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謎解き島田、水晶のピラミッド [島田荘司]

* はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 1) am1(america1)、ビッチ・ポイントで怪物の目撃
アメリカ、ニューオリンズのメキシコ湾に面するビッチ・ポイントという岬の海岸、夕方である。泳ぎにでた二人の恋人たちが怪物を目撃した。それは額から頭にかけ陥没した筋をもち、おおきな丸い目と耳まで裂けた口をもってた。

* 2) am2、エジプト島の石塔最上階で溺死体
1986年4月15日、ビッチ・ポイントという岬の先にある岩の島に建築物があった。その石塔の七階で男が死んでた。男は全米有数の財閥の一人といわれる人物だった。ニューオリンズ署のデクスター・ゴードン部長刑事とFBIのネルソン・マクファーレン捜査官が死体をみておどろいた。右手を前にだし左手を後ろにのこし、泳いでるようなうつぶせの姿勢だった。死因は溺死だった。部屋は内部から閂がかけられ、どうみても密室だった。本人は同日の午前10時、起床をうながす外部からの声に「頭痛がするのでもうすこし眠らせてくれ」とこたえた。当日は晴天だった。さらに前日の夜に額が陥没し丸い目と裂けた口をもつ怪物が目撃されてた。

* 3) au(autralia)、オーストラリアの沙漠で焼死体
1984年3月、オーストラリアのブリスベン、国道からはなれた沙漠に自動車が放置されてた。その中で男の焼死体が発見された。免許証からポール・アレクスンと確認された。

* ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

水晶のピラミッド (講談社文庫)

水晶のピラミッド (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/12/07
  • メディア: 文庫



* 4) eg1(egypt1)、ナイル川の浮島の少女ミクル、衣裳箱の男の救出
ナイル川の上流にかれた葦でできたマーデュという浮島があった。ある日、そこにすんでる女の子がながれてきた綺麗な箱をひろった。その中に若い男がはいってた。ギザからやってきたという。

* 5) sh1(ship1)、タイタニックが大西洋航路に出発
小説家、ジャック・ウッドベルはロンドン大学で考古学が専門ののウォルター・ホワイトにタイタニックの船上で出あった。タイタニックは総排水量46,329トン、喫水線の長さ269メートル、最大幅が28メートル、煙突までの高さが53メートルと移動できる乗り物として世界最大をほこる。ここで二人は知りあった。ウォルターはエジプトを専門としてた。ジャックは推理作家だった。1912年4月14日、日曜日であった。

* 6) eg2、ミクルの看病、男の都市への帰還
ミクルは男を看病した。男はディッカと名のった。都市からきた。自分はだまされて箱詰めされりナイルにながされたといった。やがて都市にかえっていった。

* 7) sh2、氷山のおそれ、一等船室の乗客
** 1) 船長、氷山はこわくない、乗客、不吉な噂
エドワード・J・スミス船長は大西洋航海に自信をもってた。船はニューヨークにむけすすんでた。ジャックが一等喫茶室にいると、拍手にむかえられた、タイタニックの発案者のJ・ブルース・イスメイと設計者のモーガン・ロバートソンがはいってきた。ウォルターがタイタニックの沈没を予想したような小説「愚行」をもちだした。設計者が氷山と衝突しても沈没しないと力強く説明した。ウォルターが乗船前にあった女性占星術師の話しをした。タイタニックは不吉だといった。ジャが話す。

** 2) 奇妙な乗客が死体の標本をみせる
一等船室の乗客のロバート・アレクスンの話しである。彼は友人のダヴィッド・ミラーにさそわれて乗船したという。部屋に案内された。そこで細長いガラス容器にはいった奇形マウスの死骸を見せられた。さらに奇形の胎児、嬰児の死骸も見せられた。中には頭部が変形し陥没したのもあった。彼はこれらは未来人だといった。

* 8) eg3、ミクルの旅、プケ泊まり
二年がたった。不幸がありミクルは孤児となった。ディッカをたずねてギザまで船旅にでた。親切な老人のたすけでプケの港についた。

* 9) sh3、 ピラミッドは年代記、1912年は一つの時代のおわり
** 1) 小説家と考古学者が対話、ピラミッドの解説
ウォルターが自分の専門のピラミッドの話しをする。ギザの三つのピラミッドである。その目的は何か。墓。クフ王をのぞくカフラー王とメンカウラー王は墓だが、クフ王はちがくと自説をのべる。さらに長い間、ピラミッドの下部だけが存在し、上の部分はなかった。下部だけが利用さわれた。その目的はまったく不明である。他の文明にも同様の建築物を見つけることができる。では、具体的な違いは。

** 2) クフ王ピラミッドは特異
王の間と王妃の間がある。普通、墓は地下にある。そこにいたる通路は下降するが、この両者は上昇する通路でたどりつく。長く下半分だったという根拠は。王の間の床の石積みは三十五段目だがこの石の厚味、二十フィートあつい。ピラミッドとは何か対話する。

** 3) ピラミッドとは何か、刻まれた年代記
その名の意味。中心で燃える火。古代エジプト人はこれを何とよんだか。謎。ピラミッドを石の聖書という考えは。スコットランドのロバート・メンジースがいった。大回廊がキリストの時代、上昇通廊がモーゼの時代。他のピラマソロジストも聖書のなかの言葉を指摘。本当か。イザヤ書十九章十九節に「祭壇」と「記念碑」。エペソ人への手紙二章二十節に「キリストがかしら石」。このため、おおくの聖書研究家がギザを訪問。では石の聖書の内容は。年代記、2001年9月まで、つまり未来の予言も。

** 4) 年代記の内容、未来の予言が
内容は。さまざま、一インチを一年、あるいは一月も。入口から上昇通廊、大回廊、王の間となるが、おわりの意味は。年表のおわりか、歴史のおわり。ではこの本の説明では。アダムとイブからノアの洪水、云云。曲がり角は。大転換点。通廊に予言のマークが。然り。例えば。大回廊、王の間は花崗岩、霊的のもの。その他の石は人類、物質的なもの。教会とおなじ発想、上昇通廊はせまくるしく、大回廊はたかい天井。これは教会の礼拝場。もっと詳細な解釈も。下降通廊をおりてゆくとある地点に床に直角にひかれた直線、これが紀元前2141年3月21日正午。ほう、その意味は。不知。現時点より未来の予言は。1914年から1918年が大変化、1936年から1945年は激変。1979年から1991年、あるいは1995年から2025年、云云。しかしもっと気になること。何か。1912年が一つの時代がおわる。

* 10) eg4、ミクルと青年カマルの旅、ギザへ
プケで船頭の家にとまり、青年カマルの船でギザについた。上陸、王の家をたずねた。カマルとわかれ、ディッカと再会した。敷地を案内してもらってた時、月に照らされた石造物のジッグラトが見えた。

* 11) sh4、氷山の出現、エンジン停止
四月十四日昼、スミス船長は行く手に氷山の存在を警告する無線電報を受電したが何もしないで昼食にむかった。途中で出あったイスメイの提案で明日最大速度で航行することとした。午後気温が急速にさがった。夕方、米国の大富豪のジョージ・ワイドナー夫妻主催の晩餐会がひらかれた。ガン・メーカーとして成功しつつあるアレクスンも列席した。午後八時、ブリッジにもどった船長は氷山の状況をきいた後、自室にもどった。午後十時五十五分に最後の警告電報があった。サザンプトンで積みわすれたので監視台には双眼鏡がなかった。氷山を前方に発見した。すぐブリッジに連絡がはいり、船のエンジンは停止し、左に向きをかえた。

* 12) eg5、ミクルの楽しい日々、ディッカの出征
ミクルはディッカとたのしい日々をすごした。ジッグラトは空中庭園だとおしえてくれた。図書館で死者の書を見せてくれ、人は死ぬと、冥府の使いに生前の行いを判定される。その使いは額はせまく頭の真ん中がくぼんでいる。鼻が飛びだしてとがって、耳が動物のようについている。上半身が裸のおそろしい姿をしてた。それによい行いとみとめると永遠の命がさずけられるオシリスの国につれてゆかれるといった。ディッカは、何がよいのか、わるいのかわからないと苦悩をもらす。ミクルにいつまでも自分の側にいるよう約束させた。その夜、わかい女がやってきた。ミクルを口穢くののしり、ディッカは戦争にゆくといった。それはディッカの許婚だった。

* 13) sh5、文明論、文明の西進、沈没の予告
午後十一時、一等喫茶室でジャック、ウォルターとロンドン証券取引所所長のアンドリュー・オブライエンが会話する。毒舌家のアンドリューが、この船は数段重ねのケーキのようなもの、現在の英国社会を象徴する。上から上流階級、下に中流、下層となってる。さらに英国の現在の繁栄はピークである。文明は東から西に伝播する。次の繁栄は米国のようだという。米国の奴隷制をさし異論がでた。豪華な一等喫茶室で奴隷制を論じる雰囲気に、いささか水をさす声がでた。そこに外から四月なのに船に雪がつもったという声がきこえた。氷山に接触したらしい。船のエンジン音がきこなくなったことに気がついた。制服の乗務員がやってきていった。この船はあと一時間で沈没する。

* 14) eg6、敗走のディッカの帰還、ミクルの死
それから一年後、敗走したディッカがギザにもどり、ミクルの殺害をしった。

* 15) sh6、タイタニックの沈没
タイタニックは沈没した。
* 16) eg7、ディッカの処刑、文明の溺死
怒りにまかせ神官を殺害したディッカはとらえられ、ジッグラトで処刑された。崩壊する文明は必ず溺死するといった。

* 17) sh7、沈没と男性生還者
海水が侵入した船内でジャックが怪人をみた。ジャック、ウォルターが死にイスメイは生還した。

* 18) am3、エジプト島、盗掘者と怪物
** 1) エジプト島を説明する
ニューオリンズの南、ビッチ・ポイントの先端にエジプト島といわれる岩礁がある。その上に不思議な建築物がある。ピラミッドである。その上半分が鉄骨と強化ガラスで、下半分が石積みでできている。噂によれば近年持ち主がかわったらしい。それまで土埃におおわれたガラスがきれいにみがかれ、ガラスづくりが知られるようになった。ガラスの中には黒々とした岩山がおさまってた。そのかたわらに細い円柱形の石塔がたってた。屋上は見晴らし台らしい。塔の周囲には螺旋階段がまきついていた。これで屋上や各階にたどりつく。各階に入口は螺旋階段にあわせているので一定の方向にならずバラバラだった。屋上とピラミッドの中ほど、ガラスがはじまるあたりがブリッジでむすばれてた。島はこれらの建造物に占拠され空き地はほとんどない。島と岬は日本風の橋で連絡されてた。一時、ニューオリンズの人びとの関心がたかまったことがあった。それはここにファラオにおとらない財宝がかくされていると噂されたからである。

** 2) 盗掘者が暗躍、石塔、ピラミッド内部を調査
1984年当時、建造者が失踪し建物は閉鎖封印され、本島と岬をつなぐ橋も鎖と鉄条網で閉鎖された。この建造者で異端のエジプト学者は落成後二年で頭がおかしくなった。彼は前世紀末英国から移住し、拳銃や武器で富をきづいた大財閥、アレクスン家の何代目かの当主だった。ここに財閥の宝がかくされているというのである。1984年から1985年にかけ人びとがやってきた。ピラミッドの正面の鉄の扉がこじあけられた。中は飛行機の格納庫のようにガランとしてたが、隅々までしらべられた。石塔の扉もあけられ部屋が点検された。さらに屋上からピラミッドの中腹にわたる空中回廊から、ライオンの檻のように上から下に鉄棒をとおした扉をこじあけた。強化ガラスはハンマーでもわれなかったからである。ドアの内部には不思議な光景がひろがった。まるで月の表面のようだった。岩礁の岩をもってきてコンクリートにうめこんだものだった。空中回廊をすすみ中にはいると岩山への窪みとなる。前方の岩山を見あげるあたりでとまった。この小径の両側に二本の裂け目が岩山をかこんではしってた。そこから下を見ると一階の飛行場の格納庫のような空間の床が見えた。このガラスでかこまれたピラミッドは一階と二階だけでできてた。これらのどこにも宝物はみつからなかった。

** 3) ピラミッドの石積みをこわす、怪物が登場
1986年1月である。あるグループがピラミッドの北側の上、二十メートルの上の石積みをくずしていた。クフ王のピラミッドではこのあたりに正式の入口があった。彼らはカバーストーン、正面玄関の石積みを発見した。削岩機をもってすすんでいた男が、あった。空洞だといった。仲間もくわわり穴をひろげて中にはいった。そこは自然の洞窟ではなく人工の平面からなる通廊のようなものだった。男たちがすすんでゆくと前方に明かりが見えた。丸い目の怪物が立っていた。恐怖にかられて逃げだした三人は警察に報告した。警察によりしらべられた空間には、およそ生物がいたという痕跡はみつからなかったが、右側の壁にスペイン語の言葉がきざまれてた。

* 19) am4、アイーダ主演女優、ロケ地の到着
** 1) 持ち主がレオナに建築物を案内
案内の自動車に同車して女優、レオナ松崎が、かって大量の黒人奴隷をかかえていたマディンゴの屋敷にいった。レオナとエジプト島の持ち主であるリチャード・アレクスンが対話する。奴隷制の実態について話した。レオナきく。あのピラミッドは誰がつくったか。兄のポール・アレクスン。二年前に失踪。もう生きてないだろう。父の反対をきかず考古学の世界に、ピラミッドに狂った。あのピラミッドはクフ王と寸法的にはまったく同じ。目的は。不知。レオナの映画の話しとなる。

** 2) ミュージカル「アイーダ'87」の撮影を
内容は場所をアメリカ、現代版のアイーダ、タイトルを「アイーダ'87」。レオナはアメリカにダンス留学したヴェトコンの娘、米軍パイロットを恋人。恋人は撃墜、捕虜。どこでエジプトがでるのか。それはレオナのダンス発表会がちかづく。色々の妨害をのりこえて発表会。舞台はたちまち古代エジプトに変身。アイーダに登場する人物が現代のアメリカ人。リチャードが車外をみてがハリケーンがくるといった。公開は来春。自動車をもどし二人はビッチ・ポイントにむかった。

** 3) 神殿の偉容が圧倒、嵐の場面撮影を決行
島は白波がはげしくくだけてた。撮影は。明日、しかし天候次第。日本橋をわたり東側の大扉にたどりついた。中は不思議な光景だった。まるで広い室内体育場。砂地のあちこちが照明をうけ金色にかかやく。砂地のむこう正面には象牙色の神殿がある。神殿の両側には巨大の神像。その間には二つの円柱をもつ舞台。舞台の下には神殿内部への長方形の入口。広大な人工の砂地の四方をかこむピラミッドの内部の壁は自然の崖だった。それがだんだんとおおいかぶさるようなって天井となる。両側のせまりくる崖の中央、そのちょうど下あたりに上空から岩が垂れさがっていた。そのむこうに神殿の偉容がみえた。壁は褐色だった。扉がゆっくりしまると、外の喧騒がきえた。

岩肌のそばに鉄製のやぐら、その最上部に無数の照明が付設。リチャードが上空を見あげると、二本の円弧をかいた空隙がのぞいた。そこから二階の鉄製アングルとガラスがわずかにのぞいた。監督のエルビン・トフラーがリチャードに握手をもとめた。レオナと今夜の予定を相談し嵐の襲来をまって撮影を決行することとなった。

* 20) am5、嵐の中で撮影
** 1) 異端の研究者が建築、中南米にもピラミッドが
夕食の時、ピラミッドの話しがでた。メキシコ湾ぞいにメティタワカ、アステカ、マヤの文明があった。そこにはピラミッドがあった。アメリカにだけなかった。それは宗教的意味をもってるが王の墓ではなかった。リチャードは兄はクフ王のピラミッドもここと同じく島の上にたてたといった。レオナがメキシコシティで発見されたピラミッドも湖の平な島に建設されていたといった。リチャードが兄は異端の学者であった。自分もそう。アレクスン家も異端視され米国にやってきたといった。美術監督のエリック・ベルナールがきく。このピラミッドはいつ。1980年。目的は。何かの実験、クフ王のピラミッドの正確な複製。エリックがエジプトのアブ・シンベル神殿をまねてつくった神殿を見て、そこでは太陽の光線を真正面にうけられるような仕組みをもってた。

** 2) アスワンの神殿の秘密、クフ王の秘密は
アスワンダム建設のため移設されたが、かっては岩山にむかって立ってた。朝日がのぼる時、その影が神殿正面にかかる。じょじょにその影がきえて太陽光線が正面をてらす。さらに太陽光線は角度をかえ入口にはいり、その奧にまで侵入してゆく。ある時刻になると奧に鎮座するラムセス二世の神像をてらす。こんな仕組みが用意してた。ではクフ王は。不明。

** 3) 撮影を決行、レオナが怪物を目撃
監督がいった。気象台の予報によれば、あと一時間ほどでハリケーンが上陸。撮影の最適状況となる。午後九時半レオナが暴風雨と高波があばれまわる岩盤の上にたってた。ずぶぬれでキューをまつレオナの後方五メートルのところに怪物がたってた。右手をさしだしレオナにちかずいた。何やらつぶやいた。きづいたレオナは悲鳴をあげ、失神した。怪訝そうな顔がのぞきこんでいた。内部の砂地の上だった。怪物の話しは誰にも信じてもらえなかった。撮影を再開した。怪物はもうあらわれなかった。

* 21) am6、石塔の暮し、撮影二日目
** 1) 翌朝の撮影隊
1986年8月15日午前10時、ピラミッドの内部である。二階の裂け目から外光が一階の砂地にさしこんでた。エリックが起床、扉から外にでた。昨夜の大荒れが嘘のような晴天だった。

** 2) 異端学者の石塔生活は、石塔の構造は
南下してピラミッドの角から石塔をみた。ポールはどんな生活をしてたのか。ピラミッドにも石塔にも電気がこない。石油ランプをつかってたらしい。最上階が寝室、トイレは一階だけ。三階に書庫がある。読書はおそらく自然光。トイレのほか一階には、そばに倉庫、そこの発電機は放置され、そばのポリタンクには灯油が。トイレは島全体でもここだけ。隣りは洗面所、頭上には雨水をためるタンク。これで用をたす。タンクの上には外にむけ半円形にひらく漏斗。シャワールームも、しかしバスタブはない。二階にちょっとした厨房。飲料水のボトル、ビールの缶。煮炊き用の設備、流し、その上に雨水利用のタンク。流しの前の小窓のそばに粗末なダイニングテーブルと椅子一脚。流しの脇につかわれなかった小型電気冷蔵庫。ロケ隊の食事には外から設備をもちこんだ。食料品店は自動車で三十分以上の距離。どのように食料品を調達してたのか。缶詰、レトルト食品をたべつづけた。事実、空き缶が周囲に散乱。

** 3) 前夜泊まりの持ち主の様子は
エリックはもどってピラミッドの石段に腰かけた。今日の予定はレオナをまじえ百人のダンサーが舞台上で群舞する場面の撮影。また石塔をみあげた。リチャードが七階でねてるはず。それはこの島でもっとも居住にふさわしい場所だから。内部の天井、壁、床は黒の花崗岩をつかった意匠がほどこされてた。表面は研磨処理、ワックスがけ。鏡のような光沢。クフ王の王の間もみがかれた花崗岩。部屋の中には鉄製のシングルベッドがただ一つ。黒光りする壁の南に天地が一メートル、幅四十センチの窓。そこをはめごろしのガラス。なかには鉄の網。これではメキシコ湾にしずむ夕陽をたのしむことができない。そのためには螺旋階段をのぼって屋上にゆく。そこでは三百六十度の眺望。部屋には衣装ダンスのような家具がない。六階が着替え室。ふるびた大型の衣装ダンス、きたない木箱。そのなかにシャツ、ジーンズ。ここで寝たリチャードは、ここで絹のハジャマにきがえ、靴をそのままはいていった。シートとクッションもここから持ちだし。四階と五階は空き室。そこに昨夜はボディガードが一人と二人が宿泊。リチャードにちかづく不審者の話しである。

** 4) 警備のボディガードの様子は
四階、五階の螺旋階段からくる方法とピラミッドの方から空中回廊をとおてくる方法。後者の方法であるが、また二つある。ピラミッドの内部からだが、これは人工の崖をたどり中央の岩山、そこにつけられた窪地の道にいたる。そこをくだってピラミッドにつけられたライオンの檻のような鉄の扉をあけて空中回廊にいたる方法。人工の崖にのぼるのはほぼ不可能、上にゆくほど手前にせりだし、ついに天井。鉄の扉は施錠され、リチャードだけが鍵。もう一つ、外側の石積みからたどりつく方法、空中回廊はガラスでおおわれた部分の中。昨夜のような大雨、危険すぎ。不可能。三人が四階、五階でガードすると判断したのは納得できる。ピラミッドの方からブランチのしらせがあったのでエリックはもどろうとして石塔でボディガードが七階の雇い主とはなしてるのを見た。ブランチの話しである。

** 5) ブランチ時で監督が第二日目の撮影を説明
監督がレオナ、ブライアン・ホイットニー、エリックなどを前に昨夜の成功をいわい、今日の撮影にむけ檄をとばした。ボディガードがそこにくわわった。リチャードは頭痛でまだ寝かせてくれとのこと、食事に参加しなかった。そこに第二カメラマンのスティーヴ・ミラーほかがくわわった。

* 22) am7、撮影準備とボディガードの高まる不審
午後、ボディガードたちは石塔が視界にはいる石積みの石に。レオナとエリックが役作りで話合い。そこでレオナがアレクスン家は外部にしられたくない秘密をかかえてるといった。午後四時、踊り子たち百人が到着。四分の三が女性。しばらくしたら舞台上でレッスン。リッキー・スポールディングがエリックにハンマーやバーがないかきいてきた。リチャードの異変を感じたらしい。それが五時。エリックもはいり部屋に呼びかけ。応答がない。夕食となった。

騒音の中でエリックが監督に話し。監督は、まず口外無用、警察にもしらせず、エリックとボディガードでやれといった。監督は今夜の撮影がおわるまでピラミッドの扉をあけさせるなと命令した。

* 23) am8、閉ざされた部屋、死者の発見
** 1) 切断機をはこびこむ
エリックとリッキー・スポールディングは徒歩で国道、車にのり、電話ボックスをみつけ工場に連絡。切断機と二本のガスボンベをかりた。午後十一時すぎ島にもどった。ガラスにおおわれたピラミッドが幻想的姿。石塔についた。屋上に小型発電機、照明ランプ。エリックが空中回廊の入口にたって考える。

** 2) 空中回廊、扉をしらべ中をのぞこうとした
左右、床は鉄板。幅は一メートル四十センチ。ピラミッドにむかいのぼってる。奧は鉄格子の扉にいたるが、その途中は有刺鉄線がぐるぐるまき。ここをくぐりぬけるのは容易ではない。匍匐前進で扉にたどりついても、有刺鉄線が邪魔して手がノブまでのばせない。外開きだから。これも有刺鉄線が邪魔する。石塔の空中回廊のはじまりである。これはは屋上の床面より三十センチひくい。この段差に小窓。有刺鉄線に邪魔されながら懐中電灯を照射。幅二十センチ、天地一メートル。そこに直径五ミリの頑丈な鉄棒が縦横にある金網。これは内側二十センチのところ。外からみえる壁面開口部全面には、それをおおう薄い金属製の引き戸がつけられてた。これが現在、両方に開放。中はほとんど見えなかった。エリックが無理してのぞきこむと、さらに内側に薄布がはってある。しかしなおものぞいてるとベッドがみえた。そこには人影はなかった。これが限界だった。切断機で焼ききるほかない。

** 3) 切断機で扉をあける
エリックがボディガードに金属製の引き戸がずうとひらかれてたことを確認。部屋の扉である。内開き。扉の縁はラバーのストッパーで密閉となる。鍵穴がない。扉の中央よりややノブよりにUの字の底の形の突起があった。これを左いっぱいに移動させると中にある閂がささる仕組みである。このほかに内側からしか操作できない天井の穴にさす閂。現在はUの字の突起は右。これは朝十時にリチャードをおこす時にやったこと。バーナーに点火し切断を。切断の円弧がつながり円になりそうなまですすんだ時、エリックが部下に下にいって撮影の状況を確認といった。あと二時間かかるといった。円弧は円となって穴があいた。照明にリチャードのうつぶせの姿がうかびあがった。むっとするような湿気。床の上で右手を前、左手を後ろにして死んでた。

* 24) am9、通報、警察の到着
** 1) 警察に通報、現場を目視確認
エリックが部下をニューオリンズ署にやった。監督の携帯がこわれていた。だから徒歩でしか連絡できなかったそうだ。現場保存を第一にして丁寧に観察した。ミステリーファンであるので密室のトリックはよくしってる。人が潜伏してないか扉の陰を確認。犯人がひそんでいそうな場所も確認。無し。被害者の皮膚、頬をさわった。右手首をもちあげた。硬直してた。指先に黒いよごれ。被害者の体にも同様によごれ。報告のため部下を撮影現場にやった。ボディガードに不審な動きがないか注意した。死体を再度観察。被害者が両目をおおきく開いてた。毛髪がみだれ皮膚にひっついてた。ハジャマも体にひっついてた。左のポケットに何か。ピラミッドの側の鉄柵についた扉の鍵と確信。エリックがボディガードが殺害したと想定する。

** 2) ボディガードの殺害可能性を考える
殺害して扉をとじて室外にでる。そこから縦の閂をさす。どうする。糸やワイヤーをのこさないで、できるか。否。発見があった。ドアの右横1.5メートルに天地十センチ、幅二十センチの小窓が床につくほどの低い位置。これは空中回廊のとっつき、天井ちかくのところの小窓と同様の構造。すなわち、ふとい針金をあんだ金網が壁にはめこまれ、部屋の側に薄布。金網の取り付けも内側からネジでおこない、段差をつけてあった。これで工作は不可能。空中回廊が石塔にとどく部分は石塔廊下の床面よりひくい。この段差部分にある小窓も苦労してしらべた。同じ構造だった。石油ランプに頭をぶつけた。

** 3) 室内をさらに確認、警察が到着
ランプは天井の中心からぶらさげる。簡単にとりはずせるようになってた。懐中電灯もなかった。二つの小窓は臭いをぬくためのものと推理。冬季は寒い。蓋をつけるのか。しらべた。上述の鉄製の引き戸とおなじものがあった。どちらもひらかれたまま。リチャードにきいた。石油ランプは誰が。自分。就寝前に葉巻をすわない。室内に灰皿がない。室内の窓にカーテンがない。窓から室外をのぞいて、謎解きをやめた。外にでて扉をしめた。一時間半後、警官がやってきた。

** 4) 警察が現場検証、尋問、検屍、死因は溺死
ゴードンニューオリンズ署部長刑事にFBIのマクファーレン捜査官が同行。現場にいた関係者を確認し、検屍官が室内に。石油ランプをつけようとして、中に水がたまってたのであきらめた。検屍官とマクファーレンが中にのこり検屍。外でも尋問。午前十時から監視してた。七階にちかづいた人物もそこからおりてきた人物も。いない。ピラミッドの扉で声があがった。ゴードンがきく。入口は。あの大扉と空中回廊からゆく扉だけ。これには施錠。午前十時の確認は。ドアごしの声で。ドアの穴は。切断機。それ以外に方法はなかったから。部屋の窓は三つ、進入は無理。検屍がおわり死体がはこびだされた。推定死亡時刻はおよそ丸一日経過。午前十時に生存の可能性は。ある、だったらその直後に死亡か。大扉から人声がひびいた。午前二時。ボディガードにきく。リチャードの意向確認のあと三人で食事。三十分。その三十が犯行時刻だ。否、撮影隊の誰かがみてる。螺旋階段のとっつきにいた撮影隊の二人が証言、その間誰もおりてこなかった。その後は。不審なことは無し。その後、扉をこじあけるバーがないか撮影隊にきいた。午後六時。検屍官がさりぎわに、死体には炭の粒子が付着、部屋にもみとめられる。厳重な現場保存を。それから海水による溺死の可能性がたかいといった。鼻口に微量の塩がふいていた。

* 25) am10、死因、犯行方法、ピラミッド内部の調査
** 1) 溺死の犯行方法は、レオナの目撃情報は、不可解さばかり
ピラミッドで取り調べが。エリックがボディガードをふくめた現場の人びとの可能性をおいて、犯人を考えた。最上階からつれだされ、海水につけて溺死させられた。まったく不可解。さらにボディガードは螺旋階段に糸をはって不審人物をチェックしてたという。警察は不可解さに苦悩した。

レオナの十四日夜に怪物を目撃したという証言がさらに不可解さをました。リチャードはこの部屋にはじめてとまったようだ。建物の来歴から兄のポールの存在、人柄をしった。弟にグレアム・アレクスン。父のウィリアム・アレクスンは1979年に死去、その妻のメアリーは存命だが、精神に異常をきたしたという噂。リチャードが実権をにぎってた。広大な敷地があるが、リチャードが市内にホテルずまい。噂では精神に異常があるものが幽閉されてるという。

** 2) ピラミッド二階を調査、ここからの侵入は不可能、検屍結果で午前十時には死亡してた
八月十六日、エリックと監督がゴードンとマクファーレンをピラミッド二階のフロアの岩場の上に案内した。そこには一階の崖にたてられた足場から縄梯子をかけてのぼった。そこには直接岩場の頂上に縄梯子をかけられるような場所がなかったからである。さらに頂上のふもとの周囲にぐるりと縄をまわして固定した。四人は亀裂の隙間をぬけ岩原にでた。さらに傾斜したガラスの側面までいった。鉄柵の扉にはU字形の溝までとびおりてたどりついた。マクファーレンがノブをまわし、鍵穴をたしかめた。横方向にバーがのび、周囲の枠にはいってるのがわかった。鍵なしであけるのは不可能。石塔の屋上はかなり下にみえた。鉄柵から指をだしても、むこうにある有刺鉄線をつかむほど出ない。すぐ手がつかえた。合鍵は存在しなかった。一階におりた二人に検屍報告がきた。死体は死後三十時間を経過したものだといった。

* 26) am11、進展なし、中止命令の強行
警察の要請でハリウッドのスタジオでミーティング。これまでの経過である。この事件では定石どおりの捜査がむづかしかった。動機は監督、エリック、レオナをのぞく撮影隊にあるはずもなく、捜査がおこなわれたが成果がなかった。三人についても薄弱だった。アリバイの十五日十時から夜まで、あるいは十四日からも単独行動ができない状況であるから、不審者はみつからなかった。八月二十一日の捜査会議の報告である。ポールが1984年3月、オーストラリアで死亡、死因は自殺と報告された。これで犯人の可能性がきえた。

レオナに怪人についてきいた。リチャード犯人の可能性をうたがってのこと。それでアレクスン家をたずねて確認した。リチャードは幼少期熱病をわずらい精神に障害あるとみなされること、秘書に自分の身に不可解なことがあるかもしれない。その時は全米一の名探偵をよんでくれと伝言したことをいったと暴露。マクファーレンが異常の目撃にこだわるレオナの精神鑑定の可能性に言及した。これで雰囲気がわるくなった。さらに議論がつづいて、ついにマクファーレンがアイーダ'87の撮影の一時中止を命じると宣言した。

* 27) am12、スタッフの失踪、御手洗への依頼
監督からスティーヴが失踪したとレオナに電話。第二カメラ担当でこの撮影に参加。自殺をほのめかしてたよう。中止ざるを得ない。私立探偵に依頼したという。リチャードとポールがかよった小中高校、留学した大学を確認、ティモシー・ディレイニーという主治医の名前、リチャードは独身だがポールは結婚歴があり、妻はアン、アレクスン・カンパニーの研究所にいた。何らかの原因で発狂、死亡。これだかの情報をえた。このままでは自分は破産しそうだ。レオナが何日余裕があるかきいた。五日。成功にレオナは十万ドルの報酬を約束させた。

* 28) jp1(japan1) レオナの懇願、まずエジプトへ
この年の八月に御手洗はつきあいの長かった老犬の死にたちあった。つよいショックをうけ鬱状態となった。二十五日、レオナが馬車道にやってきた。事件をはなし窮状をうったえた。無反応。石岡が口ぞえをした。無駄。贈り物のオルゴールをみせた。無。石岡が御手洗をなじった。部屋にはいった。レオナがでてきた御手洗に懇願。航空券二枚を予約するよういった。カイロまわりでアメリカにゆくといった。レオナにビッチ・ポイントにスキューバダイビングのギアを三点用意すること、ポールがビッチ・ポイントのピラミッドをつくらせた業者の氏名、スティーヴの前身、家系を調査すること、それをギザのホテル、メナハウス・オぺロイに電話連絡するようにいった。レオナがカイロにいく理由をきいた。カイロは東経百五十度、ビッチ・ポイントは西経九十度、ブリスベンは東経三十度、ちょうど地球を中心軸のまわりに縦に三等分したところにあるといった。石岡は部屋にもどって世界地図と飛行機便のタイムテーブルをみてたと思った。

* 29) ai(airplane) ピラミッドの講義
** 1) 石岡が御手洗に講義、クフ王は特異、さらに諸説
機中で石岡が御手洗に話す。八十あるピラミッドは墓としてつくられた。これが通説。だが無難な説。クフ王のピラミッドには墓として疑問がおおい。王の間の石棺。無蓋か。石棺は建造途中、屋根を付設する前に設置。石棺の大きさが不十分。王墓以外の説は。北側に正式の入口、ここから地下の間には二十六度で下降通廊がつながる。地下の間から正式の入口をみると北極星がある。ここから天文台説。あるいはヨセフの食糧倉庫説。ユダヤの祖であるヨセフがエジプトの大臣に招へい、飢饉にそなえるため民を指揮してつくった。あるいは洪水用の食糧倉庫説。春分、秋分に下降通廊に日射がとどく、暦説。ピラミッドの中に神の予言がきざまれてるという説。御手洗がきく。

** 2) ビッチ・ポイントについてきく
ビッチ・ポイントのピラミッドにこのような通廊があるか。無。では何の目的か。専門の研究者が莫大な費用をつぎこんでやるもの。本物のピラミッドなら破壊しかねない実験。通廊を必要としない実験。日時計なら実物で用がたりる。外形だけが必要な実験とは。答、無。両者の相違点は。上半分がガラス張り、大きな空間、石塔、島、海。結論、無。石岡にさらに説明をもとめる。

** 3) さらに石岡が種々の説を講義
人類生存のためのタイムカプセル、エジプト独自の密教の施設、宇宙の法則を地球人にしらせるモニュメント、クフ王のピラミッドにしぼると、かなりの説得力がある。ピラミッドの高さの十の九乗倍は太陽までの距離、下底部の四辺の総計をピラミッドの高さの二倍の数値でわるとπとなる。ギリシャ人が発見したといわれてるπ。これより二千五百年も早い。ピラミッドが地球という惑星を表現したもの。

比重が5.7、これは地球の比重にほぼ一致。ピラミッドの重量を一千兆倍すると地球の重量にほぼ一致。地球の平均海抜、これは最近計算可能となったものだが、139.9メートルがピラミッドの高さにほぼ一致。地球上の平均気温が二十度、王の間の平均気温と一致。ピラミッドは聖キュピトという単位がつかわれた。これは地球半径の一千万分の一。これはごく最近の地球物理学が正確な地球の半径を測定したことからわかったこと。これからピラミッド・インチ(pインチ)という単位をつくる。これで測定するとピラミッド四辺の合計が36524.23 pインチとなる。またピラミッド頂点から垂線をおろす。その距離が3652.423 pインチ、床で水平にピラミッドを切断すると正方形ができる。正方形の中心から辺への距離が、3652.423 pインチ。太陽のまわりを公転する平均日数が、365.242日。つまりこの共通する数字の並びが意味するのは、五千年も前に地球運行の法則をしってたということ。まだある。

ギザはアラビア語で境界。ギザは東経三十度、北緯三十度に位置する。地球を平面地図に展開する時、東経三十度を中央にする。すなわち西経百五十度でひらいて地図の両端にする。ここでギザを交点とし十字をかく。こうして四分された部分の右の上半分と左の下半分を対照する。右上半分の総陸地面積と左下半分の総陸地面積はほほ一致する。このような重要地点にピラミッドが所在する。重要性がさけばれる由縁だ。余談になるが近年のピラミッドパワー、巨大な建築物としての意義もあるが、求められてないので、終了。御手洗の感想をきく。

** 4) 種々の説に御手洗が反論
ピラミッドの謎でなくビッチ・ポイントの謎に関心がある。謎の講義からポールがさがした謎の手がかりをさがしてた。石岡が御手洗にこのような謎について考えをきかせろという。常識主義者の肩をもつつもりはないが、チェックしておくべきことがある。石岡がついてゆけない。ピラミッドそのものの秘密というより、おおくの研究者がみつけだした成果というべき。注目があるまらないが、その陰にもっとおおくの成果にならなかった失敗があった。不審。太陽までの距離云云という。それは水星、火星で失敗した結果かも。その失敗例とあわせてみたいもの。では地球表面の平均海抜は。ほぼ一致するとか一致するという言葉がつづく。倍にしたらとか十乗したらとか。恣意的。さらにキャップストーンがのかってたが、現在はない。その高さが採用されてない。現状の姿が建築当時と同じでない。石の風化、ズレもある。建造者の意図を確認できぬまま、恣意的に結論をもとめてる。πの問題は。測定はコロコロこれがす測量車をつかってたろう。精度がどれほど問題にしたか疑問だ。かりに何回転したかで距離をだす。するちこれはπの倍数だ。この数値を上手にみつけて、わればπがでてもおかしくない。比重は。岩の成分は地球上でありふれた物質、ちかくなって不思議ない。四分割地図での陸地総面積は。面白いかも、しかし厳密に測定した結果はどうか。こんなアイデアは嫌いでないが。石岡がむきになってきく。

** 5) 石岡も反論、ではπは何故、でも尻すぼみ
「3652423」は。垂線を共通にする二つの直角二等辺三角形の長さにこれがあらわれるといいたいようだ。神秘的にみえるが、この角度は51度51分で45度でない。これは上がかけた二つの台形で、かけた部分にキャップストーンがあったはず。建造者の意図とは思えない数値に意義をみいだすのは、無理では。エジプトでは一年は360日としてた。余分は無視する習慣があったらしい。ピラミッドを偉大とみとめ、何とかしてそれをあきらかにしたいと苦闘した。その労を多とし面白いとも思うが、もうすこし冷静にみたいといった。

* 30) eg8、エジプトへの到着
八月二十七日夕方、ペリオポリス空港に到着、クフ王のピラミッドを見て、メナハウス・オぺロイホテルに到着した。。

* 31) eg9、ギザのピラミッドとスフィンクス
** 1) レオナも到着、三人でピラミッドへ
朝、ロビーで御手洗と待ちあわせた。そこにレオナから電話があった。御手洗と会話する。スティーヴは依然失踪中、家系にかんする資料を入手、建築業者はメキシコ人、資料を入手。設計者は。ポール。撮影隊スタッフの氏名、経歴は。入手。御手洗が資料をファックスで依頼したら、レオナがホテル内にやってきた。資料群をわたした。朝食をホテルですませ、車でピラミッドにむかった。アル・マムーンの盗掘孔から大回廊にいった。そこで王妃の間にゆき、大回廊にもどり王の間にいった。御手洗がこの下にまだ部屋があるといった。さらに地下室にいった後にアル・マムーンの盗掘孔から外にでた。スフィンクススをみた。

** 2) 三人でスフィンクスに
石岡がその謎をかたる。ピラミッドの四辺が東西南北にそって建造されれる。参道は東西にはしる。ところがスフィンクスへの参道は南にずれてる。研究者を苦しめる問題だ。御手洗に見解をきく。断言できる段階にないが、これら建造物が同時期につくられたと前提してないか。都市計画はそれほど計画的でない。面白そうな話しをする。三つのピラミッドがあり、墓所時代となった時、参道をつけようとなった。すると第二のピラミッドのそばに大岩があった。それを利用しようとなった。大岩をライオンに見たてるのはアフリカではよくあること、これをスフィンクスにしてやや南にずれた参道をつくった。どうかね。スフィンクスはこんな人びとの営みをだまって見てた、というわけ。

* 32) eg10、カイロ博物館、アヌビスとの再会
カイロ博物館にいった。数々の陳列物があった。死者の書をみた。そこに狼の頭部をもち半人半獣の怪物がえがかれてた。レオナが悲鳴をあげ、アメリカのピラミッド島で見たのがこれだといった。御手洗がアヌビスだといった。

* 33) eg11、夜のナイル・クルーズ
夜、ナイル・クルーズに乗船した。上流にのぼってUターンするあたりまできた。レオナがナイルは、かってギザのあたりにあった。当時、ギザは文明の中心だった。ナイルがさった現在、かっての繁栄はもどらない。御手洗が文明は東から西にうつる。それにさからうことは誰にもできない。レオナがリチャードはエジプトの文明、ピラミッドを馬鹿にしてた。アヌビスがそれに復讐したといった。

* 34) am13、御手洗、事件現場の訪問
** 1) 五人が現場訪問
八月二十九日、三人はビッチ・ポイントで自動車から下車、ボディガード二人と合流、荷物をもって徒歩でピラミッドにむかった。下半分が石積み、上半分がガラスの姿がみえた。御手洗が水晶のピラミッドだといった。日本橋をわたりピラミッドの北面の東端でピラミッドとむかいあった。東側にでて南下すると木製の扉がある。これはクフ王のピラミッドにはない。さらに南下し南側にでると石塔と空中回廊がみえる。死体の現場をみる。

** 2) 部屋を調査、細かな指摘
二階のキッチンに荷物をおいてのぼる。御手洗が六階の衣装ダンスをのぞいて、たいしてないといった。七階の部屋にはいる。八月十五日午前十時まで生存が確認されているとの発言に微妙な反応をしめした。扉である。この閂の外部に露出した取っ手には針でひっかいたような傷がある。踊り場の金属手すりにも同様の傷がある。外にむかってあいた小窓が三つ、空中回廊のとっつきと、床ちかく、さらに二十インチ四方の小窓、これはガラスがはまってる。これを子細に観察してたが、鳥人間があるいた跡があると謎の言葉。ベッドのシートに鼻をちかづけ観察。ベッドのシートや毛布ははしめってたか。不明。石油ランプの水分の分析は。不明。レオナが傍若無人の態度に耐えかね説明を懇願した。ベッドはしめってた。水分は塩水だ。しかも海水だろうといった。

* 35) am14、ピラミッド内部、盗掘跡の調査、スキューバダイビング、地下の隠れ家
** 1) ピラミッド二階は閉鎖、一階は可能。盗掘の跡も
五人は屋上にたった。空中回廊をみたがピラミッド側の扉は施錠されてはいれなかった。レオナがいう。入口の大扉はあいてるから、一階の砂地にはいれる。二階はあの扉のむこう。岩場がひろがる。御手洗がなんとかしてはいるという。また北側の正規の入口への案内をたのむ。石塔をおりピラミッドを半周し石積みの上方までのぼる。くだけた石があった。今年一月に盗掘があった。その痕跡という。中にはいるとすく行き止まりとなった。正面に縦一・五メートル、横一メートルの楕円形の穴があいてた。その先はくらい空間だった。盗掘者がここまでくずすとこの穴から松明をもった怪人が出現、逃げだしたという。御手洗が穴の中にはいった。中の様子はクフ王のピラミッドの上昇通廊とにてた。十メートルほどくだると頑丈な石積みの壁が出現。壁をしらべ横にあった文字をみてたが、やがてもどって外にでた。正面入口の大木戸である。

** 2) 一階を調査
室内野球場のなかに砂地がひろがってるようだった。むこうに神殿があった。天井の岩の亀裂から外光がもれて砂地をてらしてた。たかくひろがった岩の天井がおおいかぶさってきた。中央の一部のみがたれさがってた。床の中央にたつと壁からせりあがって天井となってるこの大岩の東側と西側に平行して狭い裂け目がはしってる。御手洗は石段をのぼって舞台にたった。またおりた。レオナが二階にのぼる道がみつからなかったとなじるが、気にしない。石塔にもどる。

** 3) スキューバダイビングを開始、水中に神殿、地下の隠れ家を
スキューバダイビングの用具を身につけた。岩場は危険というので日本橋をわたり遠浅の潮溜まりに遠征した。潜水をはじめた。御手洗が先導する。前方に巨大な神殿がみえた。ピラミッド内部にあったのと同様の雄大さ。二つの巨大な神像の中央にむかった。神像の高さは十メートル。入口は両神像の中央、足もと高さ三メートル、幅二メートル。御手洗とレオナが水中ランプをてらして中にはいった。石岡もつづく。廊下があり部屋があった。その中を探索してすすんだ。やがて自然の岩窟となった。最初にきた部屋にもどった。天井の隅に蓋をみつけた。それをあけて、中にはいった。排水孔のようなせまい孔をすすんだ。前方に光がみえた。御手洗がその水面から上にのぼり、レオナがつづき、石岡ものぼった。御手洗が声をたてるなと警告した。そこはあまり広くない岩窟の中だった。右手に入口があった。その部屋は扇の先にある円弧の形をしたものだった。左の岩壁から光がもれ、右の壁にはカイロ博物館の展示物のような怪物像がたってた。その先に生物学実験室にあるような背のたかい円筒形のガラス瓶に奇形の嬰児の標本がはいってた。レオナが驚き息をのみこんだ。御手洗がレオナがみたアヌビスだといった。レオナを見うしなった。悲鳴がきこえた。スキューバの時つかった水中ランプをてらして、右の壁にあいてた洞穴をすすんだ。

** 4) レオナと怪人の遭遇、解放
ちいさい体育館のような広間にでた。見あげると鉄パイプをくんだ橋がわたされてた。その中央にレオナ、それを羽交い締めする怪物がいた。レオナをおちつかせながら御手洗がちかづいた。何やらさけんだ。と、怪物がレオナをはなした。御手洗と怪物は何やら話しあってるようだった。レオナは無事に解放された。御手洗の指示にしたがい、やってきた水面の場所に二人でもどりスキューバを装着して待った。御手洗がもどった。出発だ。

** 5) 上昇通廊、大回廊、王の間を発見
ところが元にもどらなかった右にゆくべきところを左にすすんんだ。前方に壁がみえた。そこを直角、上方にのぼった。水面から空中にでた。まっていた御手洗にきいた。ここは。いわばエジプトのギザ。黒い岩の下部にあいたちいさな穴にはいっていった。油臭い。ぬかるみのような黒い泥があった。ひたすらのぼった。どこかで同じようなことをしたと感じた。前方の壁があった。これまでの穴の壁の天地左右が黒だったが、ここは灰色だった。角をまがりまたのぼりだした。この黒は炭と気がついた。この通路内で木材をもやし水をかけて、けしたあとだ。高い天井の大広間にでた。左右の壁がせりだし、天井となってつながる。レオナがこれは大回廊だといった。その前のは、おなじく上昇通廊だと気がついた。御手洗がギザにようことといった。壁はガラスだった。御手洗が王妃の間も木材の燃えかすで大変だ。歩けないだろう。難渋苦行がつづいた。王の間にはいった。燃えた木材でびっしりうまってた。石岡が説明をもとめた。焚き火のあと。誰が。不答。真っ黒の鉄棒をひろい。それで壁のはじをつついて。それをテコ にして鉄製の金網をほじくりだした。それをすてた。もう一本鉄棒もみつけ、それで御手洗が指示するあたりを力まかせにおした。壁のその部分がうごいた。さらにおすと人間の肩幅ほどの穴があいた。

** 6) ついに二階への抜け道を発見
外光がまばゆかった。せまいトンネルをぬけて、ひろがる岩原をみた。丁度目の高さにひろがっていた。レオナが二階といった。御手洗は窪地にたって三人がでてきた岩山のふもとの穴を点検してた。眼下に亀裂の隙間があり、一階の沙漠がのぞいた。御手洗は期限の明後日に説明する。その前にエリックにあいたいとレオナに連絡をたのんだ。石塔への扉があかないので、いそいでスキューバを装着してボディガードのもとにもだった。

* 36) am15、ハリウッドでの謎解き、撮影再開
** 1) 御手洗が関係者の前で大演説
八月三十一日午後二時、 パラマウント映画会社Gスタジオである。大型テーブルの上にエジプト島ピラミッドの建築模型があった。ピラミッド、石塔のほかに水まではってあった。一同を前に御手洗、石岡が紹介された。自信満々に演説をはじめた。歴史における文明の興廃ののちにその精華がここハリウッドに花ひらいたと演説した。御手洗の感想を、石岡が代理する。親友の愛犬がしんだので今回の事件はむづかしかった。同情の声に御手洗が詩人のようにその悲しみをうたいあげたのでレオナがとめた。今回の奇怪千万の事件も部外者に、そううつるだろうが、当事者にとってはただ悲しみがあるだけといって演説をおえた。監督とそのアシスタント、美術監督のエリック・ベルナールとそのアシスタント、ニューオリンズ署のゴードン部長刑事、FBIのマクファーレン捜査官、三人のボディガードを事件当日に居あわせて人物として紹介。いないのはリチャード・アレクスンとスティーヴ・ミラーといった。御手洗の謎解きがはじまった。

** 2) 謎解きがはじまる
オーストラリアの沙漠で焼死した異端のエジプト学者がたてた風変わりな建物の中で米国の政財界の異端児、リチャードがしんだ。場所は石塔の七階、死因は溺死だった。不可解である。さらに前夜にレオナが怪人物を目撃してる。それはエジプトの死者の書にある冥府のつかいアヌビスそっくりだった。この実在が疑わてていたが、ほぼ実在するとわかった現在、この事件は単純な殺人事件でない。現在頂点をきわめている文明が、かって繁栄をきわめた文明によって復讐されてるといった。怪人物がかかわってたのか。否、象徴的な意味で、然り。では彼は誰。

** 3) 怪人の正体はロジャー
ロジャー・アレクスン、ポールの息子、母はアン、アレクスン兵器開発研究所の化学者、死亡。ロジャーの奇形と関係があるか。然り、枯葉剤の影響。森を隠れ家として、たたかうヴェトコンに勝利するため、アレクスン兵器開発研究所に依頼したもの。それはダイオキシンだった。これはDNAが複製される過程に影響し畸型児の発生率を高める。ベトナムの畸型児もそうだが米国においてもある。ロジャーもその一人。奇妙な建築物がつくられた理由の一つが隠れ家を提供するというもの。父親が息子を生涯面倒みようと思った。彼は地上より海中のくらしがむいていた。知能は常人以上、悪人でない。女性を間近にみたことがない。レオナをみて感動したという。凶悪なことはしない。筋力もよわい。その生涯はながくない。スペイン語をしゃべる。何を話したか。医者といって相談をうけた。もうなくなりそうなビタミン剤、各種栄養剤を提供すると約束した。アヌビスに似たのは。回答不能。ロジャーは犯人でない。然り。では誰が。われわれのような常人。不思議な建物の目的の話しである。

** 4) ロジャーに異端学者の父、父が隠れ家を用意、実験も
ポールはクフ王のピラミッドはポンプであるという新説をたてた。これで異端の学者となった。クフ王のピラミッドはほかのピラミッドとちがうのか。然り、地上五十メートルに王の間、ほかのピラミッドのように墓だったら地中かせいざい地表。彼の考えではこの建築物はほかよりさらに古い時代にたてられた。それをクフ王が改修、増築し自分の墓とした。創設当時はまったく別の目的だった。バビロニア文明の影響をうけて、たてられた。この建築物はバビロンの塔に似た形をしてた。スケッチがあった。どこに。エジプト島の地下の研究室の論文。で、ポンプという意味は。バビロンの空中庭園は石積みの高い建築物の上におおきな森があった。降雨のすくない地域でどうし水を供給したのか。だからポンプは。学会で孤立した異端の学者の頭の中を推理する。エジプト文明には必ず先行文明のメソポタミア文明が伝播した。彼にはアレクスン財閥の遺産がある。人目をしのぶ息子をかかえてる。兄弟の理解、同情もある。そこで、エジプト島に複製をつくる。アメリカ人にもれることをおそれメキシコの業者をつかう。人目をさけるためにも英語をおしえずスペイン語をおしえた。そして自説を実証するため実験装置をつくった。この土地を選択した理由である。

ロジャーの海中生活の便、周囲にふんだんに水があること。ニューオリンズがギザと同じ緯度にある。これは古代エジプトとおなじ気温帯にあることを意味する。さらにもう一点、彼の祈りにも似た思い、ギザはおよそ東経三十度、ニューオリンズは西経九十度。これは地球をリンゴ のように経度で三等分した地点にある。あと一本は。東経百五十度、オーストラリア、ブリスベンの南緯三十度でポールは1984年3月焼身自殺してる。いよいよ実験装置としてのピラミッドの説明にはいる。

** 5) 模型で実験装置を説明
エリックの援助により製作した模型を紹介。観客側に断面がみえるように模型の半分をとりさった。そこに上昇通廊、下降通廊、王の間、王妃の間、大回廊がみえた。これらは砂をいれた蟻の巣の模型のようにみえた。通廊には木くずと白い綿がつまってた。これがポールがつくったピラミッド模型の原型だ。年をへて変化したがこれが最初の姿。通廊の壁は強化ガラス、実験結果を目視しで確認するため。ピラミッド上部は総ガラスばり。電気のきてないビッチ・ポイントで細部の観察が容易にするため。下の下降通廊は地下の間にあるが、この意味の説明が研究者をくるしめた。通説は、地下の間に埋葬する予定だった。これは他のピラミッドと同じ。だが、七分どおり完成したら、もっと上がいいといい、王妃の間、さらに気がかわって王の間となったという。この地下の間に井戸がある。ビッチ・ポイントの場合はこれがトンネルで地下から海につながってる。模型ではあらわれてないが、実際は島の足もとの海はふかくえぐられている。そこにアスワンから移送された神殿が組みたてられてる。この神殿の中の一室の天井の穴がつながって、この地下の間の井戸につながってる。現在、内部の通廊は塗りこめられている。表面を岩窟のように表面処理してる。この内部に通廊があるようにみえない。しかし正規に入口から数メートルはいったあたり、セメントと石で封印されている。外部の盗掘者たちに行きどまりと思わせるように細工してある。さらに説明がつづく。

この封印壁は今年のはじめにロジャーによりつくられたもの。これは盗掘があり、通廊が発見されたための処置だ。人にみつかることをおそれここに隔壁をつくった。これら通廊などは、クフ王のピラミッドの完全な複製である。これを撮影隊がみたようにピラミッド内部からみると完全に塗りこめられ、さらに岩山がつくられていた。この実験装置が完成したばかりの時点では、鉄製のアングルがむきだしたったと思う。最初の姿でなく、この模型では二階部分をつくり、岩山もある。その内部には王の間をもっている。観客にみせる断面は岩屋の頂上から窪みの中央をはしっている。アクリル樹脂がはってあった。空中回廊を説明した。石塔とその密室性を扉、空気抜きの穴について説明。ピラミッドにもどる。

** 6) 燃焼実験の開始
通廊にある木くずや白綿にはたっぷりのガソリンをしみこませてる。点火はどこから。御手洗が二階、岩山の窪地の道の突き当たりを指でさした。石岡は黒い泥状の煤にまみれながら、はいだしたあたりと思った。指さしたあたりに注目をよびかけ点火した。王の間がオレンジ色にもえあがった。すばやく栓をした。透明の通廊がオレンジのネオンサインのようにかがやいた。やがて火がきえた。地下の間の井戸から水がふきだした。下降通廊、上昇通廊、王妃の間、大回廊が水びたしとなった。水勢はおとろえたが王の間の天井すれすれまで水位があがった。岩山の点火したあたりの穴から水がほとばしった。窪地の道をくだって扉をすぎ、石塔七階の穴にたっした。七階の部屋が水で一杯となった。御手洗がこれが溺死のからくりといった。この結果をだすためにちょっとした駄目押しが必要だ。まず空中回廊の七階の部屋のとっつきの穴はあけておくこと、それ以外の穴はしめておくこと、扉をあけようとするから、横にさす閂の取っ手、それは外にでてるU字形の取っ手だが、これを針金をとおし金属階段の手すりに厳重にむすびつけておくこと。この痕跡はのこってたという。犯人の後始末の話しである。

犯行後、針金をはずした。床にちかい穴の蓋をあけた。すると水がいきおいよく飛びだした。殺人の目的はなかったが、これがポールがおこなった実験である。実験の初期段階、彼は台形状のピラミッドの上部の平面部に木々をうえ、そこに水を供給する装置と考えていた。千年ものあいだにそれが忘れられ現在の四角錐の姿となった。1986年のある日、ある人物がこれを殺人装置とすることを思いついた。そのため王の間の煤が部屋にはいりこまないよう王の間の水の出口のフィルターを何重にもかさねた。ところで今回の撮影はこの殺人装置を人しれずはたらかす好条件を提供したという。

** 7) 嵐が犯行に最適条件を提供
嵐の中の撮影は爆発的な燃焼の音、通廊内の濁流の騒音、断末魔の悲鳴などをかきけした。質問、気密は。粘土。大回廊があれほど広いのは。木材でやぐらをくむ。それで燃焼をうながす。そのため支えとなる木材をさしこむ穴が必要、側面の壁の穴がそれ。誰が犯人か。点火のため岩山の穴のちかくにたってた人物。すばやく栓をし、水がたまったころ栓をぬける人物。コンピュータ作動の第二カメラの首尾をチェックするためあそこに一人いた。

** 8) 犯人の指摘、ハリウッドの期待にこたえた御手洗に拍手
スティーヴ・ミラーだ。その動機は。家系図からわかる。ミラー家はフィラデルフィアの裕福な一族、もとは英国貴族だった。ところが曾祖父が三十代にタイタニック号の沈没で死亡、一族の没落がはじまった。自身は苦学して映画学校を卒業した。その気がない曾祖父にチケットをおくりつけ乗船させたのがフィラデルフィア移住組、もと英国上流階級仲間のロバート・アレクスン、そんな動機があるか、疑問の声。しかし準備の時間もあった。この装置でたしかに殺人、それも溺死が可能。実際に殺人があった。手があがった。ボディガードのリッキー・スポールディングが殺人の時刻は。ハリケーンの最中、それで発見までに室内、ベッド、毛布もかわき水もなくなってた。発見が翌日の午後十一時すぎ。では、その日の午前十時のリチャードの声は。同感の声がひろがった。それは亡霊の声でしょう。声しかきいてない。見て確認しでない。納得できないリッキーにたいして、ゴードン部長刑事はそれほど不満でなかった。レオナは自分がしんだのがわかってなかったかも。撮影の再開を願う会場の雰囲気の中、難事件にちょっとした謎はのこるものという名探偵、御手洗のおわりの言葉は拍手をもってむかえられた。その後である。

その夜、御手洗はロスアンゼルス空港から旅だった。アイーダ'87の撮影許可はおりた。スティーヴは指名手配された。石岡が帰国し、事件後、一週間にやっと御手洗も帰国した。やがてレオナから手紙がとどいた。試写会が十二月に開催、スティーヴは依然失踪中とのこと、ロジャーをアレクスン家で世話する体制がととのったことがしるされてた。パラマウント社から銀行に十万ドルの振込があった。直後に銀行からお中元がおくれれてきた。

* 37) jp2、試写会への案内
1986年10月、今回の事件をまとめるため下書きをはじめた頃だった。グレアム・アレクスン氏から丁重な礼状がどいた。レオナからも試写会の案内がきた。御手洗は訪米をいやがった。石岡が本にまとめる都合もあるので訪米したいというと本にするのは賛成できないといった。レオナから電話があった。二人は訪米した。

* 38) am16、試写会、文明論
十一月二十九日、パラマウント映画社の奧まった応接間でレオナとあった。豪華な試写室で三人でみた。どこともしれない町並みがうつった。日本の家電メーカーの看板、日本車が登場する。日本企業とのタイアップがここにでてる。レオナがハリウッドも日本の資本なしではやってゆけなくなるといったので石岡が驚いた。御手洗が文明は東から西にうつるといった。石岡はひょっとしたら今、まさに米国から日本にうつっているかもしれないと思った。映画がおわった時、石岡は盛大な拍手をおくった。

* 39) am17、パーティでの出会い、レオナ宅への誘い
ホテルのパーティ会場で二人は監督ほかスタッフと再会した。そこでティモシー・ディレイニーという人物を紹介された。リチャードの主治医だったという。レオナや監督とも知り合いだという。ステージに監督があらわれインタビューがはじまった。殺人事件の話しがでたので御手洗が登場することとなった。司会者にビッチ・ポイントの事件を一言でいうと何かときかれた。文明の死である。ノアの洪水伝説にあるように文明の死はいつも溺死だといった。会場にもどった御手洗にティモシー・ディレイニーが感銘をうけたといった。

レオナの歌声がひびいてきた。退屈そうにしてる御手洗にレオナからメッセージがとどいた。彼女の自宅へのさそいだった。御手洗はティモシー・ディレイニーを誘って、三人でむかった。路上でレオナとおちあった。ティモシー・ディレイニーがここで遠慮するといったが御手洗がリチャードについてきいた。いいやつだったが道化。ではロジャーは。アメリカの犠牲者。文明社会の犠牲者、枯葉剤は必要だったが。辞去しようとした時、御手洗が発作をおこして路上にたおれた。レオナ宅に御手洗がかつぎこまれたので、またティモシー・ディレイニーが辞去しようとしたら、御手洗がリチャードさんとよびかけた。

* 40) am18、真相の暴露
** 1) 主治医の正体を暴露
リチャードは否定した。レオナも信じない。御手洗がいう。リチャードが呪われたアレクスン家から離脱したいだけなら許せる。整形にすぐ気がついた。堂々と登場するのもフェアプレイといえる。リチャードについての言葉もよい。しかし、枯葉剤は必要でなかった。文明社会の危機でもない。ただただ売りさばきたい兵器がたくさんあっただけ。ロジャーは生まれる必要なかった。葉巻をすって、やっとなりすましがおわった。レオナもリチャードといった。では石塔の七階で死んでたのは。ポール、リチャードとは双生児。彼が原因不明の病気で小学校進学が二年おくれたため兄弟とあつかわれるようになった。ピラミッドのポンプ説は。まったくの嘘、撮影再開のための方便、真相の究明より再開を熱望してた。それにこたえたまで。誰が舞台をあやっつてか確信がなかったからあの茶番劇をえんじた。ここでリチャード氏に再会できたからよしとする。説明をつづける。

ロジャーにきいた。ポールがしんだのに食糧を供給する人がいる。オーストラリアにとんで焼死の真相をたしかめた後、ロジャーにあってたしかめた。では通廊にあった大量の煤は。ポールがおこなった実験の痕跡、石塔への水攻めはやってない。リチャードがポールをころしたのか。否といっておく。リチャードが告白する。自分自身をころして海にうかびあがったのが八月十五日の夕方、世界は輝いていた。開放感だ。呪わたアレクスン家からの解放だ。御手洗が解説をはじめる。

** 2) 本当の真相はこれから、ポールにもアレクスン家の呪いい
ポールの1984年3月、オーストラリア、ブリスベン訪問の目的は粉末ビールだ。粉末に水をそそぎ一週間するとまったく本物とおなじビールの味となる。貯蔵用に最適だ。生涯ロジャーをかくまうと決心したポールにとってはわざわざ訪問するだけの価値がある。ところが彼はブリスベンの市内でJ.Dという浮浪者とあって意気投合した。そのあとレンタカーで沙漠にさそった。J.Dが心臓麻痺で突然死した。彼の頭に名案がうかんだ。ガソリンで死体をもやし自分の免許証をのこす。徒歩で現場をはなれ帰国した。息子と地下で一緒にくらしてやりたい。その気持もあったろうが、そのためだけでやることではない。アレクスン家の呪いはそれほど重かった。自分を抹殺したポールにとってリチャードは今まで以上に重要となった。さてハリウッドの撮影がきまったのが六月。あのピラミッドは外観を気にしてなかった。誰が現状のように岩窟にしたてたのか。リチャードだったら殺人も計画したといえないか。

** 3) リチャードの目論みを説明、さらにアレクスン家の呪い
リチャードがむきだしのままで溺死させればよい。警察は今もそう信じてると反論。否、水をすいあげてない。それがわかるから不都合。素直に納得。御手洗がその役者振りをほめる。沈思の後、岩窟となったピラミッドの現状に手をくわえることなく計画を実施したと結論づけた。否、すこしある。煤の排出をおさえるフィルターは自分の仕業。然り。ではポールのダイビング中の水死は不幸な事故か。然り。あっけない死、兄は息子のため楽園をつくろうとして、いくつかは完成させてた。自分とちがい女にはあまり興味がなかった。ただ一つの例外がアンだった。研究にしか興味がないようなタイプだったが愛してた。ロジャーも愛してた。そんな兄をころすはずがない。御手洗がきく。

自分が不審な死をむかえたら全米一の名探偵に依頼するようたのんでた。ずっと以前からどうしてそんなことがわかってたか。しばらく沈思、アレクスン家の呪いかも、自分が離脱することも、もしかしたら兄がしぬことも常に頭にあった。御手洗の解説がはじまる。

** 4) リチャードの犯行を解説
八月十四日午前、兄の死をしって、双生児である兄とおなじ発想をした。自分をけすこと。然り。監督との打ち合わせは午後一時、その時は午前十時半だった。顔の外観、髭なども注意して似せた。両手のおきどころも注意した。六階の大型衣装ダンスにかくした。御手洗がいう。ボディガードが五階、六階にひくと、嵐の中、死体を七階にあげた。バケツの水を体になすりつけ、バケツは海にすてた。では密室をどうつくったのか。御手洗がこたえる。傷だらけのガラス窓しかない。然り。はめごろしの窓だが強く押せば階段におちる。そこから脱出した。単純だが、かえって気がつかない。石岡が押上げ式の閂が何故おちてなかったのか違和感をもったことを思いだした。必死の溺死者は当然ここを操作するはず、納得。御手洗の解説である。屋上にのぼり、あらかじめ垂らしたロープで階段におり窓をはめた。最終的に足で蹴りこんだ。翌朝、午前十時、空中回廊のとっつきにある穴から、中にさけんだ。これをボディガードがきいた声だ。しかし、これはやりすぎだった。何もせず放置しておけば、スティーヴの殺害説が強固になったのに、さらに不可解な謎をつくった。しかしこれも時間にせまられた犯行の特徴ともいえる混乱である。さて、そこから空中回廊を匍匐前進、合鍵で開錠。鉄条網だからおしこんで余裕をつくれる。それで扉がひらく。扉側から針金でひっかけ、ひきもどせば、完了だ。その時、二階にはスタッフはいない。王の間にはいる穴の栓をぬき王の間にゆく。水をまいたり、さらにガソリンをまいたり細工したかもしれない。ロジャーの隠れ家で夕方をまつ。スキューバを装着してビッチ・ポイントの海岸に上陸、ヒッチハイクでフィラデルフィア市内にもどった。そこで信頼をおく弁護士と相談し、整形、今後の身の振り方を相談した。弁護士が実務をこなした。長い沈黙のあとレオナがきく。

** 5) ポールのポンプ説は実証できなかった
ポールのポンプ説は実証できたのか。リチャードは不知。御手洗は失敗。彼が気づかなくとも化学者だった妻にきけば間違いをすぐ指摘される。空気は酸素と窒素が主成分。酸素は五分の一。燃焼で酸素が消費されても王の間にまで水位があがるのは無理。模型の実験は。モーターじかけ。呆然。ポールの研究は失敗におわったのかとレオナがきく。不知、英語ではこれ以上の実績がわからないが、ヒエログリフの文書がのこされてた。それが何か。不知。地球を三分する経度の問題は。偶然。立ちさろうとするリチャードに御手洗がスティーヴのことをきく。彼は死ぬまで幸せにくらすだろう。それだけの金をはらった。住所をしるしたメモをうけとった。

* エピローグ、別れ
ロスアンゼルスにめずらしく雪がふった。三人で食事をし、市立美術館にいった。レオナと御手洗が少しはなれた場所に移動した。石岡は市立美術館の柱の陰でまってた。しばらくしてもどってきた御手洗がホテルであたたかい紅茶でものもうといった。

* 感想
作者の芸術的感性がほとばしりでる、ような作品である。岬の先の岩礁にたてられたガラスのピラミッドという、独特の舞台に事件が展開する。ギザのクフ王のピラミッドを複製したといいながら、上下二つの構造をもつ。下は石積みで普通だが、上はガラス製である。島田先生、何があったんだとききたくなる。そのそばに石塔、七階建ての細い建築がそえらてる。斜め屋敷のような趣向だ。その姿がいい。

電気もきてない辺鄙な土地にエジプトのピラミッドである。ハリケーンがふきあれた翌日、嘘のような八月の晴天。陽光にきらめく水晶のピラミッドという。実現は無理だが構想は作者の勝手。こんな世界がつくれる人がうらやましい。随所に建築への深い知識がみえる。扉、鍵、閂、窓、屋上、寝室、厨房、洗面所、倉庫と丁寧な説明にいつも感謝してる。こんな幻想の世界のrealityを感じさせてくれる。犯行を推理し謎解きを解説する時にすべて必要となってくるので、これだけでも充分推理小説の醍醐味を味あわせてもらってる。さて謎解きである。

複雑な構造となってる。爽快感にかけるかもしれない。第一回目の謎解きだけなら単純だがスッキリする。幽霊がでるのでおかしい。何かあると感じるが、やはり最後のドンデンがえしで、重たくなる。呪いもいやだ。御手洗とレオナの別れもいやだ。ポールの実験の結末がどうだったのか。ヒエログリフに何が書かれてたのか。もうすこし爽快感がほしかった。テーマである。

ナイルのくらしとピラミッド、タイタニックの沈没、ハリウッドの繁栄と米国兵器産業の闇から、人類のもっとも面白い五千年の歴史を俯瞰し文明の興亡と西進をえがいてるようだ。デカすぎる。特にタイタニックの沈没が英国文明の没落を象徴してるようだが、あまりひびかなかった。

今回はより念入りに謎解きの筋をおいかけたつもりである。いつもながらの作者の強靭な構想力がもたらした、あるいは細部にまで注意のゆきとどいた労作である。

ここからは、つまらぬ感想である。まず撮影の一時中断命令である。

これは原理的には可能と思うが、それでもその必要性に疑問がのこる。証拠隠滅とか犯人逃亡とかがあるのでこの種の命令をだす。それがこのような多大な影響、経済的損失をあたえるような命令が可能か疑問である。さらに現実的可能性である。

撮影側はリチャードにたいし故意、悪意はみとめられない。これがスキャンダルとなっても国と関係が問題になるだけで、ハリウッド側のイメージをそこなうおそれはすくない。当然多大な損害賠償をもとめる裁判となるだろう。また、それがよい宣伝となる。米国人は理不尽な権力とたたかう人を応援する。このような命令がだされる現実の可能性はすくないと、いわざるを得ない。と、いってみたが、読了して、派手なハリウッドでの謎解きの前振りとなってると気づいた。どの道、乱暴な命令である。冷静に考えればやめた方がよい。茶番劇のような解決は警察側にとっても、よい引き時となった。虚仮にされたボディガードの皆さんには、あとでリチャードがたっぷりお礼をすればよいだろう。次に建築についての感想というか文句。

ネットでいつもしれべてる。図解してくれといいたい。本としての限度があるだろうが、わからないままになる事もある。で、一点、王の間、大回廊、上昇通廊、下降通廊はピラミッド全体のどの部分にあるのか。これらが全体のどのていどの空間をしめてるのか、しりたかった。一階、二階という構造をもつ建築物が本当に可能なのか実感がもてなかった。推理小説は所詮フィクションだから現実の建築確認とか強度計算まで問題にするつもりはないが、構想の世界で可能であるとの実感がもてなかった。あの絵は北南で切断した断面を東からみたものと思うが、ピラミッドの頂点はどこらあたりか。見ないと二階建構造、通廊、回廊などを塗りこめた壁、岩山の構造が空想できない。何故あの亀裂があるのか、その構造が可能かもわからなかった。



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