の足の指紋は引き金にのこす。銃身には手の指紋。祐一をころして男性器を切りとる。すべてトミの意志でやったとみせる必要がある。死体の前方にもう一つの銃をのこす。トミが愛人祐一をうち、その後に自分の額をうって自殺したとの体裁。祐一の方だ。下着までぬがせ、男性器を切りとりハトロン紙につつむ。太腿に「トミ、祐一二人きり」と傷をつける。上着とズボンをはかせ待合に放置するが、貝繁にない。どこでもよい。それからトミを裸にし、祐一の肌シャツとパンツをはかせる。その上にトミの着衣をきせ懐にハトロン紙にくるんだ男性器をねじこむ。額には「7」。トミには書けないから顔。トミの死体発見場所は、警察の留置場か刑務所に、でもどこでも。

*** 8) 睦雄の思い、「7」の象徴、解けるか天誅の謎
世羅きみえ、及川辰男、 吉田かね、犬坊吉蔵、金井貞子、犬坊トミ、丹野祐一、合計7人、「7」に見事に対応。昭和7年を想起させる。この計画を謎が気づくか。ぼくの犯行。その秘匿が一応の目的。からくりに気づく者無し。3組の心中事件と警察が処理。ならばそれでよし。ぼくは一人静かに自決。警察との戦争もしない。金井貞子は心中でない。これは死者の誰かの犯行と警察がいう。ならばぼくは沈黙。犯人が特定できない神秘的犯罪。それこそ天誅。馬鹿な村人をおびえさす。更生の効果大。でもそんなことあるか。期待しない。早晩ばれる。猟銃をもったぼくの姿。目撃者。7人との深い関係。村人がさわぎだす。ぼくがうじうじと隠してると思うか。しばらくの沈黙はぼくの贈り物。知恵だめし。警察、新聞社、村の連中。自分の頭でといてくれ。ぼくが犯人など、どうでもよい。裏の謎、天誅をといてくれ。

*** 9) 華々しく犯行声明
なら、いい頃合いに犯行声明。裏の謎は不知のまま犯人と指摘。つかまるのは御免。新聞社に声明と理由を送付。これで阿部定以上の大事件、いねが級長で近所にふれまわったように。自分の名前が歴史に。で、無事に。すむはずない。だから自決。勇気があるな。でもこちらも肺病という事情。数年の命。父や母のように。死期がみえたら愉快事を決行。ゆっくりできるか。否。病気が進行。元気がうせる。最後にお国のために。というわけ。ここの死も戦場の死も一緒。自分は優等生。人に感心されて死ぬ。

*** 10) 警察・消防隊との対決、新聞に登場の有名人
犯行声明は夕刊。津山から警察隊。夜。だから電灯線を切断。電話線も切断。警察のトラックは一本道。貝繁の村にまがる大曲に待受。速度をおとしたトラック。陣地から射撃。練習は。月明かりの松林で充分。連発式に改造。なら皆殺し間違い無し。新聞に鬼熊より有名人。警察隊はおわり。消防隊。どうする。全滅したトラックよりもっと津山よりに停車。想定済み。ちかくに第二の陣地を構築、まずタイヤを。ちょっと気の毒、だが皆殺し。二箇小隊を全滅。本になる。活動写真になる。で、あとは。

*** 11) 悠々の自決、世直し効果
悠々と仙人山。誰も逮捕しない。鬼熊みたいな往生際。逃げまわるものか。どのみちつかまる。逃げおおせても結核。この村の連中のくだらなさを書きおき。銃で自決。おおくの日本人がこの村をしる。自分がつたえようとした意図がわかるだろう。吉蔵が死んだ。もうおおぴらに夜這いをする人間がいなくなる。よくなる。自分の死も無駄であるまい。

** 7) 武器調達の奔走
*** 1) 村の金貸しから調達資金、射撃訓練、警察の武器領置
昭和13年(1938)正月、睦雄は貝繁の村の金貸し、岡江吾一を訪問。1000円の借金を申し込む。家屋敷、田畑を抵当。結核療養所にはいる。いねをそのちかくにすまわせるといった。2月に600円をかりた。睦雄は警察隊、消防隊との戦いを決意した。銃弾をダムダム弾に改造。猟銃の携行をやめ、夜ひそかに仙人山にはいり松の木を的に狙撃の練習に熱中した。やがて村人の気づくところとなり不審がられた。これは警察の手入れにより武器類は領置、免状もとりあげられた。免状がないのでおおぴらに武器類の調達は困難となった。

*** 2) 友人をかいした武器調達
殺人計画書にある二挺の銃を死体のかたわらにおく。困難となった。警察の手入れがあった直後、3月13日、夕方、猟師、今寺剛をたずねた。10円をだし、今寺の免状で雷管つきケース100個、無縁火薬100匁の購入をたのんだ。今寺は津山市の片山銃砲店で購入した。5円は今寺の取り分となった。猟銃は大阪でなんとか調達するつもりだった。歯科医、伊藤光蔵に患者としてちかづき、親戚の軍人の昇進祝いに必要と日本刀、一振りを調達。4月、内山を大阪の高級ホテルによびだし、饗応し、匕首を調達。武器の調達に苦労しながら、心境に変化があった。警察隊や消防隊との対決はすてた。4月24日、大阪市西区京町通りの栗谷商店でアイデアル実弾100発、ケース保管器1個を調達したようだ。同25日大阪市内本町の鷲見(すみ)銃砲火薬店で中古ブローニング12番口径5連発猟銃1挺、ポンプ式詰め替え器1個、銃サック1挺分、手入れ用の油1缶を調達した。睦雄が実際に事件で使用したのは、この5連発を9連発に改造したものと思われる。

** 8) 世羅きみえの逃亡、事件の事前準備
*** 1) 世羅きみえの逃亡、停電工作
昭和13年5月15日の夕方、西川昇が帰宅、妻がえらいこと。何。 吉田かねが、世羅きみえの家族が村をでた、という。全員か。然り、家財一式をもって。どこえ。京都。何故。ここにいたら殺される。誰に。睦雄。まさか、取り越し苦労。心配する妻を無視。西川が思いだす。世羅きみえが役場に戸籍謄本と身分証明書を。わたすと秘密にするよう懇願した。

*** 2) 凶行行現場と役場の距離の確認
事件は5月20日の深夜、午前1時と推定される。さて、20日のこと。睦雄が自転車で畑の中の道、山の中の道を何度も往復。これが目撃されてた。これは凶行現場と役場の時間的距離をはかってたと推測できる。さらに夕方、睦雄は電灯線を切断したらしい。夜になって停電に気づいた犬坊俊が睦雄に自転車用のナショナルランプをかりた。電柱にのぼったが、原因不明。下の睦雄にきいた。わからないという。貝繁水力電気株式会社の技官が8号と6号柱の貝繁にむかう電線が巧妙に切断と報告されてる。天候は午前零時から雨模様、雲、時おり月が顔をだす。

* 13) 実録都井睦雄、惨劇
** 1) いね、貞子、かねなど
*** 1) 事件勃発の報せ
昭和13年5月21日午前2時40分、貝繁の駐在所の扉をたたく音。丹野祐一ががたがた震えながらいう。母、トキが殺害。誰に。睦雄。本当か、詳細は。妻と二人で就寝、 養蚕室に乱入。銃撃、死亡と。それで逃走。銃声が何発もひびく。今田巡査は県警と隣村の駐在に電話連絡。トキは医師、万袋がよばれたが6時間後に死亡。

*** 2) 祖母、いねの殺害
睦雄は、いねと足をむかいあって就寝してた が、午前1時起床と推定。屋根裏部屋の茶箱の中にかくしてた用意の品をとりだし身支度。詰襟の洋服の上下、両足下部にゲートル。地下足袋。頭に手拭いの鉢巻、ここに2本の懐中電灯、下部をてらすため自転車用箱型前照灯を首からさげる。ぶらぶらしないよう別の紐で胸に固定。薬莢いり雑嚢の左肩から右脇。その上から紐を腰にまく。さらに皮のベルト。そこに日本刀と匕首2本。当時としてはすぐれた装備。軍国精神教育、軍事教練が役だった。9連発に改造したブローニング銃をもって梯子をおりた。いねである。

自分の死後を考え、斧で首を切断。涙がでた。自分がよわい人間であることを自覚。よわいからいじめられる。いじめた人間はそのことを反省しない。自分の事件をしった後も反省無し。田舎者のいやらしさ。傲慢さ。生まれかわったらもっと強い人間になる。石垣をとびおりた。

*** 3) 金井貞子の殺害
北側の金井貞子の家。戸主は長男の勝雄、呉海兵団に入団中、在宅は貞子、勝裕、康夫。綾子は犬坊千代吉の家に。土間、台所、六畳の部屋。日本刀で貞子の頚右側に、左側の胸にも。覚醒した勝裕の頚部をきる。1歳の康夫もきる。次は 吉田かねの家。

*** 4) 吉田かねの殺害
かね、修一、芳子、かねの妹、智子が在宅のはず。芳子、智子がかねの看病のため帰宅。この日決行の理由となった。とっつきの四畳の間にねてるかねを銃撃。障子一枚隣りに修一、芳子、智子が炬燵に足をつっこむ形でねてた。修一を銃撃、つづいて女二人を銃撃。銃の音がなりひびく。

*** 5) 貞子の娘の殺害
だらだら坂をのぼる。金井の家に。戸主の金井高次、妻、千恵子、高次の母、やす、やすの外孫、犬山丈夫が在宅。殺戮の対象にえらんだのは千恵子が 吉田かねの娘だから。土間、台所、奧の六畳の間に。高次と千恵子がひとつ布団。高次、次に千恵子を銃撃。隣室にはいると丈夫が誰。睦雄。胸を銃撃。おどろくやすを銃撃、しかし奇跡的に生存。

** 2) 菊子の逃走、由利子の負傷、トミの殺害、祐一の逃走
*** 1) 菊子の逃亡
次に犬坊正雄の家。正雄、貞夫、定子、菊子、なみ、としが在宅。菊子の在宅が対象とした理由。菊子と睦雄は関係があったが、丹野祐一と結婚、しかしすぐ離婚。5月に守村石男と再婚。たまたま実家に帰宅。家族は異変に気づいた。台所で正雄と鉢合わせ。銃撃即死。貞夫は窓から逃走、連続銃撃。定子は隣りに逃走。そこにいたなみ、としが雨戸をあけ逃走へ、背中を銃撃、定子は廊下を逃走、銃撃。この間に菊子は運よく土間から表に逃走。犬坊茂一宅に。雨戸を必死でたたくと別の戸があいて中に。睦雄もはげしく雨戸をたたく。茂一の父、高一郎が雨戸から顔をのぞかせたところを銃撃、即死。息子、信二を犬坊元の家にはしらす。睦雄は信二をつかまえ脅迫してる様子。茂一がたしかめると一人芝居。木戸をおさえてる由利子が銃弾をうけ太腿に創傷。睦雄が菊子殺害を断念、立ち去る。次の目標は犬坊トミ。

*** 2) 犬坊トミの殺害
トミは息子、米一と二人暮らし。犬坊茂一宅の北西。土間から板の間、とっつきの四畳の間。米一を銃撃、死亡。奧の間のトミも銃撃、死亡。

南隣の犬坊千代吉宅へ。養蚕手伝いにきてる、金井貞子の長女、綾子、丹野祐一の妹、未千代が在宅。さらに戸主、千代吉、妻、ヤエ、長男、富市、内妻のタマ、富市の息子、香次、その妻のキクも。銃声で母屋の5人が覚醒。しかし睦雄は不在を事前にしってた。 養蚕室に乱入。三人を銃撃、死亡。母屋に乱入。言葉をかわすが退去。

*** 3) 丹野トキの殺害、祐一の逃走
丹野宅へ。すぐ養蚕室にむかう。たまたま保温用の炉をしらべにきたところを襲撃、即死。祐一は銃声におどろき逃走、駐在所に通報。

** 3) 仕上げ、自決
*** 1) きみえの兄、修二の逃亡
次は今村宅に。葦川の土橋をわたる。戸主、修二は睦雄とは無関係、ところが、世羅きみえの兄。京都に逃亡したので代替として対象となった。家には修二のほかに、妻、満、父、安市、母、トシ、修二、満の子ども、弘、昭治、忠、明がいた。ただし弘は伊勢神宮に修学旅行中。ここで世羅きみえについて補足が必要、きみえの兄、修二は安市、トシの息子だったが、きみえは、トシのうんだ子だが、私生児。この環境はきみえの性格形成に関係したろう。

修二は騒々しい気配に雨戸から外をのぞいた。三つ目の怪人がせまってくる。驚愕し家人を裏に誘導し雨戸をあけ、自分はひたすら逃走した。悲鳴をあげる女たちにむかった睦雄は、満とだいていた明に発砲。即死。外にでて、表の木戸から再侵入、トシを射殺、安市に発砲、死亡。昭二、忠の姿もみとめたが、発砲しなかった。きみえのような自堕落な女をうんだ母や、育てた父、兄には連帯責任があると考えたのだろう。

役場の兵事係兼戸籍係の西川昇は今村宅の騒動にすぐ気がついた。家人を床下にかくした。睦雄は犬坊吉蔵宅にむかった。

*** 2) 犬坊吉蔵の殺害に失敗
川にもどり、そこから犬坊宅につうじる急坂をのぼっていった。犬坊吉蔵はその抹殺にもっも闘志をもやした。金貸しの代償として醜悪な不倫をつづける。それでいながら誰もそのことをとがめない。自分が殺す以外にない。それが世直しと位置づけていた。吉蔵のほかに、妻のよし、長男の秀市がいる。秀市は村の消防団の部長、村の青少年の指導者の一人。雨戸からのぞいてたよしがいった。二つ目がくる。睦雄が吉蔵とさけんだ。銃弾がとんできた。よしが太腿に負傷。吉蔵と協力して雨戸をしめた。また銃弾がよしの右腕を貫通。吉蔵は二階にのがれ窓をあけ、大声でたすけをもとめた。睦雄が二階にむかって発砲。沈黙がつづいた。睦雄は立ち去った。吉蔵はたすかり、よしは死亡。次に村はずれにある及川宅にむかった。

*** 3) 及川とよの殺害、樽元との対話
どうしたことか戸はしまってなかった。奧の間にねてた辰男が用心でおいてた空気銃を手にとった。睦雄が発砲し辰男は即死。にげるとよをおって廊下で発砲。たおした。これで一応計画は完了。午前3時だった。北にむかう睦雄が樽元家の庭先にあらわれた。そこには祖父の樽元市松と樽元純夫がいた。純夫から鉛筆と雑記帳をもらうと、しずかに表にでていった。警察隊と消防隊がおいかけてきた。睦雄は荒坂峠から仙人山の頂上をめざした。頂上の平地にすわりこんだ。やすんだ。やっと遺書をかく気になった。睦雄はすでに遺書2通を家にのこしている。あらためて書きおきますとはじめた。

*** 4) 睦雄の書きおき
いねにはすまないことをした。姉にもすまないとあやまった。墓は不要。病気4年間、社会の冷淡と圧迫に泣いた。結核患者は同情されるべきと思う。実際、弱いのにはこりた。こんどは強い人にうまれる。不幸な人生だった。今度は幸福にうまれてこよう。銃口を心臓にあて両手で銃身をにぎり右足の親指を引き金にかけた。足をのばして発射した。警察隊、消防隊は午前10時半、死体を発見した。

*** 5) 生きのびた人びと、犬坊由利子、守村菊子
銃弾をうけながら、金井やす、犬坊由利子がたすかった。はっきり計画の対象となりながら、守村菊子は現場から逃亡しぼぼ無傷だった。世羅きみえは事前に京都に難をさけて、たすかった。事後譚である。やすは高齢でまももなく死亡。世羅きみえのことは既に紹介した。菊子は守村に嫁したが、応召した夫は戦死、その後、犬坊吉蔵の息子秀市に嫁した。秀市は趣味人として生きる。琴の職人として有名となった樽元純夫をよんだ。やがて中国地方の琴にたづさわる人びとに龍臥亭がしられることとなった。犬坊由利子は武田貢に嫁したが、夫は応召し戦死。由利子は棚藤の農家で一人娘とともにわずかな農地をまもり未亡人をとおした。睦雄の姉、川島みさ子は昭和40年(1965)、死亡。生前、由利子と交流があったようだ。由利子は昭和52年(1977)、死亡した。

* 14) 4月12日、ミチ母子の救助、4月13日、謎解き
** 1) 評人宅、葦川ぞい、龍臥亭、中庭、竜の彫像
*** 1) ミチ母子をねらう人物
評人宅を辞去。事件を原点から考えた。葦川にそってあるいた。猟奇事件。事件の背骨が見えた。現実の謎。五里霧中。事件の原点は。幸子の射殺。「むかで足の間」の晴美、エリ子。考えて時々貧血、めまい。龍臥亭の門の前。敷地の中。アヒルの小屋。中庭の手前。ミチは睦雄の血。娘のユキ子。世羅きみえの血。睦雄の血をたやすと決意した人間がいたら。母子をねらう。現実の殺人は。でも二人の殺害状況は同じ。事故では。真のねらいは母子。犯人の失敗。これでまず真相の入口に。

*** 2) 狙撃の方法
では、弾はどこから。石段をのぼる。庭の芝生。もう夕暮れ。方法は不明。正面に四分板の間。菊子は当時22歳 、睦雄とは肉体関係。親戚が殺害される中。九死に一生。逃げこんだ茂一宅で、高一郎が射殺、由利子が負傷。強い恐怖と怒り。夫、秀市が死亡、自分の余命も見えた。動機は充分。だがほぼ失明、動きも不如意。どうして。母子はむかで足の間、自分は四分板の間。直接の銃撃。不可能。石段にもどる。もう一人の被害者。龍尾館の幸子。四分板の間と龍尾館三階はまっすぐ見わたせる。狙撃できる。すべての硝子窓が閉鎖。あり得ない。それにうったら。坂出がべっ甲の間の前。気づく。石段をおりむかで足の間の前、廊下。

*** 3) 竜の彫像のヒント
声をかけた。無人。とっつきの二畳の間、仏壇の前。左。石垣と竜。板戸をしめる。仏壇前に正座。欄間。視線を板戸。上部の隙間から竜。板戸の上部に竜の装飾。隙間。この隙間から竜の彫像。一直線上。最初板戸ごしに竜の彫像がみえてた。「リュウコワセ、ミタライ」。天啓がはしった。茫然と竜をみながら石段をのぼった。夕陽の光が竜の腹に、さらに石岡の目を射た。晴美、エリ子、推玉の死の理由がわかった。石段からころげおちた。

** 2) 外科医院、帰室、地震、中庭
*** 1) 菊子犯行の確信
犬坊外科医院の診察室で2時間が経過。腕を骨折。事件を考える。骨折の痛みと同時に犯行方法がひらめいた。まだ実証を要するが。犯人は菊子。でも疑問、犯行の方法、死後も母子がねらわれてる。理由は。さらに死体遺棄事件は。菊子は事件の「1/5」か「1/4」。医師の許可。左手にギブスをして龍臥亭に。部屋にたおれこむ。

*** 2) 地震の発生、家人、宿泊客の消滅
眠りから。異様な音。地震だった。水の音、ひそやかな筧の音とちがう。ちょっと様子がちがった。廊下にでた。霧の中の満月。水の音がおおきくなり、廊下がゆらゆらとしてる。照明がきえてる。異様さの原因。坂出をたずねた。不在。二子山親子も。むかで足の間までくだった。さらさらと得体のしれない水音。無人。龍尾館の明かりもきえてる。中に。無人。階段にでた。二階に。里美も不在。

*** 3) 幽霊の登場、もう一人の幽霊
そこに懐中電灯のあかり。たちまち恐怖。音をたてないよう渡り廊下に。自室にもどる。霧の中に睦雄が。顔の中央がぽっかりと黒い。ついてゆく。龍頭館か。ちがう。それにもっともちかい猫足の間にきえた。どんどんと銃声。龍尾館か。むかで足の間の前の廊下に亡霊。庭に。龍尾館の方向にまた一発。もう一人の。亡霊がいた。同じ亡霊か。猫足から移動。無理。石垣から竜の彫像に。恐怖、ぶつかる。四分板の間の方向に退却。亡霊は何をうったのか。竜の彫像の横。姿はさっきの亡霊と同じ。龍頭館に。石岡は芝生にふせたまま。やがておう。亡霊は龍頭館の角を。きえた。石岡は龍頭館裏。亡霊は法仙寺にむかう。おう。亡霊は本堂の前。墓の中に。きえた。

** 3) 法仙寺墓地、坂道、葦川ぞい
*** 1) 墓石群の藤原、狙撃
墓石群の中に黒いシャツの男。うつむき加減。藤原。すこしずつちかづく。横に。スコップ。何度もスコップを。突然銃声。ゆっくりとくずおれる。藤原。犯人は亡霊。所在を。藤原の周囲、墓の陰、無数の影。藤原に。石岡の右前方。銃をかかえた影がとおざかる。亡霊か。否。別人物。目でおう。一方気づいたのは石岡のみ。反射的におう。

*** 2) 幽霊の逃走、追尾、狙撃
住職の住居の裏手に。鶏小屋のちかく。石岡は物陰。あらい呼吸。裏庭を横切り土塀の外に。石岡が土塀に。待受か。否、安堵。低い姿勢。おう。影がすたすたと。龍臥亭、法仙寺山門に面した砂利道。ゆっくりくだる。誰か。帽子、銃、ダウンジャケット、心当たり、無し。黙っておう。御手洗の言葉「きみの使命だ」がひびく。考えた。はっきりしてること、藤原でない。一男でも。行秀か。二子山親子、坂出、否。育子、里美、お松、論外。影が橋をわたる。葦川の桜。孤独な影がたちどまる。きえた。その前方にミチとユキ子。石岡の声。にげろ。大小の影がたちどまる。もどれ。影が道に、銃口が石岡に。水田に転落した。

*** 3) ミチ母子、犯人、行秀、坂出、樽元、犯人佳世
おきあがる。脇腹から血。影が二人にちかづく。前方で大声。ミチの右前方。行秀。影が発砲。3発目でたおれる。まて、子どもをうつな。坂出。発砲。たおれる。影が二人をうつ。ミチがたおれる。ユリ子をにがす。おう。突然、石岡の脇をぬけて黒い影。対決。発砲。両者がたおれる。ミチは負傷、ユリ子は無事。とびだした男にちかよる。誰。樽元。暴漢にちかづく。銃をけりとばし、たしかめる。佳世。どうして。くるしい息のもとでいう。母から狂った睦雄の血をたやせといわれた。母は犬坊由利子、殺されかかった者。田舎は棚藤か。然り。

** 4) 葦川ぞい、佳世告白、外科医医院、樽元が告白
*** 1) 佳世の告白
佳世が医者がくる前に死んだ。石岡は佳世の祖母がすんでた棚藤のことをきいた。火葬場にかよう道筋にあるらしい。晴美の死体がある。どうするつもるだった。わからないといった。

*** 2) 翠玉の死体の処理
武田由利子は佳世の祖母。彼女は睦雄の手記を入手してた。佳世は藤原とは肉体関係があった。佳世はこの手記の存在をおしえた。藤原は手記のように死体を加工、遺棄する。この計画をうちあけたのは、推玉を切断し新聞紙で梱包、橘暗渠に遺棄した後だった。佳世は彼にこの棚藤の武田の家の鍵をあすけてた。3月はじめの時点で佳世はまだ東京にいた。この遺棄作業には関与せず。3月半ばに帰省、自宅の納屋に手首を発見した。驚いた彼女が藤原をといつめて、しった。藤原は菊子の殺人計画をかくしたまま、睦雄の手記どおり死体を処理したことを彼女にうちあげた。推玉の死体は偶然発見したと説明。そした以降も自分を手伝ってくれ。そうすると、彼女の希望は実現できると説明。何故か。いえないというやりとり。その後、佳世は協力を約束した。推玉の手首は二人でうめた。

*** 3) 佳世の潜伏、藤原との合流
藤原は菊子の計画をみぬいてた。すなわち死体がつづいてでると予測した。それに絶対の自信があったわけでなかろう。佳世の方も母、祖母の遺志が実現できるとの自信があったわけではなかろう。龍臥亭に続々と死体がでるのをみて藤原は喜々として睦雄の手記どおり実行することを佳世につげた。晴美の死の時点で、佳世に菊子の計画の存在をおしえた。佳世はすなおによろこんだ。ミチ母子の殺害を願った。

もううごかなくなった軽四輪が1台あった。藤原がこれを手入れし計画につかった。森安巡査の家から死体を窃取。鍵がかかってなかった。佳世が警察にとめられてた時の犯行は佳世の解放をうながした。東京にもどるよう警察にいわれたが、実は棚藤にもどった。これと歩調をあわせ藤原も龍臥亭をとびだした。以降、彼女は藤原への愛情と母からの教えにより、彼の指示にしたがった。

*** 4) 菊子の失敗、自殺
4月1日未明、幸子の首を筏にくくりつけたのは藤原、筏をつくったのは佳世。彼女をこわがらせないため新聞紙につつんだままにした。3月半ば、棚藤で佳世が作成、その後、横浜で石岡にあった時に指を負傷してたのはこのため。藤原は佳世の無知と勘違いを面白がった。捜査陣をまどわすことを期待したのだろう。何故、佳世が石岡のところにきたのか、その心理は不可解。佳世は藤原が睦雄の手記を実現してる理由はわからなかったが、ありがたかった。ところが目のみえない菊子が延々と失敗をかさねた。良心の呵責にたえかねて自殺した。藤原は銃が部屋から発見されないことをしって、部屋の窓の下にいって銃を発見。そこで銃と弾丸を窃取。石岡が四分板の間で懐中電灯の明かりをみたのはこの時である。

*** 5) 藤原の殺害、その真意、佳世の決意
殺人の道具を入手した藤原は自らの手で無関係とみえる人を殺害。守屋は龍尾館で一人でいるところを龍尾館裏にさそいだし、藪にかくしてた銃で殺害。佳世はおどろいた。死体の人数あわせだが、大袈裟な連続殺人はさけたかった。

藤原が一男を射殺した時、佳世はついに藤原の真意をみぬいた。藤原の究極のねらいは一男だった。他の被害者はそれをかくすための隠れ蓑。藤原は育子に強い愛情をだいた。育子の離婚の願いを一男は頑強に拒否してた。藤原の真意をしり、絶望とともに自らの意志で殺害を決意したのだろう。負傷状況である。樽元、佳世は弾丸が肺を貫通、致命傷。行秀は右大腿部に被弾、坂出は右肩部に被弾、ミチは左背に被弾、生命に別状はない。藤原も致命傷でない。石岡の負傷はギブスに被弾した結果、破片がささったもの、もっとも軽傷。

*** 6) 夜の異変、留金の死因
石岡が地震でめざめて気づいた異変の事情である。警察はを大捕物を予測し、龍臥亭の住民をマイクロバスに待機、二子山親子はこの機会に自宅にもどるつもり。石岡は不在のまま関知せず。ミチ母子はみんなの反対をおしきりお百度参りのため川沿いをあるいてた。留金の死因だが、不明だが、樽元によれば母親の死に気落ちした自殺、自分も妻をなくしたのでわかるといった。留金は何らかの理由により実家を訪問した藤原により発見。睦雄の手記の実現に利用されたものだろう。樽元、行秀、坂出は犬坊外科医院に入院した。樽元の話しである。

*** 7) 樽元の告白、睦雄の姿、琴づくりの修行
睦雄は世間にいわれてるような人でない。優しいよい人。自分の家の庭先へ子どもをあつめ面白い話しをしてくれた。お菓子もくれた。何もたべてない子に食べ物をくれた。風邪の子には薬をくれた。この人柄を村のみんながしってたはずだが、事件以来何もいわなくなった。そうはいっても子どもを殺した。それはいけない。だが肺病病みと悪口。本人のせいでない。自分がどれほどえらいものか。ひどい悪口だった。自分は睦雄がすきだった。30人殺しの当夜、「純ちゃん勉強してえらい人になれ」といってくれた。自分は琴の職人となってすこししられるようになった。この言葉は忘れたことはない。琴づくりの修行である。福山にいった。面白くなくてもどった。すきな琴をつくらせてもらえなかった。人の上にたつ年齢が必要だった。ここで嫁をもらった。

*** 8) ウラン、体調不良、龍臥亭の琴づくり
荒坂峠からウランがでた昭和30年、二人で坑夫にでた。商業化できなかったので坑道をふさいだ。それをやった。2年ほどしたら体調がわるくなった。仲間にもでたが因果関係が不明ということでうやむやとなった。自分は体力があるから回復し秀市のところで琴の職人となった。一生懸命にやった。自分の華の時代だった。

*** 9) 妻の症状悪化、地下生活
ところが妻が体調不良となった。ウランのせいだった。顔が黒くなった。石をなげこまれた。考えて龍尾館の地下にかくすこととした。大階段がつぶされたから階段の下に部屋をつくった。地下には自分の仕事場もあった。便所もあった。風呂場にいけば水もある。厨房の下では残飯が手にはいる。家人に一言あってしかるべきだったが、先代秀市の死でいいだしかねた。いったところでことわられる。年限をきられる。結局、地下に何年もくらした。表との出入りは地下の風呂場の石をどかした。給湯道をつかった。真っ暗な中だから頭に懐中電灯、地下足袋の姿だった。

*** 10) 龍臥亭、設計の秘密、給湯道、地下の出入口
龍胎館の床下にはタイル張りのふとい給湯道があった。これは元々の設計、龍頭館の湯を龍尾館の風呂にもみちびくため。昔は龍頭館の湯があふれたら自然に龍胎館の床下をとおって龍尾館の風呂へながれこむ仕掛けになってた。龍尾館でこの湯をわかす。そのために坂になってた。給湯道は龍胎館の部屋の暖房装置にもなってた。でも下流になるとさめる。雲角の間、下音穴の間、柏葉の間、尾布の間とむかで足の間の5つはプロパンガスがついてた。しかし使い勝手がわるい。龍頭館の浴槽をふさいで給湯道に湯がはいらないようにした。自分は夜、ここをつかって穴があいてる部屋から外にでることとした。猫足の間、むかで足の間、弦の間の物置に点検用の穴があいてた。

*** 11) 地震による破壊、ミチ母子の護衛、犯人との闘い
でも地震で給湯道がこわれた。雲角の間からはいったらむかで足の間までながされた。上であやしい動きがあったのでやっつけようとおいかけたが逃がしてしまった。給湯道を毎晩はいずりまってるうちにこの事件のことはほぼわかった。睦雄の血をひく者をころそうとしてる。ならば睦雄のためにも子孫をまもることにした。今夜は警察が家人、宿泊客を退避させたからおおぴらに龍臥亭をパトロールすることにした。犯人は龍尾館の中を懸命にさがしてた。

*** 12) 妻の死亡、火葬、菊子の罠、最後の願い
事件がはじまって間もなく、妻が死亡。夜ぴいてないた。自分の方にも痣ができた。もう長くないと思った。昔、琴のコテをやいてた焼き場で妻を火葬した。灰になったのを葦川にながした。自分も同じようにしてほしい。ミチを一晩中護衛した。二畳の間ですわって護衛したこともあった。お百度参りをしって、銃をもって物陰から護衛した。法仙寺では犯人をたびたびみた。鉄砲でおいはらった。ミチはだまされてた。菊子の知り合いに龍臥亭にいってお百度参りをするようすすめられた。これは菊子の罠だった。まだ話しはつづく。

昔、菊子にいわれて竜の彫像をおいた。すると何度も高さを調整させられた。板戸の模様も菊子の仕掛けだ。この言葉の意味を正確に理解したのは石岡だけだった。樽元が石岡にいう。睦雄が世間に誤解されてる。あの事件の真相を世間につたえてくれ。約束してくれ。了解。ではこれで死ぬといって目をとじた。樽元はそれからすぐ死んだ。

** 5) 射殺、刑事への謎解き
朝方に石岡は育子、里美、二子山親子とともに龍臥亭にもどった。午前11時に目がさめた。里美がおそい朝食をしらせた。食後に三人の刑事がきて、いう。棚藤の武田の家、納屋をしらべた。睦雄の手記、晴美の死体、死体処理の痕跡を発見。成程。無言。ご苦労さまと石岡。感謝。驚、それほどでも、で何か。この際、見栄をすて、率直に。成程、で。事件の説明。はあ。でも何時横浜に。できたら今日にでも。驚、説明無しで。何を。晴美、エリ子、幸子といった人たち。やっと了解。押収した猟銃、携帯電話ももって。了解。

** 6) むかで足の間、四分板の間
*** 1) 四分板の間の猟銃、実験
猟銃は。それでけっこう、もともとは菊子の銃と石岡。成程。これで実験。よいか。然り。むかで足の間に。引き戸をあけ仏壇の間に。座布団をしばって仏壇の前に。これが晴美あるいはエリ子。では四分板の間へと石岡。携帯電話をもった田中がのこる。一行が四分板の間に。菊子がこの重い銃をもつのはむづかしいと石岡。百済琴の上に銃を。節穴に銃身を。台座のくぼみに銃の台尻がぴたりとはまった。これは樽元の仕事か菊子の仕事。葦戸をしめる。安全を確認、連絡。引き金をひく。驚、龍尾館三階をうったのでは。携帯電話が。座布団に命中と田中の連絡。

*** 2) 竜の彫像の意味、推玉、晴美、エリ子の殺害、藤原の関与
驚、何故、どうして。葦戸をあけ竜の彫像を。彫像の下腹で弾丸がはねかえってむかで足の間の目標に命中。田中に板戸の傷の有無を照会。竜の穴の付近の板戸がちょっとわれてた。ちょっと弾道がそれたかと石岡。確認してほしいこと。弾丸がはねかえった。そこで弾頭にキズ。それがダムダム弾と誤認させた。成程。菊子は失敗しつづけた。目がみえないで鐘の音だけがたより。大雪で推玉の存在をしらずに発砲。たおれた推玉の上に雪。雪見をしてたみんなは不知。これに気づいた藤原が夜に死体を回収、棚藤の家まではこんだ。成程。

*** 3) 菊子の自殺、守屋、一男の殺害、佳世の決意
晴美、エリ子と失敗、良心の呵責に、結局自殺。石岡は奧の間に。窓をあ自分の胸に銃口、台尻 は窓の敷居、足の指で引き金。銃は反動で窓の外。これで菊子のみ胸に硝煙反応。他殺と誤認。自殺か。然り。窓の下の草むらにおちた銃を藤原が夜に回収。これが守屋や一男殺しにつかわれた。もどってきた田中がいう。佳世はミチ母子を殺す気がなかった。菊子の犯行をみまもってた。しかし、菊子が挫折、藤原は育子への愛情ゆえに一男の殺害を仕組んだ。その真意をさとる。そこで自分の手でミチ母子と藤原の殺害を決意。

*** 4) 銃の隠し場所
菊子は銃をどこにかくしてたかと刑事の鈴木。どこかわからないが、藤原が弾丸ほしさに四分板の間にしのびこんだ。わたしわかると里美。変わり琴の前で、床木と一体になってる琴だったが、手前の竜尾あたりをいじる。幅20セントの部分が右方向にスライド。下に空間がみえた。ほらと里美。成程。琴は共鳴させるための空洞部分がいる。たんなる丸太では、いい音がでない。ここで石岡に天啓。成程と福井。で、幸子は。

*** 5) 幸子殺害の謎
全然別の発砲事故。偶発事故か。然り。バッハをひいてた。これとにた変わり琴で。その音程があってなかった。また低音部分がなかった。怒って暖炉にくべた。驚。然り、端を暖炉の中におしこんだ。幸子の性格をしってる里美が、わかる。でもあれは丸太。でも響いただろうと石岡。然り。では丸太の中に空洞があった。へえ。あった。樽元はそんな材木をさがす名人だった。その空洞がどういう意味と福井。古木に空洞、そこにはただの空洞でない。何。メタンガス。驚。だから爆発。成程。それで。その木は仙人山からとったもの。然りと育子。睦雄は凶行前、仙人山で射撃の訓練。つまり。あの松の木には50年ほで前に睦雄がうったダムダム弾がのこってた。だからメタンガスの爆発で弾がとびだして額に穴をあけた。

* 15) 4月13日、エピソード
石岡が御手洗に国際電報をうった、「ジケン、ナントカカイケツシタ。キミノオカゲダ。イシオカ」。龍尾館の大広間にゆく。刑事、育子、▼松子お松がいた。二子山が「黒田節」で感謝をという。坂出、行秀、ミチ母子は入院中。里美の姿がない。3人の刑事と病院に。坂出、行秀に挨拶。ミチ母子にあった。ミチの正式名をきいた。加納通子。刑事たちに貝繁駅までおくってもらった。田中が別れぎわに御手洗は本当は石岡ときいて、また相談するといった。切符をかおとすると里美が声をかけた。切符を石岡にわたした。東京へいったらよろしくといった。車内で回想した。満身創痍の体。突然よくやったという思いわいた。涙がでてとまらくなった。

* 16) 感想
昭和10年ごろから平成7年までの複雑にからんだ筋を丁寧に、面白く話しをすすめる。希代のストーリーテラーだ。悲惨な睦雄事件を縦軸に、事件がひきずる影の数々がからみあう。その解決が、けな気に生きるミチ、ユキ子母子の未来に見事につながる。さらに名探偵石岡の登場である。満身創痍になりながら真相をきわめ、めずらしい恋愛が中年男をいろどる。魅力的な女性と可愛い子どもの登場も舞台に花をそえる。御手洗のもつバターくささがうすれ、白木づくりと裸電球の和風建築が今回の舞台である。面白かった。

* 17) テーマ
30人の村人を一晩で殺害した睦雄の村にたつ建物でおきた不可解な事件を解決する。睦雄の事件は、軍国主義の重圧に息ぐるしさがました時、閉鎖的な山村、その中に特有の男女関係のもつれが暴発した異常な事件であった。そこの温泉宿、龍臥亭には、睦雄により殺された側の血をひく人びとと睦雄の血をひくひとびとが、あつまってきた。いまわしい事件に口をつぐむ村人たちにも事件の影は随所にあらわれている。深夜、硝子窓にかこまれ、裸電球にうかびあがった美女がうたれる。これが発端となり、殺人が猟奇事件に発展してゆく。犯行の動機は睦雄の闇をひきずる。そのトリックは龍臥亭の建物のからくりに、なじむ。物語は前半において変質者の犯行としてもりあがるが、後半において睦雄の実像にせまることにより一気に解決する。

菊子、佳世、藤原が犯行にかかわるのであるが、これらの行動を丁寧に説明し作品を破綻させていない。

* 18) 評価
原理的に可能かという問題はない。現実に可能か、おこり得るかが問題となる。

1) 菊子、佳世は睦雄に殺された側の血をひく者である。上記17)で説明したように、その行動を丁寧に説明している。菊子はやや乱暴であり、佳世は受け身にすぎる。しかし睦雄という怪異な存在を考えた時、おこり得ると考える。

2) 藤原の犯行は、佳世との密接な関係、それにくわえて育子との不倫関係を考えても、いくら何でもあり得ないといわざるを得ない。むしろテーマとの関連で藤原の犯行が作品として成立してるかどうかの問題と思う。睦雄は善悪を超越したおおきな力、日本の伝統的な神の存在にちかい。平将門、菅原道真のように祟り故に祭られた神と考えることができる。睦雄は地元の伝説、おそろしい神である。佳世と出会い、自宅で睦雄の手記に接し、佳世との交情をつうじ、睦雄のおおいなる存在を感じた。おそらく日常において菊子の異様さ、育子の魔力、一男の卑小さを感じてたろう。藤原の物語への登場はわずかであり、自分をほとんど語らない。作者は藤原がおおいなる力にゆりうごかされ犯行をかさねた状況を読者自らの理解にゆだねてるようである。

3) 竜の湯があふれ流れおちる給湯道にそってたてられた龍臥亭、その龍臥亭の側の道を30人の惨劇をひきおこした睦雄がかけのぼり仙人山の頂上で自決した。龍臥亭は和風白木づくりの建築物である。深夜、裸電球でてらされた龍尾館三階に硝子窓でかこまれた中、琴を演奏する美女がうたれる。こうして殺人事件の舞台の幕があく。これだけ舞台装置がととのったら、わたしは30人の殺人がおきても納得してしまう。この作品を成立させる圧倒的世界の実在を感じる。

* 19) 疑問
** 1) 昭和7年の巻が不整合、178pと179p
石岡が阿部定事件を高校の図書室でしらべる。講談社刊の「昭和二万日の全記録」の昭和10年から13年の巻をしらべ、阿部定事件をの記述を発見した。しかし時期の誤解から睦雄の事件を発見できなかった。考えなおして「7」という数字にヒントをえて、昭和7年から9年の巻をしらべる。そこに昭和7年におきた猟奇事件の記述を発見し、事件の解決におおきく前進する。この記述にかんし、下巻の178ページと181ページに不整合があるようだ。

(おわり)





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