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謎解き京極、絡新婦の理その2 [京極夏彦]

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この京極作品を未読の皆さんへ 不用意にのそくことをすすめない。 (この連作の趣旨、体裁は「謎解き京極、姑獲鳥の夏」で説明した)

あらすじ2

5

第11日目の夜、木場が池袋、酒場、猫目洞の女主人、お潤と対話した。川島犯人説を疑問視線した。凶器は平野のものと断定された。騎兵隊映画社の不審な女の存在が問題となった。蜘蛛にきけといった発言の真意は何か。眼鏡にのこる指紋の身元は誰か。蜘蛛の差配がある。平野が潜伏先はどこか。お潤が降旗の居場所をおしえた。

第12日目、降旗にあう。平野のことをきく。平野は視線恐怖症。窃視嗜好のある性的倒錯者。その原因は、妻の不倫。それをのぞきみて性的興奮をおぼえた。その事実をしった妻は自殺。罪悪感から発症した。鑿(のみ)で女性の眼をつくのは性行為の代替だ。平野に降旗を紹介したのは誰かきく。川島喜市が知人から紹介をうけた。その人物は降旗の恩師と親交があった。織作雄之介の次女か三女。木場に蜘蛛にねらわれている女がいるとつげる。志麻子という。監察医里村にあいにいった。

残った破片から同一と断定した。水道橋に下宿の青木とともに多田とあう。入口でねてるので帰る時には必ず気がつくといった。戸の開閉音は隣家との隙間に隠れていた前島貞輔にはっきりきこえなかったことが判明。ふたたび多田に質問。八千代の友禅を受けだすから質札をかえせといった。木場が平野の行動を推理する。

まず旅館に侵入。3時、川島がでる。八千代がねてる部屋に侵入。殺害。施錠。川島が眼鏡のため、ふたたび部屋にもどる。施錠のためそのまま退去。6時半、多田が部屋に死体を発見。平野は友禅のかけられてた衣桁屏風に潜伏。警察に通報のため多田が退去。平野が脱出。警察にむかう途中で友禅を窃取するためまたもどる。それを質入れ。警察に通報。木場は八千代殺害の背後に第三者が存在すると感じた。

質屋を尋問。川島喜市、千葉の興津町茂浦の川島喜市が受けだしてた。木場が四谷署の前で警察に尋問されてる志麻子にあった。

6

第14日目、興津町である。伊佐間と今川が織作の蜘蛛の巣館の墓所にいる。是亮殺害から四日目。茜が警察がよんでると伝言。伊佐間の回想である。遺体から藁が検出された。五百子が女を目撃という。セツがはいってきて噂話をする。

茜と是亮の間には夫婦関係がなかった。葵は立派。碧はあまり可愛がられてない。紫は雄之介に可愛がられてた。雄之介は是亮の横領を叱責すると、売春事件を世間にもらすと反抗した。雄之介と真佐子は別の部屋でねる。雄之介死亡は茜が発見。真佐子の亡母、貞子は五百子の娘。ただし嘉右衛門が外の女にうませた子。五百子の実子はなくなった。織作の血はたえたといった。碧がはいってきた。

セツがでていった。木場がやってきた。葵に川島喜市のことをきいた。不知。茜にきく。しってるが付きあいはない。27年4月になくなた紫は付きあいがあったようだ。紫の死亡後に紫宛の手紙をうけとった茜が雄之介に相談し医者を紹介した。喜市の住所から茂浦の売春小屋の話しとなる。葵が石田とい女性が性的虐待をうけてたと非難する。茜が石田に子どもがいたという。

伊佐間と木場が対話する。目潰し魔の事件を説明する。騎兵隊映画社で新造に頸を絞められていた娼婦、高橋志摩子は喜市らしき男を尾行し映画社に乗りこんだという。この話しには蜘蛛がたくさん登場する。志麻子は紅蜘蛛の異名をもつ。喜市は蜘蛛の使いを名のる。八千代への電話の主も蜘蛛の使いを名のる。川島新造がいいのこした言葉にも蜘蛛がでる。

四谷署の刑事が志麻子誘拐を連絡した。木場ほかが茂浦の小屋にむかった。木場が志麻子は進駐軍特殊慰安施設にいたという。近づくと川島新造と志麻子の影がみえた。木場が川島に喜市のことをきいた。喜市は腹違いの弟。本名は石田喜市。平野が鑿を振りまわし逃走した。小屋の中に志麻子の死体があった。

7

第14日目、勝浦町、聖ベルナール女学院の教員棟の3階で海棠が美由紀を尋問する。美由紀の回想である。小夜子が飛びおりたと思ってのでかけおりた。教師の声で生徒が死んだといった。そこで美由紀が失神した。気がつくと保険医と学長と刑事の顔があった。これまでのことを説明した。本田は無精子症で妊娠させる可能性はない。死んだのは夕子。小夜子は怪我しただけ。碧は黒い聖母をみたことを否定した。美由紀は混乱した。尋問は中断された。次に是亮に呼びだされた。売春の告白をせまった。柴田勇治がはいってきた。一般棟から個室棟にうつった。

小夜子がやってきて美由紀をまもると約束した。翌日、また是亮によばれた。金をだせと脅した。美由紀は呉仁吉に金が必要と手紙をかいた。雄之介の死をしった。その翌日、織作家の葬式で学院に人がいなくなった。美由紀と小夜子が話してるところに是亮がやってきた。売春の元締めは、自分が川野にたのまれて、やとったあの男だといった。さらにまた金をだせといった。小夜子が二日まってくれといった。美由紀は部屋に逃げかえった。泣いてると仁吉がはいってきて、一万三百五円の金をくれた。美由紀は自分の力で真相を究明しようと決心した。

窓の外をみた。自分が監視されてることに気づいた。そして考えた。小夜子は飛びおりた。それを庭で誰かが受けとめた。それは本田の殺害犯だ。黒い聖母は男だ。小夜子は救助者をしってる。そして沈黙する。夕子は自殺か事故死だ。碧が何故偽証したのか。それは碧が蜘蛛の僕の中心人物だから。碧は夕子の裏切りを許さなかった。外に柴田前理事長ほかが教員棟にはいるのがみえた。小夜子がはいってきた。

緊急職員会議がひらかれる。是亮が殺害された。小夜子に黒い聖母は誰かときいた。美由紀は教員棟の柴田にあった。真相を説明した。何故、是亮に脅迫されたのかきかれた。舎監に個室棟にもどされた。その夜、海棠という柴田財閥の男があらわれて売春をしてる者の名簿をだせとせまった。その翌日、学長室で学長と柴田にあった。小夜子の話しもきいたらしい。困惑してた。その翌日に海棠によばれた。回想おわり、冒頭にもどる。

あいかわらず名簿を要求する。小夜子には、もう一日まってくれといわれたという。先日の会議室につれていかれた。不平をいう男がいた。何をすればよいのか。絞殺魔をつかまえるのか、目潰し魔をつかまえるのか。探偵、榎木津だった。海棠をみて下品なことを考えてるという。美由紀をみて、黒い変態が犯人だという。ここにいる益田に詳細を話せといった。ここにいうる杉浦美江の配偶者、炊事場にいる男だという。益田に隆夫が犯人だから、かえってきたら、つかまえろといって、外にでた。益田、杉浦美江がのこった。

写真から隆夫の身元が確認される。益田がこの事件はうまく仕くまれている。隆夫が犯人と指摘されると、また怪しい人物がうかんでくるだろうという。益田は売春をみとめようとしない教員を無視して、美由紀と美江の話しから事件を再構築する。

是亮は弓技のパトロン。学院理事長に就任する際に弓技の情夫、隆夫を職員として採用した。被害者、川野、山本、本田、前島はすべて呪いの対象だった。学院にもどってきた碧に事情をきくこととなった。

碧は前言を訂正して、小夜子は飛びおりた。黒い聖母はみてない。夕子のことは失神してたのでわからないといった。小夜子に事情をきくこととなった。碧は海棠といっしょにいたといった。殺人発生のおそれがあるので、現場にいそいだ。学長に礼拝堂の文字は何とかいてあるかきいた。不知。礼拝堂の裏のお宮にきた。小夜子の絞殺死体があった。海棠がおそわれた。黒い女物の着物をきた隆夫だった。榎木津が海棠救出の事情を説明した。益田はすでに小夜子は死亡してたといった。碧は一瞬おどろいた。榎木津が碧も誰かにあやつれてる。京極堂をよべといった。

8

第15日目、中野である。益田が京極堂の出番を依頼する。京極堂が自分がでていっても事態はかわらないと拒否する。そして、真犯人は次の犯人は葵と示唆してるという。隆夫の話しとなる。

隆夫は犯行をみとめた。売春との関係もみとめた。弓技は昭和27年以前から売春の周旋をやってた。隆夫は、以前少女に助けらた経験があるので、憤慨してた。しかしさからえなかった。27年9月、浅草のいかがわしい秘密倶楽部で弓技と密接な関係となって、手先として学院のおくりこまれた。ここで弓技と対立した。そのため弓技は殺害された。10月半ばだった。本田の非行をしり、小夜子に同情して殺害した。さらに飛びおりた小夜子を救助した。小夜子は隆夫に是亮殺害を依頼した。京極堂が何故小夜子を殺害したかときく。不答。海棠襲撃についてきく。一人の生徒が海棠にメモをわたした。その指示でやってきたら、隆夫におそわれた。京極堂は碧が夕子殺害の容疑者として逮捕され、売春組織は発覚するだろうという。敦子が依頼した調査結果をもってやってくるという。その結果である。

昭和27年春、出版の雑誌である。「近代女性」に前島八千代、「社会と女性」に山本純子、織作葵、「獵奇實話」に川野弓技がでてた。高橋志摩子が「近代婦人」にでてた。京極堂は雑誌に掲載されたことが殺害の動機となってるという。青木が目潰し魔の話しをする。

現在、川島喜市は所在不明、平野は逃走中。多田の行動である。事件の前々日に喜市らしき男がやってきた。着物をはぎとり、質入れする手筈を了解。あらかじめ仕くんでやった。新造の話しである。家出したため川島家では喜市を跡取りとして昭和10年ひきとった。実母、芳江は昭和20年死亡。新造は16年、もどってきた。そのため喜市は跡取りの座をうしなった。喜市からの連絡はあった。しかし27年5月以降たえた。28年1月、ふたたび新造の前にあらわれた。それから騎兵隊映画社に居候することとなった。今回の事件の話しである。

喜市は毎日外出、何かをさぐってた。蜘蛛と名のる電話がかかってきた。事件の前夜、喜市と八千代の長電話をきいていた。事件当日、新造は喜市を失神させて外出を阻止した。喜市が連絡してた男のところにいった。事情をきいて計画を中止といって、自分が身代わりで出かけた。八千代にあった。騎兵隊映画社にもどった。逃走してた。しかし房総の茂浦で喜市をみつけた。喜市の話しである。

零時に気がついた。徒歩で翌朝、多田を発見した。質屋から受けだした。殺人事件をしり逃走した。喜市は27年初夏、千葉をたずねた。そこである人から母が首吊り自殺したことをしった。娼婦扱いをうけたことが原因らしい。しらべると三人の娼婦がうかんだ。彼女たちは芳江の小屋に寄宿し、ついに売春を強要した。それが八千代、志摩子、弓技である。話しがつづく。

まず弓技を発見した。接触をとったとたんに殺害された。仕事をやめ、新造のところに寄宿した。八千代殺害をしった時、狂乱した。志摩子に接触しようとしたが、また殺害されることをおそれた。新造は喜市のため志摩子を引きあわせることとし茂浦につれてきた。京極堂が蜘蛛は長期的に計画をたててすすめてると指摘した。今川がやってきた。

京極堂に仕事をたのんだ。一つは今川がかった神像の鑑定である。もう一つは織作家の呪い、天女の呪いを解いてほしいとたのんだ。了解した。

事情を説明する。葵の名前がでる。関係が浮かびあがる。増岡が職員名簿の中に杉浦隆夫の名前を発見する。厨房の臨時職員に昭和27年9月に採用とあった。京極堂はこれはあらかじめしこまれたもの、杉浦が疑わしいというのが、あらかじめ用意された答という。


参考 事件の展開
日目 勝浦 奥津 その他
27年 12月、目潰魔純子殺害 4月、紫死亡
10月、絞殺魔弓技殺害
5月、信濃町、目潰魔妙子殺害
第1     28年2月、四谷、目潰魔八千代殺害
第2 絞殺魔本田殺害
夕子、小夜子投身
   
第8   雄之介、死亡  
第9 是亮脅迫、小夜子約束    
第11 海棠、美由紀脅迫 絞殺魔是亮殺害  
第12     四谷、志摩子逃亡
神保町、美江榎木津依頼
中野、増岡京極堂依頼
第14 榎木津絞殺魔指摘
絞殺魔小夜子殺害、海棠負傷
隆夫捕縛
目潰魔志摩子殺害  
第15 生徒帰宅   今川、依頼、京極受諾
第18 京極堂、憑き物おとし
2名死亡
京極堂、憑き物おとし
3名死亡
 
4月   京極堂、真犯人指摘  


おことわり

京極作品を未読の皆さん、どうかここを不用意にのぞいて将来の読書の喜びを損なわないよう、よろしくお願いする。 -

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/09/05
  • メディア: 文庫


再度の警告。本文にはいわば「ネタバレ」が溢れている。未読の方にはすすめられない。では本文である。



謎解き京極、絡新婦の理その2




5

第十一日目、池袋である。木場が猫目洞の女主人のお潤と対話する。猫目洞は池袋の場末の酒場で地下にある。川島新造が指名手配になった。旧知の間柄から木場は捜査から外された。事件に関わりがあることは当然だが、川島が身許が簡単にばれる手がかりを与えて犯行に及ぶとは納得できない。不審な点を考える。川島と八千代の関係、騎兵隊映画社にいた女の存在、平野の存在。警察は平野が現場にはいなかったという判断らしい。しかし凶器は同一と断定している。被害者八千代の心理を考える。売春が動機となるか考える。女性運動が動機になるか考える。そして無駄な思考だったと思う。それなら現場に立って考える。蜘蛛にきけといった。眼鏡がどう関係するか。その上につけられた指紋が誰のものか。やはり平野が犯人だと思う。そのために指紋を確かめる必要がある。それに凶器が同一と断定して理由も知る必要がある。監察医の里村に会うことにする。密室の謎に戻る。あの場所は蜘蛛が指定した。蜘蛛が差配するなら平野をあの旅館に送ることができる。川島が部屋から出た直後に部屋に入りこむことができる。三時に川島が出たから犯行に及んだ。川島が戻ったのは眼鏡のためだ。しかし中から鍵が掛けられていたので部屋に入れなかった。そのためすぐ帰った。六時半に多田が外出した。貞輔は玄関口まで行った。それから隣家との壁の間から裏に回ろうとした。平野が邪魔な多田が出ていったので、玄関から外に出た。貞輔は狭間で身動きが取れない時、表で音がするのをきいた。それは多田が戻ったのではなく、平野が出ていった時の音だった。多田がその直後に戻る。木場が八千代は襦袢だけで、衣桁屏風には何もかかっていなかったことを思い出す。

第十二日目となる。零時過ぎであることに気がつく。お潤との話しの中に榎木津、関口のことが出る。一月の終り頃に木場が連てきた降旗弘のことが出る。お潤がその後にまた来た。今度は女連れだという。里美という。里美の住所をきく。降旗に会いたいという木場に渋々教える。猫目洞から十五分、長屋の路地を抜け、古い木造アパートの階段を上り部屋の前に立つ。徳田里美とある。二間の部屋の奥の間の窓際に男が座っていた。近況の話題の後に木場が平野のことをきく。平野は視線恐怖症だ。強迫神経症の一種である。窃視嗜好のある性的倒錯者である。のぞきたいという願望が、のぞかれているという妄想となったという。そうなったのには原因がある。それは彼の亡くなった妻との屈折した関係にあるというい。妻は平野が戦死したと思いこみ別に男を作っていた。復員した平野はそれを黙認した。平野は軍隊時代の非人間的体験により性的不能者となっていた。窃視の欲望は誰にもある、平野の場合はその男との情事を節穴からのぞき視てしまった。そこで異常な性的昂奮を覚えた。そのような情動も誰にあるが平野の場合はたまたま保つべき均衡が崩れてしまった。平野は強く煩悶した。その結果妻の情事をのぞきみていることを秘密にすることとした。それで均衡をとろうとした。しかし妻はそれを知ってしまった。そして自殺した。決定的な罪悪感が平野に付与された。妻を自殺に追いやったということを認めたくないために平野の超自我により非常に強い抑圧が働くこととなった。それが平野の視線恐怖症が発症した原因だという。どう治療したのかきく。不答。

降旗は平野をちゃんと治療していればこんなことにはならなかったという。平野が目潰し魔と確信した発言だった。最初の犠牲者矢野妙子は近くにいて、たまたま視たから被害者となった。平野の使う凶器は尖った鑿である。それは男根の象徴だ。眼は女陰だ。だから殺人は性交の代替行為であるという。木場は女性を殺害する動機となるが、どの女性を殺害するのかを選択する動機にはならないと納得できない。第三者が平野を利用して殺害させていることはないかきく。ないだろうという。木場は本当に平野の動機がわかっているのか自信がなくなる。平野を降旗に周旋したのは誰かときく。平野の知人、川島喜市がある人物から紹介を受けた。その人物は降旗の恩師と親交がある人物であるという。その人物はたしか財界の大物、織作雄之介の次女か三女だという。喜市は印刷工場の一介の職人である。どうしてそのような関係が生じたのかと木場が不審がる。しばらくの沈黙の後に降旗が狙われている女がいる。志摩子だという。里美が蜘蛛に狙われているといっていたという。木場がその女を保護するので、居場所を教えるよう依頼して別れた。木場は駅の近くの焼き鳥屋で夜を明かした。

木場は監察医、里村紘市の外科医院を訪れた。早朝六時前、九段下である。四谷左門町の殺人事件についてきく。なぜ凶器が同一と断定されたのかきく。よく研ぐがれた刃物は刃毀れしやすい。この事件において被害者から凶器の破片が第一の被害者と最後の被害者から発見された。それが同一だったという。つづいて水道橋の同僚の刑事、青木文蔵の下宿に向った。青木を誘って左門町に行く。多田に会うと、木場はまだいっていないことがあるのではないかという。否定する多田に、一連の質問をする。何時に寝るか。夜、八時。玄関には鍵を掛けるのか。否。深夜、客が来るとどうするか。玄関で声がすればすぐ起きる。かりに起きないでも帰る時にはわかる。入口にいるからただでは帰さない。青木と現場検証をする。青木は前島貞輔である。青木が電柱の陰に隠れる。川島役の木場が玄関から出る。潜んでいる青木の姿が見えた。青木が隣家との狭間に入る。一番奥にいった頃、玄関に戻り、中に入って、戸を閉める。十を数え、また戸を開け、外に出て後ろ手に閉める。戻ってきた青木に、何度開閉があったかきく。玄関で音がした程度しかわからないという。不審そうな多田に質屋が近くにあることを確認し、八千代の友禅を受け出すから持っている質札を渡せという。木場が事件の推理を説明する。

平野はまず旅館に侵入した。三時川島が出た。平野が八千代の寢ている部屋に侵入し、殺害した。その際には部屋に鍵を掛けた。川島は置き忘れた眼鏡を探しに部屋にやって来た。鍵がかかっているので中に入れないのでそのまま帰った。そこで多田が目覚めた。多田は残っている女から割増料金をとろと襖の前に居座った。六時半まで待って、襖を蹴り倒して中に入った。平野は中で八千代の友禅がかけられた衣桁屏風の後に隠れていた。多田はあわてて警察に通報しようと出ていった。平野はその時脱出した。その直後に多田が引き返してきた。このふたりの出入りを貞輔は奥でもたもたしていて見ていない。多田は警察に通報する前に八千代の友禅をとってしまおうと決意した。あわてて戻ってきた。その友禅を質屋に持っていって、質入れした。それから警察に通報した。文句をいう青木に多田は割増料金と迷惑料がかかっていると抗弁する。旅館を出て木場は青木に今日は休むと伝言する。木場が川島や平野の動きは判明したが、平野が八千代を殺害する動機が不明である。この事件には背後に糸を引く第三者が存在すると感じている。質屋に向う。

中条質店という店に入る。多田が質入れしなかったかきく。事件があった日、朝八時前にやって来た。加賀友禅だった。それはその日のうちに別人に受けだされたという。多田と入れ違いで入ってきた男だった。それは自分の連れのものだから受けだしたい。川島喜市、千葉の興津町茂浦。年齢は三十前だったという。質屋を出て、四谷署の前を過ぎるとき中から声をかけられた。騎兵隊映画社から逃げた女がいた。警官と悶着を起し、紅蜘蛛お志摩をなめるなと啖呵を切った。

後文............男女の対話をまとめる。男は亡くなった母を思っている。

6

第十四日目、千葉の興津町である。伊佐間と今川が蜘蛛の巣館の墓所にいる。ふたりは是亮殺害からずっとここにいる。四日目である。墓の陰に茜がいた。茜は夫の死後三日間泣きつづけた。警察が呼んでいるという。伊佐間が事件を回想する。是亮の頸が絞められているのを目撃したのは五人。伊佐間、今川、茜、真佐子、耕作だった。かけつける途中で葵と碧が合流し、耕作が庭に回った。耕作は現場に遅れて着いた。セツと真佐子の祖母、五百子のアリバイはない。セツはホールに向う途中だったという。五百子は自室で昼食をとっていたという。九十歳を越えている。ふたりが部屋に入ると刑事と耕作の声がする。刑事はなぜ耕作が犯人を目撃していないのか不審だと責めている。ふたりに気がついた。耕作を解放し伊佐間に事件の朝仁吉の家の前の道で見た蓑笠の男のことをきく。そこに警官が入ってきて絞殺魔が逮捕された。五日前であるという。刑事がこれで是亮絞殺が別人の犯行と判明した。是亮の遺体から蓑から落ちたような藁が数本検出された。その蓑笠の男が犯人だろうという。進展しない捜査にぐちが出る。そこで五百子が窓から女を目撃したということがわかる。刑事が出てゆくと、セツが入ってくる。

ふたりに正直にいうがあまり悲しくないという。今川が質問する。いつからここで働いているか。二十六年から。前の人は是亮に色目を使われたので辞めた。是亮は二十五年に結婚したはずと不審がる今川に、夫婦の秘密を告げる。茜が是亮を拒んだ。そのため起きたことという。さらに謝ってばかりいる茜はいい人かもしれないが、程度が過ぎてかえって人を傷つけている。好きになれないという。それが亭主を駄目にしたという。また、いったん決めたことは変えない、貞女だという。伊佐間が葵のこときく。

好きではないが嫌ってはいない。頭がいい人、しかし立派過ぎる。碧はときく。子どもだという。九つも歳が離れている。その割に可愛がっていないという。紫はときく。来て半年後に死んだ。雄之介に可愛がられていた。死因は。急死、毒殺でもされたようだった。怪しいか。然り。雄之介の場合はどうか。怪しい。前日大声で叱りつけていたのに死んだ。叱ったのは。葵の勉強会のこと。その他に是亮が犯した女学院の金銭横領だった。これには教員が絞殺されるという事件があった時期と重なる。これが醜聞として一部が外に漏れた。騒ぎを抑えるため、かっての理事長、柴田勇治が女学院に乗りこんできた。雄之介が横領で是亮を叱責した時、開き直った是亮が女学院の売春を暴露した。慌てた雄之介が密談に移った。さらにきく。碧は寮住まいか。然り。絞殺事件の後にこちらに戻っている。話しが戻る。翌朝死んでいる雄之介を茜が発見した。妻の真佐子ではない。元々、別々の部屋で寝る。喧嘩はしていないが、ふたりが口を利いたのをきいたことがない。織作家の将来の話しとなる。セツが織作の血はとっくに絶えているという。真佐子の亡母、五百子の娘、貞子は、先々代の嘉右衛門がどこかの女工に生ませた子である。五百子の本当の子どもは亡くなった。だから今の織作家の人々は。皆養子と女工の子孫である。ここまでいって突然沈黙した。

碧が登場した。いそいで退場するセツにお喋りを注意する。ふたりにこの家は冒涜の家だという。突然、木場が入ってきた。四谷署の刑事が同行している。千葉の刑事とのやり取りの後に、葵を呼ぶ。木場が川島喜市のことをきく。不知。茜を呼ぶよう頼むとともに、目潰し魔の平野が最初の犯行直前に精神神経科の医者に診てもらった。その医者を周旋したのが川島喜市だ。紹介を受け医者を訪問している。紹介者は織作家の次女か三女という。その医者は現在、脳溢血で昏睡状態であると事情を明かす。葵が若干の皮肉をこめて論敵だったという。そしてフロイトと女性蔑視の思想を批判する。その後に診断した精神科医が平野の行為をどう説明したのかときく。それをきいて批判する。木場が葵が平野のことを知っているのかときく。不知という。葵は川島も知らないという。木場が川島が平野を隠れ蓑にした殺人犯である可能性があるという。葵が茜を呼んでくるという。茜が深々と頭を下げて部屋に入ってくる。

木場が川島を知っているかときく。知っているが、付き合いはない。付き合いがあったのは二十七年四月に亡くなった紫であるという。平野が診察を受けたのは五月である。茜が四月半ば頃に紫宛の手紙を受けとった。雄之介に相談して医者を紹介することとした。雄之介は川島を知っていたようだった。川島を知っているふたりが亡くなっているという事実に木場が溜め息をつく。受領した手紙は遺品の中にあるだろうという。川島からはその後の連絡はない。紫と川島との関係は不知という。葵が茜は薬学の学校に通っていたから、外部に知人がいるが、紫はまったく家庭的な人柄である。知人がいたとしたらこの地域の人間に限定されるという。もしかしたら五百子に心当たりがあるかもしれない。木場が呼んでくれと頼む。さらに今は存在しない。しかし、引っ越したとか、一族係累が死に絶たえという家がないかきく。伊佐間が茂浦の小屋のことを思い出す。葵も知っている。木場が質屋からきいた喜市の住所が一致することに気がつく。この小屋には葵が婦人と社会を考える会として関心を持っていたという。そこにいた女性、石田は地域の男たちから性的虐待を受けつづけていたという。それは夜這いのことである。石田は囲われた女であり、地域で孤立していた。その弱味につけこんで虐待が続いたという。葵の非難の言葉が終ると、茜が石田に子どもがいたという。たぶん二十八歳であるという。仁吉と耕作からきいた話しが説明される。昂奮する木場の前に耕作が登場した。電話だと知らせる。四谷署の刑事が出てゆく。

伊佐間が木場に声をかける。察した木場が目潰し魔の事件を説明する。騎兵隊映画社で新造に頸を絞められていた娼婦、高橋志摩子が喜市らしき男が志摩子を探していた。そこで遭遇した志摩子にしきりに昔のことをきく。隠していた住所もついに知られた。そこでこっそり尾行した居所を突き止めた。そこで騎兵隊映画社に乗りこんだ。この話しには蜘蛛がたくさん登場する。志摩子は紅蜘蛛の異名を持つ。喜市は蜘蛛の使いを名乗って志摩子を探していた。八千代への電話の主も蜘蛛の使いだ。新造が言い残した言葉に蜘蛛にきけとある。ここに平野が加わる。複雑の構造に木場が悩む。黙ってきいていた今川が話しだす。ときおり、木場が質問する。

この事件では誘いだして寝かしつける役、着物を剥ぐ役、殺す役と分担が分れていた。喜市は着物を盗み、足止めをする。殺人は当然不知。盗んだことを確認するため多田を追いかけ質屋に行ったのは自然な行動。また被害者の身許、住所を確認をする役でもある。新造は誘いだし、連れこむ役である。殺人は不知。従って身許を隠す必要を感じなかったから大胆な行動と見える。なぜ喜市が客の役までやらなかったのか。事前に多田に着物を持ちだしてほしいと依頼していた。顔を知られていたからではないか。新造は被害者が眠ったら即座に帰る役だった。それが殺人犯、平野が侵入する合図となった。ところが平野が中から鍵を掛けたので多田は中に入れなくなった。ついに蹴り破って中に入り死体を発見し驚いた。警察に通報しようとして飛びだし、途中で引き返し戻ってきた。着物をとり、それを質入れした。この質入れも事前に打合せ済みだった。木場が今川の説明に感心する。

そこに四谷署の刑事が志摩子が誘拐されたと知らせる。犯人は新造のようだ。今川、伊佐間、四谷署の刑事、千葉県の刑事、茜、耕作がいるところで木場が茂浦の小屋に行くといい、伊佐間に案内を求めた。関係者が動くことについて、千葉県の刑事から文句が出た。しかし碧が蜘蛛の巣館を出ようとする場面が目撃された。強引に木場が外に出た。そこに茜がやって来て、耕作に詳しい道順を説明させた。木場、四谷署の刑事、伊佐間、今川が向った。途中で木場が伊佐間に志摩子への同情を示し、戦後の裏面史、進駐軍特殊慰安施設の設立と閉鎖、赤線、青線への変遷を説明した。志摩子はこの慰安施設にいたという。今川が八千代もここにいたのではないかという。仁吉の家を過ぎて、丘の上に小屋が見えた。木場が伊佐間と今川にこれで帰れといった。ふたりの刑事が叢に隠れた。伊佐間、今川も帰りそびれた。新造と志摩子の影が見えた。木場が川島を呼び止めた。小屋の前で対峙した。川島が小屋の中の喜市に逃げろと呼びかけた。志摩子が小屋の中に入った。川島を抑えて話しをきく。喜市は腹違いの弟、本名は石田喜市である。弟は蜘蛛と名乗る女にだまされた。無実だという。木場は現場で拾った眼鏡を渡した。小屋に変な気配を感じた。のぞいた伊佐間が尻餅をついた。平野が鑿を振り回し、逃走した。木場が小屋の中に志摩子の死体を発見した。

7

第十四日目、千葉の勝浦町である。聖ベルナール女学院の教員棟の三階の小部屋で海棠卓に美由紀が訊問されている。売春のことを殺害された是亮からきいている。内聞に済ませるから正直にいうようにという。美由紀は十二日前、本田が殺害された夜からのことを回想する。美由紀は小夜子が屋上から身を投がたと思ったので碧を押しのけて階段を駆けおりた。二階で舎監に止められた。押し問答をしていると上から悲鳴がきこえた。下から男の声がした。舎監と美由紀が中二階の踊り場に来た時、玄関から教師が入ってきて、生徒が死んだといった。そこで美由紀は意識を失った。どこかの部屋の寝台の上で覚醒した。

保険医と学長と刑事の顔があった。美由紀は見聞したことから、本田の悪行、小夜子の煩悶、お宮への願掛け、投身、黒い聖母の目撃を話した。刑事は死んだ娘が妊娠していたが、本田は無精子症であるので父親の可能性はない。碧は黒い聖母を見ていないといっているといった。刑事とのやりとりの中から死んだのは夕子であること、小夜子は怪我をしているが命に別状はないことがわかった。小夜子は夕子を探しにでて夕子が落下してきたのにぶち当ったといいっているといった。美由紀はあまりの意外さに正常な思考が働かなくなった。刑事はいったん事情聴取を断念し引き揚げた。次にこの部屋に是亮に呼び出された。売春をしているのは誰か話すようにいった。自分は渚の経営者、川野のパトロンだったので売春のことは知っているといって話すように迫まった。是亮は昂奮し美由紀は失神しそうになった。そこに元理事長の柴田が入ってきた。是亮を突き飛ばして美由紀を救助した。是亮は真相を知っているという。柴田は話しをきこうといって、美由紀を海棠に預けた。

舎監がやって来て、これまでの一般棟から個室棟に移動させられた。そこに小夜子がいた。美由紀に謝り、何もきかないでといった。妊娠のことを警察に話したのかといきかれたので、いったといった。美由紀が謝ると、小夜子はそれを許し、もう自分には呪いも魔術を必要ないといった。さらに美由紀のことを護ってあげるといった。

翌日、また是亮に呼ばれた。本田を殺したのは誰か。売春の元締め役は誰かときいた。答えない美由紀に、あきらめて、自分は金が必要だ。金を出せといった。そこに海棠が顔を出した。是亮の立場が危うくなっているといった。その夜、美由紀は祖父の仁吉に金を貸してもらいたいと手紙を書いた。その翌日、手紙を舎監に託した。午後、雄之介の死を知った。さらにその翌日、織作家の葬儀に出かけたので学院は人がいなくなった。美由紀と小夜子は噴水の端に腰掛けていた。是亮がやって来て、売春の元締めは、あの男、自分が川野に頼まれて雇った男だとわかったといった。もう売春のことはいい。金が要るからよこせと迫まった。小夜子が二日後にいうとおりにするといった。是亮は教員棟の方に立ち去った。小夜子が大丈夫だ。黒い聖母がきいていたからといった。急に小夜子が怖くなって部屋に逃げ帰った。丸一日そこで泣いた。誰かが扉を叩いた。祖父の仁吉が入ってきた。仁吉は美由紀に一万三百五円を渡し、世の中に不思議なことなどないといった。達者でな。外は春だといって立ち去った。美由紀は自分の力で真相を究明しようと決意した。立ち上がって窓の外を見た。

美由紀は聖堂の横手に制服の人影を見た。蜘蛛の僕のひとりである。ここ数日、監視されていた。記憶を確認して熟考した。小夜子が屋上から飛び降りた。庭にいた誰かが受けとめた。だから助かった。それは男である。それを名乗り出る者がいないのは理由がある。それは本田殺しの犯人が救助者だからだ。黒い聖母は実在する。男だ。それと小夜子は屋上に上る際に遭遇した。小夜子は救助者がその男だと知っている。だから小夜子は沈黙を守る。夕子のことを考える。夕子は美由紀が屋上を離れた後に墜落死した。それは自殺か事故死か。碧の偽証を考える。なぜか。小夜子のことを偽証した。黒い聖母を見てないと偽証した。夕子の死も蜘蛛の僕による殺人かもしれない。碧は蜘蛛の僕により偽証を強要されたのか。否。碧が偽証するのはこの事件全体をよく知っていて、偽証することが好都合であり、偽証してもそれと指摘されるおそれがないと確信しているからだ。百合子が思わず「おり」と口走ったのは、織作のことだ。碧こそ蜘蛛の僕の中心人物だ。夕子は新聞切抜きを見た時、驚いた。それは碧に恐怖したのだ。美由紀は真相に達した気がした。碧は夕子が美由紀と小夜子を仲間に引き込む気がないことを察知した。裏切り者を抹殺する絶好の機会を逃さず実行した。碧は屋上から小夜子とそれを救助した黒い聖母を目撃した。そして偽証した。小夜子のことを考える。

小夜子は変わった。夕子のことをはっきりさせるといったのは、碧が殺害したことを告発しようということである。それは黒い聖母が自分を助けてくれると信じてたから。否。それだけでない。ふたりの間に何らかの約束が交わされているからだ。是亮に小夜子が二日後と約束したのもその約束があったからだ。その時、外に見慣れない集団を見た。

柴田前理事長を先頭にした男の集団が教員棟に入っていった。小夜子が部屋に入ってきた。緊急職員会議がはじまるといった。是亮が殺害されたといった。美由紀を護るといったが、今度 は夕子の仇を討つのだといった。美由紀が黒い聖母は誰かときいた。小夜子はあの人は黒い聖母、自分の望みをきいてくれる悪魔だといった。美由紀は部屋を出て教員棟に向った。会議中の柴田に無理をいって会った。美由紀が真相、自分の考えを話した。側にいた連中はまったくとりあわなかったが、柴田は真面目にきいてくれた。柴田がきく。なぜ是亮に恐喝されたのか。うまく説明できなかった。美由紀は舎監により教員棟一階の新しい部屋に閉じこめられた。その夜、海棠卓が現われて売春をしている者の名簿を求めた。その翌日、学長室に呼ばれ学長と柴田に会った。小夜子から事情をきいたらしい。美由紀の話しに真実があることを認めざるを得ないが、いっていること全体は信じられない。これからどうすれば良いのか困惑していた。その翌日、海棠に呼ばれた。冒頭部分に戻った。

相変らず名簿を要求する。知らないといっても納得しない。海棠がもうすぐここに探偵がやって来るという。小夜子にもきいたが、もう一日待ってくれといったという。嫌がる美由紀を先日の会議室に連れていく。正面に柴田、左右に学長、教務部長、事務長、それに美由紀に背を向けた男が一人いた。男はこの事件は自分には不向きだ。父に無理強いされて来たが、期待していた女学生はいないと文句をいっている。自分はここに何しに来たのかわからない。ここに助手の益田がいるから何とかするだろう。絞殺魔を退治すれば良いのか、それとも君の彼女を殺した目潰し魔を捕まえればよいのかという。柴田が一瞬怪訝な顔をする。海棠と美由紀に気づいてこちらに来るように合図をする。榎木津が美由紀に気づく。海棠に下品なことを考えているという。柴田が榎木津を紹介するとともに海棠を柴田グループの者と紹介した。榎木津は美由紀を見て、黒い変態が犯人だという。その黒はたぶん鍋の底の煤だ。美由紀にここにいる益田に詳しい話しをするよういうと、立ち上がった。驚いた柴田がきく。名前は知らない。その配偶者という炊事場の男はまだ戻ってきてないのかときく。杉浦美江が、杉浦と補足する。隆夫は買い出しに行っているとわかる。美江に隆夫に女装の趣味はないかきく。否。榎木津は益田に隆夫が犯人だから、帰ってきたら捕まえるよういって外に出た。

益田、杉浦美江が残った。美江は写真を見せる。隆夫が確認される。隆夫が犯人なら葵に済まないという。柴田がどうして榎木津に犯人がわかったのかという。益田が自分にも不明だが、この事件はよく仕組まれている。怪しい人物を探って次々、怪しい人物が浮かんできて、犯人が指摘できる。それは事前に用意されているように思えるという。隆夫がまず怪しまれて、犯人として捕まる。すると次の捕まえるべき犯人が浮かぶだろうという。柴田が榎木津がこのことを何といっているかきくが、益田は榎木津はただ結果をいうだけ、その過程、理由はいわないという。榎木津の指示のとおり美由紀が益田に事件のことを説明する。柴田は熱心にきいたが、その他の連中は関心を示さない。益田が美江に弓技のことをきく。噂が事実だったという。益田が生徒が売春婦だったから警察には把握できなかったという。売春を認めたくない発言があるが、益田は美由紀と美江の話しから事件を再構築する。

是亮は弓技のパトロンであり、学院の理事長に就任する際に、頼まれて、弓技の情夫であった隆夫を職員として採用した。隆夫は弓技の前で淫らなかっこうするほどの特殊な関係を持っていた。弓技が殺害されたとき警察が不明だといっていたのは是亮のことだと柴田が認めた。目潰し魔の話しをする。美由紀の話しから今まで関係がないと思われていた被害者の関係が明きらかになってきた。すべて呪いの対象であったという。海棠が呪いは生徒の虚言に過ぎない。目潰し魔などどうでもいいといった。その失言に柴田は山本が被害者となっだといって、大いに怒った。益田が美由紀に目潰し魔の第四の被害者、八千代のことを確認した。夕子が弓技の仲間だったといっていたという。学院や柴田グループにとっては不都合かもしれないが、この関係は益田は公表すべきことという。柴田は警察に通報しようという。益田は碧に事情を確認してからするほうがよいという。異論があったがきくことにした。碧は蜘蛛の巣館にいたが、今日ここに来ることとなったという。海棠がひと言断って退室した。碧が部屋に入ってきた。

碧は柴田がきく前に自分から前言を訂正して、小夜子が飛び降りたことを認める。小夜子に事情があるのだろうから、自分からいうのは控えた。夕子の飛び降りの時は気絶していて知らない。黒い聖母も見ていないという。美由紀はこれでは自分の発言の大事な部分が信じてもれえないと感じた。小夜子のことが気になった。小夜子に事情をきくか問題となる。事件を内聞にしたい学院の雰囲気に怒り、美江が性的虐待も含めて事情をきくべきという。柴田がきこうという。碧が海棠といっしょに歩いていたという。美由紀が海棠が殺されるという。益田も是亮が殺された時の事情と同じてあることに気がついて同意する。黒い聖母への呪いを認めたくない学院の連中に益田が殺人があった以上、犯人がいる。それが黒い聖母かそうでないかはともかく、犯行を重ねる危険性があるという。碧がふたりは黒い聖母のお宮の前にいたという。柴田と益田を先頭にして全員が移動する。美由紀が途中で学長に礼拝堂の浮き彫りの文字は何と書いてあるかきいた。不知。星座石から裏手に出る。礼拝堂の真裏、お宮、その後に林がある。そこで誰かが争っている声がする。益田が林にわけ入る。美由紀がお宮に近づく。何かにつまづく。小夜子の絞殺死体だった。その時、上から女物の着物の人物が転がって、もう一人の人物に襲いかかった。黒い聖母と海棠だった。榎木津が黒い聖母をひき剥がした。なおも暴れる男から着物を剥がすとすぐおとなしくなった。隆夫だった。榎木津が説明する。

榎木津が学内を見学するため散歩していた。林の中に入り、お宮の方を見たら、不審な男がうすくまっていた。その横に少女が死んでいた。しばらくすると海棠がやって来た。この男が海棠に襲いかかった。そこで自分が止めに入ったという。益田が小夜子はすでに死んでいたと確認する。一瞬、驚きの表情を見せたが碧は見間違いをしたといい、隆夫に対し許されないことをしたと非難した。榎木津は碧になぜ死んでいるのを知らせなかったのかきく。不答。しばらくの沈黙の後で、碧も誰かに操られている駒かといって、益田に自分は誰かに操られるのは嫌だ。京極堂を呼べといった。

8

第十五日目、中野である。益田が京極堂の座敷で榎木津の依頼を伝える。例によってけんもほろろに断る。そして不思議なことをいう。京極堂が出て行っても何も事態をよくできない。出て行く意味がないという。例え話をする。益田が上京しなかったとしたら、状況がどうなったか考える。美江が榎木津に依頼し、それに直接に対応する。その直後に増岡が来訪し、単独で京極堂を訪問する。その後の展開は時期の遅い早いはあってもいっしょだ。職員名簿は発見され、榎木津の父親が榎木津に無理強いして、やはり学院に乗りこむ。乗りこめば隆夫を犯人と名指しする。益田は事件の背後にいる真犯人が用意する次の目的に到達するのを促進したという。益田は真犯人の意図がわからない。京極堂が真犯人は暗に次の犯人を名指ししている。それが葵だという。目潰し魔の話しとなる。京極堂が新たにもうひとり殺した。ちょうど榎木津が隆夫と格闘している時だという。今川から京極堂に連絡が入った。そこで知ったらしい。京極堂が真犯人の最終の目的はわからないという。隆夫の話しとなる。

着物を剥ぎとられてから、素直に本田幸三、織作是亮、渡辺小夜子を殺害し海棠卓を襲ったと告白した。自分は人間の屑だといった。弓技との関係、売春への関与を認めた。学院はまだ売春との関係を否定している。杉浦の発言は虚言と主張し警察への引き渡しを拒否している。碧の話しとなる。学院も柴田も碧の証言を信じている。益田があれは黒魔術の力だ。警察の手に負えない。京極堂が話しだけはきくという。弓技は昭和二十七年以前から生徒に売春を周旋していた。隆夫はそれをきいて非常に憤慨した。というのは以前に女子学生に命を助けられた経験があるからという。少女を崇拝していた。しかし弓技にはさからえなかった。昭和二十七年の九月、浅草のいかがわしい秘密倶楽部で弓技と知り合った。八月に家を出た隆夫は浮浪生活の後にこの倶楽部の皿洗いをしている時に弓技が隆夫を貰い受けた。弓技は加虐嗜好者、隆夫は被虐嗜好者である。弓技が隆夫の適性を見抜いて引きとった。隆夫はすっかり弓技に支配されてしまった。そこで弓技により学院に手先として送りこまれた。それで売春は月一度から週一度の頻度に高められた。しかし隆夫はここで弓技に反逆した。軋轢が生まれ、夕子がいっていたように呪いの儀式の後に殺害された。それが十月の半ばだった。隆夫は今度は蜘蛛の僕に完全に従属することとなった。隆夫にとっては贖罪の意識からしたことという。隆夫は小夜子が性的虐待を受けている現場を目撃したことがあったという。小夜子のこと気にかけるようになった。小夜子が蜘蛛の僕に近づこうとしているのを懸念し、その前に本田を殺害した。女装については意味不明である。小夜子を下で受け止たことも認めた。隆夫は自分の判断で行なったことといったが、小夜子は願いをきいていたことを悟った。是亮について小夜子は隆夫の殺人の依頼をしたという。隆夫は是亮を学校から尾行した。女装し仕事の際に使う蓑笠を着けたが途中で見失なったので蜘蛛の巣館に直接行った。人が多いので避けるため寺に行って、そこで夜明かしをした。翌朝、屋敷に忍びこみ庭に潜んでいた。昼帰宅した是亮を殺害したという。なぜ小夜子を殺したのかと京極堂がきく。隆夫はただ泣くばかりで理由は語らないという。不審が解消されないまま、京極堂が次の犯人に指名されているのは葵だろうという。

京極堂が隆夫の証言の疑問点を指摘し真相を推理する。隆夫は小夜子の動きを事前に盗み見しそれを蜘蛛の僕の中心人物に報告していた。犯人は隆夫が小夜子のため本田を屋上で殺害し、その現場で夕子も自殺に見せかけ殺すという仕掛けを用意していた。ところが小夜子が突発的に投身自殺を試みたので予定どおりとならなかったという。京極堂が海棠の証言についてきく。小夜子に会おうと構内をうろついていると、一人の生徒がやって来て紙片を渡された。その指示で礼拝堂の裏手に行ったら、隆夫に襲われたという。京極堂が碧は夕子殺害の容疑者として逮捕され、売春組織は発覚するだろうという。だから自分の出番はない。また真犯人の役に立つのは嫌だという。真犯人の最後の目的は何という話しとなる。結局わからない。

京極堂が敦子に調査を依頼した。やがてやって来るという。夫人に茶を所望し、それを飲みながら書物に没頭した。益田は座卓の下にあった画図百器夜行、前編、陽を開けた。絡新婦の絵があった。女郎蜘蛛のことである。京極堂の解説がはじまった。蜘蛛の妖怪は土蜘蛛系と水蜘蛛系に分かれる。女郎蜘蛛は水神系である。益田の質問を受けながら話しが進む。何故水神系が。糸を紡ぐから。糸を吐くから機織りを連想した。機織りは水神につながる。水神は七夕につながる。たなばたは、田の端、または種播(たねばた)であり、水口のこと。神のまとう物忌み布を手巾(たな)という。これは水辺に湯河板挙(ゆかわだな)を作ってその上で機を織る習慣があったから。それを織る娘を棚機津女と呼ぶ。その昔、機織りは生活に密着していた。娘たちは十五、六で機を織った。さらに機織りは水神を祀る神事でもあった。身体のもっとも汚れるところを覆う布を桟橋の上で織る。これは古くは、海べや海に通じる河川、湖沼などの斎河(ゆかわ)で水上に張り出した棚造りの小屋に神の嫁となるべく選ばれた兄処女(えおとめ)が籠り、訪れる神のために機を織って神の来訪を待つという。水べによりくる神を迎える神事の転じたもの。この機織り女が織姫の原形のひとつとなった。話しは続く。

この棚機津女が一方で星祭り神事と習合して七夕となり、他方で水神の人身御供伝説などに転換してゆく。人里離れた水べに住んで機を織る神の嫁は妖怪化して水の底で機を織る女の伝説に変容する。淵の底の女はそのうち水面から糸を繰りだすようになる。これが蜘蛛の伝説につながる。天人女房の話しとなる。鶴の恩返しと同様の異類婚姻譚である。これらには機織りが共通する。ここから蜘蛛女房という伝説が共通のものとして入って来る。京極堂がここで思いついた話しをはじめる。鉄と遊女である。そして遊女と機織りだ。遊廓は境界、水べにある。機織女は神の嫁、つまり神聖な遊女、巫女だ。天人女房伝説は神の嫁を人が娶る話しだ。天人女房もまた近代化や貨幣制度の導入によって民俗社会のルールが破壊されて行く過程にできた物語だ。難解な話しがつづく。

近代買売春の発生と同根だ。性の問題を考えるなら、姑獲鳥の伝承と同じように生殖と性衝動の乖離と同根の問題がある。だからこそ女郎蜘蛛は子どもを伴なって出現する。京極堂が女郎蜘蛛の正体がわかってきたという。女郎蜘蛛は古くは棚機津女、巫女だ。さかのぼれば木花咲夜毘売や石長比売といった神女だ。近代化によって民俗社会は緩やかに崩壊し巫女は娼婦になった。かって存在した神性が貨幣に置き換えられた。彼女たちから神性が剥奪され、代わりに恥辱が与えられた。巫女は女郎になった。売買春は経済的な搾取であり、女性たちの持っていた神性の剥奪だ。結論部分がはじまる。産業革命が力織機の開発によってもたらされたというのは皮肉な符合だ。女性から神性を剥奪することにより成立した近代男性社会に女性たちは機を織ることで参加した。本邦においてもまた女工は機を織った。女郎と蜘蛛の掛け合せ、淫売と女工、まさに女郎蜘蛛は近代女性史の暗部を先読みするような妖怪だ。沈黙の時間が過ぎて、敦子が入ってきた。

調査の報告をする。これは警視庁の青木が京極堂に依頼して、敦子が調査したものである。まず、資料を示す。昭和二十七年春に出版された雑誌、近代女性の三月号、同じく雑誌、社会と女性と獵奇實話である。京極堂が調査の発端を話す。前回の増岡と益田の訪問の後に、目潰し魔の新聞記事を読んだ。被害者の名前にひっかかった。気になって警視庁に連絡して、一昨日青木と話したら、関心を示し調査を頼まれたという。近代女性から貞女の鑑という記事に登場するのが前島八千代である。次に婦人解放の論文ばかり掲載している雑誌から学院の舎監だった山本純子を見つけた。その中の別の場所に織作葵の論文も発見した。獵奇實話に浅草高級秘密倶楽部潜入記の記事があった。そこに川野弓技が実名で登場している。敦子が高橋志摩子について説明する。近代婦人が二十七年の夏に売春全面禁止の議論に資するため、赤線従業婦を含む様々の人の意見を集めた。そこに高橋志摩子は従業婦として自分の意見を実名で堂々と主張している。京極堂が被害者の四人はすべて記事に登場した。雑誌に掲載されたことが殺害の動機となっているという。そこに警視庁の青木がやって来た。

京極堂に求められて目潰し魔事件について話しだす。現状は川島喜市が保護されておらず、平野も逃亡中である。概要は木場が推理したとおりである。多田マキの話しをする。予めその晩そこを訪れた客の衣類を剥ぎとる計画ができていた。殺人はまったく関知していない。事件の前々日喜市らしき男が来訪した。大店の妻が男遊びをしているので罰を与えたい。女が来たらすなおに座敷に通す。客は女が寢たらすぐ帰るから、部屋を出たすぐ後に、上着を盗んでほしい。女は上着を貸してくれというだろう。しかしけっして貸さないでそのまま追い出してほしいといった。マキは嫌がったが着物を質屋で換金し、それを手間賃としてとってよいというので了承した。ただしその男が着物は後で受けだして女に返却するという。当日、客が帰った後に部屋を開けようとしたが鍵が掛かっていて開かない。待っているうちに、なかなか起きてこない女に腹が立って襖を蹴破って中に入った。死体を発見して、いったんは警察に向ったが、引き返して着物を持って質屋に行き、警察に通報した。川島新造の話しとなる。

新造と喜市との関係である。喜市は戸籍上は川島喜市。新造の父、川島大作とその内縁の妻、石田芳江との間に生まれた。昭和元年のことだった。新造の母は大正十二年に死亡。大作は婿養子であり、すでに新造がいるので芳江は内縁のままだった。大作は芳江のため房総に土地を買い求め生活費を月々送付した。喜市は興津町茂浦の小屋で母子二人の生活を昭和十年まで過ごした。そこで問題が生じた。新造がグレて家出をした。この結果、喜市は跡取りとして川島家に引き取られた。芳江は一人となった。夜這いの噂はこの頃の話しと思われる。昭和二十年芳江は孤独な人生を終えた。新造である。たぶん昭和十六年頃、ふらりと戻ってきた。喜市は跡取りの座を失なった。新造はこのことに深い負い目を感じている。芳江には申し分けなく、喜市には不憫なことをしたと思っている。しかし喜市は新造を兄として慕っていた。戦後、喜市は職をたびたび変えたが常に連絡はあった。その連絡は喜市からの一方的なものであったので新造は必ずしも住所を把握していない。それも昭和二十七年五月以降、連絡が絶えてしまった。その時期は平野の最初の事件が起きたときであった。新造は喜市が平野の友人であることはまったく知らなかった。再び新造の前に現われたのは二十八年一月だった。ずいぶん思い詰めた様子だった。新造の騎兵隊映画社に居候することとなった。これから今回の事件の話しとなる。

喜市は毎日のように出かけて何かを探っているようだった。電話も多くかかってきた。新造も何度か受けたことがあった。かけてきた女は蜘蛛と名乗ったという。新造は喜市が蜘蛛という女に操られてよからぬことに手を染めたと心配した。事件の前の夜、新造は八千代と喜市の長電話をきいていた。敦子の疑問に青木は八千代には過去に売春をしたという暗い過去があった。長電話に出ざるを得なかったという。過去を暴かれたくなかったらいうことをきけという。喜市は昔と同じように客をとれ。値段は自分で決めろ。その値段は低くしろといったという。事件の当日の夕方、喜市が外出しようとしているところを、新造が何をしようとしているのか問い詰めた。喜市は答えなかった。心配のあまり顔を殴ってまでききだそうとした。しかし答えなかった。やむ得ず喜市を当て身で失神させ、町に出た。新造は喜市がその前の日に町のごろつきを一人雇ったことを知っていた。その男の話しである。

明晩、十時三十分、四谷の暗坂の入口に女がいる。その女を買え。女の値段は安いので喜市が渡した金でお釣りがくる。それは男がとれといったという。ただし条件がある。必ず女を抱くことと、何とかして女を眠らせて先に宿を出ることである。喜市は男に睡眠薬を渡していた。それと同時に多田マキには水差しと湯飲みを用意するよう指示していた。新造は喜市が渡した金をそのまま男にやり、計画は中止だといった。新造が身代りになって四谷に向った。八千代に会ったら事情をきこうと思っていたが、すぐ宿に行こうといった。宿で事情をきいてもはっきりとしたことは答えなかった。その後は木場が推理したとおりだった。

先に宿を出たが黒眼鏡を忘れたことに気がついて、取りに戻った。しかし部屋には鍵がかかっていた。中に向って外に尾行がいるといった。その後に騎兵隊映画社に帰った。そこにいるはずの喜市は失踪していた。喜市を探して町を彷徨し、戻ったところに志摩子が怒鳴りこんできたという。志摩子が蜘蛛だと思ったので昂奮して襲いかかった。そこに四谷署の刑事が踏みこんできた。刑事が八千代殺しの犯人だといったので喜市の犯行だと誤解し、逃走した。警察の眼を潜りながら喜市を探し、ついに房総の芳江の家に至った。そこに喜市を発見し、事情をきいた。喜市の話しである。

気絶していた喜市は零時に目覚めた。四谷に徒歩で向った。朝、宿に着く前にマキを見かけた。尾行して質屋に至った。衣類を受けだし宿に向った。そのとき新造が身代りとなったことは知らなかった。殺人事件を知って、ただちに逃走した。小屋で新造は殺人犯人と思い問い詰めた。喜市は殺人を計画したことも、実行したこともないと強硬にいったという。新造もそれが真実だと青木にいったという。敦子は納得できなかった。青木も喜市には動機があり得るという。新造からきいた話しである。喜市は二十七年初夏、千葉を訪れた。最初の目潰し魔事件の直後である。そこで喜市はある人から母の死を知らされた。首吊り自殺だった。その原因は多数から娼婦扱いを受けたからという。ただそれを誰が教えたのかは不明である。なぜ娼婦扱いを受けたのか。蓄えがあり、内職をやり、質素に暮らしていたので、貧窮が原因ではない。調べるうちに三人の娼婦の存在に行きついた。彼女たちは千葉に流れてきて芳江の小屋に転がりこんだ。そこで売春をし、芳江にも強要したらしい。そのような証言を得たという。喜市は母親はこのさんにんの娼婦により殺されたと考えた。それが八千代、志摩子、弓技である。話しがつづく。

千葉を中心に探索をつづけていた喜市は、小屋近くに住む弓技に至った。喜市が弓技に接触を持ったとたんに十月半ばに殺害された。驚愕したがこれは天罰と考えた。残りのふたりを追求した。そのため仕事を辞め新造のところに寄宿した。八千代が殺害されたことを知ったとき、喜市は狂乱した。喜市は今度は志摩子に接触しようとすると、それだけで殺害されるのではないかと、むしろ怖気づいたという。新造は喜市に平野が復讐の手伝いをしている。心当たりがないのかきいた。喜市は最初の事件の時、平野の逃走を助けたらしい。喜市はそのお礼のつもりかもしれないという。ただし平野が喜市の母親の不幸の原因をまったく知らないという。志摩子の話しとなる。

喜市があまり怯えるので志摩子を連てくる。引き合わせるので直接本人からきけと提案した。新造は東京に戻り警察の眼を潜り連れだした。志摩子は芳江の小屋に住んでいたことを認めたが、その時はすでに空家であったという。喜市の殺人関与について議論される。京極堂が弓技が平野により殺害されたと世間に知られたのは山本殺害の報道以降である。喜市がそれまで弓技殺害を平野の犯行とは知らなかたという。京極堂が喜市は八千代に屈辱を与えようとしただけ、殺意はなかったという。益田に向っていう。これは学院で起きた事件と同じ構造を持っている。喜市を小夜子に、新造を美由紀に平野を隆夫に比定すればわかる。小夜子は本田、是亮を殺してほしいと怨んでいた。小夜子の願いをきいて殺人を実行したのが隆夫である。小夜子の身を案じて新造と同じように嫌疑を受けたのが美由紀である。小夜子は隆夫と面識がある程度で正式に殺人の取り引きをしたわけではない。そして隆夫も小夜子のために殺したわけではないらしい。これからいえば平野は喜市のために殺したのではないということになる。隆夫の背後に碧の存在があるように、平野の背後にも誰かが存在することになるという。小夜子の殺害の話しとなる。比較から喜市が殺害される可能性があると青木がいう。背後にいる蜘蛛の存在と意図について議論される。

京極堂が蜘蛛の目論見は長期的なものだ。すいぶん前から手を打っている。喜市にたいしては過去を都合よく改竄して説明し操った。本田にも何らかの形で追いこんで小夜子が殺したいと思うほどの怨みを作りだすように仕組んだ。蜘蛛は本田、是亮、弓技にたいして直接的間接的に働きかけている。しかし具体的な犯罪行為には関与していない。京極堂が蜘蛛の計画は蜘蛛の糸を張り巡らしたように仕組まれているという。一同が感に湛えない様子となる。そこに今川がやって来る。京極堂にたいし仕事を依頼する。一つは、今川が買った神像の鑑定である。もう一つは織作家の呪いを解いてほしい。織作家には天女の呪いがかかっている。碧に警察の手が及ぼうとしている。真佐子は家を護るため、葵は体面を保つため碧を切り捨てようとしている。茜は碧を擁護しようとしているが孤立している。このままでは織作家は崩壊する。京極堂の質問に答えて伊佐間が心配している。今川はそれを見かねて依頼にやって来たという。京極堂が引き受けることを了承する。敦子に織作家の家系、家族構成員を徹底的に調べるよう指示する。益田に榎木津が学院にいることを確認して立ち上がった。

(つづく、あと一回で完結する)

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