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謎解き島田、龍臥亭幻想 [島田荘司]

(010000) はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

(020000) 森孝伝説
(020100) 森孝の出自、犬坊の別宅、お胤、お嘉、お振り、浜吉、芳雄
(020101) 森孝は備中藩殿様の血筋、犬坊の開発、別宅の建設
関森孝伯爵は旧備中藩の殿様、関長克の血をひく華族。明治になって間もなくの時代、森孝の本邸は新見にあったが、西貝繁村の森の中に杉里の犬房という別宅をもってた。この地には温泉がわいた。腰に持病のある森孝は湯治のための堂、庵をたて別宅とすることとした。当時は裏の山にある墓所とその上にある神社だけの深山幽谷だった。 たてたばかりは湧き湯のそばの湯殿とねるだけの一軒家があるだけだった。新見の殿様が別宅をたてたことをよろこび法仙寺も堂を造営した。伯爵に米や野菜をかってもらうことをもくろみ自分の田のそばに家をたててすむ百姓もではじめた。

(020102) 三日月百段の建設、湯殿、中庭、庵の犬坊の別宅
規模では本宅におよばないが別宅には風雅な趣があった。杉地をひらいてつくらせた敷地は広大な斜面となっていた。ここにながい右に迂回する坂があった。森孝はこれに「三日月百段」となづけ石段とした。のぼりつめた先に湯殿をつくらせた。坂道をとりかこむ馬蹄形の土地には花壇がつくられ、湯殿の手前から木造りの階段が花壇までおろされた。三日月百段の中途左手には石段にそって点々と庵がたてられた。犬坊とはこういう風流な石坂や庵など建造物群の全体をさす呼称であった。森孝の住まいはこの三日月百段の下、とっつきにたてられた。森孝は三日月百段をゆっくりのぼり湯にはいった。湯殿の裏には薪小屋がたてられてた。 使用人の浜吉という男はもともと樵。彼が周囲の林から木材を供給した。きりたおした杉を輪切り、斧でわった薪をたくわえた。これは芳雄というわかい男がやった。

(020103) 三日月百段と湯殿、趣味人の暮らし
森孝の別宅の表門は貝繁法仙寺や、さらに上にある大岐(おおき)の島神社にむかってのぼる山道にむいていた。湯殿にむかう三日月百段は家の裏手からはじまってた。表門から道にでて南にくだれば葦川にでる。その川べりには桜が並木をつくってた。森孝は凡人だったが趣味人であった。湯殿は杉や檜き、桐をふんだんにつかってつくられてた。木材は土地からとれるもので大半をまかなえた。このために大工や細工職人が津山、岡山からつれてこられた。これらの人は庭師とともに石段のそばに庵をひとつづつあたえられた。

(020104) 女中頭のお振り、妻のお胤、愛妾のお嘉、使用人の浜吉、芳雄
森孝は無類の 犬好きで庵のいくつかは犬のためにしつらえられた。明治の大変革のなか一家をついだが中央政府から重用されなかった。時流にのって財産をつくる才覚がなく、趣味人として生きるほかなかった。なすすべもなく時代にみすてられて徐々に財産をへらしていった。犬以外に森孝が愛したものが女だった。避暑にむいた土地であったから女中頭のお振りと2人の女中、使用人の浜吉と芳雄、そした妻のお胤、その娘の美代子、愛妾のお嘉をつれてきた。家族や家来衆は三日月百段の庵を一軒づつあたえられ、すんだ。

かってはもっと多数の愛妾をひきつれ、別宅の庵においたが、財力のおとろえに比例して使用人も家来もさっていった。しかし気にいった側室を手ばなす時は夫を見つけ犬坊の姓をあたえて村の集落においた。さらに一定の権限をあたえて小作農を属させた。自然、集落に犬坊という姓がおおくなった。

(020105) 女中頭の権勢、森孝を軽視
女中頭のお振りは父の側室であったが褥(しとね)辞退のあと女中頭となった。よく気がつき料理のうまい女である。いよいよ経済的に逼迫したので親戚筋があつまって、新見の本宅を手ばなす。森孝は別宅、犬坊にすむ。親戚は貝繁の田畑をつけ、生活の糧を確保してくれた。余裕のなくなった森孝には妻、お胤と側室、お嘉の二人以外いなくなった。お嘉への愛着はつよかったのでお嘉は犬坊にうつりすむことをいやがらなかった。しかしそこには60をこしたお振りが御後室樣とよばれ飾り物となった森孝にかわって全権をふるってた。一家の誰もがお振りの顔色をうかがった。犬までおおいに尻尾をふった。これはおそらく親戚の配慮だったろう。放蕩者で見栄っ張りの森孝にまかせられないと判断した。使用人は森孝の命令を露骨に無視したが、実は何も仕事をしてない森孝に命令することがない。きいても仕方がないという実情の裏返しだった。

森孝をかろんじる極はお振りの日常の態度であった。他愛ない話しを長々とし、いつも笑みをうかべてた。それは冷笑にちかかった。しかし世話係としては完璧で、妻よりはるかに気がきいた。その妻も森孝には癪の種だった。もともと美作の大名家につながる血筋であり、しつけ、読み書き、琴、儒学も充分おさめ、美形の誉れがあった。それだけに気位がたかく、他聞をはばかるが褥の欲求がつよかった。わかい頃の森孝ならともかく、犬坊に移住した40すぎ、めっきり能力の衰えがみえてきた。予想もしてなかったが、自分を満足させないとの不満をあからさまにぶっつけてきた。要するに経済力のおとろえとともに、女たちとの関係も危機をむかたのである。

(020106) 女中頭と 妻の連合、若い使用人の存在
ところでお胤とお振りの仲はきわめて良好だった。時には森孝への連合軍として対抗した。琴の教養があるお胤はお振りにおしえた。もともと能力があったのだろうが、めきめきと上達していった。森孝はそれをみて劣等感にくるしんだ。森孝は使用人の芳雄が気になった。お胤や、お振りがこの20代の若者に目をかけすぎるように思った。身長はたかくはないが女のような綺麗な顔をしてる。筋肉質で俊敏である。

(020107) 愛妾、お嘉、森孝の衰え
目にいれてもいたくないほどかわいがってるお嘉が、またお振りとうまくいってた。これは老練のお振りがうまくお嘉をあやしてるようであった。無為な森孝は最後の愛妾とお嘉をかわいがったが、40をすぎたお胤には女を感じなかった。一日中一言も口をきかないこともあった。ある日、犬の鳴き声がきこえない。不審に思ってお振りにたずねると、すべて村の犬坊にさげわたしたという。ここには犬にくわせる食べ物はないといった。犬の世話もせずただ頭をなぜるだけの愛玩であったが、犬がいなくなって予想外の寂寥感におそわれた。今はただお嘉だけが愛情の対象となった。

(020200) お胤と芳雄
(020201) お胤の企み、芳雄への好意
9月の霧雨がふってる日。芳雄が湯殿の前から花壇の中庭にかかる木造り階段をおりようとした。そこに声。とまれとお胤。階段をおりるな。最近おりたか。然り。きしんでた。成程、昨日、下からあがろうとして踏板がはずれそうになった。危険だからやめるように。浜吉にもいえと。では御前樣にも。否、自分がすでにとお胤。綱をはってはいれないように。否、不要。風呂は誰が。浜吉がたいてる。傘がないのか。否、今は不用。この傘にはいれ。遠慮。強引にいれる。洋巾で雨水をぬぐう。遠慮。傘がないならあげる。あとで部屋にくるように。芳雄は雨の中に。

(020202) 森孝の骨折、寝たきり生活
翌日 、森孝がこの階段から転落。足を骨折。浜吉が見つけ女中が村に医者をよんだ。不在で津山から馬車で医者がきた時には森孝の足は緑色に変色。重傷、壊疽で命が危険もと養生をすすめた。それから1年、母屋の自室の布団にほぼねたきりの生活。退屈をなぐさめるため外出用の運び手のついた寝台をつくった。森孝の声がかかると浜吉と芳雄がやってきた。かついで三日月百段をのぼっていった。怪我をしてからすべての仕草が老人となった。話題がなくなりお嘉はこなくなった。お胤とお振りがきても会話ははずまなかった。孤独な境遇になった。

医者はあるけるようになるが、ぎくしゃくした歩き方となるといった。芳雄も胸がいたんだ。お胤が森孝に何故いわなかっかと疑問をもった。

(020300) 密会、骨折の真相
芳雄が湯殿の裏で薪割り。声。お胤。芳雄にちかづいて誘惑。おどろく芳雄。さらにちかづく。土下座をしてにげようとする。森孝にころされると芳雄。感情のたかぶったお胤は強引に芳雄を薪小屋につれこむ。また関係をもった。お胤がいう。自分を裏切るな。証拠に入れ墨をする。森孝骨折の真相をもらす。自分を満足させない森孝への不満をのべる。剣の道をおさめて自分をまもれという。

(020400) 森孝義足、お胤の復讐、惨劇
(020401) 右足切断、義足、お嘉が実家に
それから1年。右足首の腫れがひどく、臑は黒色に変色。体調も不良。眩暈。医者も首をかしげた。ついに右足を切断。義足となった。お嘉が里にもどり離縁状態となった。これで森孝は右足だけでなく正妻以外の女をすべてうしなった。お振りはお胤の不倫をしってしらぬふりをした。これでお振りの権力は絶大なものとなった。

(020402) 密会現場へ森孝乱入
四月、密会のあと、湯殿裏の路地でお胤は芳雄に大胆にも接吻した。川沿いの夜桜を見物にいこうといった。罪悪感にたえかねて二人でにげようといった。お胤がそれをわらった。知恵がたりないといい、もうすこし辛抱すれば森孝は死に家屋敷は自分のものとなる。親戚の目も障害でない。家屋敷を売却した金をもってにげればよい。森孝はもうすぐ死ぬと断言した。お振りには金をにぎらせればよいといった。

湯殿の陰から異様なものがあらわれた。あっと芳雄。大声とともに鎧兜をつけた森孝がちかづいた。裸の芳雄を見て、何という醜態と。土下座する芳雄。あるけたのかとお胤。その格好は。不義者。あるけぬふり。お胤への復讐。だましたなとお胤。馬鹿者。にげる芳雄。にげるな芳雄とお胤。御前樣は毒を。刀がある。お胤は小屋にもどる。抜き身の刀をもって、また芳雄とよぶ。目の前に森孝。うちこむ刀は兜にめりこむ。刀をはなし花壇の方ににげだした。

(020403) 芳雄の両腕切断、お胤の生首
森孝はまず芳雄をおう。裏山ににげた芳雄は不運にも切り株につまづき足を骨折。転倒。土下座してる芳雄に刀を。左腕がころがった。肩から血がふきでた。もがきながらたちあがった芳雄に刀。右腕がおちた。次に三日月百段をおりてゆくお胤をおった。鎧兜をぬぎすて、痛みをもものともせずおう。下着でにげあぐねるお胤においつき、襟首をつかまえた。その時、義足がとび二人がもんどりうって転倒。もがき、あがき、やっとのことで森孝はお胤の首をきりおとした。生首を目の前にもちあげ、やがて心の底からわらった。

(030000) ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


龍臥亭幻想 上 (カッパノベルス)

龍臥亭幻想 上 (カッパノベルス)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2004/10/20
  • メディア: 新書



龍臥亭幻想 下 (カッパノベルス)

龍臥亭幻想 下 (カッパノベルス)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2004/10/20
  • メディア: 新書



(040000) 第一章 最初の死体、行き倒れ死体
(040100) 2004年1月、第1日、再会、森孝事件、死体の行方、犬坊別宅の歴史、現況
(040101) 森孝事件の後日譚、森孝、芳雄の行方
森孝の伝承をききながら小説家の石岡和己がいう。それから。母屋に放火と日照和尚。この和尚は龍臥亭事件で登場した和尚のあと。この人が先代の娘の夫。先代はすでに死亡。事件から8年、2004年である。成程。前途を悲観。三日三晩もえた。では庵は。ほとんどもえた。ただし湯殿はのこった。母屋は丸焼け。焼け跡からお振りの死体。やっぱりお振りは殺害か。然り。女中衆は。逃走。森孝の娘は。女中が新見の関に。無事に。成人。でも芳雄の子といわれ、消息不明。成程。石岡がいう。

8年前の龍臥亭事件、その前に都井睦雄事件、その前にもこんな大事件。この地は祟りの地。何ともまあ、ひどいことと二子山一茂。でも明治のあの頃はまだ江戸時代。密通は斬首。男の勝手な論理ではと加納通子。女性軍の意見に警戒心。そばにいたユキ子に学年をきく。中一。犬坊育子にきく。殺したのは不可。当時の慣習と日照。石岡は、現在、法律家をめざしてる犬坊里美の意見をききたいと思ったがまだ到着せず。森孝の骨折を細工したとユキ子。然りと二子山一茂。毒もと日照。それから森孝の行方はと石岡。不明。自決か。かも。しかし死体はでない。ええ。伝説では山の中。鬼、仙人。でも山の中。血をはいて、片足、こわれた義足で可能かと石岡。然り。へえ。森孝の消息は。もう無し。芳雄はと石岡。死体がでない。ええ、本当。天狗がかくしたかも。

(040102) 神隠し 、天狗の力、かくす人たち、村人か
天狗。然り。ここは霊場。大岐の島さんが毎年礼拝をして、あるくから。本当か。サイキック(霊能者)だから。江戸時代に天海僧正という人。祈祷所を南北に設置。礼拝。すると。天海の東照宮という宗教は呪術。調伏、人を呪いころす。はあ。天海がのろておがむ。すると。この南北の線上にいる人が空の方にとんでゆく。本当。自分はしらんがそうと日照。この土地はのろわれてる。神の力が必要と育子。通子も同意。死体がよみがえってうごく。本当か。だから森孝も芳雄の死体もきえた。でも腕は。あった。二つとも。地面に。ではそれは大岐の島さんのやったことかと石岡。まあそう。だが今は詳しいことは。だったら芳雄は死亡。だから法仙寺の者がうめて墓をつくった。誰かがかくしてやったと坂出小次郎。何故。死体がきずつけられる。へえ。新政府寄りの者なら森孝の死体をきずつけるかも。でもどこにかくすと二子山。だからうめた。成程。坂出はすでに80代だが依然矍鑠(かくしゃく)。では誰が、お振りは死亡、女中か。育子、通子は大勢の村人がいる。その中で不可能と否定。然り。男も同様に不可能。事件後すぐ、駐在、村の人が現場に。然り。みんな。すぐ。夜明け前に。音もしたから。黒山の人だかり。夜明け前、まだ深夜だったが。

(040103) 浜吉か、元は樵
その時点で森孝の死体は無し。二人は無し。あったのはお振りとお胤だけ。二人はどっかにいった。どこ。新見の本宅。無理。だがここに幽霊がでる。ならいけると坂出。天狗も幽霊も信じない。人。それは誰。成程、死体をうめてる時間はないと石岡。浜吉は。消息不明。どこか広島。岡山。このあたりなら、わかるはず。浜吉だろうと坂出。勝手しった使用人のはず。成程、芳雄の仲間だから。育子が死んだ両親の話しとして。浜吉の道具がよごれのないままあった、という。一同沈黙。だから山中に失踪と育子。世間の目からかくす。警察が徹底調査。なら大仕事。山の中でも下草の様子で。うめるなら腕も一緒と石岡。両親の話しでは、そんな知恵のある男でなかったと。どんな。すこし知恵遅れ。成程。山狩りはと坂出。したときいた。それも総出。で、何も。然り、何も。焚き火の跡、血の跡も。無し。猟師、樵は。いたときいた。不可解。何が。猟師、樵は山を熟知、見のがさない。戦争中、山中を行軍する時は猟師をやとう。深手をおった人間の追跡、一番わかる。成程、するとどんな結論。どっかの穴にひそみ死亡と坂出。穴がここ、龍臥亭か。芳雄の場合、現場から10メートル内にあるか。そんなのはないと育子。

(040104) 隠蔽の方法は、村の生活、寺の役割、不可解、犬坊別宅の転売、現在の状況に
石岡がいう。これは二つの死体がきえた。それが問題。然り。隠蔽の方法は他にも。例えば、ある村人がまず納屋に。次にひそかにうめる。否。村の生活はオープン。他人の家にもはいる。だから無理。相互監視、浮気も無理。それでも夜這いか。百姓にとり春は仕事がおおい。そんなことは無理。成程と石岡。それに動機がない。犬坊の殿様は雲上人。百姓がそんなことはしない。では法仙寺の人にとっては。かくす理由無しと日照。死人の名誉をまもるためにも。やるなら余程のこと。今とちがい村の生活にとって寺は大事。信用をなくすことはしない。成程。社寺は行事の中心。境内に村人が出入。寺の本堂で集会。日照は村の監視下。まして春、行事がおおい。育子がいう。かくすならお胤。裸体で斬首。身分のある女に最大の恥辱。成程、不思議な話しが。ここにあったんだと石岡。森孝の死亡後、誰の所有に。

しばらく新見の親戚の管理。荒れ放題、怨霊の棲み家。それから。大正になって犬坊のうちの金持ちが購入。では先代。否。先々代の吉蔵。都井睦雄の襲撃の標的の人物と石岡。然り。金貸し、女好き、三日月百段を修繕。でも本格的には先代、秀市。成程。趣味人、堅物。育子の父と石岡。父は杉の里、さらに琴の里に。それから昭和もだいぶおちついた頃。昭和27年(1952)に工事。自分の誕生年と通子。三日月百段は廊下と一連の庵に。廊下の下にはまだ石段がと石岡。ある。建物全体を竜に見立て。龍臥亭は。秀市の命名。湯殿の前の石段は。その時の工事。湯殿は。あたらしい木材でつくりなおし。設計の基本は森孝当時のもの。閉鎖は平成2年(1990)、オープンが昭和27年(1952)。父は平成5年(1993)に死亡と育子。以上と日照が石岡に。

(040200) 第1日、櫂、日照、巫女の失踪、恋人、神主、事件詳細
(040201) お手伝いの櫂、再会の経緯、再会者の紹介
櫂という名の女性が登場。電話。日照が櫂を石岡に紹介。斎藤櫂という。小柄、小肥り。50代なかば。日照がいう。何をつくてる。炊込みご飯、冷凍の鯖、漬物。手伝い。然り。旦那が死亡、暇。この厨房はひろいと石岡。然り、だから面白い。松子が死亡、ここ人手不足と日照。突然、痛い。足の先に血がかよわないと日照。袈裟の下から足。足首あたりが浮腫。血行障害、森孝みたい。里美が今から伯備線にと育子。一同成程。石岡がきく。郷土史家の上山評人先生は。元気のよう。石岡は龍臥亭事件から8年ぶりに来訪。関係者が集合することを里美からしったから。多忙でない新春の一月が好都合。やってきたら雪景色。例年以上に多量。

集合者は、神主の二子山一茂、岡山の坂出小次郎、加納通子、ユキ子、それから龍臥亭の犬坊育子。これに里美が。当時、龍臥亭にいた料理人はいない。手伝いの娘たちもいない。松子は死亡。犬坊行秀、一人息子は今は広島で公務員。おおきな家に育子が一人。そこに近所で一人暮らしの斎藤櫂が手伝い。里美の父、犬坊一男は事件で死亡。二子山一茂の父の二子山増夫は死亡。結婚、子ども、子煩悩。夫人も巫女。神主の代理ができる。だからここに二子山一茂がこれる。夫人はフランス料理の達人。だからふとった。

(040202) 日照の紹介、二子山との関係
ユキ子も身長がのびた。通子、育子はかわらず美人。初対面は日照。人懐こい性格。元、岡山、津山で製薬会社に勤務。二子山との仲は良好。仕事の分担が明確。ぶつからない。季節の行事も分担。龍臥亭の集会は同窓会のよう。楽しい。石岡はまたここで奇怪な事件に遭遇することになる。二子山が四駆で里美を出迎え。大学時代、ラリー同好会。運転が得意。他方、日照は免許はあるが不得意らしい。

(040203) 神社での失踪、その状況、神社の参道、参拝の車列
さっき死体がよみがえってうごいたが、大岐の島神社では人がきえたとか。日照は躊躇。櫂は厨房に。坂出がこたえる。どんな。人がきえた。死亡か。まあ生死不明。誰。巫女、神主、菊川のところの。大瀬という。去年、10月15日、秋の祭。失踪かと石岡。否、きえた。煙のように。どう。男と失踪かも。男はきえてない。いる。里に。この男もきえたという。ぱっときえたと。どこで。本殿。罰当たりと二子山。二人がわかれ、山をおりたのでは。否、不可能、秋の大祭。新嘗祭、五穀豊穣の。その時は大岐の島神社の山の周囲をぐるりと氏子がとりまく。とりまく。然り、神社は頂上。その周囲が下りの斜面。その斜面にはいっぱいの杉林。最近、神社の周囲を伐採、車の駐車場。下から斜面を螺旋状に車道。それは龍臥亭の道をのぼってゆく。と、この車道につながる。つまり大岐の島山の道はその山のまわりをぐるぐるのぼる。蚊取り線香。で、道は。てっぺんの神社とその周りの駐車場に。大岐の島山というのはと石岡。

(040204) 沖ノ島に見立てた神社、神事、祝詞、太鼓
この山を玄界灘の沖ノ島に見立て。これは朝鮮半島にわたる中途。海の守り神。この島全体が宗像大社の境内。この島からは草木一本持ち出し禁止。島でした話しは陸で一言ももらすことをゆるさない。はあと通子。それでこのあたりを玄界灘、この山を沖ノ島に見立て。成程。幕末には維持が困難。森孝がきて、宗像大社の神職がきて、今の大岐の島神社。自動車の時代に駐車場を。コンクリートで。杉は神木。伐採禁止。

(040205) 新嘗祭、駐車場は車禁止、神殿で祝詞
で、新嘗祭とは。神社への道に車。去年の秋もびっしりと。車中に人、参詣に。どうして、駐車場は。あける。ここで神事。へえ。車の中に、ずっと。新嘗祭は農家だけでない。商人にとっても商売繁盛。車をふくめての商売繁盛。だから。

神事がはじまる午後の5時までの1時間は神主が神殿で祝詞。氏子は車中にとどまる。4時から5時。車中で祝詞をきく。きこえるか。太鼓の音ぐらい。祝詞中。はじまって、どーんどん。祝詞、またどーんどん。つまり。山のぐるりに人が。大勢。びっしり。氏子たちに見られずにおりる。不可能。螺旋状なら、この道の間を螺旋状にくだる、というのはと石岡。否、螺旋状の道にはさらに道が付設。ここをつかって上の道に連絡。上にもどるための道。この道にもびっしりと車。

(040206) 失踪時の現場、神事奉納の詳細、烏帽子に鉄の角、巫女の仕事
5時になると氏子は車をおりて徒歩。熊笹をつっきり頂上に。そういう約束事。だから不可能。で、その娘はいつきえた。4時すこしまえまで神社で彼氏とあってた。氏子が神社にのぼってきた時、きえてた。神社の建物の中に。否、氏子の中から警察官。すぐ調査。全部、神域にははいれない。否、全部、菊川も箱の中、米櫃、畳の下。地下室は。ない。屋根裏は。見た。その上は。見た。ほう。これが本当の神隠し。成程。穴ほってうめる。時間は。ない。皆セメント。あとは熊笹。物置のスコップはきれい。氏子はそれから。駐車場の神事の奉納を周囲で見まもる。何。社の周囲をぐるっと、ゆっくり弓をもって。社の前の的に。矢をいる。ほう。二子山がいう。烏帽子、白装束、頭に鉄の角。どういう意味と石岡。タタラ信仰らしい。摩多羅神、八幡神。金属全体の信仰かな。荒ぶる神。軍事宗教。それが新嘗祭。神社ごとにいうことが区々。で、その日もやったかと石岡。やった。巫女がいないのに。やった。で、彼氏は。姿は見られたか。4時にかえったという。目撃者はいる。何してた。男女の行為。成程。家では。両親の家。できない。ふうむ。彼氏、黒住が祝詞がおわる頃、自分の家から穀物をもってきた。そこで真理子がいない。穀物。然り。宗像にお礼奉納。その日に。神事の後に。不思議。巫女はどんな仕事と石岡。矢をもってあるく。とこれが今回いない。変と気づいた。

(040207) 恋人の証言、逃亡の可能性、死体隠蔽は
黒住は何と。いつも通り。わかれる時は。バイバイ。菊川は何時しった。祝詞をよみおわった頃。5時前。そろそろ神事とふりむいて。祝詞に巫女は。不要。祝詞をよむ水聖堂に女子は、はいれず。神主は結婚。してない。まあ、太鼓は自分でたたく。天候は。雨。そうか。霧雨。道にはずっと車が渋滞。よく見えた。否。霧雨だから。くらかったか。否、10月の午後4時過ぎ。でもぬれてた。然り。びしょびしょ、上の方は未舗装。4時から5時まで神社から人は。でてない。本当。然り、黒住をのぞいて。出入りの業者、氏子は。そこに変装してたのでは。ない、人は一人も。神事は神とあうこと、そこに人とあう約束は。いれない。では、どういうこと。あれから3カ月。でてないのかと石岡。神主の菊川は何と。スソンダンのハルモニだから、きえることはあり得る。何それ。韓国の西海岸、竹幕洞の水聖堂という社。これが沖ノ島の守り神と共通。この神は女神、スソンダンのハルモニ。この人は水聖堂に。壁や屋根裏をとおりぬける。そんな馬鹿な。さっきの話しではこの神主は霊力で空に人をもちあげる。そのための布石をふだんからうってた。否、それは天海のこと。4時から5時まで定期的に太鼓の音がきこえてた。ほうと石岡。

(040300) 第1日、夕方、里美登場、行き倒れ、伊勢、死体収容
(040301) 里美到着、行き倒れが、ナバやんか
玄関で声、育子と里美。やがて居間に。一同挨拶。ユキ子、通子に挨拶。石岡に挨拶。1年半ぶりの帰郷。日照が声。ゆっくりして。でも大変、途中で行き倒れを発見。誰。男。ナバやんか。貝繁の東、峠までのぼる坂の途中にと二子山。行きは不知、帰りに発見。誰。村で見かける人。とっくに死亡。どうする。男手あつめて引き取り。ホームレスかと石岡。日照が育子に連絡の電話を依頼。二子山、日照、石岡の三人が出発。遺体は凍結。

(040302) 遺体の現況、遺体の化粧を伊勢に依頼、軍で研究、遺体の収容
斎服をきるか。否、大袈裟と日照。いそげ、陽がおちる。里美がきれいになった。タレントなみ。弁護士に。らしい。顔を見たかと日照。ちらっとと二子山。ポーズは。大の字。車にはいるか。何とか。死体の化粧をやってくれる伊勢が何とかしてくれる。誰、その人。薬局経営、今、息子にゆずってる。昔、軍隊で死体研究をやってた。軍、日本軍、研究はどんな。詳細は不知だが、戦場でちぎれた手足をつける。時には他人のものをつける。できるか。死体につけてととのえるのかと石岡。否、いきてるの。へえ。軍の秘密研究。もう60年、でも秘密かと石岡。研究所は浜松、毒ガス、殺人光線。原爆も。そこで死体の研究。ふうん。

雪中の死体をほりだす。やはりナバやん。車の後部座席半分をたおす。そこにのせた。

(040400) 第1日、夕方、法仙寺に収容、死体の処理、森孝の鎧兜、魔王伝説、村人の信仰
(040401) 法仙寺裏から本堂に、大広間、伊勢
龍臥亭をすぎ法仙寺の山門に。階段が積雪でスロープだった。ずっとのぼり本堂の裏、墓場に。急坂をのぼり左にはいる。杉林。石岡が周囲の杉を見あげて感嘆。間伐は。しない。間伐とは。日光をいれてはやく、そだてるため間引き。ふつう樹齢30年ほどでどんどんきる。林業作業士が。ここは。10年から100年。下の枝はきりはらう。だから枝は上の方だけ。これでのぼれるかと石岡。さらにすすむ。左下に寺の明かり。人がいる。だから伊勢。くだり、墓の端に。三人がおりる。日照が先導。本堂の裏口。裏の引き戸。中には いる。奧の障子をあけると大広間。白髪の老人がすわってる。

(040402) 本堂の地下、霊安室
これから遺体を地下にと声をかける。階段をおりる。陰気な部屋に木の棺と手前に木製の台。その上に。白いタイル敷のスペース。2メートルほどのホース、水道の蛇口。納棺前に死体をあらう場だった。伊勢がやってきた。キャンバスシートをはいだ。ナバやん。行き倒れ、凍死。日照がいう。体をあらって、棺におさまるよう。檀家の寄付の衣類がある。もしあうのがあれば、それをきせて。キャンバスシートをたたむ。三人が部屋をでる。博物館はと二子山。石岡に見たいかときく。隣りの部屋のドアをあける。

(040403) 資料室に骨董品、古文書、槍、刀、鎧兜
紋章がついた箱、白木の箱。壁ぎわにつまれてた。中に書画骨董、掛け軸、古文書。ほかに槍、刀、猟銃もあるらしい。見事なコレクションと石岡。否、ただ自然にあつまっただけ。一家がたえたような時に。家宝を寺に寄贈。当人の生前の意志。価値は。中には。この写真は。孫文。隣りは資金援助の日本人。誰。梅屋庄吉。奧に金網。中に甲冑。くろい櫃の上にすわってるような置き方。あの甲冑は。問題の甲冑。何。森孝のもの。へえ。当時、龍臥亭の庭に点々と。火事の後、村人があつめ供養のため寺に。実物が。ここに。然り。当時のまま。然り。芳雄の血、お胤の血をすってる。ふいてない。石岡がちかづく。兜の下に面当、表面にびっしりと髭。縦にわれてると石岡。事件当日はつけてない。火事場からでてきた。われてた。糊で修復。ふうむ。片足。然り、右足がない。脛当てがない。あの箱は。ちがう。本物は火事でやけた。それって。然り、脛当てをのぞいて。でも、胤の斬首の時は兜と胴ははずした。この後、 家中を放火、そこでぬいだ。それがのこった。成程、それらが金網の中に。然り。金網にいれたのは。

今は簡単にはずせるが、昔は厳重にカバン錠。何故。伝説、吹雪の夜にあるきだす。悪い人をこらしめる。本当に。見た者がいて大騒ぎに。鎧か。否、中に死体、森孝がのりうつる。だから片足の死体。死人か。然り。怪談だ。どこへ。森孝が芳雄とお胤をうらんでる。女で問題をおこした男のとこ。女をもてあそんだ男のとこ。

(040404) 昔、社に甲冑、森孝の写真
実例は。きいた。鎧がうごいた。中に死体がははいってた。子どもの頃の話し。はあ。馬鹿な。まあ。ここから。否、さっき車をいれたあたりに、ちいさい社があった。当時は神仏習合の時代。寺の裏に鳥居。社。中に網にかこまれた甲冑。そんなとこに。然り、だから皆は森孝さんとよんでた。かって亭主の浮気にくるしんでた女房がおがんでた。あまりいわれるので、こわしてここにうつした。こういう言い伝えに興味が。あると石岡。日照が和綴じの本をみせた。森孝魔王のタイトル。この話しは年貢米のある江戸時代。実際は明治の初期。森孝の顔を。みたい。木の箱からガラスのかかった額をだした。変色のはげしい白黒写真。わかい頃のもの。二子山が空腹を。吹雪のおそれ。龍臥亭に。伊勢は。不要、仕事中は食事せず。専用の寝場所もある。携帯の番号も。問題ない。

(040500) 第1日、夕方、寺から龍臥亭に、司法試験の合格
(040501) 二人が先発、日照が後発、龍臥亭に
日照は2人にスコップをわたした。これで雪掻き、龍臥亭にいけ。自分は頭をそってから。成程。ナバやんの名字はと石岡。不明と日照。ずっと。この村に。何をしてた。田んぼ、薪割りの手伝い。山中に小屋をたてたが、おいだされた。二人は石段の雪をわけてくだっていった。石岡は日照の足を心配して雪掻き。しかし二子山は大量の雪にあきらめ。

(040502) 里美をかこみ懇談、司法試験合格
やっと到着。龍臥亭の敷地内。玄関にはいる。ユキ子がお土産のブレスレットをみせる。にぎやかな挨拶。日照は。後から。死人は。ナバやん。居間から奧の広間に。坂出、端に見しらぬ若者。雪は。膝上。里美の土産。二子山が布袋の置物。坂出がボケ防止の石の玉二つ。通子がボディローション。石岡にカエルの置物。育子に買い物袋。里美から報告と育子。司法試験に合格。声声。村からはじめて弁護士。囲む会。会長は坂出。否。日照。ひとしきり話題がはずむ。里美が自信がなさそう。先輩と比較、自分は駄目とあきらめたことがある。祝杯をあげる。

(040600) 第1日、夕方、黒住が石岡に依頼、事件の経緯、殺人、死体隠蔽、処理
(040601) 日照合流、恋人、黒住が石岡に、真理子の死
日照がきた。頭が青々。里美を祝福。横の青年が声。石岡先生。然り。黒住という。大岐の島神社のきえた巫女の。ああ、やっとわかった。育子が紹介しようとちかづいたが、紹介ずみと。で、石岡がいう。結婚の約束は。した。まだ結納は。大切な恋人だった。成程、で、最近の進展は。無し、でもこのまま謎のままでは。決着をつけたい。で、自分はどう考えてるか。真理子がいってた。自分に何かあれば。それは事故でない。事件。つまり。真理子の意志できえたのでない。成程。

(040602) 警察と神主菊川、黒住が失恋、否、真理子の家庭の事情
警察は。自分、黒住がふられたという考えのよう。で。それはない。成程。あの時、真理子はわかれる直前、またすぐあおうといった。心からの言葉。で、仕事は。百姓。成程。真理子は男にもてる。黒住にあきたと菊川がいったとか。それは嘘。真理子も黒住がすき。然り。とやかくいいたくないが。信じてほしい。自分と結婚と真理子の方から。自分からきえる。はずない。つまりきえたら事件といってたのかと石岡。だから、しらべてと。ふむ。自分は一生懸命に。しらべて、で。わからない。どのように、時間の余裕もないのに。真理子は身の危険を。然り。以前から。具体的に。沈黙。ここではいえない。では石岡の部屋で。あう。然りと石岡。家にもどる。必要ない。携帯で連絡済み。どこかに監禁は。あるかもと。でもない。そんな場所ない。ふむ。神社は毎日人の出入り。3ケ月もたった。10月15日は雨。然り。4時前にあってた。然り。かわった様子は。無し。バイバイと。いった。それはすぐにあおう。5時にという意味。あえるか、話せるかと石岡。はなせない。神事につきしたがうから。それを見るつもり。成程。それがおわれば可能。でも、もういなかった。然り。この後、彼女は家に。車でおくる予定。

(040603) 巫女はバイト感覚、実家には借金、でも結婚の決意
巫女には特殊な資格は。無し、バイト感覚。特殊な教育、トレーニングは。ない。普通の子。神社にいったら菊川にたのまれた。家は。百姓。で、両親は心配でしょう。否、いない。家には祖父と祖母。事情があって。どんな。ここは不適。失踪がわかったら。どこまでも、外国までもおいかける。まあそうでしょう。意を決していう。別の男と結婚するというなら男らしくあきらめる。彼女の家は特殊な事情があるから。ふうん。自分の母は反対。祖父母に相当の借金。でも真理子は可愛い。自分に母親ともうまくやると約束。だからだまって失踪するはずがない。母親の反対は説明すればすむ。そのことは真理子にいってた。

(040604) 真理子が自分の意志で失踪、否
あの大勢の氏子に見られずきえる方法ない。絶対に。然り。警察はすぐ。調査。氏子の中に警察官。すぐ、トイレ、浴室、床下、物置、などと。他にありそうなところは。無し。地下室は。ない。では、これは万一、真理子が自分の意志で身をひそめ皆の目をのがれようとしたら。ない。これは仮定だが。でもない。というのは神事奉納の後にみんながあがって広間で食事。警官はこの時、調査。成程。氏子の何人かは警察官と一緒。自分も梯子をかけ屋根の上。神殿は銅葺き、角度も急。 真理子を最後に見たのは。4時の7分前。物置の裏の軒下のところ、沖津の宮の北側。外で。然り。立ち話。中でない。そこでバイバイ、あとで。雨の中にでて神殿の方に。傘は。もってない。自分にかしてくれたから。では、それから神殿の菊川にあってるはず。然り。では最後に真理子を見たのは菊川。然り。神社の中にほかに人は。いない。菊川と真理子の二人のみ。菊川は。4時になったら袴はけ。それから水聖堂に。祝詞を。だからその後の真理子は不知。5時5分前に神殿をでたら不在。家にかえたと思ったといった。で、最後にわかれた場所は。水聖堂にゆく渡り廊下。巫女の衣裳は。まだ。衣裳は後で発見。するときる前にきえた。然り。でもジーンズはいてた。何。だからジーンズをぬいで白の着物をきて、しかし袴をはく前に。きえたということ。白い着物は。きえた。それで人前に。でられる。ふうむ。黒住は。雨の中、小走りで帰宅。

(040605) 殺害の可能性、では死体の隠蔽、処理は、不可解
徒歩。然り。真理子の服装は。普通のライナーとジーンズ。いいたくないことだがと石岡。真理子が殺害されてたら。覚悟してる。穴をほってうめる場所は。ない。あの敷地はセメント。床下は。石がびっしり。成程。はがしたらわかる。敷地の周囲の斜面は。熊笹。で、場所は。無し。警察、自分も。警察犬も導入。みだれは。まったくなし。さらにほってうめる。そんな時間ない。スコップも。きれい。ふうむ。わかれたのが3時57分、祝詞。その途中で太鼓。最初の太鼓は。4時5分くらい。成程。その後は。15分おき。3回。たたく人は菊川のみ。のみ。うち方は。特殊、神職以外は無理。おそろしいことをいうがと石岡。体をこまかく、骨はくだいてトイレにながす。警察は便器のルミノール検査は。血痕の痕跡を検出。やった。浴槽、流し、洗面台も。へえ。でない。さらに犬で熊笹に、臭いの追跡。無し。はあ。時間がかかる。現実性ないが。不可解。もうどこにもない。

(040700) 第1日、夜、黒住との対話、真理子の家、母、櫂の身の上話し、菊川、睦雄の油絵
(040701) 部屋で石岡と対話、真理子の実母、櫂、里子
石岡の部屋に。黒住に携帯で自宅に連絡と。ここにとまるようすすめた。電気コタツでむきあう。こちらはいつから。昨日から。あの事件以来。然り。自分は当時子ども。今、何歳。19歳。真理子は19歳。石岡の本をよんだと黒住。そう、感想は。むずかしい。えっ。では、真理子の家の事情。話せるか。陰口。然り。でも。真理子の母は。存命。えっ、誰。ここに。で。櫂。成程。たしか。然り。どこでうんだ。ここ、大瀬の家で。では、嫁にきた。否。真理子の祖父母が櫂の両親。否。へえ。櫂は津山の農家の生れ。でも貝繁に里子に。成程。それで大瀬の家に。そこで成長。では、大瀬櫂。否、大瀬喜子(よしこ)。櫂は実家の時の名前。どんな事情で。ケモノにとりつかれたと。櫂が。櫂とその母。どんな状態。不知。で。神社でお祓い、里子。呪われてる。然り。それは櫂。否、その家。櫂はここではよい人生をおくらなかったと。ひどい。ずいぶん差別があった。それで。

(040702) 櫂の実家は断絶、養子、養子をおって家出、再婚、出戻り
家はすぐたえたそう。両親も。成程。もと備中藩の首切り役人。呪われてる。大瀬は男の子がほしかったがいなかった。20歳になって養子を。子どもがうまれなかった。でも10年たって真理子。舅がきつかったので夫が家出。妻子は。おいて。で。櫂は。夫をおって家出。真理子は。おいて。えっ。詳細は不明だが、その養子の差金とか。真理子は。乳飲み子。祖父母が養育。母乳なし。それから櫂は。他の男と結婚、新見で。真理子を引き取りにきたが拒絶。二人目の男にもすてられ、山の方のふるい家でくらす。子どもは。無し。でも大瀬の家には。もどれない。収入は。あちこちの家の手伝い、内職。大変。日照が面倒をみてるとか。一番の働き場所は法仙寺。真理子は櫂とは。あわず。成程。祖父母は高齢。然り、田は賃貸し。結婚したら自分が二つ。たすかる。然り。でも可能か。今は機械が。でも母親は反対。成程。

(040703) 真理子は大瀬で働き手、高収入の巫女
で、真理子が収入を。然り、菊川の払いがよかった。多額か。二子山はよい人だが菊川は食わせ者。そう。表面的に人当たりはよい。そう。真理子もいってた。危険を感じたか。ずっといいよってた。神職、誰にもいえず。菊川は。53歳。いいよるとは。愛人になれ。やめるのは。家がこまる。だからさんざんいいよる。成程。女出入りは。けっこうあったよう。もてた。裏で金貸し。宗像大社にはちゃんと上納金。本当は別の人を派遣したかったらしい。神職はむづかしい。否、大分の樵だったとか。やせて貧相。この山には人の来手がないから、なれた。では、神職の菊川が大瀬真理子をどうかした。然り。殺害した。然り。自分に真理子がいった。真理子がいなくなったら。それは菊川の仕業。声。里美。話しができたかと黒住にきく。然り。で、用件。お風呂と。二子山がアトピー。夫人に何かいわれて落ち込み。明日、大岐の島神社に挨拶。何。不明。ふうん、でも道は。除雪車が津山から。

(040704) 里美、起訴の可否、湯殿に案内、油絵の出現、神社訪問の話し
先生という里美に石岡が、弁護士も先生。すると上山評人も先生という。失踪事件をしってるか。然り。どうしてきえた。不知。かかわらずか。然り。では検事なら菊川を起訴。できない。死体無し、自白無し、物証無し。成程。で、どうするかと黒住。うーん、風呂。落胆。案内と里美。めずらしい絵が。で男湯にかざった。都井睦雄の。へえ。三人でむかう。渡り廊下。ふきこむ雪で明日はうまる。黒住には鼈甲の間を。この廊下の下にまだ石段が。ある。大岐の島神社に二子山が。ゆく。石岡もというと黒住も。しかし石岡がとめる。かわりに里美がゆく。司法試験合格者だから、菊川が警戒。否、未知。二子山とはあわないと黒住。では日照は。最悪。女好きとかと里美。で、二子山、石岡、里美で。脱衣場に。

(040705) 森孝の絵か、下半分は茶一色とは変
これと里美。もしかしたら森孝の絵。鎧兜の武士。抜刀。そばに桜の樹。背後に木立。武者の前に裸の男。芳雄。この話ししってるかと黒住にきく。然り。はじめて。見る。睦雄か。そうらしい。サイン無し。どうしてここに。樽元がもらってきたらしい。すると森孝事件が睦雄事件のテキストになってるかも。この絵何か変と石岡。上半分だけ。半分はただの茶色。何故、下にかかなかった。湯気がある。龍尾館のほうがよい。

(040800) 森孝魔王 一、年貢米未納の百姓、留吉、代官の悪行
(040801) 百姓、留吉、負傷、年貢米未納
杉里にすむ留吉は先祖代々の田をまもってくらしてた。先祖が流れ者。不便な田だった。大変な負担だがめげずに農作業にはげむ。ある時、熊におそわれ右足のふくらはぎを負傷。田の一部があれだす。留吉には犬坊というもと殿様の側室の家系で、村一番の美人のお由を嫁にもらった。器量よしで働き者。二人にはお春という娘。留吉は傷がもとで昔のように働けなくなった。お由がかわりに田にでた 。お春もよく手伝った。留吉は村一番の果報者といわれた。

負傷から年貢の納入もままならず、借金もかさんだ。怠け癖がついたと噂。お由も借金をした。まずしい村で困窮した。岡田弦左衛門という代官がいた。お由に働きにくるようにと声がかかった。

(040802) 横暴な代官が留吉の足を切断
代官は自分の身の回りの仕事をさせた。代官はお由にいいよる。こまって奥方に相談するとかえって不義といって折檻、代官もくわわった。そこでお役御免となった。ここで傷ついたお由もはたらけなくなった。秋の収穫期をむかえ年貢をおさめられなかった。夫婦は代官陣屋によびだされた。代官にきびしく詮議され、二人に難癖をつけました。たてないという留吉を無理にたたせ、ついにその足をきりおとしました。

(040900) 森孝魔王 二、留吉の死体が森孝魔王に、代官を懲罰
(040901) 森孝に祈願、留吉の死亡
留吉は生死の境をさまよい、妻と娘は寝ずの看病をしました。田が放置されたので代官はその田をとりあげ、代官陣屋にちいさな家を三人にあたえました。お由は妾となり、留吉は病床につきました。やがてお春にまで手をだそうとしました。やせさらばえた留吉は様子がわかるらしく、ただなくばかりです。お春は法仙寺裏の森孝さんにお参りをしました。冬のある日とうとう留吉が死にました。代官があたえた粗末な樽に死体をおさめ、法仙寺でとむらいました。明日に埋葬しようと相談して家にもどると、代官がやってきて、ないている母子をみてしかりました。乱暴しようとする代官をつきとばして、お春をにがせました。

(040902) 森孝のお告げ、代官の首
お春は法仙寺の森孝さんの前にいました。雪上で手をあわせ、なきながらいのりました。ふと網の中におかれた森孝さんの鎧兜が目にはいりました。普段は鍵がかかってるのに、どうしたことかかかってません。お春は刀をとりだそうとしました。すると声がきこえました。法仙寺にもどり父親をここにつれてきて、鎧兜をきせ、義足をつけよ、といいます。お春は法仙寺にむかい、悪戦苦闘の後に森孝さんの社にもどりました。やがて鎧兜をきせると雪上によこたわる武士の姿となりました。脛当てのないところに義足をはかせました。吹雪の中、よこたわった具足の上にどんどん雪がつもりました。やがてむっくりとおき、たちあがりました。お春の家にむかうのです。しっかりとあゆむ武者のあとをお春がおいます。ためらいもなく土間にはいり、そのまま畳の上にあがりました。代官はおどろいて刀できりつけましたが、根元からおれました。

悲鳴をあげた代官の首をむんずとつかみ、天井までもちあげると壁にたたきつけました。頭からおちた代官をふたたびもちあげ、玄関から雪上にたたきつけました。足で腹をおさえ両手で首をひきちぎりました。代官の首をもって悠然と法仙寺にもとってゆきました。母親が解放され翌朝がやってきました。

森孝さんの社の前には武者がたおれ、その右手には代官の首がありました。鎧兜をぬがせると留吉のやせほそった死体がありました。村人は二人を丁寧に供養しました。お由とお春はその後は無事に幸せにくらしました。

(050000) 第二章 予告された二番目の死体、真理子の出現
(050100) 第2日、朝、油絵から女
(050101) 里美と脱衣場の油絵に、両腕のない女の出現
外から里美の声。石岡は昨夜は森孝魔王をよんでたので多少寝不足。ちょっときて。変なものと里美。廊下をのぼる。晴天。2メートルの雪。で、何。こっち。脱衣場。これ。睦雄の油絵。あっ。ねっと里美。どうしたんだ。絵柄が。かわってる。昨夜の絵は。武者、裸の男、桜の樹、森。だった。下半分はただ茶色の地面だった。今朝は。ここに女。地中にうまってる。それが今朝は見えた。何故。さあ。しってた。否。きゃ。両腕がない。きられた。森孝に。腕は。ここ。こわい、この絵は何と里美。もう一本は。石岡が指でなぞる。あっ。手の甲に水。わかった。

(050102) 雨漏り、水彩の上塗り
天井の木組みがぬれてる。梁の中途にもりあがった水滴。ほら、雨漏り。成程。板壁、額の上、額の中に。絵の表面をつたってる。成程。で、雨漏りの水が。絵の具をながして。然り。でも油絵で。だから水彩で上に。へえ。それが水でながれた。へえ。女は油絵。武者も男も桜の樹も。だからとけない。然り。上にぬった水彩だけがおちた。でも何故。不知、土のつもりかな。成程。で、ここから移動させた方が、大事な部分が水彩かもしれないし。とりあえず安全な場所に移動。龍尾館に移動する。里美に助言。音、何。除雪車。

やった、大岐の島神社にゆける。そう。二子山も。でも二子山の四駆は雪の中、無理と思った。どうして水彩を上塗りしたのかと里美。不知。石岡が考える。お胤は見つかってる。何故。足音、櫂が朝食と。

(050200) 第2日、朝食、石岡、二子山、里美、ユリ子、徒歩で神社へ、対話、神社到着、警戒する菊川、地震、真理子出現
(050201) 四人が神社に、ユキ子の将来の夢
朝食後、雪掻き。雪は自分の頭よりたかい所にほうりあげる。除雪後にできた筋に。黒住は帰宅へ。石岡、二子山、里美、ユキ子が大岐の島神社に。ユキ子にきく。学校は面白い。勉強ばっかり。成績は。わりと。お母さんよろこんでる。勉強とうるさい。何年生れ。平成2年(1990。将来、何になると石岡。わかんない。お母さんは。歌手に。自分はステージママ。歌のレッスンは。してない。ママはしてた。かも。してない。歌すき。すき。有名に。なりたいかも。クラスになりたい子は。いないと思う。医者には。母はなれと。ユキ子自身では。嫌。血が嫌、夜によばれる。成程。弁護士は。なりたい。そう。なりたい。ではライバルと里美。だったら検事にと石岡。まけそう。里美にきく。どんな勉強を。司法試験の勉強。毎年一回。もう準備。里美がこまかに試験の説明。むずかしそう。人前でしゃべるのは。わりと得意。大学在学中になる人も。いる。合格したら検事でも裁判官でも。そう。

(050202) 里美の研修の話し、菊川の人柄
里美は合格とユキ子。そう。研修は。岡山の地裁。法律事務所で研修。大岐の島神社までの道。山を旋回。歩行者用に直進の階段道。雪で不通。眼下に法仙寺、龍臥亭。いい眺め。昨夜の話しを思いだし、菊川はサイキック。否。そんなタイプでは。ない。ではどんな。普通人。お金、女の人がすき。金貸しもと石岡。噂。さらに上にのぼると杉林。視界がうしなわれる。たかい。電信柱みたい。然り。樹齢は。80年ほど。寿命は。ここはよい森。神木。

(050203) 到着、菊川の警戒心が爆発、地震
到着。頂上の除雪は完了。雪の杉林、除雪の雪盛りで独自の世界。閉鎖された世界。ちいさな神殿、渡り廊下。水聖堂。これが沖津の宮。周囲から隔離。下はセメント。全部そう。ここで大瀬真理子がきえた。然り。玄関のガラス戸をあける。声。しろい神職の服、小柄。挨拶。広間を右、左が曇り硝子。広間の隣りに小部屋。ガラス戸をあけてはいる。二子山が饅頭の土産をわたす。里美に、今何を。横浜でオフィス勤務。何の。法律事務所。事務か。まあ。もうかる。否。都会は。まあ、横浜はちょうど。東京にちかい。まあ。わかい男も。まあ。二子山に都会のことは。まあ。最近のわかい者は皆都会に。ここはよい所と石岡。菊川に笑みがない。心があらわえると里美。然り。ここにもどるか。巫女にならないか。失踪とかと里美。こまってる。ぴったり。どうして。よい立ち姿。真理子を最後にみたのは。それがどうした。いや正確に。自分がこまってる。はあ、真理子の行方さがさないと。お前は警察か。はあ。まあまあと二子山。都会のものがちゃらちゃらと。そんなつもりはと里美。ある、都会の男がよい。興奮、菊川はたちあがる。自分一人を馬鹿に。警察も馬鹿にした。良心、道徳心がない。神前でよくいうと興奮。すると、どうんという音。

(050204) 真理子の死体が出現
足元に衝撃。杉の森に騒音。鳥の声、屋根から降雪の音。また揺れ。地鳴り。女性の悲鳴。大地震だった。おわりかと里美。おわりか。無事をたしかめる。はやく外に。然り。ガラスをふまないように外に。玄関、われた硝子戸。携帯の音。無事。育子かららしい。石岡は杉の木立に。何本かはかたむく。地面に裂け目。50センチから1メートル。おそるおそる裂け目を。あっと思わず声。何。何。龍頭館の睦雄の絵が再現されてた。女の体。死体。真理子。白骨化してない。

(050300) 第2日、午前、警察に連絡、交通途絶、県警田中に、錯乱する菊川、真理子の謎
(050301) 駐在に連絡、県警に連絡、現場検証の相談
里美が駐在に連絡。自転車でくる。あきれる。県警の田中に連絡をたのむ。石岡が田中にはなす。無事。然り、だが地割れ。どこ。大岐の島神社の駐車場。割れ目から死体。今、見えてる。たしかか。たしか。深さ2メートル。ここで大瀬真理子という巫女が失踪。3カ月前。面通しできるか。神主、恋人。そこにうめられてた。不可解、コンクリートの表面。その下に。然り。セメントは。ふるい。死体は骨。否。駐在は自転車。了解。津山から応援をたのんで四駆で。田中個人も。然り。まってるか。然り。警部補に。然り。鈴木、福井は退職。恋人の黒住を。よんでよい。死体にさわらぬよう。了解。里美に黒住への連絡を。菊川から目をはなさないようにと二子山に。どうやってコンクリートの下に。不可解。龍臥亭に連絡。日照がくると里美。一同が中にもどる。

(050302) 菊川が錯乱、地割れの死体の謎
菊川ば茫然、不可解という。二子山がきく。あれは真理子か。否。では誰。不知。中を清掃。菊川が大広間に。段差につまづきたおれる。うわごと。真理子がもどってくる。痙攣。三人でおさえる。あなたがうめたのかと石岡。否。どうやってセメントの下に。不知。では誰がしってる。不知。癲癇と石岡。口に棒をかませた。まったく事件に不知のようと里美。然り。しかし不可解。あついセメントの下に死体。駐車場、土がむだしの場所は。ない。別のむきだしの場所から。個人の力。不可能。かりにあったとして、そこに。うめればよい。熊笹の斜面。表面に痕跡。無し。地下道、地下の隠し部屋。無し、大社が派遣、先任から引き継ぎ。秘密にできない。あれば二子山にもつたわる。

(050400) 2日、昼頃、黒住、日照到着、巡査を救出、犯人さがしを約束
(050401) 巡査が地割れに転落、ロープで救出
黒住の自動車が到着。駐車場で黒住に挨拶。老人の巡査がよろよろとあるく。地割れの方を指差す。黒住がいう。そっちで日照に。車にのらす。そこに日照が到着。硝子がわれたと日照。ここの玄関も。中の硝子は全滅と石岡。菊川が癲癇。成程。育子からおにぎり。死体は。示す。巡査がぶつくさ文句。おこってると日照。きこえる。否、耳がとおい。昔は元憲兵。で、警察は。あれ。否、ほかのもっとまともな。じきに岡山県警と津山から。巡査が割れ目の縁に。身をかがめた巡査が地割れに。大声。黒住にロープをたのむ。二子山、里美、ユキ子が外に。たらしたロープに文句。一同がひきあげる。

(050402) 黒住の実見、後悔の黒住に犯人究明の約束
文句たらたらの巡査を家の中に。黒住が地割れをのぞく。どうしてここにうまったのかと石岡。真理子か。然り。着物の下にトレーナー。そう、その上にあかい袴かと石岡。然り。黒住がいう。何もたすけてやらなかった。でもできなかった。でも結婚したら沢山できたと石岡。今でもできた。見殺しにした。意気地がなかった。黒住は杉の大木を見あげた。今でもできることはと石岡。何。葬式と犯人探し。犯人。そう。犯人をころす。まて。菊川をころす。とめた。黒住に菊川の犯行をあばいてはっきりさせると約束した。

(050500) 第2日、昼頃、真理子の家の事情、二人の関係、起訴できるか、警察にかわり現場検証、葬式の論争
(050501) 菊川の起訴可能か、方法の詳細は、違法な高利貸、菊川の莫大な援助
二人は建物にはいった。一同はわれた硝子の応急修理をしてた。菊川も回復し参加。巡査はストーブのある部屋のソファでやすむ。里美にきく。菊川の女性問題が。あった。真理子とも。まあ。死体がでた。起訴は。不可。えっ。被告が全面的にみとめれば。そうでなければ検事に立証責任。ああ。訴因は。何。何の罪。真理子殺害。でも菊川がいつ、どこで。逮捕して尋問は。やみくもに逮捕は。不可。誰が許可。裁判官。それにおおきな障害。何。あついコンクリートをどうやってやぶった。成程。弁護士は絶対につく。ああ。それにいつ、大勢の氏子。神殿から定期的に太鼓の音。ころす時間、かくす時間。場所は。沈黙。では高利貸はと石岡。もし違法行為があるなら。それは不可と日照。わるい噂を。二人を大広間の隅に。日照がいう。最初はかなり暴利。携帯のネットワークをつかって。法律改正にすばやく対応、低金利。違法でない。

(050502) 真理子の家庭の事情、むつかしい田の耕筰、家計の担い手
そういう線は。むずかしい。そうでもないと日照。何。そうでない。何と石岡。かなりの沈黙の後、真理子の家の田は異様。はあ。保湿がわるい。水がぬける。手がかかる。皆がいやがる。誰。農業耕作法人が。農地の保有はまだだが、49%まで投資が可能。企業参入。どんな。建設会社。それで機械化農業。ところでこれは都市近郊。 山間地では高齢化。耕作放棄地が。それで法人農業。で。耕作、収穫、使用料の支払い。成程。耕作オペレーターという人がいる。これが多数の田の作業を調整、耕作する。ところが。真理子の田はうまくゆかない。作業量がふえる。成程。で、耕作法人がきらう。やすい使用料でかす。それは。借金が。だから負担が真理子一人に。で。ここだけの話しと。ことわって。日照がいう。菊川は真理子に月80万円。へえ。どうやら本当。そんな。バイトにそんな多額。ない。だから関係があった。しらぬわ黒住ばかりと石岡。酒の上の話し、関係をあけすけ。最低の奴。でもこのあたりにはある話し。2、3年の関係らしい。愛人関係。そんな約束があったか。不明。ではと石岡。

(050503) 性的関係の強要、起訴は困難、遺体の収容、日照が葬式
暴行。それは真理子自身の被害届がないと。死んでる。合議のうえと日照。でも動機は。菊川は金貸しでかせいだ大半を真理子にみついだ。真理子が拒絶。犯行にと石岡。拒絶もありと里美。携帯の着信音。姫神線が不通で来訪はあすと田中の連絡。ストーブのある部屋でおそい昼食。善後策を検討。田中が予定どおり明日くるか不確実。真理子をひきあげたいと黒住。田中に連絡、やりとり。カメラは。ある。一眼の高級か。日照があると。巻尺は。ある。フィルムを1本以上、徹底した現場写真。特に死体の状況。うごかすのは写真をとった後。図面。測量、数字を記入と里美。

(050504) 葬式で菊川と争い
二子山が死体を監視。葬式は自分と菊川。否と黒住。許婚の意向にと二子山。ここは自分の神域、死者は自分の巫女、失礼。神職が坊主の味方かと菊川。興奮した日照が高利貸と反撃。さらに里美が女好きについて批判。石岡が制止。菊川が祝詞をかくというと黒住が反対する。つかみかかられた菊川が警察をよぶという。もうきてるとソファでねてる巡査をしめす。ころした。そうなら証拠を。見つける。できないと菊川。二子山が制止。菊川と二子山が論争。日照が棺を伊勢にたのむという。

(050600) 第2日、午後、いったん龍臥亭に、櫂が自宅に、再度神社に、夕方、現場写真、腕なし、引き上げ、法仙寺へ
(050601) 二子山が神社、日照が法仙寺、他が龍臥亭、現場で写真、遺体を引き上げへ、両腕なし
一同は龍臥亭にもどり。日照は法仙寺にもどった。龍臥亭はほとんどダメージをうけてなかった。育子、通子が一階の窓の紙をはってた。櫂は自宅にもどってた。龍胎館の窓も無事のようだった。里美はユキ子を通子にもどし、巻尺、デジカメをもってきた。黒住がむかえにきた。スケッチブック、鉛筆、サインペン、毛布、ロープをもってきた。大瀬の家によって服をもってきたという。車で法仙寺によった。日照がニコンF4をもってた。大岐の島神社の駐車場にゆく。

(050602) 写真撮影、死体の検証
二子山が椅子にかけ監視。夕方ちかく。菊川は現場にちかすいてない。然りと二子山。写真撮影。日照がニコンF4、里美がデジカメ。石岡、二子山が巻尺で測量。図面。巡査がおちたあたりは、あれてたが死体の場所からはなれてた。菊川と巡査がでてきた。巡査の名前は。運部(はこべ)。撮影はほぼ完了。死体についた泥、雪をはらって撮影と石岡。誰が撮影。ちいさな箒をもって石岡がおりた。髮が灰色。死体の上方から泥、雪をはらう。死体は背からお尻。着物が茶色。その下はトレーナー。両腕がなかった。肩口からすっぱりと切断。着物の袖、トレーナーの袖がなかった。死体の姿勢、左側部が上、見えてるのは左だが、おそらく右も。あの絵のとおり。どうしたと二子山。ああ。撮影を再開。そろそろ上にと日照。毛布を。何かと里美。腕がない。えっ、どうして。不知。おちた腕は。不明。両手ともと日照。然り。足は。あり。何故と菊川にきく。憤然と不知。

(050603) 駐車場に、日照が本人確認、法仙寺へ、油絵の疑問
毛布を。 死体は。硬直。おとすと。バラバラにも。覚悟してもちあげ。毛布でくるむ。ロープをひいて。黒住、二子山、日照、里美が。ひかれて駐車場の平坦部に。そのまま車にと日照。黒住の軽四の後部に。ドアがしまらない。できるかと日照。然りと黒住。では死体を法仙寺にと石岡。顔の確認はと日照。菊川は。否。黒住をとめて日照が確認。不明、よごれてる。両手がきられてると日照。石岡が考える。それは龍臥亭の油絵を見た者か。その理由。不可解。お胤は切断されず、切断は芳雄。伝説をしる者には理由。なし。では見た者だけ。誰。睦雄だけでは。ながく茶色で隠蔽。睦雄。馬鹿な。白骨でない。里美にきく。茶色でかくされたのは最近のこと。否。はじめて見たのは。昭和30年頃。不成立。その考えは。睦雄の油絵、次に別人が水彩で隠蔽。その別人が油絵のイメージどおり真理子を殺害、切断。不可解。車中に。黒川が石岡に謝意。

(050700) 第2日、夕食、袖の謎、森孝魔王、獣子、櫂の不幸、借金、菊川の悪行、森孝魔王への期待
(050701) 黒住を気づかう、日照が菊川の悪行をにくむ
龍臥亭で夕食。日照参加、黒住不参加。真理子かと石岡。然りと日照。自分の車はと二子山。雪の下。食事後、石岡が三階に。日照、里美の三人で景色を眺望。田の耕作スタイルがかわった。時代の流れと日照。全体の5割強。法人が失敗は。あるかも。大瀬の家に真理子の死は。まだ。黒住は。つらいだろう。石岡は自分の悲惨な過去を思いだしていた。黒住は。よい子。勇気がある。何とかしてやらないと。何をと石岡。菊川は悪人。誰かが。死体がでた。できないかと日照。里美は不答。やったのか、本当にと石岡。さあ。腕がなかった。それも菊川。死体にちょっと変なことと日照。右腕は肩口から、しかし袖はあった。えっ。着物。否、下のトレーナーも。えっ、どういうこと。トレーナーは肘のところから。また石岡が考える。

(050702) 袖の謎、森孝魔王伝説、迫害された人生、獣子、櫂の不幸
森孝のように切断。着物も。では服をぬがせる。腕をきる。また服をきせる。可能。でも何故。不可解。でもこれは重要なヒントでは。菊川がやったのか。里美にきく。菊川か。さあ。「森孝魔王」を読了と石岡。日照に。不答。里美にきく。否。どう思ったかと日照。ユダヤの神話を連想。ユダヤ人と日本人はにてるのか。成程。つらい日常にとんでもない怪物の登場を夢想、それが悪人をたおす。国をもたない流浪の民、ユダヤ人ににてる。つらい日常をくらしてると日照。石岡がきく。

子どもがうまれる時、獣(けもの)が憑くとは。どんな時。櫂がいわれて里子にだされた。成程、獣子(けものご)とか鬼子(おにこ)とかいう。昔から。獣子。のろわれた家、そこに嫁入り、妊娠、顔が凶相に。へえ。獣みたいなけわしい顔、人間でない顔。へえ。そんな時、娘は獣子をうむ。何。人間の子どもでない。いやあ。亀みたいな格好。背中にみっしりくろい毛。へえ。うまれてすぐあるく。家の縁の下ににげる。嫁の布団の下にやってくる。嫁は三日三晩高熱、死亡。言い伝え。うまれたらすぐ、うちころす。気味のわるい話しと石岡。で、櫂がそう。否、獣子は人間の世界で生存できず。失踪。だから間違い。あるいは櫂の母親がとついだ家。ここが他人にうらまれるようなことをしてた。するとすこしかわった子がうまれるとそういって差別する。

(050703) 櫂の生活、借金、菊川の悪行、森孝魔王への期待
昔の話し。でも里子にだされ差別と石岡。ひどいね。迷信だが、反省しないと日照。昔はひどかったと里美。でも櫂のあかるい人柄は救いと石岡。然り、彼女は。援助してるとか。できることは。然りと里美。大変な人生、それをかんじさせない。えらいと日照。菊川から借金は。あったと日照。へえ。ここの人は金がない。生活はきつい。かせぐ方法がない。大瀬の家も借金。沈黙。あれだけじゃない。えっ。皆、たえてる。菊川がと石岡。菊川は神職でない。おいつめられてる人をたすける。それが神職。しかしくるしんでる人間をさらにくるしめる。そう。菊川が真理子をころした。間違いない。へえ。でも尻尾をださない。何人も首をつった。でも誰も手をだせない。森孝魔王でもいれば。ここまでが幻想の龍臥亭事件の幕開けだった。

(060000) 第三章 三番目の死、日照殺害か
(060100) 第2日、夜、櫂、不通、家を訪問、不在
(060101) 櫂の不通を心配、自宅をたずねるが不在
日照はすぐ法仙寺へ。応接間、育子、櫂と連絡がとれない。心配。10時前。今夜連絡の約束。で、ない。はじめて。地震が心配。どうする。雪。極寒、危険。明日、明かるく。事態は急をと育子。骨折、大怪我。いこう。二子山、育子、石岡、それにスコップ3つ。坂出、里美、ユキ子、通子はのこる。除雪車の道、育子が先導。貝繁銀座。山道。アイスバーン。30分の徒歩。おおきな山影。この先に櫂かと二子山。然りと育子。行き止まり。やりなおし。やっと到着。あっ。屋根の形がかわってる。声をかける。櫂がもっていったスコップ。玄関、引き戸。土間に。畳の間、囲炉裏。屋根がおちてた。不在か。不在。これだけか。これだけ。避難かと石岡。否、その連絡ないと育子。法仙寺に電話と二子山。櫂はいってない。石岡が土間に。へっつい、鍋、流し、電気釜。ここが台所。然り。スイッチをいれる。電気がきれてた。屋根がおちて断線。この電球が梁に直接。床にロープ。電話できない理由はと石岡。ない。ちかくの民家。不知。近所付き合いがない。

(060200) 第3日、朝、ナバやんの首足無し死体、脅迫状、日照の涅槃発言、鎧に収納
(060201) 無頭のナバやんが門外に、脅迫状を発見
里美におこされる。門の前に死体。門外に。誰。ナバやん。この死体に頭がないと里美。足もなかった。首と足はどこにと二子山。無し。何できった。チェーンソー。坂出がズボンの膝の下、切断面をさす。染み。オイル。足の断面も。どういうことと二子山。この死体は水分無し。しかし普通、死体は水気、脂気がおおい。切断はチェーンソーが楽だがすぐ目ずまり。それでオイル。成程。でも何故ここに。昨夜、櫂がかえった時は。無し。今朝8時、ここにきたらあったと育子。法仙寺の死体置場から誰が。その死体置場は誰でも。はいれる。成程、誰でも何時でも。どうして首、足が。日照に連絡は。済み。櫂から電話は。無し。これ何と坂出。ノーネクタイの胸の内ポケット。紙の端。石岡が注意。軍手、ハンカチーフをつかう。「この骸(むくろ)を......、森孝の具足の内に葬れ。災いを避けたいなら。魔」。具足とは。鎧兜のこと。

(060202) 日照が涅槃を見たと発言、死体を鎧兜に
日照が到着。驚。和紙を日照に。何。死体のポケットに。成程。どう思う。むずかしい顔。どうしてここに。不知、地下へいった。死体がない。伊勢に連絡。不通。真理子の死体は。ある。日照が念仏。雪に尻餅。何。涅槃を見たと日照。足、頭は。不明。仏の声をきいたと日照。何と坂出。このとおりやれ。はっきりきこえたか。然り。本当か。時々、ぼんやり。しかし今度ははっきり。一同沈黙。まあ、やめるかと。否、やれと二子山。一同も同調。石岡にきく。森孝魔王の伝承そのまま。然り、伝説をしってるものの悪戯と日照。否、誰かの祈り。しばらくこの流れにのったらと石岡。でも頭、足がない。でも胴体だけでもと石岡。でもどうやってと里美。森孝の鎧をねかせ、そこにいれる。そうするかと日照。

(060300) 第3日、朝食、櫂の悲惨な境遇、死体を法仙寺に、網の中の鎧兜、死体の収納、日照の独白
(060301) 朝食で櫂の話し、獣子で里子、きびしい養父母、地域の差別
死体は門内に。朝食。日照も参加。櫂から連絡。無し。身の上話しとなる。獣子故に里子。大瀬の家。成長、ひどい生活と石岡。然り、学校で差別、子どもが石投げ。子どもは親のいうとおりやると坂出。大瀬の家で食事は別のちゃぶ台と日照。ひどいと通子。獣子の扱い。その習慣と日照。そうしないと他の者にもとりつく。迷信と坂出。両親はどんな人と石岡。よい人。本当にと通子。よい人、信仰心があつい。そのままやる。だから致命的と坂出。そんな習慣、子どもに理解不能。でも差別が道徳となってる。やらないと、親が村からやられる。でもたたかえば。田に水をとめる。こまる。でもそれは犯罪。巡査は村の味方と日照。

(060302) 結婚、夫をおって家出、離縁、再婚、出戻り、地震
で、櫂が成人。婿。でも家をでたと石岡。舅がきびしかった。真面目、きびしい。布団の上げ下ろしまで。薬缶の水をきらしたと頭をぽかん。えっ、それでよい人と里美。まあ田舎では普通。櫂はたびたびないてた。イジメでは。でも村の道徳、常識。それで櫂が夫をおって家をでた。顔がよくて頭が馬鹿な男。顔にほれた。テレビのスターは皆そう。で。やはり駄目。一時、ちいさい家で櫂をはたらかせた。乱暴した。まあ自分もさんざんされたから。もともと乱暴。きたえられて乱暴。最後は女をつくって櫂をおいだした。ひどい。それで大瀬の家に。もどれない。他家の手伝い。山の中でくらす。ナバやんと同じ、乞食。都会には。ゆけなかった。都会はおそろしい。そうかと石岡。それから金持ちにひろわれて手伝い。誰かと一緒。たぶん妾。結局だまされたと二子山。否、それほどでも。ふるい家をもらった。で、今度の地震でつぶれた。櫂はどこへ。不知と日照。

(060303) 死体を法仙寺、地下の鎧兜、取りだし
石岡と二子山が担架に死体をのせ法仙寺に。寺の裏手。二子山の車は半ば雪の中。奥さんは大丈夫かと日照。離縁寸前。されたら寺をやる。えっと二子山。神仏習合。神様と仏様。呼び名がちがうだけ。では日照は。さあてとこたえる。死体を地下へと日照。前の部屋。然り。洗い場のある霊安室。木造りのテーブルの上にすでに棺一つ。床にもう一つ。日照が鎧をとってくると。ナバやんは床の棺。真理子は。テーブルの上。見るか。蓋をずらした。ミイラ化。黒住には見せられない。これも伊勢が。化粧。で、失踪。探索中。では隣りにと日照。二人も。正面奧の金網。止め金をはずす。日照は金網の中に。兜を二子山に。それを石岡に。それを床に。面当て。胴当。脇の止め金をはずす。ひらくと大変なおおきさ。日照があらためて本当にやるかときく。二子山も金網の中に。二人で表に。三人がかりで前板後板をしめ、床に。日照は箱の類をおしやり、上下につむ。スペースを確保。胴当がこんなにおおきいとはと石岡。然り。こうなったのは戦国以降のこと。

(060304) 具足の説明、死体の収納、弱気の日照
へえ。鎧のこと「具足」。何故。それは「充分みちたりていてる」という意味。室町の頃から何もかもそろってる大鎧の形式、「具足」。鉄砲が登場。槍も。戦国時代の侍の死傷の理由は。大半が鉄砲、弓と槍。刀はごく少数。成程。一騎打ちなしか、卑怯。それが戦争。それで大鎧は鉄砲、槍に対応。胴当の中に鉄板。これ当世具足。前のは昔具足。具足といえば当世具足となる。胸板、両側に脇板、裏は押しつけ板。皆、鉄板入り。おもい。成程。胸板の下のは草摺(くさずり)。下半身を防護。草摺の上に揺るぎ。後ろ首のところ衿回(えりまわし)、肩当。小鰭(こびれ)、受筒、指物竿。竿。旗、敵味方の区別。成程。小袋は薬袋。成程。他は。袖、籠手、臑当て。これらも網にもどりもってきた。中には櫃と芯棒だけがのこった。でも臑当てがない。森孝は片足、かわりに義足。これは。最近のもの。また考えこむ。あれは誰がなんのためと日照。何かの企み。とにかくやろうと二子山。

(060305) 死体を収納、評人訪問へ、日照の独白、辞去
ナバやんを具足の中に。だが面当て、兜は不要。体に欠損のある武将の姿。石岡が考える。何かの陽動作戦。深刻さよりゲーム感覚。で、これからどうと石岡にきく。上山評人のところに。電話で挨拶。すぐ訪問する約束。二子山は龍臥亭に。日照が階段まで見送り。法仙寺、森孝の社、大岐の島神社とこのあたりは神域と石岡。そう。どんな人がが神仏につかえる人かと日照。えっ。冬に雪、春に花、誰もほめない。誰も見ない。でも自然は淡々とやる。然り。人から評価されるからやるのは1年2年の人。自然はすこしづつかわる。それをおしえるのが仏。その声をきくのが聖職者。石岡にいう。自分は俗物、でも時には仏の声をきく。いうとおりできないが。何と二子山。自分も俗物。日照は二子山に握手。よい友人だった。どうしたと二子山。石岡にいう。物書きも人をたすける。沢山たすけてやって。えっ。さっき涅槃の風景を見た。この世もながくない。よろしく。今晩もあえると二子山。わかれる。

(060400) 第3日、午前、日照のわかれの言葉、評人宅へ、お茶汲み人形、江戸の技術の進歩、ロボットの伝説、伊勢の戦時研究
(060401) 評人宅、茶運び人形の実演
評人宅へ。火葬場、銀杏の樹、地蔵尊の角、茅葺きの農家。応接間、奧の炬燵。地震はと石岡。まあ。テレビ、ビデオ・デッキ、書棚。座布団、電気コタツ。茶坊主の人形。これは。江戸時代の人形。ほう。茶運び人形。見たことは。写真では。では実演。まず 、最中を卓上に。寿司屋がだすような大型の湯呑みを人形が胸にかかげた盆に。重みですこしさがる。するするとちかづく。とめてと評人。手のひらでさえぎる。人形の向きを自分から見て向こう側に。背中を見ながら湯呑みをとる。人形はまたするするとうごき、評人のところにもどる。とまる。へえ。お茶を。これは。京都で購入。再現モデルの販売。ではオリジナルは。江戸時代のもの。では動力は。ローテク。湯呑みの重み。さがる。はしる。ゼンマイをまく。湯呑みをとる。ゼンマイがもどる。もどる。ではゼンマイだけ。材質は。鯨のヒゲ。江戸時代には金持ち、武家の家に。否、もっと普及。

江戸時代は面白い時代、このような玩具が日本中にあった可能性。図集「機巧図彙」をしめす。人形の説明図があった。でもこの材料は。うってない。設計図のみ。当時のベストセラー。成程。日本人が退屈な人種になったのは明治以降。軍国主義が遊び心をつみとった。江戸時代、こんな発明が自由だった。否、新規御法度との御触れ。成程。見世物小屋で大衆娯楽に提供。数学も世界第一級。からくり工作の科学技術は土木工事、建設工事、建築の分野にいっさい応用されず。成程。だから江戸文化は進歩しなかった。でもゆるされた方向で才能を発揮した天才がいた。

(060402) 加賀藩大野弁吉、谷田部藩、飯塚伊賀七、高松藩、久米通賢の発明、階段をおりる人形を実演、侍を退治したロボットの伝説を
金沢、加賀藩の大野弁吉は世界最初のロボット、とびはねる蛙の玩具。つくば市、当時、谷田部藩、飯塚伊賀七は小坊主のロボット。ほかに、おおきな公共使用の時計、グライダーの試作。高松藩、久米通賢、連射可能な弓、ゼンマイ発火式のピストル、さまざまな時計、団扇式の扇風機。成程。それに職人の腕の高度さ。設計図から製作できる。もう一つ面白いものと評人。長さ1メートル、幅20センチ、木製の台の上に10センチ四方のテーブルを支柱でささえたものが4つならんでる。これらは階段状にひくくなってる。これも自分の宝と評人。江戸時代の大衆の娯楽に提供したもの。当時人気になったもの。評人は1つの人形をつまんで最上段におく。すると背中方向に上体をそらせ足のすぐ後ろに両手をつく。すこし逡巡する時間があって足があがって一回転。一段下の段に着地。つづいて上体がそれにつづいて回転。両手をかかとの後ろに着地。これをくりかえす。上手、動力はと石岡。水銀。江戸の職人の知恵。

自分にききたいことはと評人。森孝魔王。津山で出版と評人。然り、日照から。龍臥亭で。実際にあった。森孝、お胤、芳雄。然りと評人。どう考えるか。ううむ。一種の機械人形の話し。世界中にも。然り、ユダヤ系のゴウレムの話し。成程、日本にも谷田部藩の飯塚伊賀七の伝説。酒をかいにゆくロボットを発明。実際に酒をかいにゆかせた。史実。否、さらに森孝魔王の下敷になってる話し。何。ロボットが街で弱い者いじめの侍に遭遇。川になげこんんだ。へえ。しいたげられた民衆の願望。

(060403) 事件関係者の情報を、伊勢のことを、研究との関連
うなづいて石岡がしばし沈黙。森孝魔王の取材か。否、森孝魔王は偶然しったこと。ここでちょっとした事件に遭遇。また。まあ、前回とはちがうが、大岐の島神社の巫女、失踪の真理子の死体発見。これは。不知、警察は。雪崩、大雪で未着。津山の警察か。然り。真理子の遺体は法仙寺。で、神職の菊川のことは。真理子は不知。菊川はよくない噂。ほかに何かと石岡。伝聞、ひかえる。ではナバやんのことは。したしくはなかった。では伊勢は。無口の人。昔医学、死体の研究。浜松で軍の秘密研究とかと石岡。否、登戸。陸軍秘密研究所。えっ登戸。したしかったかと石岡。否、昔薬局をやってた時に面識。自分のことは話したがらない。然り。それは恥部。今の死体の化粧もいやいや。何故と石岡。伊勢は死体の一部を負傷した兵隊につなぐ研究をしてたとか。可能か。一時的なら。かも。それは悲惨では。然り、最終的にくさりおちる手足をつけること。戦時、非常時なら研究。可能かもしれないし。へえ可能。でも脳はないと評人。その人自身だから。成程。戦争末期、兵士が不足。あり得る発想。異常、ホラーの世界と石岡。でもまだまだ。神風がふく。しんじてる連中も。あやしげな宗教団体が。いた。しかし伊勢の研究が関係が。然り、ナバやんの事件を説明。関係があるかもと石岡。絶句、悪戯と評人。でも度をすごしてる。不可解。何か理由が。不知と評人。

(060500) 第3日、昼食、龍臥亭に、夕方、日照、襲撃、一同、法仙寺、血溜まりの本堂、現場の調査、脅迫状
(060501) 龍臥亭にもどる、日照行方不明、事件か、四人で法仙寺に、本堂大広間
昼食を貝繁銀座の蕎麦屋。喫茶店に。さらに評人宅。龍臥亭に。夕方。雪。玄関口。二子山の声。日照が行方不明。やられたと二子山。どういう意味。携帯に電話を。日照に。然り。うめき声とやられた。場所は。不明。誰に。不明、ただ森孝さんと。助けようと石岡。武器。黒住に電話。武器と応援を依頼と里美。老人、女性。じゃあ里美と石岡。黒住の車で出発。石岡、二子山、里美。法仙寺本堂。本堂に明かりと石岡。あそこか。二子山に携帯連絡をもう一度。駄目。では本堂へ。中。戸をあける。敵への準備と石岡。人の気配無し。大広間にさがる裸電球。障子戸ごしに明かり。石敷きの通廊。一段たかいところが畳の間。境は障子戸。日照とよぶ。反応無し。障子戸に手を。ロック。突っ支い棒のような詮をおとしこみロックと二子山。中からしか。しめられない。全部チェック。ロック。どうする。相談。

(060502) 畳の上の死体、足と頭、血溜まり
けやぶる。では二子山と石岡。匂いと里美。けやぶった。中。何も。あっと二子山。悲鳴。畳の上におびただしい血。6、7メートル。そこに何か。一つは人の足。すね毛、男の足。その向こうにボール。ああっと二子山。日照。頭部。だれがやったと二子山の叫び声。誰が。わからん。誰かがいると里美。誰。不明、でもいると里美。黒住に電気。大広間を。指紋に気をつけて。はいろうとする黒住に。仏間に注意と石岡。天井部はくろい梁。天井板無し。人の気配がきえたと里美。畳の上の二子山が紙と。血溜まりの前。

(060503) 血溜まりを調査、時刻は8時
御手洗の助言を思いだす。血溜まりをゆっくり観察。縁にはっきりした稜線。乱れ無し。しかし一カ所だけこすられた跡。おちてた足のすぐそば。足を観察。日照のもの。オイルが足にたっぷり。チェーンソーによるもの。手形、足型無し。頭部と足の切断があったのに闘争の痕跡がない。不可解。死体を切断する必要は。不可解。動機は。殺害方法。死因。最大の謎は死体をひきずっていった跡がない。かかえていった。そのルートにそってたれた血は。畳、通廊にも無し。不可解。大岐の島神社の真理子、おなじ神隠しか。ティッシュで血の浸潤を確認。すっかり乾燥。表面も乾燥。最低30分は経過のよう。時計は8時。二子山にきく。門で石岡とあった時からいうと。2、3分前。携帯の通信記録を確認。結局、22分前。この血は22分を経過したにすぎない。自分の判断ではそれ以上。もし日照が血溜まりの中で通話。痕跡がない。不可解。何者かにおそわれ日照は瀕死の重傷。犯人はチェーンソーで切断。その痕跡は。無し。不可解。

(060504) 第2の脅迫状
里美の声。我にかえる。血の凝固。条件によればはやい乾燥もありか。納得。否、むしろ逆。ここで思考中断。里美にうながされ、紙。否、これ日照の携帯。座布団の陰。然りと二子山。血痕は。無し。また謎。着信記録も。石岡がポケットへ。和紙には血糊。苦労してはがす。「この頭部、足部を、森孝の具足中に葬れ。女子供への災いを避けたければ、必ず。魔」

(060600) 第3日、夜、日照を鎧におさめる、否か、日照のカメラを、死体をもち鎧に
(060601) 相談、脅迫状にしたがうか
通廊で善後策。協議。冷静にと前置き。まずやるべきことは警察。では田中。そこが問題。田中は現場保存。したら。そこでこの紙の中身。無視は危険。女子供の安全は。どうする。時間をかけられない。敵はこちらを監視と石岡。頭、足をいれず龍臥亭に退散。自分たちも危険と里美。やるか。でも鎧をいれる意図はと二子山。逆転の発想と石岡。犯人は伝説を利用。死体を鎧にあつめる。でも犯人の真意は。大切なのはもちさったもの。成程。日照の体、ナバやんの頭、足が。否、両方でなく、どちらか一方。その目的は。たぶん何かをかくすため。日照。死体。鎧にいれるのは末端。へっ。胃。えっ。毒殺されたのなら。胃をもちされば毒物が不明。さらに浮腫、湿疹が皮膚におよぶ。ところがはやく切断。首にはでない。まあ、専門家に意見をききたいところ。では御手洗に。警察の助けがむすかしいからと里美。パソコンは。もってきてない。二子山は。家には。育子は。やってない。黒住は。もってない。ではメールは駄目。電話かと石岡。外部の助けは。

(060602) 結局、指示にそう
加納通子、主人の吉敷は警視庁。でも警察官なら現場保存。では龍臥亭の女子、坂出に内緒で決断。内緒で日照の頭をいれることもと石岡。頭をいれる。皆の安全。遺体の一部をもつのは嫌と二子山。もう一つ。現場写真と石岡。了解。やはり警察は。おこる。でも女子供の安全。大雪でもヘリコプターなら。こない間に日照の殺害。自分たちも危険。少々法律無視か。里美がいう。死体損壊。ではない。捜査の攪乱。多少。でもそれは結果。意図的でない。でも犯人は捜査攪乱だろう。犯人の片棒。かつぐ。やむ得ない。

(060603) 日照玄関でカメラ発見
カメラ。デジカメ。一番よいのは日照の。さがす。まず地下室。無し。隣りの部屋。網の前に森孝の鎧がよこたわる。無し。では自宅へ。玄関。引き戸。あいた。前方に虎の絵の衝立。左に下駄箱。その上にカメラ。フィルムも。下駄箱の上に絵。達磨か。露舟の署名。もどった。里美にいう。フィルムと日照の携帯の保管。手紙は石岡。大広間にあがり撮影。完了。誰がいれるかと石岡。二子山が躊躇。石岡も。そこに携帯の音。育子かららしい。よしやると里美。石岡が地下で何かつつむものをさがそうと提案。一同移動。タンス、ロッカー。タオルを4、5枚。一階、畳の間で役割分担相談。日照の頭。石岡がもつ。タオルでつつむ。

(060604) 死体部分を収納
足。里美がてつだう。突然吐き気。黒住がもつ。地下室に。いやな作業だった。頸部を裏の押しつけ板の衿回にはめこむ。面当てをかぶせる。兜をかぶせる。足は臑当てをつけ切断された右足の膝のすぐ下に圧着。反対側の足はのこってる腿部に床にのこってた義足の紐をむすびつける。不気味な光景だった。そばの床、右に刀かけの上の刀。網の奧にも刀。天井ちかくの壁に槍が2本。鉄砲も2丁。

(060700) 第3日、夜、龍臥亭、いそぎ評人を再訪、伊勢の手記を
(060701) 日照の殺害を、通子が夫、吉敷に電話、御手洗に電話
龍臥亭。日照の殺害をしらせた。深刻な雰囲気。最初に真理子、次に櫂と。その前にナバやん。これは行き倒れ。これだけの殺害で何の利益。これらの人に共通項は。死亡。法仙寺に埋葬か。でも櫂はまだ失踪中。通子が吉敷と電話。現場保存の指示。明日、県警のヘリコプターを派遣もとのこと。二子山と黒住が着陸場所を相談。はげしい降雪で明日は無理とつたえる。戸締りを厳重にと吉敷。石岡が御手洗に電話。不在。大広間で一緒に就寝と坂出。そこに里美。

(060702) 評人から電話、伊勢の死体研究
評人から電話。伊勢のことで龍臥亭にくると評人。黒住の車で自分がゆくと石岡。日照夫人に連絡は。育子がすでに。すぐこちらにと石岡。否、問題があるので。評人訪問に同行。事情は車中でと里美。夫人のこと。広島の姉の家。もう別居状態と里美。原因は。櫂への同情、不信感。成程。評人宅の離れの戸をあける。評人が雑誌をもってる。夜想貴腐という雑誌。これは。死体愛好家のためのもの。「N研究所の思い出」を寄稿したのが山田太郎、津山市貝繁在住。実は伊勢。

(060800) N研究所の思い出
(060801) 戦時中、N研究所の異様な研究
私が東京のN研究所に大阪から夜行列車でいったのは昭和19年の夏。車中で1泊し小田原から小田急線にのりかえN町についた。苦労して研究所に到着した。

陸軍の特殊研究所であった。そこで殺人光線、風船爆弾、空中魚雷といったまるで少年雑誌にでてくるような研究がおこなわれていた。自分は死者の一部を損傷のある生者に縫合し、兵士として活用するというものだった。

これらの研究は要するに、欧米の進歩についてゆくため、実用化の見込を無視し、やってる。こけおどしのものだった。この研究をつうじ死者の解剖、縫合技術はたかまったが、生者について実験することは捕虜となった敵兵についてもできなかった。自分の技術が生きたのは、空襲によってうまれた死体を葬式のために整体し化粧するものだった。

(060802) 穂坂恭子との出会い、死体となった彼女との出会い
多摩川で偶然に研究室勤務の穂坂恭子にであって、あわい恋情をい だいた。彼女の血液型はO型。自分と同じであった。N町に大空襲があり、N研究所に多数の死体がはこびこまれた。そこに恭子を発見した。きれいに整体し、化粧してやろうと自分の部屋にもちこんだ。体をあらうため裸にした。美くしさに息をのんだ。と同時にあさましい思いにかられて破廉恥行為をおこなった。やがて彼女への憧れが、彼女と一体となりたいとの願望にかわった。自分の左手を切断し、そこに彼女の左手を縫合するというものだった。自分の血液型と同一であり、免疫抑制剤をのめば夢が実現する気がした。しかし躊躇した。臆病者とののしる声がきこえた。

(070000) 第四章 龍臥亭幻想、魔王の懲罰
(070100) 第3日、夜、櫂は犠牲者、菊川が逃亡か、大広間でねる、追及はどこまで可能か
(070101) 櫂は犠牲者、菊川が逃亡か
育子にきく。ナバやんという人の血液型は。しばらく沈黙。B型。あれから櫂の連絡は。無し。偉い人でしたねと石岡。自分の辛さを他人に見せなかったと育子。櫂は菊川の犠牲者、金をかりてた。然りと育子。かえせなかった。だからずっとまってもらってた。で。二人に関係があったよう。へえ、菊川は色魔か。金もってるから。では育子もせまられた。然り、他言無用。他にもトラブル。然り。石岡は大広間に。育子がいう。菊川は明日この地をでていくらしい。あの神社を。然り。氏子に話し。宗像本社にも了承らしい。九州にゆくらしい。それは今日きめたのかと石岡。否。地震の次の日。氏子は皆んなしってる。では真理子の死体がでた翌日、犯行の自白かと石岡。成程。

(070102) 一同、大広間に、夜想貴腐をよむ、伊勢が潜伏か
黒住と遭遇。大広間にもどる。沢山の布団。石岡は布団にはいり夜想貴腐をよむ。どうかしたかと里美。雑誌の表紙をみせる。二子山にきく。日照の血液型は。B型。自分はAB型。伊勢の理論によれば血液型が同じなら縫合結合が可能となる。衝撃の事実。しかし伊勢の場合、死体と生体。日照、ナバやんや死体と死体。伊勢が発狂してたら、あり得るか。厨房の育子にあらためてきく。伊勢は。不明。息子夫婦に、見つかれば連絡と依頼済み。伊勢がここに潜伏してる可能性を考える。怪訝そうな里美。頭が混乱する。

(070103) 菊川の逃亡をきく、逮捕は可能か
二子山にきく。神主は本人の希望で簡単に全国の神社にゆけるか。否、それ何。菊川が明日やめ九州へ。えっ。何時きめた。地震の翌日。逃亡か。移住はそんな簡単かと石岡。否、ほとんど自分の家、家長の神職が生きてる間はうごけない。家でたら菊川はこまるだろう。宗像本社の了解は嘘。でもたっぷりの上納金が。でも存命中は無理。たしかに問題をおこせば、あるが。逃亡か。今日、明日中に逮捕は。警察がいない。みすみす見のがす。全員でつかまえるのはと坂出。検察官だったら逮捕可能かと里美にきく。可能。でも逮捕状はと石岡。電話で、非常事態なら。勾留する場所は。駐在所。でもでない。証拠が。人の噂で。わるい噂の収集。わるいものばかりでないはずと里美。そうか。わるい噂というより、麻薬取引、恐喝行為、繰りかえしの暴力、殺害計画への関与など。だから無理。然り。被害申請がとれそうな人はと里美。真理子を殺害、借金をした女性に深刻な被害。真理子は証拠がない。被害女性から被害届がでるかと二子山。

(070104) 日照殺害の犯人は
ださない。田舎では無理。日照を殺害は誰、菊川か里美。石岡には伊勢の顔がうかんだ。伊勢もあやしい。成程、でもまだ無理、まだ事件が整理できてない。じゃ何をすれば。日照の死、真理子の死、森孝魔王伝説。飯塚伊賀七、ロボット、機巧図彙、N研究所、伊勢。混乱。死体はどこと石岡。何の。残りの。ナバやんの頭部、下足部、日照の胴体。どこに。冷静に考えよう。今、誰かが何かをたくらんでる。だまされるなと石岡。声。電話。

(070200) 第3日、夜、御手洗から電話、生体の接合可能か、真理子出現の謎、死体が消滅の謎、黒住の行方
(070201) 御手洗の電話、人体の接合を質問、一卵性双生児なら可能
御手洗から。スウェーデンから。御手洗にきく。また事件に遭遇。祟りか。お祓いをと御手洗。ところが神主も事件にまきこまれた。メールは。不可。では口頭で概略か。然り。即答は無理だろう。自分は要領がわるいと石岡。里美が「090ー***」とマジックで大書。何。自分の携帯番号。御手洗に伝達。一つ質問。人間の首をきり、別の人間の頭部を縫合する。死体で充分練習した医学生。これを完璧に縫合。人体は生きてる。可能か。何、それ。とにかくおしえて。可能、一卵性双生児なら。可能性かと石岡。おそろしく大変な手術だが。

(070202) 他人も可能
では赤の他人なら。あらかじめつくったクローンなら。倫理性は無視する。クローンでなく赤の他人、同一の血液型なら。その場合は、もう一方が初期胚の段階でレシピエントのMHCを導入しておく。主要組織適合性抗原、つまり拒絶反応を制御する遺伝子。これをいれて両者の同じ型のMHCにしておく。他人同士の体でもなんとか可能。ほかにもハードル。奇跡的な手術の成功と御手洗。では免疫制御剤だけ、MHC無し。なら。だったら抗生物質の大量投与。へえ、血液型だけ一緒だが。その他に心臓その他の臓器、大変に健康。そうすると。可能と御手洗。生きるのか。然り、しばらくの間。あるけるか。ねてるだけで駄目か。あるく。じゃあ接合部にギブス。部分麻酔を多投。つよい精神力。若さ。あればあるけるかも。本当かと石岡。可能と。

(070203) たいした成果はない、多大の苦痛のみ
ただししばくの間。どれくらい。いえない。大体。関係する条件がありすぎる。目をあけるだけかも。できない人もおおい。数週間かも。しかしこんな手術に意味がない。適切な延命処置でない。多大の苦痛。わずかの延命。外傷による苦痛は深刻、継続的な輸血、麻酔をうちつづけ精神も健康も回復しない。成程、でもN研究所の研究もまんざら見当はずれでない。

(070204) 地割れから死体の謎は
質問は以上かと御手洗。もう一つ。こちらが本題。周囲にぐるりと人がいた山の頂きで、人がきえた事件。3カ月後のある地震の日、あついセメントの地面から死体が出現。この謎わかるかと石岡。うめた。無理、あついセメント張り、しかも駐車場。横から穴。無し、警察が調査。横には熊笹、痕跡無し。しかも時間もない。ほう。つづけていいか。まて、さっきの頭と胴体の縫合と、これとの関係があるのか。直接には。ない。否、あるからきいてる。どっち、どう関係する。むづかしい。里美ががんばれと応援。それどんな事件。とにかく話してよいか。しばらく沈黙。よい。

(070205) 真理子失踪の事情
10月15日の小雨の午後の失踪事件をかたりはじめる。おわると御手洗が確認。10月15日の夕方午後4時から5時。この1時間。然り。雨。然り。雨が重要か。現在は不明。沖津の宮からでた人も、はいった人もいない。然り。それを確認したのは自動車の中の人。然り。4時7分前にボーイフレンドとわかれて沖津の宮にはいっていった女性がきえた。そして3カ月後に死体となって出現。然り。マジックショー。然り。ちがう。彼女がうまっていた場所の地面がわれたことがだ。まるで地震がそう意図したみたい。それがヒントかと石岡。然り。

(070206) 神域の道、熊笹、車列、神事の詳細
きえた時、山のぐるりには人が中にのっている自動車が数珠つなぎ。沢山ならんでた。然り。だからこの自動車の人たちの誰にも目撃されず、この自動車のリングの外にでるのは何人もできない。そう、神主も巫女も。車がいた道は螺旋状ではなく、リング状につながってた。そこに車がびっしりと数珠つながり。然り。で、菊川はその1時間の間、沖津の宮の離れにある水聖堂という神殿でずっと太鼓をたたいてた。さらに祝詞をあげていた。太鼓の音は定期的にきこえた。きこえなくなった時もあるが最大。約15分。ふむ。ではこの約15分間に誰かが沖津の宮の脇に穴をほっていた。すると自動車の人たちからは見えるのか。見えない。車は斜面の下。だけど地面、つまり山の頂きの円形の駐車場はあついいセメント。地面がむだしの場所はない。むきだしの場所はセメントの円の外の下り斜面。ここには熊笹がびっしり。ここからトンネル。地面に乱れ。そんな痕跡は無し。警官をふくむ大勢が5時になった時点でここをあるいて沖津の宮まであがってきている。さらに調査も。ふむ。それに15分で祝詞をあげてる。でも祝詞は誰にもきこえない。太鼓の音だけ。然り。では神殿をはなれても不知。神職がそんな罰当たりなことを。する。ではこの15分で、あれほどおおきな、ふかい穴は無理。体全体だ。ふむ、沖津の宮の建物の調査は。徹底的。床下は。済み。屋根の上は。済み、梯子をかけて。神殿の中は。当然。押入、物置は。勿論。月並なことをいうと石岡。

(070207) 各所の隠蔽の可能性、菊川を犯人と断定、黒住を心配
これは確認。うっかり見落し。時間の無駄。で、自分には時間がない。何を。死体がきえた理由か。できれば。でも菊川が真理子殺害の犯人か否か。それはわかる。えっ。犯人。ふざけてるか。否、真面目。明々白々。それよりそこに黒住が。いる。用心棒がわりに。わるい考えでない。だろう。ちがう。そんな意味じゃ。菊川のことをつたえるのには慎重に。成程。ふりむく。そこに里美、二子山、坂出、ユキ子、育子。すこしはなれたところで通子が携帯電話。いたか。何故それほど気にするのかわからなかった。いないと石岡。きく。黒住は。トイレか。まずい、地下の真理子の遺体か今夜しかいない菊川への復讐か。すぐとめろ。成程。了解。電話終了。通子も電話をおえた。黒住をみはれと吉敷がいってると。彼の車は。二子山がしらべにゆくという。制止した石岡がいう。一同一緒に捜索に。

(070300) 森孝魔王 三、魔王の復活
あれる吹雪の音、くらがりの部屋で鎧をまとった死者。片足は義足。義足でない足がうごく。死者の心臓が鼓動をはじめる。かかとがすべり膝がたちあがる。右の腕がうごく。手首が反転して床に。兜が床をはなれてゆく。頭部がおこされ鎧の武者に命がやどってゆく。兜がゆっくりと上昇していく。死者は身をおこした。伝説の魔王が今よみがえった。

(070400) 第3日、夜、一同が本堂に、地下の霊安室に黒住、石岡と黒住の争い、武者の登場
(070401) 一同、法仙寺に、本堂地下の霊安室に黒住を発見、説得
一同が外。はげしい風雪。たまらんと二子山。門柱、黒住の四駆。まだかえってないと坂出。キーは。黒住が。うごかぬように。雪をフロント・ガラスにぬる。手でおとせる。否、凍結。でもあるいて大岐の島神社にいける。30分、この吹雪。ゆかない。どうする。一緒に法仙寺。石段。のぼりきる。木立。日照の家。本堂に明かり。ここをたちさる時、明かりは。すべてはけさなかった。発見した時の状態に。明かりに増減はない。慎重に引き戸をあける。異変無し。地下室に。明かり。階下のフロアに。ドアをひらく。黒住がいた。全員が霊安室に。かえろうという。否。警察がくるまで、誰も一人にならない方がよい。ここは何がいるかわからない。黒住をさがしに皆がきた。かえってもねむれない。龍臥亭にかえるよう説得。しかしきかない。

(070402) 黒住と論争、外に、轟音、武者の登場
自分の家にもどるから、ほおっておけと。ころされる。危険。どこも一緒。皆んなといれば安全。否。自分の家にかえるのかと石岡。驚。いいたいことがある。ならばいえばと石岡。しゃべっても真理子はよろこばない。大岐の島神社にゆくのでは。それで真理子がよろこぶか。もうそれは問題でない。そして石岡にきく。そうだったでしょう。真理子をたすけられなかった自分をせめた。菊川に復讐する決意をしめした。制止をふりきり隣室にはいった。そこで武者がいなくなったのを発見した。刀をとり表にでた。石岡がそれをおった。制止しようとあらそった。轟音。森孝魔王があらわれた。お前は家にかえれ。手をよごすなといった。武者は右が義足だった。ゆっくりと坂道をあがっていった。

(070500) 森孝魔王 四
(070501) 夜、武者が神社に、おう三人、沖津の宮、土間、大広間、射殺
武者は坂道をあがっていった。石岡、二子山、黒住があとおい、坂出、女性たちは龍臥亭にもどる。武者は腰に刀、肩に鉄砲。勾配がきつくなると腰から刀をぬいて、これを杖にしてのぼった。杉の林をぬけ、大岐の島山をのぼりきり、大鳥居、沖津の宮広場。沖津の宮の建物。中で菊川が引越しの準備。武者は玄関のガラス戸をけやぶった。土間にふみこむ。上がりぶちの板の間。廊下。菊川が廊下に。あゆみのペースをまったくかえずちかくに。三人も玄関に。菊川の悲鳴。大広間に。三人もおう。壁の前の違い棚の前に菊川。大声。背後の棚の飾り物をなげつける。香炉が武者の顔に。面当てがわれてとびちる。右手をゆるゆると。身をかがめてにげる。ゆっくりと反転した武者の顔は日照だった。廊下の手前で躊躇する菊川。轟音。菊川の体が壁にたたきつけられた。腰から刀を。ひるむ三人。玄関に。

(070502) 生首をもって坂を、龍胎館土手下へ、森孝がまつ、三人に轟音
武者はまもなく右手に菊川の生首を。広場をよこぎり、坂道をくだる。雪がやんだ。満月がでた。法仙寺、龍臥亭をすぎた。三人はなおもおう。龍胎館の土手下。角をまがって三人はたちつくした。森孝魔王がこちらをむいてたってた。日照の死に顔。森孝魔王が発砲。二子山がおどろき指差し。一人の不可解な人物。樽ににた形状、おおきさは小屋ほど。これは浄化槽。地震によりうまってたものが地上にとびだしたらしい。浄化槽にもたれ一人の人物。森孝魔王の帰りをまってた。彼の体には両腕がなかった。関森孝だった。写真で見た関森孝にちがいない。鎧の武者が空に発砲。三人は回れ右。見かえると武者が関森孝にひざまづいた。これが最後の幻想だった。

(070600) 第4日、昼食、昨夜の検証、伊勢の凍死体、御手洗から電話、死体の接合、地割れから死体の謎
(070601) 森孝魔王の仕事の全貌、翌日、警察が来訪、浄化槽の現場に、鎧兜と死体
これが2004年の初頭に、わたしが見た出来事のすべてである。三人はそれから龍臥亭にもどった。翌日は快晴。携帯に田中から連絡。龍尾館の大広間で昼食、警官が到着。応接間で法仙寺本堂と大岐の島神社の地割れの中の真理子の写真をおさめたフィルムをわたした。龍臥亭前の道をくだり土手下の小径にはいる。関森孝はいなかった。とびだした浄化槽はそのまま。ここに森孝と幽霊がたってたと田中。具足も無し。血痕も。浄化槽をとおりすぎる。龍胎館の壁や窓が頭上に見えるあたり、雪がもりあがってた。鎧の武者がうまってた。森孝の具足、銃、太刀。左手に生首。武者をおこそうとする。兜がはずれ日照の頭部がごろり。

(070602) 日照、法仙寺の現場に、神社の現場に
この人は。日照。間違いない。ない。体の方は。ナバやん。峠道から法仙寺にはこんだ経緯を説明。どうして死体がここにと田中。それにはこたえず、昨夜の菊川殺しを説明。この鎧の武者が。反論なく、死体をヴァンにはこんだ。一行は法仙寺に。里美もよんだ。本堂。畳、血痕。ここに頭部と下足部と石岡。すぐ和紙の伝言を。危険性を説明。里美から日照の携帯を。すぐ検証作業に。地下室に。骨董品の資料室。その床に森孝の具足。その中にナバやんと日照の死体をいれた。田中の表情がかたくなった。霊安室の棺、真理子、ナバやんがはいってた棺は空。警察の車で大岐の島神社に。沖津の宮の現場はそのまま。われたガラス戸。血痕。 菊川の死体。駐車場の地割れ。すぐ現場検証。石岡が考える。

(070603) 4つの死体を考える、処罰すべきは、伊勢の凍死体発見
4つの死体、ナバやん、真理子、日照、菊川。犯罪、処罰すべきものは。日照だけ。ナバやんは自然死。真理子、犯人は殺害された菊川。この犯人が森孝魔王。日照だけが警察が処理すべき犯罪。田中たちは村で聞き込み。伊勢の死体を発見。裏庭の雪にうもれ凍死。雪掻き作業中の死らしい。

(070604) 薬品類、手術道具、合同葬
その家から薬品類、手術器具、骨格標本など。石岡が夜想貴腐を。田中は日照殺害の疑いをもったよう。しかし日照の血痕、体液、チェーンソーも未発見。捜査はつづいたが、日照の胴体部分、ナバやんの頭部と下足部、櫂は発見されず。チェーンソーも。日照、真理子、伊勢、ナバやんこと稲葉太郎の合同葬。田中がきてから3日後に執行。鑑定結果。畳の上の血痕は日照。

(070605) 四人が日照をかたる、黒住をたすけた
葬儀の日、石岡、二子山、黒住、里美が法仙寺の境内に。日照にだまされて車でここまではいった。ナバやんを階段からはこべば、すぐ家にかえれたと二子山。でも、だから日照の最後を見とれた。二子山にいてほしかったと石岡。ほう。石岡は自分の言葉にひっかるものを感じた。行列がすごくながかったと里美。日照はすかれてた。日照をころしたのは。伊勢だろう。何故。怨み。金の。それだけでない、性格があわなかった。伊勢は偏屈、縫合の実験をしたかった。でも結局しなかったと石岡。鎧の中で死体をくっけただけ。否、もう一方のナバやんの頭、日照の胴体と二子山。成程、でもそれらはどこに。地割れの真理子。どうして。死んだ菊川の仕業。考えれば謎だらけ。あの鎧武者どうしてうごくと石岡。もし人間なら、誰。人間でないと二子山。人間ならあそこまで冷酷には。そうなら、三人は何を。夢か。とけない謎。それもあると二子山。どう思うと黒住に。ふうむ。森孝魔王。そう信じる。そうでなければ黒住は津山署の留置場に。森孝魔王が。黒住をたすけ。菊川をころすために。それで充分。

(070606) 御手洗から電話、質問、死後の接合は可能か、駄目、5分以内
石岡が考える。5つの死体。ここにきた時、ナバやん、真理子はすでに死亡。生きてたのが日照、伊勢、菊川。日照、伊勢に殺意。いない。ナバやん、真理子、日照、伊勢を殺害する。そんな人はいない。大勢の怨み。菊川のみ。ほかの4死体。それは菊川殺害のためのもの。里美の声。御手洗から電話。概略は里美からきいたと御手洗。黒住は。無事。今、葬式中。成程。わからない謎。おしえて。何。女嫌いは。何。菊川殺害は誰。詳細はまだ。不知。人間の首を切断。できるか。何。三人がおなじ夢。見るか。おちつけ。女嫌い。ではない。ただ自分の損得しか興味ない人だけきらい。次は。頭部を切断して頭部だけにした人間と、頭部がない体だけの人間をうまくくっつける。すると生きてられるか。御手洗はできるといった。ではきく。それを道におちてた死体の胴体と死んでしばらくたった頭では。何、実例か。死後どれくらい。体。頭と御手洗。死後1時間か30分。駄目。えっ。問題外。手術は時間が勝負。最低死後5分以内。5分。然り。でないと脳は死ぬ。成程、伊勢の実験はまるで問題外。こちらは時間がない。ポイントをしぼって。

(070607) 真理子出現の謎は、金属製の針とロープをさがせ
地割れの話し。犯人は菊川。今もそうか。然り。死体は菊川がかくした。然り。その方法は。不知。材料不足。で、菊川は先がとがった金属をもってたか。針みたい。長さは20センチ。2本。2、3メートルのロープ。ええ、不知。ではもしあれば連絡。それでセメントの下に。然り。はあ。電話がきれた。

(070700) その後日、わかれ、石岡、日照の戸籍と櫂
(070701) わかれ、魔王伝説にきえる事件の謎、石岡の苦悶
田中は岡山に。真理子の遺骨は明日、大瀬の家に。坂出も帰宅。里美も岡山の裁判所に用事。石岡は龍臥亭に。二子山も帰宅。石岡と黒住が二子山の車を救出。龍臥亭の門で二子山とわかれる。その際、森孝魔王がかたづけた。そういうことにしましょうといった。のこったのは通子母子、石岡。虚脱感。石岡が考える。二子山のように事件はおわり。伊勢は自然死、菊川は森孝魔王。犯人逃亡でない。これで落着。土地の人たちの割りきりも妥当。でもこれ以上事件が進展してほしくないとの怖れが。自分の中に抵抗感。森孝の伝説は土着の信仰。二子山はそれを理解。東京でならもうすこし謎の究明も。櫂のことも土着の信仰か。不幸をせおった獣子。わすれられる。妥当か。否。自分の中に憤り。これが信仰心。それはみとめられない。石岡は悶々と。

(070702) 通子が日照と櫂の関係を示唆
通子がいう。夫が日照の戸籍を調査。新見伝馬町。早佐古。昔の庄屋。成程、今、家は。たえた。それから吉田に養子。ふむとうなづいたが、何故通子がこれをしらせたか不思議。で、その後、足立家に養子。然り。早佐古の時は露舟という名前。雅号、否、本名。石岡は日照の家の玄関にカメラをとりにいった時、色紙にかかれた露舟を思いだした。このことに何か感じないかと通子。へえ。櫂。船をこぐ櫂。成程。櫂は喜子。大瀬喜子。櫂の生家はたどれる。無理。成程。でも吉敷はここに何かあると。田中にそれをいったかと石岡。否。夫が明日ここに。へえ。石岡にあいたいと。はあ。

(070800) 翌日、午後、吉敷に同行、大瀬に、沖津の宮に、真理子失踪の謎は、道具、森孝出現の謎、津山に、義足の齟齬、吉敷一家とのわかれ
(070801) 吉敷が登場、大瀬の家に、神社に
吉敷が到着。挨拶。育子にも挨拶。一軒に聞き込みがある。通子母子と外に。石岡も同行。徒歩。どこにと石岡。大瀬。ほう。セメントの下から。でた。謎。県警は大瀬を。まだ。でも今日、津山署が遺骨を。成程。あとで大岐の島神社にも。然りと吉敷。 ここにはどうやって。レンタカー。ではすぐつく。駐車場のあついセメントの下に死体。穴もトンネルもあけず可能か。否。御手洗にきいた。すると、興味。話した。死体の縫合についても。針状の金属と2、3メートルのロープと吉敷。そうかといった。通子が大瀬の家をさす。家にはいる。石岡、通子母子は外で。これからときくと。もうかえるという。吉敷がもどる。ちょっとボケが。あまりしらない。では菊川の家に。龍臥亭の前のレンタカーに。車中。事件の概略は。承知。御手洗は、とがった金属と2、3メートルのロープと。いった。菊川の家にあったか。ないといいかけて、否。何。角。奉納の儀式。そこで帽子の左右にひかる角。あれか。吉敷に説明。その儀式は10月15日に。やった。また一つ。何。ロープ。駐在を地割れからひきあげた。その時、ロープをつかった。わかったと吉敷。さらにいう。森孝の亡霊を見た。浄化槽の前に。間違いなく森孝。でも腕がなかった。ふむ。それは真理子と。おなじ。 成程と吉敷。森孝に肉は。ついてた。たしかに森孝か。然り。何故か。わからないと吉敷。

(070802) 死体隠蔽の謎をとく
森孝はきえた。お胤をころした晩に。犬坊でと石岡。芳雄もきえた。これは腕をきりおとされた。腕がおちた理由はちがう。混同しないようにと吉敷。はあ。森孝の亡霊はわからない。きえた理由はわかる。えっ、森孝、芳雄が。然り。どのように。浜吉。森孝の使用人。樵か。そう。そして菊川も樵と吉敷。然り。わかった。どのように。車を駐車場に。建物を。駄目か。戸がふさがれてた。地割れの方に。すごい杉の林。木がずいぶんかたむいてる。地震で。地割れを見おろす。吉敷がいう。地割れの向こう側。三日月形の土地が斜面にそって滑落。斜面にはえてた杉がこちらにかたむく。思ったとおり。どういう意味と石岡。杉は電信柱のような丸太、上に枝。この幹をのぼるのは熟練した者にはたやすい。専用の器具があれば。器具。然り。その状況は杉林ではよく見る光景。とがった針のような金属をとめた靴。それに腰の左右で固定できるロープを固定できるベルト。足の二本の金属で幹をさしてのぼる。その時、幹にかかえわたしたロープの向こう側をさっと上方に。これをささえに体を上に。その時、足の金属をぬき上にさす。おなじことをくりかえして上に。これくらいはまたたく間。成程、では菊川は真理子をと石岡。この杉の上にかくした。

(070803) 菊川の犯行の詳細
で、菊川は真理子を背中にせおいのぼったと吉敷。成程。枝にたどりつけば順番に枝にのって一番上に。体を針金で固定。すべての作業は15分で充分。神殿にもどり太鼓を。成程。菊川には予想外のことがおきた。地震。木がかたむき、振動で死体がワイヤーからはずれた。地割れにおちこむ。地割れからでたように見えた。県警は気づかなかった。いえ、出現場所をすべて即時に見れば気づいたろう。成程、真理子はきれいにあらってた。では、両腕は。針金。成程。では菊川は計画的に。否、かっとなって。奉納神事は自分で企画と石岡。そこで思いつく。では明治時代の惨劇、きえた死体も。然り。樵の浜吉の仕業。へえ、100年も昔から空中。もう一つ、幽霊について気づいた。では、森孝の幽霊も。そう、100年発見されなかった森孝の死体が地震で落下したら。両腕がなくなる。ああ。もしそうだったら。このあたりは雪。埋没。斜面をくだって浄化槽のところで停止。雪がとけるにしたがい露出。驚。でもわからないこと。真理子の死体はミイラ化、真っ黒。森孝の死体は顔が識別。何故。然り。死因は自然死でない。常時微量の砒素。江戸時代の剥製は砒素をつかってる。死体は剥製のよう。長期腐敗しない。でも、どうして翌日にきえた。さあ、森孝魔王がもってた。冗談のよう。あの森孝魔王とは何。わかりませんと吉敷。通子がきく。露舟は。大瀬は早佐古とみとめた。で。もう老人。たよりにならない証言。ところで御手洗はどういった。きかず。成程。ではこれまで、自分のできることは。通子母子はこれから天橋立までかえる。石岡の予定は。岡山に。真理子の秘密はとけた。森孝魔王の謎はそのまま。一応落着。では津山までは一緒。とけない謎もあるでしょうと吉敷。では、伝説の魔王がでた。然り。土地の者にとってはそれでよいかも。

(070804) 龍臥亭の育子にあいさつ、津山で吉敷一家とわかれ、森孝魔王の義足の齟齬が指摘
龍臥亭に。育子に横浜にもどるというと、ないた。自分はこれから一人ぼっち。友人が皆んな死んでゆく。若い頃の悪行のせい。里美に電話。横浜に一緒にかえる約束。育子がさびしがってると伝言。吉敷に同車し津山駅に。わかれ際、ユキ子がやってきて話す。森孝魔王はおかしい。何が。日照は右足を切断。それを鎧にいれた。そう。森孝魔王の義足は左足。然り。だけどあの森孝魔王の義足は右。えっ。じゃあとユキ子。改札口へ。

(070900) 翌日、津山、義足の再考、2005年、春、手紙を受領
(070901) 義足の齟齬を考える、成果なく馬車道にもどる、平凡な日常に
津山駅前の喫茶店でも、岡山で里美におちあってからも義足のことを考えた。義足は右。だった。だが左足であるべき。そのとおり。法仙寺本堂でみつけたのは日照の右足。間違いない。だから森孝魔王の義足は左。であるべき。自分は実際に見た森孝魔王の義足がどちらだったか思いだせなかった。自分は思考をめぐらすことが不得意。らしい。口喧嘩の再点検、恋愛映画の筋なら得意。哲学について考える。中断。スパイダーマンのことになる。脳の欠陥。人と会話。時々、よい思いつき。で、里美と会話。一人と大差なかった。何の収穫もないまま馬車道へ。そこから従来どおりの平板な生活。貝繁のその後。2004年末、大岐の島神社に新任の神職。櫂の行方。不明。日照の胴体、ナバやんの頭部、下足部も。2005年の春。

(070902) 安田という人物から手紙を受領
安田という人物から手紙をうけとった。差出人は吉田一休。安田はボランティアの仲間である吉田から託されたという。本人は電動車椅子の事故によりすでに死亡。

(080000) 終章 魔王の言葉、事件の真相
(080100) この手紙の趣旨
石岡先生。この手紙はわたしの死後にお読みになります。あの事件はわたしの一世一代の賭けでした。やったことは後悔してません。やらなければが自分を許せなかったでしょう。

(080200) 菊川は悪人、村の癌
菊川はあの村の癌でした。事情を説明します。自分の言葉を正確につたえてください。お願いします。菊川の悪行はサラリーマン時代からきいていました。借金で首をつった者、しいられて関係をもった女。真理子もそう。育子はせまられたようです。

(080300) 殺害決意の理由、櫂の自殺
殺人を決意したのは櫂の自殺です。地震の夜、櫂は鴨居からたらした綱で首をつってました。菊川は借金の猶予をエサに関係をつづけていました。

(080400) 櫂とは一卵性双生児、不幸な人生
櫂とわたしは一卵性双生児です。双子は獣腹といい差別をうけます。いじめられます。櫂はそれに抵抗せずへらへらと笑っていました。それが侮りを生みさらにいじめを加速させたようです。わたしと櫂は4歳まで早佐古の家にいました。そこから櫂は里子にだされました。わたしが中学校の時、両親があっけなく死にました。強欲な親戚があっという間に遺産をうばいとりました。わたしも里子にだされました。わたしも苦労はしましたが、どうってことはありません。櫂は山の中の家でくらしていました。窮状につけこんで男たちがよってきたようです。会うと体が臭くなってました。

(080500) 森孝魔王伝説の利用
櫂の体をだいて殺害を決意しました。犯行を計画してる時、右足に激痛がはしりました。天啓を得ました。ナバやんの死体、櫂の死体、森孝魔王の伝説。わたしと櫂が一卵性双生児であることは誰にもしられていません。櫂の長髪、黒髪、眼鏡が真相をかくしてくれました。

(080600) 壊疽で切断必至の右足、日照殺害の偽装
わたしの右足は壊疽でした。切断は必至でした。ところでわたしは薬マニアでした。風邪をよくひくので抗生物質をたっぷりもってました。炎症止め、化膿止め、さらに麻酔薬。わたしは即刻、抗生物質と化膿止めをのみはじまました。これは数日前からの準備です。さてわたしの考えたことです。

右足を膝から下で切断。この足部と頭部、実は櫂の頭部ですが。これを血溜まりの中にならべる。これでわたしが殺され犯人は頭部と下足部を現場において胴体部分をもってにげた。こうみせかける。切断はチェーン・ソー。段取りは自分の頭部と下足部を用意する前に、ナバやんの死体の頸部をと足の膝下を切断、頭と下足部がない状態で前もってみせておく。これを森孝の鎧にいれるよう皆んなに要求する。これが前段。

(080700) 死体部分を鎧兜で接合、鏡像の森孝魔王の出来上がり
次に日照の頭部と下足部を用意。皆んなにみせる。これも森孝の鎧にいれるよう要求する。すると鎧の中に、左の下足部だけがない体がひと揃いできあがる。これは森孝の鎧姿のいわば鏡像です。義足部分が左右ちがう。しかし異常な状況ではそれに気づく人はいまいと思ったのです。森孝魔王の復活とみてくれる。早晩真相は気づかれる。しかし逃亡の時間はかせげる。ともかく計画どおりに、時間をきめ、抗生物質と炎症止めをのみつづけました。

(080800) 死体切断の作業、残余の穴への投棄
わたしは法仙寺の墓所の北西の角に穴をほっていました。これは冬場に突然、死者がでたときの用意でした。ここでナバやんをチェーンソーで切断、保存、櫂も切断、頭部を剃髪しました。二人の死体の不要部分を穴にいれ、蓋をもどし雪をかけておきました。櫂の頭部は本堂脇の雪の中にうめ、いったんかくしました。この時、死斑をある一面に集中させるよう右頬を下にしてうめました。

(080999) 右足切断、作業、手順、麻酔薬など
いよいよ自分を切断するという日です。陽がおちたら戸板をもって本堂の裏手の雪の下にうめておきました。それから物置から刀、銃をもってきて自分の家の物置にうつしました。自分の足を切断する段になると躊躇がうまれました。しかし菊川が明日この地をはなれることをしり、気持は今夜決行とかたまりました。切断してすぐ決行には不安がありましたが、櫂の首を切断したことを思いだしてぶれまいと思いました。櫂の頭部をほりだし、足の切断のため本堂にはいりました。現場の乱れをおそれ充分細部をねりました。ヴィニールシートを用意し脇におき、チェーン・ソーや切断後に使用する義足、麻酔薬や注射器、ヴィニール、包帯、簡単な軟膏をこの上におきました。自分の一部変色した右足をだし直接畳の上において麻酔薬を注射して感覚がなくなるのをまちました。それから櫂の頭部を右頬を下にして畳におきました。感覚がなくなったら一気に切断しました。畳にちょっと傷をつけました。注意すればここが切断の現場とわかったでしょう。

(081000) 激痛にくるしむ、後片づけ
予想外の激痛におどろきましたがやっとのことでチェーン・ソーをシートの上にもどしました。麻酔の効果で痛みがやわらいだ後に、畳の上の飛沫に丹念に血をかけました。自分の右の頬に血をつけておくのをわすれませんでした。血溜まりがじわじわひろがります。それをさけながらやすんでいました。死の危険を感じましたがようやく血がとまりました。軟膏、包帯、ヴィニールで処置して義足を装填しました。やすんでるうちに、また麻酔をうちました。その時、二子山から携帯連絡がありました。演技をして携帯をきり、ヴィニール・シートをまるめその場をはなれました。本堂をさる時、障子をしめ密室にしましたが、これは夢中の行為。その方法はまず栓を桟からはずしておいて障子をうごかしながら穴の位置をさぐれば簡単にレールの穴におとしこめます。

(081100) 残余を穴に投棄、台所でいったん休憩
元気な時に段取りは反芻してましたから朦朧とした頭で雪の上をはい後始末。墓所北西部の穴にシートをひきずって板の蓋をとってシートごとすべてを穴におとしこみました。蓋をもどし雪をのせました。先生、二子山にであわないよう、墓所を東回りに迂回し家に裏口からはいりました。台所の板の間の下にスペースをつくって、布団、毛布、薬、簡易食料、水、懐中電灯をおいていました。そこですこしねむりました。

(081200) 指示した森孝魔王の鎧兜の確認
激痛で目がさめ、高熱をだしてました。何度も気がとおくなりました。櫂のことを思い決意をあらたにしました。まずは具足の処理です。勝手口から夜の吹雪の中にで本堂までゆけきました。戸口から二子山、先生。里美を目撃しました。8時40分でした。地下の森孝の鎧がどうなってるかです。目論見どおりならよし。そうでなくとも、櫂の頭部、自分の足をもちさることはない。それは自分でもってゆけばよい。そう考えて地下にもどりました。

(081300) 鎧兜を戸板で予定の投棄場所まで搬送
本堂、こわれた障子から中を見て、頭と足が甲冑にはいってることがわかりました。階段をあがり本堂裏手、雪の中にかくしてた戸板をもってきました。通廊をひきずり階段をすべらせて地下におとし、甲冑のある部屋の前までひきずっていって、半分部屋の中にさしいれてから、櫂、ナバやんや、わたしの一部がはいった森孝の具足を戸板にのせました。階段をおしあげるのが大仕事でした。死力をつくして一階の床までおしあげました。戸板を橇にして吹雪の中を前進、龍臥亭裏手に迂回し、龍臥亭脇の土手を滑降して下の小径にでました。櫂やナバやんのはいったた甲冑を戸板からひきずりおろして小径によこたえました。そこでしばらくやすみました。

(081400) いったん台所にもどる、有り金、同形の鎧、銃、刀、装着、神社に出発
体力の限界にたっしてたので戸板を雪の中にかくし、注意しながら龍臥亭の門前をすぎ法仙寺にもどり、勝手口から台所の床下でねむりました。頭痛で目がさめ、やっとのことで床からはいでました。もうもどれないから、有り金をポケットにつめ、でました。納屋で森孝と同形の鎧をきました。面当てだけがなかったので森孝のを流用しました。刀、鉄砲、銃弾を身につけました。体力がつきそうになったので乾パンをたべて体力の回復をまちました。これで駄目とわかれば、下顎から脳をうちぬき自殺するつもりでした。外にでました。吹雪はますますつよくなってました。熊笹を滑降しましたが、石や岩にぶつかり転倒、悲鳴をあげました。吹雪がさいわいしました。沖津の宮にむかおうと道端にたちあがりました。すると先生と黒住の言い争いの声がきこえました。

(081500) 三人 を後ろに坂道を、菊川をたおし、坂をおりる
黒住をまきこむことはできません。伝説をしってる菊川に森孝魔王の姿をみせ殺すつもりでした。龍臥亭の皆んなには、まず二人の死体を森孝の具足の中にいれさせること、できたらそれがきえているのを見せること、最後に龍臥亭下の小径に移動していて、菊川の生首を手にもっているのを見せること、それだけで充分と考えてました。わたしは銃を空にうち黒住にかえれといいました。そのことは結局三人を後ろにしたがえて大岐の島神社にのぼってゆくことになりました。苦痛にくるしみ自分をはげましのぼってゆきました。沖津の宮が見えた時、安堵でたおれそうになりました。すぐに中にはいりうとうとしましたが、腕がしびれてうてません。大広間からにげだした菊川をおって、ついにしとめました。まったく後悔はありませんでした。ちかづいて刀で首をきりおとし、夢中でそれをぶらさげ、坂をおりました。坂の中途、満月の光の中に法仙寺の全景を見た時、万感の思いがこみあげ涙がでました。

(081600) 森孝の出現に驚愕、そのミイラと鎧兜などを穴に投棄
龍臥亭の下についたら、おってきた三人にはかえってもらわなければなりません。櫂とナバやんがはいった森孝の具足がおいてあります。これがみつかるのはこまります。威嚇のために銃をうちました。三人がかえっていったので安堵して前方をみて、驚愕しました。森孝がたってました。失神しました。気がついてこれは御仏の力と思いました。ここで考えました。前にかくしてた具足をほりだし、また戸板をとりだして、そこに森孝のミイラをのせました。苦労して杉の林をぬけ法仙寺の墓所にもどりました。自分がきてた鎧をぬぎ、また考えました。森孝を鎧におさめ穴におとしました。そこにおいてたスコップで土をかけうずめました。これがあの夜にわたしがしたことです。

(081700) 現場から逃亡、東京に職をえる、先生の著作をしる
それから無理をせず、ゆっくりと貝繁の村をあとにし峠をこえ、そこで長距離トラックにのせてもらいました。彼に安宿を紹介してもらいそこで傷をなおしました。その後、京都にでて、義足をかいました。わたしは自首するつもりはありません。みつかるまで潜伏生活をつづけるつもりでした。生活費をかせぐためにも都会を目ざしました。新幹線、東海道本戦をさけ裏日本経由で上野につきました。薬関係の仕事をさがし、薬の倉庫番をみつけました。上野の古本屋で先生の「龍臥亭事件」をみつけ購入しました。読了して、何冊も先生の本を購入し、よみました。もうあわないときめたことですが、貝繁の村がなつかしい。先生がなつかしいと思います。それで先生宛ての手紙をかくことにしました。

(081800) 青砥でささやかな幸せをえて、先生の多幸をいのる
青砥に真光の会という真言宗の新興宗教の会があります。それをみつけたのでそこにゆきました。こちらのいいたくないことは詮索しない。よい人たちの集まりです。また銭湯で爺さんの仲間と仲良くなりました。坊主だといって御仏の教えを講釈してます。皆んな真面目にきいてくれます。わたしはこんな調子で元気でやってます。お喋りはこれでやめます。先生とあったことは本当によかったと思ってます。お身体に気をつけて頑張ってください。日本の片隅でずっと応援してます。
日照。

(090000) 感想
大衆は孤独である。この作者の強烈なメッセージが、占星術殺人事件のヒロインやここの日照の告白(終章 魔王の言葉)にあらわれてる。殺人の動機は個人的である。社会や理想、思想のためでない。犯行も独力である。世間の理解や協力を期待してない。現状へのはげしい絶望がある。そのため犯行の破綻が死を意味してもおそれない。ささやかな個人の力をつみかさね、次々と襲ってくる困難を強靱にのりこえる。最後に殺人者であることをおそれない。占星術殺人事件のヒロインは御手洗に探知され死をえらんだ。日照は潜伏生活の中、ちょっとした事故で死んだ。

この作者の作品は長大複雑である。その謎は古今東西の歴史をひもとき、最新の科学、医学、脳、記憶、宇宙、軍事技術の知識のうえに成立してる。とても読みやすい大衆の読み物とはいえない。宣伝めくがこのような謎解きがなければ、その醍醐味を充分に味あえないだろう。しかし、作者は孤独な大衆の心情にはたらきかけ、その心をゆさぶるすぐれた作品をつくりつづけている。

(100000) テーマ
警察、裁判所、村の秩序などにひっかからない悪人がどのようにしてさばかれるかである。菊川は宗像大社の神職にありながら、高利貸としてまずしい人びとの弱味につけこみ、おおくの女性を傷つけてきた。宗像大社には上納金で、高利貸ではたくみに法の網をくぐって罰せらなかった。これを森孝魔王伝説を利用して見事に天誅をくわえた。

(110000) 評価
1) 原理的に可能か、2) 現実にありえるか、という点では特段の問題はない。しかし、龍臥亭事件にくらべて物語のまとまりにかける怨みがある。物語の成立とトリックの妥当性は表裏の関係にあるのでこの点についてのべる。

2) 上巻においては、悪をこらしめる森孝魔王への期待でおわる。つづいて二つの死体部分を鎧兜の中で接合するよう脅迫する事件がおきる。ここで戦時中に死体接合の研究をしてた伊勢が強力な容疑者として浮上する。最後に悪人菊川を罰する森孝魔王が登場し物語がおわりとなる。

3) 森孝魔王伝説は物語を一貫しよくまとめてる。櫂、真理子の不幸、日照の怒りは伝説をうみだした地域の因習、貧困と照応してる。これはこの作品の前作といえる龍臥亭事件とも共通してる。

4) この作品は物語の最後に登場する日照の告白をのぞくと、大岐の島神社における真理子の失踪ではじまり、隠蔽の謎解きでおわる。神社が所在する神域の姿、祭の神事の次第がトリックの重要な鍵となってる。何故、宗像大社の分社がここに所在するのか、よくわからない。また悪の権化である菊川は九州から元樵の神主としたやってくる。これもよくわからない。

(おわり)

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謎解き島田、龍臥亭事件 [島田荘司]

* 1) はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 2) 3月30日、石岡・佳世の旅、龍臥亭、幸子殺害
** 1) 佳世とのであい
探偵、御手洗潔が小説家、石岡和己とくらしてた横浜馬車道のアパートをはなれ一年以上たった。平成7年(1995)の春、二宮佳世という20代の女性の訪問をうけた。

** 2) 佳世の懇願
*** 1) 不幸な人生
石岡にいう。御手洗は。いない。では石岡でも。どうしてもの時は御手洗の助言は。不明、でも可能かも。成程。では霊感を信じるか。否。でも嫌なことばかりづづく。だから何。父が死亡。原因は。老衰。母が卵巣摘出。それで。弟が交通事故、相手をはねた。傷害は。骨折、家内不和。それで。田舎に帰ろうか。生活は。で、断念。それでと石岡。四谷の霊能者に。自分に霊が。不幸は自分のせい。心当たりが。然り。夕方、学校のプールでおおきな動物が、樹のてっぺんに人の顔、金縛り。それで。おおきな樹の下、根元にうまってる手首をほりだせ。それを供養といわれた。佳世をみると手首があった。どこにと石岡。高尾山の「仙」の字がつく寺の樹の下。あったか。否、仙の字のある寺がないので、それらしい樹の下。駄目。

*** 2) お祓いの旅への誘い
また四谷の先生に、岡山県の伯備線の新見から姫神線のりかえ。それから列車にのって霊感を感じたところで下車。驚、それで。下車したら水のそばに、そこの村の一番おおきな樹の根元をほる。成程、話しは了解、で自分に何を。たすけて。へ、無理。でもどうすれば、手首をほりにいったらよいか。いきたければ、いく。ついてきて。無理、母親は。無理、病院通い、職場がある。ついてきて。無理。石岡は後悔したがついてゆくことにした。

** 3) 岡山、伯備線、姫神線、貝繁駅、龍臥亭
3月30日昼、出発、空路岡山に到着、伯備線経由、新見から姫神線の列車に乗車。午後7時すぎ、佳世が白いシャツの男の背中がという。下車を懇願。貝繁という名前の駅だった。駅舎に。無人の改札口。駅前。半月の光。停車中のバスに乗車。発車。運転手に下車場所をきかれる。川はあるか。葦川か。どこにゆきたいか。その川のそばに旅館があるか。無し、昔はあった。西貝繁村の龍臥亭という。琴をひく人もすくなくなったから。琴か。先代がすきだった。では、そこにいってくれ。ちかくまで、貝原峠まで。ではそこまで。そこが東貝繁村、そこから西貝繁村へゆけ。そこに葦川。そこをこえて1キロほど山道、龍臥亭。大丈夫か。然り、停留所からは。2里ほど。半月と星空の下をあるいた。おおきな門の前にでた。門柱に龍臥亭と墨書。

** 4) 輝く三階の硝子窓
*** 1) 硝子窓にかこまれた三階、女性
門の大扉、左右に黒塗りの板塀。龍臥亭は山の中腹に鎮座。建物が斜めに配置。ちかづくと右手にたかい石垣。白木と透明硝子と裸電球を特徴とする風変わりな趣向。木造三階建、三階部分はほとんんど硝子。カーテンがない。そこに人影、小柄な娘。手を硝子にあてこちらを見おろした。

*** 2) 親子との出会い
右手から4、5歳の女の子。つづいて母親。あわてて母親に挨拶。事情を話して宿をたのむ。母親が子どもの手をひいて左手に。玄関は施錠。裏手に。小柄な男にはなす。主人らしき男にたのむ。しぶる。母親と子どもをおいやった。たのむ。拒否。宿だけでも。拒否。お礼はする。拒否。そこに琴の音。佳世もたのむ。拒否。勝手口に身をいれる。そこにどーんという音、血相をかえて周囲を。ごうごうという音。火事。

*** 3) 火事の発生
主人が長屋のほうに。その渡り廊下をこえ、階段を。石岡も。石段の頂上に竜の彫物。頂上でたちどまる主人。回れ右。石岡、佳世も。すると三階がもえてる。主人は階段をおり、勝手口にはいった。二人もつづく。板の間、厨房の前。主人が火事だ。階段をかけのぼる。無人の二階を。三階につく。声をかけた。消火器を。主人は扉の前で「幸子さん」。小柄な初老の男が。消火器で硝子をわる。三人で扉をやぶる。男は消火器で消火。石岡がバケツで水をはこび、消火する。中でたおれてる女性を発見。主人がおこす。額にコイン大の穴が。ほぼ鎮火。炎がのこてるのは暖炉の前。琴の残骸。窓の類はすべて施錠、石岡が確認。

*** 4) 怪人の油絵、女の死体
正面暖炉脇に百号もある巨大な油絵。不気味な男の立ち姿。で、主人と二人で遺体を脇の小部屋まで。人の気配、階段室のガラス窓を開放。藤原。男がドアをあけたので、もう一つのくらい部屋にはこびこむ。布団に。二人が階段室にもどり、火事の部屋をのぞく。煙を外にだしたがってたが初老の男がとめた。さらにサッシや錠に手でふれた者がいないことを確認。石岡は現場は密室に。密室殺人。半身を中に、のぞく。左右の壁に窓が。すべて施錠。鍵に手でふれたか。否。石岡が中にはいり。引き戸形式の硝子戸の錠を確認、スクリュー錠はすべて施錠。佳世にも確認、誰かが中にはいって施錠したか。否。駐在をよんだことを確認し主人が階下におりよういった。

** 5) 龍尾館一階、応接間
*** 1) 石岡、佳世、一男、坂出、幸子の死、守屋
一階の応接間で待機。午前1時。 自己紹介をした。主人は犬坊一男、旅館の主人。石岡。佳世を奥さんかと。否。次に坂出(小次郎)あ、岡山で雑貨商。旅館は閉鎖したのかと石岡。然り、ただ先代と縁がある人だから。被害者はと石岡。菱川幸子、琴の演奏家。先代の犬坊秀市は琴の研究家。ここにはおおくの種類の琴、龍臥亭も琴にちなむ。琴は一面を一匹の竜に見たてて各部位の名前をつける。有名な小野寺推玉の弟子。療養のため投宿。どこかわるいか。精神的。佳世がきく。死因は。額に穴が。一男の制止にかわわず石岡。うたれたのだろう。主人が悲鳴。涕泣。そこに茶菓。大男が主人を心配。だが医者をことわる。大男は守屋敬三。どうしたのかと守屋。幸子がうたれて死亡。驚。石岡が考える。

*** 2) 密室のトリック、室内の幸子
密室の中で射殺。可能か。幸子が開錠、すると誰が侵入、それから脱出、施錠、不可解。さらに彼らの異常な怯えは何故か。本当かと守屋。然り、穴から弾がみえた。石岡が守屋と藤原(彰)にきく。現場は密室か。然り。ではどこからうったのか。口にするな、警察にまかせろと主人。襖があいて女性。犬坊里美。石岡、佳世、坂出がのこった。佳世がいう。犯人は。たよりない石岡にたのむ。謎をといて。また石岡が考える。

鍵穴だ。それから。施錠された鍵穴に弾丸をさしこむ。ドアのしたの隙間に封筒を。待機。封筒がピクリとうごいた瞬間。薬莢の尻をハンマーでたたく。弾丸が発車、頭部に命中。成程、でもドアに鍵穴無し。内側から閉鎖。坂出がいう。内外を貫通する形式の鍵はほとんどない。各種錠前をあつかったから。さらにこのトリックだった頭頂部に穴。額でない。自分は一部始終みてたと坂出。

*** 3) 硝子窓の部屋で犯行、坂出の目撃証言
本当か。然り、偶然、琴の音に部屋の前の廊下にでて三階のあの部屋をみた。皓々とした電気の照明、中はみな見えた。さえぎられる1メートル下をのぞく。どこから。30メートルの距離から。視力はよい。成程、戦闘機乗り。然り。琴の音が5分、 バタンとたおれた。あわててとんでいった。窓の下から炎。では演奏中の狙撃。然り。トリックは無し、自殺も無し。では、立ちあがらなかった。然り。琴の前にすわり、演奏、うたれてたおれる。この間立ちあがらなかった。然り。隣室の小窓、破壊されたドアの上部の硝子から内部の光が階段室からみえる。ずっと四つんばいでなければ人の動きはわかる。人がはいった形跡はない。隣りの部屋は。無し。人がはいった形跡はない。演奏の姿勢は。背中をむけてた。左の後頭部がみえてた。前には何が。暖炉。成程、それか硝子窓。坂出からみて窓の外に何がみえたか。空。まだつづく。

*** 4) 暖炉、ガスバーナー、もえた琴
暖炉で何が。ガスがもえる、昔は薪。薪ににせた鋳物。部屋は。板の間。被害者も座布団の上に。何故、カーテンがない。稽古の女性の様子を龍胎館の廊下から客にみせるため。成程、何故、火事になったか。おそらく、うたれてたおれた。琴が暖炉のガスバーナーにふれてもえた。成程、では被害者の目の前に暖炉、空しかない。否、もう一つ、油絵。

** 6) 応接間、事情聴取、部屋での就寝
*** 1) 幸子の来亭、睦雄の祟り
駐在所からきた森安太郎巡査が応接間に消火に関係したメンバーを。それに妻、育子をくわえた。で、きく。被害者は。菱川幸子、京都、生田流の箏曲の演奏家。滞在期間は。2月26日から。こちらとの関係。先代が面倒みてた人。年齢は。25、26歳。一人か。然り、目的は療養。症状は。不明、精神がつかれたとか。命をねらう者は。不知。怯えてたか。否。敵は。不知。村に知り合いは。無し、こちらだけ。では、何故。不答。村に鉄砲をもってる者は。無し。沈黙。やはり祟りか、と守屋。それは何。法仙寺の住職か釈内教の二子山にきけ。すると。たぶん睦夫の祟りと守屋。明日県警が。どこにもゆくな。事情聴取はおわり。

*** 2) 石岡、佳世の配室、龍尾館、中庭、縁側、欄間、竜の透かし彫り
主人が二人のため、裏板の間と蒔絵の間を用意した。簀の子をしいた渡り廊下をすすみ、石積みの三段の階段をのぼって部屋に。見あげると「龍胎館」という額。ふりかえると今までいた建物の出口脇に「龍尾館」の表札。廊下はずっとのぼり坂。右にまがる。部屋は廊下の左側に整列。右側は素どおし。ただ柱のみ。その足元にはレール、天井にも凹み、戸がはまる仕組み。右側には石垣、視界をふさいでた。しかしのぼるにつれ石垣はひくくなった。花壇がみえた。そのむこうには起伏をもった芝生。のぼりつめると地面よりたかい地点に。裸電球が点在。左側の各部屋の縁側に面するところに葦簀張りの葦戸(よしど)。天井との隙間には欄間、竜の透かし彫り。

*** 3) 部屋の構造
部屋の葦戸をもつ入口脇に「尾布の間」などの名札。裏板の間に到着、佳世が入室。自分は隣りの蒔絵の間に。すぐ二畳敷の部屋、奥の間には襖からはいる。四畳の間の廊下側は壁、上部は欄間。葦戸にはつっかい棒。二畳の間と四畳の間の仕切りの襖にもつっかえ棒がつかえる仕組み。四畳の間の奧は窓をもつ六畳の間。その押入には布団。四畳と六畳の仕切りの襖にはつっかえ棒はない。三つの間には家具として座卓、灰皿、行灯、押入の中に座布団。六畳の間の曇り硝子の窓。そこにさびたスクリュー錠。あけると竹製の筧。トイレは廊下にでてちかくにあった。もどって布団をひいて寝た。

* 3) ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈上〉 (光文社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1999/10
  • メディア: 文庫



* 4) 3月31日、手首発見、晴殺美害
** 1) 鐘の音、応接間、朝食
*** 1) 鐘の音、覚醒
ごーんという音。覚醒、午前6時。外の廊下にでる。靄、雨。廊下にたってながめる。龍胎館は山のスロープにそってつづく。その先端、末尾に建物、建物は石垣の上。龍臥亭の構造を把握する。

*** 2) 龍臥亭の構造、龍尾館、龍胎館、龍頭館、連絡橋
建築物のむれは山の斜面に所在。山の中途に平台。これを中庭と。龍胎館が斜面にそって展開。建物の廊下は右回りで、のぼってる。龍胎館下部の廊下では右に石垣を。この石垣は平台の支える擁壁。上部にいけば廊下は中庭よりたかく。そうすると石垣は斜面をおさえる擁壁。中庭の上に。のぼりつめた先に、また建物。黒々とした仏舎利塔のようなもの。これは龍頭。鐘の音のする方をみると竜頭館の上方に山寺。右をみる。龍尾館の三階のみ。坂出も昨夜このあたりで見てたのだろう。龍尾館の頭頂から龍頭館の足元に長々とのびてるもの。連絡橋。手洗いに。スリッパが部屋の前に。これで使用されている部屋とそうでないのがわかる。

*** 3) 幸子の狙撃音、二度寝、事情聴取
部屋で考えた。どーんという音。幸子がうたれた時の音。やっと気づいた。しかしどこから。入口の戸はあつい木造。施錠された窓、完全な密室。さらに動機は。銃をもつ者がいるか。突然ひらめいた。油絵の男は猟銃をもってた。御手洗向きの事件だと思った。また就寝。佳世の声。午前10時半。押入の中にあった琺瑯のカップをとりだし、窓をあけて歯をみがいた。雨の中、手前の木立、川、岸の桜並木の一部、水田がみえた。

** 2) 渡り廊下、応接間、食堂
*** 1) ミチ母子
佳世とともに県警のまつ応接間に。石垣の上にある竜の彫像がみえた。廊下をおりきる渡り廊下の簀の子の上におりた時、龍尾館からでてくる昨夜の母子。子どもは4歳、ユキ子。母、ミチ。三人の警官に。50代が福井、鈴木、20代が田中。

*** 2) 刑事とのやりとり、御手洗の実在、室内の生存
刑事とのやりとり。御手洗はどこに。外国。どちらに。北欧。本当に御手洗が実在か。実在。今回の来訪は。自分が依頼と佳世。佳世は心霊ツアー、石岡は取材旅行かと刑事。不答。今回の事件に心当たりは。無し。刑事にきく。三階の硝子窓。とじてた。スクリュー錠は。施錠。硝子窓は。破壊無し。ドアは。内側からロック。換気扇、空気抜きの類の穴は。無し。密室で殺人といいたいのかと刑事。ちがうか。否、結論は時期尚早。鍵をかけてから生きてたとの証拠はない。でも琴の音がきこえてたと石岡。それは別の人かも。別の人、心当たりは。不答。幸子がひいてたという姿を見たものがいた。それは坂出か。署で事情聴取する予定。まだつづく。

*** 3) 密室殺人、戦争中の生存
石岡がいう。銃声を、火のでる前。その時、密室だったか不明。すると、消火の時、窓の施錠を確認したと藤原。本当かと田中。石岡も確認。部屋の中で生存したと証言したのは坂出だけ。否、自分もと石岡。本人か。然り。夜。電気の明かり。他人(ひと)違いかも。否。主人が登場。

*** 4) 生存の時刻、ダムダム弾、驚愕の一男
刑事がきく。うたれる前の生存を再確認。否。石岡に確認。石岡は不答。主人に銃声はきいたかときく。不知。琴の音をきいたか。然り。その時何をしてたか。ミチの声で裏口にでて石岡にあった。その前はどうしたか。三階のドアをたたいたら、中から返事。刑事に怒、はじめてきいた。然り。では、生存したのか。不答。幸子の声か。不知。県警からの電話が福井に。鈴木が幸子の声かときく。否。では誰の声か。もどった福井が弾丸はブローニング1930年代の製造。主人が驚愕。ダムダムと。たおれる。室外にはこびだされた。福井が説明。ダムダム弾とは猟銃などで獣をうつ時につかう。一発でたおせるよう、鉛の弾丸に傷をつけ体内で拡散するようにしたもの。

*** 5) 食堂、刑事3人、石岡、佳世、二子山親子、ミチ母子、育子
石岡が食堂に。六十畳の部屋。正面は一段高い演壇、膳はこちらを上座に配置。刑事、佳世、石岡とならび、向かいに中年の男性、鼻のおおきな男性、ミチ母子がならんだ。そこに女主人の育子がはいってきた。紹介があった。向かいに釈内教の神主、二子山増夫、息子、神主、二子山一茂。どんな用件でと石岡。お祓い。家人の紹介。里美、高校生、現在学校に。二人の娘、村からの手伝い。中丸晴美、倉田エリ子。息子の犬坊行秀。食事がすすむ、石岡がきく。神主の用件は。不答。ユリ子がお化けがでるといった。どんな。不答。誰にきいた。お婆ちゃん。トトロのことかと福井。石岡が、幸子の事件を二子山にきくと刑事が外部への発言に注意。

** 3) 葦川、佳世、手首
部屋にもどる。佳世がよぶ。川のそばにいきたい。同行を。躊躇したが同行。雨。坂をおり川に。土橋をわたる。上流に。桜の樹のしたをほる。手首の骨。お寺で供養してもらうと佳世。

** 4) 法仙寺、墓場、供養依頼
*** 1) 法仙寺を訪問、墓場の住職、殺人事件
二人が龍臥亭の門前。のぼる。山門に法仙寺の表札。またちいさな門、境内に。正面に本堂、左手に鐘撞き堂、右手に庫裏。雨の午後。庫裏で住職は。墓。庫裏の裏手に。石岡がいう。龍臥亭に投宿の者、供養を。何の。躊躇。龍臥亭で死者がと住職。然り、幸子。また琴弾く人か。

*** 2) 幸子の死の状況、ブローニング製造銃
どのように。三階で演奏中にうたれた。誰に。不明、警察が捜査中。窓からか。否。戸口か。否。部屋に他人が。否、一人という証言。そんな馬鹿な、すでにうたれていたのでは。では誰が証言。坂出。嘘。演奏の音をきいた。テープレコーダー。否、部屋に無し。部屋でない別の場所では。否、響きがちがうから本物の演奏。自分も窓に立ってるのを目撃。馬鹿な、額をうたれたのなら、その前に何が。窓、暖炉。暖炉に仕掛けは。無し。馬鹿な。猟銃か。不明、弾丸はブローニング、1930年代製造。驚、冗談か。否。住職が口の中で呪文。何か事情が。教えて。否。

*** 3) 手首の供養、失神する住職
はなれようとする住職に供養してほしい、と石岡。その時、真新しい墓に小野寺推玉の名。何を供養か。川の樹の下でみつけた手首の骨。住職は驚愕。たおれた。石岡が庫裏にはこんだ。

** 5) 法仙寺庫裏、鐘撞き堂、龍臥亭、中庭、むかで足の間
*** 1) 住職を庫裏、父娘の異様な反応
庫裏にはいり住職の急変を。父と娘だった。寝かせる。娘が事情を。変なものをみせた。何。手首、どこで川のほとり洗濯場で。「よし子」という声。石岡が娘にはなしかけるのを制止。二人に辞去を懇願。石岡が過剰反応について考える。一男は弾丸が1930年代の時、住職は手首の時。異常な反応。

*** 2) 佳世への不審
鐘撞き堂の脇から龍臥亭をながめる。左手前に立派な建物、そこから龍胎館。うねってつづき最後に龍尾館。左手前のすぐ下。龍尾館の屋上と左手前が鉄橋で連絡。石段をおりる途中で行秀と。龍臥亭の門をはいった時、考える。佳世が簡単に発見。不審。罠か。屈辱、怒り。龍胎館の渡り廊下をつっきり、お花畑に。行秀が鐘をついてる。石岡がきく。佳世、君は何者。驚。あの手首は誰の者。驚。あの手首が誰か知ってる。否。馬鹿にするな。石岡が駄目になった、自信をもってくれ、と佳世。鐘の音。女の悲鳴。

*** 3) 晴美の殺害、状況、銃声、人影
場所を確認。「誰か、助けて」。崖っ縁にたつ竜の像に右手をのせて下をのぞく。縁側にミチと娘。晴美に変事。三人の刑事が。おくれて石岡。

晴美が左手の仏壇の前、こちらに背中をみせてたおれてた。刑事がミチにきく。状況は。不可解。晴美がユキをあそばせてた。自分は仏壇でお祈り。隣りに晴美とユキ、祈り。すると晴美がたおれてきた。銃声は。否、無し。位置は。ミチ、ユキ、晴美。晴美が一番廊下側。この戸は。閉鎖。人影は。不明。葦戸にはハンガーに女物の衣服が二着。二人は外にだされた。石岡が考える。

*** 4) 狙撃場所、葦戸、ハンガーの遮蔽
廊下から、とっつきの二畳の部屋の人物はぼんやりみえる。庭にたった者も。うった弾は細い葦をとおる。紙のような明瞭な跡をのこさない。狙撃者にとっては中にいる人物の狙いをつけやすい。ところがむかで足の間の場合、衣服が邪魔。廊下はともかく中庭からは無理。では龍胎館のとっつきに所在のむかで足の間。可能か。中庭にたって検証、不可能ではない。でも最短距離の地点から。衣服が邪魔。晴美がみえない。実際、ハンガーの衣服に穴は。無し。しかも日中。目撃者は。ここを眼下に見おろせる場所に二人。自分はみず。佳世はみず。福井がきく。

*** 5) 犯人の逃走経路を刑事確認
ミチがでてきた時、どこに。事件がおきた時、ここをみてた人は。佳世。どこに。石段の上。犯人は。否。ミチの声がきこえた時、人は。否。銃声は。無し。では他の人。銃声は。無し。福井がいう。声はうたれてすぐでない。たおれて気がついた。一瞬の間があった。犯人はこの廊下、または地面の上にたって狙撃。場合を考える。左、石垣に。右、石垣に、正面も行き止まり。左手の廊下に誰か。二子山増夫と二子山一茂。みたか。無し。この石段をかけあがって上の中庭に。無しと石岡。では龍尾館へ。刑事がいたから、無し。で、龍尾館にぶつかって左手に。守屋が戸口で休んでた。無し。で、藤原の行動は。厨房で晩飯の仕込み中。エリ子とあわせ三人でやってたが、声がきこえ外にでた。庭をとおってか。否、渡り廊下の簀の子をとおって。準備手伝いの分担は。二人が交互。今回は倉田。福井がいう。犯人は右手ににげ、龍尾館か、ぶつかって右手ににげた。その時、里美が渡り廊下を横切り龍尾館の手前にあらわれた。一男がきく。今まで。アヒル小屋でエサを。アヒル小屋はどこにと福井。龍尾館の右、陰のところ。刑事が指摘した逃走路。里美は。ずっとそこに。然り。何分。10分。誰か。否。ミチ の声は。きかず。アヒルがうるさかった。里美が石岡に一礼して去った。

** 6) 大広間、龍臥亭配置、過去の因縁、手首の身元
*** 1) 龍臥亭の由来
大広間に一同があつまる。この機会に石岡は龍臥亭のことを勉強する。龍胎館の各部屋の名称は。琴の名称に由来。そもそも龍臥亭という名称は。先代が琴の趣味。琴は。日本では竜にたとえる。ところで琴の名称を専門家は。つかわわず、箏。龍臥亭は。山の中腹にとぐろをまく一匹の竜。ここ龍尾館は。尻尾。龍臥亭全体で龍尾館は。最大の建築物、部屋数多数。犬坊家の人びと居住。各自が自室。龍尾館からのびてる長屋風建物。龍胎館。のぼりつめると。法仙寺からながめた建築物。龍頭館。別名が龍頭の湯。つまり大浴場。もともと細々とわいてた土地の温泉。犬坊家がながく独占。本来は村人に公開する意図で建築。従って外来のお客は有料、地元は無料。純粋の温泉にもかかわらず犬坊家のみ使用。湯量がすくない。旅館をたたんだ現在も地元に公開。でも実際は。集落のはなれにあることから法仙寺住職と二子山増夫のみ。

龍胎館が斜面を一周。だから龍頭館は龍尾館のすぐ頭上。ために龍尾館の屋上から龍尾館の裏口まで。鉄橋。なければ大回り。龍尾館が三階建。こういう理由。龍胎館はそれだけのぼってる。で、一列にならんだ各部屋は。リゾート地の高原のバンガロー。床は水平。隣室との高低差は約40センチ。各部屋の名称は。

*** 2) 各部屋の説明
1)「むかで足(あし)の間」ミチ、ユキ親子
2)「尾布(おぎれ)の間」
3) 「柏葉(かしわば)の間」
4)「下音穴(しもいんけつ)の間」
5) 「雲角(うんかく)の間」
6)「甲(かぶと)の間」
7)「磯(いそ)の間」
8)「裏板(うらいた)の間」
9)「蒔絵(まきえ)の間」
10)「べっ甲(こう)の間」
11)「螺鈿(らでん)の間」
12)「柱(じ)の間」
13)「弦(げん)の間」
14)「四分板(しぶいた)の間」
15)「 枕角(まくらづの)の間」
16)「龍角(りゅうかく)の間」
17)「六分板(ろくぶいた)の間」
18)「龍眼(りゆうがん)の間」
19)「龍額(りゅうがく)の間」
20)「上音穴(かみいんけつ)の間」
21)「 口前(くちまえ)の間」
22)「龍舌(りゅうぜつ)の間」
23)「猫足(ねこあし)の間」。そして
24)「龍頭(りゅうず)の湯」
である。

1)の部屋は、流し、テレビ、ステレオ、仏壇、家具、食器、暖房器具が付属、自炊可能、親子は犬坊家の客人として長く逗留らしい。
8)の部屋は、佳世、テレビ、ラジオ、暖房器具なし。ただし卓袱台、ちいさな水屋あり。
9)の部屋は、石岡、同上
10)の部屋は、坂出
5)の部屋は、二子山親子
3)の部屋は、刑事の福井、鈴木、田中
23)の部屋は、晴美、
22)の部屋は、エリ子

*** 3) 各館との連絡、暖房、家具備品、一般客、VIP、家人
龍尾館にかようには。龍頭館から龍尾館の屋上鉄橋。あるいは中庭から小径、石段、龍頭館。あるいは龍頭館から石段、花壇脇の小径。竜の置物、階段を。龍尾館にゆく。二人の部屋からさほど遠くない。龍尾館や龍頭館からみて不便なのは、柱の間、弦の間、四分板の間。廊下か、中庭の小径、階段を。犬坊家の家族は全員、龍尾館の二階。龍尾館は家族、龍胎館は一夜泊まりの温泉客。龍胎館は暖房器具、勉強机、テレビ、ステレオがない。それがある家族と一緒が生活によい。暖房器具は。龍胎館の全室には無し。むかで足の間にストーブ。これは石油でなくプロパンが燃料。なら建設当初に付設するはず。設計当初の考え。しかし、むかで足の間は秀市が個人的に使用。ならわかるが、1) から5) の5室がそう。不思議。守屋、藤原は龍尾館一階。幸子が三階。その師匠である推玉も。VIPは龍尾館か。事情聴取は応接間。

*** 4) ミチの過去
応接間で事情聴取。刑事たちには非日常の事件。当惑。石岡が考える。母子が心配。だがユキ子は大声で朗読、周囲は拍手喝采。育子や義母の松子と積み木。京都にもどりたいとミチ。警察が不許可。ここにきた事情はと石岡。運勢をみる人から先祖供養を。悪運が。沢山、詳細は不答。

*** 5) 佳世とミチの対話、因縁の過去、仏前の礼拝
そこに同感と佳世。霊感の先生の指示とミチ。肩に人が、肩腰が重い。ここも。霊感の先生。貝繁は凄い因縁の村、でも霊感でたどりつくのはすごいとミチ。また、自分の先祖の地。何かがついてたか。水子。驚。然り。何人もか。不答、それにひどい霊、祖先の因縁。だから半年、仏、墓の生活。こちらに先祖の墓か。然り、母方、戦前にでて京都に。法仙寺に無縁仏、不明。龍臥亭に無理にたのむ。育子の好意で。自分も娘も命の危険、耐えるようにと指示。よかったと佳世。二人共感。あの部屋を移動かと石岡。否。ほかに仏壇がない。どこでも一緒、龍尾館でも幸子が死亡。幸子はどんな人。神経質、無口。それに犬坊が冬用の戸をつけるといった。葦簀をはずす視界がさえぎられ、風も、だから安全。行秀が作業中。手首をどうしたのかとミチ。さがしてここで発見。感心。そこに刑事の鈴木。佳世に声。

*** 6) 推玉の手首と判明
推玉の手首を法仙寺に。推玉て何。しってた。否。一同驚。鈴木が佳世をよぶ。石岡ははいれない。石岡が田中にききたいととめる。許可をを得て田中が了承、廊下に。

** 7) 厨房隅、田中との対話、御手洗への依頼、情報の入手
*** 1) 推玉のこと
厨房の片隅。田中がいう。どんなこと。推玉とは。津山市出身の琴の演奏家。津山で多数の弟子ををもつ。秀市と親交、よく投宿。一週間投宿後、3月6日に行方不明。この家からか。然り、殺害死体で発見。驚。龍臥亭で発見か。不答、御手洗に言及、自分は現場の人間、捜査の実態はもっと地味。成程。自分は御手洗の実在を信じてる。勿論、実在。否、スーパーマンとしての御手洗が実在か。それで。

*** 2) 田中、御手洗への依頼
自分は信じたい。貝繁は因縁のある村、現在世間に事件はひろまってないが、間もなく大騒ぎになる。その因縁とは。詳細は他人にきけ。しかし、昔、好色で乱暴者が事件、ある春の晩、発狂、30人を一晩で殺害。驚、実話か。然り。それに村にはウランがでた。人形峠か。否、荒坂峠、大騒ぎ、だから祟り。成程、でもウランはよくわからない。事件は貝繁村の大事件。もっとひろがるかも。自分はこの手の事件はまったく無知。おりいって依頼事項が。もっとひろがれば。解決すれば。然り、それも迅速に。で、御手洗か。然り、自分の一存で。で、今どこに。オスロ、ノルウェー。住所は把握。率直にきく、実在か。驚、創ったものでない。実は石岡先生。否。協力を願う。成程、で、御手洗との交換でなければ情報は。だせない、自分の一存でいう。繰りかえし、御手洗の存在は信じたい。つまり交換ですね。まあ。

*** 3) 石岡、依頼の約束、情報の入手
手紙で依頼、確約無し。石岡が質問する。推玉の死体は。

*** 4) 推玉の遺体の詳細
村から。どこ。あちこち。何。胴体は西貝繁村字川西、農家犬坊厚夫方裏手の下水溝、頭部はこの200メートル北の及川始方裏手の下水溝、左右の手及び左右の足は葦川橘暗渠。発見者は。そろぞれの家人、暗渠は小学生。担任の教師が通報。なお、右手部分は梱包紙の一部がやぶれ手首から先が紛失。成程。田中からさらに。非公表の情報。何。切断された頭部の前歯部分の上下が油性の塗料で黒く塗られてた。歯が。然り、前歯上部が4本、下が6本、奥歯は無し。目的は。不明。頭部の額に「7」。意味は。不明。死体は長く水に。否、一晩。消えなかった。然り、油性の塗料。マジックインク。歯も同じだろう。「7」は確かか、仮名の「ク」とか。かも。関連があるか。不明。逆に石岡にきく。無理。ダイイングメッセージがあるが、これでない。書いたのは犯人。まだ。何。切断死体は新聞紙で梱包、ビニールでしばる。その新聞紙に多数の鳥の絵。どんな。すべて横向き、二本足。すべての梱包の新聞紙に。しばらく茫然。死亡原因はと石岡。心臓の下を銃で一発。その弾丸は。1930年、ダムダム弾。幸子も晴美も同じか。然り。同一の銃か。確認中。因縁という言葉がうかぶ。石岡がきく。

*** 5) 晴美の狙撃方法、幸子の銃弾、推玉の墓地、因縁
晴美の事件、最短距離からの狙撃。ならミチの衣服が邪魔。穴は。無し。ほかの場所にも。否、それとおぼしき跡は。無し。衣服をさけた。ならどこから。非常に困難。しかも一発で完了。腕がいい。練習をつんだかと石岡。葦簀に痕跡無しで。不可能と田中。では、これも密室殺人。次に幸子のことと石岡。室内から、それも至近距離。否、硝煙反応無し。相当の遠距離。不可解。推玉はわからないと田中。話しをもどす。墓は地元に墓地確保が困難。こちらで独立の墓。今日、住職が墓の掃除。そこに手首。衝撃。成程。それで。回復。住職の因縁。警察は関係があると。不答。

*** 6) 推玉死亡の詳細
では推玉の推定死亡日時。3月6日。発見は7日早朝。龍尾館で6日、午後2時から5時まで三階で幸子と稽古。その後、応接間で面談。6時前にお開き。自室にもどろうとしたが、思いなおして中庭の方に。これが最後。龍臥亭で殺害された可能性は。自分たちがすぐかけつけて捜査、痕跡は無し。自室は。三階。幸子と同じ。そこや硝子張りの部屋が琴の稽古場。演奏発表は大広間。幸子は龍額の間をつかってたかも。今のメンバーはみないたのか。然り。では事件以来ここからはなれられないのか。否、そこまで要求してない。滞在は彼らの意志。3週間経過。

石岡は、これらを書きとめて御手洗に事件の依頼をすることにした。田中にお礼をいって、佳世のことをきいた。悪いようにはしないので扱いはまかせてくれといった。心配する石岡に手首の発見にいたる経緯に不審があるともいった。

* 5) 4月1日、生首の浮遊
** 1) 廊下、自室前、四分板の間前、龍頭の湯
*** 1) 里美のあこがれ、大都会
石岡がもどりながら考える。むかで足の間が板戸に。しかし欄間から無理すればのぞける。中庭、靄、裸電球の光の列。幸子が3月30日、晴美が31日に死亡。推玉が3月6日。ふりかえると青銅の竜。蒔絵の間の前、里美。驚。風呂に案内。さらにシャンプーをもって。後ろに。会話。小説家。然り。どんな。犯罪小説。本屋には。この村には本屋は。一軒。どこ。貝繁銀座。東京から。否、横浜。どんなとこ。東京の隣り。いったこと。無し、ここに東京の人はこない。町といえば。岡山。ほかには。広島、松江、出雲。驚。すこし教えてと石岡。何。色々、龍尾館の三階がみえた。中庭にたつ平屋のよう。

*** 2) 四分板の間、菊子のこと
ここはと石岡。四分板の間、犬坊菊子。縁側から普通の中庭のように見おろせる。もう寝たか。然り、早寝。療養か。否、病気、昔、結核、今は癌。腰痛もち。女性の器官の病気かと石岡が考える。神主は何故。今は。いえない。では明日。然り、土曜日だから昼に。勉強の都合は。すこしなら、可能。アヒルを葦川につれてゆく。その時。龍頭館についた。

*** 3) 竜の湯
壁板から天井まで白木。壁の上に何頭もの竜。竜の上の軒、五重の塔をおもわせる組み木とその上にのせる横板。厚い扉。観音開き、上部に湯気ぬきができる格子造りの窓。入口の脇に龍頭館の木札。中に踏みこむと小部屋。裸電球。右と左に引き戸。右が「男湯」、左が「女湯」。上部は曇り硝子。スイッチを点灯。明日を確認。里美が辞去。檜風呂、岩風呂。湯気の中に龍頭。石造りの口から湯。左下の石一つがまだ新しい。

** 2) 朝食、中庭、菊子、花壇、坂出
*** 1) 朝食、警察の佳世、中庭、菊子、ミチ母子、変わり琴
翌朝、4月1日、晴天。エリ子が朝食をしらす。今日は鐘の音無し。大広間で朝食。母子の隣りの松子がきく。父は。お星さま。二子山と挨拶。ストーブをつかう息子に文句。アトピーと言い訳。息子がユキ子に声。育子に確認。佳世は。連行。よい風呂。檜風呂。毎年、はりかえ。近年資金ぐりに苦しむ。二子山増夫が桜前線のことをいう。食後、中庭に。芝生。花壇。小径。龍頭館にちかづく。階段をのぼる道がある。芝生に子どもの声。ユキ子。四分板の間の前に老婦人。恐竜。ちかづく。くるなという。母にも注意。ミチがいう。菊子はもう目がみえない。ミチがユキ子をはなす。石岡に釈然としない気持が。四分板の間をふりかえった。葦簀、板張りでない。しかし欄間にベニヤ板が。とっつきの二畳の間に侍の刀受けのようなもの。ミチにきく。あれは。箜篌(くご)、変わり琴。職人につくらせた。いろいろいな琴がある。博物館のよう。琴のことは。里美にきけ。その職人は。もういない。推玉のことをきく。

*** 2) 推玉の失踪
3月6日5時過ぎまで。いた。誰と幸子、松子、母子。エリ子とお茶。里美は。給仕のあとすこしだけ。自分は6時に部屋に。何故。仏壇で定時のお祈り。推玉は渡り廊下から下駄をはいて中庭に。それは何時。6時5分前。それから推玉をみた人は。無し。幸子は。龍胎館にはいって自分の部屋、龍額の間にいったと証言。中庭にいるはずの推玉をみたか。否と証言。その時間は。6時過ぎ。神主の二子山が廊下で幸子とあったと証言。推玉はみなかった。然り。どこに。不明、ちょっとでるという感じ。そこに人影をみた。花壇に坂出。

*** 3) 警察から坂出、琴の仕掛け、猟銃の弾、連絡橋からの侵入
ユキ子が坂出にかけよった。ミチが声。ひどい目にあった。警察かと石岡。然り。佳世にあったか。不知。推玉の手首をほりだしたので警察に連行と石岡。不知、どうして。霊感、自分も同行。どこで。葦川の桜の木の下。成程。エリ子がユキ子をよぶ。母子とわかれた。聴取の様子。耄碌して誤認したろう。警察は琴の演奏中にうたれたという事実に困惑、自分が誤認したと認めさせたかった。然り、で、琴に拳銃の仕掛けがと石岡。同感、警察にただした。しかし現物を調査、連中は無しと断言。さらに拳銃でなく猟銃の弾、それも昭和初期。へえ、どうしてそんな弾。ではと石岡。ダムダム弾は猟銃にかぎるのか。パイプでも。坂出がいう。旋条痕がのこるから、その線は無理。でも琴に仕掛け。やはりのこる。

あ琴の中まで確認か。否。仕掛けがあった。ところが刑事がくる前。何者かが撤去。成程。自分たちがはいった。その時。密室でない。龍頭館から鉄橋。屋上。ドア、階段と。成程、では宿泊のすべての客が。ところが警察は無しと。ドアは当時施錠。鍵は守屋が管理。成程。さらに琴に仕掛け。絶対ない。痕跡がないと。無しですか。然り、弾はさびてた。またさらに決定的事実、何。ちかい。硝煙反応。ところがない。成程、ところで、夕べの晴美もなかった。晴美の死亡が自分の解放の理由らしい。晴美と無関係、まさか共犯でも。という訳。成程。晴美の事件にうつる。

*** 4) 晴美事件、狙撃の場所、天井の仕掛け
石岡がかいつまんで説明。成程、また密室か。さらに、誰からも硝煙反応無し。隣りの人が。可能性無し。では庭先から。どこに逃げた。むかで足の間からみて、地面なら、左は石垣。行き止まり。では廊下へ。左。二子山。では右。龍尾館にはいる。刑事が。で、左。守屋。右は。里美。で、石段、中庭。自分と佳世。不思議。そこで葦簀張りが本当か。刑事は否と石岡。しかし、たまたま痕跡をのこさなった。やはり葦簀。ところで晴美は。頭頂部。なら葦戸ごしでなく、真上から。驚、天井と石岡。二人は現場に。声をかける。

板戸。暗い。ほかの部屋には。仏壇があるのはここだけ。箒をかりて坂出。天井をどんどん。異常無しと。警察も点検とミチ。頭を前屈みにした時とミチ。推玉とそっくりと坂出。彼女は射殺だが外。ちがう。でも途中できえた。驚、何のこと。全員が中庭。なのにきえた。では外出。否、門に食料品屋の軽四輪。厨房なら守屋、藤原。法仙寺なら、そんなことをする人。否。成程、これは被害者、晴美は犯人。坂出がミチにいう。三人が仏壇。いきなり。然り、たおれてきた。何事か理解できず。では銃声は。きかず。本当。然り。では無音でたおれた。石岡にきく。銃声は。きかず。

** 3) むかで足の間、死体窃取、法仙寺鶏小屋の死体
むかで足の間で坂出、石岡、ミチ母子。そこに血相をかえた一男。幸子と中丸が。森安巡査のところから死体が。ぬすまれた。今、午前10時、森安が連絡を躊躇。遅れ。法仙寺の夫人。鶏小屋に変なもの。きて。坂出、一男、石岡が。住職親子の会話。最初からわかってると住職。よくみたか。否、電話する。あれ何か。いうこと無し。庫裏の裏の鶏小屋に。幸子の死体。頭部が無し。衣服がゆるむ。破廉恥行為か。刑事がきた。住職親子が尋問。三人はもどった。

** 4) 法仙寺、龍臥亭、葦川ぞい
*** 1) 推玉、幸子、晴美の事件整理、疑問
法仙寺からの帰路、石岡が考える。まず、3月6日、津山の琴の師匠、推玉が失踪、葦川上流の橘暗渠に遺棄、翌日、バラバラ死体の各部が発見、ただし手首は30日に発見。次に3月30日、推玉の弟子、幸子が殺害、さらに3月31日、住み込みのお手伝い、晴美が殺害。同日の夜、二つの死体が盗難。4月1日、幸子の首なし死体が鶏小屋で発見。ただしその首は不明。また晴美の死体は依然不明。三人ともすべて銃殺、1930年代のブローニング社製。幸子ほか三人は、ほぼ密室殺人。推玉は変種。これは多数の注視の中で失踪、殺害。中庭にでる直前から失踪。彼女も銃殺。沢山の疑問を考える。

中庭を見ながら自室にもどった幸子、晴美が殺害、これに関係。あるかも。推玉の死体切断の理由は。何故、右の手首だけ桜の樹の下に。何故、額に「7」。死体をつつんでた新聞紙に何故、鳩の絵。幸子、晴美の死体が何故盗難。幸子の頭部、胴体の切断。何故、鶏小屋。変質者、狂人。それですむか。そこに里美の声。

*** 2) 里美とのデート、幸子、晴美、推玉の人物評
平太をつれて葦川にゆく。手首発見の桜にむかう。岩でできた洗濯場からアヒルをはなす。来年から。広島の大学。東京からと里美。横浜。都会はどんなところ。岡山と大差ない。でもマックや喫茶店が。おおい。ここには喫茶店が一軒きり、冬は黄な粉餅。あべかわ餅か。たべたいと石岡。貝繁銀座に、ただし父兄同伴。映画館はうるさくいわれない。畳敷き、座布団もってゆく。明日ゆく約束をした。事件についてきく。

幸子は。無口、わらう、神経質。冗談も、すぐ怒る。藤原を馬鹿にしてわらってた。晴美は。いい人。エリ子は。いい人。平太に声。推玉が行方不明の時、どこに。応接間で後片付け。いないというので廊下から中庭をみた。姿は。みつけられなかった。すごい雪。驚、大雪の中でみんなが中庭にでたり、見にいった。然り。傘は。さしてない。みんなは。すぐかえってくると思った。

*** 3) 大雪と推玉、鐘の音と銃声
大雪。然り、そこに鐘の音がきこえた。驚。6時に。つく。天啓が石岡にひらめいた。鐘の音がひびく中で銃。だから銃声がきこえない。いつも行秀が。然り。ながいのか。然り、もう5年以上。犯人は鐘の音になれてる。タイミングがわかってる。鐘の音に銃声をかくせる。だから犯人は家族か寺の人。でも、幸子は。深夜、午後6時でない。神主のことをきく。

*** 4) 幽霊のお祓い
何故、神主が逗留か。幽霊がでるから。どこに。龍臥亭のあちこち。村の人もいってる。犬坊家は因縁のある家。どんな因縁。不知。じゃあ誰がみた。みんな、自分は否。どこで。つかわれてない地下の風呂とか。どんな風。くるしそうな声。ほかに。風呂場にたつ睦雄の幽霊。睦雄といのは誰。不知、ほかの人にきけ。土地の昔話か。否、実話、戦前の話し。

*** 5) 睦雄伝説、油絵の人物、ダムダム弾
鬼の生まれ変わりとか。おかしくなって村人を30人殺害。いつ。昭和13年ころ。驚。娘、奥さんをかどわかし座敷牢にとじこめる。警察も手がだせない。本当。然り。では子どもができたりした。然り。その人はどうなった。不知。子どもは。不知。それから睦雄は。不明、山の中とか荒坂峠から仙人山のほら穴。本当。然り。学校の先生も本当と。そうなら新聞の記録をみたい。鬼は三階にあった油絵にかかれてる。成程、でも精神異常なら病院にいかなかったか。然り、さらに大金持ち、実力者の息子。それで殺す。然り、いつも猟銃をもってた。それはブローニングか。然り。天啓、昭和13年は1930年代、事件の弾丸は同時代製造の同社製から。30人を殺した弾丸はダムダム弾か。然り。60年もたって睦雄が生存か。否。幽霊。村人が龍臥亭の人を殺そうとしてると。でも、どうして。人間わざでないから。成程。両親も毎日お祈り。犬坊家が特にうらまれる理由は。有、曾祖父吉蔵。それを殺しそこねた。 理由は。曾祖父と祖父秀市が村の相談役。逆恨み。

*** 6) 異常な浮遊物
上流で子どもが騒ぐ声。睦雄に乱暴された女は必ずしも同情されず馬鹿にされた。それだけ恐れられてた。然り、睦雄に何かされた女や家族は必死にかくした。睦雄はどんな家系だったのか。と、石岡が川面に異常なものをみとめた。

** 5) 葦川、生首発見
小学生が4、5人が指さす。30センチ四方の筏。その上に物体。バレーボール大。苦心して河原にひきあげる。生首だった。犯人の意図について考える。異常。この情熱はどこから。どこで。上流から。時計は午後1時。白昼、目撃者は。上流は無人か。昭和13年以降に怪物が出現。三階で殺害された女性の首か。油絵の怪人が。でも本当か。日本昔話か。声がきこえた。福井だった。

** 6) 354p、生首の検証、昼食、佳世の電話
県警の事情聴取をうけた。筏は上流にある橘暗渠にうかんでた。推玉と同じ。筏は。松の小枝を鋸で切断、長さをそろえ、板で釘づけ。下手な素人の作品。生首をつつんでいた新聞紙は。昨年11月8日づけ。検証の立ち会いが許可。頭部と確認、鼻をのぞいて原型をとどめない。肉塊。頭髪がない。皮膚ごとはがされてた。両目がえぐられてた。額部分に穴。両耳無し。額の銃創の横に「7」の数字。新聞紙には鳩の絵無し。幸子らしい。幸子とすると、犯人は和服をぬがせ、何らかの行為。鶏小屋に遺棄。生首は筏に固定しうかべる。その理由は。身元の隠蔽か。現代の法医学では特定は可能。別の理由か。佳世は解放されたという。田中が声をかける。

詳細は電話でといってわかれる。龍臥亭の大広間で昼食。母子と松子。育子が電話。でる。若い女性。佳世。貝繁の駅前から。警察が東京にもどれと駅に。荷物は。警察がとどけてくれた。成程。一緒に帰京して。否。警察でいやなこをいわれ、東京に。否。自分がまきこんんだ。申し訳ない。一緒に帰京を。否。佳世は断念。

* 6) 4月2日、お祓い、貝繁銀座、留金の行方、丸ノコの小屋
** 1) 夜、むかで足の間で幽霊
ミチが寝床で考える。現在、ユキ子がうまれて幸福。寝顔が可愛い。自分のこと。異常体質。子どものころ柱時計が深夜にとてつもなく大きくなる。添い寝の母が小山のよう。一人でねかせて。金縛り。異様な柱時計の音。悶々。いきなり朝。成人した時のこと。ドアの覗き穴。深夜、子どもが廊下を裸足であるく。子どもがうまれてからは精神が安定。寝床で子どもの手をにぎる。ではもう眠よう。と、外をあるく足音。突っかえ棒をはずしおそるおそる二畳の間。亡霊が正座。右手に猟銃。気づくと寝床の子どもをだいて悲鳴。柏葉の間の刑事が。四畳の間の襖はあけはなし。二畳の間への襖もあけはなし。無人。板戸をあける。刑事がきく。無事か。然り。何が。油絵の男が。否、異常無し。刑事がたてかけた座卓の足にかけた白布を。これか。否。刑事が退出。二子山、坂出。刑事が夢と。母子就寝。

** 2) 朝、廊下、階段脇地下のお祓い
*** 1) 幽霊騒動、生首は幸子
4月2日朝、石岡が廊下で二子山親子にあう。でてきた田中にきく。夕べミチの悲鳴。幽霊。どんな。油絵の怪人。本当か。不明。では神主は。龍尾館地下の風呂場に。犬坊家が依頼、幽霊がでるとの村人の噂でこまってた。成程。よくでるのが地下の風呂場。現在は未使用。見物は。できるだろう。幸子の死体は。首の身元は幸子。石岡は龍尾館に。

*** 2) 厨房脇の板戸、地下の元風呂場、お祓い、琴の元作業場
そこに守屋。地下の風呂場はどこ。あそこは汚ない。厨房にまねきいれ、藤原のそば、足元の四角の穴。残飯処理の穴。これが地下。どこからはいるか。こっち。厨房をでて、階段脇の板塀、おしあけると縦1.5メートル、横1メートルの穴。以前は玄関をはいって浴場へおりる大階段。それをつぶしたので、ここから。床の黒いしみを気にする石岡に。かっての絨毯をはってた接着剤のあと。守屋にしたがい現場に。家族風呂。脱衣場で二子山親子。手前に育子。沢山の箱、物置場だった。浴室の中の浴槽。その奧に人工の岩場。上方に湯の噴出孔。この上方から左に竜の尾の浮き彫り。祝詞をきくかと守屋。否。もどる。正面に大階段。中途にふさがれたあと。かなり手前の壁の穴からもどる。階段をふさいだ理由は。方角がわるい。小階段への途中、左に部屋。これは昔の琴の職人の作業部屋、閉鎖。もどるか。然り。

** 3) 朝食、里美の部屋、貝繁銀座、映画館、喫茶店
*** 1) 幸子、G線上のアリア
朝食、里美が隣り。石岡がきく。琴は。ひく。30日の深夜、幸子がひいていた演目は。不知。育子はきいたか。否。里美がメロディを。それ。なら、「G線上のアリア」。琴でクラシック。否、生田流の推玉の派だけ。成程。でも、変。何故。17弦が必要、あの時は13弦。

*** 2) 里美、琴の解説、樽元の消息
食事後、二階の里美の部屋に。畳の上に琴。おおきい。長さはと石岡。1メートル91センチ。実演を依頼。六段。上手。否、幸子がもっと上手。爪の素材は。象牙。琴は。桐。里美が琴の各部の名称を説明。弦は。テトロン。弦の端は。裏板の上下にある穴から手をいれてむすぶ。琴の中は空洞。然り。菊子の部屋の変わり琴は。箜篌、かっていた職人の樽元純夫が作成。三つのうちの一つ。現在、樽元は。不知、夫人が病気で荒坂峠仙人山にもどったよう。

*** 3) 家の窮状、村の因縁、使用人の動揺
二人で座布団をかかえて貝繁銀座にゆく。蔵を改修したらしい。二階にのぼり、ウェディング・アンド・フューネラルという映画を。喫茶店で「きなこ餅」をたべる。葦川がみえる。首が筏とは。驚、幸子かと里美。然り。この事件について何か考えることは。因縁かな。どんな。母も、旅館たたんでも許してもらえない。村をでるかもと。成程。この村の人たちは業がふかい。それは何。不答。具体的には。否。事件が解決すれば、村をでなくてよいのでは。自分はあきらめてる。晴美が死亡。エリ子もでる。すると藤原、守屋も。留金八十次がいなくなってから、どんどんいなくなる。樽元も。秀市が死んでから。その留金とは。

*** 4) 留金の失踪、容疑、人柄、事件解決の決意
以前はたらいてた人。何時まで。2月くらい。家の雑用、大工を担当。突然。驚、よくあるか。否。最大の容疑者かもと石岡。幸子への殺意、推玉への動機、晴美への恨み、というより犬坊家破滅をねがう動機。しかし本当か。曲折しすぎ。犬坊家への恨みなら。留金は強い恨みもってるはず。どんな人と石岡。いい人。いくつ。50歳、20年以上いた。恨みは。無し。病院代たてかえに非常に感謝。どこの出身。荒坂峠、樽元にわりとちかい。では、額の「7」に心当たりは。無し。両親は。無し。事件を解決すれば。犬坊家をたすけることになる。御手洗に本気で手紙をかくと決心。

** 4) 龍尾館電話、田中と対話、中庭、坂出、守屋と
*** 1) 留金。警察、動機なし
またもどり、田中に電話。何かあたらしい発見はと田中。留金のことと石岡。龍臥亭の使用人、今年の2月に失踪。それは最重要容疑者、かくしてたのか。否。峠の家を捜索、空き家。驚。有力な動機無し。

*** 2) 幸子、異常な死体
では電話連絡の趣旨は。内密にすることを前提にかたる。鶏小屋の幸子の遺体、着衣の下には下着無し。性器がきりとられ、両方の乳房も同様。驚。警察は捜査の方向がみえたと。留金は50歳、母親っ子、長年の独身。はなやかな女性、きれいな女性に異常な関心をもった、として不思議ない。成程。で、自分は石岡に独断で依頼したことを反省する心境。成程。ところがさらに考えれば、幸子、晴美の殺害方法を吐かせるのは困難、で、依頼はとりさげれない。成程。で、石岡の見解はと田中。

*** 3) 留金。知能犯、変質者。鐘の音と銃声の秘密の解説
絶句、警察が世間にださない部分を認識。しかし釈然としないものが。留金は頭がきれる方か。否、だから女性に軽んぜられ、かえって劣情をいだく。成程、劣情はわかるが、これだけ巧妙な犯罪が実行する能力はない。然りというべきかも、だが虚仮の一念、偶然の思いつきかも。でも、筏、「7」の数字、これは自信家の仕業、イメージがあわない。でも頭のきれる人が鶏小屋もおかしい。指紋、足跡は。無し。でも留金なら、鐘の音の間隔の問題は解消と石岡。何と田中。銃声がきこえなかった。石岡がこの謎を解説する。でも姿をみせずにどのように銃撃か、と田中。然り。でも犯人は知能犯でしょう。反論なし。

*** 4) 坂出、守屋と対話。留金の人柄、黒い歯の意味
中庭にもどると坂出と守屋。田中との話しをきかれる。御手洗につき説明、留金についてきく。容疑者とも。否と守屋。女性に関心がなかったかと石岡。否、年増。さらに人柄は円満、それほど愚かでもない。では、犯人はどこに。無言。坂出が生首の発見をきく。驚。その筏は留金でない。上手な大工。その他の残虐な行為も理解不能。石岡が考える。女性器などの行為は劣情の発動として理解できるが、そうすると筏の生首は理解不能。坂出がいう。推玉殺害犯人と同一か。生首をつつんだ新聞紙には鳥の絵がない。然り。歯を黒くしたのはお歯黒と守屋。何のため。昔の武家の奥さんも。それを真似た遊女も。何のため。交友関係が派手だったと訴える。遊女のような派手な存在というとして、お歯黒にしてどれだけの人がわかるか。もう一つ疑問と石岡。推玉と幸子の額の「7」の意味が不明。然り。幸子の額には穴、そのよこに無理して数字、この意味。それは予告かと守屋。何の。殺人者の数。根拠は。不明。現在3人。女性ばかり。女性への劣情で犯行におよぶ変質者の犯行、警察の考えらしいと石岡。否と守屋、二人は幸子の死体の損傷はしらせてない。この事件は混乱してると石岡。

*** 5) 混乱する犯人像、不明な動機
性犯罪説、知能犯説、睦雄の幽霊説。動機不明で混乱と坂出。警察が現状でつかめてない。不明。犬坊家への怨念か。しかし間接的。どうしてこんな手のこんだ犯行か。行秀がとおりすぎる。話しがかわる。ここの温泉は実は冷泉かと坂出。然り。わかしてる。昔は薪、今はプロパン。行秀がまさにそのためにいったようだ。

** 5) 龍尾館、守屋と対話、夕食、田中に電話、中庭、丸ノコの小屋
*** 1) 藤原の失踪
夕方、蛍光灯スタンドをかりに龍尾館に。守屋にあう。藤原が失踪。心配。どこの出身。世能尾(せのう)、ずっと奧。かえった。否。では守屋と喧嘩は。否、田中への連絡が必要かも。食事。隣りの二子山一茂と幽霊払いについて話す。食事後、守屋が依然、藤原が失踪と。

*** 2) 田中との対話、外部犯行説
石岡が田中に電話。対話。石岡が犯人は愚か者による性犯罪説に疑問。「7」は捜査員への挑戦。冷静さをもつ。矛盾。留金にこだわらないと田中。しかし外部の犯行。でないと無理。幸子の時、石岡、ミチ母子、一男にアリバイ、その他が不確かだが嫌疑は薄弱。晴美の時、石岡、佳世は一緒、行秀は鐘、守屋、藤原、エリ子は厨房、二子山親子も部屋、坂出は警察。さらに一男、育子、里美、松子は一緒に龍尾館の奥の間、菊子は部屋で動けず、盲目と全員にアリバイ、外部犯行に。成程、で、推玉の時も。然り、ほぼ同じ、犯行時刻を午後6時とすると、二子山親子、坂出は廊下、守屋、藤原、里美、エリ子、幸子は厨房か応接間、一男、松子一緒に奥の間、行秀は鐘。これも外部犯行に。成程、ちょっと疑問と石岡。菊子は本当に動けず盲目。たしか。だから留金。でも留金は巧みな大工とか。しかし殺人という異常事態なら失敗も。仏様のような好人物と石岡。否、外見だけかも。でも外部の人間が劣情で連続犯行か。不可解。然り、依然外部説が有力。

*** 3) 守屋との対話、樽元、留金
里美に蛍光灯スタンドのことをきく。明日までかかるかもと。中庭で心配する守屋とあう。田中との会話をはなす。守屋が意を決して樽元のことをはなす。龍尾館の地下に仕事場、口ごもる。石岡がきく。樽元が仕掛けのある琴をつくったか。どんな。琴に銃が内蔵。否。樽元は8年前にやめた。でも先代秀市は一昨年、それからやめたのでなかった。本人の体調と夫人の看護のため、仙人山にかえった。成程。彼とは一年ほど一緒。では。自分は9年前に。藤原は。4年前。つまり、守屋、1年で樽元、3年で藤原、2年で先代、旅館閉館、今年に留金か。然り。それに藤原か。然り。了解。

*** 4) 丸ノコの小屋の不審
では先程いいたかったのはと石岡。守屋が小径に石岡を。龍頭館を左に。裏の空き地。長方形の池。すると龍胎館と裏山の竹薮の間。小屋。その中に丸ノコ。守屋が小屋の脇、引き戸に。2センチの隙間、施錠でそこで停止。格子窓から丸ノコの姿。その奧におおきな土饅頭、焼き場。猫足の間か龍舌の間にちかい。かって樽元が管理。今はと石岡。留金。でも失踪後は。不答。小屋からのもどり守屋がいう。この中で藤原が殺害。驚、それがいいたかったこと。今、鍵は誰の管理。きけばと石岡。不可。では石岡が。でも推測は。誰。行秀。それがいいたかったのか。さらに丸ノコなら筏つくりもらく。それに行秀は不器用と守屋。

* 7) 4月3日、野外演奏、エリ子、菊子、4月4日、留金の発見
** 1) 石岡の部屋、幽霊を追跡、丸ノコの小屋、焼却場
石岡が寝床で異音にきづく。廊下を裸足で。葦戸をあけ中庭をみる。右の方の廊下に怪人がたってた。黒い姿、鉢巻、その両端に懐中電灯、右手に刀、左手に猟銃。龍尾館の絵だった。また足音、すすり泣きの声。竜の彫像の横、階段をのぼりつめたあたりに人影。そこに瘤。尾行した。龍頭館の裏、小屋のあたりの竹薮にたった。生臭い臭いに気がついた。竹薮をぬけ法仙寺境内。鐘撞き堂の横。本堂、裏手の墓地。人影がとまる。椿のそばにいった。人影をみうしなった。墓碑銘である。金井貞子、勝裕、康夫。山門へとくだる木戸にきた。施錠されてた。鐘撞き堂から竹薮をくだった。気がつくと丸ノコのある小屋の横だった。生臭い。人がやかれてる。人影が。頭に二本の角をはやした影がこちらにちかづく。恐怖にかられて逃走した。

** 2) 廊下、大広間、龍尾館角、昼食、竜の彫像横、野外演奏会
鐘の音で覚醒。廊下、守屋に昨日の幽霊の話し。藤原が依然失踪中という。大広間。怪人の話しをする。裸足の音、きいた。すすり泣き、きかない人も。顔の前に布、ないと石岡。竃について、今朝、掃除した時には異常無しと育子。あの絵は何故。二子山に依頼する。ここにはいった時、何をはなしてたかと石岡。育子と里美の 演奏会の開催。蛍光灯スタンドは地下の風呂場のところと里美。ではいいと石岡。部屋にもどり仮眠。エリ子の声、昼飯。昨夜、生臭い臭い。気づいた。否、さらに今日で旅館をやめるとエリ子。昼食後、龍尾館の角で警察にあう。藤原がもどらずと石岡。警察が守屋から事情を聴取。村に知り合いは。無し、泊まりにゆくほどの知り合いは無し。年齢は。21歳。親しい女性。無し。そこをはなれ竜の彫像の台座に腰掛け。守屋がきた。警察は村で聞き込み。今日の演奏会は。連弾、芝生で。

** 3) 石岡の部屋、井戸、丸ノコの小屋、演奏、鐘の音
*** 1) 演奏準備、里美の接吻
下書き、午後4時。中庭に緋の布、その上に2台の琴。和服の里美に声を。里美がいう。龍頭館裏の井戸で手をきよめる。演奏前のジンクス。里美が小屋にちかづく。上方に丸竹の導水管、各部屋の筧の源流となってる。格子窓から中をのぞく。里美も。だきあげてのぞかせる。ここはこわいところと里美。この部屋の鍵はと石岡。不知。焼き場にゆく。異常がない。突然、里美が接吻、すぐはなれ中庭に。

*** 2) 観客の中の演奏、鐘の音、エリ子の殺害
廊下には観客として、坂出、石岡、二子山増夫、二子山一茂、三人の刑事、ミチとユキ子、エリ子、一男、守屋、松子、行秀と龍臥亭の全員がこの順序でそろう。低いところの部屋の住人はその廊下からみえない。それで順次、上方に移動。演目は「二つの個性」と「三つのパラフレーズ」。見事な演奏。菊子が部屋からでて坂出にはなしかける。アンコールの声にこたえて「海の詩(うた)」。菊子が部屋にもどる。行秀が廊下をおりる。ミチ、ユキ子母子とエリ子も部屋に。彼方に行秀。鐘が一つ目、次に二つ目の時、悲鳴。部屋にいそぐ刑事。エリ子がうたれた。

** 4) むかで足の間、検証、四分板の間、菊子の殺害
*** 1) エリ子の検屍、狙撃場所、天井、銃声の隠れ蓑
検屍が終了。死体から1930年製ブローニング銃のダムダム弾だった。警察は混乱。弾はどこから。欄間から。否、板戸を閉鎖したか。ミチの証言は本当か。あやしい。馬鹿な、子どもが横、母親が手引きするか。否、第六感があやしいという。冷静に。二度とも被害者は手前、不審。否、危険すぎる。ともかくミチが不審、何故ここに滞在か。不審だから、子どもをだまして犯行。とにかく警察に。子どもにもエリ子にも硝煙反応無し。突っかい棒をしてたと証言、嘘。ならこんな証言は無し。では犯人はどこに。だから欄間と田中。で、どこから。屋根から。どこの。むかで足の間の廊下の屋根。犯人はどこ。屋根にはいつくばり軒から銃身を欄間にいれる。それでねらえるか。練習すれば。不可能ではない。でも一発は心配、複数。それは鐘の音にあわせるから。またそれが銃声がきこえなかった理由。前回も今回も二回目。タイミングの便宜。二発、三発。なら逃走が発見。だが、屋根の上から鐘撞き堂をみて一回目のほうが。否、みえない。でも銃声をかくすこと。狙撃より優先か。然り、きかれれば所在が判明。なら無差別殺人か。然り。ではその理由。不知。全部か。然り。犯人は留金か。ここにいない外部の人間が犯人と田中。留金が屋根。それで逃走路は。龍頭館の方。否、育子、里美がみる。では龍尾館。安易な結論。しかしどうして鐘の音の時刻を最優先か、他の時間での犯行は。そこに声、晩飯の連絡か。

*** 2) 菊子の殺害、狙撃場所、変わり琴、銃声
育子が菊子の殺害をしらせる。食事をもっていったら発見。四分板の間に死体。浴衣をきて大の字、足は窓の方、両手は横。現在9時すぎ。部屋の明かり無し。窓からうったか。外をみた。石垣より上。屋根からの犯行は可能と福井。演奏の6時には生存。銃声をきいた者。否。食事をもってゆくまで、この部屋にいった者。おそらく否。屋根の上に不審者。否。菊子は。実母。年齢。78歳。布団をでて死亡。窓をあけた時、うたれたか。石垣からか。手でささえるところがない。筧にのる。無理。福井がいう。二畳は全部、四畳は半分が板の間。四畳には琴。琴は。固定。もといた樽元が一本の松から琴が上にのった板をつくり、はめこんだ。二畳の間の百済琴も同じ。はめこみ。弦は。はってない。外に。弦締め。百済琴をみる。西洋のハープみたい。然り。弓のところに穴。これは枝をもった幹からか。然り。幹を板に。然り。幹に右手が一本はいる穴をくりぬいてある。ここから弦をはった。然り。田中がもどった。坂出は6時から部屋、銃声。きかず。石岡は6時から1時間外出、それから銃声はきかずという。

** 5) 石岡の部屋、文房具店、郵便局、夕食、自室
*** 1) 御手洗への手紙
石岡は龍臥亭をさるといってたエリ子の死に衝撃。身近に危険を感じる。覚え書きづくりに集中。守屋に同行してもらい貝繁銀座にある文房具屋に。30枚のコピー。郵便局に。午後8時をすぎてた。局長不在だが受付。ノルウェーにいる御手洗に郵送。エクスプレスで依頼。帰途、守屋に睦雄の事件をきく。本当に。あった。ある春の夜、発狂し30人を殺害。ギネスにのりそうな大記録。然り、新聞にのった。庄屋の息子、金持ち、座敷牢を。もってたらしい。

*** 2) 菊子の殺害、銃声の有無、疑心暗鬼
部屋にもどり事件を考える。自分の命すら危険。外から声。田中。菊子が殺害。驚。銃声をきいたか。否。どこに。守屋と外出、御手洗に依頼の手紙。何時ころ返事。3、4日くらい。御手洗のことは口外無用。了解。時間がないとでていった。石岡が考える。4月3日に2人が殺害、異常なペース。菊子殺害で利益をえる者。無し。エリ子も。無し。疑心暗鬼、坂出も危険か。夕食は沈痛。食後、四分板の間をのぞく。田中に声をかけ、丸ノコのことをいうが、すぐ自室にもどった。

** 6) 朝、自室、廊下で田中と対話
*** 1) 事件の整理
石岡が4日朝6時起床。また考える。守屋の言では、丸ノコの小屋の鍵をもってそうな行秀。あやしい。が、鐘の音というアリバイ。強し。犠牲者を列挙、推玉、晴美、エリ子。すると次は里美。驚。何としても守る。しかし失踪中の藤原、菊子は、無差別。然り。若い女性にかぎらず誰も危ない。最初の推理にもどる。5人、すくなくとも3人は鐘の音。行秀にはアリバイ。本当に行秀か。共犯者が。体格が似てる者は。藤原、否、守屋、然り。でもまて。共犯者である守屋が行秀を告発した。あり得ない。今は小屋の丸ノコが問題だ。声が。田中だ。

*** 2) 菊子の射殺、非密室、硝煙反応
廊下をのぼってきた田中にいう。この鐘の音ではねてられない。否、上司はねてる。犯行は午後の6時の鐘、何故と石岡がきく。今なら皆がねてるからでしょう。菊子に新事実は。あり、葦戸の突っかえ棒無し、二畳と四畳の間の突っかえ棒も無し、外にあいた窓もあけっぱなし。つまり。密室でない。さらに。ダムダム弾でない。銃は。同じ。どこを。心臓、一発。成程。さらに硝煙反応。成程。至近距離からうたれた。晴美、エリ子は遠距離。どうやって、不可解。丸ノコのこと。

*** 3) 丸ノコの秘密、留金の炭焼き小屋
調査済み。驚。二度、推玉、幸子の時。結果は。シロ、丸ノコの血痕、体液痕、肉片無し。成程、がっかり。切断は手挽きノコ。筏もそう。小屋の鍵の保管は。警察がたのむと育子がわたした。保管者か。不知、何故こだわる。行秀では。毎日鐘をつく、それをみられてる。臭いという人もいる。鐘の音は6つで終了した。密告は守屋と田中。扇動癖、少年院で。驚。それで京都にいられずこちら。成程。こちらで問題も。どんな。不答。で、藤原は。生きてるでしょう。本当か。川べりで目撃との証言。たしかか。そこまでは。では守屋に何故、一言。不明。行秀でないなら、留金か。不知、しかしあり得る。田中が荒坂峠の留金の家、今は空き家、それと仙人山の炭焼き小屋を調査する。同行するか。考えとく。ところで次の犠牲者は里美では。高校で問題児、とがめられても化粧をやめない。

** 7) 537p、朝食、仙人山へ、車中、留金の家
*** 1) 留金の家の調査計画
朝食食時、二子山増夫と福井が対話。警察は四分板の間の外の平地と部屋の中を徹底的に調査。留金は炭焼き小屋がすきと二子山増夫。どのくらいかかる。まず車、次に徒歩、大変。道はわかるか。困難。軽四でゆけるか。なんとか。道案内できるか。不安。他にしってる者は。里美が声。去年いった。二子山増夫、坂出も同行。学校は。大丈夫。では下校後、午後1時出発。

*** 2) 坂出の意見、菊子の状況、鐘の音のタイミング
石岡も同行。人数を収容できるマイクロバスで出発。石岡が坂出と対話。一発でたおしてる。零戦のパイロットとして感想は。相当の手練。戦闘機の手練も無駄弾はうたない。やがて留金の家に停車。帰った形跡。無し。対話再開。菊子の事件で銃声はと石岡。無しと坂出。ではいつ。福井の説明をいう。スイッチがはいてなかった。つまり明るいうちにうたれた。さらに硝煙反応。目の不自由な年寄に至近距離の必要があったのか。不可解。しかし、だから至近距離も容易ともと石岡。演奏会の時、坂出にはなしかけた。その内容は。琴をひいてるか。育子と里美が正座してひいてるかときいた。それだけ。然り、部屋にもどる時、それじゃといった。菊子は鐘の音のきこえる時にうたれたと坂出。成程。エリ子は2回目。3回目はミチの悲鳴。4回目、菊子が育子に何がときいいた。5回目で育子が四分板の間。菊子は「ああそう」。6回目がなる。ここでうたれた。成程、では犯人の行動は。エリ子殺害、移動。待ち伏せ。6回目で殺害。成程、それから逃亡と石岡。部屋の窓の下は石垣、地上まで5メートル、やわらかい地面だから、いったんぶらさがって着地、法仙寺方面に逃走と坂出。成程。ところが刑事たちはとびおりた形跡はない。何ヶ月も人がはいった形跡がないという。困惑。さらに徹底的に室内を調査、仕掛けは無し。停車、ここから徒歩となる。

** 8) 炭焼き小屋、雨宿り、留金の死体
*** 1) 大雨、雨宿り
ほそい山道をすすむ。湖面がみえた。右手にみてすすむ。空が雨模様。やっと小屋に。茅葺きの六畳の広さ。大小の石がごろごろ。30分ほど調査。成果無し。マイクロバスに。雨がふりだした。全員走りだした。気がつくと里美と二人っきり。右側斜面に岩棚があった。大樹のもとににげこむ。雨が両側を音をたててながれる。里美がスカートをしぼる。手伝ってという。突然わらいだした。天啓がはしった。

*** 2) 村の因縁
石岡には因縁、睦雄の鬼伝説、丸ノコの小屋をのぞいて怖いといった里美がつながった。幸子の死体の猟奇性には性的な衝動がある。さらに彼女との対話を思いだした。因縁とはときいた時、村人の業。では業とは。言えない。あの時、答があったが口にだせないと拒否した。因縁には性的意味がふくまれている。やっと気がついた。そこでまた因縁のことをきいた。言えない。石岡はきりだしながら口ごもった。自分の母親について、綺麗でしょうという。然り、だが何。貝繁村には綺麗な人がおおい。何。村には女の秘密がある。石岡にはわからない。成程。石岡は思う。だから事件がわからず、解決もできない。

*** 3) 女の業
足元におかしな石。貝繁村の業は女の業と里美。目の前にふるい革靴が。その上によごれたズボン、両手、ろくろ首。悲鳴をあげた。里美が雨の中にとびだした。泣きじゃくる里美をつかまえた。東京にゆくという。広島では。否、母もどこかに、自分は一人。東京にいく。何でもする。大学だろうと石岡。否、いいブティックもない。では東京の大学へ。父親が反対。でもどっかにいくのでしょ。でも反対する。冷静になった里美がいう。変なことをいった。みんなにしらせようと石岡。

*** 4) 留金の異様な死体、自殺、ふかまる謎
自分の家がつぶれたら東京にいきたい。然り。面倒みてくれるか。了解。安心してわらいだした。道をもどった。マイクロバスをみつけた。話すと、車内がどよめく。福井がきく。留金か。そのよう。事件はおわりと鈴木。石岡が案内。もどってきた福井にきく。あの頭は。女の髮。幸子からはいだ。鬘のように。収容された死体とともに龍臥亭にもどった。5日の夕方田中から電話。留金、頭にあったのは幸子のもの、作業着の左右のポケットに両目、両方の乳房、両方の耳。足元の石は固化した女性器。石岡がいう。留金は幸子にかなわぬ恋情、殺害、その後、死体を窃取、劣情をとげ、さらに性的部分を切りとって身につけ逃亡。最後に自殺。ですね。否、留金の頭に「7」の数字。それは自殺の判断をくつがえすか。然り、しかし推定死亡時期が2カ月前。驚。今年の2月、上着の下にセーター。一番最初の殺害の推玉も不可、ほかの4人も不可。成程、では誰が死体の部分を。不明。死因は。不明、でも銃殺でない。よく発見したと田中。では2月から自殺体があの場所に。犯人がしってた。それに死体部分を。では、留金も犯人が殺害か。不知。
(上巻おわり)


龍臥亭事件〈下〉 (光文社文庫)

龍臥亭事件〈下〉 (光文社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1999/10
  • メディア: 文庫



* 8) 下巻はじまり、死体の窃取、4月8日、合同葬、4月9日、救出劇
** 1) 四分板の間、合同葬、沈痛な夕食、御手洗の電報
*** 1) 懐中電灯の怪人、遺体安置
それから、龍臥亭、貝繁の村、警察官たちは混乱におちた。警官は無口。村人は龍臥亭の住人、宿泊客を忌避。石岡は4日夜、四分板の間の葦戸の中で懐中電灯の二つの光のうごめきをみた。その後。留金、菊子、エリ子の合同葬。なお幸子の遺体は家族が引き取り。推玉は津山で葬儀済み。晴美の遺体は不明。

*** 2) 留金、エリ子、菊子の遺体窃取、合同葬強行
4月7日から貝繁の村のはずれ、橘暗渠にちかく棚藤という場所の焼き場の待合室に安置。翌日には合同葬。翌朝、石岡は御手洗に知らせるため菊子、留金の死の記録をまとめた。朝食後、1時間後に全員で出発。葦川にそい徒歩。橘暗渠は葦川の流れをひきこんだ水田灌漑用の水路。そこに水をためるプールが付設されてた。ここに筏がうかんでた。

山裾の山間部に煙突とレンガ積みのふるい火葬場。建物の裏手に待合室。戸の硝子窓が一枚われてた。先客に刑事三人と一男と育子。異様な雰囲気。何ごとか。一男が棺桶の一つ。石岡が棺の小窓からのぞく。遺体がない。ぬすまれた。窓がわられ、こじあけられ、3人の遺体が。アルミの粉は指紋の検査。また、何故と坂出。こんな簡単。だが盲点。二度目、最初の遺体はぬすまれてバラバラ。今度は。死体をとって、何か細工、遺棄、何かのメッセージか。「7」の数字、バラバラ。バラバラのやりかた、遺棄場所に意味。何をいいたい。迂遠すぎ。石岡が考える。直接手段がとれず。字がかけない。肢体不自由、筆跡か。新聞雑誌の切り貼り。否と育子。しかしそれからは無言。たいした情熱。同感。遺体のないまま葬儀がおこなわれた。沈痛な夕食となった。

*** 3) 御手洗の電報、リュウコワセ
犬坊一家は事件が一段落後に身のふりかたを考えてる。石岡あての電話。電報の連絡。御手洗。「リュウコワセ、ミタライ」。他に何か。無し。電話をきった。食事中の一男にきく。竜の彫像は高価。50万。設計料などいれると100万。気にいってるか。然り。壊してよいか。否。いけないと二子山一茂。頑丈か。然り。

** 2) 入浴、自室、廊下、丸ノコの小屋
*** 1) リユウコワセの意味
電文に茫然、龍頭館の湯にゆく。部屋。電文の意味。とまどう石岡が御手洗を考える。尊敬。然り、だが異次元の世界。畏れ。御手洗の電報の意味が。2、3年後に。判明。やっとわかった自分に。恥る。あれが友情。たしかにそんな気が。おこがまし。対等の能力があってこそ。御手洗がさって、ひたすら卑小な世界に。ひここもり。横浜馬車道をでて、ここにきた。やっと事件の道筋を自分でみつめる。「リュウコワセ」。不可解。事件についてのべた御手洗の惟一の言葉。考える。ほかない。

*** 2) 竜とは何
壊せる竜。竜なら龍臥亭、竜になぞらえる琴、龍臥亭は壊せない。琴。ならどの琴。やはり竜の彫像。で、壊すか。高価。さらに頑丈。ハンマーか。ロープを車でひくか。ひょっとして他にあるのか。廊下にでて四分板の間に。竜の彫像ははるか向こう 。針の先。と、竜の横に和服の人影。

*** 3) 育子と藤原の不倫
龍頭館に。人影をおう。龍頭館の陰に。井戸の横、竹薮。そこで女の悲鳴のような声。丸ノコの小屋にちかよる。中からの声だった。やがて足音、戸がひらく。それは。藤原。これは。何。生存してた。それはよい。しかし、無断で失踪。守屋に心配をかけた。職人世界の仕来り。あり得ない。普通は追放。だから藤原には。その覚悟。それほどの理由は。また一人。育子。不倫の情交。やがて里美の言葉。よみがえる。母は綺麗でしょう。了解できた。娘は正確に事態を。把握。井戸で手押しポンプをおし、水をかぶった。裸体の背中にケロイドの跡。石岡はまさに沢山のことをみた。考えねばならない。

** 3) 朝食、育子、御手洗の手紙、帰室、坂出、里美、帰室、ミチ
*** 1) 育子と一男の比較、守屋の失踪、藤原
4月9日、起床。育子のこと。考える。一男とくらべる。こんな混乱に。冷静な対処。尊敬の念がある。廊下にでて坂出に。昨夜のこと。いわない。二人で龍尾館の大広間にはいる。守屋がいないと育子。驚。は昨夜のことをしれば激怒。納得できると石岡。今朝の料理は守屋が仕込み済み、しかし今夕がこまると育子。でも守屋はどこへ。不知。手紙、伝言は。無し。こういうことは。昔あったが。するともどる。然りと育子。人数のへった食事がおわった。また藤原を考える。どうして。職場放棄、不倫。あえてする理由。初めてでない。前からの情事。育子が失踪と関係。了解。不可解。もどって文章にまとめることとする。

*** 2) 御手洗からの手紙、茫然自失、犬坊家の分裂
郵便配達人が石岡に御手洗からの郵便をとどけた。部屋で開封しよむ。内容は自分で解決せよ。必要なら命をかけてたすけよ。ない。どうすればと茫然。自分の腑甲斐なさにないた。廊下で坂出が声を。犬坊家が大喧嘩。育子が離婚を要求、それを一男が拒否。部屋にもどり文書にとりくんだ。御手洗の手紙を考える。自分で何とかしろ。無理、無責任。何もうかばない。事がここにいたって、そんな主張は無益。才能の配分は不公平。御手洗には自分の辛さはわかるまい。腑甲斐ない。昼食の時間。食欲がない。夕食はみすぼらしかった。厨房の勝手口前で里美がないてた。

*** 3) 失意の里美、事件解決の決意
声をかけた。石岡がきく。島根の親戚のところか。然り、自分は否、あの人たち、すきでない。あの人、一男、行秀はゆくか。然り。里美は。東京。成程。育子は。不知、二人ではなせば。離婚か。不知、一男は拒否。成程。龍臥亭を。どうする。売却、1000万円。全部で。然り。土地、畑は。親戚のもの。自分の家はおしまい。否、ここにいればよい。駄目、親族会議できまった。自分たちがきめる問題。今の状態では無理。では、事件が解決すれば。無理。どうして。祟り。では何時。警察が許可したら。では解決すればゆかなくてよい。然り、でも無理。祟りでない人間の仕業、犬坊家と無関係とわかったら、どう。出来ない。無理。では、2、3日待って。といって石岡は部屋に。

*** 4) 電報と手紙の作成順
事件を文章化。すると筆がすすみ解答まで。出来るか。虫のよい話し。何時間も考え執筆の手をやすめ、また御手洗のことを考える。電報と手紙の順。電報のほうが速い。手紙はおそい。つまり手紙、電報が作成の順。御手洗一流の友情か。しかしそれはそれとして、わからない。無理。部屋の外から声。

*** 5) ミチの看護依頼
ミチがいう。部屋でユキ子をみて。了解。でも何故。心配。部屋では寝息をたてたユキ子。発熱、溶連菌のため。で、何故。すこしの間、ユキ子をみて。了解、で、何をすれば。布団をはいだら、またかぶす。おきたら、すぐ帰るという。午後11時だった。で、どこへと石岡。法仙寺。何故。しってると思った。お百度参り。驚、不知。毎晩夜10時に。何故。百日つづけたら、自分の悪い因縁がはらわれる。それで。今夜は熱でせおってゆけない。毎日、せおって。然り。成程、あの時、法仙寺にむかってた人影。然り、おぶってた。何故いわなかったか。あの後、食事の時、きいた。でもいわなかったと石岡。他言は無用。成程、しかし今夜は。病気、もうしられたと思ったから。もしユキ子がはげしくせきこんだら、この薬。にがくないか。あまい。了解。何度も頭をさげられた。ながいスカート、厚手のストッキング姿で外出。考えた。

*** 6) けなげなユキ子、発砲事件
4歳の子ども、深夜のお百度参り。何故。瘤のようにみえたのがユキ子。おぶってコートをかぶってたのだ。椿の化身でなかった。部屋の電気をけそうか。ユキ子が目をあけた。なきだした。ママとユキ子。石岡。やさしくいったつもり。ママ。なきやむ。ママは。法仙寺、まってられるねと石岡。うん。どこかくるしいか。喉、頭。風邪か。ホーレンキンとユキ子。然り。くるしいようだった。石岡に気をつかって我慢。突然、石のところが、パーンとはじけたとユキ子。何。昨日。うん。何日前でも昨日という。石岡がきく。どこで。お寺。お墓か。うん。墓石のあるところ。うん。ママはどうした。きゃってはしる。鉄砲か。不知。驚。何度もか。うん、昨日だけ。驚。ママをたすけて。どうして。時々、こわいて泣く。今、二子山を呼ぶ。まってられるか。うん。二子山に声をかけた。二子山一茂がでてきた。事情を話して部屋にいく。ユキ子の頭をなぜ。あとを二子山一茂にまかせてでかけた。

** 4) 法仙寺、墓石群、発砲
*** 1) 墓場のミチと対話。お百度参りの由来、睦雄の恨み
夜の霧、龍頭館の裏、井戸、熊笹、法仙寺境内。本堂の角をまがり、墓石群。ユキ子はとミチ。二子山一茂が。ここで。然り。馬鹿な。謝。どうしてと石岡。これまでの不幸。自分の業ですごい怨念。怨念か。然り、鬼の怨念。先祖への怨念が自分に。誰がうらむか。この人たちとこの人たちを殺した人が、と墓石をさしながら。この墓石は何。昭和13年に都井睦雄事件で殺された人たち。睦雄の事件はよくしってるか。然り、両親から。どこで生活。盛岡。しかし両親は事件をよく。祖母が事件直前までこの村に。思いだすと符合することがおおい。自分の業はこの事件だと気がついた。成程。ここにきて、因縁をひきずってる人がおおい。でも自分の方がもっとひどい。だから命懸けでご先祖の身代わりになった人たちをとむらう。ゆるしてもらえれば今の因縁からぬけでる。霊感の先生から。でも今の生活がひどいか。否、それまでが。どんなひどい目に。不答。謝。睦雄の事件をきいて納得。睦雄に祖母が殺害されそうになったのか。然り、誰よりもうらんでた。

*** 2) 逃亡した祖母きみえ、睦雄の子、ミチの実母
祖母世羅きみえは計画を悟った。一週間前、家族と京都に。そのため多数を惨殺。身代わりに。世羅きみえは既婚。子ども多数。年齢。34、5歳。成程。子どもが4人、上3人が男、末っ子が女。その女が。母親のよう。はっきりしないのかと石岡。末っ子は京都から里子。成程、両親はきらってた。母、育ての母が恨み言。睦雄と睦雄に殺された人の怨念で世羅の家はむちゃくちゃ。自分の生みの母がその末っ子か。きけば。不可、自殺。で、この人の父、祖父が豆相場で破産。この母は借金のかたに売られた。人身売買か。詳細は不明。成程。自分も。祖母も。祖母は睦雄に乱暴されたよう。ずいぶんひどい目にあった。成程。睦雄の人柄は。異常者。成程。因縁、業が祖母、母、娘の三代につづく。だから子どもが心配。成程、で、この墓の人たちは一晩で。然り。どうしてにげなかったか、騒然となったろう。最初は刀でひそかに、次に猟銃。知能犯。自分の祖母を斧。実の祖母。

*** 3) 睦雄に殺された人びと
両親はすでに死亡、祖母の首をきって、次に金井貞子、勝裕、康夫を日本刀で。長男の勝雄は広島の海軍。勝雄は何歳。20歳。貞子は50歳。親子ほどの年齢差、その次は。この墓の吉田かね、修一、芳子、智子。ここから猟銃。ここの女性に乱暴してた。色情狂か。そんなすき放題で何をうらむ。村をハーレムにしたかった。ずいぶん勝手な。次にあの墓の金井高次、智恵子、やす子、犬山丈夫を猟銃で、やすは一命を。よくおぼえてる。墓石に名前、次に犬坊正雄、貞夫、定子、なみ、猟銃で。次に犬坊高一郎、外から狙撃、殺害。犬坊米一、トミ。トミとも関係。希代の殺人鬼。という前に希代の色魔。犬坊千代吉に。犬坊という家がおおいが。然り。犬坊が開拓の村か。千代吉の妻タマ、蚕の仕事でいた金井綾子、丹野未千代、未千代とも。隣りの未千代の家で母、母とも。次に今村修二の家で妻の満、安市、トシ、明を猟銃で。それから龍臥亭へ。当時あったのか。否、祖父、吉蔵、村一番の資産家。村の御意見番、睦雄には煙たい存在。龍臥亭は息子、秀市がつくった。睦雄はこの人からも意見され、うらみをもってた。睦雄は坂をのぼり銃撃、吉蔵は無事、妻は翌日死亡。地獄で睦雄は吉蔵と秀市をうらむ。然り、村人はだから今度の事件と噂と石岡。

*** 4) 睦雄が恨みをのこした人びと
男でこの二人、女では祖母。それで事件は終了か。否、荒坂峠の及川辰男、とよを猟銃で。で、30。否、うたれたのはたしか32。その後は。村をでた。悲惨な思い出の村はでたかった。否、いじめも。何故。不明。及川とよと睦雄は関係があった。然り。不可解、何が不満。不知。たすかった人を村八分というのも不可解と石岡。睦雄の亡霊をみた人がおおい。然り。それが原因と考える人もおおい。然り。あれだけ勝手放題をして死後もうらむのか。然り。不可解。然り、村の人の気持ははかりかねる。死後60年たっても。成程。当時20なら80、本人かも。風をきる音。

*** 5) 発砲、ミチの命がけの決意
墓石のかけらがとぶ。ふせてと石岡。霧の中で相手の所在は不明。また銃声。にげろと石岡。ふるえるミチをうながす。本堂脇の階段から怪人、顔の中央がくらい穴だった。ミチをつれてにげた。ユキ子の顔がうかんだ。住職の家の裏手。しかった。今度で。二度目。顔をみたか。然り。すぐかえろう。然り。二度とやらないで。不答。明日もくるか。然り。ユキ子の面倒はみない。一人で。死んだら。仕方ない。馬鹿な。自分がせおってる業がどれだけふかいか、わかるか。死んでもか。仕方ない。ユキ子に業がひきつがれないため。不可解。うまれてこなければ。よかった。誰かを殺すかも、誰かに殺されるかも。自動車の免許はとらない。飛行機にはのらない。毒物にふれない。死ぬかも、殺すかも。電車のホームの端にゆかない。刃物も。できるだけふれない。こんな人生だったから、ここにいるのも同じ人生。不安の中の人生。自然流産をした。事前に奇形かもといわれ、また罰か、失神した。ユキ子の妊娠でなやんだ。

*** 6) ユキ子への思い
奇形かもしれない。何週間も。それも運命と生む決心をした。生む時、とても痛かった。やっぱりと覚悟した。おかしな子でも殺さないでそだてると誓った。立派な顔の赤ちゃんといわれた時、わあわあ泣いた。もうこれ以上の幸せはほしがらない。これはユキ子のため。了解、もどると石岡。鐘撞き堂をぬけもどった。ユキ子がまってた。二子山一茂がそばで居眠りしてた。石岡がとにかく明日にといって部屋にもどった。

* 9) 4月10日、守屋、一男の殺害、菊子、エリ子の死体
** 1) 起床、廊下、帰室、昼食、中庭、四分板の間、育子
*** 1) 守屋の死体、犯人の狙い
4月10日、鐘の音。昨夜の冒険で朝食抜き。廊下の音で覚醒。一男、二子山親子と対話。守屋の死体発見。どこで。貝原峠のバス停で。驚。その待合所の中。何故。不知。何時。昨夜の終バス以降。否、その前かも。警察はそれ以降で、始発までの間。というと。7時10分。終バスは。10時5分。死因は。銃殺。ブローニング製でダムダム弾か。不明。前方から心臓。何故、待合所。山越えなのに。警察の考えは。不知。推定時刻、手掛かり。不明。石岡が考える。昨夜の事件と同時間帯。しゃべるか。否。坂出がいう。時刻は不明。だが、おかしな点。失踪時はセーター。ところが死体に柄物のワイシャツ、ズボン。セーターも肌シャツもぬがされてる。しかもワイシャツのボタンがはまってない。肌がみえる姿。何の意味と石岡。不知。犯人は最初、若い女性、次に菊子、年寄だが女性。留金、これは自殺、しかし龍臥亭事件以前、だから凶行の対象は女性。ところが男性。男女ともか、と石岡。部屋にもどる。

*** 2) 四分板の間、育子と対話、桐、松、琴、箏
ノートにまとめていたが、御手洗の協力がないので絶望的。昼食後、中庭を散歩。四分板の間に育子。百済琴をみがく。ではもっと琴のこと。石岡がきく。それは。百済琴。箜篌とも。桐の木か。否、百日紅(さるすべり)。桐以外もあるのか。否、特別。あの琴は松。やはり桐。育子がきく。琴に関心。然り。どんなこと。全般。では、楽器の定義からと育子。この箜篌は、弦が23本、おおいのは指でおさえて音程を調節できないから。一本の弦はある音程のみ。本来これだけを琴。通常のものを箏というべき。常用漢字にふくまれず。やむ得ず琴を流用。柱をもちい一本の弦で音程の高低をつくるのが箏。古来から。箏は何本。奧の板の間にうつり、変わり琴をさし、13。でも前の演奏会では17。宮城道雄が創作。成程。ふとい弦で低音。西洋音楽の演奏に必要。

*** 3) 幸子が演奏した変わり琴
幸子がバッハを演奏。13。然り、松でつくった変わり琴。もといた樽元の作。驚、はじめてしった。然り、変わり琴。ここの琴と同じく糸締めがここに。成程。一本の丸太から削りだし。それでよくなるか。共鳴箱がいる。たしかに、でもあれはよくなった。樽元はよくなる木材をみつける名人。琴にてきした材木は重いもの、桐も育ちのおそい、重いものを。成程。樽元は仙人山育ち、樹木を知悉、よい松を選定。でもそれは道楽、本来は桐。売ってた。然り、評判。距離がちかづきすぎたので石岡がたちあがる。

*** 4) 守屋、藤原のこと、家族の分裂
守屋の死体が発見と育子。然り。ひどい。然り、藤原は大丈夫か。無事だとよい。旅館を売るつもり。然り、ここにはいられない。どこへ。未定。出雲か。主人は。同行は。否。成程。生まれ育った地、売却したくない。事件が解決すれば不要では。疑問、でも内容によれば。外から里美の声。外にでた。田中から電話があった。龍尾館に。

** 2) 茶の間、田中に電話、御手洗に電報、渡り廊下
*** 1) 菊子の死体、御手洗に期待
龍尾館茶の間から田中に電話。菊子の死体、貝原峠の山中、バス停の近く。おそらくバス停に守屋を遺棄。そのついで。死体、特徴は。ありだが、御手洗の返事は。ありだが。どんな。興味深い内容、だが多忙につき、しばらく頑張れと。来日は。然り、とはいえ多忙、手紙、電報かも。手段を指示すると。然り、流動的だが。成程、状況はひどいと田中。分裂症の狂人の仕業。上司も御手洗の出馬要請でしょう。地獄の混乱。で、状況は。御手洗が了解した。として。

*** 2) 異様な死体
秘密の話し。嘘をついた。了承、意見を手紙でしらせる。了解、警察のだらしない内情を暴露。それなら勝算がなければ。然り。午後2時40分に菊子の死体が発見。異様。どう。白い和服だが、その下に守屋の肌シャツ、パンツ、懐に新聞紙の包み、その中は守屋の男性器。驚。では守屋の死体から。切断。裸の体にズボンと柄物のワイシャツ。守屋も菊子の額にも「7」。男性器をつつんんだ新聞紙の内側には鳥の絵。鳥の絵か。然り、二本足、横向き。何か質問。守屋の銃殺、ダムダム弾か。否、1930年代のブローニングだが。硝煙反応は。あり。菊子の死体の焼却に異存。何。つまり御手洗に異議。了解、特段の指示無し。守屋は。まだ調査。死亡推定時刻は。死後2日。石岡がそれは失踪直後と考える。龍臥亭の住人は。どういう意味。アリバイは。就寝中。確定は不可能。これは外部の犯行。成程と石岡。御手洗の助言を期待するといって電話をきった。

*** 3) 御手洗に電報、ミチの御百度決行
おいつめられた石岡がKDDに方法をきき、ヒントだけでもと御手洗に国際電報。渡り廊下でミチ母子にあう。石岡がきく。ゆくか。ユキ子の面倒を誰が。石岡がことわる。誰もいない。どうする。おぶってゆく。危険、ユキ子にあたるかも。ミチがたすかりユキ子が死ぬかも。だったら自分も生きてない。ユキ子が成長して祖母、母、自分と同じになったら、死ぬも同然。本当に効果が、誰が保証するのか。信頼する人、でも自分できめた。もうすこし早い時間は。それなら里美にたのめる。10時ときめた。誰が。自分。喉はなおったか。ほぼ。みんなにも言ってとめる。やめて。竜の彫像のそばの里美に声をかけた。

*** 4) 里美、看護の依頼
さびしそう。然り、やはり生まれ育った地。売るか。然り。お願いがある。何。今夜10時にむかで足の間にきて30分から1時間ユキ子の面倒をみて。どうして。ミチが法仙寺にゆく。危険、睦雄の幽霊が銃撃。願かけ。然り。われわれが防護。鉄砲相手にどうする。ほっておけないから。否、おおくの他人を危険にまきこむこと、拒否。

** 3) 夕食、坂出の部屋、廊下、墓地、エリ子、一男の死体。
*** 1) 坂出、二子山にも依頼
粗末な夕食後、ミチの法仙寺行がせまる。石岡が坂出にうちあける。とめるべき。とめたがきかぬ。百日。なら、たぶんあと10日。どう護衛。負傷なら救護、できること。然り。二子山一茂にユキ子をたのみ、二人でゆく。了解。里美が廊下に。

*** 2) 里美の看護、ミチの追尾
ねむってるユキ子をたのむ。 ミチが出発。石岡、坂出、二子山がおう。龍頭館の裏、竹薮。ここをのぼるかと二子山一茂。然り、危険、低姿勢。どこで亡霊をみたかと坂出。一度は小屋の奧の焼き場、もう一度は法仙寺本堂前の石段で。いやだな、石岡をたよると二子山一茂。驚、たよられる。境内に到着。ずいぶん近道。さすが推理作家、調査済み。霧のない夜。ミチの姿。本堂正面の階段か墓地へ。椿の姿がある。ミチをみまもりながら目的場所、犠牲者の墓石群に。墓地にせまる山の斜面。

*** 3) 異物の発見、エリ子、一男の死体
あれは何と二子山一茂。何。狙撃手か、警戒。然り。ミチはおがみおわり、帰路に。石岡がまってと声。変なもの、確認。しばらくかくれて。三人で相談。三方からせまれと坂出。白いものは白衣の人物。坂出が声、死体。成程。女、若い娘。棺の中にあったエリ子の衣裳。もう一体と坂出。声、しっかりしろ。石岡が四つんばいですすむ。一冊の本をみつける。誰か。一男。

* 10) 4月11日、評人の教示、犯人への罠、4月12日、評人を再訪
** 1) 朝、門横の車、自室、葦川散策、里美
*** 1) 現場検証の結果
その夜は狙撃、亡霊無し。ミチをふくむ一行はいそいでもどった。刑事たちはすぐ法仙寺にむかったらしい。

翌11日、鐘の音で覚醒。中庭で刑事ほかにあった。田中に身元をきく。エリ子と一男。何故、わざわざ寺まで。両者ともか。一男の犯行現場はそこか。ほぼ、鐘撞き堂のちかくのよう。犯人への手がかりは。明確なものは無し。他に。エリ子の場合、衣服は納棺時のまま乱れ無し、ただ和服の上から布紐。しばる。どこを。臑(すね)。理由は。あとで考察。手の方は。自由。一男の場合、猟銃による銃殺、心臓一発。硝煙反応、銃口をおしあてた。前方から。然り、ダムダム弾でない。ほかに。額に「7」。ほかに。賛美歌の本。石岡が昨夜さわったもの。ほかに北原白秋詩集。驚。お手上げ、無能を自認。二冊の資料の目次、冒頭部分の複製をみたいか。然り。龍臥亭の門のところの車。田中から資料をうけとった。この事件について考える。

*** 2) 詩集、賛美歌
二冊の本は清浄のイメージ、幸子、守屋には淫靡な加虐性。真逆のイメージ。何故か。同じ犯人か。火葬場から死体を窃取、淫靡な仕打ち。なのに詩集、賛美歌、どんな意味。詩集の中には死体遺棄の状況になじむものも。しかし賛美歌にどんな関係が。二人の死体をならべて遺棄。その関係は。部屋にもどり、事件を俯瞰。一連の事件の経過、つまり殺人と死体遺棄、発見者側からみた現場の状況を箇条書きする作表を考えた。

*** 3) 一連の事件箇条書き
1) 3月7日、推玉、橘暗渠、以下略
2) 3月30日、幸子、龍尾館3階、以下略
3月31日、同上、盗難、以下略
4月1日、同上、寺鶏小屋、以下略
同日、同上、葦川、以下略
3) 3月31日、晴美、むかで足の間、以下略
同日、同上、盗難、以下略
4) 4月3日、エリ子、むかで足の間、以下略
4月10日、同上、寺墓地脇、以下略
5) 4月3日、菊子、四分板の間、以下略
4月10日、同上、 貝原峠、以下略
6) 4月4日、留金、仙人山山中、以下略
7) 4月10日、守屋、貝原バス停、以下略
8) 4月10日、一男、寺裏墓地、以下略

*** 4) 犠牲者の数、「7」
犠牲者は8人、「7」の意味。7人か。留金の額にも「7」、犯人の犯行にかかわる。のこる当事者はすくない。逗留客なら、坂出、二子山増夫、二子山一茂、ミチ、ユキ子、石岡和己。龍臥亭の主一家は、育子、里美、行秀、義母お松。藤原。生存を目撃、重要容疑者、警察は気づいてるか。育子と藤原の共謀は。数々の疑念。

*** 5) 硝煙反応
硝煙反応は、推玉が不明、幸子、晴美、エリ子が無し。菊子、守屋、一男にあり。無しは遠距離、ありは至近距離。時期的に早い3人は無し、それ以降の3人が至近距離。両3人グループをわけるのは午後6時の鐘の音。この点から推玉は遠距離のよう。この明瞭な区分は何によるか。この区分を藤原と関連づけようとすると、エリ子、菊子の死亡前に失踪。無関係か。藤原を容疑濃厚とした。しかし幸子、晴美、エリ子の殺害方法の不可解さはただちには解消しない。とりあえずこの項目はおわり。弾のこと。

*** 6) ダムダム弾と非ダムダム弾
ダムダム弾と非ダムダム弾。推玉、幸子、晴美、エリ子がダムダム弾、菊子、守屋、一男は非ダムダム弾。この区別は4月3日午後六時の鐘の音でわかれる。ダムダム弾あるいは非ダムダム弾ともに1930年代のブローニング社製の弾丸。旋条痕から同一銃か否か。まだ不明。

*** 7) 「7」の意図
「7」についてである。全員にのこってる。例外がない。しかしたいてい再遺棄された時にあらわれる。この点の法則性。再遺棄。「7」。たとえば幸子、密室内で射殺。額になし。窃取、発見で「7」。晴美、エリ子も同じ。菊子も同じ。菊子は至近距離。犯人が額に「7」が可能。何故無し。わざわざ窃取。「7」、再遺棄。で、考え方。至近距離は「7」。遠距離は窃取。「7」、再遺棄。菊子の例外は何故か。そろそろ頭痛。御手洗のようにできない。挫折感。疑問点だ。

*** 8) さまざまな疑問、鳥の絵、黒い歯、筏、散歩
晴美の死体は行方不明。どこに。鳥の絵。ささいかも。しかし気になる。とんでるところでない。横向き、下手な絵。筏も下手。最初は推玉のバラバラ死体。二回目は守屋の男性器。これは菊子の懐中。異端の宗教の儀式か。推玉の黒い歯も。幸子の筏の生首も。この死体からの女性的部分の削除。守屋の男性器切断、エリ子のかたわらの賛美歌と詩集。支離滅裂。鳩の絵も、推玉、守屋にあって、幸子の頭部に無し。葦川の岸辺に腰掛け、また考える。

*** 9) 一貫性の欠如、気まぐれ、清浄な心中事件、淫靡な狼藉
一貫性のなさ。鳥の絵のほか、たとえば歯。推玉の黒い歯。しかし幸子に無し。死体にさんざんの残虐行為にもかかわらず。「7」は全員、黒い歯は一人。

ここできりあげて、エリ子と一男のこと。臑の部分を布紐、賛美歌、詩集。これは古来よりの心中死体の状況。死にさいして裾のみだれをおそれる女性の心理。詩集、賛美歌もこれになじむ。しかし二人は心中ではない。心中死体になぞらえようとした。これは理解できる。ならば何故。不可解。では別のテーマ。淫靡な狼藉。都井睦雄伝説。この睦雄に天誅をくわえる意味。男性器の切断。この原則なら他の男性犠牲者は。無し。声。里美がやってきた。

*** 10) 里美の発言、阿部定事件
平太は元気。然り、2、3年の命といわれた。父親の方が先。法仙寺境内か龍尾館裏の小屋とか、では何故と石岡。不知。寝室は別だね。然り。ではでてゆくところは、しらない。然り。おびきだされたか、母親はしってる。不明、最近は寝室別。最後に父親をみたのは。食事後、部屋にもどる時、午後9時。一男の就寝時間は。不定。一男をすくえなかったと謝罪。否、祟り。何を。事件のこと、守屋のこと。死体に犯人がしたことをしってるか。然り。ひどいね。まるで阿部定みたい。え、天啓がはしった。里美にきく。高校の図書室にはいれないか。可能。二人で高校に。

** 2) 高校図書室、事件年表、郷土史家
*** 1) 阿部定の資料
図書室の顧問の教師に事情を話す。何をみたいか。阿部定事件。どうして。岡山県警の依頼。手わたされた資料をよむ。昭和11年の新聞記事。5月18日、東京荒川区尾久町1881の待合「まさき」の一室で、50歳ぐらいの遊び人風の男性の死体が発見。この男性は1週間ほど前から31、2歳くらいの玄人風の美人と長期逗留、18日朝、女が外出、女中が部屋をしらべると死体が。首に細紐、男性器が切断。敷布団のシートに鮮血で定吉二人きりとかいてあった。男の左大腿部に定吉二人と刃物できざまれてた。

被害者が中野区新井538、料理店「吉田屋」店主、石田吉蔵40歳。女はもと女中埼玉県入間郡坂戸町、田中かよこと阿部定31歳と判明。阿部定は3日後、品川区の旅館で逮捕。取り調べの結果、阿部定は情交中に首をしめて、やりすぎて絞殺。所持してた風呂敷包みから包丁、石田のメリヤスシャツ、メリヤス猿叉、男性器がつつまれたハトロン紙の紙包み。待合をでる際、女中にふれられたくない。男性器を切断、懐中にしのばせ逃亡。また彼の肌を身近にかんじたい。メリヤスシャツ、猿叉を。

*** 2) 守屋、菊子事件の関連性、犯人、藤原か行秀
守屋と菊子の不可解さ。解消。菊子が守屋の下着、男性器を懐中。包装紙はハトロン紙。これは鳩、鳥の絵。犯人は阿部定をなぞった。馬鹿馬鹿しい。まるで幼稚園児、知恵遅れの人。でも不可解さ。説明。守屋、吉蔵。菊子、阿部定か。で、考える。銃無し。でも待合はバス停の待合室。決定的。しかし、待合、ハトロン紙が理解できず。知恵遅れ。子どもか、否。では藤原は。知恵遅れでない。行秀か。犯人は昭和11年の事件の資料をよんでる。なら一応知識人。また頭痛。

*** 3) 御手洗の方法を再考
御手洗が手紙で特定の人をねらってるという。事件はまだ謎。まだ犠牲者。一連の犯罪にテキスト有り。なら発見。次の犠牲者をふせげ。里美もミチもユキ子もかなしませたくない。事件の解決か。御手洗は。ふせげるなら何でもする。死んでもよいか。御手洗ならどうする。かっての「眩暈」でやった。事件年表だ。

*** 4) 事件年表の調査、昭和10年から13年の巻
書棚に講談社発行の「昭和二万日の全記録」をみつけた。昭和10年から13年の巻をだした。昭和11年の項に阿部定。この巻に期待したのは。貝繁村の事件。桜の頃。なら4月。なかった。もう一度、昭和11年。今度は猟奇事件。阿部定のほかは無し。間違い。否。時期に問題。なら、時期は。どうしぼる。頭をつかっても無理。足をつかう。で本棚にゆく。

*** 5) 昭和7から9年の巻、地元郷土史家の紹介
本の背文字に「昭和7年〜昭和9年」。昭和7年の項をみる。3月7日の項、東京府下寺島町の泥溝で中年男性の手足のないバラバラ死体を発見。玉の井バラバラ事件。これで7年はおわり。で、百科事典を。昭和7年、東京府下寺島町の通称「おはぐろどぶ」からハトロン紙につつんだ男性の首、胸、下腹部が発見とある。おはぐろどぶと推玉の黒い歯。あった。さらに。犯人は長谷川三兄妹、被害者は浮浪者、財産家といつわりちかづき、嘘がばれて暴力、ついに殺害。おはぐろどぶとハトロン紙。テキスト。額の「7」は昭和7年。でも図書室の調査はもう限界。顧問教師に返却しにいった。お茶をだされ話しをした。地元の郷土史家を紹介してもらった。

** 3) 上山評人宅、犯行のテキスト、罠
*** 1) 評人を訪問、睦雄事件の確認
すぐ郷土史家、上山評人をたずねた。石岡との対話。評人先生か。然り。高校の教師に紹介された。教示いただきたい。成程。裏手に案内。どんなことを。思いきってきりだす。昭和13年の都井睦雄事件。しばらく沈黙。横浜からここに。当地は不案内、種々きいた。実話。この事件はしってるか。勿論。図書室の昭和の二万日の全記録の13年4月の項でしらべた。未発見、実はつくり物。本当か。然り。事実。4月でなく5月。成程、しかし夜桜の場面。それは伝説。昭和史に記録。5月にあるはず。全国に周知。成程、現在の事件を知悉か。多少噂を。現在、秘密事項も、口外無用をお願いするが。了解、郷土史家として、今度の平成7年の事件が過去の因縁をひきずってるのが興味ぶかい。驚、「7」は平成7かも。石岡がいう。

*** 2) 類似猟奇事件の事例
不道徳なことをきくが昭和7年に阿部定事件の反対、女性が殺害、その女性の両方の乳房、眼球、頭髪が頭皮ごとはがされ、さらに異常なことだが女性器がきりとられ、たぶん犯人の男性がこれらをみにつけて自殺した事件。実例があるか。一瞬、茫然、7年か、ここの場所か。否、たぶん東京あたり。評人がいう。猟奇事件、あり。たしか名古屋。ファイルをしめす。昭和7年2月。石岡がみる。内容は次のとおり。

2月8日の朝、名古屋市西区の養鶏小屋に首なし娘の死体。両方の乳房、女性器がきりとられ、首とともに行方不明。被害者は東区、青果商の次女、吉田松江19歳。聞きこみから増淵倉吉44歳の情婦となってたことが判明、倉吉を犯人と断定、捜索。死体発見の4日後、木曽川の筏師が浮遊してた人間の首を発見。頭髪は頭皮とともはがされ、耳、上唇、両方の眼球も無し。これが松江の首と判明。その1ケ月後、木曽川くだりのシーズンをむかえた犬山にある掛け茶屋をあけたところ奇怪な姿をした男が首吊り自殺。倉吉が松江の女性的な部分をみにつけ自殺。関係ができたが年齢差のある倉吉を松江が拒否、情痴にくるって犯行。

*** 3) 驚愕の類似事例、名古屋の事件
石岡、驚。玉の井バラバラ殺人事件の模倣は似て非なるものだが、これはそっくり。でも相違点も。松江の首をただ木曽川に、今回は筏。露骨に世間にアピールするためか。否、犯行の隠匿とまったく逆である。名古屋には加害者、被害者には異常な愛憎関係、今回は無し。とりあえず。 両事件の理解が。満足する。玉の井バラバラ殺人事件の資料は。あり。犯人は本郷区新花町の無職、長谷川市太郎31歳、弟の東京帝大土木科写真室雇いの長太郎23歳、銀座裏カフェの女給、妹とみ子30歳。被害者は秋田県出身の千葉龍太郎30歳だった。テキストとなったのは間違いない。ちょっと感想を。

*** 4) 龍臥亭事件犯人のユーモア、見たて殺人、時代錯誤
悲惨な龍臥亭事件の犯人にユーモアがのぞく。幸子の事件のテキスト。筏師。で、筏。これがないと両者の関係があいまい。玉の井バラバラ殺人事件との関連。推玉の黒い歯とおはぐろどぶ。普通の凶悪事件にはないユーモア。これは推理小説でいう「見たて殺人」。犯人には探偵小説の素養。でも平成7年の時代に効果的か。つまりテキストがふるい。事実気づかせようとした刑事たちにとどいてない。でも何故こだわる。意味は。苦労させることが目的か。おかしい。結局矛盾。この犯人には緻密な知性と幼児なみの知性が共存してる。評人がきく。名古屋と玉の井の 両事件が今回の事件に関係があるか。石岡。秘密をあかすこと。躊躇。でも、すべてを話す。

*** 5) 評人による坂田山心中の紹介、性と猟奇事件、この土地の風俗
3年間他言無用と要請。了解。育子の不倫と背中の傷もうちあけた。感にたえない風情。やがていった。まず。坂田山心中。一男とエリ子の死体遺棄ににてる。それは何。神奈川県の大磯の猟奇事件。7年か。然り、集中した。性的なもの。然り、歴史的には江戸からつながり。浮世絵は現在、教科書にも掲載。だが大部分は春画。昭和初期は犯罪も性風俗の影響下。成程。さらに軍国主義。その抑圧への反動かも。龍臥亭の事件。この地方にもあった風俗。やりきれない気持。その時代の亡霊が生き返ったという印象。成程。

*** 6) この心中の猟奇性、性と死の伝統、昭和初期、軍国主義の時代背景
天国にむすぶ恋。昭和7年、神奈川県大磯の心中事件。坂田山という山の頂上の雑木林の中で若い男女が昇汞水をのんで心中。男は慶応大学の制服をきた25、6歳。女は21、2の令嬢風の美人。現場にヘリオトロープの花と白秋の詩集、賛美歌集。女性は処女。男は慶応大学3年調所五郎、女は静岡県の裕福な家庭の湯山八重子。どこが猟奇事件か。身元不明のため地元の法善寺に仮埋葬。翌朝、墓がほりかえされてた。中の遺体がなくなった。周囲に女の衣類が散乱。転々として海につづいてた。海岸の船小屋の砂の中から女の全裸死体。これは墓掘り人夫の犯行、のちに逮捕。本当に7年か。然り、2月8日名古屋、3月4日玉の井、5月9日坂田山。成程。きな臭い時代、上意下達の締めつけ。それから昭和11年の阿部定。然り、2・26事件の直後。この時代の抑圧から種つけ願望のあらわれかも。成程。吉原のちかくに小塚原の刑場、岡場所に無縁仏の投げ込み寺。性と死は隣りあわせ。男女の情死がすきな国民。成程、戦前の日本には性的な匂がつよい。然り、貝繁の都井の事件も。

*** 7) 埋葬のエリ子、掘りだしの罠
でも睦雄の傍若無人は、といおうとして、エリ子の遺体遺棄が湯山八重子のテキスト。額の「7」も昭和7年。これはさらに平成7年にもかかる。すると現状は。テキストにしたがえば。埋葬、発掘と展開。しかもまだ犯人は不知。石岡が気づいたことは不知。犯人に罠。怪訝な風の評人を無視し興奮の極地となった。

** 4) 夕食、車中対話、仮埋葬を提案
*** 1) 昭和の類似事件の説明、時代錯誤、ハトロン紙の誤解
龍臥亭で質素な夕食。すぐ田中に電話。午後9時、門にやってきた車中で対話。何かと田中。推玉は昭和7年の玉の井、それと気づかせるため黒い歯、幸子は同年の名古屋事件、これもそれを気づかせるため生首の筏。さらにエリ子、一男は同年、坂田山。賛美歌集でそれと気づかせようと。さらに「7」もそう。成程、驚いたと田中。今回の事件は昭和7年と11年をまねたということか。然り。でも釈然としない。昭和7年の事件が今の人たちにとどくか。然り、警察がわからなかったのも当然。だから犯人はずれてる。成程。龍臥亭事件が戦前におきたならわかる。当時の人はすぐ昭和7年も11年もきづく。

*** 2) 立案者と実施者、計画書の実在、作成時期、昭和11年から13年
然り、この計画を立案した者にとって「鳩の絵」でない。ハトロン紙。何故これがおきたか。それは計画の立案者と実行者がちがうから。実行者がテキストをみた。ハトロン紙。わからない。それは50年もたっているから。で、何時、立案。阿部定事件からさほど昔でない。この不可解さが解消。推玉と守屋には鳩の絵。幸子は無し。一貫性のなさ。たんに計画書になかったから。幸子の生首は新聞紙でつつんだのは実行者の一存。松江の首はむきだしだった。テキストの記述もむきだしの指定かも。石岡の説明を理解しかねた田中。計画書が実在。成程。ではいつ計画。戦争がはじまる昭和16年より前。で、昭和11年以降。13年。驚。睦雄の事件の年。これは連続殺人の計画書。

*** 3) 二人でミチを追尾、さらなる推理
お百度参りの時刻となった。田中に話し護衛をたのんだ。同行。鉄砲は。不所持、危険か。実例あり。不審、確実に命中できる。おどしでは。でも完全にねらってた。不審、彼女をとめられなかったか。不可。小柄の彼女の姿は命懸けのひたむきな姿。事件解決のプレッシャーをかんじた。犯人は何のためにやるのか。11年から16年の期間に一連の犯罪の実行を要求する犯罪計画書がかかれ、それを平成7年の現在、誰が入手、計画を実行して何のメリット。平成7年に現に実行してる犯人にとっては。然り。石岡は田中に反論。計画書が実在してた。ならば推玉、幸子、晴美は存在してない。成程。計画立案者は同時代の誰かを想定し てた。然り。ではどんな結論が。むづかしい。自分はまったく不得意と田中。

*** 4) 立案者、睦雄か。睦雄像の調査、計画書の現存
立案者はこの村の住人。被害者も村の住人。成程。昭和11年5月は今から59年前、当時20歳の標的なら79歳、現存、当時30歳なら89歳、これも現存の可能性。この計画書を入手した犯人は当人が現存してたら本人をねらう。然り。今回の犠牲者は睦雄事件と無関係。然り。では計画書のターゲットはすべて死亡なら。病気、老衰か。否、睦雄によって。ならば、この計画書は13年5月以前に作成。犠牲者もすべてかさなってた。じゃあ、30人。そこまでは、しかももうすこし巧妙に計画。では立案者は睦雄。でも希代の乱暴者、色魔では。それはどうか。再調査が、どんな。人柄、たとえば手記、もしかしたら計画書。

*** 5) 睦雄に関係する人物、ミチの祖母、実行者、菊子
睦雄がうちそんじた者、犬坊吉蔵、秀市。両者死亡。然り、でもミチの祖母は再確認が必要。すると睦雄は。然り、この仮説がただしいとして、あの淫靡な行為をおこなう計画書をかいた。しかし実際は実行してない。然り、計画を放棄し大量殺人に変更。成程。ミチがかえりはじめる。睦雄は計画を実行しようとしてたのかと田中。不明と率直な石岡。では最初の疑問にもどると田中。かりにこの計画を実行しようとする馬鹿者がいた。この行為は睦雄のためにならない。然り。では何のため。ミチをおいながら考える。まだわからない。エリ子、晴美、推玉、守屋は無関係、でも菊子は。70歳をこえる。睦雄と関係があるかも。菊子のこと、睦雄との関係はと石岡。未完、早急に。でもよそ者にはむづかしい。一点大事なことと石岡がのべる。

*** 6) エリ子仮埋葬の罠
エリ子を仮埋葬にしたら犯人は掘り出しにくる。この可能性は。成程。村中に法仙寺に仮埋葬と宣伝。考えこむ田中。

** 5) 朝食、中庭、ミチとの対話、仮埋葬
*** 1) ミチの実母の出生
4月12日、朝食後、ミチをさそって中庭。村のみんながいう因縁が。わかった。どんな。それはのちほど。石岡がきく。ミチの祖母。世羅きみえ。睦雄にうらまれてた。その事情は。おおく不明。世羅きみえ、当時35歳。祖父は農業、子どもは4人、3人は男、13歳、9歳、6歳、一番下が女、マイ子。事件当時は誕生日前。すると。昭和12年(1937)の暮れ誕生。この一番下。ミチの母。ミチの年齢は。昭和27年(1952あ)生まれ。すると母が15歳の時に誕生か。おかしくない。然り。当時自分は気がつかなかった。それを父は自分にかくさなかった。家には別の母。この人とは年齢が整合。ある人が指摘。整合しない。この母という人の生地に。その生涯は。特殊。どう。昭和13年に貝繁の村をすてて、京都の北、宮津に。世羅保、祖父が親戚の畳屋に。職人見習い。うまくゆかず魚屋、漁師の船に。あるいは飲み屋。祖母も子ども4人の面倒。小豆相場に。で、膨大な借金。

*** 2) 実母、睦雄の子、ミチ、ユリ子も血筋
末っ子、生みの母といわれる人が養女。借金が棒引き。では、人身売買。いろいろ。この人は一家の中で冷遇。祖父は里子にだしたがった。祖父は酒をのんであれた。祖母は何もいわなかった。で、想像した。祖父の実子か。ない。祖母もみとめてた。誰の子。睦雄。つまりミチには睦雄の血。然り。当然、ユキ子にもと石岡が考える。だから自分の業は睦雄の血のせい。成程。生みの母という人は15歳で。しらべたら中学3年の夏休みにうんだ。2年生の一学期は休みがち、卒業式には欠席。病欠。ということは妊娠中。自分の出生届は父の戸籍、それから盛岡に移住。育ての母と一家をかまえる。生みの母という人も同行。しかし居候のような存在。つまり妻妾同居。然り、父は高利貸だったらしい。

ミチが一男とエリ子の仮埋葬を。本当に。棚藤が工事中とか。誰が。育子がいった。成程と石岡。

** 6) 評人宅、睦雄像
*** 1) 睦雄のこと、伝説の怪人
評人を再訪。ききづらいと石岡。睦雄のこと。いいづらいか。否。でも自分以外のおおくがタブーとしてる。でも周知の事件では。然り、然れど。ではいえることだけ。伝説というが実事件か。然り。睦雄は凶悪、凶暴、色魔か。やや無言。道にであって家につれこみ暴行、家は庄屋、中に座敷牢など事実か。否、わらって否定。腕力がつよい怪物、あばれだしたら警察も手出しできず。否、わらって否定。それは小説の話し。30人殺害は。事実。凶暴でないか。一応。被害者の中には睦雄に乱暴された女性も。事実。では不可解なのは、それだけ勝手放題で何を逆恨み。不答。2人うちそんじ。事実。相談役という。人格者。一応。勝手放題で逆恨みの怪物か。

*** 2) 睦雄の実像、龍臥亭事件の解決
そうなら、怪物。事実でないか。然り、睦雄だけが狂人。世間がいう。しばらく沈黙。龍臥亭の事件の解決に睦雄が必要か。然り、みんなが睦雄の事件の因縁をいう。ではきく。事件の背景、村の事情などをしりたいのか。然り、必要。石岡が犯罪計画書の存在、作成時期の推測、それは昭和13年。作成者が睦雄自身。すべてを話した。評人の表情がかわった。成程、睦雄か、あり得る。

*** 3) 事件の真相、土地の淫風、育子のふしだら
一般的にもいえるが、あの事件を睦雄一人のせいにするのは酷。成程。淫風という言葉は。不知。この村の陰口。どういう意味。みだらということ。育子の不倫をはなした。それのことと評人。貝繁の村の最大の恥部。育子のこともきいてるが何か釈然としない。さらに評人。淫風は今はまったくすたれた風習。今の若い人には無縁。たちいりたくない。誤解もよぶ。自分はわりきってた。睦雄怪物説、それもよい。でも龍臥亭の事件がこの村の恥部をひきずってる。なら。白日のもとに。そして事件を解決に。そのとおり、ではケロイドは何か。折檻。どういうこと。琴の工場がある。桐の木の表面を焼き鏝でやく。これで折檻。その理由は。あまり男出入りがはげしい。村中の噂。驚。精神の病。淫風の村への先祖返り。と思う。

*** 4) 夜這いの風習、暗黙の了解
かっては夫婦者の男が夜這い、それを夫婦者の女がまってた。驚。道で気にいった女がいたら家につれこむ。否、嘘。若い男女は道をならんであるくのを禁止、映画館にいくのも禁止。恋愛禁止。恋愛結婚は法度。夜這いはこの反動とも。暗黙の了解か。では夜這いをかけられた妻の夫は文句をいうなと。否、自分は無縁にすごした。互いに了解、高度な政治的判断。どうして。山間の集落、閉鎖的人情。娯楽のすくなさ。男同士の酒飲み話しから発展かな。では妊娠も。あり得る、だから間引きをうたった手毬唄。成程。民俗学的に貴重だとか。間引きも横行か。昔は。家の口べらしではと石岡。否、それだけでない。他人の子と自覚された時。夜這いは女性には迷惑。わらって評人がいう。

*** 5) 女性からのアプローチ、夜這いでうまれた子
女性の方からのアプローチも。江戸時代から日常的。黄表紙に夫婦交換が。いわゆる浮世絵も大半は春画。日本は道徳規制はきびしい方と石岡。然り。しかし裏腹の問題。表の規制がつよすぎる。裏での解放が沸騰。村の者は口をつぐんで睦雄一人のせいにした。怪物となった。成程。龍臥亭事件の動機は、誤解からかもと評人。誤解とは。常人でない怪物ならばこその事件。ならその血筋はたちきる。一段落。石岡が沈思。ミチとユキ子のことがうかんだ。事件の核心にふれた気がした。ミチの生みの母という人は夜這いによりうまれた。世羅きみえと睦雄の子。ではこの母子をほろぼしたいと思うものがいるのではと思った。

* 11) 實録都井睦雄、生い立ち
** 1) 祖母と3人の生活
*** 1) 誕生、両親の早逝、睦雄、姉、祖母の生活
都井睦雄の実像をたどる。大正6年(1917)3月5日、岡山県苫田郡貝繁村(仮名)大字倉見に誕生。父、振一朗は明治13年(1880)2月16日生れ。農業、炭焼き。酒豪。大正2年(1913)、小田君代と結婚。当時、父は死亡、母いねは存命。君代は明治25年(1892)8月24日生れ。農地、一町三反、三反の山林の中流農家。大正3年(1914)8月14日にみさ子、同6年(1917)に睦雄。大正7年(1918)に父が肺結核で死亡。睦をは相続、母が後見人。この年、大正の米騒動が勃発。村にもおよんだが平和的なものだった。大正8年(1919)に母が死亡。死因はおそらく肺結核。睦雄の後見人は祖母。肺結核を睦雄が極度におそれる由縁。土地の者が肺結核の家を忌避する気風があった。3人のまずしい生活がはじまった。

*** 2) 祖母の地に引越し
米の暴騰がつづいたので小学校長たちが報酬の十割増の陳情書。いねを失望、学校嫌いの遠因。大正9年(1920)、貝繁村大字小中原塔中にひっこ。大正11年(1922)、ふたたび西貝繁村大字行重字貝尾にひっこし。いね出身地だった。500円という金額を倉見の山林を売却してつくった。永住するつもりだった。この家には因縁があった。睦雄事件で殺害をまぬがれた犬坊ヤエの話しである。

*** 3) 睦雄事件に類似する事件
睦雄事件より63年前、犬坊ヤエが居住してた。その当時の夫、犬坊忠次郎は同村の楢井の藤木徳蔵の妻と密通し、現場を徳蔵にとがめられた。いったんもどった忠次郎は日本刀をもって、きりこんだ。密通相手のたえを殺害、無理心中をはかろうとした。しかし失敗し徳蔵をきりつけ自分は割腹自殺した。忠次郎は22歳、事件当時の睦雄と同年齢だった。

** 2) 小学校時代
*** 1) 姉とあそぶ睦雄
姉のみさ子が小学校にあがる。大正12年(1923)、7歳の睦雄は小学校にあがった。内気だったので、村の子どもの集団にもまじらず、学校にも恐怖をかんじてた。早生まれであった。いねはもう一年家におきたがった。いねの拒否で就学延期がみとめられた。下校する姉をまって遊んだ。周囲の悪童はそれをからかった。

*** 2) 1年遅れの就学、優秀な学業、溺愛する祖母
大正13年(1924)、睦雄は入学した。自分とおなじような子どもがいるのをしり安心したらしい、普通に通学するようになった。学校の成績である。満点で10。修身が9、国語9、算数が10、図画8、唱歌8、体操8、操行中と非常に優秀だった。風邪をひきやすく72日欠席。しかしいねがささいな理由でやすませることもおおかったらしい。二年に進級、欠席減少、友だちに家にあそびにゆくようにもなった。そこでちょっとしたけがを。もどってきた睦雄をみていねが相手の家にどなりこんでおどろかれた。

** 3) 小説家の夢、挫折
*** 1) 級長になった睦雄、よろこぶ祖母
三年に進級して級長になった。任命状をいねにみせた。おおよろこびでいねば近所にみせてまわった。

*** 2) 警官を殺害、鬼熊事件、読書の楽しみ
大正15年(1926)、鬼熊事件がおきた。千葉県香取郡で荷馬車ひきの岩渕熊次郎35歳は妻子があったがおけいという水商売の女を愛人としてた。他の男に心をうつしたのにいかり、薪で撲殺し、その男の家に放火して山中ににげた。逃亡中に警官2名を殺害した。民衆の警察への反感を背景に、新聞に掲載されたインタビュー記事などで一躍有名人となった。49日間の逃亡生活ののち自殺。この事件は映画にもなった。睦雄事件後の姉みさ子の発言である。鬼熊の妻子がなしんでる写真をみていねにたずねた。説明をして「おとうがおらんでかわいそうじゃのう」というと、睦雄が「おかあがおるけぇ、わしよりええの」とこたえたという。その頃から雑誌「少年倶楽部」を愛読しだした。何より本をあいした。新刊の少年倶楽部をすぐよみおえ、姉の少女倶楽部までてをだした。

*** 3) はじめての恋文、優秀な学業
昭和2年(1927)、級長の任をとかれた。学業は優秀、動作は正確、だが機敏ならずと評されてる。頭痛持ち、校医の精密検査をうけたが何ら異常はなかった。尋常科をおえ高等科に進級した。学業は優秀、病気欠席もほとんどなくなった。級長をつとめた。ここでちょとした恋愛事件をおこした。恋文と精密な鉛筆画「孝子さんの肖像」をわたした。昭和6年(1931)、高等科の2年生、成績は、読方、歴史、地理、理科、農業が10、修身、綴り方、書方、図画、手工が9、算数、唱歌、体操が8だった。

*** 4) 評判の自作小説への波紋
夏休みがおわって親友の牧村康治にある原稿をみせた。「ユーモア探偵」と題する。私立探偵に金持ちが誘拐された娘を救出してほしいと依頼された。ドタバタ活劇がづづられ最後は「続く」とあった。面白いと牧村。クラスに回覧された。好評だった。清原武とい級友が「小学教師のなやみ」と題する原稿をみせた。牧村は本当に清原がかいたかきいた。うんという。睦雄より文学的。しかし自分でなく兄。でも睦雄は衝撃。しかしそれは石川啄木の「雲は天才である」を複写したものだった。事情はクラスで評判になったことを帰京の兄にはなしたら、複写をすすめた。睦雄は自分にたいする反発を感じた。

** 4) 祖母、姉の反対、中学校進学の断念
ある日、いねに中学校にいきたいといった。衝撃をうけたらしい。姉みさ子もはいってきた。岡山に下宿する。一人暮らしができるか。いねを一人ぼっちにさせる。金がない。担任に祖母の面倒をみるので進学できないとつげた。この年(1931)の9月18日、満州事変あ勃発した。

** 5) 地元の青年学校、飲酒
*** 1) 肋膜で療養、昭和7年の猟奇事件への関心
昭和7年(1932)、進学断念の影響が睦雄の性格に一種すねた風をもたらした。俗世間の風、この地方の淫風にながされるようになった。高等小学校業後、高熱をだし肋膜炎と診断、3カ月の静養を余儀なくされた。肋膜は結核性の病気である。はげしい衝撃をうけた。祖母、姉との会話がへって部屋にとじこもることもふえた。みさ子が部屋にはいって新聞切り抜きを発見した。昭和7年2月8日、名古屋の養鶏小屋で女性の首なし死体が発見された。もう一つは玉の井バラバラ殺人事件の経緯をほうじたものだった。もう一枚は神奈川県大磯町坂田山の心中事件だった。睦雄にただしたが要領をえなかった。それらをすてた。顔色がよくなった頃、医者にみせたら完治したといわれた。村にある補習学校にかようこととなった。

*** 2) 青年会、飲酒の悪弊、夜這いの自慢話し
これから青年会の集まりに参加し酒をのむようになった。酒席では自分らの夜這いの成果を吹聴する場でもあった。みさ子は睦雄のノートに間引きをとりあげた子守唄がしるされてるのを発見した。各地で歌いつがれていたものだが昭和の時代までのこってるのはめづらしいという。事件発生後、村の男女関係 の退廃の記事が頻出した。しかし津山署長から岡山県警察部長あての文書でつよく否定している。その根拠が恋愛結婚がわずかに一件。だから退廃はないという主張だった。また表では男女が立ち話をするのも厳禁という。要するに事実の直視をさけ、かえって不道徳な慣行を潜行、刺激してることを無視していた。

** 6) 悪友との交流、姉の結婚
*** 1) 悪友、内山との交流、秘密写真の購入
昭和8年(1933)、三原山の噴火口に自殺者があいついだ。睦雄は同郷、貝繁五郷出身の内山寿という小悪党と遭遇してる。昭和16年(1941)に窃盗で浅草署に逮捕され、その供述から判明したことである。睦雄と同じ高等小学校卒業後、川崎の鉄工所に勤務。仕事をやめ、やがて浅草の不良仲間と交流。警察の目をさけ昭和8年(1933)に帰郷。睦雄と映画館の席で隣り合わう。帰りの列車内で再会。会話。まったくはずまない会話に内山が浅草で飯の種にしてた女の裸の写真をみせた。意外にくいつく。家にさそって写真を売りつけた。その後も親交があった。内山は大阪を転々、やがて天六の娼婦街にながれついた。

*** 2) 姉、みさ子の結婚、専門学校資格試験の受験勉強
昭和9年(1934)3月、みさ子の結婚式に列席。また自室にとじこもる。ふたたび作家への道をこころざしたようだ。「雄図海王丸」がひとつだけがのこっている。子どもたちにかたってきかせた。内向的な人柄だったが子どもたちにやさしかった。青年学校の教師である中田昭一が睦雄に話しをきいた。専門学校入学資格検定試験制度を説明した。これは中学卒業と同等のものだった。難関だが一教科ごとに合格、つみあげることができる。2、3年で合格すると漏らした。

** 7) 内山と再会、最初の女性
昭和10年(1935)6月、内山と再会した。今どうしてると睦雄。大阪。何をかった。参考書、専検の問題集。成程、合格後は。先生。女の話しがでた。内山は大阪の女性を紹介するといった。2日後、大阪の天神橋筋の裏町で最初の経験をした。

** 8) 肋膜の再発、専検の断念、小説家の夢
*** 1) 肋膜の再発
昭和10年(1935)、内山が大阪にもどるため貝繁駅にいった。そこで睦雄にあった。顔色があおい。元気か。病気、肋膜が再発。で、診断は。軽症、静養。成程。回復したら大阪にこい。元気がない。睦雄は結核で若死にした両親を思いだし、恐怖してた。

*** 2) 2・26事件、受験断念、「雄図海王丸」、小説家志望
昭和11年(1936)2月26日、青年将校、野中四郎大尉が400名の兵をひきいて永田町を占拠。2・26事件。屋根裏部屋で雄図海王丸の執筆を再開。また子どもたちをあつめ物語も再開。専検の受験をあきらめ小説執筆をはじめた。物語をきいてた子どもから、作中の立花が野中大尉とにてるといった。睦雄は立花は天皇陛下のために世界を相手にたたかってる。野中大尉はその足元にもおよばないといった。5月18日、阿部定事件がおきた。睦雄は猟奇趣味があった。2・26事件には無関心っだったが、これには猛烈な興味をしめした。以下は内山の証言。

*** 3) 阿部定事件
阿部定事件の直後に睦雄と再会。4月8日に姫路、新見間の開通をいわって津山で産業博覧会。会場でであった。女が男をもとめるものとしらなかった。淫売は別。普通の女は。ちがう。それも経験者のほうがよい。睦雄は納得したようだ。

** 9) 地元青年と交流、夜這い自慢、阿部定の記録
16歳で実業学校にゆくようになった。それにつれて青年会の若者と交流する。そこで泥酔するときまって自慢話。とくとくとして夜這いの成果。最初、話しをきくだけの睦雄も女性をしり、自分も参加するようになった。その実情は。例によって内山の証言。昭和12年(1937)1月に睦雄が大阪西成の松寿荘に。内山がきく。成果は。うまくいかん。阿部定の事件調書は。みる。これは予審廷調書を研究者が閲覧。ひそかに民間に流出。本物。いくらと睦雄。たかい、50円。買う。だがこれは売却済み。筆写。する。10円で成立。睦雄は一晩をかけうつした。主要部分のみ。全部は無理だった。

* 12) 實録都井睦雄、惨劇まで
** 1) 最初の夜這い、世羅きみえ
これからは睦雄の性的冒険譚、夜這いの話し。まず世羅きみえ、33歳、青年会の集まりでよくでた。小柄、色白、肉付きよく、人ずきのする顔、すこし知能がおくれたところがあり、ちょっとした物をかすめる盗癖も。村で農業をいとなむ夫、世羅保との間に3人の子どもがいた。世羅きみえは昭和11年(1936)、春に電気代の集金にきた。畳の上によこたわってる睦雄に声。睦雄の結核性肋膜炎のことは村人にはしられてなかった。恋情をうちあけ、50銭をわたした。子どもづれ。でなおすという。心配になったので世羅きみえについていく。納屋で思いをとげた。これで自信をえたのか、人がかわったように娘たちに攻勢をかけた。しかしすべて失敗だった。

その反動から世羅きみえと関係が。それは常に金品のやりとりがからむ。味気なさをかんじた。また行為中、我慢できず、子どもができるとこっぴどくしかられたことも。ほかの女性と関係をもとめる気持がつのり、ついに犯罪行為にちかづく。

** 2) 徴兵検査の不合格、及川とよ
昭和12年(1937)5月。役場の書記兵事係の西川昇に自分は肺病とつげた。兵役適齢届の時に肺病を自己申告する者はまずいない。びっくりした。津山市の津山男子尋常小学校で徴兵検査。丙種合格。衝撃をうけ泣きくずれた。その後、2、3日はずうと家にひきこもった。また症状がすすんで不眠になやまされる。夜、及川辰男の家にいった。樵として山にはいれば何日も家にもどらない。辰男は50歳、妻とよは30歳。戸口で男がでてくるのをまった。やがて犬坊吉蔵がでてきた。犬坊吉蔵は資産家、金貸しもやってた。返済を督促して女性としばしば関係をもった。何日かあとに、夫の不在をしって家をおとづれた。いやがるとよに吉蔵との関係を暴露するとおどして関係をもった。睦雄は不眠で夜歩きをする。その目的が他人の家の覗き見となった。

** 3) 結核療養の挫折、金品のエサ
*** 1) 療養所入所の資金調達、反対で断念
結核の療養に全力をあげた。当時もっともすぐれた啓蒙の書。探偵作家、酒井不木の闘病記を熱心によんだ。郵便配達員をおどろかせるほど、多種類の薬を郵送。岡山農工銀行にゆき400円をかりた。蓄牛目的といったが結核治療。療養所入りを。祖母、姉が反対。孤独ないねを放置か。断念。その代替か、バター、ミルク、バナナの贅沢品を購入。自分もたべ、世羅きみえにも。そうすると睦雄にちかずいてくる女。

*** 2) 吉田かね、金井貞子、犬坊トミと関係
まず吉田かね。42歳。夫は吉田修一、50歳。子どもには芳子、21歳。美貌だったがすでに友田良治にとついでた。かねがやってくる。食べ物のはなし。奧にさそう。ハム一本をやるといって関係をもった。次は金井貞子だった。50歳の未亡人だった。勝雄、綾子、勝裕、康夫の4人兄弟がいた。金品をあたえ関係をもった。犬坊トミ、45歳もそうだった。息子に米一という息子がいる。金品をあたえ関係をもった。トミは犬坊吉蔵とも関係があった。

*** 3) 若い女性に失敗、トラブル
こうして昭和12年(1937)は比較的気分よくすごせた。彼が夢想するエロスの世界が出現したようだ。でもながくはつづかない。6月のはじめ吉田かねが家の前をとおった時、さそった。行為におよぼうとしたら拒否、激昂。いねに暴露すると反撃。平謝りにあやまった。これですこしはこりたか。否。三井由美子、21歳に夜這い。成功。若い娘と関係をもちたいというのが本心。金井綾子には執心。にげられた。かなり悔しい思いがのこった。7月の末である。

*** 4) 猟銃の購入、猟銃を肩に闊歩
津山市二階町の片山銃砲店で二連発の猟銃を75円で購入した。猟期にはいった10月27日、津山警察署の乙種猟銃免許をえてる。その際、健康回復の時にはただちに兵隊に志願する。その間も銃の錬磨につとめるなどと説明した。村にもどると猟銃を肩に村中をねりあるいた。

** 4) 睦雄周囲の非難
*** 1) 肺病病みの非難、危険人物への転落
昭和13年(1938)正月。夕方、及川辰男が自分の家で睦雄ととよが行為中を目撃。肺病病みと非難。裸足でにげだした睦雄は、夕方、辰男の家に猟銃をもってのりこんだ。興奮した辰男はまた肺病病みと罵倒。とよが睦雄をとめ、さらにいねがかけつけてとめた。睦雄は肺病病みといわれ、徴兵検査におちたことをいわれ悔し泣き。これで睦雄がかって神童、その後も一応の人物という評価が、病気持ちの危険人物に転落。この噂はたちまち村中にひろがった。

*** 2) 保身にはしる女たち、非難の声
吉田かねも、世羅きみえも、犬坊トミも、保身にはしった。しいられた被害者の立場ににげた。悪いことに睦雄の病状はこの頃から悪化。ある日、喀血、失神。医者にいく。薬をだす。きれたらまたこい。冷たい。不思議なことに性欲ばかりがたかまった。一面雪の畑で金井貞子にいどむ。きびしく拒否。関係があった女たちが、せまられ、はねつけたと、いいふらす。夜、目がさえて寝床におきあがった。世羅きみえと犬坊トミが特にゆるせない。二人は自分を拒否するくせに犬坊吉蔵との関係はつづく。考えると涙がでる。きずかれないように外にでた。金井綾子が気になった。

*** 3) 若い女性に狙い、失敗、成功、非難
村に鍵をかける習慣がない。夜這いに成功のチャンス。近所の犬坊正雄の4女菊子、22歳、丹野未千代、21歳、その母親、丹野トキ、47歳と関係をもった。女たちは当然関係をつよく否定。丹野トキには祐一、28歳がいた。昭和13年(1938)1月に菊子と結婚。睦雄との関係をきらいその3月に離縁。女にさんざん悪口をいわれたが特に菊子には怨念。今夜の目的は綾子である。金井の家にしのびこみ、寝床にはいった。貞子。さわがれ肺病病みと罵倒、さらに綾子の前で恥辱。数日後、吉田かねがよってきた。声。嫌味の交換から肺病病みと、最後は殺す、やれとの売り言葉に買い言葉。にげだすかねをおってはしったが、5メートルで立ちどまった。苦しくてすすめなかった。そして堅く心にちかった。このままにはしておかない。

** 5) 毒殺騒ぎ、所持武器の領置
*** 1) 祖母が親戚に相談、毒殺騒ぎ
遠い親戚の犬坊丸一のところ。いねがとめてくれ。丸一が翌日になってもかえらないいねに。どうした。睦雄が毒をのます。どうしてわかる。臭いで。何時。10日ほど前。医者からもらった薬。すすめる。臭いがひどい。中止。しきりにすすめる。ことわる。昨夜、味噌汁に薬。いれてたか。おそろしくなり逃げてきた。では睦雄にたしかめると丸一

*** 2) 役場で親戚相談、世羅の文句、半鐘撤去、警察隊への攻撃
翌朝役場の西川昇に相談。そこに世羅保。睦雄の文句。妻のきみえのこと。夜這い騒ぎのこと。さらに大事件をおこす。すると人をあつめるため半鐘がなる。それで半鐘をはずす。誰がと西川。きみえ。睦雄は警察隊、消防隊がやってくる。第一陣地、第二陣地をつくる。待ち伏せ。鉄砲で狙撃。どんどん殺す。西川が駐在所に連絡。

*** 3) 警察の立入調査、猟銃など領置
今田巡査が津山警察署に連絡。警部補、巡査二人。いねが急変。孫と喧嘩、薬はわかもと。睦雄の態度は。丁寧、狂人とは思えない。しかし本人の承諾のうえ、調査。猟銃3挺、日本刀ひと振り、短刀ひと口、猛獣用実包81発、三段実包311発、雷管つき薬莢111個、雷管121個、火薬50匁などが発見。これは領置。さらに身体検査。短刀1本を携帯。あわせ領置。猟銃免許の提出は拒否。結局そのまま。さらに駐在所まで連行、説諭。涙ながらに反省。親戚の犬坊俊に身柄をひきわたし。以後、たびたび今田巡査は都井家にでむくようになった。

** 6) 甘え、逆恨み、殺人計画書
*** 1) 女性への甘え
睦雄は世羅きみえとも諍い。スキャンダルが公然の秘密となった以上、保身のため女たちは事実を否定し、あるいは被害者の立場ににげ、さらに肺病病み、徴兵不合格、嘘つきと睦雄を非難。それを機会あるごとにいいふらす。このような心理を睦雄は理解できなかった。また女性への依存心がつよい。自分の母のようにやさしくつつみこんでくれることを期待する。睦雄には極限までおいつめられた女性の心理を理解する余裕はない。さらにいまだにかっての優等生のイメージがいきていると能天気に心得てた。

*** 2) きみえとの諍い、殺人計画の妄想
道できみえにあった。五円の札をひらひらさせながら大声。当然、にげられた。昼間、公然と男女が口をきく。ふしだらというのが建前。当然の反応。なおもおいすがる睦雄に口ぎたなくののしった。茫然としたが、やがて、きみえも、かねも、貞子も、トミも、未千代も、トキも、菊子も、みな殺してやる。さらに警察隊、消防隊がおしよせても攻撃陣地をつくってたたかう。戦闘の勉強もやってる。自決するまで絶対に死なない。という。睦雄は雄図海王丸は脱稿してた。これは時局に迎合したものだが、自分のために小説もかいてた。殺人計画書ともいえるおぞましいものである。

*** 3) 昭和7年の天誅
この犯行計画は昭和7年の天誅をもちこもうとするもの。昭和7年の皇国に連続した異様な殺人事件は、ぼくのみるとろ日本国と日本人への天誅である。これらはすべていやらしいセックスがからんでる。玉の井バラバラ殺人事件も千葉竜太郎と犯人、長谷川の妹との間にセックスの関係がある。みんなセックス、セックスで堕落してる。この堕落は貝繁の村にいちじるしい。昭和7年の一連の猟奇事件がこの村におきてたらどうなるか、考える。東京、名古屋では事件以降、沈静化したという。ならば警鐘として効果があったわけだ。この村にも同じ事件を考える。

自分が神のように天誅をくだそうとするが、残念ながら個人的恨みを動機の中にふくめねばならない。恨みに思う者をつよい順からならべる。吉田かね、世羅きみえ、金井貞子、犬坊トミである。トミは吉田かねの娘、芳子、犬坊菊子の結婚式に媒酌人をつとめて、善人ぶりを演出してる。つづいて及川辰男である。

辰男の妻、とよ、菊子、綾子、芳子も陰でさんざん自分の悪口をたたいてる。とよは犬坊吉蔵と関係ももってることに口をぬぐって自分を色情狂とののしってる。さらに犬坊吉蔵である。おおくの女と関係をもってる。しかし夫は金貸しの力をおそれだまってるが金のない自分には悪口雑言をなげかける。それから身内ながら、無教養ないねだ。その事勿れ主義は田舎者の典型だ。道でであっても男女はくちをきかない。表面上をとりつくろって堕落しているこのは村は地上からきえたほうがよい。では、計画である。

*** 4) 名古屋の事件、世羅きみえと及川辰男
世羅きみえと及川辰男を駆け落ちさせる。まず辰男を殺害、樵で山中にはいった時をねらう。死体をこのところ射撃の練習をしてる仙人山にひきづっていって、松の木のところで首吊り自殺にみせる。銃弾を消費するのは無駄。絞殺。きみえは猟銃で殺害。自分の家の納屋で首と胴体を切断。両方の乳房、女性器をきりとる。両方の目、耳をきりとる。また頭皮ごと頭髪をはぎとる。それらを油紙にくるんで辰男の死体につける。名古屋の事件と同じ体裁。辰男の額に「7」。これは昭和7年の再来ときづかせるため。きみえの胴体は服をきせ犬坊俊の鶏小屋にほうりこむ。頭の額には「7」、葦川にすてる。目的をわからせるために、さらに筏をつくり、そこにのせる。

*** 5) 坂田山心中、 吉田かねと犬坊吉蔵
吉田かねと犬坊吉蔵だ。二人とも警戒心、銃で心中させるが、まず一人を至近距離で胸を銃撃、硝煙反応をのこし「心中の1」、殺される側。次に、もう一人を銃撃、これを「心中2」、殺害する側。心中2が女性でもかまわない。心中2の指紋を銃身にのこすこと、これは引き金は足指でひく。両手は胸にあてがった銃身をしっかりにぎってるはず。そして銃は発射の反動で死体と反対側にとんでるはず。死体は二体とも荒坂峠にのこす。両方の額に「7」。自殺につかった銃、北原白秋の詩集、雑誌「青い鳥」、ジャン・コクトーの詩集、賛美歌集に羽仁もと子の著書「みどり子の心」、枕元にヘリオトロープの花をのこす。大磯の坂田山心中の見立て。銃は三挺所持、ここで一挺つかう。死体が発見されたら検屍後、埋葬。そこでかねの死体だけ発掘。裸にして水辺におく。これで昭和7年の神の警鐘であることに気づくだろう。おそらく法仙寺に埋葬されるので坂田山心中の法善寺とよく照合する。裸にしたかねは及川の家の黒池あたりにうすく埋葬するのがよい。

*** 6) 玉の井バラバラ殺人事件、金井貞子
次に金井貞子だ。射殺。首と、両手、両足の6つの部分にわける。ハトロン紙につつんで紐でしばり、水にすてる。ここは「おはぐろどぶ」に暗合させたい。玉の井バラバラ殺人事件に見立て。貞子の歯を黒くぬる。額に「7」。

*** 7) 阿部定事件、丹野祐一、犬坊トミ
神の天誅なら昭和11年の阿部定事件をはずせない。丹野祐一と犬坊トミである。祐一は菊子との結婚を3カ月で解消し自分の悪口をさんざんいいふらしてる。トミは額をうって殺害、硝煙反応をのこす。しかし着衣の不整合をさけるため額がよい。トミ の足の指紋は引き金にのこす。銃身には手の指紋。祐一をころして男性器を切りとる。すべてトミの意志でやったとみせる必要がある。死体の前方にもう一つの銃をのこす。トミが愛人祐一をうち、その後に自分の額をうって自殺したとの体裁。祐一の方だ。下着までぬがせ、男性器を切りとりハトロン紙につつむ。太腿に「トミ、祐一二人きり」と傷をつける。上着とズボンをはかせ待合に放置するが、貝繁にない。どこでもよい。それからトミを裸にし、祐一の肌シャツとパンツをはかせる。その上にトミの着衣をきせ懐にハトロン紙にくるんだ男性器をねじこむ。額には「7」。トミには書けないから顔。トミの死体発見場所は、警察の留置場か刑務所に、でもどこでも。

*** 8) 睦雄の思い、「7」の象徴、解けるか天誅の謎
世羅きみえ、及川辰男、 吉田かね、犬坊吉蔵、金井貞子、犬坊トミ、丹野祐一、合計7人、「7」に見事に対応。昭和7年を想起させる。この計画を謎が気づくか。ぼくの犯行。その秘匿が一応の目的。からくりに気づく者無し。3組の心中事件と警察が処理。ならばそれでよし。ぼくは一人静かに自決。警察との戦争もしない。金井貞子は心中でない。これは死者の誰かの犯行と警察がいう。ならばぼくは沈黙。犯人が特定できない神秘的犯罪。それこそ天誅。馬鹿な村人をおびえさす。更生の効果大。でもそんなことあるか。期待しない。早晩ばれる。猟銃をもったぼくの姿。目撃者。7人との深い関係。村人がさわぎだす。ぼくがうじうじと隠してると思うか。しばらくの沈黙はぼくの贈り物。知恵だめし。警察、新聞社、村の連中。自分の頭でといてくれ。ぼくが犯人など、どうでもよい。裏の謎、天誅をといてくれ。

*** 9) 華々しく犯行声明
なら、いい頃合いに犯行声明。裏の謎は不知のまま犯人と指摘。つかまるのは御免。新聞社に声明と理由を送付。これで阿部定以上の大事件、いねが級長で近所にふれまわったように。自分の名前が歴史に。で、無事に。すむはずない。だから自決。勇気があるな。でもこちらも肺病という事情。数年の命。父や母のように。死期がみえたら愉快事を決行。ゆっくりできるか。否。病気が進行。元気がうせる。最後にお国のために。というわけ。ここの死も戦場の死も一緒。自分は優等生。人に感心されて死ぬ。

*** 10) 警察・消防隊との対決、新聞に登場の有名人
犯行声明は夕刊。津山から警察隊。夜。だから電灯線を切断。電話線も切断。警察のトラックは一本道。貝繁の村にまがる大曲に待受。速度をおとしたトラック。陣地から射撃。練習は。月明かりの松林で充分。連発式に改造。なら皆殺し間違い無し。新聞に鬼熊より有名人。警察隊はおわり。消防隊。どうする。全滅したトラックよりもっと津山よりに停車。想定済み。ちかくに第二の陣地を構築、まずタイヤを。ちょっと気の毒、だが皆殺し。二箇小隊を全滅。本になる。活動写真になる。で、あとは。

*** 11) 悠々の自決、世直し効果
悠々と仙人山。誰も逮捕しない。鬼熊みたいな往生際。逃げまわるものか。どのみちつかまる。逃げおおせても結核。この村の連中のくだらなさを書きおき。銃で自決。おおくの日本人がこの村をしる。自分がつたえようとした意図がわかるだろう。吉蔵が死んだ。もうおおぴらに夜這いをする人間がいなくなる。よくなる。自分の死も無駄であるまい。

** 7) 武器調達の奔走
*** 1) 村の金貸しから調達資金、射撃訓練、警察の武器領置
昭和13年(1938)正月、睦雄は貝繁の村の金貸し、岡江吾一を訪問。1000円の借金を申し込む。家屋敷、田畑を抵当。結核療養所にはいる。いねをそのちかくにすまわせるといった。2月に600円をかりた。睦雄は警察隊、消防隊との戦いを決意した。銃弾をダムダム弾に改造。猟銃の携行をやめ、夜ひそかに仙人山にはいり松の木を的に狙撃の練習に熱中した。やがて村人の気づくところとなり不審がられた。これは警察の手入れにより武器類は領置、免状もとりあげられた。免状がないのでおおぴらに武器類の調達は困難となった。

*** 2) 友人をかいした武器調達
殺人計画書にある二挺の銃を死体のかたわらにおく。困難となった。警察の手入れがあった直後、3月13日、夕方、猟師、今寺剛をたずねた。10円をだし、今寺の免状で雷管つきケース100個、無縁火薬100匁の購入をたのんだ。今寺は津山市の片山銃砲店で購入した。5円は今寺の取り分となった。猟銃は大阪でなんとか調達するつもりだった。歯科医、伊藤光蔵に患者としてちかづき、親戚の軍人の昇進祝いに必要と日本刀、一振りを調達。4月、内山を大阪の高級ホテルによびだし、饗応し、匕首を調達。武器の調達に苦労しながら、心境に変化があった。警察隊や消防隊との対決はすてた。4月24日、大阪市西区京町通りの栗谷商店でアイデアル実弾100発、ケース保管器1個を調達したようだ。同25日大阪市内本町の鷲見(すみ)銃砲火薬店で中古ブローニング12番口径5連発猟銃1挺、ポンプ式詰め替え器1個、銃サック1挺分、手入れ用の油1缶を調達した。睦雄が実際に事件で使用したのは、この5連発を9連発に改造したものと思われる。

** 8) 世羅きみえの逃亡、事件の事前準備
*** 1) 世羅きみえの逃亡、停電工作
昭和13年5月15日の夕方、西川昇が帰宅、妻がえらいこと。何。 吉田かねが、世羅きみえの家族が村をでた、という。全員か。然り、家財一式をもって。どこえ。京都。何故。ここにいたら殺される。誰に。睦雄。まさか、取り越し苦労。心配する妻を無視。西川が思いだす。世羅きみえが役場に戸籍謄本と身分証明書を。わたすと秘密にするよう懇願した。

*** 2) 凶行行現場と役場の距離の確認
事件は5月20日の深夜、午前1時と推定される。さて、20日のこと。睦雄が自転車で畑の中の道、山の中の道を何度も往復。これが目撃されてた。これは凶行現場と役場の時間的距離をはかってたと推測できる。さらに夕方、睦雄は電灯線を切断したらしい。夜になって停電に気づいた犬坊俊が睦雄に自転車用のナショナルランプをかりた。電柱にのぼったが、原因不明。下の睦雄にきいた。わからないという。貝繁水力電気株式会社の技官が8号と6号柱の貝繁にむかう電線が巧妙に切断と報告されてる。天候は午前零時から雨模様、雲、時おり月が顔をだす。

* 13) 実録都井睦雄、惨劇
** 1) いね、貞子、かねなど
*** 1) 事件勃発の報せ
昭和13年5月21日午前2時40分、貝繁の駐在所の扉をたたく音。丹野祐一ががたがた震えながらいう。母、トキが殺害。誰に。睦雄。本当か、詳細は。妻と二人で就寝、 養蚕室に乱入。銃撃、死亡と。それで逃走。銃声が何発もひびく。今田巡査は県警と隣村の駐在に電話連絡。トキは医師、万袋がよばれたが6時間後に死亡。

*** 2) 祖母、いねの殺害
睦雄は、いねと足をむかいあって就寝してた が、午前1時起床と推定。屋根裏部屋の茶箱の中にかくしてた用意の品をとりだし身支度。詰襟の洋服の上下、両足下部にゲートル。地下足袋。頭に手拭いの鉢巻、ここに2本の懐中電灯、下部をてらすため自転車用箱型前照灯を首からさげる。ぶらぶらしないよう別の紐で胸に固定。薬莢いり雑嚢の左肩から右脇。その上から紐を腰にまく。さらに皮のベルト。そこに日本刀と匕首2本。当時としてはすぐれた装備。軍国精神教育、軍事教練が役だった。9連発に改造したブローニング銃をもって梯子をおりた。いねである。

自分の死後を考え、斧で首を切断。涙がでた。自分がよわい人間であることを自覚。よわいからいじめられる。いじめた人間はそのことを反省しない。自分の事件をしった後も反省無し。田舎者のいやらしさ。傲慢さ。生まれかわったらもっと強い人間になる。石垣をとびおりた。

*** 3) 金井貞子の殺害
北側の金井貞子の家。戸主は長男の勝雄、呉海兵団に入団中、在宅は貞子、勝裕、康夫。綾子は犬坊千代吉の家に。土間、台所、六畳の部屋。日本刀で貞子の頚右側に、左側の胸にも。覚醒した勝裕の頚部をきる。1歳の康夫もきる。次は 吉田かねの家。

*** 4) 吉田かねの殺害
かね、修一、芳子、かねの妹、智子が在宅のはず。芳子、智子がかねの看病のため帰宅。この日決行の理由となった。とっつきの四畳の間にねてるかねを銃撃。障子一枚隣りに修一、芳子、智子が炬燵に足をつっこむ形でねてた。修一を銃撃、つづいて女二人を銃撃。銃の音がなりひびく。

*** 5) 貞子の娘の殺害
だらだら坂をのぼる。金井の家に。戸主の金井高次、妻、千恵子、高次の母、やす、やすの外孫、犬山丈夫が在宅。殺戮の対象にえらんだのは千恵子が 吉田かねの娘だから。土間、台所、奧の六畳の間に。高次と千恵子がひとつ布団。高次、次に千恵子を銃撃。隣室にはいると丈夫が誰。睦雄。胸を銃撃。おどろくやすを銃撃、しかし奇跡的に生存。

** 2) 菊子の逃走、由利子の負傷、トミの殺害、祐一の逃走
*** 1) 菊子の逃亡
次に犬坊正雄の家。正雄、貞夫、定子、菊子、なみ、としが在宅。菊子の在宅が対象とした理由。菊子と睦雄は関係があったが、丹野祐一と結婚、しかしすぐ離婚。5月に守村石男と再婚。たまたま実家に帰宅。家族は異変に気づいた。台所で正雄と鉢合わせ。銃撃即死。貞夫は窓から逃走、連続銃撃。定子は隣りに逃走。そこにいたなみ、としが雨戸をあけ逃走へ、背中を銃撃、定子は廊下を逃走、銃撃。この間に菊子は運よく土間から表に逃走。犬坊茂一宅に。雨戸を必死でたたくと別の戸があいて中に。睦雄もはげしく雨戸をたたく。茂一の父、高一郎が雨戸から顔をのぞかせたところを銃撃、即死。息子、信二を犬坊元の家にはしらす。睦雄は信二をつかまえ脅迫してる様子。茂一がたしかめると一人芝居。木戸をおさえてる由利子が銃弾をうけ太腿に創傷。睦雄が菊子殺害を断念、立ち去る。次の目標は犬坊トミ。

*** 2) 犬坊トミの殺害
トミは息子、米一と二人暮らし。犬坊茂一宅の北西。土間から板の間、とっつきの四畳の間。米一を銃撃、死亡。奧の間のトミも銃撃、死亡。

南隣の犬坊千代吉宅へ。養蚕手伝いにきてる、金井貞子の長女、綾子、丹野祐一の妹、未千代が在宅。さらに戸主、千代吉、妻、ヤエ、長男、富市、内妻のタマ、富市の息子、香次、その妻のキクも。銃声で母屋の5人が覚醒。しかし睦雄は不在を事前にしってた。 養蚕室に乱入。三人を銃撃、死亡。母屋に乱入。言葉をかわすが退去。

*** 3) 丹野トキの殺害、祐一の逃走
丹野宅へ。すぐ養蚕室にむかう。たまたま保温用の炉をしらべにきたところを襲撃、即死。祐一は銃声におどろき逃走、駐在所に通報。

** 3) 仕上げ、自決
*** 1) きみえの兄、修二の逃亡
次は今村宅に。葦川の土橋をわたる。戸主、修二は睦雄とは無関係、ところが、世羅きみえの兄。京都に逃亡したので代替として対象となった。家には修二のほかに、妻、満、父、安市、母、トシ、修二、満の子ども、弘、昭治、忠、明がいた。ただし弘は伊勢神宮に修学旅行中。ここで世羅きみえについて補足が必要、きみえの兄、修二は安市、トシの息子だったが、きみえは、トシのうんだ子だが、私生児。この環境はきみえの性格形成に関係したろう。

修二は騒々しい気配に雨戸から外をのぞいた。三つ目の怪人がせまってくる。驚愕し家人を裏に誘導し雨戸をあけ、自分はひたすら逃走した。悲鳴をあげる女たちにむかった睦雄は、満とだいていた明に発砲。即死。外にでて、表の木戸から再侵入、トシを射殺、安市に発砲、死亡。昭二、忠の姿もみとめたが、発砲しなかった。きみえのような自堕落な女をうんだ母や、育てた父、兄には連帯責任があると考えたのだろう。

役場の兵事係兼戸籍係の西川昇は今村宅の騒動にすぐ気がついた。家人を床下にかくした。睦雄は犬坊吉蔵宅にむかった。

*** 2) 犬坊吉蔵の殺害に失敗
川にもどり、そこから犬坊宅につうじる急坂をのぼっていった。犬坊吉蔵はその抹殺にもっも闘志をもやした。金貸しの代償として醜悪な不倫をつづける。それでいながら誰もそのことをとがめない。自分が殺す以外にない。それが世直しと位置づけていた。吉蔵のほかに、妻のよし、長男の秀市がいる。秀市は村の消防団の部長、村の青少年の指導者の一人。雨戸からのぞいてたよしがいった。二つ目がくる。睦雄が吉蔵とさけんだ。銃弾がとんできた。よしが太腿に負傷。吉蔵と協力して雨戸をしめた。また銃弾がよしの右腕を貫通。吉蔵は二階にのがれ窓をあけ、大声でたすけをもとめた。睦雄が二階にむかって発砲。沈黙がつづいた。睦雄は立ち去った。吉蔵はたすかり、よしは死亡。次に村はずれにある及川宅にむかった。

*** 3) 及川とよの殺害、樽元との対話
どうしたことか戸はしまってなかった。奧の間にねてた辰男が用心でおいてた空気銃を手にとった。睦雄が発砲し辰男は即死。にげるとよをおって廊下で発砲。たおした。これで一応計画は完了。午前3時だった。北にむかう睦雄が樽元家の庭先にあらわれた。そこには祖父の樽元市松と樽元純夫がいた。純夫から鉛筆と雑記帳をもらうと、しずかに表にでていった。警察隊と消防隊がおいかけてきた。睦雄は荒坂峠から仙人山の頂上をめざした。頂上の平地にすわりこんだ。やすんだ。やっと遺書をかく気になった。睦雄はすでに遺書2通を家にのこしている。あらためて書きおきますとはじめた。

*** 4) 睦雄の書きおき
いねにはすまないことをした。姉にもすまないとあやまった。墓は不要。病気4年間、社会の冷淡と圧迫に泣いた。結核患者は同情されるべきと思う。実際、弱いのにはこりた。こんどは強い人にうまれる。不幸な人生だった。今度は幸福にうまれてこよう。銃口を心臓にあて両手で銃身をにぎり右足の親指を引き金にかけた。足をのばして発射した。警察隊、消防隊は午前10時半、死体を発見した。

*** 5) 生きのびた人びと、犬坊由利子、守村菊子
銃弾をうけながら、金井やす、犬坊由利子がたすかった。はっきり計画の対象となりながら、守村菊子は現場から逃亡しぼぼ無傷だった。世羅きみえは事前に京都に難をさけて、たすかった。事後譚である。やすは高齢でまももなく死亡。世羅きみえのことは既に紹介した。菊子は守村に嫁したが、応召した夫は戦死、その後、犬坊吉蔵の息子秀市に嫁した。秀市は趣味人として生きる。琴の職人として有名となった樽元純夫をよんだ。やがて中国地方の琴にたづさわる人びとに龍臥亭がしられることとなった。犬坊由利子は武田貢に嫁したが、夫は応召し戦死。由利子は棚藤の農家で一人娘とともにわずかな農地をまもり未亡人をとおした。睦雄の姉、川島みさ子は昭和40年(1965)、死亡。生前、由利子と交流があったようだ。由利子は昭和52年(1977)、死亡した。

* 14) 4月12日、ミチ母子の救助、4月13日、謎解き
** 1) 評人宅、葦川ぞい、龍臥亭、中庭、竜の彫像
*** 1) ミチ母子をねらう人物
評人宅を辞去。事件を原点から考えた。葦川にそってあるいた。猟奇事件。事件の背骨が見えた。現実の謎。五里霧中。事件の原点は。幸子の射殺。「むかで足の間」の晴美、エリ子。考えて時々貧血、めまい。龍臥亭の門の前。敷地の中。アヒルの小屋。中庭の手前。ミチは睦雄の血。娘のユキ子。世羅きみえの血。睦雄の血をたやすと決意した人間がいたら。母子をねらう。現実の殺人は。でも二人の殺害状況は同じ。事故では。真のねらいは母子。犯人の失敗。これでまず真相の入口に。

*** 2) 狙撃の方法
では、弾はどこから。石段をのぼる。庭の芝生。もう夕暮れ。方法は不明。正面に四分板の間。菊子は当時22歳 、睦雄とは肉体関係。親戚が殺害される中。九死に一生。逃げこんだ茂一宅で、高一郎が射殺、由利子が負傷。強い恐怖と怒り。夫、秀市が死亡、自分の余命も見えた。動機は充分。だがほぼ失明、動きも不如意。どうして。母子はむかで足の間、自分は四分板の間。直接の銃撃。不可能。石段にもどる。もう一人の被害者。龍尾館の幸子。四分板の間と龍尾館三階はまっすぐ見わたせる。狙撃できる。すべての硝子窓が閉鎖。あり得ない。それにうったら。坂出がべっ甲の間の前。気づく。石段をおりむかで足の間の前、廊下。

*** 3) 竜の彫像のヒント
声をかけた。無人。とっつきの二畳の間、仏壇の前。左。石垣と竜。板戸をしめる。仏壇前に正座。欄間。視線を板戸。上部の隙間から竜。板戸の上部に竜の装飾。隙間。この隙間から竜の彫像。一直線上。最初板戸ごしに竜の彫像がみえてた。「リュウコワセ、ミタライ」。天啓がはしった。茫然と竜をみながら石段をのぼった。夕陽の光が竜の腹に、さらに石岡の目を射た。晴美、エリ子、推玉の死の理由がわかった。石段からころげおちた。

** 2) 外科医院、帰室、地震、中庭
*** 1) 菊子犯行の確信
犬坊外科医院の診察室で2時間が経過。腕を骨折。事件を考える。骨折の痛みと同時に犯行方法がひらめいた。まだ実証を要するが。犯人は菊子。でも疑問、犯行の方法、死後も母子がねらわれてる。理由は。さらに死体遺棄事件は。菊子は事件の「1/5」か「1/4」。医師の許可。左手にギブスをして龍臥亭に。部屋にたおれこむ。

*** 2) 地震の発生、家人、宿泊客の消滅
眠りから。異様な音。地震だった。水の音、ひそやかな筧の音とちがう。ちょっと様子がちがった。廊下にでた。霧の中の満月。水の音がおおきくなり、廊下がゆらゆらとしてる。照明がきえてる。異様さの原因。坂出をたずねた。不在。二子山親子も。むかで足の間までくだった。さらさらと得体のしれない水音。無人。龍尾館の明かりもきえてる。中に。無人。階段にでた。二階に。里美も不在。

*** 3) 幽霊の登場、もう一人の幽霊
そこに懐中電灯のあかり。たちまち恐怖。音をたてないよう渡り廊下に。自室にもどる。霧の中に睦雄が。顔の中央がぽっかりと黒い。ついてゆく。龍頭館か。ちがう。それにもっともちかい猫足の間にきえた。どんどんと銃声。龍尾館か。むかで足の間の前の廊下に亡霊。庭に。龍尾館の方向にまた一発。もう一人の。亡霊がいた。同じ亡霊か。猫足から移動。無理。石垣から竜の彫像に。恐怖、ぶつかる。四分板の間の方向に退却。亡霊は何をうったのか。竜の彫像の横。姿はさっきの亡霊と同じ。龍頭館に。石岡は芝生にふせたまま。やがておう。亡霊は龍頭館の角を。きえた。石岡は龍頭館裏。亡霊は法仙寺にむかう。おう。亡霊は本堂の前。墓の中に。きえた。

** 3) 法仙寺墓地、坂道、葦川ぞい
*** 1) 墓石群の藤原、狙撃
墓石群の中に黒いシャツの男。うつむき加減。藤原。すこしずつちかづく。横に。スコップ。何度もスコップを。突然銃声。ゆっくりとくずおれる。藤原。犯人は亡霊。所在を。藤原の周囲、墓の陰、無数の影。藤原に。石岡の右前方。銃をかかえた影がとおざかる。亡霊か。否。別人物。目でおう。一方気づいたのは石岡のみ。反射的におう。

*** 2) 幽霊の逃走、追尾、狙撃
住職の住居の裏手に。鶏小屋のちかく。石岡は物陰。あらい呼吸。裏庭を横切り土塀の外に。石岡が土塀に。待受か。否、安堵。低い姿勢。おう。影がすたすたと。龍臥亭、法仙寺山門に面した砂利道。ゆっくりくだる。誰か。帽子、銃、ダウンジャケット、心当たり、無し。黙っておう。御手洗の言葉「きみの使命だ」がひびく。考えた。はっきりしてること、藤原でない。一男でも。行秀か。二子山親子、坂出、否。育子、里美、お松、論外。影が橋をわたる。葦川の桜。孤独な影がたちどまる。きえた。その前方にミチとユキ子。石岡の声。にげろ。大小の影がたちどまる。もどれ。影が道に、銃口が石岡に。水田に転落した。

*** 3) ミチ母子、犯人、行秀、坂出、樽元、犯人佳世
おきあがる。脇腹から血。影が二人にちかづく。前方で大声。ミチの右前方。行秀。影が発砲。3発目でたおれる。まて、子どもをうつな。坂出。発砲。たおれる。影が二人をうつ。ミチがたおれる。ユリ子をにがす。おう。突然、石岡の脇をぬけて黒い影。対決。発砲。両者がたおれる。ミチは負傷、ユリ子は無事。とびだした男にちかよる。誰。樽元。暴漢にちかづく。銃をけりとばし、たしかめる。佳世。どうして。くるしい息のもとでいう。母から狂った睦雄の血をたやせといわれた。母は犬坊由利子、殺されかかった者。田舎は棚藤か。然り。

** 4) 葦川ぞい、佳世告白、外科医医院、樽元が告白
*** 1) 佳世の告白
佳世が医者がくる前に死んだ。石岡は佳世の祖母がすんでた棚藤のことをきいた。火葬場にかよう道筋にあるらしい。晴美の死体がある。どうするつもるだった。わからないといった。

*** 2) 翠玉の死体の処理
武田由利子は佳世の祖母。彼女は睦雄の手記を入手してた。佳世は藤原とは肉体関係があった。佳世はこの手記の存在をおしえた。藤原は手記のように死体を加工、遺棄する。この計画をうちあけたのは、推玉を切断し新聞紙で梱包、橘暗渠に遺棄した後だった。佳世は彼にこの棚藤の武田の家の鍵をあすけてた。3月はじめの時点で佳世はまだ東京にいた。この遺棄作業には関与せず。3月半ばに帰省、自宅の納屋に手首を発見した。驚いた彼女が藤原をといつめて、しった。藤原は菊子の殺人計画をかくしたまま、睦雄の手記どおり死体を処理したことを彼女にうちあげた。推玉の死体は偶然発見したと説明。そした以降も自分を手伝ってくれ。そうすると、彼女の希望は実現できると説明。何故か。いえないというやりとり。その後、佳世は協力を約束した。推玉の手首は二人でうめた。

*** 3) 佳世の潜伏、藤原との合流
藤原は菊子の計画をみぬいてた。すなわち死体がつづいてでると予測した。それに絶対の自信があったわけでなかろう。佳世の方も母、祖母の遺志が実現できるとの自信があったわけではなかろう。龍臥亭に続々と死体がでるのをみて藤原は喜々として睦雄の手記どおり実行することを佳世につげた。晴美の死の時点で、佳世に菊子の計画の存在をおしえた。佳世はすなおによろこんだ。ミチ母子の殺害を願った。

もううごかなくなった軽四輪が1台あった。藤原がこれを手入れし計画につかった。森安巡査の家から死体を窃取。鍵がかかってなかった。佳世が警察にとめられてた時の犯行は佳世の解放をうながした。東京にもどるよう警察にいわれたが、実は棚藤にもどった。これと歩調をあわせ藤原も龍臥亭をとびだした。以降、彼女は藤原への愛情と母からの教えにより、彼の指示にしたがった。

*** 4) 菊子の失敗、自殺
4月1日未明、幸子の首を筏にくくりつけたのは藤原、筏をつくったのは佳世。彼女をこわがらせないため新聞紙につつんだままにした。3月半ば、棚藤で佳世が作成、その後、横浜で石岡にあった時に指を負傷してたのはこのため。藤原は佳世の無知と勘違いを面白がった。捜査陣をまどわすことを期待したのだろう。何故、佳世が石岡のところにきたのか、その心理は不可解。佳世は藤原が睦雄の手記を実現してる理由はわからなかったが、ありがたかった。ところが目のみえない菊子が延々と失敗をかさねた。良心の呵責にたえかねて自殺した。藤原は銃が部屋から発見されないことをしって、部屋の窓の下にいって銃を発見。そこで銃と弾丸を窃取。石岡が四分板の間で懐中電灯の明かりをみたのはこの時である。

*** 5) 藤原の殺害、その真意、佳世の決意
殺人の道具を入手した藤原は自らの手で無関係とみえる人を殺害。守屋は龍尾館で一人でいるところを龍尾館裏にさそいだし、藪にかくしてた銃で殺害。佳世はおどろいた。死体の人数あわせだが、大袈裟な連続殺人はさけたかった。

藤原が一男を射殺した時、佳世はついに藤原の真意をみぬいた。藤原の究極のねらいは一男だった。他の被害者はそれをかくすための隠れ蓑。藤原は育子に強い愛情をだいた。育子の離婚の願いを一男は頑強に拒否してた。藤原の真意をしり、絶望とともに自らの意志で殺害を決意したのだろう。負傷状況である。樽元、佳世は弾丸が肺を貫通、致命傷。行秀は右大腿部に被弾、坂出は右肩部に被弾、ミチは左背に被弾、生命に別状はない。藤原も致命傷でない。石岡の負傷はギブスに被弾した結果、破片がささったもの、もっとも軽傷。

*** 6) 夜の異変、留金の死因
石岡が地震でめざめて気づいた異変の事情である。警察はを大捕物を予測し、龍臥亭の住民をマイクロバスに待機、二子山親子はこの機会に自宅にもどるつもり。石岡は不在のまま関知せず。ミチ母子はみんなの反対をおしきりお百度参りのため川沿いをあるいてた。留金の死因だが、不明だが、樽元によれば母親の死に気落ちした自殺、自分も妻をなくしたのでわかるといった。留金は何らかの理由により実家を訪問した藤原により発見。睦雄の手記の実現に利用されたものだろう。樽元、行秀、坂出は犬坊外科医院に入院した。樽元の話しである。

*** 7) 樽元の告白、睦雄の姿、琴づくりの修行
睦雄は世間にいわれてるような人でない。優しいよい人。自分の家の庭先へ子どもをあつめ面白い話しをしてくれた。お菓子もくれた。何もたべてない子に食べ物をくれた。風邪の子には薬をくれた。この人柄を村のみんながしってたはずだが、事件以来何もいわなくなった。そうはいっても子どもを殺した。それはいけない。だが肺病病みと悪口。本人のせいでない。自分がどれほどえらいものか。ひどい悪口だった。自分は睦雄がすきだった。30人殺しの当夜、「純ちゃん勉強してえらい人になれ」といってくれた。自分は琴の職人となってすこししられるようになった。この言葉は忘れたことはない。琴づくりの修行である。福山にいった。面白くなくてもどった。すきな琴をつくらせてもらえなかった。人の上にたつ年齢が必要だった。ここで嫁をもらった。

*** 8) ウラン、体調不良、龍臥亭の琴づくり
荒坂峠からウランがでた昭和30年、二人で坑夫にでた。商業化できなかったので坑道をふさいだ。それをやった。2年ほどしたら体調がわるくなった。仲間にもでたが因果関係が不明ということでうやむやとなった。自分は体力があるから回復し秀市のところで琴の職人となった。一生懸命にやった。自分の華の時代だった。

*** 9) 妻の症状悪化、地下生活
ところが妻が体調不良となった。ウランのせいだった。顔が黒くなった。石をなげこまれた。考えて龍尾館の地下にかくすこととした。大階段がつぶされたから階段の下に部屋をつくった。地下には自分の仕事場もあった。便所もあった。風呂場にいけば水もある。厨房の下では残飯が手にはいる。家人に一言あってしかるべきだったが、先代秀市の死でいいだしかねた。いったところでことわられる。年限をきられる。結局、地下に何年もくらした。表との出入りは地下の風呂場の石をどかした。給湯道をつかった。真っ暗な中だから頭に懐中電灯、地下足袋の姿だった。

*** 10) 龍臥亭、設計の秘密、給湯道、地下の出入口
龍胎館の床下にはタイル張りのふとい給湯道があった。これは元々の設計、龍頭館の湯を龍尾館の風呂にもみちびくため。昔は龍頭館の湯があふれたら自然に龍胎館の床下をとおって龍尾館の風呂へながれこむ仕掛けになってた。龍尾館でこの湯をわかす。そのために坂になってた。給湯道は龍胎館の部屋の暖房装置にもなってた。でも下流になるとさめる。雲角の間、下音穴の間、柏葉の間、尾布の間とむかで足の間の5つはプロパンガスがついてた。しかし使い勝手がわるい。龍頭館の浴槽をふさいで給湯道に湯がはいらないようにした。自分は夜、ここをつかって穴があいてる部屋から外にでることとした。猫足の間、むかで足の間、弦の間の物置に点検用の穴があいてた。

*** 11) 地震による破壊、ミチ母子の護衛、犯人との闘い
でも地震で給湯道がこわれた。雲角の間からはいったらむかで足の間までながされた。上であやしい動きがあったのでやっつけようとおいかけたが逃がしてしまった。給湯道を毎晩はいずりまってるうちにこの事件のことはほぼわかった。睦雄の血をひく者をころそうとしてる。ならば睦雄のためにも子孫をまもることにした。今夜は警察が家人、宿泊客を退避させたからおおぴらに龍臥亭をパトロールすることにした。犯人は龍尾館の中を懸命にさがしてた。

*** 12) 妻の死亡、火葬、菊子の罠、最後の願い
事件がはじまって間もなく、妻が死亡。夜ぴいてないた。自分の方にも痣ができた。もう長くないと思った。昔、琴のコテをやいてた焼き場で妻を火葬した。灰になったのを葦川にながした。自分も同じようにしてほしい。ミチを一晩中護衛した。二畳の間ですわって護衛したこともあった。お百度参りをしって、銃をもって物陰から護衛した。法仙寺では犯人をたびたびみた。鉄砲でおいはらった。ミチはだまされてた。菊子の知り合いに龍臥亭にいってお百度参りをするようすすめられた。これは菊子の罠だった。まだ話しはつづく。

昔、菊子にいわれて竜の彫像をおいた。すると何度も高さを調整させられた。板戸の模様も菊子の仕掛けだ。この言葉の意味を正確に理解したのは石岡だけだった。樽元が石岡にいう。睦雄が世間に誤解されてる。あの事件の真相を世間につたえてくれ。約束してくれ。了解。ではこれで死ぬといって目をとじた。樽元はそれからすぐ死んだ。

** 5) 射殺、刑事への謎解き
朝方に石岡は育子、里美、二子山親子とともに龍臥亭にもどった。午前11時に目がさめた。里美がおそい朝食をしらせた。食後に三人の刑事がきて、いう。棚藤の武田の家、納屋をしらべた。睦雄の手記、晴美の死体、死体処理の痕跡を発見。成程。無言。ご苦労さまと石岡。感謝。驚、それほどでも、で何か。この際、見栄をすて、率直に。成程、で。事件の説明。はあ。でも何時横浜に。できたら今日にでも。驚、説明無しで。何を。晴美、エリ子、幸子といった人たち。やっと了解。押収した猟銃、携帯電話ももって。了解。

** 6) むかで足の間、四分板の間
*** 1) 四分板の間の猟銃、実験
猟銃は。それでけっこう、もともとは菊子の銃と石岡。成程。これで実験。よいか。然り。むかで足の間に。引き戸をあけ仏壇の間に。座布団をしばって仏壇の前に。これが晴美あるいはエリ子。では四分板の間へと石岡。携帯電話をもった田中がのこる。一行が四分板の間に。菊子がこの重い銃をもつのはむづかしいと石岡。百済琴の上に銃を。節穴に銃身を。台座のくぼみに銃の台尻がぴたりとはまった。これは樽元の仕事か菊子の仕事。葦戸をしめる。安全を確認、連絡。引き金をひく。驚、龍尾館三階をうったのでは。携帯電話が。座布団に命中と田中の連絡。

*** 2) 竜の彫像の意味、推玉、晴美、エリ子の殺害、藤原の関与
驚、何故、どうして。葦戸をあけ竜の彫像を。彫像の下腹で弾丸がはねかえってむかで足の間の目標に命中。田中に板戸の傷の有無を照会。竜の穴の付近の板戸がちょっとわれてた。ちょっと弾道がそれたかと石岡。確認してほしいこと。弾丸がはねかえった。そこで弾頭にキズ。それがダムダム弾と誤認させた。成程。菊子は失敗しつづけた。目がみえないで鐘の音だけがたより。大雪で推玉の存在をしらずに発砲。たおれた推玉の上に雪。雪見をしてたみんなは不知。これに気づいた藤原が夜に死体を回収、棚藤の家まではこんだ。成程。

*** 3) 菊子の自殺、守屋、一男の殺害、佳世の決意
晴美、エリ子と失敗、良心の呵責に、結局自殺。石岡は奧の間に。窓をあ自分の胸に銃口、台尻 は窓の敷居、足の指で引き金。銃は反動で窓の外。これで菊子のみ胸に硝煙反応。他殺と誤認。自殺か。然り。窓の下の草むらにおちた銃を藤原が夜に回収。これが守屋や一男殺しにつかわれた。もどってきた田中がいう。佳世はミチ母子を殺す気がなかった。菊子の犯行をみまもってた。しかし、菊子が挫折、藤原は育子への愛情ゆえに一男の殺害を仕組んだ。その真意をさとる。そこで自分の手でミチ母子と藤原の殺害を決意。

*** 4) 銃の隠し場所
菊子は銃をどこにかくしてたかと刑事の鈴木。どこかわからないが、藤原が弾丸ほしさに四分板の間にしのびこんだ。わたしわかると里美。変わり琴の前で、床木と一体になってる琴だったが、手前の竜尾あたりをいじる。幅20セントの部分が右方向にスライド。下に空間がみえた。ほらと里美。成程。琴は共鳴させるための空洞部分がいる。たんなる丸太では、いい音がでない。ここで石岡に天啓。成程と福井。で、幸子は。

*** 5) 幸子殺害の謎
全然別の発砲事故。偶発事故か。然り。バッハをひいてた。これとにた変わり琴で。その音程があってなかった。また低音部分がなかった。怒って暖炉にくべた。驚。然り、端を暖炉の中におしこんだ。幸子の性格をしってる里美が、わかる。でもあれは丸太。でも響いただろうと石岡。然り。では丸太の中に空洞があった。へえ。あった。樽元はそんな材木をさがす名人だった。その空洞がどういう意味と福井。古木に空洞、そこにはただの空洞でない。何。メタンガス。驚。だから爆発。成程。それで。その木は仙人山からとったもの。然りと育子。睦雄は凶行前、仙人山で射撃の訓練。つまり。あの松の木には50年ほで前に睦雄がうったダムダム弾がのこってた。だからメタンガスの爆発で弾がとびだして額に穴をあけた。

* 15) 4月13日、エピソード
石岡が御手洗に国際電報をうった、「ジケン、ナントカカイケツシタ。キミノオカゲダ。イシオカ」。龍尾館の大広間にゆく。刑事、育子、▼松子お松がいた。二子山が「黒田節」で感謝をという。坂出、行秀、ミチ母子は入院中。里美の姿がない。3人の刑事と病院に。坂出、行秀に挨拶。ミチ母子にあった。ミチの正式名をきいた。加納通子。刑事たちに貝繁駅までおくってもらった。田中が別れぎわに御手洗は本当は石岡ときいて、また相談するといった。切符をかおとすると里美が声をかけた。切符を石岡にわたした。東京へいったらよろしくといった。車内で回想した。満身創痍の体。突然よくやったという思いわいた。涙がでてとまらくなった。

* 16) 感想
昭和10年ごろから平成7年までの複雑にからんだ筋を丁寧に、面白く話しをすすめる。希代のストーリーテラーだ。悲惨な睦雄事件を縦軸に、事件がひきずる影の数々がからみあう。その解決が、けな気に生きるミチ、ユキ子母子の未来に見事につながる。さらに名探偵石岡の登場である。満身創痍になりながら真相をきわめ、めずらしい恋愛が中年男をいろどる。魅力的な女性と可愛い子どもの登場も舞台に花をそえる。御手洗のもつバターくささがうすれ、白木づくりと裸電球の和風建築が今回の舞台である。面白かった。

* 17) テーマ
30人の村人を一晩で殺害した睦雄の村にたつ建物でおきた不可解な事件を解決する。睦雄の事件は、軍国主義の重圧に息ぐるしさがました時、閉鎖的な山村、その中に特有の男女関係のもつれが暴発した異常な事件であった。そこの温泉宿、龍臥亭には、睦雄により殺された側の血をひく人びとと睦雄の血をひくひとびとが、あつまってきた。いまわしい事件に口をつぐむ村人たちにも事件の影は随所にあらわれている。深夜、硝子窓にかこまれ、裸電球にうかびあがった美女がうたれる。これが発端となり、殺人が猟奇事件に発展してゆく。犯行の動機は睦雄の闇をひきずる。そのトリックは龍臥亭の建物のからくりに、なじむ。物語は前半において変質者の犯行としてもりあがるが、後半において睦雄の実像にせまることにより一気に解決する。

菊子、佳世、藤原が犯行にかかわるのであるが、これらの行動を丁寧に説明し作品を破綻させていない。

* 18) 評価
原理的に可能かという問題はない。現実に可能か、おこり得るかが問題となる。

1) 菊子、佳世は睦雄に殺された側の血をひく者である。上記17)で説明したように、その行動を丁寧に説明している。菊子はやや乱暴であり、佳世は受け身にすぎる。しかし睦雄という怪異な存在を考えた時、おこり得ると考える。

2) 藤原の犯行は、佳世との密接な関係、それにくわえて育子との不倫関係を考えても、いくら何でもあり得ないといわざるを得ない。むしろテーマとの関連で藤原の犯行が作品として成立してるかどうかの問題と思う。睦雄は善悪を超越したおおきな力、日本の伝統的な神の存在にちかい。平将門、菅原道真のように祟り故に祭られた神と考えることができる。睦雄は地元の伝説、おそろしい神である。佳世と出会い、自宅で睦雄の手記に接し、佳世との交情をつうじ、睦雄のおおいなる存在を感じた。おそらく日常において菊子の異様さ、育子の魔力、一男の卑小さを感じてたろう。藤原の物語への登場はわずかであり、自分をほとんど語らない。作者は藤原がおおいなる力にゆりうごかされ犯行をかさねた状況を読者自らの理解にゆだねてるようである。

3) 竜の湯があふれ流れおちる給湯道にそってたてられた龍臥亭、その龍臥亭の側の道を30人の惨劇をひきおこした睦雄がかけのぼり仙人山の頂上で自決した。龍臥亭は和風白木づくりの建築物である。深夜、裸電球でてらされた龍尾館三階に硝子窓でかこまれた中、琴を演奏する美女がうたれる。こうして殺人事件の舞台の幕があく。これだけ舞台装置がととのったら、わたしは30人の殺人がおきても納得してしまう。この作品を成立させる圧倒的世界の実在を感じる。

* 19) 疑問
** 1) 昭和7年の巻が不整合、178pと179p
石岡が阿部定事件を高校の図書室でしらべる。講談社刊の「昭和二万日の全記録」の昭和10年から13年の巻をしらべ、阿部定事件をの記述を発見した。しかし時期の誤解から睦雄の事件を発見できなかった。考えなおして「7」という数字にヒントをえて、昭和7年から9年の巻をしらべる。そこに昭和7年におきた猟奇事件の記述を発見し、事件の解決におおきく前進する。この記述にかんし、下巻の178ページと181ページに不整合があるようだ。

(おわり)





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謎解き島田、摩天楼の怪人 [島田荘司]

* 1) はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 2) 大女優の死
** 1) 肝臓癌の女優ジョディを見舞う
ニューヨーク、マンハッタンのセントラル・パーク・タワーにすむ引退した大女優、ジョディ・サリナスの部屋に、建築家のロイ・ウィザースプーン教授、劇作家のジェイミー・デントン、コロンビア大学助教授の御手洗潔があつまった。そこには息子のフィリップ・サリナスと女優のリサ・マリー・ワシントンもいた。ジョディは主治医のアダム・カリエフスキーの付き添いのもと寝室にいる。御手洗がここは素晴しい。特にガラスのテラスは最高だといった。教授が肝臓の話しをしてくれたら、案内する。このテラスはビルの東面から北面をつきぬけてる。この発想はユニークだ。御手洗がきく。今年つくったのか。然り。建築の話しとなる。

興味があるか。然り、セントラル・パーク・タワーの様式も興味ぶかい。オーソン・ダルマッジという天才の作品。だからここに引越しか。然り、ところで女優のことは。名前だけ。劇は。無し。自分も、しかし演劇界の宝だ。フィリップが寝室にきえる。結婚は。無し。彼はアダプト(もらい子)だ。この階はかわってる。エレベーターホールからとこちらの廊下はゲートで区切られてる。然り、以前は階段室にはいる扉とゲートは施錠してた。この階の北側のユニットの住人は両方の鍵をもってる。この階だけか。然り、1951年、暴漢が侵入、二日間、立て籠り。ニューヨーク警察(NYPD)の武装部隊が閃光弾をなげこみ、犯人を逮捕。その際、ジョディが腹部を負傷、多数の人の輸血をうけ、回復。それ以降、外出をひかえ、子育てに専念。ゲートを付設。従来は東南のユニット、今は北東のユニット。同じ階か。然り。2ユニットだが、東南の時もか。然り。立て籠り事件の後にあいたので北東に移動した。肝臓の話しとなる。

教授がいう。ジョディは肝臓癌だ。本人も承知。肝硬変から癌か。然り、肝臓癌の前に肝硬変、その前に肝炎がある。肝炎から健康にもどれるが、肝硬変からは無理。一生の付き合い。肝硬変はアルコールからか。ジョディは酒はたしなむが、のみすぎない。何故、肝硬変か。別の原因も。何。ウイルスの侵入。ジョディの肝臓癌はウイルスによるのか。可能性がたかい。同じ階の住人に医師。何十年来の友人で主治医。月に二回検診。肝臓癌は肝炎、肝硬変という経過が。ウイルスチェックは。血液検査。で肝臓癌、肝硬変を見のがすか。不答。医師はリタイア、患者はジョディのみ。では検診時は面談のみだったのだろう。それでは普段の飲酒量はわからない。ウイルス侵入の仕組みは。ウイルスは肝細胞をおかす。リンパ球がやってきて破壊。細胞を破壊か。然り、しかし細胞は再生、数がすくなければ回復。この破壊再生時の炎症が肝炎。破壊がおおかったら、肝硬変。症状は。非常につかれやすくなる。

肝細胞は破壊される時、特有の酵素。これが血液中に放出。ここから破壊を計数。肝硬変がすすみ、破壊された肝細胞がすくなくなるとこの数も減少。これを健康と誤認も。日常の飲酒量をチェックしてればふせげる。医師のしらないところの飲酒のチェックは困難。成程。さらに御手洗。過剰摂取が六割、ウイルスが四割といわれる。ところがこの六割には未知のウイルスの可能性があるようだ。医師ばかりをせめられない。ところで、ウイルスの侵入は。刺青、ピアス、輸血。寝室のドアがあき、医師がはいってきた。今は気分良好、質問も可能といって部屋をでた。

** 2) ジーグフリードの殺害を告白
御手洗ほかがジョディの寝室にはいる。紹介された御手洗にジョディがはなす。この高層アパートには謎、幽霊マンションとか。何。愛人マンションとも。アパートの謎か。否、自分の謎、とけるか。不答、誰かほかの人もやったか。然り。成否は。失敗。教授が御手洗をよんだのはそのためという。ジョディが自分はすぐ死、罪深い人生を懺悔する。死後に公開してよいといって、殺人を告白。それは悪魔の奇跡。1921年の出来事。自分の地位は不安定だったが、あの人にまもられてた。魔王の力と美貌をもってた。七十四歳まで独身をまもったが彼がいたからさびしくなかった。名声は時に重荷、演劇界は醜い。彼がいなければ自分はもっとはやく人生をおえてた。悪魔の助力で犯罪を。然り。条件を承諾することを再確認、解けるか。やる。

これははじめての告白。1921年10月3日、嵐の夜、8時半に大停電、無灯、ラジオもレコードもきけない。充電装置、自家発電装置もなくエレベーターが途中で停止。当時、自分は南端ユニットに居住。今の部屋はダルマッジのユニット。それを購入。この夜に演劇プロデューサーのフレデリック・ジーグフリードを殺害。至近距離から心臓をうった。それは演劇の一場面では。否、真実。ジーグフリードとは悪辣な興業家。然り、彼はマジェスティック・シアターをハリウッドとむすんで低俗な娯楽小屋にしようとした。自分はジーグフリード・エンターテイメントにいて、主役がはれるようになったばかり、文句がいえなかった。ジーグフリードは一階で殺害。然り、そのオフィスで。でもあの夜はずっと34階に、ジーグフリードがうたれたのは停電中。然り。近所の住人と一緒。然り。停電は8時半から10時50分まで。医師の奥さんとなったジーン・フラナガンが9時に安否確認にやってきた。それから15分後に廊下であって彼女の部屋に移動、それからずっと一緒。ジーグフリードが殺害は9時から11時の間という。ジョディが御手洗にきく。

どうやったのか。停電でエレベーターが停止、では階段か。徒歩で、女性には不可能だろう、しかも所在不明の15分には、不可能。然り、では窓からロープをたらしておりるか。どの部屋も窓は手前に7インチ、スイングする。その隙間だけ。外にでられない。然り。降参か。正解をしる人がいるか。否。では降参は不可、で、どうして殺害だけはわかるのか。うったのは自分。たしかか、保証するか。然り。ジーグフリードはどんなかっこうで死んでたか。オフィスで、社長の机に付属した椅子にすわり、うつぶせで死亡。椅子にすわってる彼を前方から。然り、蝋燭の灯りの中、たちあがろうとした。本当に一階でか。然り。その時のピストルは。もちかえってあの箪笥に。魔王の力で一階に。然り、その時、魔王の雄叫びがきこえた。事件の捜査は。迷宮入り。ジョディが御手洗にきく。このビルをもっとみたい。然り、ガラスのテラスも。幽霊ビルの謎も。然り。

** 3) ガラスのテラスから時計塔へ
*** 1) ガラスのテラス
ガラスのテラスからセントラル・パークの素晴しい眺望がたのしめた。セントラル・パーク・タワーは公園にそってはしってるセントラル・パーク・ウエスト通りからワンブロックをはさんだ場所にある。御手洗がきく。公園に隣接しないのに何故この名か。然り、当時にくらべて高層ビルがふえた。時計塔の時計が利用できる人もへった。時計の文字盤がなくなったのは何時。教授がいう。身の毛もよだつ事件から。どんな事件。詳細は後述、このビルが1910年に建立。

19世紀末にはニューヨークとシカゴでビルの高さ競争。シカゴに高さ規制がしかれてから、競争はニューヨークの独壇場。1903年、フラットアイアン・ビルが世界一、だが1908年にシンガー・ビルの41階建、1909年、メトロポリタン・ライフ・タワー・ビルの50階建、1913年、ウールワース・ビル。これは旧マンハッタン銀行やクライスラー・ビルがたつまで世界一だった。このビルは38階建、3年早くたってれば世界一になれた。この近辺では一番高いビルだった。このテラスは空中にせりだしてるのか。然り。これによりジョディ家の窓はほとんど消失。然り、北面、北東面に若干。壁面はギリシャ神殿風の石柱が並立。その間に窓。東面、セントラル・パークの側は天井から床まで全面ガラス。然り。ユニット二つをもつから出来る。然り。それも34階以上でないと駄目。このビルのアパート階は各フロアが16から17ユニットでちいさい。34階は8ユニット。ギリシャ風の石柱が犠牲になった。建築家に不満。然り、34階と36階は天井がたかい。36階にも石柱か。否、35階、36階をつらぬくオベリスクの石柱。このテラスの設計者は日本でしりあったタダオ・アンドウとフィリップがいった。セントラル・パーク・タワー34階にガラスの直方体をつきとおした。然り。中央部はリビングと一体化、Tの字の頭の部分がガラスのテラス。もっともTを倒立させ、さらに斜めにした。北にゆくとちょっとだけ空中につきでる。然り。こちらの眺望も素晴しい。床は木材だが一部が石、何故。フィリップがいう。突き当たりのガラスを三分割、その中央部を前方にたおす。こうすると雨がふりこむおそれ。それで石。納得、天井がたかいから開口部も上、転落のおそれはないか。9インチの隙間。

*** 2) 廊下、エレベーター
教授が表の廊下、エレベーターホールを案内。この階は外はギリシャ風で内はエジプト風か。然り。エレベーターの説明。居住階は36階まで。37階と38階は時計塔。そこには大時計、機械室、物置、大型の給水タンク。いったん電気駆動のポンプで貯水。廊下に窓は。無し。他の階も。然り。電気代がかさむ。然り、停電になればエレベーターが停止、照明、給水、トイレ、エアコンと問題。充電装置、自家発電装置なしか。無し。他のビルも。然り、調査したら、病院、警察署、消防署をのぞくとなかった。御手洗が暫時無言。教授がきく。あの15分間の移動を本気できいたのか。妄想。ジェイミーも、さらに実際、階段をかけおりた体験を説明。妄想説に賛成しないのか。暫時無言、弾丸の旋条痕が一致したら。箪笥にはピストルがあるはずと反論。おどろく教授にいう。一致する可能性がある。それより誰かが犯行後、銃をわたしのでは。なら、その名前をしってる。きいてみる価値がある。でもその答はわかってると御手洗。誰。ファントム。エレベーターホールをいったりきたりする御手洗がきく。エレベーターは12基か。然り、その一つは用務員用。どれか。

一番奧。色がちがい、上に居場所をしめす針がない。到着はどしてわかるか。音。レバーが付属、それをつかんで横にあける必要。転落の危険性は。ない、到着しない限り、ロックが解除されない。一般の住民はつかわない。然り、ただし朝の混雑時は別かも。何故。このエレベーターだけが時計塔の38階までゆく。そこは凄惨な事件がおきた現場。ボタンをおしてまつ。

*** 3) 38階
当時も住人はのらない。用務員と荷物の専用。到着、三人がはいる。教授が38のボタンをおす。御手洗が床に溝をみつける。何のため。不知。到着。暗い。工場の工作機械みたい。然り。もう電気をとおしてもうごかない。然り。これが文字盤の裏か。然り。明かりは。文字盤の中途に外への出入口、文字の外の円周上に小窓。これが文字盤の裏。時計は38階のフロアをつらぬいてる。二階分。然り。これが文字盤の壁。御手洗がペンライトでてらす。窓はふさいだのか。然り、すべて。外部にでる道は。無し、外にでられなくなったが特に不都合なし。これが給水タンクか。然り。また機械をしらべる。このバーは。一時間に一度これがおしだされるようだ。その先にふさがれた穴を発見。何か。不知。これが出入口の跡か。然り。さっきの穴の左上に位置する。御手洗が凄惨な事件のことをきく。教授が現場での説明をしぶる。この穴が無関係かきく。無し。納得しなかったが、コードの跡を発見。文字盤には照明がついてたか。然り。それが事件後に撤去。然り。給水タンクを点検。隣りの物置小屋にはいって点検。

*** 4) 下り階段
階段をおりはじめながら御手洗がいう。窓がないから、事件後に怪談がうまれると御手洗。ここには不可解な窓の怪談がある。ダルマッジは窓とともに死んだ。窓の大半が破壊された。爆発物をNYPDも調査。未発見。破壊は窓だけ。ドアは。無し。原因は。不明。何時。1921年9月、その時、ハリケーン襲来。ジーグフリード怪死事件の時か。それ以前、ジーグフリードは10月。ダルマッジは。34階の部屋から通りに転落死。原因は。無理に窓の数をふやしたからかも。ダルマッジのポケットに不可解なメモ。何。エジプトの絵文字。解読は。まだ。

*** 5) 37階
37階に到着。御手洗がいう。この壁はあたらしい。無視。管理人室がないのが不可解。時計はネジ巻きでなく電動式、常駐は不必要では。でもこんな膨大な機械類、油をさす。時刻の遅れを修正。停電も。保守点検に常駐がよい。専用のエレベーターも。上の物置小屋でないか。それは狭隘、ガラクタがあった。どこにおくのか。エレベーターがあるから常駐は不要と教授。

** 4) ファントムにまもられた生涯をかたる
*** 1) また殺人の告白
また同じエレベーターでもどる。テラス、降雨である。三人はよばれて寝室にいった。そこに劇団オーナーのジョン・サクソンがいた。ジョディが劇団名にサリナスがはいるとうれしそうに報告。サクソンがいう。写真を。臨終写真か。部屋の照明を足元の一つだけにしてマンハッタンの夜景をみた。窓は飾り枠にステンドガラスがはめられ、中央が透明だった。ファンからおくられた。この部屋にうつった時か。否、南の時、引越しの時にもってきた。御手洗がきく。このガラスはとりはずせるか。否、強化ガラスの上にはりつけたもの。ジョディがいう。抗菌ガラス。教授が口外しない約束で話題をもどす。ジーグフリード事件はいつ。1921年10月3日の夜。9時から9時15分。かりにNYPDに弾丸がのこっていて、ジョディがもってる拳銃でうった弾丸の旋条痕と一致したら。自分がうった。でも犯人からもらったのでは。否。もしかした犯人をかばってるのでは。否。御手洗がきく。

*** 2) ダルマッジの転落死
ダルマッジの不可解な事件だが。それはいつ。1921年9月10日。夜8時、ハリケーンが上陸。ジーグフリードの事件の前。然り。爆発時には在室か。然り。怪我はなく耳がツーンとした。おおきな音、ガラスがわれた。火薬、臭いは。無し。ステンドガラスは。その後にもらった。ダルマッジ一人が被害者。然り。彼が原因か。否、自殺する理由もなく、一瞬でビル全部のガラスをわるのは不可能。殺害されたのか。かも、自分に部屋をあたえるため。一同驚愕。このアパートは憧れ、ステータスシンボル。自分は当時成功、訪問客がふえ手狭。二つのユニットがほしかった。そのためファントムが。21年はファントムがあれくるった年。でもファントムなら全部の窓をわる必要はないのでは。然り、真意不知。21年に何故あれくるったか。欧州の戦争をおえ、かえってきたから。第一次世界大戦ですね。然り。人間みたいに。否、魔王として、その力で殺戮破壊。その力で誰かをスターにする。然り。魔王の力はガラスを一瞬で破壊、ジョディを一瞬で一階に移動。その他には。邪魔者を排除。その話しとなる。

*** 3) ジョディをまもる魔王の力
1916年9月3日、自分の21歳の誕生日の夜。風邪で部屋にいた。病院にもいけず薬もかえなかった。でも高級アパートに。然り。援助者がいた。怪人のこと、気がつくと一人の長身、ハンサム、ダークスーツの男性が。おどろく自分に味方だ。安心してと薬を。ちょっと気がとおくなったが、自分はちいさな船にのり水の上に。いくつか摩天楼の灯りがみえた。ここはどこかきいた。セントラル・パークのリザーヴァー池。低音でいう。誕生日おめでとう。誰。ガーディアンエンジェル。何がほしい。無し。ではスターにしてあげる。不信。するとずっと自分を見てた。スターになる素質がある。しかし周囲がつぶすだろう。だが大スターの素質がある。自分はどうすればいいのかきく。自分、ファントムを信じるか。然り、でもどうやって。イルマ・ブロンデルが死んだ。彼女はプロデューサーのパンドロ・サンドリッチに体をうり主役をえた。きたない女。さらに話しがつづく。

オーディションがある。うかるように努力を。スターになって自分の帰りをまて。どこにゆくの。欧州の戦争。かえってきたらまた協力。スターになることを保証する。お礼は。結婚。すると約束した。ジョディが胸がくるしいといいだした。 医師がよばれた。

御手洗がきく。何時、目醒めたのか。11時半。彼があらわれたのは。10時。1時間半。するとリザーヴァー池まで40分で10時40分、30分をボートから帰宅で11時50分到着。間にあわない。御手洗が再度質問する。イルマは殺害されたか。否、自殺。発言をうながす。

再会したのは1921年9月7日だった。自分はスターと。主役のオーディションに成功。誕生日の後、高熱をだした。枕元にファントムがたってた。薬をくれた。リザーヴァー池にいった。マスクの形がかわってた。彼がサンドリッチが死んだ。卑劣な男。今度のインディアン・フラワーでうたう主題曲は、すばらしい。ここでうたって。うたった。彼は両手に顔をうずめ、ないた。自分は孤独になった。結婚してくれといった。でもどこでくらすの。ここで。でもみつかる。絶対みつからない秘密の場所だ。今、邪魔者はいるのかときく。然り、マーガレット・エルグ。彼女はジーグフリードを利用してのしあがる。ファントムはいう。了解。彼女は自殺した。周囲をみてジョディがきく。夢の話しと思ってる。

*** 4) 臨終のジョディ
そしてまたインディアン・フラワーの主題曲をうたった。ファントムがむかえにきた。手をさしのべた。その手が下におちた。女優が死んだ。リサが胸にすがる。サクソンがはっとして、カメラをかまえストロボ をたいた。リサが悲鳴をあげ、幽霊だといった。ジェイミーもみた。あわててガラスのテラスの北端にたったが見つからなかった。御手洗がきいた。幽霊はガラスの内か外か。不明。死亡時刻は1969年10月3日午後7時50分。

** 5) ジョディを埋葬、医師が死亡
翌日、御手洗、教授、ジェイミーがジョディの部屋に集合。ジョディを納棺。御手洗が部屋の箪笥から拳銃を発見。ルガーP08、女性用の小型でない。一階への移動の話し。教授がいう。何度もみた設計図。現住。秘密の滑り台などない。額縁にはいったエジプトの絵文字を発見。死亡したダルマッジのポケットにはいってた。御手洗がいう。暗号解読を約束。ダルマッジの死亡の理由、ガラス破砕の原因がわかるかも。リザーヴァー池への訪問について、御手洗がいう。薬で眠る。帰りは催眠術。もし実際にいったら具体的な行動が。目撃者、つかった車、駐車場所、など。船の上の状況はジョディ自身の願望。反論がでる。

ニューヨーク警察(NYPD)は当時、リザーヴァー池を徹底調査。隠れ家は未発見。しかし可能性は有りと御手洗。ドイツのナティの地下道や地下鉄の駅、パリの地下道。マンハッタンにも伝説。地下にホームレスの空間。計画なら第二次大戦、ドイツ軍の空襲にそなえた大防空壕、昔だがインディアンの砦、その地下に地下の居住空間の噂。地下の隠れ家はあったかも。ジョディが実際にいったかもという話し。彼女のネグリジェを法医顕微鏡捜査官が調査。ウッドレルという草の繊維、ブラックベリーの実の皮質、公園に固有の土壌などを発見。御手洗がいう。この絵文字は秘密の地下をしる手掛かりかも。廊下の金属扉の鍵がないが、どこに。不知。箪笥か。不知。家族にきいてくれ。

十月六日午後、フォレストヒルでジョディが埋葬。その頃、3402号室の老夫婦の妻のカレン・ブラックが午後4時40分頃、隣室の騒音、大声、銃声に似た音。ジョディの部屋は無人。夫人がドアのスコープから廊下をのぞく。怪人左から右に移動。5時10分過ぎ、かえってきた夫か隣室の医師の部屋をたずねた。医師が銃でうたれて死亡。

* 3) ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

摩天楼の怪人 (創元クライム・クラブ)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本



* 4) 時計塔殺しの怪
** 1) 踊り子メリッサが自殺
NYPDの刑事のサミュエル・ミューラー刑事とジョン・リーヴェンがセントラル・パーク・タワーにむかう。3504号室にはいった。管理人と女性の清掃員がまってた。挨拶、発見者は。清掃員。浴室にはいった。浴槽に裸の女。銃で胸。拳銃がのこってた。右手の爪の先に煤。浴室内にあらそった跡なし。管理人がいう。清掃員から連絡、浴室のドアをやぶった。清掃員。屋の住人、メリッサ・ベイカーがみえず。浴室がロック。異変、連絡。年齢は30歳すぎ、ブロードウェイのコットン・フィールドの踊り子。ビルがたってから現在まで6年、ここに居住。自殺の原因は。不知。知り合いは。36階のイルマ、ミシェル・クレイン、34階のジョディ。いずれも女優、踊り子でない。

3604号室のイルマとあう。リビングでいう。素晴しい眺め、窓はあくか。手前に7インチ。照明器具もチャーミング。ユリの花束の意匠、花の下にスイッチの紐。イルマがいう。従来のと交換、みんなそうする。明かりの度合いを調整できる。ミューラーがきく。メリッサと友だちか。一番したしかったかも。何かあったか。自殺。驚愕。失神。自殺の理由は。不知、追いつめられてたかも。年齢が限界、契約も今年が最後。ほかに踊る場が。ある、バックダンサーなら、この部屋にはいられない。ブロードウェイとの関係の話しとなる。

34階以上の3、4、7、8のユニットは、有名劇場の劇場主、興業主、音楽家、売れっ子作家、プロデューサーたちが購入。彼女たちはこの人たちから廉価で賃貸、スターになれたら、また廉価で購入。メリッサは一生ここにいたいといってた。

** 2) イルマが自殺
犯罪研究所の検証もメリッサを自殺。この時、セントラルパーク・タワーが愛人マンションといわれてることをしった。

メリッサの自殺がまだなまなましい8月、14日夜。つめたい降雨。管理人からミューラーに連絡。イルマがリビングで拳銃自殺。銃声にきづいた隣人から連絡、入室。きてくれ。了解。

3604室に到着。入室。管理人がリビングに案内。明かりはユリの花束風。花はすべて点灯。その真下にイルマ。明かりをつけたか。否、発見時のまま。拳銃は絨毯の上、輪胴式のエンフィールドらしい。右のこみかみに弾丸の穴。周囲に煤。右手の指先にも煤。拳銃は袋にしたストッキング、だが銃身は外に露出。女性が頭部をうって自殺したのは稀。廊下からはいるドアには鍵は。施錠、合鍵で入室。合鍵はフロアパス、管理人が管理。壁の裾、床の近くにうまった弾丸を発見。銃を点検、弾倉にまだ二発。カーテンが風邪にゆれる。

ガラス窓が手前にひかれあいてた。すかっりあけられる窓は。一階のオフィスのみ。このガラスははずれるか。否、はめごろし。われたら。否、われない。強化ガラス。万一われたら、壁をこわすしかない。外部に非常階段は。無し。外部から侵入の可能性はなしか。では自殺。

自殺の原因は。不知。競争から落後か。不知、劇団の仲間かパトロンにきいたら。誰。サンドリッチ、ジーグフリード・エンターテイメントのプロデューサー。バトル・オブ・ヴェネツィアの主役に噂。サンドリッチの住居は。34階のここ。

** 3) 新主役をオーディション、プロデューサーのサンドリッチ
ミューラーが隣室の3603号室に。管理人に連絡したのか。然り、彼女は。死亡。名前は。グロリア・オースティン。銃声をきいた。然り。自殺か。然り。イルマとの関係は。廊下であえば挨拶。最後にあったのは。今夜、廊下で。変った様子は。無し、自殺などする様子でない。何度銃声を。二度。その間隔は。多分三分。

翌日、イルマが出演してたマジェスティック・シアターをたずねた。表に弔慰の花束、蝋燭。本日休演の看板。裏口から劇場内部に。大勢の女の子、何の練習かきく。オーディション。よびとめ警察のバッジを提示。事件か。否、定型の確認。イルマをしる人は。不知。なやんでたか。不知。遺書もかかず自殺するか。不知。彼女の主演の評判は。評論家にきけ。新聞は。可もなく不可もなし。でもそれがいつもの評論。イルマも気にしてない。然り、有名になれば勝ち。オーディションに参加しないのか。然り、自分には無理、一応役をもらってる。では最有力候補は。ジョアン・クロファードか、ジョディ・サリナスか。どこに、ジョディがとおりすぎた。声をかけた。セントラル・パーク・タワーに居住のジョディか。然り、何か。イルマのこと。不知。自殺の心当たりは。無し。同アパートに居住。然り、あわなかった。あいた主役の有力候補だとか。どうか、上背が不足、しかし頑張る。サンドリッチにあえるか。アポイントメントが必要だろう。

部屋にゆく。不機嫌そうに誰か。警察。多忙、5分間のみ。自殺の原因は。不知、本人しかわからない。だがプロデューサーが一番ちかしいのでは。今回の主役になやんでたかも。それが遺書もかかずに自殺する理由か。だろう。彼女との間柄は。不答。では順調か。順調。次に3604号室に誰をいれるか。不動産屋。成程、しかし今度の主役をきめるのはサンドリッチだろう。無言、退室をうながす。

** 4) 時計塔に惨劇
雨、マンハッタンの10階建のアパート、動物の咆哮。ウォルター・フックが本から顔をあげ、窓を手前に。アパートの8階。また声。地上の騒音より響く。眼前にセントラル・パーク・タワーの壁面。窓に顔をちかずけ、ゆっくり見あげる時計塔、「助けてくれ」。10階から屋上。文字盤の文字の一つ一つをドーナツ状に明かりがかこむ。また声。双眼鏡。2時13分を時計の針がさす。数字の「3」の中心部寄りに穴、人間の首。放心。長針が男の首の後ろからせまっていた。また放心。「5」と「6」のあたりの灯りが赤い。血。もう黒球しか。あわててセントラル・パーク・タワー1階の管理人室にかけつける。外にかけだす管理人。不審気な歩行者。時計塔からロープがさがってる。先端に重い塊が。管理人室にきた25階の住人、その部屋に。窓から人間の頭部。三人は貨物用のエレベーターで38階に。そこは裸電球の光、12個の明かりとりの窓の外光だけ。歯車、機械のなかにある通路をいくとデスク、その上に男の体た。両手を背中に、脚部はデスクに厳重にしばられてた。背中に上部に蝶番がついた金属製のあおり戸がのってた。デスクを部屋側に。開口部に長針の一部がのぞく。管理人がロープをひきあげる。長針が音をたててうごく。一分たったから。あっという声、管理人がいう。首がぬけおちた。

** 5) サンドリッチが死亡
ミューラーが思う。1910年代はニューヨークが株価上昇を謳歌した時代。もっとも春を謳歌したのがギャング。1914年、第一次大戦が欧州に勃発、1917年宣戦布告した米国からも男たちが参戦。若い労働力の不足。マンハッタンの南を開発、農村から多量の労働力を招致。1919年禁酒法が成立、違法醸造でギャングは警察をはるかにこえる火力と機動力を。1929年バブルが破裂しニューヨークにも大量の失業者が。大戦がえりの失業者もくわわりハーレムの治安は一挙に悪化。ところで1916年のイルマの自殺であいた主役の話しである。

ジョディが主役を獲得、以後順調にスターの階段を。1921年頃、欧州戦線で実績をあげた黒人たちはニューヨーク凱旋でジャズを。喝采。ニューヨークはだんだんと狂乱の姿を。高層ビルから落下傘兵が。上級をアクロバット飛行が。死者も。セントラル・パーク・タワーにも狂乱の波が。1921年9月5日夜、雨。セントラル・パーク・タワーの管理人から事件の連絡。被害者はサンドリッチだった。

** 6) 時計塔で現場検証
サンドリッチはイルマの部屋を所有してた。サ ミュエル・ミューラー、リーヴェン、管理人が38階にのぼった。ミューラーがきく。この体はサンドリッチのものか。然り。どこで。大男。印象は。よい。体の各部は厳重にしばられ、胸の下に板がわたされ、そこに頚部が固定。その板は木ネジで固定。このデスクは備品か。然り、昔、管理人が常駐してころのものらしい。この時計のメンテナンスは。週一回、専門家がくる。彼がいない時、この部屋は。無人、誰もあがってこない。外部の人間がはいれるか。可能。中からロックできるか。錠をもってくれば階段の出入口は可能、しかしエレベーターのドアは不可。機械の陰、文字盤の裏の開口部によばれた。

開口部から首をだして確認。ロープがひきあげられた。もう一度開口部から首をだし上部を確認。長針がおりてきた。通常の時計とちがい長針が壁側に。現在、0時10分。また長針がやってくる。そこにつけられた凶器をはずす。長針には軽量化のため無数の穴、そこ利用し凶器が付着。管理人にきく。この開口部の意味は。表にでるため。表にでたら何につかまる。特別な仕掛けが。何。毎時15分になるとこのバーが外のおしだされる。そこで支えをえた長針の上をあるく。一分間だけ。むこうの壁までわたる。張り出しにのって壁の向こう側までまわりこむ。そこに梯子。そこから屋上におりる。何故、でる必要がない。然り、今はない。大丈夫か。文字盤にグリップがある。それをにぎってわたる。一分すぎたら。バーがひっこむ。のるとあぶない。屋上におりた人間はどうしてもどるのか。一時間まつ。危険な設計でないか。然り。昔は下の階からのぼれたらしいが閉鎖。今、給水タンクも室内、避雷針の端子も室内、不必要。時計塔の今後である。時計はまわりのビルにさまたげられ役にたってない。この事件が新聞で報道されると、おかしな天誅があつまる。このままは危険だ。

** 7) ジーグフリードにきく
翌日、6日、ビルの管理会社は大時計の撤去をきめた。即時、長短針、文字、ランプの撤去、開口部の穴埋めがおこなわれた。ハリケーンがせまる中あわただしい作業だった。8日日没前に終了した。捜査の話しである。ミューラーが考える。

サンドリッチの死によって利益を得る者は。ジーグフリード・エンターテイメントはバトル・オブ・ヴェネツィア他が順調な実績。これはサンドリッチの台本選びの慧眼、ジョディの名演による。ジョディはもっとも成功をおさめた女優の一人となった。サンドリッチの死は彼女にとって将来の不利益。ちなみにかって対抗馬だった女優の名はわすれられてた。ジョディとサンドリッチの愛人関係は公然の秘密。他の男性との関係も噂、しかしこれは清算、ならば結婚もあった。最近サンドリッチは彼女の性格にあった題目を選定、これはサンドリッチのみができること。ジョディに動機なし。さらに専門家は彼女の人気は徐々に低下と予測。サンドリッチにかわる演出家がいるか。

皆無。これから開演予定のインディアン・フラワーは急遽社長のジーグフリードが代行と決定。ではジーグフリードが得る利益は。多忙による損失のみ。経営、事業の兼務により両者にさく力が逓減、最悪、両方ともゆきづまる。すでにこの世界で名声を確立、いまさらたかまる名誉はない。このことは事前に充分に予測可能。むしろ二番目に痛手をこうむる本人。うがった見方では。ジーグフリードがジョディに魅力を感じてる。あり得る。しかし名声を確立したジョディがジーグフリードになびくはずもない。

ジーグフリードは1階にオフィス、30階は仮眠用の部屋、34階にまた貸しの部屋。他に五番街に自宅。ミューラーとリーヴェンはオフィスをたずねる。ジーグフリードは如才なくむかえてくれる。今日はマスコミがおしよせて多忙、しかし自宅にもいられない。興業主は孤独。5日サンドリッチとあったか。ちかくのレストランで会食の予定。しかしあらわれず。話したか。午後3時、自室にいた彼と電話で。勿論、生きてた。然り。場所は。3604号室。これはかってイルマが居住。サンドリッチを殺害したいとうらむ人は。周囲のすべてがうらみ。しかし殺害まではない。彼なしではこまる。本当か。インディアン・フラワーの関係者はすべて痛手。彼の死でジーグフリード・エンターテイメントは弱体化のおそれ。でも一人。誰。自分、存在感をうしなった自分。しかし殺害はない。アリバイも。では誰が。不知。ではライバルは。彼らはちゃんと損得勘定ができる。よほどの私怨でもなければ。彼がいなくなって得した者は。無し。彼に借金してた者は。無し、倹約家だ。貸すならすでにくれてやってもいいという、利益をえてる時だけ。それは何か。サンドリッチは女にしか貸さない。メリッサは。彼女は踊り子、関係ない。ではどこへいけば手掛かりが。不知、嫉妬心、恨みは殺意でない。いないとこまる。しいて自分か。結局、損。台本をこきおろされた脚本家、演技をこきおろされた役者。これはは常態、サンドリッチは面倒見がよい。こきおろしてもチャンスをあたえる。つまり不知。

** 8) ダルマッジにきく
二人は34階のジョディをたずねるが不在。事前連絡してた。5年前にあった彼女と比較。ジョディは綺麗だったがイルマや対抗馬の女性ほどは舞台映えしなかった。ダルマッジに部屋に。ミューラーがリーヴェンにきく。ブロードウェイの女優に妻としての気立てをもとめるか。否。では、観客はどうか。リーヴェンの演説がはじまる。それは愛人に料理の腕をもとめるもの。ではブロードウェイの女優には。料理も気立ても不要、歌と踊りのみ。それは愛人型、同感。では、何故、ジョディはスターになった。むしろ家庭タイプ。それは眠るまえにはドライ中マティーニかギムレット。今は禁酒法の時代だ。何でも酔えるものをもとめてる。だからジョディか。然り。

3408号室のダルマッジをたずねた。セントラル・パーク側や南のミッド・タウン、チェルシー地区もみる。眺望に感嘆してると、ダルマッジがいう。そんなに窓は必要ない。窓があると構造上に問題があるのか。否。高層建築で窓のあるなしは、関係ない。構造上の強度は窓に無関係。それで安全なのか。然り。何が支えか。鋼鉄のフレーム、錬鉄なら10階まで。石の補強がなくてよいのか。然り、むしろ危険。地震になったら上のほうで共振、倒壊の危険。マンハッタンで地震か。否、カリフォルニアでは現実の危険性。空想上で現実感がわかない。では船の話しをする。

木造の船がなくなった。何故か。巨大な船をつくると木造では重くなる。鉄造のほうが軽い。嵐、強い海流、衝突時、重い木造の集合はその部材があばれて船体をつぶす。で、窓の話しは。強度をささえる構造物があるから今の高層建築では窓だらけもいい。それでは頼りなげ、不安。暫時、沈黙、個人的にはちいさい窓を望む。窓は建築家を堕落させる。壁は室内にさまざまな趣向がこらせる。その可能性をひろげる。額にはいった絵文字をしめす。エジプトだ。窓のない墓所に絵文字がえがかれた。窓がないから生まれた芸術。外観も同じ。窓ばかりならどれも同じ建物、窓がすくないガウディの建築は素晴しい。窓が建築家を堕落。

演説をうけてミューラーがきく。建築家は何故、壁に装飾や彫刻をほどこすのか。30階の彫刻は下からみえない。でも隣りに高層建築がたてば。建築家がそんな事態を想定してるのか。否。では何故。将来、小型の飛行船がゆきかう。でも、それは将来。だから、それまでは建築家個人の楽しみ。例をあげる。エレベーターが考案されニューヨーク万博に出品された時、建築家が考えたこと。多層多床式の自然。各階ごとに草原がひろがり、高い天井に青空がえがかれる。家があり、そこに飛行船が繋留。。それは壁の専用ゲートから外界に。この夢想が今のマンハッタンを。

今撤去がすすむ大時計についてきく。馬鹿げてる。機能に悪影響があるか。然り、よいわけない。設計者の思惑を無視。かってはあった37階から屋上への出口がふさがれた。これで屋上にでる手段がなくなった。5日のアリバイをきく。午後3時から10時まで来客があったと証言。ミューラーが午後3時にはジーグフリードが電話で話したと証言があったというと、信憑性に疑問。以前に演劇複合施設の設計を依頼するとの約束を反故にしたと非難。

ハリケーンが上陸し、その翌日、10日8時にセントラル・パーク・タワーに大音響とともに爆発があった。3階以上の窓ガラスがほとんどわれた。路上にガラスの破片が山積した。その中からダルマッジの死体が発見された。爆風でふきとばされたらしい。そのポケットに絵文字がかかれた紙片がはいってた。

* 5) ライオン大通り
** 1) 絵文字を解読
ジェイミーがカフェで御手洗とあった。絵文字を解読したとエジプト絵文字とアルファベットとの対応表をみせた。これでジョディがもってたメモ、もとはダルマッジのポケットにはいってたものを解読する。次のとおり。

Times Square
Cleopatra's Needle(Boulevard)
Bethesda Terrace
Schiller
Beethoven
Fitz Greene Halleck
Sir Walter Scott
Shakespeare
Gapstow Bridge
Lion Boulevard
Geekfleed

** 2) 解読が意味するもの
これが何を意味するかジェイミーにきく。あの大事件があった時代にかかれたもの。然り、でその意味は。セントラル・パークの観光案内か。あたらずといえどとおからず。でも、絵文字は必要ない。アルファベットで充分。然り。それはアルファベットでは危険だから。殺人計画とか。あるいは秘密文書かも。何かの犯罪行為の道順。当り、かも。何の道順。当然、最後の文節、ジーグフリード。しかし、セントラル・パークにはジーグフリードの住居でない。然り、五番街。ジェイミーがいう。不可解、タイムズスクエアからクレオパトラへ進め、そう読むしかない。これが隠す必要があるものか。普通は然り、しかし推理すると。

でもタイムズスクエアが何故、一番最初か。然り、疑問その一、ではその二は。ライオン大通り。どこにある。然り、その三は。ジーグフリードの住居表示、マンハッタンは東西、南北の街路で表示できる。ここにある表示の基準は何か。御手洗がいう。同感、ほかに疑問は。このメモをのこす必要はあるか、自分の頭におさめればよい。同感。他人への指示。同感。絵文字をよめる建築家はダルマッジのみ。同感。さらにダルマッジはポケットにいれて死亡、他人に指示してない。さらにジーグフリードを殺害する動機はなかった。さらにジョディが殺害した。さらにいう。ジョディは一階にいって殺害。メモは役にたってない。つまりメモは何の意味もない。然り、絵文字の練習かも。当り、ライオン大通りはない。御手洗がいう。それがひっかかった。本当か。然り、これは出鱈目のメモでない。

** 3) ライオン大通りがある
御手洗が話す。1910年代の話し。ゲイリー・ベイズというすご腕のギャンブラーがニューヨークにやってきた。舗道で女占い師に声をかけられた。今夜、零時にライオンにころされるといった。その日も勝った。バーにおちついた時、ラジオの臨時ニュースでセントラル・パークの動物園からライオンの二頭が逃走。バーテンダーにドアの施錠をたのんだ。零時に警官がはいってきた。ライオンは捕獲。ラジオでも捕獲を報道。大喜びで外にでて歓声をあげた時、自動車にはねられた。意識がなくなる前に彼の目にはいったのがニューヨーク市立図書館のライオン像。そこがライオン大通り。ジーグフリードのマンションはこの図書館ちかくにある。

* 6) 地下王国
** 1) 地下都市へいざなう
すべてをうしなった男がザ・ポンド(池)のふちにいた。黒人がやってきた。セントラル・パークの下にある地下都市に案内するという。黒人はウォルサム、男はジェシーという。時代は第一次大戦がおわった頃。

** 2) 地下都市へ案内
シェイクスピア像のちかく、排水溝から地下に。ニューヨークの下をはしる地下鉄、排水坑、水道管、ガス管、蒸気管の穴をとおりぬけ、地下におりて地下都市に。 おだやかな波がよせる岸辺。その床はしろいタイル。わずかに傾いていたから岸辺にみえた。ちいさな貝殻がついていた。少女が歓声をあげてひろってた。数ヤードの沖合に巨大な貝殻をかたどった水溜めと噴水。壁際に無数の松明が。この世界のリーダーを紹介するといった。

** 3) 王国建設を夢みる
石造りの大ホールに。ピアノをひいてる男がキングとよばれた。ジェシーが挨拶。欧州戦がえり。すると自分と同じ。ピアノ曲を二つひいた。たちあがった男は長身、ハンサムで肉色のマスク。ティールームに。戦争では。ドイツと塹壕戦で左耳の聴力をうしなった。この夢の王国はキングがたてたのか。然り、地下は地上より安定、安全。でも、太陽光はない。然り、そのためのテラス、そこに学校も。どのように建設したか。かって原住民がつくってた。搾取される者が地下に。では王国の目的は。つまらない手間仕事にわずらわされず、高度の精神世界をつくる。その豊かさを享受。このティールームは1870年に導入された地下鉄の車両。あのシャンデリアとグランドピアノつきのロビーは地下鉄の駅舎。市長がかわり廃棄。王宮の心臓部をみせるという。

ウォルサムがこの電気は盗電というと、キングがいう。水も。ちかく創設されるであろうあたらしい社会では食料、電気、医療は無料。地上では人民の大虐殺がおきるだろう。われわれはその備えが必要。木造の大ホールに。シティホールかつ自分の私邸。二階にのぼる。図書室、蒐集品の収蔵室、寝室が。一階におりた。大食堂兼会議室。地階に。米国の貨幣を大量に貯蔵した部屋、無数の重火器を収蔵した部屋、保存食糧を備蓄した部屋。キングがきく。この重火器を操作できる人物が必要、やる気があるか。一階に。このシティホールは木造の大型帆船、廃棄されたもの。次に天井のたかい場所。王国の村。ここには地上で生きる希望をうしなった者が。さらにすすんだ。これが王国の心臓。酒の蒸留所。禁酒法の恩恵をうけてる。王国はここから莫大な利益をえてる。ジェシーにいっしょに王国建設に挑戦してみないかといった。

* 7) エレベーターの亡霊
三十五階、待ち合わせに30分おくれた女性がエレベーターをまってた。住民用のエレベーターがこない。そこに貨物用のエレベーターが34階にのぼってくる音。それまでのったことがなかったが、重いレバーをおして扉をあけた。そこにグロテスクな怪人をみた。女性の悲鳴の中で扉がゆっくりとしまった。

* 8) ジーグフリード殺しの怪
** 1) ダルマッジ事故死が迷宮入り、女優マーガレットが自殺
ミューラーが考える。爆発の原因についてNYPDは各部屋をたずね徹底的に捜査。爆発物の痕跡はまったくなし。同時に爆発なら、時計仕掛。しかし機械装置なし。かりに爆発物によるとして。被害は該当の部屋、その隣室ぐらい。実際と相違しすぎ。全窓に爆弾装着。これは不可能。ガラスの破壊以外の損害なし。おおくの住人が在室。しかし被害者なし。ガラスのわれる破壊音以外になし。では窓際に付設した未知の爆弾か。あり得るが、動機が不明。で、ダルマッジ一人をねらった爆発か。動機が不明。経歴から建築界に知人なし。怨恨の線なし。設計の依頼主の線から。欧州なので連絡不可能。肉親、親族は不明。結局、迷宮いり。爆発の後始末がおわった頃のこと。

管理人からミューラーに電話。3405号室のマーガレット・エルグが自殺らしい。マジェスティック・シアターの女優。部屋はジーグフリードの所有、最近うつってきた。自殺の状況がまったくイルマの時と同じだという。

** 2) 現場検証、ジョディとやりとり
ミューラーがリビングにはいった。ソファの革張り、カーテンの柄、ワンピースの柄がちがっていたが死体の状況はまったく同じ。銃はストッキングに、弾丸は二つ装填。舞台ファンの管理人にマーガレットのことをきいた。最近、二本の劇に主演。売り出し中。艶笑喜劇。ジョディとは世界がちがう。窓はロックされてなかった。死亡推定時刻は午前零時。ジョディにあった。正午だった。扉をへだててマーガレットのことをきいた。不知。死亡をつたえた。驚き。午後一時、ジーグフリードの事務所であうという。昨夜は仕事の打ち合わせで帰宅はおそかったといった。

** 3) ジョディとジーグフリードが証言
ミューラーがジーグフリードの事務所で一時半にジョディとあった。ミューラーが約束を反故にされた経緯をばらす。それはサンドリッチが殺害された時、動揺してた。では昨夜の行動は。おそくまで稽古、食事、会員制のバー。帰宅が午前4時すぎ。で、アリバイを証明できる人は。ジーグフリード。話しの内容。次の公演。もめたか。然り。ではマーガレットの件、自殺としたら、その動機は。不知。では他殺なら。

男関係は、無し。ジーグフリードが将来のドル箱と目星、ガード。女にもなさそうだが、唯一、自分か。そして演技、歌、踊りについて酷評。ではピストルを部屋にもってるか。何故。ストッキングにいれて保管してるか。否。その習慣がマジェスティック・シアターの女優にあるか。 否。そのことをきいたことは。否。事務所にもどってきたジーグフリードにあう。

自殺に心当たりは。無し。他殺には。無し。では自殺か。ささいな不満かも。虚栄心、嫉妬心をこじらせたか。では他殺だと。あるかも。ジョディは。あるかも。マーガレットの死で利益をえる者は。まず損は自分。すこし得はジョディ。これから彼女への依存度がふえる。しかし、いささか時代遅れと批評。ジョディの不満はさておき、芸術路線より大衆路線だ。午前3時まで彼女といっしょか。然り、もめた、険悪の極地。台頭するハリウッドに路線変更が必要だが、反発する女優も。しかしマーガレットには新時代のオーラが。ジョディと見解がわかれて3時まで。それ以前の犯行ならアリバイ。しかしそれ以降でも鍵をもたないから無理。拳銃を彼女にあたえてか。否、自分で入手したかも。それをストッキングにいれて保管してたか。不知。ジョディのわがままはゆるさない、といった。

** 4) ジーグフリードが射殺
10月4日。昨3日の夜ははげしい嵐。8時半から10時50分に停電。電話。ジーグフリードが事務所で死亡。早朝出勤の社員から。社長室で死亡。セントラル・パーク・タワー1階の事務室。事務室に最初にやってきて発見。社長室の扉はあいてた。いつもはしまってる。ミューラーとリーヴェンが現場にむかった。

ジーグフリードが机にうつぶせ。ガラス板の上に蝋燭。芯がもえつき本体がすっかりとけてた。弾丸は胸からはいり、背にぬけてた。蝋燭の状況。一晩中、もえつづけた。ジーグフリードがうたれたのは停電中。この推理の補強材料。至近距離でうってる。文字をかくことをあきらめたので万年筆にキャップが。蝋燭をふきけさなかったのは、くらくなると犯人がこまる。蝋が血溜まりの上にのってる。犯人は椅子にすわったまま。知人だ。たちあがる必要のない知人。社員ならたちあがらない。動機がない。ジョディならどうだ。リーヴェンを立たせ机をはさんで現場検証。小柄な犯人ならあり得る。ジーグフリード夫人から電話。

停電を心配して9時5分に電話し会話。10時に電話したがでず。心配。死亡により利益をえる者は。無し、同業者も損をする。ハリウッドのケネディという人をマジェスティック・シアターによぶ契約をするといってた。また女優や踊り子をも。ジョディの部屋をたずね、強引にはいった。

9時5分から10時50分の間、何を。この部屋とジーン・フラナガンの家。3401号室。では、それを証明してくれる人は。ジーン、ずっといっしょ。はじめ自分の部屋をのぞいた。しばらくして、帰宅。こわくなったので廊下にでた時ジーンに遭遇、彼女の部屋でいっしょにいた。そこで明かりがついた。ジョディはジーグフリードの射殺をきくと衝撃を。ジーンの部屋にいった。彼女は入居後にしりあった。女優でなく、劇場関係者でもない。利害関係がない。9時に訪問、玄関で一分、会話、自室にもどり、9時15分に廊下で遭遇、二人で自室にもどり10時50分まで。リビングルームにいた。推理がはじまる

9時5分から10時の間に射殺されている。ジョディは9時から9時15分の間、所在不明。さらに電話で会話したら、9時5分から15分の10分が所在不明の時間。後ほど確認したが停電によりエレベーターは停止。

* 9) セントラルパーク講義
** 1) メモに人魚姫がない不可解を発見
*** 1) ニューヨーク開発とセントラル・パークの歴史
ジェイミーが御手洗にセントラル・パークの歴史をかたる。マンハッタン島の発展はオランダ人たちが南のロウワー・マンハッタンの開発。それから。格子状の道路はその時からか。然り。ニューヨーク計画というものにそい、まずくまなく道路を整備。しかし、すでに斜めにはしるブロードウェイは、そのまま。その時にこの公園はなし。その計画もなし。ニューヨーク計画は1811年。1850年、ある詩人がセントラル・パーク構想を発表。当時、市街化がまだ未進行。北端に市が公園用地を確保。費用は。無し。荒地だった。正式な土地所有者はなし。コンペで採用された設計図にもとづき、3000人の労働者により整地作業。1857年から16年かけ建設。ピクチャレスクという自然ふうの景観と人工を調和させる造園法を採用。黒色火薬で岩を破砕。危険だったがダイナマイトの発明は。1873年。時代を気にしてるが。この事件で必要。論拠は。直感、世の中の理論は直感。大陸移動説も電流の発見も。エジソンの電灯は何時。不知。1879年、家庭への普及は1890年代。

クレオパトラの針にきた。スエズ運河完成にさいしエジプト政府が米国の貢献を感謝する記念。1881年に移設。セントラル・パーク完成の8年後。クレオパトラとの関係は。無し。御手洗がメモを再確認し、公園の各所、記念像などの由来、設置年代を確認してゆく。アリスの像とならび人気のある人形姫の像がメモにないことを問題に。

*** 2) メモの作成年月
御手洗がいつメモを作成したか推理。ダルマッジが1921年死亡、1921年か20年か。同感。人魚はすでに存在。しかも大人気だった。では何故メモにないか。不可解。御手洗も同感。でもそれは法則性の誤解から。で、どこ。あちこち、あるいは何もかも。白紙にする。否、タイムズスクエアは公園にない。ライオン大通りもなし。つまりメモがさす場所はセントラル・パークでないかも。でもクレオパトラやシェイクピアがでてくる。不可解。同感。しかし方向がみえた。とりあえず、推理はここまで。他に一貫性を考える。何、それ。人魚姫があらわれない。これは1916年以前に作成ということ。人魚姫はまだ存在しなかった。では5年間もってた。それはない。何故。1916年にジョディがスターになった。それ以前にジーグフリード殺害の動機はない。成程。まだ推理はつづく。

*** 3) 不可解なメモの意味
ジェイミーがいう。そもそもメモの意味不明。同感。それをさておいて、誰が何の目的でジーグフリードを殺害しようとしたか。次の推理は。まずジョディには殺害の動機はあった。ダルマッジの指示をうけて誰かが彼女のために殺害しようとしてた。ありそう。さらに御手洗がいう。ダルマッジ自身が指示をうけたのかも。ジェイミーが事件を整理する。

1916年以前はジョディにジーグフリードへの殺意なし。然り。1916年からスターへ。サンドリッチの死で大女優はの道が。もしかしたらサンドリッチ夫人として生涯をおえたかも。ジーグフリードの死で政治的に彼女を制約でくる者がいなくなった。大スターへの道を驀進。然り。もし彼女のために殺人すらおこなうという人物がいたら。それが彼女のいうファントムなら。どうなる。狂った情熱でまずイルマを殺害、次はサンドリッチ、ジーグフリードでない。然り。しかしやがて彼女の活動を不当におさえようとした。それで殺意。1921年9月5日以前なら殺意はサンドリッチ。同感。では結論、メモは1921年9月5日から10月3日の間。拍手。しかし、その間なら人魚姫は存在したといった。ジェイミーにたいして謎解きの最大のテーマがみつかった。これからだといった。そしてジョディの鉄砲の旋条痕の照合結果をきくといって公衆電話にむかった。

** 2) ジョディの銃と医師の事件、臨終の亡霊をかたる
御手洗が教授に電話できく。NYPD訪問後に待ち合わせを約束。ジェイミーがきく。ジョディがもってた銃のデータは。有、旋条痕のある弾丸。しかしジーグフリードをうった弾は無し。写真は。無し。しかし当時事件を担当した刑事が生存。個人的に写真を保存してるかも。大女優の過去をほりおこすのか。然り、事実をしらなければジョディをすくえない。医師のこともか。然り。医師事件の話しとなる。

エレベーターホールの前に金属柵、その扉は施錠。各部屋の配置である。西側の区画。3401号室に医師。彼はそこの住人、ジーンと結婚し、ここに居住。南隣に3042号室がカレンと夫の部屋。東側の区画。北から南にむけ3403号室と3404号室がジョディ。射殺さたのは10月6日午後4時40分。3401号室に医師が一人、3402号室にカレンが一人、夫は午後5時10分帰宅。射殺された時には3403、04号室は無人。

ジェイミーがいう。密室空間に二人、犯人はカレン。否、別に鍵をもつ者が。無視しカレンの証言をいう。怪人が左から右に移動。これは嘘、だから犯人。否、むしろ、だから犯人でない。では、柵の外にいて鍵をもってる者がいるのか。然り。ではフィリップか。否。リサか。否。自分、ジェイミーか。否。共謀。否。御手洗がいう。もう一人、鍵をもってた人物。カレンの主人が外出から帰って、何らかの方法で殺害か。否、それは不要、外出の証言は妻のみ、虚偽とみたら。殺害可能は二人。では動機は。むしろない、でも警察が捜査中。ここで話しは終了。御手洗がきく。ジョディの臨終の時、亡霊を窓の外にみなかったか。見た。

* 10)不可能の証明
** 1) 警察捜査状況をきく
カフェで三人があう。存命中の刑事はミューラー。警察にジーグフリード事件の遺留品は。無し。ジョディの拳銃から発射された弾をもらう。旋条痕のある弾。医師をうった銃が判明、テイラーズ・キャトルマン。1873年製。至近距離から発射、弾が体内、死体に煤。薬莢から火薬が20%へらされてた。ジョディの所有か。否。弾は一発だけ。然り。拳銃は現場にのこってない。犯人はどうして侵入。警察の見解は鍵を複製。 目撃したという怪人は。警察は無視。医師とカレン両者の確執は。無し。

** 2) 元刑事ミューラーを訪問する
ミューラーの家にむかう。老人がでてきた。御手洗がいう。NYPDから入手した弾丸をみせ、ジョディがうったのは自分。謎をとけ。で、とけたか。否。謎をとくのにジーグフリードをうった弾と一致するかをしりたい。一致しないなら。別人の犯行、ジョディの発言は妄言。家に案内された。

** 3) ダルマッジの言葉にヒントをえる
*** 1) ミューラーとの会合
三人で夕食をすませて、ミューラーがジーグフリードをうった弾の実物をみせた。壁からほじくりだした。旋条痕は一致するといった。御手洗がきく。長年の懸案が決着したのでは。然り、でもさらに謎がふかまる。ではどうして一階に移動、とミューラー。彼女自身がどうして移動したかわからないという。演技では。否、本当にみえた。さらに1916年、ファントムにリザーヴァー池につれられた。そして短時間で部屋にもどった。次は1921年、ファントムは欧州の第一次大戦に従軍した。この時もリザーヴァー池につれられた。短時間で、またもどった。ファントムの魔力でといった。妄想、NYPDの見解。妄想でないかも。セントラル・パークにいったという物証。固有の土壌の鉱石、植物の繊維が彼女の夜着に付着。御手洗が事件の振りかえりを提案。

*** 2) ミューラーがかたる事件
踊り子、メリッサの自殺。銃は。輪胴式とだけ記憶。クラブ・コットンフィールド。ジーグフリード、サンドリッチとの関係は。無し。イルマとマーガレットは。同じような状況、リビングルーム、こめかみをうってた。イルマはサンドリッチ、マーガレットはジーグフリードにひきたてられた。共通のことは。ミニシャンデリアが点灯。ただしイルマは深夜、マーガレットは昼間。これは発見時間の差かも。発見のきっかけは。イルマは銃声をきいた隣人からの通報で早かった。死亡推定時刻は。同じ。ユリの飾りのついたシャンデリアの下。ユリは当時の流行。もとあるものを交換。死体がたおれた角度は。そっくり。頭を壁に、斜めに傾斜。シャンデリアの真下。拳銃は英国製のエンフィールドの同形、ストッキングに。弾は。頭に一つ、二つは壁、床の裾。方向は。足のほうにたって見れば、体がのびてゆく方向のすこし右。御手洗がいう。

メリッサはただの自殺、年齢が30、二人は20代前半。二人のプロデューサーとも関係がない。御手洗がこの事件には法則性があるという。ある人物にとって脅威となる人物がけされる。とりあえずはジョディだが。メリッサはこの点からも無関係。では二人は自殺でなかったのか。今いえることは、ストッキングにはいってることから指紋がグリップにのこらない。つまり二人の指紋がのこらない。シャンデリアの明かりは三度紐をひかなければもっともあかるくならない。その姿勢でいる時間がながい。しかし射殺者にとってそんな都合よい機会がくるものか。部屋は高層階、密室。しかも至近距離。部屋にひそみ、部屋にはいってきた管理人の目をぬすんで脱出かも。管理人が部屋にいたからあり得ない。御手洗が絵文字のメモをみせた。

*** 3) メモの作成年月
老人はおどろいた。解読できなかった。解読の結果を説明した。人形姫がはいってないことを不審がった。御手洗が一応の答をもってる。作成年月をセントラル・パーク・タワーが竣工した1910年にとれば1916年に登場した人形姫がないのは当然。反論した。否。ダルマッジのポケットからメモを発見、まあたらしいもの。筆跡、インクの跡から。ダルマッジとの会見の話しとなった。何故、歩行者からみえない高層に彫刻や意匠をほどこすのかときいた。タクシーが空をとぶ未来をみこした。でも、まだ実現してない。それまでは建築家個人のもの。そこは建築家の楽園だ。御手洗はわかったといった。謝辞をのべてわかれた。

* 11) サリナス家の亡霊
** 1) ジョディの部屋に急行する
帰路についた。御手洗はずっと考えにふけってた。42丁目の地下鉄の駅にちかづいて突然、ジェイミーにジョディの家の売却についてきく。すすんでるか。然り。現在、誰がいるか。リサ。業者にみせる写真をとってる。では危険、急行するという。ジェイミーの部屋にたちより、彼がもってる拳銃を携行。さらに金属柵の鍵をもってるフィリップに連絡。三人で部屋にむかう。

** 2) 負傷のリサをすくい御手洗は最後の場面に
リサがジョディがかって寝室にしてた部屋で家具の写真をとってた。窓の外に怪物の姿をみた。ジョディ臨終の時に出現した怪人。驚愕、放心。思いなおしてたちあがりベッドにちかづいた。部屋の隅に怪人が。銃弾が。リサはベッドにとばされ、反動でうつぶせに。さらに二発目をうとうとした時、三人が部屋に。救急車をよび、応急手当。怪人に用心しながら弾をとりだした。医師をうったものと同じ。救急車で搬送。一段落して御手洗がジェイミーに、53年間におよんだ物語は終焉にちかづいた。最後の場面にたちあうかときいた。

* 12) 幻想の空中ハウス
** 1) ガラスのテラスから外にでて、ライオン大通りをすぎる
フラッシュライトをうけとって御手洗がガラスのテラスの南端を点検。すこしぬれてるといって、そこに付設された閂をしらべた。やがて中央のガラスの上部をつよくおした。たおれたガラスの上部がわずかにあいた。雨がふりこんだ。ブルゾンのジッパーをとじて身じたく。もがきながらガラスの外に。天井に四つんばい、ジェイミーをてまねき。渋々したがって外に。たって点検してたが、手がかりをみつけて天井からおり横に移動。つづいて、おそるおそるジェイミー。御手洗がこれはダルマッジのメモがしめす順序を逆にたどっるという。ふりかえるとライオンの顔の彫刻がならんでた。その口の中にひそむ手がかりをたどっておいつく。これがライオン大通り。では最後のクレオパトラの針は何になるか。上にいけばわかる。

** 2) 屋上の楽園にはいる
セントラル・パーク・タワーの南面を西にむかい、中央にきた。そこに4フィートほどの蛇腹の装飾。そこが梯子の役目。奧にグリップ。屋上に。おどろいたことにそこに草原が。奧に水面もみえた。あれがザ・ポンド、シェイクスピアの像。コピーのブロンズ像。サー・ウォルター・スコット、フィッツ・グリーン・ハーレック。これはセントラル・パーク・タワーがたてられた時からあったのか。否。しってた者はいたか。否、ここを見おろす高層ビルはない。創造した者の楽園。セントラル・パーク・タワーの窓は7インチしかない。誰ものぼってこれない。この目的、意味は。セントラル・パーク・タワーとは、その建物の中にセントラル・パークがあるという意味。教授がいってたように、この建物の梁は異様にふとく、屋上の縁は普通よりたかい。これはニューヨーク計画を再現したもの。人工物の中に自然を再現しよというアトリウム。建築家の構想にすでにあった。根拠は。人形姫がいない。

自殺者を保護するとの名目でで時計塔の横からのぼる出入口がふさがれた。それは1916年より前。サンドリッチの事件により時計の文字盤からのぼる出入口もふさがれた。創設時にはこの楽園はなかった。時計塔横の出入口がふさがれた時からはじまった。それは誰か。不答。絵文字のメモの話しとなる。あれは。ここのテラスをおりてゆけとの指示。どこに。ライオン大通りをとって、最終目的地。ジョディか。否。ジーグフリードの家。しかし彼は1階の事務所で死亡。マーガレットか。然り。しかし、あまりに迂遠すぎる。さらに実行方法があるか。不答、奧にすすんで壁をのぼる。

しろいベルトがついている。階段となってた。御手洗がいう。エセスダ・テラス。そこで二股に階段がわかれる。そこに人間一人がはいるほどの空間、池をまねた水溜り、中央に翼をもった女神。実物を忠実にまねた模型。御手洗が上空から見おろせばエキサイティングな眺めだろうといった。

** 3) 雄大な壁面のレリーフをみる、怪人が出現
*** 1) リザーヴァー池
階段をのぼりつめると、縁に先のとんがった柱が無数にたってた。クレオパトラの針。35階と36階の周囲はクレオパトラ大通り。グリップをみつけて上に。そこは草原、その奧に広大な池、背後に灌木の林。うずくまる御手洗にならう。池にはボート。リザーヴァー池。ザ・レイクは省略。雨が草をたたく騒音で声がたかくなった。1916年と1921年にジョディがつれてこられたリザーヴァー池。池は完成しつつあった。周囲の草地も完成しつつあった。これらをつくったのはファントムか。然り。時計塔の裏側、四角の平面、タイムス・スクウェア。絵文字のメモがしめす道筋か。然り。ファントムはどうやってジョディをここにつれてきたか。文字盤の方から、長針の上をあるいた。本当か。然り。長針の上を安心してあるけるのは毎時15分の時のみ。10時15分にここにつれてきて、11時15分にもどした。雷鳴が轟然とひびいた。

*** 2) タイムススクウェアの広場
御手洗が時計塔裏をてらしてる照明をうった。たちまち闇。タイムス・スクウェアの壁に背をつけた。前にあるおもおもしい機械にちかづいた。蒸気機関。そこをまわりこむと前方に軒がみえた。慎重に様子をうかがって、木製のドアをあけるよう指示。ゆっくりとあけた。御手洗がすぐフラッシュライトを点灯し中にとびこんだ。粗末なベッド、シート、ブランケット。本棚が3つ、机、椅子。内部を点検。左にドアがあった。また慎重に確認。中に。木箱、金属製のタンク、手押し車。誰もいない。ここは何。石炭の貯蔵庫。で、石炭は。つかいはたした。家具の扉をひらいた。ふるい洋服が。1916年以前のもの。何故わかる。それ以降はおおきなものは、はこびこめなくなった。3本の瓶があった。サラダドレッシング。ジョディ家のキッチンから。その横の瓶やチューブは薬。管理人用のエレベーターの話しとなる。

*** 3) 管理人用エレベーターの謎解き、金色のレリーフ
その床に溝があった。あれは板をおとしこんで石炭をため、はこぶため。手押し車をつかってか。然り。石炭か。1910年代ではまだ必要。何のため。何にでも、しかし、もう石炭はおわり。臭気がつらい、ここは何。時計塔のもと管理人室。外にでた。「もと」とは。そしてもと屋上への出入口。もともと管理人室は屋内に。ここに、時計、エレベーターのモーターの保守をする管理人が常駐。屋上への出入口がふさがれ今の石炭室と管理人室となった。たぶんファントムの意志。エレベーターのモーターは室内側にあるから、ここは必要ない。今、誰がすんでるか。ロビンソン・クルーソー。時計塔裏のたかい壁の前にたつ。

フラッシュライトの光の中に白い壁面と金色の光沢がうかびあがった。金色は金箔がつかわれてる。雄大な壁面は両端が手前にせりだし中央をはさんで二人の女性のレリーフ。歯車は時計塔からとったもの。街灯はこの壁面をてらすため。ジェイミーがジョディの姿をみつけた。声がきこえた。それは池にうかぶボートからだった。怪人がいた。

* 13) ラストショー
** 1) 怪人にビルの謎をきく
御手洗とジェイミーが自己紹介。怪人はせず。御手洗がいう。怪人はオーソン・ダルマッジ。1921年に死亡したの誰か。不答、訪問の目的をいえ。それはジョディが1916年以来、このセントラル・パーク・タワーでおきた事件の謎をとけ、できるかときかれた。で、それをとくため。彼女は解答をもってたか。否。解答をのぞんでたか。否、魔力をもつファントムの仕業と信じてた。それで満足しろ。否。彼女も黄泉の国できくといってた。謎を解きたいのは人間誰もがもつ探求心。怪人がセントラル・パーク・タワーをつくったのも同じ探求心。怪人がいう。このビルの謎をといた。それを確認したい。そうか。然り。御手洗が約束する。21世紀がくるまで真相を公表しない。

** 2) 転落死した人物 をあかす
ビル爆発時に転落死した人の名前は。ミヒャエル・ボヘム・ブサオロフ、当時の助手。オーソン・ダルマッジを名のってたか。然り、戦争で顔をうしなった。屋上で創作に専念。もともと社交嫌い。ニューヨーク建築家協会の名簿にも登載されてない。然り。この世界からきえた。以来、ジョディの守り神となると決心。で、邪魔者はけす。然り。それほどの価値があったのか。ジョディはすぐれた女優。しかし怪人にはもともとセントラル・パーク・タワーを構想にもとづき完成させる。その使命があったはず。こちらに二度ともどる気がなかった。しかしジョディの名誉がけがされるようになってもか。無言。御手洗がいう。身代わりがいれば、いざとなればもどれる。然り。1921年のサンドリッチの事件で惟一のこってた道がふさがった。むしろ無上の喜び。部屋に身代わりがいた。生活用品は7インチの隙間から入手した。然り。御手洗がいう。

想定外の事故、身代わりの転落死があった。あの爆発の謎はとけたのか。9月5日にサンドリッチの殺害、9月10日に転落死、その時、ハリケーンが襲来。解答をもってるのか。仮説がある。フロリダの丘上の一軒家の屋根が一瞬でふきとんだ。ドアも窓も完全にしまってた。屋根は打ち付けだった。打ち付けは風によわい。然り。ちかくの街灯がおれてた。おれた時、窓に穴があいた。窓の破壊はこの巨大版だろう。風がふきこむ穴があいてたか。然り。文字盤の芯棒の穴がのこってた。撤去作業が完了しなかった。さらに風により共振がおきる。フルートの吹口に風がとおるように強風がふいた。自然現象だった。

** 3) 屋上の生活をかたる
ジェイミーと御手洗の対話に怪人が口をはさむ。身代わりがなくなって、どうして生存できたか。飲料水は。37階の給水タンクに穴をあけて入手できるようにしてた。電気も盗電。食料品は。ここは一種の農園、健康な食生活ができる。成程、これに魚があればロビンソン・クルーソーだな。飛行機、ヘリコプターに発見されないか。人間がいることが発見されなければ問題とならない。成程、では孤島にすむ自給自足の人間か。否。マンハッタンは巨大な生命維持装置、日々、食料、水、電気、エネルギーを排出する。それを無料で入手して地上にも地下にむ生きる連中がいる。自然の中の村ではかならず発覚する凶悪犯罪もこの生命維持装置の中では生きのびる。怪人がきく。自分への非難か。否、怪人をかりたてた凶悪についてのべたまで。それはお世辞か。否、自分の正義に自信がないのか。正義は無用、ジョディは守るにたる大女優だった。この仕事のため自分の時間をささげた。然り。それをたった一人でなしとげたと御手洗。ドイツの建築家、オットー・ワーグナーに匹敵する。では、それを誰にささげたのか。神か。否。ジョディか。然り。彼女は怪人がつくた偶像だろう。そうならそれも光栄と怪人。1916年8月14日、イルマの死、スターへの道。1921年9月5日、サンドリッチの死、スターへのさらなる道、1921年9津27日、マーガレットの死、主役交代を阻止。1921年10月3日、ジーグフリードの死、大女優への道をかためた。これらは怪人が仕業。話しがつづく。

** 4) サンドリッチ殺害をかたる
怪人がいう。後悔なし。戦争か。無関係、イルマは役のためプロデューサーと寝る。しかしジョディもサンドリッチの世話をうけた。同じでは。否。マーガレットは低能。ではサンドリッチのような大男をどうしてしばったか。クロロファルム。悪魔の所業では。戦争と比較すればものの数でない。それはサンドリッチのせいでない。サンドリッチの所業はそれよりまさる。サンドリッチは自分を過大評価しジョディを過小評価。でもジョディはそれを受諾してたのでは。然り、やむ得ず。怪人の嫉妬からでは。否。怪人自身を守る神をもとめた。それがジョディ。それがここのレリーフ。これ以上の議論は無用。御手洗が身代わりがもってた絵文字は何かときく。

** 5) ジーグフリードの死をかたる
自分のための覚え書き。散歩道の道順。本当にそうか。マーガレット殺人への道順。身代わりがもってたのは殺人を予告しアリバイづくりの口添えを期待したから。否。身代わりがもとめたもの。時計塔にのぼりそこから部屋にゆく。当時、ジーグフリードはよく部屋にいた。彼におおきな恨みをもってた。しかし実行せず。で、道はふさがれ、ジョディ自身が実行せざるを得なかった。然り。ジェイミーがいう。

では、どうやって。死亡時刻は9時5分から10時50分、ハリケーンで停電。ジーン(後に結婚してジーン・カリエフスキー)の前から所在不明となってたのが9時から9時15分。妻との電話で9時5分まで生存。解答はあるのかと怪人。御手洗がいう。セントラル・パーク・タワーのような高層建築の年代を考える。

1884年、シカゴのホームインシュアランス・ビルが最初の例。これが10階。次がピューリツァーのワールド新聞社、18階、ニューヨーク。つづいいてメイソニック・テンプル、シカゴの22階。高層ビルが可能となったのは、それまでの錬鉄に鋼鉄がとってかわったから。錬鉄ではせいぜい5階まで。鋼鉄の発明からすぐシカゴにホームインシュアランス・ビルが建設。高層ビルにはエレベーターが必須。しかしそれが高層ビルに採用、普及するには前提条件。まずビルの照明、従来から個人宅ではアーク灯を利用。企業のビルではおおきな窓からの太陽光かアーク灯。これが電気にとってかわられるのは、送電、配電の整備、電力の安定供給が必要だった。

ところがは蒸気機関を動力とするエレベーターが1853年、ニューヨーク万博で提案、すぐ実用化。セントラル・パーク・タワーもおなじ。この屋上に蒸気機関。ところで黎明期の電力は不安定、一日に何度も停電。エレベーターの動力に電力が完全にとってかわるまでは蒸気機関併設の時期。この最後の時期にあたるのがセントラル・パーク・タワー。あの停電の夜、怪人はまず蒸気機関を始動し、ジョディに窓から管理人用のエレベーターの利用を指示。ジョディは一階に移動、射殺してまた部屋にもどった。ジョディはファントムの雄叫びがきこえたといった。蒸気機関の圧をぬく時の音。怪人がいう。かっては跳ねあげ開閉式の橋、渡し船、列車、直流式の発電機に利用。 ジェイミーが1916年のメリッサはときく。犯行を否定。御手洗があわてて自殺と説明。ジェイミーがイルマとマーガレットの殺人をきく。

** 6) イルマとマーガレット殺害をかたる
怪人が御手洗にわかるかときく。近代史の中に解答がある。塹壕戦用に開発された潜望鏡式の遠隔発射器具、これの改造版。戦場で実用になったかとジェイミー。否、機動性なく、引き金もかたい。本当か。7インチの隙間から中にいれ至近距離でうつ、簡単。どうやって。イルマは帰宅後、リビングに、部屋のスイッチ、シャンデリアからさがる紐を三度ひく。照明がくらくなる。カーテンをあけ、夜景をみる。紐をひく瞬間をじっとまってた。窓は外部の人間にはあけられない。ただまつ。射殺後は遠隔発射装置から拳銃をとり、部屋の中にほうりこむ。でも、死体の指先についてた煤は。もう一発、その指先のちかくで発射。床ちかくの弾がそれ。成程、一つの自殺事件、一つの事故、四つの殺人事件の真相はとけた。怪人が蒸気機関のそばからこわれたマジックハンドをとりだし御手洗に贈呈。ジョディの死についてかたる。

** 7) ジョディの死をかたる
彼女の死からこの世界は無。彼女がいればこそ楽園。御手洗がいう。ジョディはいつもファントムとともに。父親の話しとなった。足がいたいというと成長痛だといわれた。おおくの痛みを経験、塹壕戦の痛みはちがった。愚劣な痛み。隠しておきたい潜在意識がおおくなりすぎた。夢をみなくなったのはそのせい。自分はただ地にそそぐ水の音をきく。どうしても思いだせない記憶のまわりをとびまわってる。もがきながら羽ばたいてきた。ジョディのおかげで生きながらえた。守護神を自認しながらだ。従軍から帰還しジョディにあった1921年の自分はかっての自分でない。ジョディにふさわしい自分でなかった。御手洗がいう。いつもファントムとともにいるから、さびしくないとのジョディの言葉をつたえた。怪人が歓喜した。1951年ジョディが暴漢におそわれた話しとなった。

自分はステンドガラスの陰から心配しながらみてた。そこにSWAT(警察の武装部隊)が閃光弾をなげいれ犯人を逮捕した。御手洗がいう。この閃光はある化学作用をおこした。臨終に怪人があらわれた。ジェイミーも窓の外にたつ怪人をみた。それは半透明で背後の摩天楼の明かりがすけてみえた。ファンがおくったステンドガラスは抗菌作用があるもの。これは銀の薄膜をコーティングしたもの。空気中の塩分により銀は塩化銀となる。ガラス板の上に塩化銀は写真のポジフィルム。これにステンドガラスからのぞいてた怪人の像が強烈な閃光により印画された。怪人がきく。常にみえるのか。否、強烈な光にさらされた時に像がうかびあがる。ジェイミーが医師の死とリサの狙撃についてきく。

** 8) 医師殺害、リサ狙撃をかある、おわり
1969年、日本人、安藤忠雄のガラスのテラスがジョディの部屋に付設。これで屋上から帰還する道が。医師はジョディの癌をみのがしたことで殺害した。怪人は自分の正当性を主張。では、リサは。ジョディの家と遺産を勘定たかくうろうとした。その無感動さは精神性の冒涜。もうおわりといって銃で自殺した。

* 14) 感想
広大な原野であったマンハッタン島から高層建築にいろどられたニューヨーク市への発展の歴史をかたる。そこに、第一次大戦への参戦、農村から都市への労働力の移動、禁酒法とギャング、株式市場のバブルと崩壊をおりまぜ、鋼鉄、蒸気、電気、エレベーター、高層建築の技術史を随所にはさむ。摩天楼にかざられた都市は巨大生命維持装置、地上に地中にあやしげな連中が住みつくところといいはなつ。そこに女優に恋し献身する怪人が登場し、謎の殺人事件が発生する。

作者の豊な建築への造詣が要をえた歴史観にささえられ壮大な迷宮をつくる。まことに素晴しい。文明論をかたってるうちに、推理小説ができあがるとは作者の才能におそれいるほかない。うらやましい。

* 15) テーマ
テーマは理想の女優に恋し献身した怪人がおかした犯罪の謎とき。怪人は肉親と縁遠い人物である。豊かな才能をもった建築家となりセントラル・パーク・タワーを設計する。第一回の出会いの時は輝く美貌の謎の青年として登場する。しかし第二回の出会いは大戦の負傷により体も心も深く傷ついた。仮面の下をけっしてみせられない人間となってた。

若い美貌の青年が演劇界でスターを夢みるジョディに求愛するのはわかるが、それが殺人であるというのは、通常でない。もともとの怪人の心性、あやしげな連中まですいよせる摩天楼群の魔力かもしれない。第二回目以降の殺人は戦いに傷ついた心と体のなせるものだろう。ジョディの死後の殺人、傷害は摩天楼の屋上につくられた王国、その孤独な生活がなせるものと思う。そこに日本人建築家の安藤忠雄氏のガラスのテラスが登場、それが事件を可能としたというのは、何だろう。作者の名人芸かもしれない。

* 16) 評価
** 1) 現実の可能性
本当におこりうることかということで気になる。次のとおり。
1) 屋上を管理者が保守点検するとの法規制があるのでないか。怪人の身代わりがいなくなってから50年ちかく、屋上の楽園が発見されずにすむだろうか。かりに法規制がなくとも10年や20年の長期の補修計画の中で屋上の点検が実施されるのでないか。

とはいえ、これは無粋なアラ探し、推理の楽しみをうばう難癖とお叱りをこうむるかもしれない。

** 2) 原理的な可能性
抗菌効果のためステンドガラスに銀膜をはる。そこに空気中の塩分が作用、塩化銀の膜ができる。これは写真のポジフィルム。だからそこに強烈な光があびせられると像が印画される。ジョディが暴漢により部屋にとじこめられ、そこにSWATが閃光弾をなげこみ逮捕する。その現場を窓の外からみてた怪人の像が印画されたというのが御手洗のいうところである。

とこれが閃光弾の光、ステンドガラスの膜、怪人という仕組みでは像が膜の上に印画されるだろうか。さらに臨終に際し、フラッシュがたかれた結果、その印画がうかびあがり、怪人の像となった。これもよくわからない。これについては、わたしの貧弱な知識では理解できなかった。これも無粋なアラ探しかもしれない。

* 17) 公平性
設計図はみたという建築家、ロイ・ウィザースプーン教授がエレベーターの蓄電装置、補助発電装置はないといい、蒸気機関の存在には言及しなかった。他方、作者は電気が普及したのは、1890年代、エレベーターは1853年の万博に発表以降すぐ実用されたといってる。セントラル・パーク・タワーの建立が1910年である。このことからエレベーターの補助動力としての蒸気機関の存在を推理せよとの意図らしい。わたしの力では無理だった。


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謎解き島田、水晶のピラミッド [島田荘司]

* はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 1) am1(america1)、ビッチ・ポイントで怪物の目撃
アメリカ、ニューオリンズのメキシコ湾に面するビッチ・ポイントという岬の海岸、夕方である。泳ぎにでた二人の恋人たちが怪物を目撃した。それは額から頭にかけ陥没した筋をもち、おおきな丸い目と耳まで裂けた口をもってた。

* 2) am2、エジプト島の石塔最上階で溺死体
1986年4月15日、ビッチ・ポイントという岬の先にある岩の島に建築物があった。その石塔の七階で男が死んでた。男は全米有数の財閥の一人といわれる人物だった。ニューオリンズ署のデクスター・ゴードン部長刑事とFBIのネルソン・マクファーレン捜査官が死体をみておどろいた。右手を前にだし左手を後ろにのこし、泳いでるようなうつぶせの姿勢だった。死因は溺死だった。部屋は内部から閂がかけられ、どうみても密室だった。本人は同日の午前10時、起床をうながす外部からの声に「頭痛がするのでもうすこし眠らせてくれ」とこたえた。当日は晴天だった。さらに前日の夜に額が陥没し丸い目と裂けた口をもつ怪物が目撃されてた。

* 3) au(autralia)、オーストラリアの沙漠で焼死体
1984年3月、オーストラリアのブリスベン、国道からはなれた沙漠に自動車が放置されてた。その中で男の焼死体が発見された。免許証からポール・アレクスンと確認された。

* ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

水晶のピラミッド (講談社文庫)

水晶のピラミッド (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/12/07
  • メディア: 文庫



* 4) eg1(egypt1)、ナイル川の浮島の少女ミクル、衣裳箱の男の救出
ナイル川の上流にかれた葦でできたマーデュという浮島があった。ある日、そこにすんでる女の子がながれてきた綺麗な箱をひろった。その中に若い男がはいってた。ギザからやってきたという。

* 5) sh1(ship1)、タイタニックが大西洋航路に出発
小説家、ジャック・ウッドベルはロンドン大学で考古学が専門ののウォルター・ホワイトにタイタニックの船上で出あった。タイタニックは総排水量46,329トン、喫水線の長さ269メートル、最大幅が28メートル、煙突までの高さが53メートルと移動できる乗り物として世界最大をほこる。ここで二人は知りあった。ウォルターはエジプトを専門としてた。ジャックは推理作家だった。1912年4月14日、日曜日であった。

* 6) eg2、ミクルの看病、男の都市への帰還
ミクルは男を看病した。男はディッカと名のった。都市からきた。自分はだまされて箱詰めされりナイルにながされたといった。やがて都市にかえっていった。

* 7) sh2、氷山のおそれ、一等船室の乗客
** 1) 船長、氷山はこわくない、乗客、不吉な噂
エドワード・J・スミス船長は大西洋航海に自信をもってた。船はニューヨークにむけすすんでた。ジャックが一等喫茶室にいると、拍手にむかえられた、タイタニックの発案者のJ・ブルース・イスメイと設計者のモーガン・ロバートソンがはいってきた。ウォルターがタイタニックの沈没を予想したような小説「愚行」をもちだした。設計者が氷山と衝突しても沈没しないと力強く説明した。ウォルターが乗船前にあった女性占星術師の話しをした。タイタニックは不吉だといった。ジャが話す。

** 2) 奇妙な乗客が死体の標本をみせる
一等船室の乗客のロバート・アレクスンの話しである。彼は友人のダヴィッド・ミラーにさそわれて乗船したという。部屋に案内された。そこで細長いガラス容器にはいった奇形マウスの死骸を見せられた。さらに奇形の胎児、嬰児の死骸も見せられた。中には頭部が変形し陥没したのもあった。彼はこれらは未来人だといった。

* 8) eg3、ミクルの旅、プケ泊まり
二年がたった。不幸がありミクルは孤児となった。ディッカをたずねてギザまで船旅にでた。親切な老人のたすけでプケの港についた。

* 9) sh3、 ピラミッドは年代記、1912年は一つの時代のおわり
** 1) 小説家と考古学者が対話、ピラミッドの解説
ウォルターが自分の専門のピラミッドの話しをする。ギザの三つのピラミッドである。その目的は何か。墓。クフ王をのぞくカフラー王とメンカウラー王は墓だが、クフ王はちがくと自説をのべる。さらに長い間、ピラミッドの下部だけが存在し、上の部分はなかった。下部だけが利用さわれた。その目的はまったく不明である。他の文明にも同様の建築物を見つけることができる。では、具体的な違いは。

** 2) クフ王ピラミッドは特異
王の間と王妃の間がある。普通、墓は地下にある。そこにいたる通路は下降するが、この両者は上昇する通路でたどりつく。長く下半分だったという根拠は。王の間の床の石積みは三十五段目だがこの石の厚味、二十フィートあつい。ピラミッドとは何か対話する。

** 3) ピラミッドとは何か、刻まれた年代記
その名の意味。中心で燃える火。古代エジプト人はこれを何とよんだか。謎。ピラミッドを石の聖書という考えは。スコットランドのロバート・メンジースがいった。大回廊がキリストの時代、上昇通廊がモーゼの時代。他のピラマソロジストも聖書のなかの言葉を指摘。本当か。イザヤ書十九章十九節に「祭壇」と「記念碑」。エペソ人への手紙二章二十節に「キリストがかしら石」。このため、おおくの聖書研究家がギザを訪問。では石の聖書の内容は。年代記、2001年9月まで、つまり未来の予言も。

** 4) 年代記の内容、未来の予言が
内容は。さまざま、一インチを一年、あるいは一月も。入口から上昇通廊、大回廊、王の間となるが、おわりの意味は。年表のおわりか、歴史のおわり。ではこの本の説明では。アダムとイブからノアの洪水、云云。曲がり角は。大転換点。通廊に予言のマークが。然り。例えば。大回廊、王の間は花崗岩、霊的のもの。その他の石は人類、物質的なもの。教会とおなじ発想、上昇通廊はせまくるしく、大回廊はたかい天井。これは教会の礼拝場。もっと詳細な解釈も。下降通廊をおりてゆくとある地点に床に直角にひかれた直線、これが紀元前2141年3月21日正午。ほう、その意味は。不知。現時点より未来の予言は。1914年から1918年が大変化、1936年から1945年は激変。1979年から1991年、あるいは1995年から2025年、云云。しかしもっと気になること。何か。1912年が一つの時代がおわる。

* 10) eg4、ミクルと青年カマルの旅、ギザへ
プケで船頭の家にとまり、青年カマルの船でギザについた。上陸、王の家をたずねた。カマルとわかれ、ディッカと再会した。敷地を案内してもらってた時、月に照らされた石造物のジッグラトが見えた。

* 11) sh4、氷山の出現、エンジン停止
四月十四日昼、スミス船長は行く手に氷山の存在を警告する無線電報を受電したが何もしないで昼食にむかった。途中で出あったイスメイの提案で明日最大速度で航行することとした。午後気温が急速にさがった。夕方、米国の大富豪のジョージ・ワイドナー夫妻主催の晩餐会がひらかれた。ガン・メーカーとして成功しつつあるアレクスンも列席した。午後八時、ブリッジにもどった船長は氷山の状況をきいた後、自室にもどった。午後十時五十五分に最後の警告電報があった。サザンプトンで積みわすれたので監視台には双眼鏡がなかった。氷山を前方に発見した。すぐブリッジに連絡がはいり、船のエンジンは停止し、左に向きをかえた。

* 12) eg5、ミクルの楽しい日々、ディッカの出征
ミクルはディッカとたのしい日々をすごした。ジッグラトは空中庭園だとおしえてくれた。図書館で死者の書を見せてくれ、人は死ぬと、冥府の使いに生前の行いを判定される。その使いは額はせまく頭の真ん中がくぼんでいる。鼻が飛びだしてとがって、耳が動物のようについている。上半身が裸のおそろしい姿をしてた。それによい行いとみとめると永遠の命がさずけられるオシリスの国につれてゆかれるといった。ディッカは、何がよいのか、わるいのかわからないと苦悩をもらす。ミクルにいつまでも自分の側にいるよう約束させた。その夜、わかい女がやってきた。ミクルを口穢くののしり、ディッカは戦争にゆくといった。それはディッカの許婚だった。

* 13) sh5、文明論、文明の西進、沈没の予告
午後十一時、一等喫茶室でジャック、ウォルターとロンドン証券取引所所長のアンドリュー・オブライエンが会話する。毒舌家のアンドリューが、この船は数段重ねのケーキのようなもの、現在の英国社会を象徴する。上から上流階級、下に中流、下層となってる。さらに英国の現在の繁栄はピークである。文明は東から西に伝播する。次の繁栄は米国のようだという。米国の奴隷制をさし異論がでた。豪華な一等喫茶室で奴隷制を論じる雰囲気に、いささか水をさす声がでた。そこに外から四月なのに船に雪がつもったという声がきこえた。氷山に接触したらしい。船のエンジン音がきこなくなったことに気がついた。制服の乗務員がやってきていった。この船はあと一時間で沈没する。

* 14) eg6、敗走のディッカの帰還、ミクルの死
それから一年後、敗走したディッカがギザにもどり、ミクルの殺害をしった。

* 15) sh6、タイタニックの沈没
タイタニックは沈没した。
* 16) eg7、ディッカの処刑、文明の溺死
怒りにまかせ神官を殺害したディッカはとらえられ、ジッグラトで処刑された。崩壊する文明は必ず溺死するといった。

* 17) sh7、沈没と男性生還者
海水が侵入した船内でジャックが怪人をみた。ジャック、ウォルターが死にイスメイは生還した。

* 18) am3、エジプト島、盗掘者と怪物
** 1) エジプト島を説明する
ニューオリンズの南、ビッチ・ポイントの先端にエジプト島といわれる岩礁がある。その上に不思議な建築物がある。ピラミッドである。その上半分が鉄骨と強化ガラスで、下半分が石積みでできている。噂によれば近年持ち主がかわったらしい。それまで土埃におおわれたガラスがきれいにみがかれ、ガラスづくりが知られるようになった。ガラスの中には黒々とした岩山がおさまってた。そのかたわらに細い円柱形の石塔がたってた。屋上は見晴らし台らしい。塔の周囲には螺旋階段がまきついていた。これで屋上や各階にたどりつく。各階に入口は螺旋階段にあわせているので一定の方向にならずバラバラだった。屋上とピラミッドの中ほど、ガラスがはじまるあたりがブリッジでむすばれてた。島はこれらの建造物に占拠され空き地はほとんどない。島と岬は日本風の橋で連絡されてた。一時、ニューオリンズの人びとの関心がたかまったことがあった。それはここにファラオにおとらない財宝がかくされていると噂されたからである。

** 2) 盗掘者が暗躍、石塔、ピラミッド内部を調査
1984年当時、建造者が失踪し建物は閉鎖封印され、本島と岬をつなぐ橋も鎖と鉄条網で閉鎖された。この建造者で異端のエジプト学者は落成後二年で頭がおかしくなった。彼は前世紀末英国から移住し、拳銃や武器で富をきづいた大財閥、アレクスン家の何代目かの当主だった。ここに財閥の宝がかくされているというのである。1984年から1985年にかけ人びとがやってきた。ピラミッドの正面の鉄の扉がこじあけられた。中は飛行機の格納庫のようにガランとしてたが、隅々までしらべられた。石塔の扉もあけられ部屋が点検された。さらに屋上からピラミッドの中腹にわたる空中回廊から、ライオンの檻のように上から下に鉄棒をとおした扉をこじあけた。強化ガラスはハンマーでもわれなかったからである。ドアの内部には不思議な光景がひろがった。まるで月の表面のようだった。岩礁の岩をもってきてコンクリートにうめこんだものだった。空中回廊をすすみ中にはいると岩山への窪みとなる。前方の岩山を見あげるあたりでとまった。この小径の両側に二本の裂け目が岩山をかこんではしってた。そこから下を見ると一階の飛行場の格納庫のような空間の床が見えた。このガラスでかこまれたピラミッドは一階と二階だけでできてた。これらのどこにも宝物はみつからなかった。

** 3) ピラミッドの石積みをこわす、怪物が登場
1986年1月である。あるグループがピラミッドの北側の上、二十メートルの上の石積みをくずしていた。クフ王のピラミッドではこのあたりに正式の入口があった。彼らはカバーストーン、正面玄関の石積みを発見した。削岩機をもってすすんでいた男が、あった。空洞だといった。仲間もくわわり穴をひろげて中にはいった。そこは自然の洞窟ではなく人工の平面からなる通廊のようなものだった。男たちがすすんでゆくと前方に明かりが見えた。丸い目の怪物が立っていた。恐怖にかられて逃げだした三人は警察に報告した。警察によりしらべられた空間には、およそ生物がいたという痕跡はみつからなかったが、右側の壁にスペイン語の言葉がきざまれてた。

* 19) am4、アイーダ主演女優、ロケ地の到着
** 1) 持ち主がレオナに建築物を案内
案内の自動車に同車して女優、レオナ松崎が、かって大量の黒人奴隷をかかえていたマディンゴの屋敷にいった。レオナとエジプト島の持ち主であるリチャード・アレクスンが対話する。奴隷制の実態について話した。レオナきく。あのピラミッドは誰がつくったか。兄のポール・アレクスン。二年前に失踪。もう生きてないだろう。父の反対をきかず考古学の世界に、ピラミッドに狂った。あのピラミッドはクフ王と寸法的にはまったく同じ。目的は。不知。レオナの映画の話しとなる。

** 2) ミュージカル「アイーダ'87」の撮影を
内容は場所をアメリカ、現代版のアイーダ、タイトルを「アイーダ'87」。レオナはアメリカにダンス留学したヴェトコンの娘、米軍パイロットを恋人。恋人は撃墜、捕虜。どこでエジプトがでるのか。それはレオナのダンス発表会がちかづく。色々の妨害をのりこえて発表会。舞台はたちまち古代エジプトに変身。アイーダに登場する人物が現代のアメリカ人。リチャードが車外をみてがハリケーンがくるといった。公開は来春。自動車をもどし二人はビッチ・ポイントにむかった。

** 3) 神殿の偉容が圧倒、嵐の場面撮影を決行
島は白波がはげしくくだけてた。撮影は。明日、しかし天候次第。日本橋をわたり東側の大扉にたどりついた。中は不思議な光景だった。まるで広い室内体育場。砂地のあちこちが照明をうけ金色にかかやく。砂地のむこう正面には象牙色の神殿がある。神殿の両側には巨大の神像。その間には二つの円柱をもつ舞台。舞台の下には神殿内部への長方形の入口。広大な人工の砂地の四方をかこむピラミッドの内部の壁は自然の崖だった。それがだんだんとおおいかぶさるようなって天井となる。両側のせまりくる崖の中央、そのちょうど下あたりに上空から岩が垂れさがっていた。そのむこうに神殿の偉容がみえた。壁は褐色だった。扉がゆっくりしまると、外の喧騒がきえた。

岩肌のそばに鉄製のやぐら、その最上部に無数の照明が付設。リチャードが上空を見あげると、二本の円弧をかいた空隙がのぞいた。そこから二階の鉄製アングルとガラスがわずかにのぞいた。監督のエルビン・トフラーがリチャードに握手をもとめた。レオナと今夜の予定を相談し嵐の襲来をまって撮影を決行することとなった。

* 20) am5、嵐の中で撮影
** 1) 異端の研究者が建築、中南米にもピラミッドが
夕食の時、ピラミッドの話しがでた。メキシコ湾ぞいにメティタワカ、アステカ、マヤの文明があった。そこにはピラミッドがあった。アメリカにだけなかった。それは宗教的意味をもってるが王の墓ではなかった。リチャードは兄はクフ王のピラミッドもここと同じく島の上にたてたといった。レオナがメキシコシティで発見されたピラミッドも湖の平な島に建設されていたといった。リチャードが兄は異端の学者であった。自分もそう。アレクスン家も異端視され米国にやってきたといった。美術監督のエリック・ベルナールがきく。このピラミッドはいつ。1980年。目的は。何かの実験、クフ王のピラミッドの正確な複製。エリックがエジプトのアブ・シンベル神殿をまねてつくった神殿を見て、そこでは太陽の光線を真正面にうけられるような仕組みをもってた。

** 2) アスワンの神殿の秘密、クフ王の秘密は
アスワンダム建設のため移設されたが、かっては岩山にむかって立ってた。朝日がのぼる時、その影が神殿正面にかかる。じょじょにその影がきえて太陽光線が正面をてらす。さらに太陽光線は角度をかえ入口にはいり、その奧にまで侵入してゆく。ある時刻になると奧に鎮座するラムセス二世の神像をてらす。こんな仕組みが用意してた。ではクフ王は。不明。

** 3) 撮影を決行、レオナが怪物を目撃
監督がいった。気象台の予報によれば、あと一時間ほどでハリケーンが上陸。撮影の最適状況となる。午後九時半レオナが暴風雨と高波があばれまわる岩盤の上にたってた。ずぶぬれでキューをまつレオナの後方五メートルのところに怪物がたってた。右手をさしだしレオナにちかずいた。何やらつぶやいた。きづいたレオナは悲鳴をあげ、失神した。怪訝そうな顔がのぞきこんでいた。内部の砂地の上だった。怪物の話しは誰にも信じてもらえなかった。撮影を再開した。怪物はもうあらわれなかった。

* 21) am6、石塔の暮し、撮影二日目
** 1) 翌朝の撮影隊
1986年8月15日午前10時、ピラミッドの内部である。二階の裂け目から外光が一階の砂地にさしこんでた。エリックが起床、扉から外にでた。昨夜の大荒れが嘘のような晴天だった。

** 2) 異端学者の石塔生活は、石塔の構造は
南下してピラミッドの角から石塔をみた。ポールはどんな生活をしてたのか。ピラミッドにも石塔にも電気がこない。石油ランプをつかってたらしい。最上階が寝室、トイレは一階だけ。三階に書庫がある。読書はおそらく自然光。トイレのほか一階には、そばに倉庫、そこの発電機は放置され、そばのポリタンクには灯油が。トイレは島全体でもここだけ。隣りは洗面所、頭上には雨水をためるタンク。これで用をたす。タンクの上には外にむけ半円形にひらく漏斗。シャワールームも、しかしバスタブはない。二階にちょっとした厨房。飲料水のボトル、ビールの缶。煮炊き用の設備、流し、その上に雨水利用のタンク。流しの前の小窓のそばに粗末なダイニングテーブルと椅子一脚。流しの脇につかわれなかった小型電気冷蔵庫。ロケ隊の食事には外から設備をもちこんだ。食料品店は自動車で三十分以上の距離。どのように食料品を調達してたのか。缶詰、レトルト食品をたべつづけた。事実、空き缶が周囲に散乱。

** 3) 前夜泊まりの持ち主の様子は
エリックはもどってピラミッドの石段に腰かけた。今日の予定はレオナをまじえ百人のダンサーが舞台上で群舞する場面の撮影。また石塔をみあげた。リチャードが七階でねてるはず。それはこの島でもっとも居住にふさわしい場所だから。内部の天井、壁、床は黒の花崗岩をつかった意匠がほどこされてた。表面は研磨処理、ワックスがけ。鏡のような光沢。クフ王の王の間もみがかれた花崗岩。部屋の中には鉄製のシングルベッドがただ一つ。黒光りする壁の南に天地が一メートル、幅四十センチの窓。そこをはめごろしのガラス。なかには鉄の網。これではメキシコ湾にしずむ夕陽をたのしむことができない。そのためには螺旋階段をのぼって屋上にゆく。そこでは三百六十度の眺望。部屋には衣装ダンスのような家具がない。六階が着替え室。ふるびた大型の衣装ダンス、きたない木箱。そのなかにシャツ、ジーンズ。ここで寝たリチャードは、ここで絹のハジャマにきがえ、靴をそのままはいていった。シートとクッションもここから持ちだし。四階と五階は空き室。そこに昨夜はボディガードが一人と二人が宿泊。リチャードにちかづく不審者の話しである。

** 4) 警備のボディガードの様子は
四階、五階の螺旋階段からくる方法とピラミッドの方から空中回廊をとおてくる方法。後者の方法であるが、また二つある。ピラミッドの内部からだが、これは人工の崖をたどり中央の岩山、そこにつけられた窪地の道にいたる。そこをくだってピラミッドにつけられたライオンの檻のような鉄の扉をあけて空中回廊にいたる方法。人工の崖にのぼるのはほぼ不可能、上にゆくほど手前にせりだし、ついに天井。鉄の扉は施錠され、リチャードだけが鍵。もう一つ、外側の石積みからたどりつく方法、空中回廊はガラスでおおわれた部分の中。昨夜のような大雨、危険すぎ。不可能。三人が四階、五階でガードすると判断したのは納得できる。ピラミッドの方からブランチのしらせがあったのでエリックはもどろうとして石塔でボディガードが七階の雇い主とはなしてるのを見た。ブランチの話しである。

** 5) ブランチ時で監督が第二日目の撮影を説明
監督がレオナ、ブライアン・ホイットニー、エリックなどを前に昨夜の成功をいわい、今日の撮影にむけ檄をとばした。ボディガードがそこにくわわった。リチャードは頭痛でまだ寝かせてくれとのこと、食事に参加しなかった。そこに第二カメラマンのスティーヴ・ミラーほかがくわわった。

* 22) am7、撮影準備とボディガードの高まる不審
午後、ボディガードたちは石塔が視界にはいる石積みの石に。レオナとエリックが役作りで話合い。そこでレオナがアレクスン家は外部にしられたくない秘密をかかえてるといった。午後四時、踊り子たち百人が到着。四分の三が女性。しばらくしたら舞台上でレッスン。リッキー・スポールディングがエリックにハンマーやバーがないかきいてきた。リチャードの異変を感じたらしい。それが五時。エリックもはいり部屋に呼びかけ。応答がない。夕食となった。

騒音の中でエリックが監督に話し。監督は、まず口外無用、警察にもしらせず、エリックとボディガードでやれといった。監督は今夜の撮影がおわるまでピラミッドの扉をあけさせるなと命令した。

* 23) am8、閉ざされた部屋、死者の発見
** 1) 切断機をはこびこむ
エリックとリッキー・スポールディングは徒歩で国道、車にのり、電話ボックスをみつけ工場に連絡。切断機と二本のガスボンベをかりた。午後十一時すぎ島にもどった。ガラスにおおわれたピラミッドが幻想的姿。石塔についた。屋上に小型発電機、照明ランプ。エリックが空中回廊の入口にたって考える。

** 2) 空中回廊、扉をしらべ中をのぞこうとした
左右、床は鉄板。幅は一メートル四十センチ。ピラミッドにむかいのぼってる。奧は鉄格子の扉にいたるが、その途中は有刺鉄線がぐるぐるまき。ここをくぐりぬけるのは容易ではない。匍匐前進で扉にたどりついても、有刺鉄線が邪魔して手がノブまでのばせない。外開きだから。これも有刺鉄線が邪魔する。石塔の空中回廊のはじまりである。これはは屋上の床面より三十センチひくい。この段差に小窓。有刺鉄線に邪魔されながら懐中電灯を照射。幅二十センチ、天地一メートル。そこに直径五ミリの頑丈な鉄棒が縦横にある金網。これは内側二十センチのところ。外からみえる壁面開口部全面には、それをおおう薄い金属製の引き戸がつけられてた。これが現在、両方に開放。中はほとんど見えなかった。エリックが無理してのぞきこむと、さらに内側に薄布がはってある。しかしなおものぞいてるとベッドがみえた。そこには人影はなかった。これが限界だった。切断機で焼ききるほかない。

** 3) 切断機で扉をあける
エリックがボディガードに金属製の引き戸がずうとひらかれてたことを確認。部屋の扉である。内開き。扉の縁はラバーのストッパーで密閉となる。鍵穴がない。扉の中央よりややノブよりにUの字の底の形の突起があった。これを左いっぱいに移動させると中にある閂がささる仕組みである。このほかに内側からしか操作できない天井の穴にさす閂。現在はUの字の突起は右。これは朝十時にリチャードをおこす時にやったこと。バーナーに点火し切断を。切断の円弧がつながり円になりそうなまですすんだ時、エリックが部下に下にいって撮影の状況を確認といった。あと二時間かかるといった。円弧は円となって穴があいた。照明にリチャードのうつぶせの姿がうかびあがった。むっとするような湿気。床の上で右手を前、左手を後ろにして死んでた。

* 24) am9、通報、警察の到着
** 1) 警察に通報、現場を目視確認
エリックが部下をニューオリンズ署にやった。監督の携帯がこわれていた。だから徒歩でしか連絡できなかったそうだ。現場保存を第一にして丁寧に観察した。ミステリーファンであるので密室のトリックはよくしってる。人が潜伏してないか扉の陰を確認。犯人がひそんでいそうな場所も確認。無し。被害者の皮膚、頬をさわった。右手首をもちあげた。硬直してた。指先に黒いよごれ。被害者の体にも同様によごれ。報告のため部下を撮影現場にやった。ボディガードに不審な動きがないか注意した。死体を再度観察。被害者が両目をおおきく開いてた。毛髪がみだれ皮膚にひっついてた。ハジャマも体にひっついてた。左のポケットに何か。ピラミッドの側の鉄柵についた扉の鍵と確信。エリックがボディガードが殺害したと想定する。

** 2) ボディガードの殺害可能性を考える
殺害して扉をとじて室外にでる。そこから縦の閂をさす。どうする。糸やワイヤーをのこさないで、できるか。否。発見があった。ドアの右横1.5メートルに天地十センチ、幅二十センチの小窓が床につくほどの低い位置。これは空中回廊のとっつき、天井ちかくのところの小窓と同様の構造。すなわち、ふとい針金をあんだ金網が壁にはめこまれ、部屋の側に薄布。金網の取り付けも内側からネジでおこない、段差をつけてあった。これで工作は不可能。空中回廊が石塔にとどく部分は石塔廊下の床面よりひくい。この段差部分にある小窓も苦労してしらべた。同じ構造だった。石油ランプに頭をぶつけた。

** 3) 室内をさらに確認、警察が到着
ランプは天井の中心からぶらさげる。簡単にとりはずせるようになってた。懐中電灯もなかった。二つの小窓は臭いをぬくためのものと推理。冬季は寒い。蓋をつけるのか。しらべた。上述の鉄製の引き戸とおなじものがあった。どちらもひらかれたまま。リチャードにきいた。石油ランプは誰が。自分。就寝前に葉巻をすわない。室内に灰皿がない。室内の窓にカーテンがない。窓から室外をのぞいて、謎解きをやめた。外にでて扉をしめた。一時間半後、警官がやってきた。

** 4) 警察が現場検証、尋問、検屍、死因は溺死
ゴードンニューオリンズ署部長刑事にFBIのマクファーレン捜査官が同行。現場にいた関係者を確認し、検屍官が室内に。石油ランプをつけようとして、中に水がたまってたのであきらめた。検屍官とマクファーレンが中にのこり検屍。外でも尋問。午前十時から監視してた。七階にちかづいた人物もそこからおりてきた人物も。いない。ピラミッドの扉で声があがった。ゴードンがきく。入口は。あの大扉と空中回廊からゆく扉だけ。これには施錠。午前十時の確認は。ドアごしの声で。ドアの穴は。切断機。それ以外に方法はなかったから。部屋の窓は三つ、進入は無理。検屍がおわり死体がはこびだされた。推定死亡時刻はおよそ丸一日経過。午前十時に生存の可能性は。ある、だったらその直後に死亡か。大扉から人声がひびいた。午前二時。ボディガードにきく。リチャードの意向確認のあと三人で食事。三十分。その三十が犯行時刻だ。否、撮影隊の誰かがみてる。螺旋階段のとっつきにいた撮影隊の二人が証言、その間誰もおりてこなかった。その後は。不審なことは無し。その後、扉をこじあけるバーがないか撮影隊にきいた。午後六時。検屍官がさりぎわに、死体には炭の粒子が付着、部屋にもみとめられる。厳重な現場保存を。それから海水による溺死の可能性がたかいといった。鼻口に微量の塩がふいていた。

* 25) am10、死因、犯行方法、ピラミッド内部の調査
** 1) 溺死の犯行方法は、レオナの目撃情報は、不可解さばかり
ピラミッドで取り調べが。エリックがボディガードをふくめた現場の人びとの可能性をおいて、犯人を考えた。最上階からつれだされ、海水につけて溺死させられた。まったく不可解。さらにボディガードは螺旋階段に糸をはって不審人物をチェックしてたという。警察は不可解さに苦悩した。

レオナの十四日夜に怪物を目撃したという証言がさらに不可解さをました。リチャードはこの部屋にはじめてとまったようだ。建物の来歴から兄のポールの存在、人柄をしった。弟にグレアム・アレクスン。父のウィリアム・アレクスンは1979年に死去、その妻のメアリーは存命だが、精神に異常をきたしたという噂。リチャードが実権をにぎってた。広大な敷地があるが、リチャードが市内にホテルずまい。噂では精神に異常があるものが幽閉されてるという。

** 2) ピラミッド二階を調査、ここからの侵入は不可能、検屍結果で午前十時には死亡してた
八月十六日、エリックと監督がゴードンとマクファーレンをピラミッド二階のフロアの岩場の上に案内した。そこには一階の崖にたてられた足場から縄梯子をかけてのぼった。そこには直接岩場の頂上に縄梯子をかけられるような場所がなかったからである。さらに頂上のふもとの周囲にぐるりと縄をまわして固定した。四人は亀裂の隙間をぬけ岩原にでた。さらに傾斜したガラスの側面までいった。鉄柵の扉にはU字形の溝までとびおりてたどりついた。マクファーレンがノブをまわし、鍵穴をたしかめた。横方向にバーがのび、周囲の枠にはいってるのがわかった。鍵なしであけるのは不可能。石塔の屋上はかなり下にみえた。鉄柵から指をだしても、むこうにある有刺鉄線をつかむほど出ない。すぐ手がつかえた。合鍵は存在しなかった。一階におりた二人に検屍報告がきた。死体は死後三十時間を経過したものだといった。

* 26) am11、進展なし、中止命令の強行
警察の要請でハリウッドのスタジオでミーティング。これまでの経過である。この事件では定石どおりの捜査がむづかしかった。動機は監督、エリック、レオナをのぞく撮影隊にあるはずもなく、捜査がおこなわれたが成果がなかった。三人についても薄弱だった。アリバイの十五日十時から夜まで、あるいは十四日からも単独行動ができない状況であるから、不審者はみつからなかった。八月二十一日の捜査会議の報告である。ポールが1984年3月、オーストラリアで死亡、死因は自殺と報告された。これで犯人の可能性がきえた。

レオナに怪人についてきいた。リチャード犯人の可能性をうたがってのこと。それでアレクスン家をたずねて確認した。リチャードは幼少期熱病をわずらい精神に障害あるとみなされること、秘書に自分の身に不可解なことがあるかもしれない。その時は全米一の名探偵をよんでくれと伝言したことをいったと暴露。マクファーレンが異常の目撃にこだわるレオナの精神鑑定の可能性に言及した。これで雰囲気がわるくなった。さらに議論がつづいて、ついにマクファーレンがアイーダ'87の撮影の一時中止を命じると宣言した。

* 27) am12、スタッフの失踪、御手洗への依頼
監督からスティーヴが失踪したとレオナに電話。第二カメラ担当でこの撮影に参加。自殺をほのめかしてたよう。中止ざるを得ない。私立探偵に依頼したという。リチャードとポールがかよった小中高校、留学した大学を確認、ティモシー・ディレイニーという主治医の名前、リチャードは独身だがポールは結婚歴があり、妻はアン、アレクスン・カンパニーの研究所にいた。何らかの原因で発狂、死亡。これだかの情報をえた。このままでは自分は破産しそうだ。レオナが何日余裕があるかきいた。五日。成功にレオナは十万ドルの報酬を約束させた。

* 28) jp1(japan1) レオナの懇願、まずエジプトへ
この年の八月に御手洗はつきあいの長かった老犬の死にたちあった。つよいショックをうけ鬱状態となった。二十五日、レオナが馬車道にやってきた。事件をはなし窮状をうったえた。無反応。石岡が口ぞえをした。無駄。贈り物のオルゴールをみせた。無。石岡が御手洗をなじった。部屋にはいった。レオナがでてきた御手洗に懇願。航空券二枚を予約するよういった。カイロまわりでアメリカにゆくといった。レオナにビッチ・ポイントにスキューバダイビングのギアを三点用意すること、ポールがビッチ・ポイントのピラミッドをつくらせた業者の氏名、スティーヴの前身、家系を調査すること、それをギザのホテル、メナハウス・オぺロイに電話連絡するようにいった。レオナがカイロにいく理由をきいた。カイロは東経百五十度、ビッチ・ポイントは西経九十度、ブリスベンは東経三十度、ちょうど地球を中心軸のまわりに縦に三等分したところにあるといった。石岡は部屋にもどって世界地図と飛行機便のタイムテーブルをみてたと思った。

* 29) ai(airplane) ピラミッドの講義
** 1) 石岡が御手洗に講義、クフ王は特異、さらに諸説
機中で石岡が御手洗に話す。八十あるピラミッドは墓としてつくられた。これが通説。だが無難な説。クフ王のピラミッドには墓として疑問がおおい。王の間の石棺。無蓋か。石棺は建造途中、屋根を付設する前に設置。石棺の大きさが不十分。王墓以外の説は。北側に正式の入口、ここから地下の間には二十六度で下降通廊がつながる。地下の間から正式の入口をみると北極星がある。ここから天文台説。あるいはヨセフの食糧倉庫説。ユダヤの祖であるヨセフがエジプトの大臣に招へい、飢饉にそなえるため民を指揮してつくった。あるいは洪水用の食糧倉庫説。春分、秋分に下降通廊に日射がとどく、暦説。ピラミッドの中に神の予言がきざまれてるという説。御手洗がきく。

** 2) ビッチ・ポイントについてきく
ビッチ・ポイントのピラミッドにこのような通廊があるか。無。では何の目的か。専門の研究者が莫大な費用をつぎこんでやるもの。本物のピラミッドなら破壊しかねない実験。通廊を必要としない実験。日時計なら実物で用がたりる。外形だけが必要な実験とは。答、無。両者の相違点は。上半分がガラス張り、大きな空間、石塔、島、海。結論、無。石岡にさらに説明をもとめる。

** 3) さらに石岡が種々の説を講義
人類生存のためのタイムカプセル、エジプト独自の密教の施設、宇宙の法則を地球人にしらせるモニュメント、クフ王のピラミッドにしぼると、かなりの説得力がある。ピラミッドの高さの十の九乗倍は太陽までの距離、下底部の四辺の総計をピラミッドの高さの二倍の数値でわるとπとなる。ギリシャ人が発見したといわれてるπ。これより二千五百年も早い。ピラミッドが地球という惑星を表現したもの。

比重が5.7、これは地球の比重にほぼ一致。ピラミッドの重量を一千兆倍すると地球の重量にほぼ一致。地球の平均海抜、これは最近計算可能となったものだが、139.9メートルがピラミッドの高さにほぼ一致。地球上の平均気温が二十度、王の間の平均気温と一致。ピラミッドは聖キュピトという単位がつかわれた。これは地球半径の一千万分の一。これはごく最近の地球物理学が正確な地球の半径を測定したことからわかったこと。これからピラミッド・インチ(pインチ)という単位をつくる。これで測定するとピラミッド四辺の合計が36524.23 pインチとなる。またピラミッド頂点から垂線をおろす。その距離が3652.423 pインチ、床で水平にピラミッドを切断すると正方形ができる。正方形の中心から辺への距離が、3652.423 pインチ。太陽のまわりを公転する平均日数が、365.242日。つまりこの共通する数字の並びが意味するのは、五千年も前に地球運行の法則をしってたということ。まだある。

ギザはアラビア語で境界。ギザは東経三十度、北緯三十度に位置する。地球を平面地図に展開する時、東経三十度を中央にする。すなわち西経百五十度でひらいて地図の両端にする。ここでギザを交点とし十字をかく。こうして四分された部分の右の上半分と左の下半分を対照する。右上半分の総陸地面積と左下半分の総陸地面積はほほ一致する。このような重要地点にピラミッドが所在する。重要性がさけばれる由縁だ。余談になるが近年のピラミッドパワー、巨大な建築物としての意義もあるが、求められてないので、終了。御手洗の感想をきく。

** 4) 種々の説に御手洗が反論
ピラミッドの謎でなくビッチ・ポイントの謎に関心がある。謎の講義からポールがさがした謎の手がかりをさがしてた。石岡が御手洗にこのような謎について考えをきかせろという。常識主義者の肩をもつつもりはないが、チェックしておくべきことがある。石岡がついてゆけない。ピラミッドそのものの秘密というより、おおくの研究者がみつけだした成果というべき。注目があるまらないが、その陰にもっとおおくの成果にならなかった失敗があった。不審。太陽までの距離云云という。それは水星、火星で失敗した結果かも。その失敗例とあわせてみたいもの。では地球表面の平均海抜は。ほぼ一致するとか一致するという言葉がつづく。倍にしたらとか十乗したらとか。恣意的。さらにキャップストーンがのかってたが、現在はない。その高さが採用されてない。現状の姿が建築当時と同じでない。石の風化、ズレもある。建造者の意図を確認できぬまま、恣意的に結論をもとめてる。πの問題は。測定はコロコロこれがす測量車をつかってたろう。精度がどれほど問題にしたか疑問だ。かりに何回転したかで距離をだす。するちこれはπの倍数だ。この数値を上手にみつけて、わればπがでてもおかしくない。比重は。岩の成分は地球上でありふれた物質、ちかくなって不思議ない。四分割地図での陸地総面積は。面白いかも、しかし厳密に測定した結果はどうか。こんなアイデアは嫌いでないが。石岡がむきになってきく。

** 5) 石岡も反論、ではπは何故、でも尻すぼみ
「3652423」は。垂線を共通にする二つの直角二等辺三角形の長さにこれがあらわれるといいたいようだ。神秘的にみえるが、この角度は51度51分で45度でない。これは上がかけた二つの台形で、かけた部分にキャップストーンがあったはず。建造者の意図とは思えない数値に意義をみいだすのは、無理では。エジプトでは一年は360日としてた。余分は無視する習慣があったらしい。ピラミッドを偉大とみとめ、何とかしてそれをあきらかにしたいと苦闘した。その労を多とし面白いとも思うが、もうすこし冷静にみたいといった。

* 30) eg8、エジプトへの到着
八月二十七日夕方、ペリオポリス空港に到着、クフ王のピラミッドを見て、メナハウス・オぺロイホテルに到着した。。

* 31) eg9、ギザのピラミッドとスフィンクス
** 1) レオナも到着、三人でピラミッドへ
朝、ロビーで御手洗と待ちあわせた。そこにレオナから電話があった。御手洗と会話する。スティーヴは依然失踪中、家系にかんする資料を入手、建築業者はメキシコ人、資料を入手。設計者は。ポール。撮影隊スタッフの氏名、経歴は。入手。御手洗が資料をファックスで依頼したら、レオナがホテル内にやってきた。資料群をわたした。朝食をホテルですませ、車でピラミッドにむかった。アル・マムーンの盗掘孔から大回廊にいった。そこで王妃の間にゆき、大回廊にもどり王の間にいった。御手洗がこの下にまだ部屋があるといった。さらに地下室にいった後にアル・マムーンの盗掘孔から外にでた。スフィンクススをみた。

** 2) 三人でスフィンクスに
石岡がその謎をかたる。ピラミッドの四辺が東西南北にそって建造されれる。参道は東西にはしる。ところがスフィンクスへの参道は南にずれてる。研究者を苦しめる問題だ。御手洗に見解をきく。断言できる段階にないが、これら建造物が同時期につくられたと前提してないか。都市計画はそれほど計画的でない。面白そうな話しをする。三つのピラミッドがあり、墓所時代となった時、参道をつけようとなった。すると第二のピラミッドのそばに大岩があった。それを利用しようとなった。大岩をライオンに見たてるのはアフリカではよくあること、これをスフィンクスにしてやや南にずれた参道をつくった。どうかね。スフィンクスはこんな人びとの営みをだまって見てた、というわけ。

* 32) eg10、カイロ博物館、アヌビスとの再会
カイロ博物館にいった。数々の陳列物があった。死者の書をみた。そこに狼の頭部をもち半人半獣の怪物がえがかれてた。レオナが悲鳴をあげ、アメリカのピラミッド島で見たのがこれだといった。御手洗がアヌビスだといった。

* 33) eg11、夜のナイル・クルーズ
夜、ナイル・クルーズに乗船した。上流にのぼってUターンするあたりまできた。レオナがナイルは、かってギザのあたりにあった。当時、ギザは文明の中心だった。ナイルがさった現在、かっての繁栄はもどらない。御手洗が文明は東から西にうつる。それにさからうことは誰にもできない。レオナがリチャードはエジプトの文明、ピラミッドを馬鹿にしてた。アヌビスがそれに復讐したといった。

* 34) am13、御手洗、事件現場の訪問
** 1) 五人が現場訪問
八月二十九日、三人はビッチ・ポイントで自動車から下車、ボディガード二人と合流、荷物をもって徒歩でピラミッドにむかった。下半分が石積み、上半分がガラスの姿がみえた。御手洗が水晶のピラミッドだといった。日本橋をわたりピラミッドの北面の東端でピラミッドとむかいあった。東側にでて南下すると木製の扉がある。これはクフ王のピラミッドにはない。さらに南下し南側にでると石塔と空中回廊がみえる。死体の現場をみる。

** 2) 部屋を調査、細かな指摘
二階のキッチンに荷物をおいてのぼる。御手洗が六階の衣装ダンスをのぞいて、たいしてないといった。七階の部屋にはいる。八月十五日午前十時まで生存が確認されているとの発言に微妙な反応をしめした。扉である。この閂の外部に露出した取っ手には針でひっかいたような傷がある。踊り場の金属手すりにも同様の傷がある。外にむかってあいた小窓が三つ、空中回廊のとっつきと、床ちかく、さらに二十インチ四方の小窓、これはガラスがはまってる。これを子細に観察してたが、鳥人間があるいた跡があると謎の言葉。ベッドのシートに鼻をちかづけ観察。ベッドのシートや毛布ははしめってたか。不明。石油ランプの水分の分析は。不明。レオナが傍若無人の態度に耐えかね説明を懇願した。ベッドはしめってた。水分は塩水だ。しかも海水だろうといった。

* 35) am14、ピラミッド内部、盗掘跡の調査、スキューバダイビング、地下の隠れ家
** 1) ピラミッド二階は閉鎖、一階は可能。盗掘の跡も
五人は屋上にたった。空中回廊をみたがピラミッド側の扉は施錠されてはいれなかった。レオナがいう。入口の大扉はあいてるから、一階の砂地にはいれる。二階はあの扉のむこう。岩場がひろがる。御手洗がなんとかしてはいるという。また北側の正規の入口への案内をたのむ。石塔をおりピラミッドを半周し石積みの上方までのぼる。くだけた石があった。今年一月に盗掘があった。その痕跡という。中にはいるとすく行き止まりとなった。正面に縦一・五メートル、横一メートルの楕円形の穴があいてた。その先はくらい空間だった。盗掘者がここまでくずすとこの穴から松明をもった怪人が出現、逃げだしたという。御手洗が穴の中にはいった。中の様子はクフ王のピラミッドの上昇通廊とにてた。十メートルほどくだると頑丈な石積みの壁が出現。壁をしらべ横にあった文字をみてたが、やがてもどって外にでた。正面入口の大木戸である。

** 2) 一階を調査
室内野球場のなかに砂地がひろがってるようだった。むこうに神殿があった。天井の岩の亀裂から外光がもれて砂地をてらしてた。たかくひろがった岩の天井がおおいかぶさってきた。中央の一部のみがたれさがってた。床の中央にたつと壁からせりあがって天井となってるこの大岩の東側と西側に平行して狭い裂け目がはしってる。御手洗は石段をのぼって舞台にたった。またおりた。レオナが二階にのぼる道がみつからなかったとなじるが、気にしない。石塔にもどる。

** 3) スキューバダイビングを開始、水中に神殿、地下の隠れ家を
スキューバダイビングの用具を身につけた。岩場は危険というので日本橋をわたり遠浅の潮溜まりに遠征した。潜水をはじめた。御手洗が先導する。前方に巨大な神殿がみえた。ピラミッド内部にあったのと同様の雄大さ。二つの巨大な神像の中央にむかった。神像の高さは十メートル。入口は両神像の中央、足もと高さ三メートル、幅二メートル。御手洗とレオナが水中ランプをてらして中にはいった。石岡もつづく。廊下があり部屋があった。その中を探索してすすんだ。やがて自然の岩窟となった。最初にきた部屋にもどった。天井の隅に蓋をみつけた。それをあけて、中にはいった。排水孔のようなせまい孔をすすんだ。前方に光がみえた。御手洗がその水面から上にのぼり、レオナがつづき、石岡ものぼった。御手洗が声をたてるなと警告した。そこはあまり広くない岩窟の中だった。右手に入口があった。その部屋は扇の先にある円弧の形をしたものだった。左の岩壁から光がもれ、右の壁にはカイロ博物館の展示物のような怪物像がたってた。その先に生物学実験室にあるような背のたかい円筒形のガラス瓶に奇形の嬰児の標本がはいってた。レオナが驚き息をのみこんだ。御手洗がレオナがみたアヌビスだといった。レオナを見うしなった。悲鳴がきこえた。スキューバの時つかった水中ランプをてらして、右の壁にあいてた洞穴をすすんだ。

** 4) レオナと怪人の遭遇、解放
ちいさい体育館のような広間にでた。見あげると鉄パイプをくんだ橋がわたされてた。その中央にレオナ、それを羽交い締めする怪物がいた。レオナをおちつかせながら御手洗がちかづいた。何やらさけんだ。と、怪物がレオナをはなした。御手洗と怪物は何やら話しあってるようだった。レオナは無事に解放された。御手洗の指示にしたがい、やってきた水面の場所に二人でもどりスキューバを装着して待った。御手洗がもどった。出発だ。

** 5) 上昇通廊、大回廊、王の間を発見
ところが元にもどらなかった右にゆくべきところを左にすすんんだ。前方に壁がみえた。そこを直角、上方にのぼった。水面から空中にでた。まっていた御手洗にきいた。ここは。いわばエジプトのギザ。黒い岩の下部にあいたちいさな穴にはいっていった。油臭い。ぬかるみのような黒い泥があった。ひたすらのぼった。どこかで同じようなことをしたと感じた。前方の壁があった。これまでの穴の壁の天地左右が黒だったが、ここは灰色だった。角をまがりまたのぼりだした。この黒は炭と気がついた。この通路内で木材をもやし水をかけて、けしたあとだ。高い天井の大広間にでた。左右の壁がせりだし、天井となってつながる。レオナがこれは大回廊だといった。その前のは、おなじく上昇通廊だと気がついた。御手洗がギザにようことといった。壁はガラスだった。御手洗が王妃の間も木材の燃えかすで大変だ。歩けないだろう。難渋苦行がつづいた。王の間にはいった。燃えた木材でびっしりうまってた。石岡が説明をもとめた。焚き火のあと。誰が。不答。真っ黒の鉄棒をひろい。それで壁のはじをつついて。それをテコ にして鉄製の金網をほじくりだした。それをすてた。もう一本鉄棒もみつけ、それで御手洗が指示するあたりを力まかせにおした。壁のその部分がうごいた。さらにおすと人間の肩幅ほどの穴があいた。

** 6) ついに二階への抜け道を発見
外光がまばゆかった。せまいトンネルをぬけて、ひろがる岩原をみた。丁度目の高さにひろがっていた。レオナが二階といった。御手洗は窪地にたって三人がでてきた岩山のふもとの穴を点検してた。眼下に亀裂の隙間があり、一階の沙漠がのぞいた。御手洗は期限の明後日に説明する。その前にエリックにあいたいとレオナに連絡をたのんだ。石塔への扉があかないので、いそいでスキューバを装着してボディガードのもとにもだった。

* 36) am15、ハリウッドでの謎解き、撮影再開
** 1) 御手洗が関係者の前で大演説
八月三十一日午後二時、 パラマウント映画会社Gスタジオである。大型テーブルの上にエジプト島ピラミッドの建築模型があった。ピラミッド、石塔のほかに水まではってあった。一同を前に御手洗、石岡が紹介された。自信満々に演説をはじめた。歴史における文明の興廃ののちにその精華がここハリウッドに花ひらいたと演説した。御手洗の感想を、石岡が代理する。親友の愛犬がしんだので今回の事件はむづかしかった。同情の声に御手洗が詩人のようにその悲しみをうたいあげたのでレオナがとめた。今回の奇怪千万の事件も部外者に、そううつるだろうが、当事者にとってはただ悲しみがあるだけといって演説をおえた。監督とそのアシスタント、美術監督のエリック・ベルナールとそのアシスタント、ニューオリンズ署のゴードン部長刑事、FBIのマクファーレン捜査官、三人のボディガードを事件当日に居あわせて人物として紹介。いないのはリチャード・アレクスンとスティーヴ・ミラーといった。御手洗の謎解きがはじまった。

** 2) 謎解きがはじまる
オーストラリアの沙漠で焼死した異端のエジプト学者がたてた風変わりな建物の中で米国の政財界の異端児、リチャードがしんだ。場所は石塔の七階、死因は溺死だった。不可解である。さらに前夜にレオナが怪人物を目撃してる。それはエジプトの死者の書にある冥府のつかいアヌビスそっくりだった。この実在が疑わてていたが、ほぼ実在するとわかった現在、この事件は単純な殺人事件でない。現在頂点をきわめている文明が、かって繁栄をきわめた文明によって復讐されてるといった。怪人物がかかわってたのか。否、象徴的な意味で、然り。では彼は誰。

** 3) 怪人の正体はロジャー
ロジャー・アレクスン、ポールの息子、母はアン、アレクスン兵器開発研究所の化学者、死亡。ロジャーの奇形と関係があるか。然り、枯葉剤の影響。森を隠れ家として、たたかうヴェトコンに勝利するため、アレクスン兵器開発研究所に依頼したもの。それはダイオキシンだった。これはDNAが複製される過程に影響し畸型児の発生率を高める。ベトナムの畸型児もそうだが米国においてもある。ロジャーもその一人。奇妙な建築物がつくられた理由の一つが隠れ家を提供するというもの。父親が息子を生涯面倒みようと思った。彼は地上より海中のくらしがむいていた。知能は常人以上、悪人でない。女性を間近にみたことがない。レオナをみて感動したという。凶悪なことはしない。筋力もよわい。その生涯はながくない。スペイン語をしゃべる。何を話したか。医者といって相談をうけた。もうなくなりそうなビタミン剤、各種栄養剤を提供すると約束した。アヌビスに似たのは。回答不能。ロジャーは犯人でない。然り。では誰が。われわれのような常人。不思議な建物の目的の話しである。

** 4) ロジャーに異端学者の父、父が隠れ家を用意、実験も
ポールはクフ王のピラミッドはポンプであるという新説をたてた。これで異端の学者となった。クフ王のピラミッドはほかのピラミッドとちがうのか。然り、地上五十メートルに王の間、ほかのピラミッドのように墓だったら地中かせいざい地表。彼の考えではこの建築物はほかよりさらに古い時代にたてられた。それをクフ王が改修、増築し自分の墓とした。創設当時はまったく別の目的だった。バビロニア文明の影響をうけて、たてられた。この建築物はバビロンの塔に似た形をしてた。スケッチがあった。どこに。エジプト島の地下の研究室の論文。で、ポンプという意味は。バビロンの空中庭園は石積みの高い建築物の上におおきな森があった。降雨のすくない地域でどうし水を供給したのか。だからポンプは。学会で孤立した異端の学者の頭の中を推理する。エジプト文明には必ず先行文明のメソポタミア文明が伝播した。彼にはアレクスン財閥の遺産がある。人目をしのぶ息子をかかえてる。兄弟の理解、同情もある。そこで、エジプト島に複製をつくる。アメリカ人にもれることをおそれメキシコの業者をつかう。人目をさけるためにも英語をおしえずスペイン語をおしえた。そして自説を実証するため実験装置をつくった。この土地を選択した理由である。

ロジャーの海中生活の便、周囲にふんだんに水があること。ニューオリンズがギザと同じ緯度にある。これは古代エジプトとおなじ気温帯にあることを意味する。さらにもう一点、彼の祈りにも似た思い、ギザはおよそ東経三十度、ニューオリンズは西経九十度。これは地球をリンゴ のように経度で三等分した地点にある。あと一本は。東経百五十度、オーストラリア、ブリスベンの南緯三十度でポールは1984年3月焼身自殺してる。いよいよ実験装置としてのピラミッドの説明にはいる。

** 5) 模型で実験装置を説明
エリックの援助により製作した模型を紹介。観客側に断面がみえるように模型の半分をとりさった。そこに上昇通廊、下降通廊、王の間、王妃の間、大回廊がみえた。これらは砂をいれた蟻の巣の模型のようにみえた。通廊には木くずと白い綿がつまってた。これがポールがつくったピラミッド模型の原型だ。年をへて変化したがこれが最初の姿。通廊の壁は強化ガラス、実験結果を目視しで確認するため。ピラミッド上部は総ガラスばり。電気のきてないビッチ・ポイントで細部の観察が容易にするため。下の下降通廊は地下の間にあるが、この意味の説明が研究者をくるしめた。通説は、地下の間に埋葬する予定だった。これは他のピラミッドと同じ。だが、七分どおり完成したら、もっと上がいいといい、王妃の間、さらに気がかわって王の間となったという。この地下の間に井戸がある。ビッチ・ポイントの場合はこれがトンネルで地下から海につながってる。模型ではあらわれてないが、実際は島の足もとの海はふかくえぐられている。そこにアスワンから移送された神殿が組みたてられてる。この神殿の中の一室の天井の穴がつながって、この地下の間の井戸につながってる。現在、内部の通廊は塗りこめられている。表面を岩窟のように表面処理してる。この内部に通廊があるようにみえない。しかし正規に入口から数メートルはいったあたり、セメントと石で封印されている。外部の盗掘者たちに行きどまりと思わせるように細工してある。さらに説明がつづく。

この封印壁は今年のはじめにロジャーによりつくられたもの。これは盗掘があり、通廊が発見されたための処置だ。人にみつかることをおそれここに隔壁をつくった。これら通廊などは、クフ王のピラミッドの完全な複製である。これを撮影隊がみたようにピラミッド内部からみると完全に塗りこめられ、さらに岩山がつくられていた。この実験装置が完成したばかりの時点では、鉄製のアングルがむきだしたったと思う。最初の姿でなく、この模型では二階部分をつくり、岩山もある。その内部には王の間をもっている。観客にみせる断面は岩屋の頂上から窪みの中央をはしっている。アクリル樹脂がはってあった。空中回廊を説明した。石塔とその密室性を扉、空気抜きの穴について説明。ピラミッドにもどる。

** 6) 燃焼実験の開始
通廊にある木くずや白綿にはたっぷりのガソリンをしみこませてる。点火はどこから。御手洗が二階、岩山の窪地の道の突き当たりを指でさした。石岡は黒い泥状の煤にまみれながら、はいだしたあたりと思った。指さしたあたりに注目をよびかけ点火した。王の間がオレンジ色にもえあがった。すばやく栓をした。透明の通廊がオレンジのネオンサインのようにかがやいた。やがて火がきえた。地下の間の井戸から水がふきだした。下降通廊、上昇通廊、王妃の間、大回廊が水びたしとなった。水勢はおとろえたが王の間の天井すれすれまで水位があがった。岩山の点火したあたりの穴から水がほとばしった。窪地の道をくだって扉をすぎ、石塔七階の穴にたっした。七階の部屋が水で一杯となった。御手洗がこれが溺死のからくりといった。この結果をだすためにちょっとした駄目押しが必要だ。まず空中回廊の七階の部屋のとっつきの穴はあけておくこと、それ以外の穴はしめておくこと、扉をあけようとするから、横にさす閂の取っ手、それは外にでてるU字形の取っ手だが、これを針金をとおし金属階段の手すりに厳重にむすびつけておくこと。この痕跡はのこってたという。犯人の後始末の話しである。

犯行後、針金をはずした。床にちかい穴の蓋をあけた。すると水がいきおいよく飛びだした。殺人の目的はなかったが、これがポールがおこなった実験である。実験の初期段階、彼は台形状のピラミッドの上部の平面部に木々をうえ、そこに水を供給する装置と考えていた。千年ものあいだにそれが忘れられ現在の四角錐の姿となった。1986年のある日、ある人物がこれを殺人装置とすることを思いついた。そのため王の間の煤が部屋にはいりこまないよう王の間の水の出口のフィルターを何重にもかさねた。ところで今回の撮影はこの殺人装置を人しれずはたらかす好条件を提供したという。

** 7) 嵐が犯行に最適条件を提供
嵐の中の撮影は爆発的な燃焼の音、通廊内の濁流の騒音、断末魔の悲鳴などをかきけした。質問、気密は。粘土。大回廊があれほど広いのは。木材でやぐらをくむ。それで燃焼をうながす。そのため支えとなる木材をさしこむ穴が必要、側面の壁の穴がそれ。誰が犯人か。点火のため岩山の穴のちかくにたってた人物。すばやく栓をし、水がたまったころ栓をぬける人物。コンピュータ作動の第二カメラの首尾をチェックするためあそこに一人いた。

** 8) 犯人の指摘、ハリウッドの期待にこたえた御手洗に拍手
スティーヴ・ミラーだ。その動機は。家系図からわかる。ミラー家はフィラデルフィアの裕福な一族、もとは英国貴族だった。ところが曾祖父が三十代にタイタニック号の沈没で死亡、一族の没落がはじまった。自身は苦学して映画学校を卒業した。その気がない曾祖父にチケットをおくりつけ乗船させたのがフィラデルフィア移住組、もと英国上流階級仲間のロバート・アレクスン、そんな動機があるか、疑問の声。しかし準備の時間もあった。この装置でたしかに殺人、それも溺死が可能。実際に殺人があった。手があがった。ボディガードのリッキー・スポールディングが殺人の時刻は。ハリケーンの最中、それで発見までに室内、ベッド、毛布もかわき水もなくなってた。発見が翌日の午後十一時すぎ。では、その日の午前十時のリチャードの声は。同感の声がひろがった。それは亡霊の声でしょう。声しかきいてない。見て確認しでない。納得できないリッキーにたいして、ゴードン部長刑事はそれほど不満でなかった。レオナは自分がしんだのがわかってなかったかも。撮影の再開を願う会場の雰囲気の中、難事件にちょっとした謎はのこるものという名探偵、御手洗のおわりの言葉は拍手をもってむかえられた。その後である。

その夜、御手洗はロスアンゼルス空港から旅だった。アイーダ'87の撮影許可はおりた。スティーヴは指名手配された。石岡が帰国し、事件後、一週間にやっと御手洗も帰国した。やがてレオナから手紙がとどいた。試写会が十二月に開催、スティーヴは依然失踪中とのこと、ロジャーをアレクスン家で世話する体制がととのったことがしるされてた。パラマウント社から銀行に十万ドルの振込があった。直後に銀行からお中元がおくれれてきた。

* 37) jp2、試写会への案内
1986年10月、今回の事件をまとめるため下書きをはじめた頃だった。グレアム・アレクスン氏から丁重な礼状がどいた。レオナからも試写会の案内がきた。御手洗は訪米をいやがった。石岡が本にまとめる都合もあるので訪米したいというと本にするのは賛成できないといった。レオナから電話があった。二人は訪米した。

* 38) am16、試写会、文明論
十一月二十九日、パラマウント映画社の奧まった応接間でレオナとあった。豪華な試写室で三人でみた。どこともしれない町並みがうつった。日本の家電メーカーの看板、日本車が登場する。日本企業とのタイアップがここにでてる。レオナがハリウッドも日本の資本なしではやってゆけなくなるといったので石岡が驚いた。御手洗が文明は東から西にうつるといった。石岡はひょっとしたら今、まさに米国から日本にうつっているかもしれないと思った。映画がおわった時、石岡は盛大な拍手をおくった。

* 39) am17、パーティでの出会い、レオナ宅への誘い
ホテルのパーティ会場で二人は監督ほかスタッフと再会した。そこでティモシー・ディレイニーという人物を紹介された。リチャードの主治医だったという。レオナや監督とも知り合いだという。ステージに監督があらわれインタビューがはじまった。殺人事件の話しがでたので御手洗が登場することとなった。司会者にビッチ・ポイントの事件を一言でいうと何かときかれた。文明の死である。ノアの洪水伝説にあるように文明の死はいつも溺死だといった。会場にもどった御手洗にティモシー・ディレイニーが感銘をうけたといった。

レオナの歌声がひびいてきた。退屈そうにしてる御手洗にレオナからメッセージがとどいた。彼女の自宅へのさそいだった。御手洗はティモシー・ディレイニーを誘って、三人でむかった。路上でレオナとおちあった。ティモシー・ディレイニーがここで遠慮するといったが御手洗がリチャードについてきいた。いいやつだったが道化。ではロジャーは。アメリカの犠牲者。文明社会の犠牲者、枯葉剤は必要だったが。辞去しようとした時、御手洗が発作をおこして路上にたおれた。レオナ宅に御手洗がかつぎこまれたので、またティモシー・ディレイニーが辞去しようとしたら、御手洗がリチャードさんとよびかけた。

* 40) am18、真相の暴露
** 1) 主治医の正体を暴露
リチャードは否定した。レオナも信じない。御手洗がいう。リチャードが呪われたアレクスン家から離脱したいだけなら許せる。整形にすぐ気がついた。堂々と登場するのもフェアプレイといえる。リチャードについての言葉もよい。しかし、枯葉剤は必要でなかった。文明社会の危機でもない。ただただ売りさばきたい兵器がたくさんあっただけ。ロジャーは生まれる必要なかった。葉巻をすって、やっとなりすましがおわった。レオナもリチャードといった。では石塔の七階で死んでたのは。ポール、リチャードとは双生児。彼が原因不明の病気で小学校進学が二年おくれたため兄弟とあつかわれるようになった。ピラミッドのポンプ説は。まったくの嘘、撮影再開のための方便、真相の究明より再開を熱望してた。それにこたえたまで。誰が舞台をあやっつてか確信がなかったからあの茶番劇をえんじた。ここでリチャード氏に再会できたからよしとする。説明をつづける。

ロジャーにきいた。ポールがしんだのに食糧を供給する人がいる。オーストラリアにとんで焼死の真相をたしかめた後、ロジャーにあってたしかめた。では通廊にあった大量の煤は。ポールがおこなった実験の痕跡、石塔への水攻めはやってない。リチャードがポールをころしたのか。否といっておく。リチャードが告白する。自分自身をころして海にうかびあがったのが八月十五日の夕方、世界は輝いていた。開放感だ。呪わたアレクスン家からの解放だ。御手洗が解説をはじめる。

** 2) 本当の真相はこれから、ポールにもアレクスン家の呪いい
ポールの1984年3月、オーストラリア、ブリスベン訪問の目的は粉末ビールだ。粉末に水をそそぎ一週間するとまったく本物とおなじビールの味となる。貯蔵用に最適だ。生涯ロジャーをかくまうと決心したポールにとってはわざわざ訪問するだけの価値がある。ところが彼はブリスベンの市内でJ.Dという浮浪者とあって意気投合した。そのあとレンタカーで沙漠にさそった。J.Dが心臓麻痺で突然死した。彼の頭に名案がうかんだ。ガソリンで死体をもやし自分の免許証をのこす。徒歩で現場をはなれ帰国した。息子と地下で一緒にくらしてやりたい。その気持もあったろうが、そのためだけでやることではない。アレクスン家の呪いはそれほど重かった。自分を抹殺したポールにとってリチャードは今まで以上に重要となった。さてハリウッドの撮影がきまったのが六月。あのピラミッドは外観を気にしてなかった。誰が現状のように岩窟にしたてたのか。リチャードだったら殺人も計画したといえないか。

** 3) リチャードの目論みを説明、さらにアレクスン家の呪い
リチャードがむきだしのままで溺死させればよい。警察は今もそう信じてると反論。否、水をすいあげてない。それがわかるから不都合。素直に納得。御手洗がその役者振りをほめる。沈思の後、岩窟となったピラミッドの現状に手をくわえることなく計画を実施したと結論づけた。否、すこしある。煤の排出をおさえるフィルターは自分の仕業。然り。ではポールのダイビング中の水死は不幸な事故か。然り。あっけない死、兄は息子のため楽園をつくろうとして、いくつかは完成させてた。自分とちがい女にはあまり興味がなかった。ただ一つの例外がアンだった。研究にしか興味がないようなタイプだったが愛してた。ロジャーも愛してた。そんな兄をころすはずがない。御手洗がきく。

自分が不審な死をむかえたら全米一の名探偵に依頼するようたのんでた。ずっと以前からどうしてそんなことがわかってたか。しばらく沈思、アレクスン家の呪いかも、自分が離脱することも、もしかしたら兄がしぬことも常に頭にあった。御手洗の解説がはじまる。

** 4) リチャードの犯行を解説
八月十四日午前、兄の死をしって、双生児である兄とおなじ発想をした。自分をけすこと。然り。監督との打ち合わせは午後一時、その時は午前十時半だった。顔の外観、髭なども注意して似せた。両手のおきどころも注意した。六階の大型衣装ダンスにかくした。御手洗がいう。ボディガードが五階、六階にひくと、嵐の中、死体を七階にあげた。バケツの水を体になすりつけ、バケツは海にすてた。では密室をどうつくったのか。御手洗がこたえる。傷だらけのガラス窓しかない。然り。はめごろしの窓だが強く押せば階段におちる。そこから脱出した。単純だが、かえって気がつかない。石岡が押上げ式の閂が何故おちてなかったのか違和感をもったことを思いだした。必死の溺死者は当然ここを操作するはず、納得。御手洗の解説である。屋上にのぼり、あらかじめ垂らしたロープで階段におり窓をはめた。最終的に足で蹴りこんだ。翌朝、午前十時、空中回廊のとっつきにある穴から、中にさけんだ。これをボディガードがきいた声だ。しかし、これはやりすぎだった。何もせず放置しておけば、スティーヴの殺害説が強固になったのに、さらに不可解な謎をつくった。しかしこれも時間にせまられた犯行の特徴ともいえる混乱である。さて、そこから空中回廊を匍匐前進、合鍵で開錠。鉄条網だからおしこんで余裕をつくれる。それで扉がひらく。扉側から針金でひっかけ、ひきもどせば、完了だ。その時、二階にはスタッフはいない。王の間にはいる穴の栓をぬき王の間にゆく。水をまいたり、さらにガソリンをまいたり細工したかもしれない。ロジャーの隠れ家で夕方をまつ。スキューバを装着してビッチ・ポイントの海岸に上陸、ヒッチハイクでフィラデルフィア市内にもどった。そこで信頼をおく弁護士と相談し、整形、今後の身の振り方を相談した。弁護士が実務をこなした。長い沈黙のあとレオナがきく。

** 5) ポールのポンプ説は実証できなかった
ポールのポンプ説は実証できたのか。リチャードは不知。御手洗は失敗。彼が気づかなくとも化学者だった妻にきけば間違いをすぐ指摘される。空気は酸素と窒素が主成分。酸素は五分の一。燃焼で酸素が消費されても王の間にまで水位があがるのは無理。模型の実験は。モーターじかけ。呆然。ポールの研究は失敗におわったのかとレオナがきく。不知、英語ではこれ以上の実績がわからないが、ヒエログリフの文書がのこされてた。それが何か。不知。地球を三分する経度の問題は。偶然。立ちさろうとするリチャードに御手洗がスティーヴのことをきく。彼は死ぬまで幸せにくらすだろう。それだけの金をはらった。住所をしるしたメモをうけとった。

* エピローグ、別れ
ロスアンゼルスにめずらしく雪がふった。三人で食事をし、市立美術館にいった。レオナと御手洗が少しはなれた場所に移動した。石岡は市立美術館の柱の陰でまってた。しばらくしてもどってきた御手洗がホテルであたたかい紅茶でものもうといった。

* 感想
作者の芸術的感性がほとばしりでる、ような作品である。岬の先の岩礁にたてられたガラスのピラミッドという、独特の舞台に事件が展開する。ギザのクフ王のピラミッドを複製したといいながら、上下二つの構造をもつ。下は石積みで普通だが、上はガラス製である。島田先生、何があったんだとききたくなる。そのそばに石塔、七階建ての細い建築がそえらてる。斜め屋敷のような趣向だ。その姿がいい。

電気もきてない辺鄙な土地にエジプトのピラミッドである。ハリケーンがふきあれた翌日、嘘のような八月の晴天。陽光にきらめく水晶のピラミッドという。実現は無理だが構想は作者の勝手。こんな世界がつくれる人がうらやましい。随所に建築への深い知識がみえる。扉、鍵、閂、窓、屋上、寝室、厨房、洗面所、倉庫と丁寧な説明にいつも感謝してる。こんな幻想の世界のrealityを感じさせてくれる。犯行を推理し謎解きを解説する時にすべて必要となってくるので、これだけでも充分推理小説の醍醐味を味あわせてもらってる。さて謎解きである。

複雑な構造となってる。爽快感にかけるかもしれない。第一回目の謎解きだけなら単純だがスッキリする。幽霊がでるのでおかしい。何かあると感じるが、やはり最後のドンデンがえしで、重たくなる。呪いもいやだ。御手洗とレオナの別れもいやだ。ポールの実験の結末がどうだったのか。ヒエログリフに何が書かれてたのか。もうすこし爽快感がほしかった。テーマである。

ナイルのくらしとピラミッド、タイタニックの沈没、ハリウッドの繁栄と米国兵器産業の闇から、人類のもっとも面白い五千年の歴史を俯瞰し文明の興亡と西進をえがいてるようだ。デカすぎる。特にタイタニックの沈没が英国文明の没落を象徴してるようだが、あまりひびかなかった。

今回はより念入りに謎解きの筋をおいかけたつもりである。いつもながらの作者の強靭な構想力がもたらした、あるいは細部にまで注意のゆきとどいた労作である。

ここからは、つまらぬ感想である。まず撮影の一時中断命令である。

これは原理的には可能と思うが、それでもその必要性に疑問がのこる。証拠隠滅とか犯人逃亡とかがあるのでこの種の命令をだす。それがこのような多大な影響、経済的損失をあたえるような命令が可能か疑問である。さらに現実的可能性である。

撮影側はリチャードにたいし故意、悪意はみとめられない。これがスキャンダルとなっても国と関係が問題になるだけで、ハリウッド側のイメージをそこなうおそれはすくない。当然多大な損害賠償をもとめる裁判となるだろう。また、それがよい宣伝となる。米国人は理不尽な権力とたたかう人を応援する。このような命令がだされる現実の可能性はすくないと、いわざるを得ない。と、いってみたが、読了して、派手なハリウッドでの謎解きの前振りとなってると気づいた。どの道、乱暴な命令である。冷静に考えればやめた方がよい。茶番劇のような解決は警察側にとっても、よい引き時となった。虚仮にされたボディガードの皆さんには、あとでリチャードがたっぷりお礼をすればよいだろう。次に建築についての感想というか文句。

ネットでいつもしれべてる。図解してくれといいたい。本としての限度があるだろうが、わからないままになる事もある。で、一点、王の間、大回廊、上昇通廊、下降通廊はピラミッド全体のどの部分にあるのか。これらが全体のどのていどの空間をしめてるのか、しりたかった。一階、二階という構造をもつ建築物が本当に可能なのか実感がもてなかった。推理小説は所詮フィクションだから現実の建築確認とか強度計算まで問題にするつもりはないが、構想の世界で可能であるとの実感がもてなかった。あの絵は北南で切断した断面を東からみたものと思うが、ピラミッドの頂点はどこらあたりか。見ないと二階建構造、通廊、回廊などを塗りこめた壁、岩山の構造が空想できない。何故あの亀裂があるのか、その構造が可能かもわからなかった。



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謎解き島田、アトポス [島田荘司]

* はじめに
壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 本文
* プロローグ1、レオナと精神医の対話
ハリウッドの女優、松崎レオナと精神医、ポール・ドリスデールが対話する。レオナはいつも見る悪夢を話す。顔の毛穴からでる血で顔一面が赤くそまり、頭髮がぬける。頭頂部はなく、横髪だけがたのこる。歯が全部ぬけ歯茎だけとなる。麻薬、性、不安のことを話し、最後に自分には吸血鬼が取りついてるようだという。

* ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

アトポス (講談社文庫)

アトポス (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/10/14
  • メディア: 文庫



* 長い前奏、吸血族の歴史
** A 吸血族の歴史
*** 1) 昔から吸血族はいた。しかし滅ぼすべき
吸血鬼という種族がこの世に存在する。ファンタジーでない。旧約聖書申命記第十二章二十三節に「ただ、堅く慎しんで、その血を食べないようにしないといけない」とある。キリストは最後の晩餐において「私の血である葡萄酒を」という言葉をのこした。これらの言葉がかっては吸血をおこなう種族が今よりもっといたことを示唆する。キリスト教のモラルは吸血種族の抹殺をもとめる。次々に火炙りにしてきた。われわれノーマルな人種に吸血の性癖があらわれないよう、つねに威嚇をくわえてる。

*** 2) 吸血鬼を見せしめで残虐に処刑した
英国、エディンバラ郊外の村に1360年に誕生した貧農の子が成長しキャロウェー地方の人里はなれた海岸の洞穴に一家をかまえた。このビーン夫婦は25年間に14人の男女をうみ、やがて50人の大家族となった。生活のため彼らは旅人を殺害し、その血をすすり、干し肉として保存した。ある時、そのうちの一人が逃亡し、事が露見した。1435年、エディンバラに護送れた彼らは、男は手足を切断したうえ、女は火炙りにより処刑された。吸血鬼たちへの見せせしめだった。吸血族のスーパー・スターは「ドラキュラ」のモデルとなったワラキア公、プラド・ツェペシュだろう。しかし私見だが、彼は最高権力者にうまれ、歴史にのこる派手な行為をした。しかし、本来、吸血族を自覚する連中はもっとひそやかに生きたろう。まずプラド公にはいる前に蘊蓄をのべる。

*** 3) 吸血鬼のスーパースターはドラキュラ伯爵だが
ルーマニアとはローマ人の国の意味である。ローマ帝国は東西に分裂し、東ローマ帝国は現在のイスタンブールを中心にさかえた。ここのギリシャ正教は、やがて東欧、ロシアにまでひろまった。この儀式をおもんじ、神秘主義の傾向のつよい宗教は吸血族にはなじむ。ルーマニアが所在するバルカン半島は、15世紀当時、東ローマ帝国、オスマントルコのイスラム、中央ヨーロッパのカトリックの三大勢力が鎬(しのぎ)をけずる場所だった。この中のワラキア、トランシィルヴァニアの山岳地帯の山頂にポエナリ城という山城があった。それがワラキア公、プラド・ツェペシュの居城である。その暴君振りには父からの遺伝、またトルコにおける捕虜経験の影響があった。父が毒殺され、解放されて城主をついだ。トルコから来訪した使者の失言にいかり斬首した。トルコ軍の捕虜を串刺しの刑にした。領民にも同様に残虐な刑をおこなった。肉体の各所に釘をうち拷問した。プラド公は処刑をたのしみ流れた血をグラスにうけ、のみ、あるいはパンにひたしてたべたという。このような魅力にとむ人物だが、わたしにはそれよりもっと興味をひく人物がいる。それがプラド公のとおい親戚筋にあたるエリザベート・バートリ伯爵夫人である。

** B エリザベート公爵夫人
*** 1) エリザベートの誕生から結婚
エリザベート・バートリは、1560年、ルーマニア、トランシィルヴァニアにうまれた。バートリ家はその地の名家だった。しかし叔父は悪魔信奉者、叔母はレズビアン、兄弟は色情狂だった。エリザベートは一族のくろい血が自分にもながれていると気にかけていた。エリザベートが15歳のい時に結婚した。相手のナダジー・フェレンツは25歳だった。ニートテ地方のチェイテ城にすんだ。森にかこまれた高台に所在する。そこから城下の営みがみえた。夫は戦いに明け暮れ、不在がちで何もすることがなかったので、下男ツルコに文句をいった。こまったツルコは自家に伝来する秘密の呪術の話しをした。よろこんだエリザベートは出征している夫に手紙をおくった。

*** 2) 退屈な結婚生活、戯れの恋
白い牝馬を黒い杖で呪いをこめてうつ。その血を敵の皮膚、あるいは衣服にぬりつけると相手をほろぼすことができる、といってやった。苦笑をうかべて読んだ夫は、今の敵は腰抜けで呪術をつかう必要がないと返書した。その手紙にエリザベートは不満だった。また何もすることがなかった。ある時、美男のランジェラ伯爵がやってきた。城内の散歩中にあろうことか彼女は自分の美貌の衰えをあけすけな言葉でかたった。チャンスを見のがさなかった伯爵は自室に彼女をいざない一夜をともにした。この噂はたちまち近隣にひろまり、貴族の男たちがあつまってきた。しかし自身の淫蕩の血を自覚していたから、はめをはずさなかった。それより彼女の関心は超自然崇拝にかたむいた。ツルコの紹介により、魔術師ドロテア・ツェンテスや森の魔女、ダルバラを城内にひきいれ一室をあたえた。ランジェラ伯爵がまたやってくることになった。もてなしの準備をしてる時だった。

*** 3) 義母アネットの怒り、監視
突然、大勢の衛兵をつれた義母アネットがやってきた。きびいしい叱声の後に二人の魔女が追放された。男関係の追及がつづいた。必死に否定するエリザベートにアネットの癇癪が爆発した。召使いの前にもかかわらず、鞭打ちの折檻をうけた。うたれた尻から血がしたたりおちた。屈辱にうちひしがれたエリザベートにアネットは今後、監視のために城内にとどまるといった。

** C 義母への恨み
*** 1) 監視、出産、義母の病気
その後、彼女は義母と小間使いベスの監視下のおかれた。三十歳をすぎて、第一子をもうけた。つづいて、第二子、第三子がうまれ、38歳となった。義母が体調をくづした。城をはなれるという。彼女は開放感から、鏡を見てはじめて笑った。

*** 2) 老いに愕然し小間使いを殺害
義母がきてからというもの、笑ったことがなっかった。ところが自分の笑い顔につよい衝撃をうけた。思わず失神してしまった。鏡のむこうで皺だらけの初老の女が笑っていたからである。彼女はこの衰えをもたらした義母をにくみ子どもをにくみ夫をにくんだ。そして自分より艶のある肌をもついやしい女たちをもにくんだ。追放された魔女二人を呼びもどした。昔のように地下室をととのえた。その夕方、小間使いベスがスパイにやってきた。ベスをとらえ、両手をしばり天井からつるした。長年の恨みをはらすため全裸にし鞭でうった。偶発的だが顔をけられた。彼女は逆上し、制止もきかず、ベスを剣でさした。血がほとばしりでた。さらに何度もきりつけた。そのたびに血が彼女にかかった。下男のツルコ、侍従のウィーバリー、二人の魔女が見まもる中、彼女は全身を痙攣させ放心していた。

** D せまる老い
*** 1) 若さの血を実感する
ベスは秘密裏にツルコが処理した。翌朝、エリザベートははっとめざめて、蹴られた右頬がはれてないことを確認した。夜着をぬいで自分の裸身をたしかめた。ついで左右の手の甲を見て、おどろいたシミ、クスミがきえている。しばらく放心した。ベスの血をあびたところは肌が回復してる。顔もそうだ。ベスの血だ、と思った。

*** 2) 義母をおしきる
その朝にはアネットがもどってきた。激怒して、こんな女に大切な孫はまかせておけないといった。ところが夫、ナダジーが必死になだめた。自分も城にとどまり監視するという。病身の弱気がでた。アネットがついにおれた。無罪放免となった。ベスのことは何も問題とならなかった。 子どもの世話に明け暮れ、40歳となった。

*** 3) せまる老いにおびえる
老いがせまってきた。笑ってないのに目尻や口角の皺が笑う。顎の下の肉がすこしたれる。乳房もしなびた。下腹もたれた。太腿の肉がやせた。手の甲にシミが見え、肌がくすんできた。にくい義母の老醜が眼前にせまってきた。若さを謳歌してる下女の肉体にもどることを想像した。でもできない。今のゆたかな生活をすてる気がない。色々の思いがうずまき、心の葛藤にたえられなくなる。するときまってベスの血で白くかがやいた肌を思いだす。夫がたおれ、あっけなく死んだ。

*** 4) 夫の死、若い血にうえる
喪もあけない三日目、エリザベートは夫の部屋の中国磁器をすべて自分の部屋にはこぶよう下女たちに命じた。おそるおそるはこぶ下女の中に不器用な者もいる。大切な香炉を大理石の上におとした。エリザベートの叱声がとぶ。たちつくす下女たちを部屋からおいだした。ツルコ、下女の三人になり、むきだしとなった背中を何度も鞭でうった。血まみれになった背中に手の甲をあてた。たっぷりと血のついた手をみて、二人を追いだし、一人になった。顔に血をぬりたくった。思わず笑いがでた。笑いつづけた。血をなめた。こんなにおいしいものだとは。はじめて気がついた。

** E 義母の殺害、下女の殺害
*** 1) 義母への恨みをきかせ殺害する
肌の調子がよいことに気がついた。血液療法はきく。今だ。今をのがしては、効果がないだろうとも思った。二人の魔女をひそかに呼びもどした。義母のことを相談した。砒素を手にいれてくれた。それを香草茶や食事にすこしづついれた。ベッドからおきれなくなった義母を見舞と称して、おとづれた。20年にわたる恨みをのべて、枕で口と鼻をおさえて殺害した。

*** 2)下女を殺害する
療法の効果は長続きしない。つぎつぎと下女を口実をもうけて殺害した。50歳になって、さらに頻繁に処女の血を要求するようになった。死体をうめる場所にこまり、最後は地下の専用の部屋にかくした。専用の浴槽をもうけた。鉄の処女とよばれる残虐な道具もつかった。近隣の村から娘を調達するのがむづかしくなった。

** F 鉄ノコをかくしたフロレンス
隣国ハンガリーのワラシアという寒村にルーディとフロレンスという結婚をちかいあった男女がいた。フロレンスは大枚の支度金と引替えで、嫌々、城にやってきた。牢獄にいれられ泣いた。フロレンスはルーディと相談して、スカートの下に鉄ノコをかくしてた。

** G 脱獄へ
鉄ノコで牢獄の棒をけずった。

** H 脱獄へ
鉄ノコで牢獄の棒をけずった。

** I 脱獄、告訴
五つの夜がすぎて脱獄し逃亡した。ルーディにむかえられた。ハンガリー国王のもとにむかった。

** J ツルゾ伯爵が逮捕
ハンガリー王がジョージ・ツルゾ伯爵に調査を命じた。

** K 処刑
1611年4月、チェイテ城の広場で、執事のヨハネス・ビヴァリー、下男、ツルコ、乳母、イロナ・ジョーが処刑された。エリザベート伯爵夫人は地下の一室に塗りこめられ、1615年2月絶命した。城外では吹雪があれくるってた。

** 1) 現在の小説家の主張
ハリウッド、 ブールヴァード脇のカクテルバーでホラーノベルズの売れっ子作家、マイケル・バークレィがいう。これがエリザベート・バートリ伯爵夫人の歴史的事実だといって、バーテンダーに新作の話しをした。

** L 吸血鬼の復讐
*** 1) 塗りこめ部屋をあける
2月の吹雪のあれくるうある夕方、チェイテ城の地下に兵士がおりてきた。ツルゾ伯爵に命じられて、塗りこめた部屋の穴をあけエリザベート伯爵夫人を埋葬するつもりだった。漆喰の壁がうがたれ、くらい穴があいた。松明をかざして中にはいって、おどろいた。ぬれた床の上の一面に意味不明の文字がかかれてた。しかし伯爵夫人の遺体はどこにもみあたらない。壁際にボロボロになったベッドがあるのをみつけた。ツルゾ伯爵の指示をあおぐため一人が先にでた。もう一人は念のためしらべた。ベッドに虫がくったような裂け目があいていた。蛇がすみついてるのかとのぞきこんだ。うわっと声をあげた。

*** 2) 怪物が復活する
外にでた兵士がもどってきた時、兵士は首から血をだしてたおれていた。そばに奇怪なものが立つてた。ミイラだった。頭にはまったく毛がなかった。顔は皺だらけで目も鼻もどこにあるのかわからない。しかし顔面一面が赤く血でぬれていた。それは豹のような敏捷さで兵士の喉元にかみついた。兵士は死ぬ間際に、やはり生きていた、と思った。

*** 3) ルーディとフロレンスに復讐する
ワラシア村のルーディとフロレンスの家である。吹雪はやんでいた。あれから4年、二人の間には、2歳の男の子、うまれたばかりの女の子の二人がいた。犬の遠吠えがきこえた。見ると一人の人物がこちらにくるようだ。フロレンスは編み物をし、ルーディは農具の手入れをしてた。かすかな音がだんだんとちかづいてきた。突然、窓ガラスがわれる。石が居間にころがった。頭髪がまったくなく、顔が血でただれた人物がはいってきた。フロレンスは悲鳴をあげ、揺り籠におおいかぶさったまま、失神した。気がつくと床の上に喉をくいちぎられたルーディがたおれて、二人の子どもも血まみれで死んでいた。怪物はフロレンスの喉にするどい牙でかみついた。

** 2) 小説家の殺害
*** 1) 物語の結末、吸血鬼の復活をかたる
バーテンダーがどんな結末となるのかきく。ルーディ一家が皆殺しになる。吸血鬼となったエリザベートの復讐だ。彼女に乗りうつった吸血鬼は、また乗りうつって、永遠に生きつづける。だからこの大都会LA(ロスエンジェルス)にもいるかもしれない。バーテンダーがフロレンスのような、いい子が死ぬような悲惨な結末はいやだ。何とかしてくれというと、断固、拒否する。たとえマイケル・バークレィのような好人物がでてきても、例外はないといった。バーをでた。ハリウッド ブールヴァードからファーモント・アベニューにはいり、自宅に歩いてかえった。

*** 2) 怪人物の襲撃
玄関の横の張り出し窓があいてた。ホールにはいった。玄関は同じだが、父親の居住部分と自分の居住部分は完全に独立してる。父親はまだもどってなかった。窓をしめ、服をゆるめ、バーボンをのむため奧のカウンターにいった。氷をだした。その時、アイスピックがなかった。バーボン片手にもとにもどった。客用のワードローブが突然ひらいた。肩につよい痛みを感じた。中にひそんでいた人物にアイスピックでさされた。頭髪がなく、顔全体が赤く血でただれている人物だった。たおれたマイケルに馬乗りとなり、さらにさした。それから斧をもってきて首をたちきった。その首を銀の盆の上にのせて、口づけをした。首がたおれたのにもかまわず、うれしそうに踊り歌った。

** 3) 犯行現場の検証
6月27日、マイケル・バークレィの父親、ゴードン・バークレイに、LA市警殺人課のティモシー・ライアン刑事とアンソニー・ルイス刑事がきく。昨夜11時20分に帰宅し、息子の死体を発見。その前の行動は。ホテルでアリゾナ州立大学社会医学部副部長のアンドルー・ホワイルと対談した。バークレイは牧師で著名な宗教家だった。話題は。多岐にわたるが安楽死の問題など、宗教家としてコメントした。安楽死の話しとなり、バークレイは強固な信念からすべての安楽死の方法を否定。犯行について刑事がいう。犯人はあいてた窓から侵入、本人をさがし、みつからないので帰宅をまって犯行におよんだ。斧は庭の倉庫から、アイスピックは奧のカウンターから入手した。金銭に手をつけてない。麻薬中毒者の犯行ではないといった。被害者はこの週末、女優、シャロン・ムーアと会食する予定だった。

** 4) 聞き込み、小説登場人物の復讐
27日午前、ライアン刑事とルイス刑事はその足でバーテンダーにあう。きく。犯人にまったく心当たりがない。麻薬もやってないだろう。言い争いがあったとか、本当か。冗談、善良な主人公が悲惨な死にかたをする。あれではいつか、その主人公たちに復讐されるといった。そして、小説をもってきて説明した。その内容は、ディーズという作家が、戦いで流れ矢で死んだインディアンの女に復讐された。女は、復讐は本人のみならず婚約者、家族にまでおよぶと宣言した。そして婚約者のエミリーが、小説「テリー」の主人公テリーの復讐により、キッチンの包丁が飛びだし喉にささって死んだ、というものだった。

** 5) 女優シャロンの失踪
二人の刑事はビバリーヒルズにあるシャロン・ムーアの自宅にいった。彼女はここ3年で3本に主演する人気女優だ。門扉からインターホン、応答なし。施錠されてない。玄関の扉までいった。ノッカーで訪問をしらせた。応答なし。しかし扉があいた。ホールには、金属製のライオンの像が見えた。不審物はない。もどろうとした時、ライオン像に血痕をみつけた。「たすけて」という文字もみつけた。左手奧の扉をあけ廊下にでた。その先にガラスの破片がちらばってた。大鏡だった。廊下の左右にある部屋をのぞいた。雑然としてた。ピアノはたたきわられて白木が見えてた。キッチンにはいった。シチュー鍋とコーヒーポットがあった。乱雑ではなく日常の使用をうかがわせる。二階の寝室にいった。「怪物にさらわれ、殺される」というメモを発見した。結局シャロンはいなかった。

** 6) シャロンとレオナの確執
*** 1) シャロンは現在、休暇中という
二人の刑事はシャロンの代理人、キンバリーをたずねた。シャロンの自宅をたずねたことをはなし、血痕、脅迫を示唆するメモ、乱雑な室内について話した。まったく動揺の色はない。ただスキャンダルをおそれた。バークレイの殺人事件は知ってる。彼女は現在4週間の休暇にはいってる。松崎レオナからの手紙をだした。執拗なクレーム、脅迫があったという。レオナが週に一、二度精神医にかかってることを指摘、この殺人事件との関連もにおわせた。

*** 2) 映画サロメのロケが7月からはじまる
一昨年から音楽映画の企画がもちあがり、シャロンへの脅迫がはじまった。主演は松崎レオナがとり、シャロンは準主役となった。現在、撮影は半分おわり、中断してる。7月12日からイスラエルロケが予定されてる。そのタイトルは「サロメ」という。旧約聖書を原典とし、恋人にふられた女が怒りにまかせ、その首をきらせ、それを銀の盆にのせて、踊りくるう役をレオナが演じるといった。

** 7) レオナの尾行
二人の刑事がビューモント・ドライ ヴのレオナの自宅にいった。門はしまって、インターホンにも応答がなかった。出なおうそうかとしたら、車が出てきた。刑事の尾行がはじまる。午後4時だった各所をめぐり最後に車を乗りすてたところで見うしなった。それは午後9時40分、スラストウェイだった。運転は上手だが、感情の起伏がはげしく危険であった。途中の会員制クラブで様子がおかしかった。薬物の影響を感じさせた。ワックスハウスのホラーボックスの展示で、エリザベートが作らせたという拷問用の鉄製の籠や鉄の処女の前でながく、たたづんでいた。

** 8) 赤子誘拐
27日夜である。スラストウェイの撮影監督リチャード・ウォーキンショーの自宅には離れがあり、そこにメキシコ人、トム・ディエゴ夫妻がハウスキーパーとして住みこんでいた。二人には生まれたばかりの子どもがいた。突然、頭髪がなく、顔が血でただれた怪人が妻マリアをおそい、赤子を誘拐した。

** 9) ビバリーヒルズの吸血鬼
翌日の28日、二人の刑事に、マリアが必死になって怪人の様子を説明する。信じられないまま、車にもどる。そこにあった「ビバリーヒルズの吸血鬼」というバークレィの新作をだした。よみがえったエリザベート・バートリ公爵夫人の容貌と同じであることがわかった。

** 10) レオナから聞き取り
二人がレオナの自宅を再訪した。屋敷内にはいれないまま、プールからあがったレオナに声をかけた。シャロンのこと、嫌がらせ、脅迫状、主役争い、マイケル・バークレィのことをきいた。はぐらかされ成果がなかった。ふと気がついた。レオナ邸はセキュリティ会社と契約してない。事情があるのだろうが、不用心なことだと思った。

** 11) 事件はレオナ主演のサロメ関係者
*** 1) ジム・ベインズの赤子を誘拐
ビバリーヒルズ、オークハーストドライヴのヘアメイクアーティスト、ジム・ベインズの自宅に二人の子どもが留守番をしてた。両親は二人に赤子をたのんで外出してた。そこに屋外のテラスから侵入してきた怪人が赤子を誘拐した。

*** 2) 被害者が映画サロメに関係する
7月15日、LA市警捜査本部で会議がひらかれた。現在五人の嬰児誘拐が判明。共通して生後間もない赤子であること、犯人としては頭髪がなく、顔が血でただれてること、身代金の要求がないことだった。その怪人が流行作家のホラー小説の登場人物に照応すること、作家自身が被害者であること、関連する人物が失踪してることがわかった。本人、両親の職業、さらにこの作家も脚本に協力してることから、その活動から、現在進行中の松崎レオナ主演の映画サロメに関連することがわかった。事件発生現場はすべてレオナ邸の近隣であることもわかった。

** 12) 最初の死体発見
7月16日、ビューモント・ドライ ヴで赤子の死体が発見された。誘拐された嬰児の一人、バートの孫娘と特定された。奇怪なことに首の後ろがえぐりとられ、体内の血がぬかれていた。

** 13) 海上の死体
7月20日、AP通信の専属カメラマンのクリス・フィッシャーがヨット乗船中に死体を発見、その写真をとった。その際、上衣を回収した。

** 14) シャロンの上着
フィッシャーがもちかえった上衣はシャロンが映画でつかったものと判明した。大騒ぎとなり、シャロンに脅迫状をおくったレオナに関心が集中した。奇怪な赤子殺害から吸血鬼の再来がささやかれた。精神医・ドリスデールは他人がうんだ赤子にはげしい嫉妬心をもやす女の犯行を示唆した。また、首を切断するという残虐な行為から麻薬中毒者の犯行がうたがわれた。レオナの代理人によれば、レオナはすでにロケのためイスラエルに出発したという。

** 15) レオナ邸で刑事と対決
*** 1) レオナとルイス刑事の対決
午前零時、レオナの自宅である。ある男が扉を乗りこえ、窓からホールに侵入した。一階にある客室、食堂、厨房をのぞき、二階の部屋にきた。多数の人形がおかれている異様な部屋だった。部屋の中央におおきなテーブルがあり、その上に人形が多数あった。ことごとくその首が胴体からひきぬかれてった。しかも顔が赤くぬられてた。黒い影がはいってきた。拳銃をかまえたレオナだった。男は自分はルイス刑事だとあかした。レオナは身分を知ることなく暴漢を射殺した。正当防衛だと主張できると警告した。レオナは予定を変更してここにいる。手錠をかけた。対決がつづいたが、やがて手錠の鍵をのこし 、部屋をでた。ルイスは苦心のすえに開錠し、外の道路にでた。レオナはベッドルームにもどり、何やら薬をのんだ。

*** 2) 黒い人物の逃走
道路にでた刑事は、レオナの狂気をのがれたことに安堵した。扉があいた。黒い服装の怪人物があらわれた。頭髪がなく横の髪の毛がのこっている。顔が血でただれてた。尾行した。ふらふらと坂をおりていった。角をまがると小型車がはしりだすのが見えた。ナンバーをひかえようとあわてたが、車ははしりさった。

* プロローグ2、乾いた血
暗く丸い部屋だった。その中心に男があおむけにたおれてた。もう一人の男がシャツをはがし、ナイフで胸をきりさき、丸い穴をあけた。そこから心臓を取りだして、さらに二つにわった。中にある血液をすいだした。まるで母親の乳をすう乳飲み子のように音をたてて、すいつづけた。

* 死海の殺人
** 1) 魔都の秘密劇場
*** 1) 1941年、上海
1941年、上海である。都市は繁栄しやがて爛熟する。広大な土地と人民にめぐまれた中国は中華思想のもと繁栄をほこってた。しかし歴史の発展の中で西欧列強の進出に脅威を感じ、愚かな鎖国主義ににげた。それでも植民地獲得をきそう列強の動きは惰眠をゆるさない。英国は東インド会社が供給する阿片の魅惑で中国をゆさぶった。麻薬のことである。

中国においては唐代から知られ、徐々に民間にひろまった。酒にまさる楽しみをあたえ、性を多彩にいろどる麻薬は中国人に超人的活力をもたらすとともに怠惰の極みをもたらした。阿片は列強進出の怖それを忘却させるとともに絶望的な劣等感をあたえた。ところで中国の残虐趣味をかたる。権力者は色を好み、人民を道具とする。宦官は権力者のおそれをやわらげ性の多彩をもたらす。纏足は妻の逃亡をふせぎ、性の喜びをますという。上海の爛熟はこのような中にあらわれ、外国人に魅惑の楽しみをあたえた。上海は不思議な魅力にみちた魔都であった。

*** 2) 人魚の見世物
上海にはピンからキリまで、おおくの娼婦がいた。最上級の娼婦をかかえ、阿片も提供する鴻元盛という娼婦館があった。同仏海とミッシェル・ベルトランはあくどい阿片の取引で財をなした最上の客だった。支配人に最上客にだけゆるされる秘密の地下劇場に案内された。そこでは中国の残虐趣味をしめす奇妙な出し物が演じられた。階段をおりる時、ラルフという青年とすれちがった。共同経営者の息子であり、上海 一の踊りの名手だった、この青年が出し物きめているという。下には湯をたたえた水槽があり、そこに人魚がいた。しかしよく見るとそれは上半身をむきだしにし、尻に鱗の入れ墨をいれた男だった。

** 2) 脚本サロメ
*** 1) ソドムの街でヨハネが弾劾する
ソドムの街の広場である。市場の真ん中でバプテスマの ヨハネが演説する。その政治批判を非難する王妃のヘロデアを娘のサロメがとめる。サロメは ヨハネに魅了される。

*** 2) 王妃が ヨハネの処刑をうったえ、王はサロメの踊りを所望
死海に浮かぶ王宮のテラスである。ヘロデアの訴えでヘロデ王は ヨハネを投獄した。その後の処置に困惑する王にヘロデアが死刑をもとめる。民の批判をおそれる王をなおも非難する。サロメが死海からあがって、王宮のテラスにくる。恋の苦しみを告白する。王はサロメに踊りを所望する。ヘロデアが死をもたらす不吉の踊りとして拒否する。サロメが洞窟に身をかくす。

*** 3) 恋こがれるサロメを ヨハネが拒否する
牢獄である。サロメが ヨハネにこがれ、誘惑する。 ヨハネが拒否する。

*** 4) 再度所望する王にサロメが受諾する
ふたたび王宮のテラスである。呆然と夕陽をみつめるサロメに王が踊りを所望する。 ヨハネの声がひびく。ヘロデアが処刑をもとめる。何でも望みのものをあたえるとの王の条件にサロメがついに踊りを約束する。

*** 5) サロメが踊る
サロメの踊りである。かがり火のたかれたテラスでサロメが見事な踊りを披露する。

*** 6) サロメが生首を所望する
かがり火のテラスである。感嘆した王が所望の品をたずねる。サロメが ヨハネの首がほしいという。

*** 7) サロメは吸血族だった
テラス、生首に狂喜するサロメである。ヨハネの生首が銀の盆にのせられ、あらわれる。ヘロデアが高笑いとともにソファからころげおち、王は失神する。二人が退場しサロメが首にちかづく。顔に唇をおしあて、さらにしたたる血を吸う。サロメは吸血族だった。

*** 8) サロメ」ロケ隊の陣容
スタッフ、キャスト。
監督、トフラー(エルビン・トフラー)
撮影監督、ウォーキンショー(リチャード・ウォーキンショー)
美術監督、オリバー(オリバー・バレット)
振付師、ラリー(ラリー・ハワード)
ヘアメイクアーティスト、ジム(ジム・ベインズ)
メイクアップアーティスト、バート(バート・アスティン)
プロデューサー、スティーブ(スティーブ・ハント)
同じく、ダニエル(ダニエル・ジャクソン)
キャスト
サロメ、レオナ(レオナ松崎)
ヘロデア、キャロル(キャロル・ダーネル)
ヘロデ、ビンセント(ビンセント・モンゴメリー)
ヨハネ、ジェローム(ジェローム・ミランドー)

** 3) 本編、死海の殺人
*** 1) 不思議なモスクに到着
**** 1) 空港からロケ地にむかう
イスラエルのテルアビブ空港をたちサロメ撮影隊一行が二台の車に分乗してロケ地にむかった。キリスト教、ユダヤ教の聖地がある土地にむかい振付師のラリーとメイクアップアーティストのバートは宗教的になった。ここで最近、失踪した二人のユダヤ人プロデューサーの話しがでた。死海を南下しウランの精錬所をすぎた。前方にイスラム教のモスクがみえた。中央の円筒にドーム、その円筒の周囲に四つの張り出しがあり、その上に尖塔がのってた。奇妙なのは中央のドームの上と周囲の屋根にプロペラが多数つけられ風に旋回してた。建物の玄関にたどりつくアプローチがあり、その左にギリシャ神殿風の建築物があった。一行をレオナがむかえた。

**** 2) モスク、不思議な建物に案内する
さらに三人の男性もいた。トフラーのエルビン・トフラー、撮影監督のリチャード・ウォーキンショー、美術監督のオリバー・バレットだった。トフラーに失踪したプロデューサーのその後をきいたが、依然、不明という。行方不明のシャロンにかわる女優、キャロル・ダーネルがあらわれた。挨拶がおわり、トフラーが部屋に案内するとモスクにさそった。バートが不審がる。外のテントで寝ることもできる。しかし、そこはサソリの穴が無数にある。撮影隊の先発組はすでに宿泊してるという。入口の手前の壁に、強烈なハリウッドの崇拝者の名義で建物に宿泊するよう案内する短文がはられていた。内部の説明である。

**** 3) 迷路をあるきマンションを見学する
円筒部分は壁で仕きられ、回廊あるいは迷路となってる。この部分は二階建となってる。入口が四つあり左から黄色、赤色、緑色、青色で区別される。先発隊は黄色と赤色をつかってる。後発隊に内部を紹介するといって、緑をえらんだ。懐中電灯をもって真っ暗の廊下をすすんだ。中央の丸いところにきた。ここが中央のドームの下にある。二階ならドームからの明かりがあるが、ここにはない。さらにすすむ。扉につく。そこをあけると扇子にはる紙の形状にまがる廊下がある。その一番右にはいる。部屋はベッドがあるのみである。しかし明かり取り用の細いガラスをとおして光がもれてくる。一番外側の円周の部分に階段がある。それが二階につながる。いわゆる メゾネットである。この部屋の扉、一階、二階ともに鍵がない。廊下と回廊あるいは迷路を仕きる扉にも鍵はない。しかし、玄関からはいる入口の扉は内側から閂がかかる仕組みとなってる。トイレとシャワーは外ですませる。さらに説明がつづく。

**** 4) 各マンションの振り分け、呼び名をきめる
内部から閂をかければ、明かりとりと空気抜きの穴しかない。外部からは侵入はできない。各グループはそれぞれで独立してる。他のグループにゆこうと思ったら閂のある入口までもどるしかない。ここで、この建物の目的、仕組み、招待の短文の意図などに不安や不審がでるが、外との比較もされる。トフラーが先発隊のグループわけの説明をし、後発隊のグループわけをおこなう。二棟は俳優組、一棟はトフラーをふくむスタッフがつかってる。そこで三棟はバート、ラリーの年長組、四棟は録音や小道具、美術監督となった。便宜のため二棟をレッドマンション、一棟をイエローマンション、三棟をグリーンマンション、四棟をブルーマンションとよぶこととした。さらに便宜のため、マンションの各部屋を時計回りに一号室、二号室などとよぶ。二階をU、一階をLとして、例えば、一のU、一のLなどとよぶ。トフラーの説明がつづく。

**** 5) 尖塔の最上部に案内する
二階の部屋の壁に垂直に階段がある。それをのぼると天井の穴にくる。その上に四角の金属板がある。それを押しあげる。そこから円形の床にのぼる。これは尖塔部分である。そこに螺旋階段がある。それをのぼると壁がだんだんせまってくる。最上部にくる。せまい。これで尖塔の最上部にきた。そのスリットから周囲が見える。沙漠と死海が360度の視界に展開する。プロペラが金属のドームの上に林立する。風にふかれ旋回してる。ここから他の三本の尖塔が見える。その軒に一筋のタイルがある。それがマンションの色と対応してる。マンション間の連絡の話しとなる。尖塔からの連絡にくわえ、必要ならハンドトーキーで相互に連絡できるという。レオナがレッドマンションでは金属板があかないという。オリバーが死海とそこにうかぶ撮影のセットをさして、これから案内するという。

*** 2) ステージの表と裏を見る
**** 1) 浮島に案内する
オリバーがラリー、バート、ジム、録音担当を浮島に案内する。三角錐の形状は塩の結晶をイメージしてる。材料は大部分が繊維強化プラスチック(FRP)、継ぎ目部に特殊ゴム、ほか石膏、頂上は金属だ。頂上の剣から放電できるよう設備が付設されてる。浮島は錨とロープで繋留されてる。ロープはモスクのイエローマンションについてるリングにつながってる。浮島、モスク、道路と配置されており、風はモスクの方向から吹いてくる。ステージは安定してる。浮島の重心はひくく設計された。バートがあちこちと歩きまわり、立ちどまって剣を見あげてた。頂上までの高さは60フィートだ。剣に落雷し、塩の結晶が一気に崩壊するというシーンをとる予定だ。ステージの奧に四角の洞穴がある。そこに首がせりあがってくる。ステージからセットの内部にはいる。

**** 2) ステージの内部、地下におり、首をせりあげる
むきだしの鉄骨、ベニヤが見える。階段をおりる。エレベーターの真下にくる。オリバーが仕かけを説明する。ハンドルのグリップをまわす。箱が上からおりてくる。後ろ向きのバートがおりてきた。石膏やペンキでよごごれたテーブルがある。そこの布をひきはがした。つくり物の ヨハネの生首が盆にのってた。首は本物にあわせて重くした。重心もひくく安定させた。テーブルごと生首、盆をエレベーターにのせた。エレベーターをせりあげる予行演習をした。

*** 3) 神殿の地下室で夕食
**** 1) ギリシャ神殿風の建物
モスクの玄関まで舗道がある。その左側にギリシャ神殿風の建物がある。一階は円柱がならび、正面には三角の破風がのっているが、ほかはない。吹きさらしである。砂まじりの強風だった。建物の手前に地下におりる階段があった。おりると金属製の扉がある。それを押しあけると、内部はひろい空間だった。一階とおなじ意匠で円柱が林立してた。これは鉛製だった。入口の扉の内側も鉛でおおわれてた。柱は東西方向、南北方向にならぶ。東西がみじかく、南北がながい。東西方向の柱の間は鉛のパネルで仕きられてた。地下空間には窓がない。モスクの回廊のようにめぐる。壁際を一周できるが、中の部分は東西方向のみ移動できる。何故このような空間をつくったのか謎だった。食事のことである。

**** 2) 地下室での夕食
夕食を地下でとることとした。一階ではスープに砂がまじる。地下に椅子、卓子をもちこみ、東西三列に配置する。隣りあうが南北には話しができない。はじめて一同に会する食事となった。隣りあうウォーキンショーとオリバーの対話である。鉛のほかに酸の臭いがする。食事がおわり、トフラーが部屋からみつけた写真アルバムの紹介をする。モスクの建築工事の写真だった。それによるとモスクは基礎工事がない。太古の工法さながらに岩盤の上に建設された。電源もない。トフラーが明日からの撮影を話す。

**** 3) ロケ隊の中に犯人がいる
サロメが生首をもって踊るシーンからはじめる。レオナに用意はよいかきく。大丈夫、死海での撮影は歴史にのこる。このロケを提案してくれたバートに感謝する。ラリーが死海にはいってみようかという。周囲がリウマチにいい、皮膚病にいいという。裸足は危険、ジョギングシューズをはけ。美肌効果がある。ラリーがバートをさそう。足がわるいので50年もおよいでないが、浮かんで本でもよむといった。 ヨハネ役のジェロームが明日のこの役だけはやりたくなかったといって笑う。ウォーキンショーとオリバーが誘拐された不幸な子どものことを話す。使用人トム・ディエゴ夫妻の妻がおかしくなって、離婚、失踪した。バートの孫娘は首の後ろの肉がけずりとられてたという。ウォーキンショウーが被害者はすべてサロメに関係してる。その犯人は今、この撮影隊にいるのではといった。

*** 4) ヨハネ役者が殺害
翌朝、午前、首をせりあげるカットをとった。つづいて、レオナが首をもって踊るシーンだった。エレベーターの中にはいり、盆をもってでてきて、下においた盆から首をもちあげ、踊った。顔に接吻し、興奮してたおれた。痙攣をおこしている。トフラーがカットと声をかける。レオナの様子がおかしい。本人の頼みから体をひきづってテラスの柵までいった。レオナはそこから死海にはいった。スタッフが首の周囲にあつまった。ウォーキンショーがトフラーにいった。本物の首だ。レオナはあお向けになって死海に浮かんでた。

*** 5) 現場を確認、犯行時刻を推理
**** 1) せり上げ作業を確認
地下におり、トフラーとウォーキンショーがエレベーターの箱の前にいった。緊張した表情の小道具係が説明する。まずマホガニーのテーブルをエレベーターの箱の中にいれる。次に作業台にのってた首を盆とともにテーブルにうつした。それから布をとった。首は後ろ向きだった。ハンドルをまわして上にはこんだ。重さも本物にあわせてた。すり替えにはまったっく気がつかなかった。では、いつすり替えがおきたか。

**** 2) 犯行時刻を推定
昨夜は夕食が9時40分に終了した。今日セットにはいったのが、8時だ。その間におきた。下におりてきたオリバーにきく。箱があがってゆく間にすり替えができるか。否。善後策を考えるが、結論がでない。いったん、撤収して、モスクでジェロームの昨夜の行動を確認することとした。

*** 6) 椅子がうごく、部屋割りを確認、胴体をさがす
**** 1) 地下室が閉鎖されてた
トフラーが上陸すると、こちらにも異変がおきたと知らされた。地下室が閉鎖され、そこの椅子、卓子が地上にはこびだされた。撮影で食事はランチボックスですましたから、気がつかなかったという。トフラーが部屋割りを確認した。

**** 2) 部屋割りを確認する
1) イエローマンション
1U、セカンドアシスタントディレクター
1L、サードアシスタントディレクター
2U、エルビン・トフラー
2L、ファーストディレクター
3UL、リチャード・ウォーキンショー
4U、ファーストカメラマン
4L、セカンドカメラマン

2) グリーンマンション
1UL、バート・アスティン
2UL、ラリー・ハワード
3U、首切り役人1
3L、首切り役人2
4U、衛兵1
4L、衛兵2

3) ブルーマンション
1U、ジム・ベインズ
1L、録音主任
2U、録音アシスタント1
2L、録音アシスタント2
3U、小道具1、3L、小道具2
4UL、オリバー・バレット

4) レッドマンション
1UL、ビンセント・モンゴメリー
2UL、レオナ松崎
3UL、キャロル・ダーネル
4UL、ジェローム・ミランドー

**** 3) ジェロームの胴体をさがす
レオナが熱をだし、うわ言をいってる。エリザベートとかいってる。撮影続行につきトフラーとウォーキンショーが議論した。食事の話しとなった。あらためて地下室閉鎖や持ち主の不可解さが問題となる。ジェロームの胴体の行方が問題となった。昨夜は食事をおえ、便所にゆき、回廊をめぐりマンションの部屋にはいったとビンセント者が証言した。ジェロームの部屋に確認にゆくこととした。

*** 7) 胴体はどこ、閂はかけなかった
昼間のレッドロードを懐中電灯をもってすすんだ。トフラーが閂をすることにしようといった。昨日は閉鎖したところはないようだった。内部の人間をうたがう忌避感があった。ジェロームの一階の部屋を確認した。争いのあと、血痕もない。二階も確認する。異常なし。帰路、レオナの様子をたしかめた。問題はない。ここでも閂を確認した。結局、昨夜閂はしまってなかった。

*** 8) トフラーが撮影継続を強行
神殿建物の一階で昼食をとった。撮影の日程を話した。トフラーは続行にこだわったが、警察に連絡しようとの意見もつよかった。トフラーがウォーキンショーとオリバーと密談した。どうやら自分たちだけで犯人をみつけようとの提案だったらしい。二人はあきれた。オリバーが死者をだしながらも撮影を強行しようというトフラーに天罰がくだりそうだといった。

*** 9) ラリーに神の剣がささる
翌朝、八時、食事である。撮影再開の喜びがあった。トフラーが地震があったかときく。零時ごろだった。意見がわかれる。神の怒りの声がでた。ウォーキンショーがまた、警察への連絡を発言した。ラリー不在の声があった。トフラーを呼ぶ声がする。セットが見える場所にでた。セットがながされたようだ。ロープがほどけていた。セットの先に異物がある。トフラーの声とともに船でセットにむかう。セットの剣先にはラリーがあお向けの死体があった。

*** 10) ラリーの死体を回収
セットに上陸した。撮影のため設営されたものが滅茶苦茶になってることに気がついた。ヘロデアとヘロデ王のソファがとんでもないところにころがってた。埋め込みの照明やワイヤーでつるしたカメラには被害がなかった。どのようにラリーを剣の先にもちあげるのか。人間業では無理、地震も発生した。竜巻のような天変地異が生じる。それで一気にもちあげる。結論はでない。ラリーをおろすことにした。とんがった先端部分を骨だけにする。そのためFRPをはがす。落雷用の機械類をおろすこととした。作業に時間がかかった。その際、ウォーキンショーがオリバーが対話する。レオナの不審な挙動が気になる。迫真の演技というが、本物の生首と気づいてた。それはジェロームを殺害した本人だからではという。

*** 11) ラリーの死体を陸送
外皮を4時間かけてはずす。あらためてラリーの死体を確認。機械をおろす。死体の傷は剣によるもののみだった。死体をおろす。ステージの上におかれた死体に防水布がかけられた。そして船にのせられ陸にむかった。

*** 12) 日程を延期を連絡
トフラーは、群舞メンバーや吹奏楽団のイスラエルの入国の延期を連絡するためエイン・ゲディにむかう。そこで国際電話あるいは電報をする。四駆車で出発しようとした時、ウォーキンショーが警察に連絡するよういった。了承の返事がないまま、出発した。二人の棺を用意した。オリバーがレオナの異常さを考えた。女優には大なり小なり、異常がある。次にセットの設営を乱雑にしたのは誰か考えた。わからなかった。回収作業をして外皮を細工した痕跡はまったくなかった。ラリーの殺害が人間業でないと感じた。

*** 13) トフラーが決意をしめす
夕食をすませた。そこに車がもどってきた。ただ一台だった。ウォーキンショーの質問をうけながしながらトフラーが食事をした。やがてトフラーは、延期の連絡はした。この事件の処理は自分が全責任をおうといった。

*** 14) キャロルの殺害
**** 1) 地震の発生でおきた二人
ベッドに腰かけてレオナが錠剤を二錠のんだ。トフラーが体に地震を感じて飛びおきた。ハンドトーキーでブルーマンションのオリバーに確認したが地震は感じなかったという。ところが地震を感じておきだした人物がいた。キャロルだった。懐中電灯とハンディトーキーをもち階下におりた。

ベッドにふさがれた扉をあけ、廊下にでた。回廊をすすんだ。かすかに血の臭いがする。円筒部分の回廊にすすんだ。主役女優のレオナのことを考えた。さらにすすむ。前方に白い女の姿があった。レオナと声をかけた。すると顔をあげた。顔が血でただれ、みにくく変形してた。

**** 2) トーキーのやりとり、犯人の声
トフラーのトーキーがひびいた。レオナか。悲鳴。たすけて、レオナが。キャロルか。トーキーがきれた。階下におりて扉のドアノブに手をかけた時、トーキーがしゃべった。「トフラーさん、ミスキャストはだめよ。」お前は誰だ。エリザベート・バートリ。扉があき、ウォーキンショーがやってきた。二人はレッドロードの入口にむかう。説明をきき、ウォーキンショーがレオナの犯行をうたがう。回廊から外にでて、レッドロードにはいる扉にむかう。トフラーが力一杯、扉をおした。ひらかない。ブルーロードの扉がひらいた。何があったのかときく。キャロルに異変があったらしい。レッドロードに連絡をこころみてると、トーキーから突然、かん高いレオナの笑い声がきこえた。その他に男の声があった。グリーンロードの扉がひらいた。トフラーが説明をして、レッドロードの扉があくのをまってると、車がやってきた。

**** 3) ロス市警からの電報、レオナの酩酊
電報をはこんできた。LA市警からだった。レッドロードの扉がひらいた。中にたってたレオナが一同に挨拶した。やや呂律がまわらなかった。キャロルは。知らない。ウォーキンショーがレオナの寝衣、顔に血痕がついてることを次々に暴露する。回廊にはいってすぐ、キャロルの死体にぶつかった。 ウォーキンショーの怒が爆発した。レオナを部屋にとじこめた。

*** 15) 模擬裁判、二人のプロデューサーを発見
**** 1) 模擬裁判の実施
レッドマンションの2Uに一同があつまった。ウォーキンショーがレオナを殺人淫楽症として断罪した。トフラーはその奇怪な行動はドラッグによると反論した。さらにレオナの才能を擁護した。ウォーキンショーが模擬裁判を提案した。バートが裁判長、トフラーが弁護人、ウォーキンショーが検察官、残りが陪審員として、レオナの裁判をはじめた。ウォーキンショーは電報の開示をもとめた。しぶるトフラーをせめて、電報を取りあげ、裁判長に提出した。その内容である。

**** 2) ロス市警の電報の内容
松崎レオナ邸から4体の嬰児の死体が発見された。いずれの死体も頸後部の肉がえぐり取られてる。身元はトム・ディエゴ夫妻の第一子、ジム・ベインズ夫妻の第三子、ラリー・ハワード氏の孫娘、オリバー・バレット家の使用人ビリー・マクドナルド夫妻の第三子と判明した。よってロス市警はレオナ松崎を一連の嬰児誘拐殺人の犯人と断定したので、逮捕にむかう。同人を拘束するよう希望する、というものだった。あまりのことに信じられないとの空気がながれる。ウォーキンショーが、異常は遺伝することを主張する。一人の男が二人の女にうませた子孫の有名な調査例をあげた。そしてレオナの父が殺人淫楽症だったという。ウォーキンショーが懐中電灯で天井に光をあてた。

**** 3) プロデューサーの死体の発見
天井の穴に体をいれ、上の金属板をおした。あかないので助けをもとめ、さらに二人でやった。ついにあいた。体が上の部屋にはいった。驚きの声がきこえた。ウォーキンショーがここに失踪した二人のプロデューサーの死体があるといった。

*** 16) 三つの死体の検分
トフラーが部屋にはいる。あおむけになったスティーブの死体があった。シャツがはがされ、胸に穴があいてた。その上にひからびた心臓があった。ウォーキンショーが吸血鬼だといった。血がすわれている。入口ちかくをてらした。そこにミイラ化したダニエルの死体があった。この体と道具箱が金属板の上にあったので、あけられなかったとわかった。口から血をはいてた。周囲に鉈、金槌、大型ナイフ、ノコギリが散乱してた。最後に防水布をはぐる。下から首のない、うつむけの死体が見えた。ジェロームの死体だ。死体からの血が床にあふれ、金属板のまわりの隙間ににじみ、天井の穴から下の床に一、二滴おちた。その血痕を、さっき発見したといった。

*** 17) 撮影の中止しレオナを拘束
トフラーの口から撮影中止がつげられた。レオナがおきあがりナイフでウォーキンショーにおそいかかった。苦心惨憺の末、取りおさえ、両手、両足をしばり、念のため猿轡をかませた。そのままにできないのでベッドにはこんで、一同は部屋をでた。

*** 18) レオナの部屋に怪人物が登場
レオナが夢を見てた。がたんという音に目がさめると、天井の穴から人物がおりてきた。不思議な黒衣をまとって、裸足に革製のサンダルをはいていた。次々とおりてきて、彼女の前に一列にならんだ。顔が血でただれてた。しかしその程度に個人差があった。中の一人がすすみでて、ナイフをふりあげた。恐怖のあまりレオナが失神した。

*** 19) 御手洗の登場、ウォーキンショーと対決
**** 1) レオナが逃亡をはかる、御手洗が登場する
レオナが目覚める。手足の縄がほどかれてた。体中がいたむ。逃亡の用意をして室外にでた。回廊をたどり、慎重に屋外にでた。トレーラーでトイレをすました、道路沿いをさけ岩山にむかった。頂きの一つから白馬が見えた。あわててそこに向かった。距離がちじまった。声をかけらた。「御手洗さん」とこたえた。レオナをのせた。御手洗はトフラーから横浜に電話があった。援助を求められたので、ここにきたといった。馬はこの地で調達した。事件はトフラーから詳細をきいたが、ジェロームとラリーの死までといった。レオナの噂もきいてる。ドラッグのこともきいてるといった。プロペラを目にした御手洗が装飾ではなく、何らかの機能をはたしてるといった。

**** 2) 神殿地下室での食事をきく、部屋の様子をきく
神殿建築を見た。その地下で食事をしてたが上のピロティ風の広場で食事をしてるといったら、何故かきいた。閉鎖されたため。その理由は。不知。杜撰さにあきれた。さきほど見たウラン精錬所の存在とあわせ、何かに気づいたようだった。モスクからでてくる大勢の男たちが見えた。御手洗がトフラーに声をかけた。握手をした後、神殿建築にむかった。地下で閉鎖された扉を確認した。上のピロティで話しをする。

地下の部屋は金属のパネルが幾重もある。柱にも金属がまかれてる。その金属は鉛である、ということを確認した。トフラーが御手洗をスタッフに紹介した。ウォーキンショウーが無愛想にLA市警がレオナを逮捕するといった。御手洗は猶予はこれから十時間と知った。事件がおきて、キャロルが殺害され、プロデューサーの二人の死体が発見されたことを知った。レオナを糾彈するウォーキンショウーがジェロームから頸の後ろの肉が切除されてたことを知った。さらにキャロルにはそれがなかったことを確認した。御手洗がLAの赤子の頸の後部も切除されてたといった。そして、今回の事件の被害者がサロメ関係者に集中したのは、犯人がちかくに居住し、家族構成をよく知ってたからといった。トフラーが血をすうといった。

**** 3) ウォーキンショーがレオナを告発する
御手洗は新鮮な血がほしいなら骨をわって、あるいは心臓からのむ。今回の事件ではそれがない。吸血は目的でないといった。ウォーキンショウーがレオナの麻薬常習を示唆する。キャロルが殺害された夜のレオナの 妙な反応、それにくわえ寝衣の血痕、6月27日夕方、自宅をでて車で街を彷徨、そこでおこなった多数の奇行を指摘した。レオナが犯人と主張した。御手洗の反論する。プロデューサーのスティーブにつき、心臓が半分にわられていた。一見、吸血鬼の犯行のようだ。しかしジェロームの死体である。レオナの部屋の天井から血がしたたりおちた。吸血鬼の犯行ではない。ウォーキンショウーの糾彈は、レオナが吸血鬼といったり、殺人淫楽症といったり麻薬におかされたジャンキィーの犯行としたり、主張が一貫してない、その欠陥をつく。

**** 4) その論拠に反論する
さらにレオナの否定をうけ、御手洗がウォーキンショウーが犯行を目撃してないと、激烈な主張に水をかける。さらにラリーの殺害についてレオナ犯人説は根拠薄弱と指摘。レオナの奇行にひそむ異常さ、その父の異常さについていう。この異常人物は「暗闇坂の人喰いの木」に登場した。それを根拠にウォーキンショーが殺人淫楽症を主張した。さらにウォーキンショーがもちだした米国の調査にふれた。一人の男が二人の女性と結婚した。精神に障害のある女性の子孫とそうでない女性の子孫を比較調査した。職業、社会階層におおきな差がうまれたというものだった。しかし、それは社会的背景の差という環境的要因を反映したものというべきだ。レオナを殺人淫楽症とする根拠の欠陥を指摘した。

**** 5) 謎が多数なのに、究明を放置してる
ウォーキンショウーはラリーの殺害がレオナでないことを認めた。しかし、では犯人は誰かと御手洗にきいた。現時点で不知、御手洗も認めた。情報の不足と不可解な事実の原因究明においてリチャード・ウォーキンショー側の怠慢を指摘した。地下の部屋が閉鎖された理由に関し、神殿の北側の土地を10フィート下まで掘削するようもとめた。ウォーキンショウーは御手洗の大言壮語の発言を指摘し、解決への圧力をかけた。御手洗はこれを挑戦と受けとめ、最後にレオナの部屋の上の三つの死体の差異、神殿の地下の部屋の特異な構造、近在するウラン精錬所、モスクのプロペラ、死海の存在を指摘し、撮影隊の協力があればこの事件は解決できると宣言した。

*** 20) 御手洗が事件をきく
**** 1) 御手洗が今回の依頼の目的を確認する
御手洗が今回の依頼の目的は、1) レオナの救出、2) 映画サロメの続行であることを確認した。ついで、撮影隊の先発組と後発組のリスト、一階、二階の回廊の詳細図、神殿北の土地に溝を掘削することを要望した。

**** 2) 撮影開始前日をきく
トフラーが説明する。7月24日、後発組に、土地の説明、モスクの説明。セットの説明。オリバーが死海のセットに案内し、エレベーターなどの詳細を説明、夕方、地下室で食事。御手洗がきく。四つのロードの入口に閂をしたか。否。夕食時、モスク建築時の写真アルバムを見た。基礎工事がなく岩盤の上に建設されてたことを知った。モスクの入口にはってあった短文は、先発のスタッフが到着した7月20日はあったが、レオナ、トフラーがやってきた6月にはなかったことがわかる。7月22日にレオナとキャロルがレッドマンションにはいった、ことがわかった。

**** 3) 撮影第一日目、生首の発見をきく
7月25日、撮影準備でトフラー、助監督が早朝にセット入り。食事はランチボックス、地下でない。なのでジェロームの不在に不知。地下部屋の閉鎖も不知。椅子、卓子の移動の目撃者もなし。生首の登場、レオナの演技を撮影。その生首が本物だということにスタッフが気がつき大騒ぎ。御手洗がレオナに何時、本物と気がついたかきく。レオナが不承不承、正直わからないと告白。御手洗がドラッグによる健忘といった。

**** 4) ジェロームの行動を確認した
24日の夜から25日の早朝につくり物の首が本物にすりかえられた。つくり物は現在のところ所在不明。トフラーがいう。渚にもどって、地下室の閉鎖を知る。ジェロームの部屋で確認、そこに遺骸なし。そこでトフラーが部屋割りリストをわたした。ジェロームの行動である。、夕食後、ビンセントとともにトイレにゆき、レッドマンションに10時ごろはいった。レオナが御手洗に不承不承、24日10時以降にドラッグをやったことを認めた。

**** 5) 第二日目、ラリーの殺害をきく
26日、朝食は神殿のピロティでとった。そこでラリーの不在に気がついた。騒ぎとなりセットの先端の異物に気がついた。それがラリーであることに気がついた。不可解さに神わざか、となった。御手洗がたしなめ、何か異変がなかったかきく。セットの中の小道具、機械が乱雑、混乱してた。その意図が何なのか、不明、特定の傾向も認められなかった。さらに異変としてトフラーが地震があったという。25日の夜から26日の早朝に地震。二度目もあったという。他のスタッフに次々たしかめてるうちに、何かを発見。御手洗の気分が高揚。そこで突然声があがった。

**** 6) 推理がすすむ、モスク、地下室の謎
掘削中のスタッフからパイプのようなものを発見という 。御手洗は、レッドとその反対に位置するブルーのマンションの住人が不知、イエローとその反対に位置するグリーの住民が承知という事実、モスクの屋根のプロペラ、無数のパネルをもつ地下室、その扉が24日に閉鎖された。さらに地震がそれ以降におきた。さかのぼって地下室があいていた、それ以前には地震がおきてないこともわかった。御手洗の推理はすすむ。ラリーの不可解な殺害は閉鎖されてからだ。両者には関連があるといった。キャロルの話しとなった。

**** 7) 地震の謎、感じた人と感じなかった人
トフラーが地震に気がつき目がさめた。当時、レオナはドラッグのため記憶がなかった。トフラーのハンディトーキーが鳴った。そこから女の声がひびいた。ここで部屋にいるはずのレオナとキャロルの行動が問題となった。そこにバートが口をはさんだ。グリーンマンションの住民である彼はは入口の扉の開閉を確認できるようにと、透明のセロテープをはってた。それでレッドマンションの扉があけられてないことを確認した。ウォーキンショウーがレオナの嫌疑がいよいよこくなったといった。あらかじめレッドマンションに人がひそんでる可能性が議論されたが、可能性は低いという結論となった。二人のプロデューサーの話しとなった。

**** 8) はいれなくなった尖塔への道の謎
レオナに確認する。レッドマンションをえらんだのは、回廊の途中に外光がもれ、明かるいところがあったから、2Uをえらんだのは、その上に尖塔があるからといった。しかし上にはのぼれなかった。6月のはじめにきたときには、のぼれた。当然、二人の死体はなかったという。

**** 9) 異様な男たちが尖塔からおりてきた
御手洗がレオナから見取り図をうけとり、食事は辞退し、しらべるといった。ウォーキンショウーがレオナを拘束した26日は、はじめて死者のでない日となったというとレオナが死者はでなかったが、ソドムの民がでたといった。御手洗が説明をきく。顔が血でただれた男たちが尖塔からおりてきて、自分をみつめていたといった。御手洗は一同からはなれて調査にむかった。

*** 21) しらべた御手洗が山にむかう
**** 1) 回廊の不可解な場所を指摘する
御手洗がもどってきて、修正した見取り図をみせた。隠し部屋でもあったかと皮肉をいったウォーキンショウーにとりあわず、二階の回廊、イエローロードには行き止まりとなる岐路がある。一階にはそれがない。それはここの回廊に閉鎖された空間があることを示唆する。二本の回廊はそれをよけている。この閉鎖された空間の天井と床を考える。天井は二階の床につながり、床は地下の岩盤につながる。何を意味するかとの問いにこたえず。ヒントをだす。それはレッドロード。さらにこのブラックボックス上空にさしかかるレッドロードの床だ。これが五インチほど低くなってるといった。さらにイエロー、グリーンの住人にのみ感じられる地震、ラリーの奇怪な死もヒントだといった。死海王国のセットを見にゆく。

**** 2) セットの先端を見て、ラリーの死因をさとる
船で浮島のまわりをめぐり、オリバーと殺害方法を話す。先端にロープをかけ上にのぼるのも、下からロープをかけるのも困難との結論となる。セットは、やはり風にながされる。二カ所を錨でとめ、さらにロープでモスクにつないでた。しかしロープはほどけてしまった。今はそのままだ。浮島のどこにロープを固定するのか。浮島背中の上部の標高二十フィートのところにリング。上陸する。

**** 3) 血まみれの怪人をジムの息子が見た
パティオでの会話である。レオナが見た怪人について、妄想という意見にたいしジムが息子がそれを見たと反論する。

**** 4) 全容をさとった御手洗が伝言して山にむかう
陸にもどり、モスクで浮島をロープでつないでいたらくだ留めのリングをさがすが、ない。さらにしらべると、鉄の杭がみつかった。その先の穴にリングがついてたらしい。ラリーをもちあげたのは、ここにロープをむすんだオリバーだといった。御手洗はこれで事件のすべてが見通せたといって、小考の後、スタッフはピロティで待機、トフラーにはサロメの撮影をつづけるため、LA市警がきても、レオナを今夜はここにとどめておくこと、どのような手段でもそうするよう伝言を依頼した。そして馬にのって山の頂きにむけて出発した。午後1時だった。

*** 22) LAの刑事が登場、御手洗が警告
夕方、LA市警からティモシー・ライアンとアンソニー・ルイスの二刑事がやってきた。ピロティにいるレオナに手錠をかけた。連行しようとした時、トフラーがやってきて必死に制止しようとした。もみあいの後にトフラーが拳銃で二人を拘束した。二時間まてといった。夕陽がしずみきる前に御手洗が馬でもどってきた。まちかねたトフラーが声をかけた。そして、御手洗がおめでとう、真犯人はみつかったといった。四人の嬰児の死体をおいたのは、ポール・ドリスデール。レオナのかかりつけの精神医である彼が、レオナの相談をきき、嫌疑がかかるようにおいた。そして同時に御手洗の謎解きをきかないでLAに直行すれば、二人は全米の笑い者になると警告した。

*** 23) 御手洗が謎を解く
**** 1) 十二人の殺害を概括、謎解きの再開
御手洗はパティオで一人の女優が短時間のうちに十二人もの殺人をおかしたという前代未聞の嫌疑がかけられたが、真犯人は別にいるといった。長い前置きの後、御手洗はモスクの前にちかづき、イエローマンションの壁のところで立ちすくんで、やがてしゃがみこんだ。そしてらくだ留めのリングをひろいあげた。モスクをどかせるといって、イエローマンションの壁をおしはじめた。呆然とする一同、二人の刑事もあきれて立ちさろうとした。その時、つよい金属音がひびいた。巨大な石造の建築物が御手洗の動作とともに五フィートうごいた。御手洗が手まねきした。

**** 2) 異人種の登場、奇病の説明
玄関で異人種を紹介するという。レッドロードの扉から古代ローマの衣裳のような、黒い布をまき、腰にベルトをした男がでてきた。次々と同じような衣裳の男女があらわれ、十人たらずの人びとが石舞台の上にならんだ。御手洗がアリゾナ州立大学社会医学部副部長、アンドルー・ホワイルを紹介した。ここにいる人びとはストレンジの最も重症の患者であるといった。自分は患者のため、ここに治療センターをつくった。御手洗氏は無実の罪で逮捕されそうになってる人をすくうため、全員がその姿を人目にさらす必要があると協力をもとめられ、陽がくれた時ならという条件で同意したといった。さらに説明する。

**** 3) ストレンジ病の説明
髮がぬけ、顔が血でただれ、膿がふきだす症状をみせる。これは強力な薬効をもつステロイドの多用により、こじらせてしまった結果である。ステロイド、副腎皮質ホルモンの分泌は脳の視床下部により制御されている。ところが視床下部は同時に自律神経の制御もおこなってる。現代社会のストレスが自律神経の失調や副腎皮質ホルモン分泌を低下させると考えている。初期の症状は眉毛のあたりがかゆくなる。体中に湿疹がしょうじる。それが時に発症し時にきえる単純な皮膚炎としてあらわれるが、その治療法はながく不明とされていた。重症になるとその痒みは我慢できる限界をこえ、不眠をひきおこし、内臓がやられ、精神に異常をきたす。さらにすすむと、皮膚炎で関節がまがらなくなり、顔がはれ、皮膚がやぶれ、髮がぬけ、人前にでられなくなる。同じ家にすみながら数年間も両親と顔をあわせず、部屋にひきこもった症例も知ってる。これを劇的にいやす薬がステロイドである。

この療法には危険な側面がある。多用により本来の副腎皮質ホルモンの分泌機能がなくなる。これがながくつづくと、内臓疾患、精神障害、失明から生命の危険にまですすむ。そこでステロイドの投与をやめると、今度は前述のように重大な症状をあらわす。この症状にある人が、いまあらわれた人たちだ。オリバーが何故この地にいるのかときく。御手洗が離脱症状の説明が必要と補足する。説明がつづく。

ながく投与されたステロイドを体内からぬく必要がある。これを離脱とよぶ。この離脱の過程で前述の重篤な症状がでる。患者に重大な苦しみをあたえる。ところがこの離脱を効率的におこなう方法がある。それが日本に古来からある温泉療法である。自分は日本に治療センター設置の計画をすすめていたが、別途提案がありこの地に設置することとした。これは人目をさけたいという要望からは日本より、アメリカより適地である。建物、地下室について説明する。

**** 4) 建物の真相を説明
この地には古来の地下都市があった。人目をさける意味でこれを利用することとした。建物について説明する。このモスクは一階、二階がある。二階は最大37度回転する。15度回転すると地下の療養施設におりる階段があらわれるようになってる。これが通常にもどると地下への入口はとじる。このような大規模な仕組みについて説明する。

現在、患者は21人だが将来数百人となると予想してる。患者は特性により日光にさらしたり、それをさけたりする必要がある。四つの張り出し部分や現在コンクリートで区切ってる回廊部分の利用も考えてる。回転はバランスを考えグリーンとイエローしか回転できない。オリバーが回転についてきく。

**** 5) 地震の謎を解明
回転は特別な駆動装置をつかう。日本の一眼レフカメラでオートフォーカスなどにつかう振動モーターだ。これは通常のモーターにあるような動力部分がない。この説明には二つのリングをかさねておくことを想像してほしい。下のリングに縦揺れをおこす。すると両者の間にマイクロのレベルの隙間がうまれる。これに横揺れをくわえる。精密な説明が困難だがこれにより回転運動をおこすことができる。カメラのレンズのような円筒部を回転させるには理想的な装置である。これをモスクの二階部分と一階部分の間にとりつけ、回転させる。すると二階部分に取りつけられたイエローとグリーンが回転する。これで地震が感じられるマンションと感じられないマンションのちがいが納得できた。電力源の話しとなる。

**** 6) バッテリー装置の説明
プロペラによる風力発電だ。建物の回転につかうほか、地下の電灯につかう。風のない日のためにバッテリーを用意してる。地下施設への移動をうながす御手洗に、なおも、どこにバッテリーがあるかときく。鉛のパネルのある地下室。地下室が閉鎖されバッテリーが駆動できる。建物が旋回すする。だから地震も発生する。地震発生と地下室扉の開閉との関係に納得。扉をしめる。バッテリーが駆動できる。電解液としての硫酸をいれ、電極に鉛を使用する。硫酸はどこから。この北にウランの精錬所がある。そこで大量の硫酸廃液が発生。それをパイプにより移送。御手洗がモスク玄関の石舞台にあがった。

*** 24) 地下湯治場を紹介、女性が逃亡
**** 1) 回転で地下空間への道がひらく
一階のレッドロードにながい行列ができた。先頭部はストレンジの患者、その最後尾にワイル、御手洗、後方に撮影隊だった。レッドロードの入口が一つ左にずれていた。回廊をあるく。何ひとつかわってない印象。先にゆく一行がきえていったところはキャロルがたおれてた、わずか手前だった。そこには幅三フィート、奥行五フィートの穴があいて、そこから下にくだる階段が見えた。これは右方向に十五度回転することにより、このあたりが床の厚さ分掘りさげられてた。これで一階部分の空間につながった。御手洗がキャロルを殺害した人物はこの階段をつかってレッドロードにきたといった。

**** 2) 地下空間が湯治場となってる
下におりきった時、一直線の石畳の道があった。その両方の壁に点々と明かりがついてた。その先は広場につながった。広場の中央に井戸があり、それめぐってベンチがあった。そこに数人の患者がすわて、したしげに話しをしてた。ホワイルがここは岩盤をくりぬいた古代都市の一部という。温泉がわき、浴場が随所にある。古代の湯治場のようだ。古代ローマのカラカラ浴場のようなプールもある。その片側に仏教の阿弥陀如来像がおかれてた。日光を必要とする患者のためには、この先に直射日光がさす場所がある。そこから先に、もう一つの出入口がある。これはバッテリーをつかえない状況で出入口として機能する。刑事ルイスが御手洗にきく。

**** 3) 女性患者が逃亡する
顔が血でただれ、頭髪がぬけた怪人物が目撃されているが、それはレオナではないのか。否。赤子を殺害したのも。否、それを必要としてる人物がいる、という。そこで患者の一人がホワイルに、女性患者が逃走し、 ヨハネのつくり物の首も不明となった、とささやく。レオナが彼女は死海王国のセットにいるといった。

*** 25) 真犯人が登場
**** 1) 真犯人の姿があらわれる
セットにむかう船上で御手洗が説明する。一人の女優がいた。彼女はハリウッドの大スターだった。ところがストレンジが発症した。強力な薬効をもつステロイドにとびついた。多用が症状の悪化を促進した。ところで、ステロイドの使用に反対するゴードン・バークレイという宗教家がいる。皮膚病の権威であり、この女優のかかりつけ医師でもあるフランク・ツィンマーマンと激烈な議論をかわした。医師はステロイドの使用を制限することをきめた。この女優はステロイドの服用を懇願した。しかしかたくなにこれを拒否した。ここにこの女優のかかりつけの精神医、ポール・ドリスデールが登場する。彼はこの女優と深い関係にあるとともに、彼女はオフィスへの出資者であり、有力な顧客を紹介してくれる恩人でもあった。そのためステロイドの入手に協力した。しかし症状の悪化した女優には充分でなかった。症状をこじらせ顔が血でただれ頭髪がぬけるという絶望的状況となり、精神に異常をきたした。ステロイドの使用をやめさせたゴードン・バークレイに復讐しようとして自宅をたずね、ついに息子、マイケル・バークレィをまちがって殺害した。セットにちかづいた。御手洗がスタッフにステージの照明を点灯できるよう依頼して、上陸した。

**** 2) 舞台に犯人が登場する
一同が見守る中で、舞台に一人の女性がたってた。首がのった銀の盆を頭上にかかげて、 ヨハネの首をもつサロメの演技をした。御手洗の合図により強力な照明に女優の姿が浮かびあがった。シャロン・ムーアと紹介した。刑事が手錠をかけようとちかづいた時、隠しもってたナイフで心臓をつらぬいて、絶命した。トフラーが、ハンディトーキーでシャロンがいった。「ミスキャスト...」の意味がわかったといった。御手洗がレオナへの敵愾心について話す。

**** 3) レオナへの復讐を暴露する
多数の殺人をおかした自分の将来がないことを覚悟したが、それなら宿敵レオナもほうむりたいと考えた。キャロルも同じか。否、レオナをねらた過程でおきた偶発的事故だ。嫉妬心から彼女の顔を傷つけたが事故だった。キャロルがハンディトーキーをつかって連絡されたのでレオナ殺害はあきらめ、地下にもどった。レオナがイスラエルにたつ日にレオナの自宅に侵入し殺害をはかって失敗した。それを刑事、ルイスに目撃されている。レオナがきく。自分がしばられてた時に見た大勢の人たちは。それはシャロンをおってきた患者仲間。ホワイルがいう。彼女は問題児、殺人の疑いもあった。監視してた。監視の目をかいくぐり連絡口をあけ、レオナの部屋に侵入しようとしてた。モスク入口にはってあった手紙の話しとなる。

**** 4) 犯人の犯行を解明する
ホワイルが否。御手洗が彼女だろうという。シャロンはキャロルを殺害の後で、追手をまくため多分、ジェロームの部屋にかくれ、地下の入口から逃走。そこで建物を回転させ入口を閉鎖。追手はやむなく2Uの尖塔部分にいったんかくれ、やがて2Uの部屋におりた。それをレオナが目撃。一同がねしずまったすきに入口から脱出し、非常口からもどった。トフラーがきく。

彼女が人間の肉を顔にのせてた。それは何故。コラーゲンだ。これは細胞の中にあるタンパク質で、 皮膚細胞を活性化し、かつ、瀕死の細胞も再生させると信じられてる。アメリカは美容科学の先進国だ。それに頼りたいとの女性もおおい。コラーゲンをふくんだ化粧品が多数。ところで胎児はもっともコラーゲンがおおい。中絶胎児を利用しようとする闇のルートができてる。何故、首の後ろの肉なのか。化粧品メーカーが牛の首の後ろや背中から膠を抽出し、それからコラーゲンをとると説明してる。これが彼女の行為の誘因だろう。狂気にかられた彼女が赤子を殺害しそのコラーゲンを一刻もはやく破壊された皮膚に供給したいと思ってのことだろう。ホワイルがジェロームの肉をそうしてたという。

**** 5) ジェロームの殺害を説明
レオナがシャロンが筋肉トレーニングをやってた。ジェロームを殺害、首を切断、セットでつくり物とすり替え、胴体を尖塔下部の部屋に搬送。必死になればわたしでもできる、といった。

**** 6) 悲しい動機が暴露される
御手洗が胎盤美容法というものがある。これはたとえば火傷した時、出産した時に排出される牛の胎盤を患部にあてる。驚異的なはやさで回復。これはプラセンターエキスの効果という。LAでは5人の赤子を殺害しこれをやった。一人は街路にすて、のこり4人はレオナに疑いをかけるために住居に放置。血がぬかれていたが。レオナがいう。それはエリザベート・バートリに興味をもっていた。彼女にならった。あらためて一同が呆然とする。照明がけされた。浮島を立ち去る前にレオナがトフラーにいった。自分のほうが演技がうまい。

*** 26) 最後の謎を解く
**** 1) ヨットから目撃された死体は誰
ライアン刑事が、シャロンの死体として海上で目撃されたのは誰か、ときいた。それは、ウォーキンショーの家に住み込んでた女性。赤子を誘拐されたマリア・ディエゴと思う。何故なら新聞報道後も誰も知人が名のりでない。離婚してメキシコを故郷とする女性だ。シャロンにちかづき返り討ちにあった。あるいはポール・ドリスデールの犯行かもしれない。二人のプロデューサーの話しとなる。

**** 2) プロデューサーの死因
御手洗がいう。死因は餓死。スティーブが先に死亡し、乾きに苦しんだダニエルが体をえぐり心臓を取りだし、心臓をわって吸血した。問題は何故そんな悲惨な状況に追いこまれたかだ。それは中央の円筒部分が回転した。二人が部屋をでて、廊下からレッドロードの回廊にでようとした。そこで扉をあけたら壁が出現した。それでレッドマンションに閉じこめられた。閉塞状況で惟一外界を感じられる2Uの上にでたのだ。レッドマンション一階に固定され、回廊にでるには、二階の扉からでる。回転により壁となった。バッテリーの硫酸を交換するのに長期間かかることがあったろう。その間に偶然に閉じこめられた。といってもホワイル氏に責任はない。ストレンジへの偏見から、このような建築物をつくったのだから。一同は突然の異変で絶望のうちに餓死した二人を想像してあらためが呆然とした。トフラーが最後の謎を御手洗にきいた。

**** 3) セットの剣先の死の謎
不答。真相は知っているようだ。何度も問いかけても不答。トフラーは多数決できめようと挙手をもとめた。賛成が過半数となった。突然、バートが語りはじめる。自分は中国、浦東の裏町高橋にうまれた。まずしかった。生活苦から十四歳の時、うられた。十七歳、ラルフという青年がかった。ラルフは悪魔だった。両足を切断、去勢され有名な売春宿鴻元盛の秘密の劇場で人魚の見世物となった。1941年、日本軍が上海にはいり、その後、米軍がやってきた。米軍将校のたすけによりLAにわたった。

**** 4) バートの告白
1955年MGMのダンススタジオでラルフと再会した。それはラリーだ。去勢のせいで自分に気づかなかった。一時、ハリウッドに中国ブームがあった。成功者の仲間入りができた。ラルフはビバリーヒルズに住居を購入するのをたすけてくれた。愛憎なかばする存在だった。人生の終わりを感じた時、東洋から大スターがやってきて、引退した二人が死海にくることとなった。

かっては人魚の見世物となった自分の体では死海でなければ、およげない。ここで自分がだれか気づかせて用意した拳銃で殺そうと決心した。だが失敗した。もし謝罪の言葉があれば許してた。しかしない。怒りがこみあげた。その時、轟音とともにセットが横倒しになった。おびえるラリーの肩をつかみ、セットの先に体を突きさした。陸にもどり呆然としてたら、モスクをでて沙漠をあるく不思議な一行を見た。彼らが何なのかわからぬまま部屋にもどった。翌朝セットを見ると元どどおりだった。長い話しがおわり、御手洗が補足する。

**** 5) ラリーを殺害した神のいたずら
一行がセットからきたロープをほどいた。開放されたセットは重心の力で元の位置に復元した。バートが自分なりに真相をしりたいとセロテープを扉にはりつけたりしたが、真相はとてもつかめない。何だったのか、知りたい。御手洗がいう。モスクが回転することを確信したのは、ラリーの死体の状況だった。あれはセットが横倒しにならなければ、そうならない。では、回転を始動するスイッチはどこか。一つは地下にある。さらに地上にも必要だ。それがらくだ留めだ。あのレバーがスイッチだった。尻餅をつく真似をしてスイッチをひいて、建物をうごかす演技をした。ロープがモスクにむすばれてたから、風でながされるとスイッチがはいってしまう。回転がつづき15度どころか37度まで回転した。そのためセットが横倒しとなった。患者の一行は赤い山から、あわててでてきた。ロープをスイッチからほどき、二度とこんなことがおきないよう、スイッチからリングをはずした。横倒しがセット大混乱の理由だ。謎解きがおわった。一同は夕食をとることにした。

* エピローグ、わかれ
翌朝、レオナはLAにいそぐ御手洗をテルアビブ空港までおくって、わかれた。

* 感想、謎解きは面白かったか
** 1) 建築物の構造
この作者は美大出身である。間違いなく建物の設計図がかける。ずいぶん不思議な構造の建物も構想できる。すると見事にそれを設計図におとす。。モスクは地下につづく坑をもつ岩盤にたてられた。その図と説明から、次のようにまとめた。

1) 建物は一階、二階、ドームにわけて考えることができる。
2) 一階は岩盤に固定され、円筒部分と張り出し部分をもつ。二つの張り出しは円の直径上対象の位置にある。
3) 二階も円筒部分と張り出し部分がある。張り出しは二つある。これで都合四つとなる。ドームは二階の円筒部分の上にのる。
4) 張り出し部分でレッドとブルーは一階に固定され、イエローとグリーは二階に固定されてる。尖塔がそれぞれ一つ、この上にのる。
5) 二階が回転し、一階は回転しない。つまり二階に固定した張り出し部分のイエローとグリーンが回転する。
6) マンションへの入口は、イエローとレッドが二階の迷路からはいり、グリーンとブルーは一階の迷路からはいる。

と、まあこんな構造の建物で事件がおき、展開してゆくと思う。

** 2) トリックの仕組み
*** 1) 地下連絡の道が可能か
一階部分の迷路構造の中に四方を壁で閉鎖された扇形柱というべき空間がある。その扇形柱の天井と床にあたる部分は閉鎖されてない。 二階部分の迷路の中に扇形柱に照応する穴があけられている。通常、この穴は一階の天井部分のコンクリートにより閉鎖されている。ところが回転により位置を移動すると、ちょうど扇形柱の天井部分にかさなる。ここから地下への道がひらかれる。回転が可能なら、ここに問題はない。

*** 2) 回転できるか
振動モーターの原理がはたらく。規模の差は無視すると建物の構造上に障害はない。震度は一階と二階の接触部分のうち、一階部分に生じるらしい。この振動は一階にのみ伝播するのが原則というが、二階のレッドにもわずかに伝播し、それを感知したキャロル・ダーネルに事件がおきたとある。

*** 3) のせるだけ、ずれないか
地震や強風でずれないか。一階は地上に固定されている。その上に二階がのる。これが地震でずれたりしないように、二階建のマンションが直径方向、対称にそれぞれ位置して保持をたすける。

*** 4) 地下室のバッテリーが可能か
ここでも規模の差は無視する。鉛を電極につかうのは自動車のバッテリーがあると思う。鉛とその酸化物を電極につかう必要があると思う。しかし文章に明記されてない。あるいは炭素をつかうのかもしれない。原理的には問題ない。電解質である硫酸も問題ない。

*** 5) 事件の日程が整合してるか
次のとおり、整合性があるようだ。
6月
1) レオナ、トフラーがイスラエル、ロケ地を訪問
2) 二人のプロデューサーがイスラエル、ロケ地で餓死(二人)
3) シャロンがLAで殺害を実行(五人の嬰児、一人)
7月
1) シャロンがLAで殺害を実行(一人)
2) レオナがイスラエル、ロケ地を訪問
3) シャロンがロケ地で殺害を実行(二人)
4) バートが殺害を実行(一人)

*** 6) 原理的には可能
以上見たとおり謎の実現は可能と思う。しかし現実にこんなことがおきるか、考えれば、急にさめる。効率性、経済性から、本来にそんなことをやる必要があるか、謎の実現に現実の冷たさが立ちはだかる。それをさておき、次の二つがある。

1) 振動モーターは、振動によりマイクロレベルの隙間がる生じる。カメラのような精密なメカニズムが実現可能だろう。一定規模をこえると精密な平面は無理。また摩擦も無視できない障害となるのは理の当然。これは原理的に可能と判断する時、無視できるのか。規模を無視するといったが、ある規模をこえると理論的壁がうまれるかもしれない。不勉強故、これ以上はいえない。

2) 殺人のような非日常の出来事は、周囲の目があるので抑止される。不審、警戒の目が常にはたらいてる。確率が零から百の間でうまれる。十二人も死ぬことがあるか。周囲、本人の状況、本人の動機、心理などにより納得できたり、できなかったりする。この物語は、エリザベートの吸血鬼変身、ハリウッド映画サロメ、女優の葛藤、イスラエルのロケの話しを主軸に、女性の若さへのあこがれ、美肌、その保持、再生、美容業界、美容科学、ストレンジ(アトピー)の問題、療法、これにくわえて数々の吸血族、魔女の話しなど多彩な伏線がはられてる。びっくるするような話しだが、ありそうと納得した。

** 3) 謎解きのたのしみ
作者が仕かけた奇想天外なトリックを推理し、それが可能なのか検証してゆくこと自体がたのしい。わたしの推理小説のたのしみの大半をしめる。わたしは、この作品の謎解きとおして、作者の構想の壮大さに心をうばわれ、数々の謎との出会いをよろこび、伏線の巧みさに驚かされた。ここで作者にお礼をいう。

(おわり)

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謎解き島田、ネジ式ザセツキー [島田荘司]

* はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 本文


*エゴン・マーカット(1/2)
** A 記憶障害者との出あい
*** 1) 日本のこと、映画のこと

1) 11月、ウプサラ大学の研究室で御手洗はエゴン・マーカットとその友人ハインリッヒに会った。エゴンは記憶に障害がある。
初対面の挨拶と自己紹介をした。快活な人柄だった。日本からきたというと、ためらった後で、日本のお陰で生きている。それが何故かわからないといった。壁にかけてある絵を見て、何かときいた。抽象画はすきでない。アメリカのエドワード・ホッパーの「夜更かし」がすきという。映画の話しとなった。ヒッチコックの熱心なファンだという。「トパーズ」「フレンジー」を見てるという。しかし監督最後の作品「ファミリー・プロット」を知らなかった。

*** 2) 治療が必要、訪問の目的

1) ここは何を研究するところか気にした。自分の脳がおかしくなってるといった。社会に適合できてるか。然り。毎日楽しいか。然り。人生に後ろ向きか。否。ではエゴンに電気ショックをあたえるような治療はしないと安心させた。御手洗がしかし患者として時には治療の必要があるというと、すこしガッカリした。
御手洗がエゴンを呼んだのでないというと、やっと訪問の目的を思いだした。毎日が空虚。帰るべき場所がある。思いだせない。それを御手洗にみつけてほしい。できるかも。ところでハインリッヒとは。知りあってどれぐらいか。???、体重のこと。時間だ。エゴン思考が飛躍したようだ。綿が鉄のかたまりと同じ速さでおちるか。真空なら同一。目がかがやく。軽いものなら浮かびやすいでしょ。うむ、で、どうやって浮かぶか。もちろん羽ばたいて。ハインリッヒが横から口をだした。

*** 3) 肩甲骨は翼のなごりか

1) エゴンのレントゲン写真をみせて、両方の肩甲骨の中央部に突起がある。これは人工骨でないといった。エゴンがいう。肩甲骨は翼のなごり。しかし自分のがそうかはわからない。重量の話しとなる。地球がないところでも物体の重量があるか。ある、光すらある。強い重力により光が外に飛べだせなくなる。ブラックホールだ。御手洗が太陽系の惑星についてきいた。

*** 4) 帰還、どこへ

1) よく知ってた。原人についてもよく知ってた。恐竜についてもさらによく知ってた。しかし最近の地震竜は知らなかった。エゴンが書いた童話「タンジール蜜柑共和国への帰還」の話しとなった。「帰還」とは何か。不知。主人公の少年は物語の中では帰ってない。本来の願いが実現しなかった。これが「帰還」という言葉をえらんだのでは。そうかも。それを御手洗にみつけてほしい。それは自分でみつけるしかない。タンジール蜜柑共和国でないか。否。あれはファンタジー。では帰るべき理由は。

*** 5) 物語の世界は実在か

1) エゴンがいう。帰るべき場所も理由も頑張って考えた。わからなかった。エゴンの現実の体験と記憶が、物語と密接に関係。成程。鼻のない老人を描けるか。可能。それは実際に見たからだ。妖精も見たのでは。実際に見たものしか描けないとエゴンがいった。スケッチを見て御手洗が他の作品も実景を描いていた。実際に見たという実感がわく。ただ記憶がないだけ。それはどこにあるか。不知。でもそこにボートにのっていった。エゴンが住人の首がネジ式になってる不思議な国にいったと思うようになった。

*** 6) ネジ式も日の丸も嫌い

1) 御手洗がキャンディのはいってるガラス壜を見せて、ネジ式となってる蓋を回した。とたんにエゴンが苦し気になった。鼻のない老人、妖精を描いてもらった。どれも同じような顔だった。主人公の妖精の顔はとても可愛いい、それは。むづかしくて描けない。最後に御手洗の顔を描くようたのんだ。最後にエゴンのサインを付記するよう指示した。その3枚と物語を重ねて机上におき、さらに黄色のハンカチでおおった。
2) 第二次大戦中の各国の戦闘機の模型を見せた。零戦が嫌いと。日の丸が嫌いといった。御手洗は休憩をとることとして部屋をでた。

** B 二回目の対話
*** 1) 対話を繰りかえす

1) カフェ・ラテをもってもどると、二人がいた。前回と同じように挨拶、自己紹介をした。同じようにすすんでいった。日本について恐怖感をもってた。前回とちがい抽象画がすきといった。映画では、ヒッチコックのフレンジーまで知ってた。ここには、はじめてきた。病院か。研究室というと、ちょっと、ためらって自分の脳がおかしいのかといった。治療したいかときく。否。必要は。無。では御手洗が治療するつもりはないといった。何故自分がここにいるのか、とまどってた。横からハインリッヒがエゴンには探し物があるのだろう、と助け船をだした。

*** 2) 空虚な人生を指摘

1) 御手洗が自分が、ここまで何をしてきたのがわからない。それを知りたい、といったら、否。自分は、スウェーデン、イエテボリ生れ。小中高もイエテボリだ。大学では生物学科を卒業、海洋調査船に乗船、次に貨物船に乗船。1947年生れだった。全部わかってるといいはる。現職をきかれ即答できない。童話作家と指摘された。ハインリッヒが同業者である。知りあったって何年。即答できない。御手洗が前回の会話を繰りかえす。重さでなく時間をきいているという。話題をかえた。

*** 3) エゴンの脳をさぐる

1) 御手洗がエゴンの肩甲骨は特別ときく。その突起は人工でなく自然のもの。それは翼のなごりか。否。しかし先祖がえりかも。猿人の歴史をきいた。前回同様、ネアンデルタール人が数10万年前、ジャワ原人が50万年前、クロマニヨン人が2、3万年前と正確な説明があった。猿から人類に進化する長い道程、それをたどるのに重要なミッシングリンク。エゴンはその話題に夢中になった。1953年に捏造が発覚した「ドーソンのあけぼの人」のことも知ってた。エゴンが人類の起源について話す。

*** 4) 恐竜をかたる

1) 三畳紀、白亜紀、ジュラ紀がある。白亜紀のねずみのような哺乳類が生きのびて猿人、人類と進化したといわれる。しかし白亜紀、ジュラ紀にかけて鳥に進化していった鳥脚類がいる。人類に似た二足歩行をする。人類の起源は複数という考えがある。それが肩甲骨が翼の名残りとの考えにつながる。6500万年前に絶滅した恐竜の話しとなる。
2) 絶滅の原因をエゴンが世界的に海が乾き、生態系が変化し、草食恐竜が絶滅、それを食料にする肉食恐竜が死滅といったので、メキシコのユカタン半島沖におちた巨大隕石原因説を話す。不知。驚愕してしばらく無言。太陽系の惑星についてきいた。

*** 5) 記憶の欠落をさぐる

1) 正確な説明があったが、無人探査機ガリレオがもたらした情報から、木製の衛星ヨーロッパの表面の氷が潮汐作用により二重の峰をもつ筋がある。これを知らなかった。タンジール蜜柑共和国への帰還の話しとなった。

*** 6) 自作物語をきく

1) これは自分が書ける最初で最後のものといったエゴンに何故ときく。もう頭の中に書くべきものがない。ではこれはどこからきたか。暫く無言、苦闘、どこからかやってきた。エゴンの過去は一つ。そこらやってきた物語が一つだけ。当然といった。さらに御手洗が物語を説明する。

*** 7) 記憶の仕組みを説明

1) エゴンの過去がこの物語に奇抜な形となってあらわれてる。記憶は、一定のパターンで活性化するニューロン集団のこと。それはすぐ消滅するものも、長期に保持されるものもある。最初、脳内の海馬に収納される。すくなくとも、2、3年はここに保持。再体験の頻度がたかまると皮質にうつされる。こうなると海馬の助けなしで保持できる。記憶が分解され保持される時、それぞれに取っ手がつく。脳に何らかの故障があると問題がおきる。
2) ワインの味覚とヴァイオリンの演奏の記憶に同じ取っ手がつく。間違って取りだされると、そこで、質のちがいをフィクションによって合理化する。さらに異種の記憶が側頭葉にうつされると分離しがたい形でうつされる。ストーリー自体は似てるがまったく架空のエピソードとなる。こうなると各所に辻褄のあわないところがでてくる。するとこの人の脳は別のフィクションを用意して別の方向から辻褄あわせをするといった。エゴンの過去はこの物語にかくれてる。エゴンは納得したようだ。

*** 8) 過去の記憶をなくしてる、時期を指摘

1) 今、話してるのはエピソード記憶である。過去はエピソード記憶によりよみがえる。エゴンにはこれが機能してない。大学を卒業してから数年後から現在にいたるまで、この過去がすてられている。御手洗が机上の黄色のハンカチの下に何があるかきく。不知。エゴンのサインをしめし、さっきエゴンが描いたことをしめした。悄然、自分はアルコール中毒者の集まりに参加してるといった。

*** 9) 御手洗がエゴンの脳を診断

1) 御手洗が推測する。日の丸に恐怖感。てんかん治療がこの感情がうすれさせることがある。それはない。重度のアルコール障害で記憶の欠如。ありそう。この物語のエピソードは安定。進行性の健忘はなさそう。場所、時間の失見当。ありそう。
2) エゴンはストックホルムの重度アルコール依存者更生医院にいるエゴンはハイりッヒをつうじて御手洗に面会を希望した。帰るべき場所をみつけてほしいという。この医院の院長もすすめたらしい。御手洗がエゴンの脳を診断する。
3) 過去の記憶がないと、人生はないも同然。今、ハインリッヒとずっと同席してるから友人でいられる。わかれて明日会ったら初対面の挨拶をするでしょう。エゴンの記憶脳は正確な記名、保持ができない。再生も円滑にできない。だから過去がないと託宣した。エゴンにはその重大性が理解できない。あるいは記名も保持もあるがエゴンには再生のスイッチがはいっていないとも考えた。そこである実験をすることとした。

*** 10) ある実験をする

1) 8本の薬壜をならべて、蓋をまわした。その拒否反応は予想より軽かった。次に零戦をみせた。拒否反応はこちらの方が強かった。飛行機へのあこがれはあるか。鳥のよう自由に飛びたい。あこがれはある。飛行機には特にない。では、物語に愛らしい妖精が登場。瞳にプロジェクターをもち、ダイヤモンドのように輝き、あるいは万華鏡のように見える。それがどこからきたのか。わからない。しかしとても魅力的。では鳥のように飛ぶこととその魅力とくれべたら。断然、妖精。彼女に実際に会ってるならすばらしい。しかしもう会えないだろう。御手洗が鏡文字を書くようにいった。
2) AからZまでを四度書いた。それをタンジール蜜柑共和国への帰還の上におき、それらを黄色のハンカチでおおった。御手洗はすぐもどるといって、廊下にでた。

*ふたたび警告
この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。

ネジ式ザゼツキー (講談社ノベルス)

ネジ式ザゼツキー (講談社ノベルス)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/10
  • メディア: 新書




*タンジール蜜柑共和国への帰還

** 1) 探索の旅のはじまり
*** 1) バルディに会う

1) 小さな肘の骨を持って、少年のぼくは一人でボートに乗っていた。ぼくは骨の持ち主を探して旅にでたのだ。三階建ての高さのひまわりを眺めていたら岸のほうから茶色の熊がいう。そこから先はサンキングの領域だ。危ないと叫んだ。
2) 上陸後、その熊はバルディという。ぼくはエッギーと名のった。どこからときく。スウェーデンからという。ずいぶん遠くからきたねといって案内してくれる。ひまわりの並木道が切れるあたりに巨大なタンジール蜜柑の樹がそびえてる。てっぺんは雲の中にとどいているようだった。幹の太さは大邸宅の周囲くらいもある。幹のぐるりには螺旋状の階段が上まで設けられている。
3) 上空では枝が四方に張りだし葉をつけていた。無数の葉の間には鮮やかなオレンジ色の蜜柑の実がたくさんなっている。

*** 2) マーマレードの野外製造工場

1) バルディが指さすところを見ると、背中から羽がはえた女の子が浮かんでる。なってる果実をもってどんどん下におりてきた。卓上に女の人がならべて、輪切りにする。それが籠にあつめられ、女性によりプールにほおりこまれる。多数の裸足の女性がにぎやかにしゃべりながら踏みつぶす。これはマーマレード製造工場だという。壜につめられたマーマレードは夕陽の色と同じだった。バルディが旅の目的をきいた。村長のダイソンに会えという。Cの11丁目だといった。

** 2) 村長をたずねる

1) 蜜柑の樹はバベルの塔のように巨大だった。木製の螺旋階段をゆっくりゆっくりとのぼっていった。果実のなってる枝にくると、蜜柑をいっぱい胸の前にかかえた女の子が浮かんでた。さらにのぼって広場にでた。そこから道がAとかBとかにわかれていた。へとへとになってCにやってきた。樹を背にした家屋がならんでた。家屋はベランダでつながってた。まだ店をあけてないレストランもあった。ベランダの上に寝台をおいて、その上でねそべってる老人がいた。ダイソンさんはどこかきいた。自分だという。骨をみせて持ち主をきいた。ルネスだろうという。マンギャン族の娘だという。川のむこうのサンキングの町ではたらいてる。どうしたら会えるかきいた。
2) 夕方になると船にのってもどる。ルネスは右腕がなく、目にプロジェクターがついている。それがダイヤモンドのように光かるのでわかる。だがマンギャン族の娘は見しらぬ人を警戒する。どうしたら骨をもどせるか、きいた。どうしてもかえしたいのなら秘密をおしえる。左足の小指の爪がボタンになってる。それをつよく押すと話しをきくようになる。ダイソンさんはルネスの幸せを第一に考えてくれ。幸運をいのるといった。

** 3) ルネスとの出会い

1) 熊のバルディと桟橋にむかった。ゲートのところでまってる時、バルディが、このところずっと満月ばかりだ。三日月にならないと住民が文句をいってるといった。川の下流から三階建の大型フェリーがやってきた。サンキングの町ではたらいている労働者がおりてきた。まず、バルディと同じ、足が車になってる熊の一群だった。ここでバルディが家族といっしょにかえるといって、わかれた。
2) 次は普通の足をした人たちだった。全員がスキップをしてかえっていった。ルネスはいなかった。心配になって見ると、一人の小柄な女の子があるいてた。人形のような綺麗な顔をした、ミニスカートがかわいい子だ。ルネスだった。いそいで声をかけた。しかしポーンポーンと飛びはねて泉のそばの橋までにげていった。やっとのことで追いついて用件をはなした。危害をくわえないといったが、羽音をひびいた。そして東に飛んでいった。がっかりして、もときた砂浜の方にもどっていった。ひまわりの幹の後ろからエッギーとよばれた。ルネスが骨をみせてといった。飛びたとうとするルネスをつかんで左足の小指のボタンをおした。
3)空中に浮かんでいたルネスが地上にころげおちた。立ちあがって、肘の骨だけではたりない。サンキングの博物館にある骨が必要だといった。ぼくはもう、さようならしようとしたら、駄目、協力してといわれた。あきれてどうしようかと思ってたとき、サンキングの見廻り機がやってきた。サーチライトをのがれてルネスと二人でひまわりの陰にかくれた。飛びさる見廻り機を見ながらルネスが、あなたはもうサンキングにマークされている。わたしに協力しなければいけないといった。

** 4) ルネスと夜間飛行

1) ルネスにさそわれて、タンジール蜜柑の樹の家にいった。途中のレストランはやっていた。おおくの人の声がひびいた。家は20丁目にあるという。ルネスは羽で浮かんでいたが、ぼくはまた歩かねばならなかった。ルネスが緊張した声で、見廻り機がやってきたといった。身をひそめていると、葉のざわめきとともに、サーチライトの光が下からのぼってきた。二人はマークされているといった。

*** 1) ルネスの体の秘密

1) 家についた。お爺ちゃんとよんだ。鼻がかけて鼻道がむきだしの、やせた老人だった。ホセと紹介してくれた。寝室が二つ、キッチンのまずしい家だった。豆のスープとパンとハムのつつましい食事をすませた。ホセ老人はすぐ寝室にひっこんだ。ルネスは自分の体はプロジェクターがついてるが、普通の生き物だ。中央管理のコンピュータが利用できる。関節はねじ式や蝶番の「ねじ式ザゼツキー」だといった。

*** 2) 博物館への侵入路

1) 中央管理のコンピュータの情報を利用できるといった。サンキングの博物館への侵入路をプロジェクターから壁に投影して説明してくれた。この時の武器には麻酔銃をつかう。明日決行するという。ぼくはルネスのように飛べないと文句をいった。すると飛べるといった。キッチンの窓をあけて、自分にしがみついて飛ぶようさそった。こわごわルネスにしがみついて、空中を浮遊した。タンジール蜜柑の樹の上までのぼり、さらに飛んだ。地上の光景は綺麗だった。月影を反射してる川、街路灯にふちどられた道路が見えた。

*** 3) 月の秘密、マウラン・ハンギン

1) 月のところまでのぼると、月はぶつぶつの無数の穴があいていた。そこから風が吹きでていた。そのお陰で快適な気温がたもたれていたのだ。ルネスがこの月が壊れるとみな生きてゆけなくなる。マウラン・ハンギンとよばれてるという。ここはどこだときく。タンジール蜜柑共和国といった。羽がはえてるのは女だけ。それも小さなものだという。男でも飛ぶことができるといった。こわがるぼくの手を振りほどいて、ルネスは空中に浮かぶことをおしえてくれた。でも、地上の物にふれたら駄目、落ちてしまうといった。下を見ていて変なことに気づいた。東西の道路は直線なのに、南北はぐにゃぐにゃとまがってる。明日地上から飛ぶことをおしえるといった。

** 5) ルネスに同情する

1) ルネスが小箱をくれた。連絡用だという。チャイムがなったらでるようにいわれた。朝食後、キッチンの窓からでていった。桟橋までいってサンキングの工場に出勤するという。ホセ老人とふたりきりになった。無口で話しがはずまなったが、昼前、酒をのんですこし快活になった。身の上話をしてくれた。サンキングの残虐行為によって鼻をけずられた。出血多量の瀕死の重傷だったが村人の親切でたすかった。風邪をひきやすくなった。もとどおりに働けなくなった。ぼくはどうしてそんなことをするのかと、きいた。
2) 特に理由はない。サンキングは自分たちを偉い人種と考え、われわれを馬鹿にっしてる。しかし、この世界をつくったのはサンキングだ。彼らの科学はすすんでる。ルネスはサンキングに強い反感をもってる。心配だ。それをとめてほしいといった。やがた酔いつぶれてねむってしまった。チャイムがなった。ルネスからだ。日暮れ時にタンジール蜜柑の樹の下でまってるといった。時間はずっと先だったが、下におりた。バルディにあった。
3) 昨夜はルネスの家のソファでねむった。サンキングはひどい奴らだといったら、同意した。人びとの体をバラバラにして分解する。連中はモンスターだ。どうして闘かわないのか。ルネスは闘うらしい。あの骨はルネスの肘の骨だった。彼女はサンキングの博物館から取りかえしたいといった。バルディはおどろいて、ぼくに彼女は危険人物としてマークされてる。手つだうのはやめるよういわれた。そしてルネスはサンキングの上層部の人物と特別に親しいといったが、具体的のことはおしえてくれなかった。
4) ルネスといっしゃに空を飛んだといったら、笑ってそれは夢だと信じなかった。月に無数の穴があいてることも信じなかった。しかし東西の道と南北の道がちがってることは認めた。ザゼツキー構造のことをきいた。バルディの体もそうだと認めた。さらにまたルネスと仲よくするのは危険だと助言してくれた。しかし、ぼくはもうルネスをたすけなければいけないという気持になっていた。

** 6) 博物館への侵入
*** 1) 見廻り機におわれる

1) 夕方、まってるとルネスがやってきた。エッギーといって、うれしそうに抱きついてきた。それから、ぼくにこれからどうするのかきいた。とまどうぼくに、よそ者は1週間しかいられない。ここの人になりなさいといった。もっていた紙袋をぼくに押しつけて、こっちにきてといった。秘密の洞窟にゆくという。サンキングの見廻り機がやってきた。マーマレード工場の小屋の角をまがり、ぶなの林をぬって全力疾走した。サーチライトが追っかけてくるのを感じながら、暗い洞窟の穴に飛びこんで一息ついた。

*** 2) オーニソプターを組みたてる

1) 中にはマーマレードの壜を梱包した荷物が何段も積みあげられていた。ルネスの指示により奧から不思議な機械を引きずりだした。それを素早く組みたてた。オーニソプターという飛行体だ。左右それぞれに透明の二枚の羽をもち、その下に主翼をそなえている。燃料カプセルと人工筋肉を装填した。それを見廻り機の発見をおそれながら、坂の上に押しあげた。ルネスはここからの道が惟一南北に直進している。この坂を利用して、オーニソプターを走行ささせて飛行させる。ルネスは飛行体を押し、ぼくは操縦席についた。速度メータが20mile/hrとなった時に思いきり操縦桿をひく。すると飛びあがるという。

*** 3) 空を飛び、結婚を約束

1) 羽がうがだし、最速になった時、飛行体はすべりだした。はげしい振動にたえながら、速度計をみつめて、20mile/hrになった時に思いきり操縦桿を引いた。浮いた。喚声をあげた。昨日みた光景がよみがえった。川も見えた。ルネスが操縦することとなった。レーダーをさけるため、川面すれすれを飛行する。ルネスが右手を取りもどしたら、ぼくたちは結婚しようと約束した。前方に都市の建物群がせまってきた。どの窓も灯りがついていた。光の都市だった。川に停泊してる船をとおりすぎて、前方にやや低い建物がせまってきた。博物館だ。四角の入口が見えた。スロットルをしめた。飛行体はフロアの上にゆっくりと着地した。

*** 4) 博物館に侵入する

1) ルネスはこの飛行体はここですてるといって、建物の中にはいった。長い廊下を右、左にまがった。正面に白い壁があらわれた。ルネスがちかづき、足で押した。両開きの扉だった。中は円形のステージをもつ大劇場のようだった。壁に無数の猿人の像がならんでいた。それを天井のそれぞれの照明が照らしだしてた。その目だけが動く。骨をさがすぼくたちの方を一斉に見ている。像の前に透明の箱がおかれ、そこに骨があった。ルネスが突然、声をあげた。骨があったのかと思った。そこには一枚の紙がおさめられていた。「ルネスの骨は返却された」とあった。

** 7) ルネスの死
*** 1) 爺さんが店で酔いつぶれる

1) 11丁目の店でホセ爺さんが酔っぱらてた。ぼくは、せまい店の中で爺さんの話しをきいた。両耳のない爺さんもいた。サンキングにやられた。しかしこの世界はサンキングがつくったといた。ホセ爺さんはぼくにルネスと結婚するのかときいたので、うんといった。ルネスは男勝りのむづかしい女だといった。もう充分生きたので、いつ死んでもいいといった。

*** 2) 部屋に爺さんをつれもどす

1) 酔いつぶれた爺さんを上の家につれていく。ぼく一人でも大変なの、もうへとへとになった。途中で突然、ルネスとの結婚を祝福してくれた。家にもどるとヴァイオリンをきかせるといいだした。玄関のドアをあけた。まっくらの部屋に蝋燭の明りをつけた。部屋のソファにルネスが横たわってた。どうしたのかと声をかけると、うっらと目をあけて、また還ってきてね。待ってるわといった。その胸に血がにじんでいた。撃たれたのだ。あっと気がついた。右手がついていた。ぼくは爺さんがたたいたルネスの頬がぷるぷる振るえるのを見た。

*** 3) ルネスの首

1) その時、どーんという音とともに、体が1インチ飛びあがった。キッチンの棚から沢山のカップや皿が床におちて、こわれた。ルネスの体に不可解なことがおきた。顔がゆっくりとまわる。後ろの髪の毛がみえる。すると首が床にごろりと、ころげおちた。ルネスの首はねじ式に装填できるようにネジ山がきざまれていた。ぼくは悲鳴をあげた。

*エゴン・マーカット(2/2)

** C Lucy in the Sky with Diamonds
*** 1) 帰るべき場所をおしえると宣言

1) 1分後に戻った御手洗にエゴンはまた、初対面の挨拶をした。前回のやりとりを繰りかえすかと思うと、エゴンがお願いがあってきたという。御手洗の期待が高まった。しかしそこから先に言葉が続かなかった。
2) 御手洗は、帰るべき場所を探しているので、ここに来たと先回りしていうと感嘆の表情を浮かべた。そこで、エゴンの協力でその場所を教えることができると宣言した。

*** 2) 意味記憶はあるが、エピソード記憶がはたらかない

1) 不審がるハインリッヒをしりめに、エゴンに鏡文字を書くよういう。不安気だったができた。どうしてできたかきかれた。不知。御手洗がさっき練習したから。ただ、それを思いだせなかっただけ、という。記憶の概説をはじめる。記憶には、「意味記憶」と「エピソード記憶」がある。エゴンには意味の記憶はあるもののエピソード記憶がうまくはたらかない。記憶は断片となって脳の各所に収納される。その際、取っ手がつけられる。これがうまくつけられないと、再生をしようとした時、必要な記憶が再生できなくなる。すると、記憶があるにもかかわらず、ないと判断してしまう。そして再生が放棄されるといって、黄色のハンカチの下に何があるかきく。不知。しかし御手洗はエゴンの物語脳がはたらきだしたとみた。ハンカチの下は土。下に何が。たたまれた猿人の骨...。正解。タンジール蜜柑共和国への帰還をしめし、これが猿人の骨。この地面はどこか。沈黙、不答。エチオピアだ。無反応。つづいて妖精、老人、御手洗の絵をみせた。驚愕、さらに鏡文字の練習の紙を見せた。驚愕、驚愕。ハインリッヒがどうしてエチオピアとわかるのか、ときいた。

*** 3) エチオピアが帰るべきところか、否

1) わかる。すこしの専門知識で。それが帰るべきところか。否。まだわからないが、何かとてつもないものがひそんる。エゴンにきく。帰るべきところは、スウェーデンのどこかか。多分、否。外国か。多分、然り。いつからそう思うようになったか。沈黙、不知。では職業は。海洋調査船、普通の貨物船、...。船乗りか。然り。その後は。沈黙、下船した...。何時か。不知。では、アルコール依存症のリハビリセンターにいたか。...、...。アルコールはすきか。否。多分。飲みたくなることもあるでしょうと同意をもとめる。御手洗がエゴンが過去を思いだせないと指摘すると、即座に否定。

*** 4) 失なわれた過去を知る

1) 自分の経歴を語りはじめる。しかしそれは誕生から卒後、乗船のところまで。そしてきく。今は西暦何年か。手鏡をだして自分の顔をみよという。半白の老人をみとめて、呆然。これは誰か。自分か。御手洗は一瞬、解決に真実が最重要との信念がゆらぎそうになる。今は2003年です。呆然、自失。しかしパスポートがある。わかるはず。御手洗は科学者としての思考力がのこってることをみとめた。現在のようなコンピュータ管理がなかった。だから不知。ハインリッヒがヨーロッパの移民局に照会、無回答。アメリカは。否。日本は。否。あなたはタンジール蜜柑共和国にいた。それがどこか知りたいとやってきた。納得。では、現在からさかのぼると。アルコール依存症の施設にいる最近6年間は確実。共和国はどこですか。ない、火星にだってない。ファンタジー。ハインリッヒも同意。御手洗は反論する。
2) 彼の脳がうみだした共和国はある。東西が直進し、南北がうねってる道の姿、20mile/hrで走行して飛びたつ飛行。まったく理論的に整合性がある。でたらめなファンタジーでない。

*** 5) タンジール蜜柑共和国はどこに

1) エゴンがきいた。You mean the Tangerine Orange Republic is a weird figment of my imagination?。No. 、I mean the Tangerine Tree Orange Rupublic does exist.。御手洗が本の一文を次々にしめした。
2) I followed her down to a bridge by a fountain ...。
3) during the night, they were sitting on rocking horses, eating mashmallow pies, ...
4) everyone smiled as I drift past the flowers that grow incredibly high. The sunflowers were three-story high ...。
5) celophane flowers of yellow and gree towering over my head ...。
6) a tangeine tree and marmalade skies ...。
7) Her eyes are shining like diamonds ...
8) a girl with kaleidoscope eyes ...
9) これらは、60年代のポピュラーミュージックの歌詞を思いださせる。ビートルズの「Lucy in the Sky with Diamonds」といった。

** D 猿人Lucyをエチオピアで発見
*** 1) 何故Lucyがでてくるのか

1) エゴンはこの歌はまったくしらない。ロック音楽にもポピュラー音楽にもほとんど興味がない。にもかかわらずLucyがでてくる。そこには何か強い衝撃をあたえるような出来事があったにちがいない。

*** 2) 1974年から記憶がない

1) 鮮明な記憶がある時期から、記憶が失なわれた時期をさぐる。ヒッチコックの映画でフレンズィーを知てるが、ファミリー・プロットは知らない。これで1976年まで鮮明な記憶があることがわかる。ディノザウルス・ジャーナルを読んでる。恐竜の知識からも総合して1974年と特定できる。エゴンはイエテボリ大学の生物学科を卒業し海洋調査船にのった。しかし海上をきり地上にもどった。時期、専門、関心から、出来事のもつ衝撃性を考えると、人類学におけるミッシングリンクにかかわる発見が関係する。大胆な推理におどろくハインリッヒに物語の展開を説明する。肘の持ち主をさがす主人公が登場する。腕を取りかえすため、猿人が多数陳列された展示場にしのびこむ場面となる。
2) 1974年に画期的な大発見があったと断言した。御手洗がPCでイギリス人がつくったデータバンクを検索する。エチオピアのアファール地区の沙漠で、まず大腿部の骨、ついでほぼ完全な女性の骨が発見された。およそ300万年前の猿人の骨だった。調査隊のキャンプではBeatles の歌がながれていた。Lucyと名づけられた由縁である。

** E 調査隊を組織したザゼツキー
*** 1) 講演会、パーティでLucyがながれた

1) エゴンの物語はBeatlesの歌の前の部分が関係する。新聞紙のtaxiとか、鏡のnectieをつけた駅員はでてこない。Lucyだけが関係してる。化石発掘には多数の人手がいる。エゴンは調査船をおりて、発掘隊に応募したのだろう。ドーソンのあけぼに人発見はイギリスで大騒ぎとなった。講演会、食事会、charityなどに関係者がひっぱりだされた。同じことがおきたろう。行事のたびにLucyの歌がながされた。エゴンはこれをきいた。

*** 2) 調査隊を組織したのがザゼツキーだ

1) 御手洗が驚愕の事実をあのデータバンクから発見した。調査隊を組織した男の名前がカール・ザゼツキーだった。スペインのマラガ大教授であり、実業家だった。御手洗が思いだしたといって、女好きで金儲けがうまかった。しかし1970年代に突然失踪した。これだけの大発見をしたのに、一般の人びとにはしられてない、という。

** F 御手洗が物語を分析する
*** 1) 物語りをまず三層に分ける

1) B(basic)層、S(science)層、T(truth)層からなる。B層はビートルズのLucy in the Sky with Diamondsから生まれたもの。S層はエゴンの科学者としての感性から生まれたもの。T層は真実そのもの。この三層からなっている。

*** 2) 物語の部分を分類する

1) 小さな肘の骨、T層
2) ボートに乗り、オールをこいで川を下る、B層
3) 葉も花弁もセロファン云々のひまわり、B層、S層
4) エッギーを呼ぶこえ云々、B層
5) 巻き毛、テディ・ベアの熊、T層
6) エッギーという名前、スウェーデンから来た云々、T層
7) タンジール蜜柑の樹、B層、かつS層
8) 背中に羽根が生えた女の子云々、B層かつS層
9) マーマレード工場、B層
10) タンジール蜜柑の樹の上の、Cの11丁目にある中華街、ここにいるダイソンという名前の長老、T層
11) 空にかかる月、S層
12) 船から大勢の人が降り、全員がスキップを踏む云々、S層
13) ルネス、T層。右手をもたないことは重要
14) サンキング、T層
15) サンキングの見廻り機、S層
16) ホセ爺さん、T層
17) ルネスとエッギーが博物館に忍びこむ、判断保留
18) ルネスは目にプロジェクターを持つ。脳の一部がスーパー・コンピューターとリンク云々、S層
19) 二人は空を飛ぶ、S層
20) 月に小さな穴が開いて云々、S層
21) 宙に飛び出すとルネスの背中の羽根は停止する、云々他、このあたりの記述は、すべて、S層
22) DNA操作で作り出した人工筋肉云々、S層
23) ルネスの首がネジ式になっていて、地震の時に振動ではずれた、T層
24) 最後の判定について、とうとうハインリッヒは承服できないと大声をあげた。

** G 実在性の裏付けをする
*** 1) T層の問題は合理的に説明できる

1) ルネスの首の問題は合理的に説明するのは難問だが、ひとまずおいておく。まずほかのS層やT層から説明する。

*** 2) 人びとがスキップする

1) 物語の住人がスキップして移動してる。これは重力のすくないところでは合理的な方法だ。月面着陸したアポロ11号の乗組員がやってたことだ。

*** 3) 高い樹の上の住居

1) 高い樹の上に住居をつくるのは重力のちいさいところでは合理的。大風もいっさいない環境だろう。三階建のひまわりも不合理でない。
2) これはB層やS層に属する。ここは月でない。妖精が羽のはばたきをとめても落下しない。はばたきは充分な空気があることをしめす。北にむかって20マイルで走行すれば飛行できるオーニソプターもそうだ。妖精の羽が意外にちいさいこと。羽をもたないエッギーが妖精ととも飛行した。妖精も浮遊の時ははばたきをやめる。この意味は重力がないということと御手洗がいった。

*** 4) 人工地球

1) 重力になれた人類は無重力空間は不都合だ。だから重力をつくりだした環境だ。地球からはなれた宇宙にうかぶ人工地球のことだ。これは円筒形をして、中心軸のまわりを回転してる。円筒内面の床に固着したものには中心からはなれようとする遠心力がはたらく。それは床にひかれるという人工重力となる。ハインリッヒが何故そんなものが必要かときく。
2) いずれ地球で人類が生活できなくなる。イギリスのホーキングも1000年先にそうなるといってる。人工地球という証拠ははまだある。回転速度と丁度同じで反対方向に走行すれば、回転運動はなくなる。つまり遠心力がなくなる。北に20マイル走行して飛行にうつるという合理的説明である。月のまわりにはいつも霧がかかってる。これは反対の地表が見えないようにするスクリーンである。
3) サンキングがこの世界をつくった。だから管理者として君臨してる。おそらく住人にはこの仕組みを知らされない。事情を知るルネスはそれに反抗した。Lucyの子孫たちの中で冒険心にあふれる人びとが居心地のよいアフリカから極寒の地に移動していった。自然とたたかいながら進んでいった。おそらくこの犠牲がなければ人類は自然災害や疫病で滅亡していただろう。ルネスの反抗は人類の歴史をなぞってるのかもしれない。未来の人類も地球を飛びだして宇宙に進出してゆくかもしれない。ハインリッヒがルネスのプロジェクターについてきいた。ルネスのプロジェクターの話しとなる

*** 5) 機械人間、ザゼツキー構造

1) あれは眼に組みこんで、中央管理のコンピュータにつながっている。だから中央のコンピュータの情報を取りこみプロジェクターで映写することができる。体内に遺物がはいると拒絶反応がおきる。ルネスはDNA操作により免疫細胞をのぞいてない。だから機械人間の段階だ。ザゼツキー構造がそれかもしれない。しかしDNA操作で体内に組みこまれたものもあるかもしれない。ネジ式というわかりやすい方式をとってるのは、この種別をはっきるさせるためかもしれない。はばたき機能も人工筋肉による機械式だろう。ハインリッヒがどうしてエゴンがこの発想をえたのかきく。

*** 6) 実在の科学者からきいた

1) 宇宙生物学者に会ったからだ。固有名詞に着目すればよい。まずザゼツキーだ。Lucyの発見からこの実在の人物にたどりついた。固有名詞は結局のところうT層に属する。またPCで検索した。
2) ミシェル・バルディ、カリフォルニア工科大学教授。宇宙生物学。車椅子の愛用者。すでに死亡。
3) クリストファー・ダイソン、プリンストン大学教授。宇宙物理学。すでに死亡。
4) 両者の死亡を知りハインリッヒがすこし落胆した。御手洗がまだまだ話しはつづくといった。

** H 物語の虚構から事実をえらぶ
*** 1) アメリカでない

1) これはアメリカのことでない。エゴンに渡航歴がない。ハインリッヒがネジ式のルネスの首の実在に疑問をしめす。あれはT層に属する。固有名詞の人物が実在した事実から実在を信じるべきだ。エゴンの脳が破壊された。それにこの衝撃的事実が関連してる。肩甲骨の突起は交通事故を推測させる。これも脳の破壊に関係しただろう。突起は人工骨により修復されたものだろう。
2) 人工骨は1970年代、日本人医師により提唱された。これはアパタイトとコラーゲンからなる人工骨をつかう。すると体内で破骨細胞がはたらき人工骨をとかす。その後に骨芽細胞がはたらき骨を再生する。これで異物でない人体の一部としての骨となる。エゴンはこの手術をうけたようだ。突起が目だつのはまだ技術が確立してない1970年代初期のものだったから。場所の特定の話しとなった。
3) 人工骨から日本人医師がいるところ、物語のサンキングから日本企業が進出し、日本軍の影響がのこっているところ。米国人教授の別荘があったところ。ザゼツキーに好都合なスペイン語がつかえるところ。見事なまでに失踪して行方が知られない事実と物語の地震から1970年頃に大地震があったところという。御手洗がPCで検索した。
4) 1976年1月24日、フィリピン、ミンドロ島をおそった大地震をみつけた。御手洗は物語からこの地域の予想がついていたという。マウラン・ハンギンという月がでる。表面の無数の穴から風をふかせ雨から霧をもたらしてた。タガログ語で風と雨を意味する。ルネスはマンギャンの出身とされた。ミンダナオ島の原住民のことだ。ザゼツキーの母国語スペイン語がつかえる地域である。1970年代のフィリピンの状況である。
5) 御手洗がフィリピンにとり地獄の時代だったという。戦争がちかくてつづき、マルコス追放の前だった。すさんだ人間があつまり、薬物パーティがひらかれた。こんな時代だったから、首がネジ式であった人間がでても不思議はないといった。ハインリッヒはやや憤慨して反論してきた。御手洗はまたPCで検索し、犯罪を発見した。

*** 2) フランコ殺人事件が登場する

1) 1976年1月24日、フランコ・V・セラノ、ネジ殺人事件。バタンガス、デル・ピラール通りのオフィスビルで、フランコ・セラノ(56)の射殺死体を発見。フランコの死体は、胴体部と頭部とが切断分離され、頭部の頸には、直径9センチほどの大型の牡ネジが覗いていた。胴体頸部にはそれがちょうど納まる穴があき、頭部の牡ネジが填まる、牝ネジのスクリュウ溝が見えていた。

** I殺人事件がみえるが
*** 1) 殺害されたのがザゼツキーだ

1) この結果にハインリッヒもおどろいたが、御手洗もおどろいた。フランコ・セラノはザゼツキーとわかった。しかし死亡したのがルネスでないことにショックをうけた。PCを検索したがファイルがバタンガス署にないことがわかり、電話をかけリコという刑事にエゴンの事情を話し、治療に必要だといって援助を求めた。

*** 2) バタンガス署リコ刑事に照会する

1) 事件を掲載した警察学校の教科書を送付すると約束してくれた。さらに退職しているが担当刑事の連絡先もおしえてもらった。ついで、とりあえずリコが知っていることをおしえてもらう。
2) バタンガスのデル・ピラールという目抜き通りに、ジェイセムというオフィスビルがある。この中にフランコ・セラノのオフィスがあった。フランコはその頃、結婚によってフィリピンに帰化がかなってまもなくだったが、フィリピン人の妻とはすでに別れていた。たいへんなやり手の起業家で、当時バタンガスやカラパンで最大のデパートに育っていたパラワン・デパートメント・チェーンを買収したばかりだった。
3)このデパートは、もともとは店頭ディスプレイを作っていた小さな会社から始まった。これが大いに発展したものだが、社長はラウル・リゲルという立志伝中の人物である。彼は以前からフランコと親しい関係にあった。その縁でラウルはフランコにデパートを売却し引退する気になったのだろう。

*** 3) 事件の詳細があきらかとなる

1) そのラウルのオフィスもまた、デル・ピラール通りのジェイセム・ビルにあった。1月24日夜、ラウルがジェイセム・ビルの自分の事務所にもどってくると、フランコの射殺死体ががソファにあったので、驚いてちかより、ゆすったら、肩口から首がはずれて床に落ちた。見ると頸の下部からネジがのぞいており、この頸が填まるべき胴体部の肩口には穴が開き、牝ネジの溝がのぞいていた。
2) ラウルは仰天したが、この時にちょうど大きな地震が起こったので、街は混乱し、電話も通じなくなった。そこで彼の警察への通報はかなり遅れることとなったが、通報を受けたバタンガスの刑事課が迅速に行動して、その夜のうちに有力容疑者を逮捕したという。
3) サイコパスが、死体を異常なかたちに損傷した特異なケースとして、フィリピンの犯罪関係者の間では有名になった。前例のない事態に、警察も司法も大いに戸惑ったが、心理学者たちが多くの解釈や見解を示し、先天的な異常者とする以外にも、麻薬の影響とか、ヴェトナム戦従軍の影響などがいわれた。

*** 4) 犯人が服役中

1) 犯人は逮捕され、終身刑で服役中である。
2) カール・ザゼツキーについて不知。
3) エゴン・マーカットについて不知
4) ミンドロ島のナウハンにサンフラワー・リタイアメント・ヴィレッジがある。バタンガスからはフェリーで45分である。
5) 犯人は服役中。女性で片腕がない。ルネス・シピットという。

*** 5) ルネスをすくえ

1) 電話をおえて、御手洗はルネス・シピットは犯人でない。非力で片腕の女性が死体の切断、ネジ式の首の装填などできない。緻密な組立作業が必要な犯罪である。通常、精神異常者の犯罪の特徴にそぐわない。もう手遅れかもしれないが、この女性をすくわねばならないといった。
2) 間違いで殺人犯とされ、30年間牢獄に放置されている。助けなければいけないといった。

*フランコ・セラノ、ネジ事件

** A 警察学校の教科書から事件を再現
*** 1) ラウルが9時すぎにオフィスへ

1) ハインリッヒが思う。御手洗の超人的な働きで、奇妙な物語の中からエゴンが帰るべき土地にたどりついた。しかしそれはさらに、奇妙で不可解な殺人事件をもたらした。心待ちしてた警察学校の教科書に掲載された資料がフィリピンからとといた。その概要である。
2) 1976年1月24日午後9時すぎ、バタンガス在住で、パラワン・デパートメント・ストア・チェーン経営者のラウル・リゲルは、なじみのバーや飲み屋を何軒も飲み歩いたのちに、デル・ピラール通りに面して建つジェイセム雑居ビル2階の自分のオフィスに戻ってきた。
3) ラウルはパラワン・デパートメント・ストア・チェーンをすでに知り合いのフランコ・セラノに売却していたので、このオフィスも1月いっぱいにたたむ気であった。社員、機器類もなく、鍵はかかっていなかった。ここで酔を醒まそうと立ち寄った。ところが、フランコ・セラノが応接間のソファに横になっているのを発見した。彼を待って眠っているうちに眠ってしまったと思った。

*** 2) 殺害の状況

1) 照明をつけてみると、グレーのスーツの左胸に、焦げ目の付いた小さな穴が二つ開いており、襟から覗くワイシャツは血で真っ赤であった。射殺されていると思い、ラウルは屈んでフランコにとりつき、頬を軽く叩いたり、上体を揺すったりした。体はすっかり冷たくなっていたが、最も仰天すべきことはその直後に起こった。フランコの頭部が肩口からはずれ、カーペットの上にどさと落ちたのである。そしてころころと転がって、部屋の中央に置かれていたテーブルの脚に当たって止まった。
2) フランコの頭部は、頸部を切断されることで、胴体部と切り離されていた。仰天したラウルがバタンガス署に電話をしようとした時、突然大きな地震が起り、周囲が破壊された。揺れは10秒程度続き、オフィス内のキッチンの皿やティーカップが、戸棚の戸を押し開けて崩れお落ち、割れたり、窓のガラスも大半が割れた。ラウルのオフィスには何もなかったので、被害はその程度ですんだが、ジェイセム・ビル自体は外壁が剥落するなどの被害をこうむった。

*** 3) 連絡を受け警察が10時半に到着

1) 電話が不通であったので徒歩で警察に赴いた。バタンガス署も大きな被害を受けており、結局10時半頃に現場を隔離し捜査に入った。

*** 4)被害者の身元

1) 被害者はフランコ・ヴィクター・セラノ、56歳。帰化フィリピン人で、起業家だった。とかく噂のある人物で、金貸し業も営んでおり、各方面から怨みもかっていた。既婚だが子どもはなく、フィリピン人の妻とはすでに別居しており、女性問題の噂も絶えないよううだった。

*** 5) 異常な死体、ネジ式

1) 死体の態様はきわめて異常、頸部切断によって、胴体部と頭部とが切り離された上に、頸部切断面の下端から、直径9センチの牡ネジの溝が覗いていた。この材質は金属で、中空、メッキされており、外観は銀白色であった。
2) さらに異常であったのは胴体部で、頸部が填まるべき肩口中央部には、これも直径9センチの穴がぽっかりとあき、この内部には、牝ネジのスクリュウ状の溝が覗けていた。
3) この牡ネジ、牝ネジはあきらかに対になったおのおので、試しにねじ込んでみると、ぴたりと填まった。このネジが本来は何に使われていたものかは不明であった。

*** 6) 被害者の服装

1) フランコ・セラノの遺体は濃いグレーのスーツを着ており、その下は白ワイシャツ、ノーネクタイという姿だった。

*** 7) 死因

1) 死因は銃による射殺で、弾丸が左胸心臓部をほぼ正確に二度撃ち抜いており、これが死因であることに疑問の余地はない。しかしこのケースは、他の射殺例とは異なる、あきらかに特徴的な要素を数多く持っていた。次のとおり。

*** 8) 銃創、A孔、B孔

1) 弾丸は38口径、輪胴式のハンドガンから発射されれたものである。この点にも疑問の余地はない。以下、これが遺体に作った銃創について述べる。
2) 被害者の上半身は、既述した通り上から上着としてグレーのスーツ、その下が白ワイシャツ、その下には白の綿肌シャツを着用していた。そしてこれらの胸部左側、すなわち心臓の側に、3枚ともA、B、2つの貫通孔があった。この銃弾孔に関しては重大な証拠物なので、以下に詳述する。
3) A孔、B孔ともに、表面部の上着には焦げ跡をともなっている。よってスーツに銃口を密着させての接射と考えられた。これを補強する状況として、
4) 上着のA孔、およそ3.2x3.4cm、その下のワイシャツの穴、およそ5.6x4.3cm、さらに下の肌シャツの穴、5.6x5.2cmである。
5) B孔も、上着、3.2x3.3cm、ワイシャツ4.8x4.5cm、肌シャツ5.1x5.5cm
6) どちらも下の着衣に向かうほど穴が大きくなっている。これは接射が示す特徴である。

*** 9) 凶器、S&W社の製品

1) さらに上着には、弾丸孔周囲のカーボン以外にも、この左右に、輪胴式のシリンダーから噴出したとみられるカーボンの黒い付着が認められたので、輪胴式のハンドガンと判明した。そしてのちにこれは、S&W社の製品と解った。

*** 10) 三つの弾丸

1) さらに特徴的なことには、銃創孔は二つであるのに、体内の弾丸は3発で、背骨付近に留まっていた。このことから、銃口を上着左側(犯人からは向って右側)に密着させて1発を発射し、2発目は多少位置を横にずらしてやはり銃口を密着させ、今度は動かさずに2回引き金を引いたと考えられた。この順は逆である可能性もある。
2) 入射角は、双方ともに、斜め上方から下方に向かっておおよそ45度である。これは、弾が侵入した穴が2つともに上方にあるのに、弾丸の留まっている場所は、3発ともに腰部に近い下方となっているために分ることである。
3) 双方とも心臓をよく破壊している。A孔、B孔、どちらから入った弾丸が先に致命傷を与えたものかは、体内の破壊の度合いが大きいから、判別はむづかしい。

*** 11) 接射

1) この射殺が特徴的であると述べる理由の一つは、銃口を密着させての射殺なら、入射角が上方から下方へと斜めになることはまれで、たいてい90度に近い角度となる。このことから、犯人はよほど長身の男ということも考えれたが、被害者のフランコ・セラノも1m82cmの身長を持っている。
2) さらには、3発の弾丸ともによく心臓を破壊しているから、致命傷を与えるには、最初の1発で充分であった。にもかかわらず、3発も続けて撃っているのは珍しい。

*** 12) 殺害後に切断

1) 白ワイシャツの襟部、ならびに上着の襟部が比較的きれいであるということも、ここが切断箇所に近い点を考えれば特徴的である。これはむろん切断が射殺ののちであることを語るが、頸部の切断による出血は、きわわめて少なったことを示すから、切断やネジの装填は、射殺後30分程度が経過してのちと考えられる。
2) ソファへの血の付着もほとんどなく、切断面からのは少なかったと解るが、同時に射殺は、被害者がソファに横たわった姿勢で行なわれたのではないと考えられる。

*** 13) ルミノール反応が検出されず

1) また犯人による遺体の切断や損壊が、殺害してのちであることから既述したとおり議論の余地がないが、鑑識課が現場応接間の床部、および浴室タイル床や排水溝を捜査したところ、ルミノール反応は検出されなかった。死体切断の現場がここか、別の場所かは特定できなかった。

*** 14) 4発目の弾丸

1) また部屋の調査から、壁にかかるヴァイオリンを、縦方向真っ二つに破壊して、38口径の弾丸が壁に入っていることが解った。このフランコ・セラノを殺害したハンドガンからのものと見て間違いはない。

*** 15) 紛失した遺体の一部

1) 遺体から紛失した体の部位は、食道上部などのごくわずかで、内臓部分を含め、他はすっかり遺っていた。

*** 16) 死亡推定時刻

1) これらを検分するためにすみやかに解剖に付されたこと、また被害者が午後6時頃に中華料理を食べていたことなどから、死亡推定時刻は午後の7時から8時の間と、比較的狭く絞りこむことができた。

*** 17) ルネスの逮捕

1) 死体を解剖に廻し、遺体発見現場のルミノール反応などを調査するかたわら、ジョジョ・ラモス刑事、ロベルト・マカティ刑事の二人は、同じジェイセム雑居ビル内にある被害者フランコ・セラノのオフィスも調べようとした。この時、被害者と以前より愛人関係にあり、確執もあったとされているルネス・シピットが、オフィスにひそんでいるのを発見した。事情を訊くために任意同行を求めると、拒絶し、激しく抵抗した。逮捕状がないので刑事がひるんでいると、ルネス・シピットがいきなり発砲し、マカティ刑事が腹部に被弾して重傷を負った。ルネス・シピットは走って逃亡をはかったので、ラモス刑事が彼女の脚と肩部を撃って転倒させ、逮捕した。
2) 被害者フランコ・セラノのオフィスから、ルネス・シピットの右手義手がが見つかり、この指先部から硝煙反応も検出された。ルネス・シピットは日系人の経営する履物工場に勤務していたが、ここでの作業は、サンダル裏にゴム底を貼る部所で、彼女の右手は義手であったが、接着剤の引き金を引くことは義手で行っていた。よって義手であっても、右手でハンドガンを発射してフランコ・セラノを殺害することは、可能と考えられた。

*** 18) ルネスの起訴

1) また、ルネス・シピットが所持し、警察官に発砲してきたハンドガンは、S&W6連発の輪胴式で、フランコ・セラノを撃った弾丸とライフル痕が一致した。指紋もルネス・シピットのものしかなく、弾倉内に38口径の弾丸が1発残っており、はずれたものも含め、被害者に4発、警察官に1発使ったということで計算も合った。また犯人でない者が警察官に発砲することは考えられないので、ルネス・シピットをフランコ・セラノの殺害犯と断定して、逮捕起訴した。

*** 19) 御手洗の疑問

1) ウプサラ大学の研究室で御手洗とハインリッヒが資料を一読後に対話する。御手洗が疑問をのべる。
1) 身長180cm以上のフランコにたいし、下方の角度にうつのは不自然。2) さらに、接射するのは困難。ハインリッヒとともに実演した。ひざまづかせてうつのもあるが、その弾丸がはずれて壁のヴァイオリンを破壊するのは無理とわかる。また一度で致命傷をあたえた。そのたおれた相手にうつ。むしろ体に直角になるのが自然だ。周囲に知られるおそれがあるのに二度もうつのも不自然だ。
2) さらに孔は二つで弾丸が三つ。犯人はそうしなければいけない理由があったという。くわえて下方の角度でうつ。スーツに密着させてうたねばならなかった。御手洗はハインリッヒをためすようにどう考えるかきいた。時間がほしいといって、御手洗に血液の質問をした。死斑は殺人のような突然死におきる。病死ではおきない。死体から血はほとんど流失しない。血液は8分で乾く。乾くと衣服などにこすれた跡がのこることがある。ルネスの話しとなる。
3) 御手洗が何故、裁判で犯人と認定されたのか興味がある。ルネスを逮捕した二人の刑事のうち一人が存命。先方に照会した。電話をしてジョジョ・ラモス元刑事と話しがしたいといった。


** ゴウレム(1/5)
*** ゴウレムの由来

1) ラウルが夢を回想する。ザゼツキーが人造人間ゴウレムの歴史を説明する。旧約聖書詩篇139のダビデの言葉にでてくる。迫害にさらされた歴史の中でゴウレムは神の力の象徴となる。この研究が11世紀にイスラムが支配する南スペインで最高潮にたっした。しかし、十字軍の遠征によりおおくのユダヤ人が虐殺されるとともにきえさった。

*** 1) 人体を解体する

1) ラウルになぜヴィーナスの彫像には両腕がないかをきいてきた。ユダヤ人の優位性をしめす姿勢が両腕によりしめされていたからという。大学の階段教室にたつザゼツキーは白いヴィーナスの彫像に電気ドリルで各所に穴をあけた。まず血をぬくためという。生命の秘密を知り、神の言葉を知り、ゴウレムをつくるため、解体する必要があるといった。電気ノゴギリで腕や腿を切断した。悲鳴がひびいた。ブルーシートの上にたおれたルネスからだった。ザゼツキーは血にまみれた頭髪に指をつっこんで首をまわした。ルネスの頸はネジ式になっていた。

** B さらにラモス元刑事からもきく
*** 1) 複雑な歴史をもつフィリピン

1) 翌日、ウプサラ大の研究室でハインリッヒと御手洗が対話する。ハインリッヒの質問にこたえ、複雑なフィリピンの歴史について説明する。15世紀、イスラム教がミンダナオ島にはいり完全にイスラム化した。16世紀に世界一周の途中にマゼランがセブ島にやってきた。そこで戦死した。スペインが襲来して、その後300年間を植民地として統治した。モスレムからカトリックに改宗するとともに名前をスペイン風にした。19世紀に独立運動がおきた。それに手をやいたスペインがアメリカに2000万ドルで売却した。第二次大戦前に日本の統治下にはいり、戦後独立し、現在にいたる。

*** 2) ラモス元刑事に電話する

1) バタンガス署から連絡があった電話番号から、御手洗がミンドロ島のリタイアメント・ハウスにすむラモス元刑事と対話する。ハインリッヒはスピーカーの音声をきく。外国人がすこしはなれたところに住んでることをたしかめる。事件発生の頃、バルディやダイソンとい名前の外国人がすんでたか。不知。電話の趣旨、エゴンの治療に必要と説明した後に、御手洗が順次質問した。

*** 3) ルネスは犯人かときく

1) フランコの妻は飲み屋を経営してたようだ。フランコの前身は。事件が解決したので詳細は不知。おおきな家を一軒購入できる程度の現金をもってた。死後は妻が継承。その他、チェーンストアの株、履物工場の株。死体の発見者、ラウル・リゲルは欧州出身のフィリピン人。日本から技術をまなび、ショー・ケースの食品模型をつくる会社をおこした。それから、チェーン・ストアの経営者にのぼりつめ、バタンガス立志伝中の人物だ。事件当時は模型会社はやめてた。現在の所在は不知。ルネスは犯人かときくと一瞬沈黙があった。
2) 自分は同僚刑事をうった犯人として逮捕した。裁判が犯人とした。ルネスは何といってるか。取り調べでも、裁判でも沈黙。その理由は何か。不知。何故フランコの事務所にひそんでたか。不知。何故、刑事をうったか。不知、ルネスからの説明無し。弾丸について確認。フランコに3発、壁に1発、刑事に1発。ルネスの弾倉に1発か。然り。ただし壁の弾丸はルネスが所持してたものでない。警察学校の教科書は間違い。ただし銃の形式は同じ。フランコのオフィスにハンドガンは。無し。ルネスの義手は。脇にはさんでた。理由は不知。常に沈黙があった。では取り調べは。3、4日後の病室で。自白は。無し。フランコとの関係は。
3) 愛人関係だった。未成年だったようだ。噂ではラウルから金で買ったという。フランコはデパートを買い、ルネスもか。然り。ビジネスライクな男。帰化目的で結婚、当然、金をはらったろう。ラウルは経済的に困窮か。同意。ルネスは売買に同意か。不知。ネジ式の死体についてきく。

*** 4) 首がネジ式、不可解

1) ネジ式にした理由は。自分は不知、関係者も不可解、不知。ルネスが異常にネジにとらわれる精神の持ち主か。でもルネスがいつどのように犯行か。非力な片腕の女が、道具は。ルネスは不言故不知。犯行時間は約30分、それで、どうやって。履物工場との関係もない。不知。この時間帯のルネスのアリバイは。無し。ネジは。大型のランプのもの、ホワイトランプだったろう。犯人がすぐみつかったから、裏付け捜査があまくなった。然り。協力した男は。不知。現場が作業場所でない。同意。ルネスの行動が不可解では。同意。地震と犯行のタイミングの話しとなる。

*** 5) 何故、首がはずれたのか

1) ラウルが死体をゆさぶった。その時、首がはずれておちた。地震は、はなれて電話してる時におきた。では犯人は首がはずれることを期待していたのか。同意。特異な犯行方法を暴露することでルネス以外の第三者に嫌疑を誘導する可能性は。無し、前例もない。ルネス以外に 嫌疑者はいない。ではエゴン・マーカットというスウェーデン人は。不知。しかし、ザゼツキーのこときくと、エゴンの名前に記憶があるという。当地にいるというと、関心をしめす。突然、思いだす。

*** 6) エゴンの名前がでた

1) ルネスが意識を回復した時にはじめていった言葉が、「エゴ・マーカット」、それ以上は不言。現場に放置されてたスクーターの持ち主かと問いつめると、認めた。事件当時の新聞を看護婦に要望、何かをさがす。数日、それを繰りかえした。さらにフランコの家は地震で破壊されたかときいた。ひどかった。屋上、2階につづく、外壁についた階段がくずれた。御手洗がきく。そこには、人間やや動物の骨の化石、古文書、さらに義手、義足はあったか。然り。その時、名がでたか。否。スクーターを通勤に使用。勤務先で聞き込み。おおくは運転を男にたのんだ。その名がエゴン。この線はおいかねて立ち消え。御手洗がもっと徹底すれば真相が見えたと残念がる。話しがネジにとらわれる異常精神にもどる。

*** 7) ネジ山を見せたかったのか

1) 何故、ラウルにネジ式を見せたかったのか。沈黙、さらにどう考えても不可解。あれだけの大作業をたった一人、あるいは警官に見せたかった、というのは不合理、不可解。ではと元刑事がいう。どのような理由か。わかるところがある。材料がもっとそろえばわかるはず。そして質問がつづく。ネジはしっかりはまるようになってたか。然り。なのにしっかりはめてなかった。そこに理由がある。では、その理由はと元刑事の質問。不答、質問をつづける。
2) 頭部はテーブルの脚のあたり、胴体はソファの上、胴体にはグレーのスーツ、下に白いシャツ。到着時間は10時頃。ではズボンは。黒。スーツの左の胸に銃痕が二つ、下のシャツにはべったりと血痕。スーツの裏地には。ほとんどなし。切断された頸部にせっするシャツのカラーには。ほとんど無し。頸部は長かったか。まあそう。場所柄は繁華街か。然り。拳銃発射の音が気になるか。治安も悪かったから、時にはきこえない。スーツに財布は、中に金は。有。フランコの事務所に金、貴重品は。有。スーツに拳銃は。無し。財布にはクレジットカード、運転免許証は。有。御手洗は材料はこれで充分考えをこれからのべるといった。

** ゴウレム(2/5)
*** 1) またゴウレムの歴史をのべる

1) ラウルの夢の回想。ザゼツキーの講義が12、13世紀からはじまる。ユダヤ教の高僧ラビのハシドは逸話をのこし、フランスのガオンは儀式を体系化したという。17世紀、学術の中心地であったチェコのプラハでラビ、レーブは王ルドルフと親しく話し、市内をながれる川の土かゴウレムをつくったという。十字軍による虐殺の後も脅威にさらされつづけたユダヤ人にとりゴウレムは自分たちを守ってくれる存在と意識されるようになった。超人的な力をもつ存在への関心は、科学が進歩し電気が発見されたとき、電気ショックにより出現するフランケンシュタインとなった。原子力の発見から、別のモンスターがうまれた。

*** 2) ゴウレムつくりは科学にちかづく

1) 創世記は神が暗号の文字により無数のことなる生命と天地を創造したといっている。時代が進歩し科学がゴウレムの物語にちかづいてゆく。神の文字を知り、優れたゴウレムをつくりだそうとした歴史は科学が発展してきた歴史と同じである。もうユダヤ の教えにとらわれる必要はない。ザゼツキーは不思議な廊下をすすんでゆく。右の窓から野外がのぞける。そこにはミサイルがつくった擂鉢状態の穴がみえ、バラバラになった兵士の死体がある。アメリカはベトナムで屈辱の敗北をきっした。しかし次に中東への介入をねらっている。それは石油を大量消費する石油権益の確保であり、ユダヤ人の利益確保である。ユダヤは米国という巨人をあたらしいゴウレムにかえたのだ。このベトナムはアメリカのゴウレム化の最終段階である。わたしのゴウレムをみせるといって左のドアをあけた。

*** 3) ザゼツキーのつくったゴウレムをみせる

1) そこにおおきな鳥籠のようなものがあり、中にT字型に拘束された男がはいっていた。ザゼツキーはほほえみを浮かべながら、電気ノコギリで左足を切断した。鳥籠には丁度、電気ノコギリがはいれるような隙間があいていた。ほとばしりでる血流に無頓着のまま透明な義足を装着した。可動式の金属の心棒、筋肉の役目をする油圧装置、とりどりのコードが、制御用のマイコンがみえた。次に右腕を切断し、また透明の義手をつけた。おどろくわたしに、とくとくとその利点を説明する。

*** 4) この義足、義手には利点がおおい

1) 義足、義手で最低限の機能は確保できている。米国の情報部が情報をえるため、たとえ手足を切断しても、人道上の問題はすくないので味方の生命をすくう貴重な情報がえられる。義足、義手それぞれ独立して制御するマイコンが装備されているから手足4つを切断可能だ。カール、カールという声がきこえた。それはルネスだった。

** C 事件に目撃者がいる
*** 1) 事実確認をする

1) 御手洗がラモス元刑事にきく。グレーのスーツの左胸に穴が二つか。然り。念のため確認をくれ。二つの穴には焦げ目、輪胴式のシリンダーからの煤があった。然り。貫通孔は、スーツ、ワイシャツ、肌シャツにあり、その口径は下にゆくほど拡大。然り。二つの穴の弾道は下方に約45度。然り。穴は二つで弾丸は三つ。然り。肌シャツ、ワイシャツは血で真っ赤、頸部切断面ちかくのワイシャツカラーはわりときれい。然り。スーツの裏地にはかすれたような血の跡。然り。フランコの頸部にネジ。ネジはゆすってゆるみ、そして落下。然り。だが目撃者なし、ラウルの証言のみ。然り。現場にきた刑事は事態を追認しただけ。無反論。材料はこれだけ。では、考察をすすめる。

*** 2) 事件の考察にはいる。

1) 下にゆくほど穴が拡大、接射を意味する。でも抵抗が予想される相手に接射は不合理。無言。無理にそんな状況をつくったとして、たおれた相手をまたうつ。ならば90度になるはず。無言。ここに犯人と意図的作為を読みとるべき。無反論、そんなこともあるとの態度。これを無理なく説明する。そのため別の不可解をかさねるべき。???。

*** 3) 目撃者の存在を覚悟してた犯人

1) まず何故別の目撃者がいないのか。???。何故、この奇妙奇天烈な事件が解決したのか。???。それはルネスがフランコをうった銃でルネスを尋問しようとした刑事をうったから。無言、然り。さらにつけくわえると、その銃にはルネス以外の指紋がなかった。この出来事がないと想定して事件を考察してください。???、???。犯人はそんな出来事を予定してなかった。えっ。真犯人は別にいてこんな出来事は予定してなかった。御手洗が然り。で、考察してください。迷宮入りか。まさか、猛然と捜査するでしょう。然り。では、あり得る捜査を想定します。フランコの事務所にいった。

*** 4) 警察に急転直下の解決をもたらしたルネス登場

1) そこで不可解なものを発見した。???。義手だ。ルネスの所持物だ。ちがう、ルネスがいなければ刑事が発見してたはず。他に。えっ。ハンドガンです。ルネスがいなければ不可解な発見でしょう。もともと未成年の女性がハンドガンをもつのは不自然。しかし、義手の存在から犯人はルネスだと嫌疑がかかる。で。

*** 5) 義手や銃だけでルネスを逮捕できたか

1) 捜査。するとルネスのアリバイが問題となる。???。犯人と思いこんで問題にしなかった。さらに犯人と思いこみ逮捕、それが公表された。共犯にされるかもしれないのにアリバイ証言者がでますか。うーむ。いたかもしれないと思いませんか。うーむ。未成年の女性がこんな困難な作業ができますか。場所は、道具は、協力者は。うーむ。発砲がなければ、逮捕できなかった。一応、納得。

*** 6)ルネスの不可解、何故、発砲

1) しかし何故発砲したのか。それは後程。否、否、今。やむ得ず、ルネスの大事な人間が瀕死の重傷、すぐかけつけないと命があぶなかったから。えっ、そんな馬鹿な。地震を忘れてます。成程。祖父のホセか。今の考察には無関係です。元刑事がきく。死にかかってる人間はデル・ピラール通り、警察署、ルネスの自宅にもいなかった。さらにきく。その前に、何故、フランコの事務所によった。病院にかけつけるべきだろう。御手洗がいう。然り、でもその前に必要があり、簡単にすむ用事であり、それが瀕死の大事な人をすくうものだったから。面白いが本当か。でもおかしい事がある。フランコをうった銃をどうしてもってた。それは事務所でひろったからでしょう。普通はひろはない、しかし地震の非常時、女性だから。それに義手もひろたのでしょう。義手???。その義手の指先には煤、それと銃。元刑事がいう。義手をひろいによったのか。然り。

*** 7) 何故義手がフランコの事務所にあったか

1) ルネスはフランコに義手を取りあげられてた。煤と銃。自分に発砲の嫌疑。元刑事がいう。フランコが自分殺しの嫌疑をルネスにかけるか。否、フランコは別の人物の殺害を意図、その嫌疑だ。フランコを殺したのはその別の人物。うーむ、その証拠は。壁にかかったヴァイオリンをうった弾丸。これには別の銃のライフル痕があった。成程。これで事件が見えたはず。???。じゃあ。フランコはラウルの事務所に別の人物をうつつもりでいった。でも相手がうって、死亡、自分は失敗。うーむ、で、その銃はどこに。変な話しだが、別の人物がフランコの事務所においた。

*** 8) フランコをうった銃が何故、フランコの事務所に

1) そんな馬鹿な。御手洗がいう。ルネスがひろったから、警察が確保できた。そんな馬鹿な。だから、別の人物が自分の銃を間違えてのこした。そんな馬鹿な。だって、二つの銃は、同口径、同型、同メーカー。犯人は予想外の展開に動転、放置してもよい銃をフランコの事務所におく。それは間違えて自分の銃だった。うーむ、納得、ではルネスはその事情を警察に話さなかったか。御手洗がいう。現場では、きいてもらえないと思い、病院で意識回復後では、いってはいけない事情を意識した。???。瀕死の重傷をおった大事な人物がいる。根拠は。ルネスは病院で事件当日の24日、翌日、翌々日の新聞を要求、熟読。大事な人物の安全を確認できた。うーむ。御手洗がいう。推測は可能。場所が場所なら死亡記事となる。どこか。目立つ場所だった。ルネスはそう信じたから警察にいわなかった、という事実も。一応、納得、話しをすすめてくれ。

*** 9) ルネスが真犯人でないとして考察する

1) ルネスが犯人でないという可能性を認めたとの前提で話す。とにかく話しをすすめてくれ。で、ルネスが現場で発見され、発砲せず連行されたとして考えたら。起訴できたか。うーむ。犯人でないとなったらどんな捜査をしたか。うーむ、物取り、金品はあったから無理か。御手洗がいう。銃をわざわざもどすのも変。さらにこんな大変な作業をするか。うーむ、ラウルのアリバイか。当り。警察はアリバイを気にしなかったが、ルネスが犯人からはずれれば、問題になる。ラウルがかならず被疑者となった。ラウルがおちついていたら何をしたか。元刑事がいう。何をいわせたい、御手洗がいう。目撃者を用意した。でも、でなかった。然り、でもその事情があったから。いたと断言します。元刑事、無言、怒りをこらえて証拠は。御手洗がいう。もし間違ってたらご希望のことする。自分が正しければ希望をきいてくれ。了解。弾丸の貫通孔の話しとなる。

*** 10) 一発即死の穴にまた一発の不可解

1) 御手洗がいう。犯人は正確に心臓をうちぬいてた。しかし、さらにもう2発うった。何故か。???。うつ必要があったから。危険な接射をいとわず、やってる。???。犯人がうち、フランコもうった(硝煙検査はしなかっでしょう。然り)。次に、犯人は一度うった穴にさらにもう一度、さらにその横にもう一度。すべて接射、角度も同じ。うーむ。御手洗がいう。気づかれるかもしれない危険をおかしてやったのは。それは、死体の穴とスーツの穴がずれてたから。そんな馬鹿な。スーツの穴とワイシャツ、肌シャツの穴がずれてたら、どうするか。成程、納得。御手洗は納得した元刑事をこまらせる。ずれてたら、スーツはきせず、ワイシャツと肌シャツだけにすればいい。なぜスーツをきせたのか。???。そんな不自然なことをする必要があったから。どうしてと思うか。

*** 11) 御手洗、目撃者の存在を断言する

1) 敗北感にしおれている元刑事をおいて、それは、弾丸で穴のあいたスーツをみた目撃者がいる。その目撃者に不審の念をおこさせないためスーツが必要だった。穴が二つだったが、そこまでまじまじと見てないと信じられた。沈黙。だからこの事件には、まだ登場してない目撃者がいると確信したと御手洗がいった。


** ゴウレム(3/5)3

1) ラウルの夢の回想。ザゼツキーの頸を切断した後、たえられない悪臭がする。くさった動物の内臓を鍋でにて悪魔を呼びだすカバラの秘儀を思いだす。そこでは悪魔がこの世界成立の秘密をおしえてくれる。この苦しみにみちた世界に人は何のためにつくられたのか。悪魔はこたえる。
2) 目的なぞない。ただ神の退屈しのぎのためだ。民の苦難をたのしみ、みだらな姦淫をよろこぶ存在だ。この世はヤーハエがつくった悦楽のチェス盤だ。神は定期的に飢饉をつくりだし、困窮した民は隣国をせめる。互いに略奪する。魔女は邪悪な存在だ。八つ裂きにしなければならない。神は多数いる。知り合いの神の信者を殺せと命令する。どうして人は殺人をこのむのか。残虐をたのしむのか。人は神がつくったちいさな悪魔なのだ。だから殺しあい、辱しめあう。どんなに、たかい洋服をきて、高尚ぶって学生相手に講義していても同じだ。
3) 切断された頸部の醜悪さを見ていると、わたしはフランコを殺さねばならなかったと思った。これが自分の使命だった。その頸部に手をのばした時、首が90度回転してこちら見た。薄目をあけて「もうやめて...」と女の声がした。ルネスだった。

** Dエゴンの苦闘
*** 1) 更生施設の院長もくわわり4人が対話する

1) 後日、ハインリッヒ、エゴンと更生施設の院長が御手洗の研究室で対話する。御手洗がヴァイオリンで難曲の練習をしていた。早速、エゴンが前回と同じ初対面の挨拶をする。事情を承知の御手洗が会話をすすめた。エゴンから治療の必要がない。現状に満足という同一の結論をのべた。「ただ」と言葉がとまった。エゴンが御手洗がやってたヴァイオリン演奏のことをきく。チゴイネルワイゼンだった。サラサーテがハンガリーでロマの即興に感銘をうけて採譜したものといわれてる。西洋の理論と東洋の即興が衝突、融合してうまれたものだ。エゴンがひかれるものと混乱を感じたという。御手洗が東洋と西洋の衝突と融合がフィリピンのフランコのネジ式殺人事件にもあるという。エゴンがハインリッヒから自分が帰るべき場所ができたときいた。その場所をきこうとした。御手洗がもうすこし時間をくれといった。ロマの話しとなった。

*** 2) ロマの音楽を語る

1) 世界に1000万人いるといわれ、もともと北西インドを故郷にとする。1000年前、異民族の侵入をうけ流浪の民となった。ヨーロッパにも多数いる。ロマは彼らの言葉で「人間」を意味する。「ジプシーは差別の意味がある。自分がすきなフラメンコは南スペインのジプシーの音楽。これはアンダルシアの哀歓のメロディが北アフリカをぬけてやってきたロマのつよいリズムがぶつかって生まれた。両者の奔放で華麗な音楽は、彼らの悲しみに色どられた生活に光をもたらす喜びだった。ハインリッヒがわってはいって、院長を紹介した。御手洗が失礼をわび、ソファにすわるよう案内した。
2) 院長が御手洗の話しに感銘をうけたように、自分は「ひばり」が好きだというと、御手洗もおおいに賛同し、ロマの音楽の魅力をかたった。モルドヴァン・シュテファンという。生まれをきく。ルーマニア、ナチによりハンガリー領だった。「魔法の馬の帰還」という曲は知らないという御手洗にすこし気落ちしたようだが、施設でエゴンのための療養をほどこしてる。今回、御手洗とともにエゴンのためにできればよい。患者が満足してれば危険な治療はさけたいという。御手洗が、エゴンはフィリピン時代、大量のアルコールをのんでたか。然り。御手洗がいう。治療の必要がないとはいえないが通常の方法は無理。ではどのように。奇跡が必要か。奇跡。御手洗がいう。奇跡がおとづれをまつのも賢明。大陸移動説も天体衝突恐竜絶滅説も時がおとづれ市民権をえた。まつもよいが、彼には寿命がある。ハインリッヒが前回に謎解きのつづきをもとめた。

*** 3) 謎解きを再開する

1) ハインリッヒがいう。目撃者がいた。フランコの体に銃弾の穴二つが必要だった。だから犯人はフランコのスーツを着せかえたのか。然り。フランコのワイシャツ、黒ズボンはいつもどおりだったが、スーツはちがってた。犯人の予想がはずれた。だから、グレーのスーツにかえなければならなかったのか。何故。御手洗がいう。犯人がグレーのスーツを目撃者に見せていたから。ハインリッヒ、だから目撃者にもう一度みせたかったのか。否、警察が見たものとちがってくるから。えっ、誰と誰のことか。御手洗がいう。フランコの偽物とフランコだ。えっ、もっときちんと説明を。自分が説明しては真の解決にならない。エゴン自身が説明しなくては。エゴンはとまどうばかり。ハインリッヒが目撃者とは誰かときく。勿論、エゴン、その肩甲骨になごりももつ彼だと御手洗がいった。

*** 4) 苦しむエゴン、思いだせない

1) 御手洗がいう。ラウルを思いだしたか。否。エゴンはラウルとジェイセム通りのラウルの事務所にはいった。思いだしたか。否。では、6時すぎからラウルと一緒にバタンガスの飲み屋街でさんざん飲みあるいてた。それから事務所にはいった。どうだ。否。ならばエゴンは1976年1月26日の夜、事務所にいった。事務所となってるところから応接間にはいった。たぶんラウルが先だ。ラウルがそこでエゴンに何を見せたか。今、すわってるようなソファの上で、何を見たか。思いだしたか。否。心配して声をかけるハインリッヒに、御手洗が「帰還」の物語の中に彼の脳にある記憶の部分が存在してるといった。

*** 5) 真の解決、エゴンがすべてを思いだす

1) 事件の解決は彼が思いださねばならない。今、刑務所にいるルネスの開放もむづかしいだろう。それでハインリッヒは納得。どうしてわかったか。御手洗がいう。簡単な推理だ。あらためて「帰還」の物語をしめし、すべてここにある。???、では目撃者だというのは。御手洗がいう。肩甲骨だ。???。科学的、医学的療法はないのか。御手洗がいう。無し、ペンフィールドの電気療法、心理カウンセラーの催眠療法か、事件の解決にはならない。解決が必要だ。

*** 6) 奇跡をまつ

1) 何故フランコは殺害されたか、誰によってか、何故頸部を切断されたか、何故、首がネジ式だったか、何故スーツを着せかえられ、体に二つの穴をあけられたのか。それにエゴン、彼の役割、何故、大怪我をしたか、何故、目撃者だったはずなのに途中できえたか。これができなければ、助けるべき人を助けられないといった。すると机上の電話がなった。

** ゴウレム(4/5)
*** ルネスがザゼツキーをたおすといった

1) ラウルが夢を回想。ルネスが戦闘服をきて、きしむ機械音をたててやってきた。白い透視光のもとで体内がみえた。頭蓋骨、脳に機械はない。だが頸はネジ式だった。胴体部には骨のかわりに金属のフレームがはいってた。機械をとめるボルトやリベットがひかり、ダイオードが明滅してた。機械の間に肺、心臓が顔をだし消化器のチューブがはしってた。右足はすべて機械、手足は胴体とネジ式で装着されていた。
2) 透過光をぬけたときラウルの問いに答え、ルネスはザゼツキーを「やっつける。すぐにやる」といった。

** E ルネスから電話、エゴンの帰還
*** 1) 恋人ルネスがよみがえる

1) 研究室の電話がなる。御手洗は少し話し、それからスピーカーに切りかえ、電話の声をエゴンにきこえるようにした。電話からルネスがエゴンに呼びかける。祖父のホセ、食事のアドボ、魚の塩焼きにしたイニハウ、デル・ピラール通りのレストランでの食事、スルー海の珊瑚礁の話しをした。エゴンが今、どこにいるかときいた。刑務所の中、あなたは元気か。スウェーデンで元気にくらしてる。アルコールはのんでるか。否。元気を知って満足。驚き、エゴンが自問自答。ルネスが十分間だけはなせるという。もどがし気にいう。

*** 2) ルネス、エゴンは殺してない

1) 1976年1月24日の夜、バタンガスに地震。あなたは、わたしのアパートにかけつけた。うれしかった。おぼえてるか。無言。すぐ二人でスクーターにのってフランコの家に義手を取りかえしにいった。呆然。寝室、居間、陳列室になかった。あの日の朝、フランコは自分から無理矢理、義手を取りあげた。犯罪の臭いがした。エゴン無言。で、エゴンは屋外に取りついけられた階段をおりようとした時、轟音、地震。岩場に転落。電話は不通。スクーターにのって病院にむかった。おぼえてるか。 無反応。ルネスがいう。緊急なのできけなかった。エゴンは極度に興奮。ジェイセム・ビルでおきたことは不知。病院への途中でジェイセム・ビルによった。フランコの事務所で義手をみつけ、さらに銃も。電話は不通。そこに刑事が出現。瀕死のエゴンが心配、抵抗し銃撃、逃走。病院で意識回復。
2) フランコの殺害を知り、ルネスはエゴンが自分のためにやったと思った。生きてると信じ、沈黙。刑事にもエゴンのことは不言。ルネスが告白。エゴン以外の二人の男と愛人関係。エゴンを傷つけた。ラウルも好きだたが、事業に行き詰まり、事業とルネスをフランコに売った。フランコはフィリピンをまだ植民地と思ってた。ラウルとの関係をつづけ、エゴンも愛した。ききたい、本当にエゴンがフランコを殺したのか。不言、答えられない。

*** 3) 苦しむエゴン、思いだせない

1) 自分の脳ははたらかない。かくすつもりはない。どうしても思いだせない。自分がどうしてここにいるのもわからない。辛い。どうしても自分がいるべき国にもどらなければ、そこに帰る。ルネスが感謝。ヨーロッパ人に怒り、復讐心。自分の魅力や力をつかう。傲慢でエゴンを傷つけた。エゴンが一番好きだったと告白。スルー海でエゴンとおよいだことをわすれない。ラウルの家で自分がつくったアドボをたべた。ワインをのんで大騒ぎ。ヴァイオリンの名手のラウルが「魔法の馬の帰還」をひいた。エゴン大喜びだった。もうこれ以上語れない。涙になる。すると後ろで声がひびいた。

*** 4) ラウルが魔法の馬の帰還を演奏する

1) 院長が告白。ラウルを名のった。ルネスにあやまった。人生が終わりにちかづいている。エゴンのために療養施設をつくった。だがルネスのことを忘れてた。フィリピンにもどる。驚くルネス、看守に電話の猶予をたのむ。御手洗が冤罪をはすのに必要、延長をたのむ。沈黙。ルネスの声、感謝。御手洗がラウルにヴァイオリン演奏をたのむ。フランコの弾丸がヴァイオリンを二つにさいた時、演奏を封印とちかった。御手洗がエゴンの脳に奇跡がおきるかも、再度たのむ。ラウルがヴァイオリンをとる。突然、つよい音がひびきリズミックに草原をかける馬が登場する。陽気な演奏、手拍子がくわわる。調子がかわり、憂鬱な弦の音、聞き覚えのあるメロディにかわった。演奏は拍手をもっておわった。

*** 5) ラウルが自分を語る

1) 御手洗が、こんな素晴しいチゴイネルワイゼンははじめてという。ラウルがロマであることをたしかめる。自分はトランシルバニア、ハラトウカ村にうまれた。そこは西にむかうロマの大通りだった。政治的に複雑な場所だった。第一次大戦でルーマニア領、第二次大戦でハンガリー領となった。父はヴァイオリンの名手、人気楽団をひきいていた。ハンガリーを支援するナチのため演奏をした。ハンガリー敗戦、チャウシェスク独裁にむかった。一家は白眼視された。父はブタペスト、スペインとのがれた。母は旅の途中で死んだ。困窮の生活でヴァイオリンの技術もおとろえ、やがたフィリピンに仕事をもとめ、アフリカ経由、渡航した。貧窮の生活の中で父からヴァイオリンをならった。音楽は政治に利用されると音楽家になることは反対だった。その頃に名前をかえた。そこから父とともに日本にわたった。全国の都市を演奏してまわった。九州で食品模型にであった。蝋でなく塩化ビニールでつくる精密でリアルなものだった。タチバナ食品模型研究所に長期特別研修生というかたちで住みこんだ。蝋細工とちがい、ビフテキなどはたべられそうで、さわってもやわらかでリアルだった。
2) フィリピンにもどり食品模型の会社をおこして、猛烈にはたらいた。会社をおおきくし、レストランを買収、デパートまで拡大した。その頃、父がなくなった。ミンドロ島の別荘でだった。時代がかわった。拡大しすぎた事業は行きづまった。その頃にフランコにであった。事業家で学者でもあった。放浪のヨーロッパ人という親近感もありしたしくなった。これが自分の最大の過ちだった。フランコをつうじエゴンともであった。ミンドロ島の家にちかくにはアメリカ人のビレッジもあった。そこの学者と交流がうまれた。アメリカ人学者の自由な発想にエゴンは魅惑された。交流を心からたのしんだ。可愛いやつだと思った。あんな事件があり記憶をなくし、アルコール依存症でホームレスの収容施設にはいってる。そんな状況はたえられなかった。欧州にもどる際にスウェーデンにつれていって、自分はまた放浪の旅にでた。スウェーデンにもどるとヘルシンクボリでエゴンがひどい生活をしてた。自分の財産のすべてをつぎこみ重度アルコール依存症患者の更生施設をつくり、収容した。

*** 6) ルネスをフランコに売る

1) 自分はいつかロマの女と結婚しようと思ってたが、かなわなかった。ルネスのことを思えば心がいたむが、ロマの血があったのだろう。事業に行きづまり、嫌気もさした。フランコに売却を提案した。はじめしぶっていたが、ルネスを売れという条件をつけた。彼の提案は好条件だった。
2) フランコは義手、義足に関心があった。当時、ベトナム戦争はおわっていたが、カンボジア内戦があり、イスラエル、中東、アフリカと戦火はつづいてる。フランコは補助器具の需要を見こんで研究していた。一見何でもなさそうな研究だが、あの男は悪魔だった。ルネスは右腕がないが、両親もなく、祖父の老い先もながくない。まったく親類縁者のない者になる。彼女を愛人とするという口実で、実験材料のモルモットにしようとしたのだ。

*** 7) フランコの殺害を決意する

1) 右腕のない彼女が、右足もなくすると、その左脳が特殊な機能を発揮するようになるといった。カンボジアにつれていって口実をつけて右足を切断するとまでいった。1970年代は異様な時代だった。戦争が身近にあり、悪魔がそのちかくによってくる。義手、義足は戦争捕虜を拷問するためだ。定型化された義手、義足を用意し。拷問の時、それにあうよう手足を切断する。効率的、効果的な拷問だ。悪魔の研究だった。自分はおそろしくなった。計画が中止させられないとわかったので殺害を決意した。その計画をはなそうとした。それを御手洗が中止させた。

*** 8) エゴンに事件がよみがえる

1) エゴンの変化を見のがさなかった。エゴンがいう。魔法の馬の帰還、ヴァイオリンにあわせて、ルネスが踊った。ルネスの声。アドボ、挽肉となすのオムレツ、レリエロン・タロン。これらを一生たべたい。あれはルネスへの求婚の言葉だった。ルネスの声。思いだした。うつくしいスルー海のそばで一緒にくらしたいといった。エゴンが御手洗をみた。ラウルをさししめした。抱きあう二人、ラウルがエゴンの奥さんをたすけにいこうといった。

*** 9) エゴンに語らせる

1) 御手洗が1976年1月24日の夜に何があったか。エゴンがいう。ラウルにつづいて応接間にはいった時に何を見たのか、ときいた。ラウルが声をあげた。見るとフランコがソファの上で仰向けでねてた。ワイシャツが真っ赤でスーツにちいさな孔があいてた。ラウルが穴に指をつっこみ血だといった。エゴンがさらにいう。眩暈、エチオピアから一緒にやってきたのに。吐き気をもよおした。休止。御手洗がそれは何時ころ。八時前。ラウルがフランコの体をゆさぶり、頬をぺちぺちとたたいた。その後で、穴にふれた。頬の肉がぷるぷるふるえた。御手洗がきく。フランコのスーツの穴はいくつ。不答。壁のヴァイオリンはこわれてたか。否。それから。警察に電話しようとした。そこに大地震、部屋が暗転、外は土埃。御手洗がきく。揺れの時間は。10秒くらい。その揺れの中で何を見たか。躊躇、やがて、フランコの頭がゆるゆると後ろをむいた。後頭部、どすんと床に落下、エゴンの前をころころところがった。御手洗がきく。どこまでか。部屋の中央にある卓子の脚のあたり。電話はそこにあったか。否、隣室。ラウルが証拠保全を警告。徒歩の連絡も考えた。結局、ルネスの安全確認を優先。現場をラウルにまかせ出発。御手洗が事件の全容が見えたことに満足。

*** 10) 見えてきた事件の全容

1) これでルネスの説明につながる。目撃者がきえた理由がわかり、ルネスが気がせくあまり刑事をうった理由もわかる。ラウルには事件を糊塗する必要があり、警察への連絡をおくらせた。ラウルが沈黙。ルネスの逮捕はラウルのアリバイ問題を解消した。さらにラウルが発見時間をおくらせ9時とし、首がおちたのは地震前、ゆさぶった時にした。理由は架空犯人の意図どうりと印象づけたかったからだろう。犯人の異常性に注目をあつめるのが得策と考えたのだろう。一方、エゴンは岩場におち肩甲骨を粉砕骨折し、おそらく海側から発見救助、病院に搬送。日本人医師のいる病院で人工骨による手術。これが肩甲骨の突起としてのこった。ラウルは、あわてて銃をフランコの事務所にのこした。それがルネスさんの狙撃、犯人としての逮捕、アリバイの問題が解消したが、冤罪者をだしたと指摘した。御手洗がきく。

*** 11) フランコ殺害の実相

1) フランコが残業してることは。承知、事業引き継ぎで多忙。ハインリッヒが何故、エゴンを目撃者にする必要があったかきく。フランコの死体発見時までずっとエゴンと一緒ならば、アリバイができる。推定死亡時刻は7時から8時、6時からずっと一緒なら完全だ。ハインリッヒが誰によりどのようにフランコが殺害されたかきく。御手洗はエゴンに、どうしたと思うかきく。エゴンが冤罪をすくうため、一番事態を理解してる必要があると指摘。エゴンが語る。犯人は自分でなく、ラウルでもなく、ルネスでもない。犯人がいない。御手洗がヒントはタンジール蜜柑共和国への帰還の中にある。壁にヴァイオリンがかかってた。ルネスの頬がぷるぷるふるえた。胸にぽつんとひとつあいてる穴を見たと記述を指摘。エゴンが思いだしながら、真相にちかづく。警察の発表とちがうところがある。ヴァイオリンは壁にかかってた。スーツの穴は一つだった。御手洗が歓喜の声をあげて、エゴンが見たのは、警察が発見したのとは別のものだったといった。しかしエゴンはフランコという。エチオピアから一緒だったフランコを間違えるはずない。双子がいても殺人がふえるだけ、御手洗がアリバイつくりだったといった。
2) 御手洗はエゴンがまた明日になれば、もとにもどる可能性がある。記銘をつよくするために自分で語らせる必要がある。また、奇跡のヴァイオリンが必要かもしれないという。推理の原則は犯人の立場にたって推察すること、犯人はどう見せようとしたのか。それができなくなったのが地震、では地震がなかったらどうか。ゆすったり、頬をたたいたが首はおちなかった。地震があったのでおちた。フランコの射殺死体を見た。それが犯人がエゴンに見せたかったものだ。電話は。隣室は駄目といわれた。下の公衆電話だったろう。もし公衆電話を事前に細工する。out of order の看板、とすれば、さらに遠くでかける。何故犯人はこのように時間をかせぐ必要があったか。何をしようとしたか。

*** 12) あきらかとなる事件のからくり

1) 御手洗がいう。犯人はフランコの事務所にいって、ラウルの事務所に変なものがあるとさそう。やってきたフランコは死体を見ておどろく、ちかよってしゃがみこむ。その瞬間、犯人は左胸に弾丸をうちこむ。素早く偽装死体を処分する。これなら時間をすこしかせげば充分。ねじ式が見えたのは偶然の事故。ではあれは人形。ようなもの。塩化ビニールはやわらかい。たたかれればぷるぷるふるえる。でも、体もやわらかだった。ゆすったり、すこしもちあげた。やわらかな自然な動きだった。ルネスが補足した。右手の義手をフランコの指示でためした。ほとんどは無理なく自然にうごくものだった。御手洗が指摘した。ラウルがこの人形をつくった。然り。数々の試作品を見せられた。デスマスクも。精魂こめてつくった。我ながらよくできたと思った。しかし彼の首は人並はずれてながかった。そのため、首のネジをゆるめざるを得なかった。ゆする時も注意してやった。ところが地震がすべてをぶちこわした。
2) 非常に困惑したが、計画は修正できると思った。エゴンをルネスのところにやったので余裕ができた。右手に手袋をはめフランコの事務所にいった。声をかけた。灯りがある廊下にでてフランコの衣服を見た。紺色のスーツ、白色のワイシャツ、黒のズボン。人形はグレーのスーツだった。やるしかない。応接間にはいり死体を見せた。しゃがみこんだ瞬間、ポケットのハンドガンでうった。成功したが、フランコもポケットにハンドガンをしのばせていた。ほとんど同時にうたれた弾丸は壁にかかったヴァイオリンを破壊した。いそいで人形をばらし、大型バッグにつめた。下におり地震でごったがえす道を横ぎって自分の会社の倉庫にいった。そこで人形の頸部のネジ式の部分を切断した。塗装用のプラスチックシート、ナイフ、ノコ、手袋などを大型バッグにつめ、現場にもどった。死体の血はもうかわきはじめてた。スーツの裏地に血はしみつかないだろう。
3) プラスチックシートの上に死体をおき、頸部を切断した。胴体部には内部をえぐり、牝のネジをおしこんだ。頸部のほうも筋肉、脂肪をリング状にえぐり牡ネジをおしこんだ。紺色のスーツをグレーにかえた。スーツの穴とワイシャツの穴がずれてる。そこで、慎重にスーツの穴から一発うった。さらに下のワイシャツの穴にあわせ、スーツをうった。頭部のない死体をソファにおき、首はテーブルの脚のあたりにおいた。いそいで後片付けをして、大型バッグをもって倉庫にもどった。手を充分にあらい、流しも何度もあらった。海にすてる余裕はない。ナイフ、銃は自分の車のシートの下にかくした。

*** 13) 国外に逃亡したラウル

1) 地震で混乱するバタンガス署について、まってる間に後悔がうまれた。血の臭いも気になった。現場に同行し予定どおりの説明をした。たいしてきかれなかった。心配したアリバイのこと、倉庫の捜索もなく、ルネスの逮捕を知らなかたので意外だった。目撃者は自分一人となっていた。自分はフラ ンコをうった銃をフランコの事務所においてきた。間抜けたことだ。いそいで出国しまだ市民権がのこってるルーマニアにひっそりと暮していた。そこでルネスの逮捕をしり愕然とした。 バタンガスにもどりエゴンの消息をしった。スウェーデンにつれて帰り、ヘルシングボリで彼のためアパートをみつけた。また放浪の旅にでた。失意の連続だった。もどったヘルシングボリで公園にくらすエゴンをみつけ、決心した。ストックホルムで重度アルコール依存症患者更生施設をつくって、エゴンを収容した。

*** 14) エゴンとともにフィリピンに帰還

1) 暫くの沈黙の後、ルネスにたいする罪の意識がつよくなった。今回のことは最後の審判をうける気分だった。フィリピンにもどり罪を告白しルネスの冤罪をはらすといった。御手洗と握手をかわした。エゴンから、ルネスから感謝の言葉があった。のこったハインリッヒから賞賛の言葉と夕食への招待があった。

** ゴウレム(5/5)

*** 1) ラウルのわかれの言葉

1) ラウルが夢を回想。ルネスがラウルにこたえる。ザゼツキーをたおした。あの悪魔は地獄にもどっていった。悪魔がいるなら神もいることがわかったといった。輝くように青いスルー海の船上だった。ルネスがいう。一時、ラウルを愛した。しかし悪魔が乱舞する戦争がおわった。騒がしかったアジトも静かになった。すべてがかわった。ルネスはエゴンを愛するようになったという。ラウルはエゴンは自分の子どものようだ。自分は旅にでて、旅で死ぬ。ふたりの幸せをいのってるといった。

注) 二つの銃の扱いにかんし、作者にミスがあった、と思う。謎解きの醍醐味をそこなうものと思わないが、本作品の趣旨から一言しるす。

(おわり)

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謎解き島田、斜め屋敷の犯罪 [島田荘司]

* はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 本文
* プロローグ

** 1) 世界の奇妙な建築

世界には奇妙な建築があるが、日本には斜め屋敷というものがある。

** 2) 斜め屋敷の所在

北海道、宗谷岬のはずれのオホーツク海を見下ろす高台の上に斜め屋敷が所在する。名称は地元の通称、正式名は流氷館である。
1) エリザベス王朝風の白い壁に柱を浮き立たせた三階建ての西洋館とその東に隣接した、ピサの斜塔風の円筒形の塔から成る。
2) 斜塔は周囲にびっしりとガラスがはめられ、そのガラスにはアルミニウムを真空蒸着させた鏡面フィルムが貼られている。
3) 西洋館の手前に、随所に彫刻が設置された石造りの広場、塔のふもとには扇形の花壇がある。
4) ハマー・ディーゼル株式会社会長、浜本幸三郎が建設したものである。

** 3) 奇妙な斜め屋敷

斜めについて説明する。
ピサの斜塔が鉛直線から南北方向に、5度11分20秒傾むいているという。斜め屋敷もこのように傾いている。
西洋館の向きは、東西、南北に正対している。つまり、南面壁は南に正対し、他の壁も同様である。

** 4) 傾きの詳述

傾きを詳述する。傾斜度は上述のとおり。
1) 床についいう。その南北方向において南が坂下となっている。しかし東西方向は水平を保っている。ここで玉を転がせば、当然、北から南へ転がる。
2) 窓についていう。南面壁、北面壁の窓はこのとおり傾むいている。しかし東面壁、西面壁の窓は傾けない。水平、鉛直に対して通常の関係にある。
3) 人間の錯覚についていう。このような部屋に入って壁を見る。例えば東面する窓は壁の長方形に対し、右側あるいは南側が上方に、左側あるいは北側が下方にある。長方形に対し窓が歪んで設置されている。この相対位置から人間は南側が坂上、北側が坂下と錯覚する。
4) ところで、玉を北から南へ転がすと、既述の1)のとおり南側に向って転がる。人間の感覚に反する奇妙な現象を生じるわけである。

** 5) クリスマスの夜の部屋割り

事件が起きる12月25日の夜の部屋割りは次のとおり。
1号室 相倉クミ
2号室 浜本英子
3号室 (骨董品室)
4号室 (図書館)
5号室 (サロン)
6号室 梶原春男
7号室 早川康平夫婦
8号室 浜本嘉彦
9号室 金井道男夫婦
10号室 上田一哉(スポーツ用具置き場)
11号室 (室内卓球場)
12号室 戸飼正樹
13号室 日下瞬
14号室 菊岡栄吉
15号室 (空室)
斜塔 浜本幸三郎

** 6) 浜本幸三郎

ハマー・ディーゼル株式会社会長。富と権力を極めた大富豪。クラシック音楽、ミステリィーを愛好し、西洋のからくり玩具、機械人形の研究を道楽とする趣味人である。
68歳、妻を亡くし、末娘と流氷館に隠居生活を送る。

** 7) 事件の発端

事件はまず、1983年12月、吹雪の吹いたクリスマスの夜に発生した。そこには招待客と主人、娘、使用人がいた。

** 8) 登場人物

流氷館の住人
1) 浜本幸三郎、68歳、流氷館主人
2) 浜本英子、23歳、末娘
3) 早川康平、50歳、住込み運転手兼執事
4) 同千賀子、44歳、妻、家政婦
5) 梶原春男、27歳、住込みのコック

招待客
1) 菊岡栄吉、65歳、キクオカ・ベアリング社長
2) 相倉クミ、22歳、菊岡の秘書兼愛人
3) 上田一哉、30歳、菊岡のお抱え運転手
4) 金井道男、47歳、キクオカ・ベアリング重役
5) 同初江、38歳、金井妻
6) 日下瞬、26歳、滋恵医大生
7) 戸飼正樹、24歳、東大生
8) 浜本嘉彦、19歳、慶応大一年生、幸三郎の兄の孫

警察官など
1) 牛越佐武郎、札幌署、部長刑事
2) 尾崎、同、刑事
3) 大熊、稚内署警部補
4) 阿南、同、巡査
5) 御手洗潔、占星術師
6) 石岡和己、その友人

* ふたたび警告

この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)

斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1992/07/03
  • メディア: 文庫



* 第一幕
** 1) 流氷館の玄関

*** 1) 幸三郎の出迎え

幸三郎が娘英子とともに玄関でお客のキクオカ・ベアリング社長の菊岡栄吉とその秘書であり愛人でもある相倉クミを迎える。
しばらく経って東大生、戸飼正樹が到着する。最後にキクオカ・ベアリングの重役、金井道男とその妻、初江がやってくる。
招待客の日下は既に到着していた。

** 2) 流氷館のサロン

*** 1) 夕食

一階サロンで夕食が始まる。英子が南側の裏庭に設営された見事なクリスマス・ツリーを披露する。次に誇らしげに幸三郎を紹介する。幸三郎が音頭をとり乾杯する。

英子が着席者の紹介をする。
1) 菊岡は雑誌でも取り上げれた有名人。菊岡は、女性問題で裁判沙汰、映画女優との醜聞で登場した。
2) 相倉はお隣りにいる素敵な洋服のかた
3) 金井はキクオカ・ベアリングの社長。英子はクミとの火花散るやりとりで少々疲れ、肩書を間違えた。
4) 妻初江はグラマーな女性。初江は太っていると揶揄されたと気分を害した。
5) 日下は目前の医師国家試験準備と幸三郎の健康チェックのため滞在
6) 戸飼は将来有望な東大生で参議院議員の息子
7) 嘉彦は兄の孫、慶応大一年生、スキーで滞在

英子が使用人を紹介する。
1) 早川は、幸三郎が鎌倉に住んでいたころから20年近く執事をしている。
2) 妻千賀子はいろんな雑用をお願いしている。
3) 梶原は自慢のコック

英子は菊岡のお抱え運転手の上田の紹介を失念していたことに気がついたが無視する。
豪華な七面鳥料理など東京の一流ホテルに負けない食事である。食後の紅茶が終り、日下が裏庭のクリスマス・ツリーを見ていた。その時、雪上に立つ棒を発見した。さらに西の角あたりにもう一本あることを発見した。それは今日昼間、日下がクリスマス・ツリーの準備を手伝っていたときにはなかった。それは暖炉に使う薪のようだった。

*** 2) 幸三郎の謎

大人同士の会話に飽いた幸三郎は若い人にといってクイズを提出した。そのいくつかを日下が見事に解いてみせた。幸三郎は戸飼に対抗心が生じたことみて、突然、これから出すクイズで英子の結婚相手を決めようといいだした。それは勿論、英子の同意を条件とすると付言した。そこで自分の部屋である斜塔の上に案内するという。日下、戸飼、コックの梶原、さらに菊岡と英子が幸三郎に従った。

** 3) 塔

*** 1) 斜塔から謎を提示

ホールの南側に付設された階段で二階に登る。踊り場を北方に移動し、そこから三階に連絡する階段を登り、三階の踊り場の南側に戻り、そこからまた登ると東面壁に近くなる。
そこに垂れ下がっている鎖を引くと扉にみえた部分が向こうに倒れる。斜塔への架け橋となった。それを登ってやっと斜塔に到着した。
部屋の周囲は回廊で囲まれていた。回廊の最南端に行き、そこから花壇を見下ろす。その形は斜塔のほうが要である扇のようである。扇面に多数の曲線が描かれ模様を表わしている。幸三郎は一同に斜塔と合せて意味のある答を出すよう求めた。
この時、降雪中だった。

** 4) 一号室

*** 1) 怪人物の登場

クミの部屋である。降雪は止み月が出ていた。
1時過ぎ、ここの静寂は都会暮しのクミには就寝の邪魔であった。また英子のことを考え、ますます眠れなかった。微かな音に気がついた。何かが外壁をカニのように登ってきている。嫌だと思っているのに南側の窓を見た。窓の下、カーテンの隙間から人間の顔がじっとこちらを覗いていた。
少しもまばたかない狂人の目、青黒い皮膚、白い鼻の頭、ヒゲ、頬の火傷の跡、薄笑いを浮かべた唇、異常な顔であった。
クミの悲鳴、その後にはるか遠くで吠えるようなうな男の悲鳴。またクミの悲鳴。ドアが叩かれ英子が入ってきた。外を確認したが何もない。幸三郎、金井がやってきた。不審さが解消されないまま、その夜は過ぎた。

** 5) サロン

翌朝、暖炉のまわりに、クミと金井夫婦、日下、嘉彦がいた。クミの熱弁にもかかわらず昨夜の話しは信じてもらえなかった。

*** 1) 上田の殺害

戸飼、幸三郎、菊岡が入ってきた。菊岡が上田一哉がいないことに気がついた。日下が気をきかせて起しに出た。英子の声で一同は朝食を始めた。やっと戻ってきた日下が部屋の異変を知らせた。
一同が外に出たとき、雪上には日下の足跡しかなかった。日下が指差す西の角に黒ぽい人影らしいものが倒れている。近づくとそれが幸三郎の蒐集品の一つの人形と判明する。しかも手足がバラバラに散在している。
西面する10号室の扉の前で呼びかける。応答がないので体当たりをして開けた。倒れた上田には心臓の上あたりに登山ナイフが刺さっていた。死体はベッドの足もと、あおむけ、右手首に白い糸、その端がベッドにつながれていた。
手足の状態が奇妙だった。両手を上方にあげており、足は左を胴体のほうに直角、右を左よりさらに曲げ110度曲折させた状態だった。それに左腰のあたりに直径5センチの赤黒点があった。
最も奇妙なのは、ナイフの柄尻に長さ1メートルの白い糸がついていた。その糸の柄から10センチの部分がパジャマを汚している血に触れて茶色に染まっていた。

*** 2) 警察の来訪

稚内署の大熊警部補、札幌署の牛越佐武郎部長刑事、尾崎刑事が到着する。

*** 3) 警察の捜査

警察から説明があり、次が明きらかとなる。
1) 犯人は、流氷館の住人、招待客に限定される可能性が高い。
2) 死亡推定時刻は昨夜の零時から零時半。降雪は昨夜11時半に止む。
3) 二つの砲丸のそれぞれは十文字に糸がかけられて、木の札がつけられている。7キログラムのほうの糸が1メートル48センチあった。
4) 犯人の動機が不明である。
5) クミが昨夜の異常な顔と男の声について話す。また、男の声を聞いたという金井夫婦、幸三郎、英子の証言を得る。
6) 日下から棒の証言を得る。

** 6) 図書室

*** 1) 建物の構造について説明する

尾崎が建物の構造について詳細に牛越らに説明する。
正式名は流氷館という。地下一階、地上三階の西洋館と斜塔から成る。この他、概要を説明し、部屋の所在、窓、入口、廊下について説明する。
1) 西洋館には15の部屋がある。建物を東と西に二分する。原則として各部分の各階は居住部分、吹抜け部分から成る。
2) 部屋には東側の三階の南側から1号室、北側を2号室、二階も同様に3号室、4号室と付番される。一階は5号室、つまりサロン、地下が6号室、7号室となる。西に移って、8号室から順次、降りて15号室に至る。
3) 東側は吹抜けが一階から上に抜ける。地下にはない。部屋の大きさは吹抜け部分と空間を分けあっている南側が小さく、それがない北側が大きい。
4) 西側は地下も含め各階とも居住部分、吹抜け部分に分けられる。部屋の大きさは既述どおり。
5) 部屋の使用目的は、既述の部屋割りにある。
6) 階段による移動について、二階は例外的である。東側のサロンから階段を経て二階踊り場に至るが、ここから二階階骨董品室、図書室に至る廊下は付設されていないので、移動できない。
この踊り場に付設された階段を経て、三階踊り場、廊下、一号室、二号室へと移動できる。斜塔にはこの踊り場に付設された階段を登り、さらに東面壁に付設された跳ね橋を倒し、斜塔にある部屋に至る。サロンから地下には直接移動できない。西側一階から移動するほかない。

*** 2) 部屋への移動

1) 西側における移動においても二階は例外的である。一階から階段を経て二階踊り場に至るがそこから十号室、十一号室に至る廊下は付設されていないので、移動できない。これは室外に出て、敷地西側に付設された階段によるほかない。
他方、迂遠であるがサロンから西側に移動し、階段を登って二階踊り場に至ると、そこの廊下を経て骨董品室と図書室に移動できる。二階踊り場から階段を経て八号室、九号室に移動できる。一階踊り場から地下の十四号室、十五号室に移動できる。
2) 奇妙な構造であるが、三階、二階の東側と西側を直接結ぶ廊下はない。一階に降りて移動するほかない。一階は可能である。地下は西側の吹抜けを経て可能である。
3) 骨董品室は「天狗の部屋」と呼ばれて、その南面壁には一面に天狗の面がかけられている。
4) 換気孔について、東側、西側とも吹抜けに面する壁に付設されている。位置は西側は南側の部屋については東面壁の南上の隅にある。北側の部屋については南面壁の東寄り上部にある。東側については、地下の部屋とサロンを除いて、西側と同じ位置である。地下については、西側吹抜けに面した壁面の然るべき位置にある。
5) 窓は原則的に外部に面している。三号室は例外で南面壁になく西面壁に窓がある。
6) 廊下あるいは踊り場が付設されているところがある。これの形状はすべて逆L字形である。この南端と南面壁との間に20センチの空隙がある。
尾崎と牛越との間でこの奇妙な構造を利用しての犯行が可能か検討されたが、とくに結論はなかった。

*** 3) 事情聴取

部屋に関係者が呼ばれ事情聴取される。質問事項は、1) 上田一哉との関係、2) アリバイ、3) 不審事項、である。
1) 日下、戸飼から、いずれもなし。
2) キクオカ・ベアリング組から、1)は若干あるが極めて希薄。2)は困難。3)について、金井から、怪人物騒動の後、部屋に戻る際に不審な人物は見なかった。
3) 英子から、1)はなし。2)は困難。3)は特にないが、寒さから目が覚めた。跳ね橋の開閉を確認したら、ちゃんと閉鎖されていなかったので閉鎖した。零時30分ころだろう。
4) 幸三郎から、1)は親しく話したことがある。軍隊経験者だから自衛隊の様子を聞きたいと思い、来訪時に尋いた。2)については、跳ね橋の開閉時には音が鳴り響くので10時半に部屋に入り、朝になるまで外に出なかったことは判るはず。3)は特にない。
5) 梶原、早川千賀子から、いずれもなし。
6) 早川康平から、いずれもなし。しかし、不審を感じた刑事たちの追求に成果はなかった。
大熊の提案から稚内署から応援を一人呼ぶこととなった。

* 第二幕

** 1) サロン

豪華なディナーが刑事を含めた一同に出された。食後の紅茶の後に英子のピアノ演奏が始まった。盛大な拍手で終了した時、英子がクミに演奏を慫慂した。それには悪意が感じられた。
応援の阿南巡査がやってきた。刑事たちの宿泊のため、部屋割りが変更された。十二号室戸飼が八号室に移動し、その十二号室に、大熊、阿南が宿泊する。牛越、尾崎が空室の十五号室に宿泊するといものであった。

*** 1) 幸三郎の菊岡への忠告

荒れ狂う吹雪を外に幸三郎と菊岡が話す。軍隊時代を思い出しませんかとの唐突な問いに、菊岡が、それには良い思い出がないと答える。さらに上田の怨念かなと吹雪を見る幸三郎が菊岡に睡眠薬をちゃと服用して就寝するよういう。最後に戸締りを厳重にするよういった。

** 2) 十四号室、菊岡栄吉の部屋

*** 1) すねるクミ

菊岡とクミがスケデュール打ち合わせと称して早々に部屋に籠った。英子の言葉に傷付いたクミが滞在を切り上げて早く帰りたいとすねている。なだめすかして機嫌をとる菊岡。そこに英子が登場した。慌てる二人に何か問題はないかと尋ねる。
クミにも話し掛け、嫌味を二つほどいってから、退出を促した。

** 3) 九号室、金井夫婦の部屋

吹雪の凄さに感激している金井に初江が突然怒りだす。英子の発言が体型を気にしている初江を深く傷つけたのである。さらに不満は発現し、金井の腰ぎんちゃくと称さられる卑屈な処世術に及ぶ。悪口が英子、クミから菊岡に及んだころ、菊岡本人がにこやかな顔を覗かせた。

*** 1) 菊岡、英子の来訪

みごとな豹変ぶりを示す初江は、次に顔を出した英子にも同様ににこやかであった。

** 4) 再びサロン

菊岡、金井夫婦、英子を除く人々はまだサロンにいた。荒れ狂う吹雪に部屋で一人になりたくないという気分だった。そうはいってもやがて大熊が部屋に戻った。

*** 1) 花壇設計の逸話

ディナーテーブルに戸飼と嘉彦が並んでかけ、その向いに日下が医学書を置いてかけている。戸飼が嘉彦に尋ねる。花壇の設計は幸三郎がやったものか。英子が加わり、全部自分でやった。あれこれ注文が多った。アルミホイールをもってこいというので、梶原のを借りてきたという。
クミが阿南に興味を示し話し掛けた。やがて強引にビリヤードに誘って始めた。幸三郎が戸飼、嘉彦、英子を従え、そこにやってくる。緊張する阿南に模範演技を見せる。

*** 2) ビリヤードの模範演技

尾崎は退出する。幸三郎が嘉彦と英子に、阿南は筋がいい。今夜は離れず十分にコーチしてあげなさいいう。牛越は大袈裟な幸三郎の態度に違和感を感じた。
幸三郎は牛越を自分の部屋に誘い、階段のところまで行き、気が変わって菊岡の部屋のドアの前に立った。ドアを叩いてみたがなかから応答がない。あきらめて二人は斜塔に登っていった。

** 5) 塔の幸三郎の部屋

*** 1) 牛越が同宿

吹雪は依然として吹きすさんでいる。幸三郎と牛越が斜塔の部屋でコニャックを飲む。牛越に同宿を求め、幸三郎が連絡のボタンを押す。下から登ってきた千賀子にその旨を知らせる。10時44分だった。2、3分後に英子が跳ね橋を閉鎖するよう幸三郎に頼んで降りていった。

** 6) サロン

翌朝、牛越と幸三郎は8時に起床する。風と降雪は止み、曇天だったが微かな朝日の光が見えた。9時過ぎ跳ね橋を降りるとき、牛越は母屋の東面壁に「コ」の字型の金属が縦一列に並んでいるのを認める。埋込み式の梯子だった。サロンには金井道男がいた。
大熊、尾崎がやってきた。初江、英子、クミと続く。玄関に車の停まる音がする。玄関の英子が思わず悲鳴のようなものをあげた。幸三郎が注文したしょうぶの花束だった。各部屋に花を配ることとなる。日下、戸飼が来る。

*** 1) 菊岡の殺害

午前11時5分前だった。英子が嘉彦を起しにゆく。阿南もやってきた。ここで菊岡がいないことが気になりだした。幸三郎が花の入った花瓶を持って部屋に向う。応答がない。緊張が走る。ついに斧で扉が開けられた。菊岡がナイフで殺害されている。幸三郎が思わず花瓶を落し、周囲に水滴が飛散した。

その状況は次のとおりである。
1) ドアの近くにソファ、テーブルが横倒
2) 菊岡がパジャマ姿で背中にナイフが刺さっている。
3) かなりの出血。血痕がベッドのシーツ、床にずり落ちた電気毛布、床の中央
4) ベッドは固定式、その他、動かされたものはない。
5) ドアには通常の鍵の他に上下にカンヌキが施錠
6) 死亡推定時刻は昨夜11時、その前後30分の範囲

*** 2) アリバイの確認

アリバイが確認される。
1) 日下、戸飼、嘉彦、早川夫婦、梶原、阿南はサロンいた。
2) 幸三郎は牛越と同宿
3) 英子、クミは在室。十四号室への移動はサロンを通るので不可能
4) 金井夫婦は在室。アリバイは困難だが動機が薄弱

** 7) 図書室

刑事たちが犯人捜しに智慧を絞る。

殆ど全員にアリバイがある。アリバイ工作を追求する必要がある。まず隠し扉、隠し棚はない。天井の仕掛けも認められないことを前提に考える。

*** 1) トリックの可能性

何かトリックは考えられないか
定刻にナイフが落下するような仕掛けはどうか。大きな落下速度が必要である。仕掛けに無理がある。
何処かに潜んでいる未知の人間が犯行に及ぶといのはどうか。幸三郎ないし英子との共犯関係が必要である。幸三郎とは仕事上の関係しか認められない。英子との関係も殆どない。共犯関係は無理がある。その他の共犯者も想定しにくい。

*** 2) 動機からの可能性

動機から追求できないか
早川に新たに動機の可能性が判明した。一人娘が交通事故死した。この娘が菊岡と愛人関係にあった。ただし愛人関係と事故死には直接の因果関係はない。
金井にも動機があるかもしれない。初江が菊岡の愛人であった。ただし、これは二十年も前の話し。現在、自分の後楯てとなっている。動機として薄弱である。
クミにも動機があるかもしれない。恨みが生じるような背景関係がない。現在享受している利益を失なう。動機はない。

*** 3) 今後の方向

1) 大熊は徹底した捜索による仕掛け、隠し部屋などの発見を主張する。
2) 尾崎は犯人は10号室、14号室に密室を作り出す他に、数々の工作を施している。この線からの追求を提案する。

10号室では、上田の手首につけられた紐、床の砲丸に付け加えれた糸。
14号室では、ソファ、テーブルを倒した。争った跡としての工作である。
14号の密室性は高い。換気孔の周囲、床に工作の跡はない。

*** 4) 10号室の宿題

尾崎が10号室の事件で棚上げの事実があるという。
1) 足跡がない。
2) 日下のいう二本の棒
3) 雪中に放置された人形の問題。25日の昼には三号室にちゃんとあったと確認された。話の途中で尾崎が三号室にいってきて、ゴーレムの右手首に白い糸が巻きつけられているのを発見したという。

*** 5) 換気孔の可能性を追求

食事を知らせにきた早川を牛越が一人娘のことを隠していたことを追求する。特段の成果はないが、合鍵がないこと、事前に部屋に忍びこんだ可能性がないことが判明する。
これで換気孔から釣ざお、細長いもの、改造銃、とにかく可能性のあるものを使い殺害する方法しかないとの結論となる。食事後に捜査、そのようなものがないと結論された。

*** 6) 最後に金井のアリバイの結論

尾崎は金井のアリバイについていう。部屋に戻った後、再度外には出なかったか確認のため、扉に髪の毛を付着させた。それがそのまま残っていたといった。

** 8) サロン

翌28日の平穏な朝がやってくる。捜査に進展がないまま夕食の場となる。牛越が重い口を開いて良い智慧がないかと尋く。

*** 1) 日下がドアのトリックを解き明かす

日下が十号室のトリックについていう。砲丸には紐が結ばれその先に木の札が着けられていた。この紐が犯人により長いものに替えられていた。あの錠の踏切の遮断機ふうに上下する金具をあらかじめ持ちあげて、支える恰好に木の札をセロテープでとめておく。そうして砲丸をドアのところに置いてドアを強く閉める。すると床の傾斜により坂下に転がり、紐につけられた木の札が剥がされる。これがトリックであるという。
さらにテーブルが倒れることにより錠前がかかるような仕組みを作ったのではないかと示唆するがたちまち尾崎がそのような大袈裟な仕組みは跡が残る。そのような痕跡は一切ないという。

** 9) 天狗の部屋

*** 1) クミの発見、ゴーレム

幸三郎が天狗の部屋に、クミ、金井夫婦、日下を案内する。
名前を書く少年、ティンパノンを奏でる伯爵夫人という人形付きのオルゴール、キリスト降誕場面のある時計、女神の鹿狩り、卓上の噴水、水撒き人形などを紹介する。南面壁には天狗の面が多数、鼻を突き出して並べてある。
初江が南面壁の右側、窓近くにあるゴーレムのところに行き、怪しげな微笑に見入る。元々、鉄棒ジャックと呼ばれていたがプラハの古道具屋の店主が、嵐の夜に一人で井戸端に降りて水を飲むといい、ユダヤ教伝説の人工人間の名前を取ってこうなったと幸三郎がいう。そこにクミも近寄ってきて、悲鳴とともにこの人形が吹雪の夜に目撃した怪人物だったといった。

** 10) サロン

クミの発言とその事実は翌30日朝、動機不詳のままそんなこともあるだろうと刑事たちの認めるところとなった。また、謎が増えた。

*** 1) 斜めに入ったナイフ

菊岡殺害のナイフの件が検討される。
1) ナイフが斜めに入っている
部屋に迎え入れた犯人の犯行でないか。それでは幸三郎のノックに答えていない菊岡が、いつ、どのようにして部屋に入れたのか。
2) ナイフは右側にない
右利き、左利きから犯人が絞れないか。

*** 2) ついに東京の一課に協力を求める

牛越は動機が不詳である以上、さらなる殺人が生じないと断言できない。面子を捨て東京の一課に応援を求めるといった。

* 第三幕

** 1) サロン

*** 1) 御手洗の登場

受けとった電報によると、占星術師御手洗潔が来訪するとあった。梅沢家鏖殺事件から御手洗の名前は知られていた。
御手洗、石岡を見る目は冷たかった。御手洗は早速演説を始めた。そして犯人はゴーレムであると宣言した。さらに演説は続いたが牛越が制止したので石岡の紹介をして終了した。

** 2) 天狗の部屋

*** 1) 服を着たゴーレム

紅茶の後、御手洗を天狗の部屋に案内する。ピエロをみて映画スルースのものと同じという。幸三郎はこの映画の影響もあり蒐集を始めたという。ゴーレムを見た御手洗が驚き、むき出しは不適切である。服を着せるようにいう。服のゴーレムを見て、帽子が足りないといいだし、梶原のテンガロン・ハットを借りて着せる。やっとこれで満足する。
二人に当てがわれた部屋は十号室だった。

** 3) 十五号室、刑事たちの部屋

*** 1) 御手洗の悪口をいう

その夜、呆れた刑事たちがさかんに御手洗の悪口をいった。

** 4) サロン

31日朝、御手洗が稚内署までの道順を阿南に尋ねる。サロンを出た御手洗と入れ換わりに幸三郎が来る。御手洗がゴーレムの首をもう一度鑑識にもってゆきたいというので刑事に断りをいう。

*** 1) 日下の殺害

午後、御手洗が長田という法医学者を連て戻ってくる。サロンの大時計が三時を知らせたとき、石岡、御手洗、刑事三人、阿南巡査、幸三郎、金井夫婦、嘉彦がサロンにいた。厨房には梶原がいた。突然、男の悲鳴が聞こえた。
御手洗が迷わず日下のいる十三号室のドアを叩いた。応答がない。合鍵も効かないので刑事たちがドアを破って入った。日下が倒れていた。まだ息があった。尾崎が必死に問いかけた。長田医師がそれを制止して、御手洗とともに日下を担架に載せた。そして病院に搬送された。
部屋の様子は、ドアは施錠され、二つの窓も閉鎖され、あらされ、細工された跡はまったくなかった。さらに換気孔はベニヤ板で塞がれていた。壁には次の文章が掲示されていた。
私は、浜本幸三郎に復讐する。近いうちにあなたは自分の最も大切なもの、すなわち生命を失う。
約一時間後、日下の死亡が知らされた。

*** 2) 梶原の遅れた証言

梶原が今になって菊岡殺害の午後11時ころ、シュウシュウという蛇の這うような音を聞いたと証言した。大熊が、もうたまらん、お手あげという。尾崎がこの家にとんでもない仕掛けがあるのではないかという。牛越がそうならば犯人は客の側になく、招待の側にいるといった。

** 5) 図書室

*** 1) 石岡が御手洗を大いに心配する

1月元旦、石岡と御手洗が図書館に閉じこもっている。石岡は日下殺害から御手洗の様子がおかしいと心配になる。天井を剥す音に立ち会はないのかと尋く。まったく関心を示さない。

石岡が見かねて次々と質問する。
1) 何を考えるべきか分かっているのか
分かってないという。
2) 日下が何故死んだのか
あれで仕方なかったという。
3) 自殺でなかったのか
そのほうがよかったのかもという。
4) 文章が下手だ
他に書きようがなかったという。
5) 何故復讐になるのか
そこが問題という。

英子とクミが登場し、英子が日下を誘惑したことを非難する。反発するクミとの間に聞くに耐えない口論が続くが、やがてクミが退去する。残った英子が二人の存在に気づく。非難する英子に御手洗が非常識な弁論をして、絶望的に怒らせる。石岡が大いに呆れる。

** 6) サロン

*** 1) 御手洗と幸三郎の会話、迎賓館

その夜の夕食後、刑事たちは無力感に苛まれぐちばかりが口をついた。幸三郎は、ここ数日で10歳も老けたようだ。しかし御手洗とリヒャルト・ワーグナーやそのパトロン、ルートビッヒ二世の話しとなり大いに盛り上がった。音楽から建築、都市計画へと話しが移り、御手洗はこの流氷館は迎賓館であるといった。

* 幕あい

** 1) ボヤ

1月1日の夜から幸三郎が、大熊と阿南に護衛されて十二号室に眠ることとなった。翌2日、牛越が石岡を尋ねてきたので、4つの疑問をぶつけた。
1) 上田の両手がV字にあがっている。その意味
2) 菊岡の背に立ったナイフが心臓のある左側でなく右側にあった理由
3) 上田殺しと菊岡殺しが一日も間をおかず、連続して起きた理由。もっと時間をおけば警備が手薄となったはず。
4) 階段の構造が特殊で、東側と西側の部屋の間の移動がサロンを経由しなければできない。これは間違いないのか。

*** 1) ゴーレムの首の帰還

3日、業者が入り修理作業が始まる。お昼頃、分析が終ったゴーレムの首が屆けられた。御手洗がそれに帽子を被せて三号室に戻した。

*** 2) 二号室のボヤ

3日午後、吹雪となった。夕食時、全員が揃ってテーブルについているところに、突然、わずかな白煙が降りてきた。御手洗が火事だといった。刑事たちが二号室に駆けつけボヤで消し止めた。英子のベッドに灯油が撒かれ燃えていた。

* 終幕

** 1) サロン西の階段の踊り場、すなわち十二号室のドア付近

*** 1) 不思議な明かり

嘉彦が八号室から降りてくる。その時、牛越は御手洗を尋ね十三号室にいるはずだった。他の者は菊岡殺害の夜と同じように一人の部屋に戻りたくない気分でサロンに残っている。嘉彦は天狗の部屋の前の廊下から一階に向う階段の途中で十号室の換気孔を見上げた。するとそこに明かりが見え、すぐ消えた。驚いた嘉彦はサロンの全員にそのことを知らせる。
牛越、御手洗も現場にきて、見上げる。この館の全員が集っている。どうしてそんなことが起きるのか。怪訝な顔の一同に梶原が、冷蔵庫にあったハムが少しなくなっているという。刑事たちは十号室を確認した。人の気配はなかったという。

*** 2) ゴーレムの顔

その騒ぎから1時間ばかり後にサロンから出た初江が部屋に戻ろうとする。薄暗い地階廊下に人影を見た。思わず見入る初江が見たものはあのゴーレムの顔だった。初江は自分の立てる悲鳴をまるで他人のもののように聞いていた。半信半疑の一同は三号室に向った。ゴーレムは相変わらず天狗の面で埋まった南面壁の前で廊下側の窓わくにもたれるようにすわっていた。
御手洗は勝ち誇ったようにゴーレムが犯人といたでしょうと繰返し、一同を十四号室に誘った。そこで謎解きをするという。

** 2) 十四号室

*** 1) 英子の異変

午前零時、御手洗は紅茶カップをかいがいしく英子に手渡した。犯人を一刻も早く知りたい一同にむけ、またゴーレムが犯人と繰返した。苦々しい雰囲気のなかで御手洗はアイヌの悲恋物語に登場する男女の怨念がゴーレムを動かしたという。
そこで突然、英子がくずおれた。御手洗が睡眠薬の効果といい、ベッドに寝かせる。うろたえる幸三郎が二号室に運ぶよう求めたが、燃えたベッドに気づく。次に換気孔を塞ぐよう求めた。静謐が必要という指摘になおも不満だったが、牛越が護衛をつけることとして納得させた。さらに牛越が一同に就寝を促し、部屋を退出した。

** 3) 天狗の部屋

*** 1) ゴーレムの告発

外は吹雪、寝静まった館内で三号室に怪しげな人影が動く。天狗の面を次々と壁からはずしてゆく。その背後にゴーレムが立つ。振り向いた人物の表情は恐怖で凍りつく。蛍光灯が点灯され、明かるくなった部屋には刑事たち全員がいた。現場を押えたとゴーレムがいう。
それは御手洗の変装であった。天狗の面をはずしたのは、それを利用して菊岡を殺害した。その事実を知っている犯人だからという。すべてを悟った幸三郎は、犯人は自分であると告白した。

** 4) サロン

サロンに、英子と阿南を除く全員が集まる。

*** 1) 上田殺しの動機

御手洗は動機の探求が最も困難だったという。上田殺しの動機は、練りに練った菊岡殺害の計画が無に帰す惧れがあったから殺害を決意したという。幸三郎が、自ら手をくだして殺害しなければならない義理があったという。
娘の葬式から帰ってきた早川から上田に菊岡殺害を依頼したことを聞き出した幸三郎は早川を通じ撤回を求めたが承服しなかったという。上田は母親を侮辱した菊岡を許せないとして殺害を決意していたという。

*** 2) 上田殺害の方法

御手洗は、幸三郎は殺害を決意し、次の菊岡殺害の導入となるように配慮したという。
幸三郎は、そのためナイフに糸をつけた。しかし、上田の右手首とベッドを紐でつないだのは、特別の理由はない。動顛の結果であるという。
自衛隊出身の上田殺害には、奸計をもちいたという。セーターの上にジャケットを着て部屋に向かった。このジャケットを上田に進呈すると申し出て、試着させた。予想どおり小さかったので脱がしにかかった。ボタンをはずして、襟を緩め肩から下にはずした。この瞬間に襟を下に引き、両腕を制した。ここでセーター右袖に隠したナイフで刺した。上田は不思議そうな顔をしていた。
犯行後、セーターの返り血をジャケットで隠して戻った。そのセーターは洋服ダンスの底の方にしまった。警察の捜査は幸三郎に遠慮し不徹底だったのでセーターは発見されなかった。
御手洗は、右手首に糸をつけたことは、犯人の侵入を意味し、自殺の可能性も消去した。次に殺人の謎を深めるかっこうの伏線となったという。

*** 3) ダイイング・メッセージ

さらに、半死半生の上田はダイイング・メッセージを残すことを考えた。両腕を上げ、手旗信号の「ハ」を両足で、「マ」を両足と血痕で示したという。

*** 4) 足跡のトリック

二本の棒は、屋根からの落雪を利用して足跡を消すための目印として設置した。二本が示す直線上を歩くと屋根からの落雪が足跡を消す。流氷館は傾むいているから軒下から2メートルの線上となるという。
バラバラにされた人形は落雪が利用できない場所に足跡を残さない工夫である。その上を歩く。階段は手すりに外からぶら下がるようにして足跡を残さない。勿論、犯行後屋根に登り、雪を落した。こうして足跡を残さないようにしたという。
首の処置について質問があった。そこから幸三郎が説明する。人形の体の上を歩き、目印の棒を抜き、ざっと足跡のついたところを平にならして家の中に帰ってきた。その時、首を持っていた。その首を三号室に返却して翌朝までどこかに潜んでいるつもりだったという。
まず跳ね橋のところに行き、埋め込みの梯子で屋上に登った。そこで足跡を消すため雪を落し、帰ろうとすると、英子が跳ね橋を閉鎖したことを発見した。困ったが業者が残していた3メートルのロープを使って一計を案じた。

*** 5) 怪人物の登場、男の大声

ロープを屋上南側の手すりに結びつける。クミの部屋の窓のところまで降り、ゴーレムの顔で驚かせる。クミが悲鳴をあげる。すぐ英子の部屋の窓のある北側の手すりに行く。ロープを結びつけてから、幸三郎が大声をあげる。そこで英子が窓を開けるが、誰もいないと判断し、そのまま放置して急ぎクミの部屋に行く。その瞬間に幸三郎が中に入りこむ。
この目論見どおり行くとは限らないことだが、英子の性格を熟知していたので可能性が高いと判断した。実際に成功したという。

*** 6) 菊岡殺し

次に菊岡殺しに移る。

*** 7) 凶器は

御手洗は凶器はナイフを埋めこんだつららであるという。この地方では1メートル以上のつららができる。糸の先にナイフを結びつけ、そこにつららを生成させる。これを冷蔵庫に保存しておく。

*** 8) 殺害の方法

殺害の方法は、流氷館のもつ奇妙な構造、それは幸三郎がこの館を建築したそもそもの目的であったが、それを巧妙に利用したものという。
つららが滑落中に横に飛び出さないようにするガイドが設けている。
1) 三号室と十四号室上部付近の南面壁と逆L字廊下の南端に設けられた20センチの間隙
2) 南に5度11分20秒傾むいた階段の踏面と南面壁
3) 天狗の部屋のお面から突き出た鼻
感嘆する一同に促され、幸三郎が天狗の面の位置、つららの大きさは実験を重ねて決めた。大きさは残存する氷が溶ける時間、あとに残る水痕も留意したという。

*** 9) 種々の配慮

犯行のに際に払われた種々の配慮が明きらかとなる。
1) 天狗の部屋の西面壁の窓、30センチの開放
2) ベッドは固定式で非常に狭いこと
3) 薄い電気毛布を用意したこと
4) 部屋に残存する氷を溶かすため、強めに暖房したこと

幸三郎が予想外の事があったという。
1) 暑がって毛布を剥いで寝ていたので直接ナイフが刺さった。
2) うつぶせであったので急所を外した。瀕死の状態で外部の助けを求めたが、警戒のあまりソファ、テーブルを立てていたため、なかで絶命した。これはなかで犯人と争った痕跡とみなされ、謎を一層深めた。

御手洗はクミの部屋にゴーレムの顔が覗いたことで跳ね橋を頻繁に利用している人間によるものと見当をつけた。犯行方法はすぐ分かった。犯人の目星もついたが抗弁されたときにその他の人物の可能性を否定できない。そこで犯人に犯行を告白するように追い込む必要があると考えたという。
最も大切なものを同じ方法で殺すと脅迫して時機を待つ。そして吹雪となる。この犯行はつららが滑るとき音を立てるので外で大きな音がしている必要がある。英子をうまく十四号室で眠らせる状況を作り幸三郎の動きを待つ。
犯行を防止するために幸三郎がどのよな手をうつか予想した。斜塔の上からつららを滑らすことは無理でも、脅迫者は三階の上の階段から勢いをつけて滑らすと考えるだろう。そこで幸三郎は天狗の面をはずすだろう。言い逃れの余地をなくすためには面をはずしている瞬間を押える必要がある。そこで御手洗はゴーレムに変装して待ち受けることとしたという。

*** 10) 十三号室の殺人

最後に十三号室の説明が求められた。日下が登場し、偽装殺人が明きらかとなったので殆どの謎は解消する。英子の部屋のボヤ、初江の見た幽霊、知らぬ間に食べられたハムなど。
御手洗の変装用のお面の作成は京都在住の名人に依頼し日下が御手洗に屆けた。

*** 11) 殺害の動機

御手洗が終始疑問としていた動機について幸三郎が説明する。
四十年前、村田発動機という町工場でナンバーツーとして働いていた。社長から信頼され行く行くは娘と結婚させ後継者とすると期待されてたと思う。そこに平本という政治家の次男坊でどうしようもないやくざな男が登場した。社長はこの男との縁談に大いに気持が動かされた。幸三郎は自分の利害を離れてこれを阻止しなければならないと思ったという。
その時、古い友人で野間という男が現われた。戦争で体を壊し痩せこけた彼の話しでは、彼は人間として許しがたい行為をしたかっての上官を追っていたという。ついに発見して隠しもっていた拳銃で打ち殺そうとしたら、この男は復員後すべてを失ない、死ぬことは救いである言い放った。そこでどうしても殺せなかったという。
幸三郎はその話しを聞き憤り、つい自分の不安を野間に話した。すると野間は自分はもう長くないのでその平本を殺す。そのかわりあのかっての上官が失なう物がたくさんできた時、殺してくれと持ちかけられた。幸三郎は悩んだ。ただ平本の死とい事実は残った。
幸三郎が町工場から現在の会社にまでのしあげたとき、かっての上官、菊岡も会社を興したのを聞いた。何事もなく過ぎていったところに妻の死が訪れた。それは若過ぎる死であった。衝撃とともに野本のあの世からの声を聞いた気持になった。ずっとせかされているようだった。現在、幸三郎は自分との約束をやっと果したという開放感があるという。

*** 12) 花壇の謎

最後に幸三郎が御手洗に花壇の謎が分かったか尋ねた。曖昧な返答の後、丘まで散歩しようと刑事たちを誘った。

** 5) 丘

*** 1) 首の折れた菊の花

一行は丘の頂上から流氷館の右にある斜塔を眺めた。朝日の輝きが去ったとき、花壇の模様が斜塔の円筒に写った。それは首の折れた菊の花であった。
御手洗が塔に傾斜があるから、この程度の高さの丘からでも模様が浮かびあがる。そうでなければヘリコプターからででも眺めないと見えないという。石岡は、これで菊岡の殺害を予告していたのかといった。

* エピローグ

機会があったので石岡は再度、流氷館の見える丘に一人立った。
御手洗の言葉を思い出す。早川は幸三郎の実験を手伝っていた。だから幸三郎の殺人を阻止するために上田に殺人を依頼したという。
幸三郎はまったく自分一人の行為として早川の名前を出さなかった。また早川もこの関わりを明かすことなく幸三郎を見送った。おそらく一人残される英子の行く末のため必要と考えたからだろうという。

(おわり)

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謎解き島田、眩暈 [島田荘司]

* はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

* 本文

*1 謎の文書

次のような内容であった。

** 1) 大字1

ぼくのまわりにはどくがいっぱいあって、きっとぼくはおとなになれないでしょう。

かおりおかあさんが、ぼくにすっぱいりんごというほんをかってくれました。

すっぱいのでだれもたべられないりんごが、からすのこどもたちがつっついて、なかのくろいたねが、じめんにおちました。やがて、なんねんかあとにりっぱなりんごのきになったというおはなしです。とてもおもしろかったてす。

かおりおかあさんは、さんじかんてれびをみせてくれます。そこではこまをつくっていました。かおりおかあさんがぼくのためにつくってくれました。ぼくは、はやくてがながくなってつくれるよになりたいです。

** 2) 中字1

ぼくはきょう10さいになりました。かおりお母さんがおしえてくれました。

ぼくは、ひらがなだけでなくかん字もだいぶおぼえました。かいたかん字をかおりお母さんにみせたらおどろいていました。ぼくはもっと本をよんでかん字をおぼえたいです。

きょうとてもこわいほんをよみました。

せんせいじゅつさつじんじけんです。それは六人の女のひとをころして、六分の一づつをくっつけてとってもきれいな女の人を一人つくるというおはなしです。むずかしいじゅんもんをとなえると生きかえるといいます。

お母さんにはなしたら、わたしがしんだらわたしの体をつかってせんせいじゅつさつじんじけんのような女の人をつくってねといいました。

ぼくはそのとおりやることをそうぞうして、ぞくぞくしました。

** 3) 中字2

ぼくはもう18歳になった。かおりお母さんがそう教えてくれた。

ぼくは、環境汚染、薬、ダイオキシン、農薬、農業の本を読でいる。日本の環境はひどく汚れている。

水道水の消毒のため塩素が使われる。これはやがてトリハロメタンに変化する。これがガンを引き起す。

だから水にとても興味がある。浴槽の栓を抜いたときにできる左巻きの渦をじっと眺めているのが好きだ。

** 4) 細字1

ぼくは鎌倉生まれ。旭屋架十郎という映画スターの一人息子で、21歳の今日まで父の加護のもとで何不自由なく育った。父は大スターである上に実業家である。ぼくは父が所有するこのマンションの4階、2LDKの一室に住んでいる。

父はめったに顔を見せないが、香織お母さんは毎日のように来てくれる。お母さんはとてもいい人だ。ぼくは両親に恵まれとても幸運だ。

国道をはさんで海に面したこのマンションからは江ノ島とその上の鉄塔が見える。マンションのどこからでも見える。4階の廊下の先の小窓からも見える。マンションの裏手には江の電が走っている。さらにその山手には、サーフボードショップ、ビーチという喫茶店、救急病院などが道沿にある。マンションの両隣には、焼肉レストランとシーフード・レストランがある。

ぼくは、父が与えてくれたこの環境をとても気に入っている。

** 5) 細字2

周囲のあらゆるものは毒で汚れている。食べ物には防腐剤、殺虫剤、合成着色料が施されている。

皮ごと食べてしまう猿に奇形の子供猿が増えているという日本のデータがある。かって、0.01%だった出現率が20%にも増加したという。

人間もこのようになってしまうのでないかと心配だ。香織さんに話をすると目を丸くするが、結局、平気でぱくぱく食べてしまう。

紅茶を飲むとき、レモンをスライスして茶碗に入れる。ぼくは嫌なので四つ折りスライス片の先っぽだけをつけようとする。うまくできないから香織さんがやってくれる。

香織さんは、そんな本ばかり読まないでもっと楽しい本を読みなさいという。そして、ここの海や空気は綺麗だという。そうでないといおうとしたが、やめた。みんなそんな大事なことを気にしないでいるから、空気や水がどうしようもないほど汚れてしまったのだ。

** 6) 細字3

ぼくの名前は三崎陶太。父は旭屋架十郎という有名な映画俳優である。正直いって、そのことが子供のころからとても苦痛だった。母は五つのとき死んだ。そうしたら父が身の回りの世話をする女の人をつけてくれた。

周りにはいつも綺麗な女性がいた。成長して下品な欲求にもめざめてきた。でも女の子にはあまり興味がない。珍しい話題を豊富にもっていたりすれば違っていたかもしれないが、鎌倉にはいない。むしろ男の子の方が好きだった。

香織さんは美人で性格のよい女性だ。そして楽天的だ。そんなところがとてもいい。ぼくが、1999年に世界が終わるって信じるか尋ねると、2000年も、2500年になっても、この世は存在していると答える。

一方、ぼくは固く信じている。たとえ存在していたとしても、その世界はずいぶん違っていると思う。人間は、何だか動物みたいになって、核で被爆して皮膚の色が黒く焦げただれている。太陽も雲のない日の真っ昼間でも輝かない。今みたいな春も薄ら寒い。薄気味悪い怪物が世界をうろついている。

そう信じているのに、そんな気分でずっといるのは寂しい。そばでそんなことはないと笑い飛ばしてくれる人がいると心が軽くなる。

** 7) 細字4

いつか香織さんが海は綺麗といったが、全然違う。

昭和40年代のなかば京浜・京葉工業地帯にはさまれた東京湾に水質汚濁事件が発生した。水銀を使う周辺工場の廃棄物不法投棄によるものである。川から流入する農薬の有機塩素系化学物質やPCBの汚染も広範囲に及んでいる。

海の汚染で引き起こされる現象は赤潮である。これは窒素やリンの栄養塩類が流入することで大量の植物プランクトンが発生し魚類が大量死するものである

空気の汚染も問題だ。昭和40年代後半、川崎市で公害病認定患者の自殺があい次いだ。昭和54年に埼玉医科大学の教授の研究発表、川崎市における犬肺の金属含有量と病理組織学的変化において、川崎市の家庭に住んで死んだ犬を解剖し肺の汚れを調べた結果をまとめたものである。調べた犬250匹のうち、9匹の肺から腫瘍が見つかり、4匹が肺ガンだったという。犬に責任はないのに可哀想なことだ。

** 8) 細字5

5月26日は大事件が発生した。地球が破滅に瀕した日だ。朝9時、いつもどおり香織さんが新聞をもってやって来た。北海道の父から電話があった。ロケは順調らしいが5月30日まで北海道は出られないという。

新聞で、梶原一騎が東京の愛宕署に傷害容疑で逮捕、国立予防衛生研究所技官が中央薬事審議会に提出された新薬承認申請の資料を他のライバル会社に横流しした容疑で逮捕されたことを知る。

*** 1) 赤鬼になった香織さん

ぼくは父主演のSF映画、「今日ですべてが終りだ」を知っているって香織さんに尋ねた。ここから異変が始まった。なんて子なのと叫んだら、香織さんは赤鬼になった。食卓の卵焼きをぼくの顔にぶつけ、床に倒れた。

そこに、男の人、秘書の加鳥さんがやってきた。陶太君、こんなところに押し込められてどうしたの、と尋いてきた。香織さんに気付いて近付くと、さわらないで、気持が悪い、といって、二人は掴み合いになった。

*** 2) 強盗の出現

そこに、口をマスクで隠し、顔全体はストッキングを被った強盗がやってきた。加鳥さんは香織さんから離れた。銃弾が発射された。香織さんは台所からもってきた包丁で切りつけた。加鳥さんは電話台で反撃し、強盗の覆面に手を伸ばした。香織さんが背後から刺した。銃弾が発射、ピーンという金属音が響いた。加鳥さんが包丁で香織さんを刺した。強盗はその背中を撃った。加鳥さんは絶命した。

強盗は催眠スプレーをぼくに吹き掛け、何も盗らず逃走した。あとには、加鳥さんの死体、瀕死の香織さん、ぐにゃりと曲った包丁が残った。

*** 3) 助けを求める

助けを呼ぶため、119に電話した。無意味な数字が読み上げられた。父の家、友人の家にもした。無駄だった。廊下に出た。小窓から江ノ島を見たが、鉄塔が消えていた。

1階のロビーでは半ズボンの上にまわしをつけた男が相撲をとっていた。まわりの男たちに助けを求めたが怪訝な顔と爆笑が返ってきた。

*** 4) 世界が壊れかかる

好天のなか太陽が輝いていたが、今日は何故か小さかった。

国道に向った。巨大なウサギがサンダルを履いていた。駐車場の車はすべて真っ黒だった。もう一度江ノ島を見た。鉄塔がやはり消えていた。背後のマンション全体が黒ずんで汚れていた。

江の電の線路に向った。途中の舗装が剥れ土がむき出しになっていた。商店街のサーフボードショップ、喫茶店、救急病院も消えていた。瓦礫の小山の間にバラックが並んでいた。戸口脇の板塀にトカゲの絵を描いた家があった。老人にすいません、ここにあった病院は知りませんか、と尋ねたがまったく反応がなかった。ぼくはこの世界では透明人間だ。

太陽がみるみる死んでゆく。風が冷える。世界は今日から氷河期に入るのだ。胸のポケットの懐中時計は11時5分前だった。林のほうに向かう。店の屋根の看板に、ヤマハ、その隣りに、サンヨーという文字が読める。林の奥に入った。恐竜が出現してぼくの左腕を食いちぎった。逃走した。

これまで見たこともないほど痩せた人間に出会った。ここで何があったのですかと尋ねた。突然無意味な数字が口から飛び出してきた。バラックから不思議な人影が出てきた。体は人間、頭は豚、狐、鰐、鼠、猫だった。

この世界は壊れかけている。中央分離帯もある広い道路には人も車も見えない。たまに走ってくる車はポンコツである。大きなビルディングも廃墟だ。

*** 5) 両性具有者の復活

ぼくはマンションに帰ることにした。石岡和己の占星術殺人事件の実験を行なう。

部屋のダイニングルームには二体の死体が横たわっていた。下駄箱からノコギリをもってきた。香織さんの下腹部に刺さった包丁を抜いた。二人の衣服を脱がせた。香織さんの胸は小さかった。

二人の死体を浴室に運んだ。ここで体を洗浄した。香織さんの死体を切断し、下半身、上半身を隣の脱衣場に運んだ。加鳥さんの切断に取り掛かったとき、臭気に耐えられなくなった。脱衣場にある換気扇のスイッチを押すため移動したが、疲れで足がもつれて、転倒、失神した。

** 9) 細字6

意識が戻ってやっと換気ができた。元気が回復したので加鳥さんの切断を完了した。そこで、ダイニングルームで休憩をとった。もう夜になっていた。

香織さんの上半身をソファベッドに載せた。続いて加鳥さんの下半身を運こび、二つを繋き合せて、ベッドの上に座らせた。両性具有の体が完成した。占星術殺人事件の教えるとおり、死者復活の儀式を行なった。呪文を何度も唱えた。

** 10) 細字7

ぼくは、ベッドの上で占星術殺人事件の本を発見した。昨日のことを回想して、なんてすごいことをしたんだろうと思った。

隣の加鳥さんがぴくりと動いた。ぼくはそれを見ることはできなかった。加鳥さんはぼくが頭から被っていた毛布をはがした。そして、ありがとうと、陶太君といって、左頬に接吻。部屋を出ていった。

* ふたたび警告

この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


眩暈 (講談社文庫)

眩暈 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1995/10/04
  • メディア: 文庫



* 2 事件の発端、1992年の春

馬車道の事務所に来訪した東大理学部化学科教授の古井の話を聞く。

御手洗と前置きのように化学分野研究動向を話あった後、面白さに惹かれて奇怪な内容の一文を印刷したとして御手洗に提示し、感想を尋ねる。

古井研究室に野辺修という才能はあるが問題の多い変わった学生がいた。突然失踪したので抽出を整理していたら発見したものが原典であるという。

古井は、この作を狂人の作として、その妥当性を主張し、御手洗は常人の作として、その妥当性を主張するというゲームをやろうという。合意が成立してゲームが始まる。

古井は、次の26点をあげて、非常識な点を指摘し、それらがもたらすイメージ、その心理分析を試みる。
1) 咀嚼によって栄養分を摂りたくないとの主張
2) 占星術殺人事件への偏愛
3) 20世紀終末説の信奉
4) 「今日ですべてが終わりだ」の映画の影響
5) 一種のエディプスコンプレックス、香織の豹変
6) ストッキングの下に白いマスクまでしていたという特異な変装の強盗
7) 加鳥が狙われたのに香織が死んだという不可解な殺人
8) 加鳥に銃を向け、筆記者には殺虫剤のスプレーを向けている。
9) 外的世界に出たとき通行人から弓で射たれている。
10) 電話から返ってきた数字の羅列
11) 江ノ島の鉄塔の消滅
12) 玄関ロビーでの相撲の出現
13) 外で出あう汚れたポロシャツを着た巨大なウサギ
14) ひび割れ雑草が生えた湘南の国道
15) マンション裏手の江の電の消滅
16) 裏手の商店街のまずしいバラックへの変貌
17) バラックの街路のゴーストタウン化
18) 二本足で歩く動物の横行
19) 救急病院のバラックへの変貌
20) 目前の陶太を認知し得ない老いた医師
21) 11時5分前なのに太陽が消滅、世界中が闇化
22) 恐竜の登場
23) 頭蓋骨の様子が判るほど痩せた男の登場
24) マンション自室における男女死体への蛮行
25) 呪文により蘇える上半身女、下半身男の死体

御手洗は、その妥当性を主張する根拠として次の15の点を示した。

1) 「すっぱいりんご」の暗喩。御手洗はこれは筆記者が古井を使って自分に挑戦してきたと考えてよいという。
2) 左巻きの渦を眺めているのが好きである。
3) 環境汚染などの技術的記述とこの分野の技術発展を照合するとき、矛盾のない的確さがあること、時期が推測できること。
4) レモンを絞ろとしたとき、主人公に代わてやるという香織の記述
5) 「今日で云々」を契機とした香織の豹変は真の姿を露呈したもの。
6) 香織お母さんの胸がずいぶん小さかったとの記述
7) 倒れた香織を助け起そうとした加鳥へ発せられた香織の言葉、「さわらないでよ!」
8) 車、マンション外壁、都市における黒ずみ
9) 数字の羅列という反応と街にあるヤマハ、サンヨーの文字という両者の記述にある矛盾する性格
10) 1983年5月26日の11時前後の太陽の消滅、劇画作家梶原一騎の傷害事件と国立予防衛生研究所技官による新薬ノウハウ漏洩事件の記述にある具体性
11) 21歳の青年が懐中時計を持っているとい不審さ
12) 怪獣に左手を食いちぎらて時計が壊れなかったという偶然
13) エレヴェーターの中のボタンに「閉」と書かれている事実
14) 妄想とは思えない死体切断の記述の詳細さ
15) 死体切断後に主人公が顔を洗う場面で渦が右巻きという記述

古井は、心理分析や脳科学の立場からの解釈を示す。御手洗は反論にたいし、すべて事実として説明しうると主張し、概ね次のごとく反論した。

1) 旭屋架十郎は愛人香織のため、秘書、加鳥の殺害を企図した。不在証明に肢体不自由の息子三崎陶太を利用することにした。
2) ところが、香織が陶太の発言、「今日ですべてが終わりだ」にたいし、架十郎の映画の題名とは知らず、陶太が計画を知っていて、皮肉を言ったと誤解し、極度の緊張のなか、狂気を発した。このため計画に数々の齟齬を来した。
3) 陶太はサリドマイドによる不幸な奇形児であり、義手を使っていた。
4) 不在証明は、5月26日北海道でロケに参加していたという事実である。

その他、今、具体的説明ができないものもおいおい調査の進展により明きらかとなるという。

甲論乙駁の後、御手洗は明後日、東大でさらに説明をしたいと申し入れ、了承を得て別れた。

御手洗は石岡に、旭屋架十郎、その息子、息子が住んでいたマンションを明日から現地を訪問し調査するよう求めた。

* 3 鎌倉、稲村が崎(1)

1989年、ハイム稲村が崎五階の502号室で松村賢策の通夜が營まれた。そこに不思議な青年が弔問に訪れた。

* 4 謎解き、ハイム稲村が崎へ

石岡が戸部署の丹下警部に旭屋架十郎、その家族、関係者について調査を依頼する。

石岡が江の電から稲村が崎駅に向う。それらしきマンションを発見し、記述の正確さを確認する。老管理人に三崎陶太の居住と、旭屋架十郎の所有を尋ねるが言下に否定される。

隣接のシーフード・レストランから丹下警部に連絡する。身元調査の結果を聞く。旭屋架十郎はまだ存命であるが、人前に顔を出すことはなくなっている。

御手洗の指示のとおり、なんとかマンションに潜入し、各階の居住者の名前を記録し、4階の住人を尋ね、1983年5月、6月の何か不審な出来事はなかったか確認した。

1) ハイム稲村が崎
2) エレベータのボタンは、8まで。
3) 4階に三崎の名前はない。
4) 住人の居住開始は、1984年以降である。
5) 屋内にエレベータの他に螺旋階段が8階から4階までと、3階から1階まで付設されているが、4階から3階には直結していない。屋外に付設されている階段を利用する構造となっている。
6) 1984年から85年にかけて改修工事が行なわれ、以前の住民は退去し、新住民が入居した。
7) 海側にベランダをもつ居室が並び、それを山側の廊下が繋ぐ
8) 幽霊マンションという噂がある。

*5 旭屋御殿へ

鎌倉、鎌倉山にある旭屋御殿に行く。門が開かれベンツが出る。女性の運転手に三崎陶太について尋くが拒否される。

そこで講談社雑誌記者藤谷に声を掛けられる。
女性は旭屋架十郎の内縁の妻、香織という。
案内により近くの建物の屋上から御殿を望む。

5枚の写真を貰う。そこには車椅子に乗った老人が写っていた。

*6 御手洗へ報告

帰宅後、横浜、馬車道で御手洗に報告する。

御手洗は、香織の生存情報にかかわらず、まだまだ多くの興味深い謎があるとへこたれない。

マンションについて次のとおり。

1) ハイム稲村が崎について、海に面して潮風がたっぷり吹くのに、各部屋には乾燥機が造りつけで置いてあること、
2) 同じく、ベランダには物干し用のビニール紐が渡せないような構造、
3) 同じく、階段の奇妙な構造、
4) 異常に張り切る老管理人、
5) 83年までの住民の証言、

旭屋御殿について次のとおり。

1) 姿の見えない加鳥の動向、
2) 両性具有者、
3) 異常に老けこんだ旭屋架十郎、
4) 隠遁生活の理由

*7 東大へ

石岡が東京文京区の東大解剖学教室で標本の陳列を見る。
気分が悪くなる。

*8 東大で、謎解き

倒れた石岡は、御手洗により発見され、管理人室のベッドに寝かされる。回復した石岡を伴ない、御手洗、古井、石岡は東大の学食で昼食を取る。

御手洗の提案で図書館に行く。そこで御手洗が謎解きを始める。

1) 旭屋架十郎は沢山のマンションを日本各地、インドネシアにもっていた。三崎陶太はハイム稲村が崎と構造がまったく同一のそのマンションにいて事件に遭遇した。そのため奇怪と見える事実が次々と発生したと説明する。

a) 渦が左巻きと、右巻きの記述が混在すること
b) 世界が闇に入ったこと。
c) 江ノ島から鉄塔が消滅したこと
d) 黒い男が道を歩いていたこと、
e) 湘南国道がひび割れたこと、
f) 商店街、救急病院が消滅したこと

2) 事件は、1983年6月11日、皆既日食があった日に発生した。

3) 5月26日は不在証明からの偽装である。梶原一騎の事件、国立予防衛生研究所技官の事件から5月26日が1983年と確定できるが、稲村が崎のその日の天候は曇天であり、上天気ではない。

大胆な結論についてゆけない石岡に御手洗が補足説明する。

古井は、事件がインドネシアとの主張にたいし反論する。

1) 稲村が崎のマンションで香織母さんと陶太は10歳以前から共に生活している。21歳の陶太は周囲の稲村が崎を散歩している。
2) どこにも、インドネシアに移送されたとの言及がない。これだけの出来事にまったく言及がないのは不合理である。

御手洗もこの点は認める。さらに、5月26日への偽装は十分に可能という。

1) 陶太の文章を根拠にした判断である。
2) 旭屋架十郎と香織の共謀があれば、3時間と視聴時間を制限されたテレビ、毎日屆けられる新聞への工作から偽装は十分に可能である。

御手洗は、83年6月11日まで、陶太は部屋を一歩も出られない状態であったと推断する。

通常の生活をする生身の人間を周囲から切り離して時間を1月も遅らせられるのか不審がる古井の発言に、一瞬沈黙した御手洗は突然天啓を得たように、インドネシアのマンションを訪問すると宣言する。

最後に何故、南半球のインドネシアに思いが及んだのかとの質問に文中の渦の向きに言及して、北半球の台風は左巻きだが、南半球のサイクロンは右巻きとの事実を付言した。

*9 さらにジャカルタへ

雑誌記者藤谷から、旭屋架十郎がジャカルタにマンションを持っていた。現在は現地の日本企業の所有となっているという。御手洗と石岡が現地に向った。

ジャカルタには日本車が溢れていた。その車の多くは薄汚れ、なかにはポンコツ寸前のものもあった。ヤマハ、サンヨー、トヨタなど日本企業の名前が至る所で見られた。黒く日に焼け痩せた男など、陶太の文章にあった記述がここにあることを次々に目撃できた。

マンションは、アンチョール公園のそばに所在していた。

1) ハイム稲村が崎と外観は全く同一である。
2) かなり汚れていて、タイルがあちこと剥がれ落ちていた。
3) 駐車場の車は全て日本車、真っ黒く汚れていた。
4) 道はひび割れ、商店街のかわりにこんもりした森があった。
5) 稲村が崎と同じく、前には海があり、沖に江ノ島に似た島があった。
7) 違うところもある。ベランダに洗濯物が翻っていた。
8) 部屋も文書の記述に照応するものだった。
8) ロビーでは、日本の土俵のようなものが作られ、そこで毎日、裸の男たちによる相撲が行なわれている。これは、インドネシアでの思わぬ相撲人気である。旭屋架十郎時代からの引き継ぎである。

インドネシアでは皆既日食の日に太陽を見てはならないとの政府からの告知があったという。そのためか人々はこの日にウサギ、ブタなどのマスクをしてお祭り騒ぎをしたそうである。

近くの商店街に出た。その一つの店の前に全盲で聴力も衰えた老人がいた。陶太が透明人間のように何の反応も示さなっかた老人だった。

アンチョール公園の中に芸術家が集まった村がある。そこに飼育されているコモドドラゴンを発見した。これは巨大なトカゲである。初めて目撃した陶太が恐竜と誤解したのも無理はない。

*10 鎌倉、稲村が崎(2)

1989年6月2日、ハイム稲村が崎、602号の住人、松村賢策は泥酔して深夜帰宅した。エレベータに乗って行き先のボタンを押すがうまくゆかない。あわてて押し直すがまた失敗する。散々押して、気が付いた。4のボタンがあった。このマンションはオーナーが嫌っているので4階という名称の階がない。従って、4のボタンもないはずである。

混乱した頭のまま、エレベーターが停止した。見ると向こうの壁に4Fという標示がある。思わずエレベーターを出ると、たびたび聞こえてくる音楽が響いている。歩くと綿埃が舞い上がる。異臭もする。後の音に振り向くとエレベーターの扉が閉まっていった。それを止めようとしたが無駄った。廊下側の扉はガラス製でっあた。箱側の扉が閉まり、ゆっくりと降下していった。そこに暗闇がのぞいた。

エレベーターを止めようとボタンを捜したがあるはずのものがない。階段を使おうと思った。小走りでその場所にいったがなかった。あらためて確かめたが、この階には他の階にある壁の小窓もなかった。エレベーターが上下する音がするときに叫んだが止まってくれなかった。

気が付くとエレベーターの前に奇怪な透明の筒のような物体があった。その台上に銀髪の小さな頭が載っていた。唐突に言葉を喋った。「18675」と聞こえた。

*11 旭屋架十郎の秘密

横浜、馬車道で、来訪した藤島から、御手洗、石岡が調査の結果を聞く。

1) 旭屋架十郎は、1983年4月から5月末日まで北海道に映画のロケに準主役として参加、人に知られず、現場を抜けることは不可能である。

2) 香織は、本名、河内香織。兵庫県の男鹿島出身、天涯孤独。旭屋演劇学校の80年度卒業生、一時、スターとして活躍したが、旭屋架十郎の内縁の妻となる。

3) 加鳥は、本名、加鳥猛。島根県美濃郡芋原村出身、天涯孤独の身。旭屋演劇学校の71年度卒業生、まったく売れず、旭屋架十郎の秘書となる。独身、鎌倉の極楽寺に豪邸を所有。83年以来行方不明。

4) 旭屋架十郎の事業の盛衰について、82年に演劇学校を閉鎖、84年に芸能プロダクション部門も閉鎖。旭屋個人と芸能界と殆ど関係のない不動産部門のみに縮小して現在に至る。

5) この縮小に際して、大量の人員を解雇。事業、不動産の整理により捻出した資金により退職金に充当する。この整理には香織が直接、芸能プロダクションに乗り込んで行なったという。

御手洗は、加鳥と旭屋架十郎はただならぬ関係にあった。その関係で加鳥は極楽寺の豪邸を手に入れた。香織はこれに強く反発して、結局、香織と旭屋架十郎が共謀し、加鳥の殺害を図ったとの説を再度述べた。

御手洗は、83年当時、旭屋架十郎は入院騒ぎを起していないかと尋ねた。ないとの藤谷の返答に、神奈川県下の看護師養成学校に次のようなアルバイト募集がなかったか調査を依頼した。

1) 身長...センチメートル、体重...キログラム程度
2) 運転免許を所持
3) 容姿端麗な女性
4) 仕事は、通ってきて読書をするだけの簡単なもの。
5) 6月12日から13日まで。
6) 高額をはずむ。

*12 鎌倉、稲村が崎(3)

1989年6月2日、松村は生首の載った奇怪な円筒を擦り抜け、手近なドアから室内に入った。暗い室内の隅に裸の人物が座っていた。骨と皮だけに痩せこけ、素っ裸、髪はリーゼント、胸にひからびた二つの乳房、下腹部には男性器がついていた。

かすれた声でつぶやいた。この家、私の姿、あなたは、見てはいけないものを見たという。松村は衝撃の余り恐怖に駆られて、悲鳴をあげ、ベランダの方に走った。

*13 旭屋御殿の詳細

横浜中華街で御手洗、石岡、藤谷が会食した。
藤谷の報告を聞く。

1) 旭屋御殿が27億円で売りに出されている。
2) ハイム稲村が崎の売却の情報はない。
3) 御手洗が示唆した募集広告は1983年5月に発送されていた。
4) これに鎌倉市雪の下の鎌倉看護学院の学生、野辺喬子が応募した。喬子は北海道天塩郡幌延町出身、昭和39年生れである。

さらに、たまたま、ハイム稲村が崎の住人の奇妙な自殺事件を聞き込んだという。彼は、1992年6月2日に屋上から飛び降りた。原因はノローゼらしいという。しかし、このマンション8階の住人がそのとき偶々屋上にゆこうとして、施錠されていたと言い出した。すると、屋上以外の階からとなるが、調査の結果、その可能性が極めて低いという。

御手洗は、これは自殺ではない。ハイム稲村が崎を実地検分する必要があるという。しかしその前にまず野辺喬子の出身地である北海道に飛ぶと宣言した。

*14 北海道へ

1992年4月、藤谷、石岡、御手洗が北海道へ向かう機内で会話する。

旭屋架十郎はエイズとの話がある。これに御手洗はまったく反応しなかった。

84年の入居者が、階数の標示について、当時は4階という呼び名がなかったが、89年6月2日から502号室を402号室と呼ぶように、実感に沿う方式に変更したという。これには御手洗はすぐ反応した。

旭川から鉄路で幌延に向った。人口2000人の町に一つしかないホテル、北斗荘に投宿した。

*15 北海道で調査

北海道、天塩郡、タクシーで出身高校の天塩高校に行き、担任から友人、船江美保のことを知る。野辺喬子の家を尋ねたが廃屋となっていた。

その後、結婚した美保の家を尋ねる。美容院と喫茶店を経営していた。御手洗が喬子は旭屋架十郎と結婚する話があると切り出し、美保の話を聞く。さらに、84年に父親を引き取るためこの地を再訪した筈と述べる。

美保は、その時、すっかり綺麗になった喬子に会ったという。喬子はレンタカーでやってきた。自宅を整理し父親を連れて行くという。そのとき、彼女から高価なレコード、ティカップ、服などをもらったという。その後は音信普通の状態という。

御手洗は、根気良く話を聞き出そうとした別れ際に、突然、喬子と二人で廃品を処分しようとしたときのことを思い出す。裏のドラム缶が山積しているところに登っていって思わず足を滑らした喬子は、頭を打って暫く失神したという。慌てて抱き起すと、喬子はなにか譫言で数字を繰替えしていた。

驚愕の出来事なので、その数字を喬子からもらったポーの作品、アッシャー家の崩壊の本にメモしたとして、御手洗に見せてくれた。それは、「187654」の数字だった。

*16 ハイム稲村が崎の部屋へ

92年5月1日午後、小雨、ハイム稲村が崎の裏にある喫茶、ビーチを御手洗、石岡、藤谷が訪れ、マスター金子から話を聞く。金子は8階の住人である。

金子に引越しの事情を尋ねているときに、藤谷に連絡が入った。香織が旭屋御殿から急に車で飛び出したため、衝突事故を起した。茅ヶ崎総合病院に搬送されたという。

三人はすぐ、ハイム稲村が崎に急行する。玄関で管理人に制止されたとき、御手洗はいう。野辺久蔵さん、事故を起して野辺喬子が茅ヶ崎総合病院に搬送された。すぐ病院に向うよう助言して、そのままエレベーターに向った。

御手洗はエレベーターのボタンを、1、8、7、6、5、4と押したが、目的の階に到着しなかった。呆然として、雷鳴が時々轟く屋外に佇み、暫く考えていた。御手洗は高笑の後、戻り、再度エレベーターのボタンを押す。1、7、6、5、4、8と。開いた扉の向うに4Fとの標示が見えた。

** 1) 異様な4階の状況

石岡は廊下に出て、他の階にはない異様さを感じた。それは、

1)異臭
まず奇妙な臭い、何の臭いだろうと不審さが募った。
2)闇
エレベーターの透明の扉から漏れる明りがなくなるとまったくの闇となる。
3)汚れ
しみだらけの壁、剥離した壁紙、一面綿埃の床、さらに木片、セメント破砕物の散乱

であった。

御手洗の指差す方向に糸のような光が漏れている。バータイプの扉をゆっくりと引き開ける。室内には照明が点灯されておらず外光のみであった。開放されたベランダ側から聞こえる雨音、雷鳴。幻想的な光景であった。

室内の右側壁にはマントルピース、大理石の飾り棚、その上の褐色のランプシェードをもつ大型電気スタンド、マントルピースの前にロココ調の家具。どれも汚れ、破れがみえて没落貴族の館のサロンの風情だった。

音楽が聞こえる方向、左側の部屋に入る。窓脇に古い米映画に出てくるようなジュークボックスがっあた。目が慣れて奇怪なものが見える。透明の筒の上に丸い台、その上に銀髪を振り乱した、しわの勝った老人の顔があった。しっかり閉じられた瞼、唇の端の白い泡、頸を支える左右のステー。透明な円筒の中には黒い着衣の老人の体、筒の真ん中の高さに小円形のスピーカー、円筒の裾には数本のアーム、キャスターが付設されていた。これで自由に移動できるようになっていた。ここはベッドルームだった。

石岡が小声で尋ねる。誰か。そこに男、野辺修が入ってきていう。彼はもう死んでいる。野辺修の傍らに車椅子の男がやってくる。藤谷たちが撮影した写真の旭屋架十郎であった。御手洗がいう。三崎陶太だ。円筒の男が旭屋架十郎であり、たった今、死んだという。

*17 犯人と対決、解決

最初の部屋に戻る。野辺が一人用椅子の腰掛け、その横に車椅子の陶太が控える。石岡と藤谷がマントルピースの前にある二人用ソファーに腰掛ける。御手洗が一人用椅子に腰掛け、小卓を挟んで野辺とう向き合う。

** 1) 事件の解説

御手洗が事件を語る。

1) 旭屋架十郎と加鳥はただならぬ関係にあった。度重なる脅迫についに、架十郎は香織と共謀した殺害を企図した。

** 2) 陶太の行動

1) サリドマイド児の陶太は、父と離れハイム稲村が崎の4階に事件が発生するまで住んでいた。香織が部屋に通ってきて身の回りの世話をしていた。その当時は4階が普通に存在していた。陶太は事故により一時的に昏睡状態に陥った。

2) 陶太はハイム稲村に戻った。架十郎は意識の戻ってないまま自家用ジェット機でジャカルタに所有するマンションにさらに搬送した。他方、陶太の搬送を隠蔽する偽装工作として、香織の代わりを見つけた。それは鎌倉看護学院の学生の野辺喬子であった。

3) 事件発生後、陶太は町を彷徨して、やがてマンションに戻り、加鳥と香織の体を切断した後、金銭、パスポート、自分が綴っていた日記を携行して帰国、ハイム稲村が崎に帰還した。そこで喬子と遭遇し、事情を聞き、事件の全容を理解する。この間に二人の親密な関係は進み、恋人同志となった。

4) 架十郎の当初の計画を述べる。架十郎は海外にもマンションを所有していたこと、ジェット機を所有し、パイロットの免許を所持していたこと、陶太の昏睡は一時的であり遠からず回復すると見込まれたことを踏まえ、今回の破天荒な計画となった。

** 3) 偽装工作

次の偽装工作が必要である。

1) ジャカルタのマンションを稲村が崎のものと偽装する。
2) 6月11日を、北海道ロケ中の5月26日と偽装する。
3) このため、ジャカルタのマンションで、TV番組を見せ、毎日、新聞を屆けさせることにより陶太にこのことを誤認させる。

計画の目的、加鳥の殺害と不在証明である。

1) 架十郎は強盗に扮し、インドネシアに呼び寄せた加鳥を殺害する。
2) それを目撃した陶太を、薬で一時的に昏睡状態に陥れ、死体の加鳥とともに帰国、ハイム稲村が崎に戻す。
3) 香織が警察に屆け出る。
4) 陶太から証言を得る。

** 4) 杜撰な計画

殺害が計画どおり成功したとして、もし警察がパスポートを調査すれば渡航記録から偽装が発覚する。あるいは、加鳥の死体から月日の偽装が発覚する。さらに、2週間も遅れて通報することを問題視されるなど、最終的な成功はおぼつかない杜撰な計画といわざるを得ない。

** 5) 架十郎の自殺未遂

計画に事故が発生、最愛の愛人、香織を失なった架十郎は、しばし茫然自失の後、マンションに戻り、混乱の極みにあった部屋を片付け、帰国し、ハイム稲村が崎に息子、陶太と、香織に似た喬子を発見した。安堵感、愛人を失なっという喪失感、破天荒な計画の失敗からくる昏迷から、架十郎はベランダから投身自殺を図った。

ところが、下には、香織使用のベンツが駐車していた。映画スターの自殺未遂がニュースにならなかった以上、このような偶然が生じたといわざる得ない。喬子は陶太とともにすぐ現場に駆け付け、部屋に搬送するとともに、医師の兄、野辺修を呼んだ。

病院に搬送しなかったのは、喬子が本能的にこの事件により自分と父親の運命を変えられる可能性を感じたからである。修は東大に通いながら治療に最大の努力を尽した。事故からくる傷害は重大であった。両腕の切断、背骨、骨盤の損傷、長い寝た切り生活からくる筋力の低下、頭部の姿勢維持の不可などである。

そのため修は歩行器兼コルセットという奇怪な透明円筒を架十郎のため作り上げた。

** 6) 計画の破綻と対応

架十郎と香織の計画の目的が失敗し、その後に続く架十郎の自殺未遂、それの事後処理が、それまで殆ど無関係であった三人の男女を一つに集めた。それぞれの必要から離れることのできない一つの運命共同体として機能することとなった。

ここでまず問題となったのは、架十郎をどうして世間から、あるいは旭屋芸能プロから隔離するかである。

1) 世間からの隔離

公表は、複数の愛人とのただれた痴情関係、両腕喪失の映画スター、サリドマイド児の息子など、世間の好奇の目を喜ばせ、三人に何の利益もない。秘密を厳守し、架十郎はハイム稲村が崎の4階に移し、旭屋御殿には、架十郎に扮した陶太が住むこととした。

2) 旭屋芸能プロからの隔離

この関係者から架十郎の醜聞が漏れる可能性が高い。芸能活動から完全に引退するほかないと考えた。このため、事業、不動産の整理を通じ退職金原資を捻出し、これにより一斉解雇を実現した。また、依然架十郎との個人的関係をもつ幹部たちには、エイズ発症と偽り、親しい接触を忌避させた。事業を縮小し不動産関連のみとした。

** 7) 架十郎の世界の構築

重篤な障害者となった架十郎のために快適に過ごせる世を界構築する必要がある。

** 8) 4階の隠蔽

1) 本来9階のマンションから4階の存在を消すため、造りつけの乾燥機を用意し、ベランダの乾し物を禁止した。山側の開口部を1階を除き消滅させた。

2) 4階につながる階段を無くし、外付けの階段を5階と3階の間に設けた。

3) エレベーターの押しボタンを4階を除く1階から9階、合計8個にした。エレベーターで実体としての4階にゆくためには、押しボタンによる暗証番号を設定し、これを可能とした。

4) この1984年の改修を、1989年に4階の押しボタンを復活し、1階から8階の押しボタンと修正した。これにともない実体としての4階に行くため、暗証番号を新たに設定した。

** 9) 部屋の改修

架十郎の趣味に合せて部屋の内装、飾り付けを大幅にかえた。肢体不自由者への配慮として、扉の敷居、床上のカーペットの撤去により全床段差を解消し、架十郎のために制作された歩行器の移動を円滑にした。扉のノブはバータイプとし、その位置も架十郎の顎の高さに合せた。スイッチは全て押しボタンとした。

** 10) 平穏な生活への復帰

元々破天荒な計画の目的が失敗に終わり、その事後処理も破天荒のものであった。よくその綻びを世間に知られることなくここまでもってきたと、御手洗は評価した。これには修の力が預かって大きかったという。

しかし、綻びは見え始じめている。幽霊マンションという噂が既に上っている。いつまでも8階マンションへの偽装、4階の存在を隠蔽できない。修による仙台での病院経営が失敗に終わり、旭屋御殿の売却も早晩実行される。架十郎の死を契機にこれまでの無理を解消する必要がある。

これまでの虚飾に満ちた生活から平穏な生活への回帰を勧奨する。

御手洗は偶々、古井猛彦教授がもってきた謎に惹かれてその真相に到達した。不幸な境遇にある人に救いの手を差し延べる用意があるが、警察沙汰にするつもりはない。そこで、あのノートの残りの提供を受けるという条件で引き下がるが、どうかと提案した。

しかし、その言葉を素直に信じてもらえなかった。

** 11) 修の反抗

修は御手洗の態度を訳知り顔の鼻持ちのならぬものと決め付け、大いに反発し、突然、狂乱し、拳銃で御手洗の殺害を図った。御手洗は電光石火の身のこなしで銃弾をかわし、陶太の車椅子を利用して、修をベランダから突き落した。修は下の駐車場の車上に落下し、からくも一命をとり止めた。

** 12) 陶太の逃走

陶太も御手洗の言葉を薄っぺらな同情と反発し、修が取り落した拳銃で御手洗を脅した。御手洗はすきをみて拳銃を蹴り落したので、ベッドルームと反対側にある部屋に逃走した。

その部屋は珍品のコレクションを陳列する部屋だった。上半身が女性、下半身が男性の奇妙なミイラが吊されていた。ほかにも赤、白、黄、紫の模様をもつ蛇の目傘、赤い衣装と黄色のストッキングのピエロの人形が陳列してあった。御手洗がミイラを調べているとき、ブンという音ともにミイラが爆発した。陶太が弓で射貫いた音だった。

御手洗は更に陶太を追って隣室に入ろうとしたが、扉は固く鎖されていた。ベランダ側から仕切りを蹴破り、ベランダと部屋を仕切っているガラス戸を破り、ようやくなかに入った。陶太はノートを焼却しようとしていた。それを取り上げ、踏み消している御手洗に、自分はどうすればよいのかと尋ねた。架十郎の遺産を相続すればよいと答えた。部屋を出る前に振り返り、ミイラ、クッション、象、額縁、ランプシェードを処分するよう言い置いて部屋を出た。

隣室を抜け、最初の部屋に入ってから、御手洗はランプシェードを指して、これは人間の皮からできていると指摘した。さらに旭屋が香織と加鳥の死体をもって帰り、ミイラにしたり、ランプシェードにしたり、額縁の中に飾ったのだろうといった。

** 13) 死体の秘密

馬車道の部屋で、御手洗が話す。あのミイラは背中から手を入れて腹話術の人形のように操作できる仕組みとなっていたという。喬子が架十郎を慰めるために作ったと推断した。

呆然とする石岡、藤谷を無視して御手洗は陶太から取り上げたノートと古井教授から複写したノートをばらばらにして、繋ぎ合わせる作業に専念していた。やがて、それを石岡のほうにほうってよこしていう。読んでみたまえといった。

*18 謎の文書の復元

** 1) 追加1

ぼくは、加鳥さんが好きだ。加鳥さんもぼくを大切に思ってくれる。

加鳥さんに抱きしめられたとき、少しも変に思わなかった。加鳥さんがぼくの中にいるとき、ぼくは女だったんだなと思った。

こんな関係が普通でないことは分かっている。加鳥さんとなにかをしたとき、翌朝までそのまま眠ってしまたような日、朝加鳥さん顔を見られなかった。

** 2) 細字7

ぼくは、ベッドの上で占星術殺人事件の本を発見した。昨日のことを回想して、なんてすごいことをしたんだろうと思った。

隣の加鳥さんがぴくりと動いた。ぼくはそれを見ることはできなかった。加鳥さんはぼくが頭から被っていた毛布をはがした。そして、ありがとうと、陶太君といって、左頬に接吻。部屋を出ていった。

** 3) 追加2

今ぼくは、気分が落ち込んでしまってたまらない。加鳥さんといつまでもこんなことをしていてはいけない。しかし、ぼくのような人間は、女の人と、世間の人のように結婚はできない。

すべてを忘れてしまいたい。もっと別の人間に生まれ変わりたい。本当にひどい気分なんだ。

** 4) 大字1

ぼくのまわりにはどくがいっぱいあって、きっとぼくはおとなになれないでしょう。

かおりおかあさんが、ぼくにすっぱいりんごというほんをかってくれました。

すっぱいのでだれもたべられないりんごが、からすのこどもたちがつっついて、なかのくろいたねが、じめんにおちました。やがて、なんねんかあとにりっぱなりんごのきになったというおはなしです。とてもおもしろかったてす。

かおりおかあさんは、さんじかんてれびをみせてくれます。そこではこまをつくっていました。かおりおかあさんがぼくのためにつくってくれました。ぼくは、はやくてがながくなってつくれるよになりたいです。

** 5) 中字1

ぼくはきょう10さいになりました。かおりお母さんがおしえてくれました。

ぼくは、ひらがなだけでなくかん字もだいぶおぼえました。かいたかん字をかおりお母さんにみせたらおどろいていました。ぼくはもっと本をよんでかん字をおぼえたいです。

きょうとてもこわいほんをよみました。

せんせいじゅつさつじんじけんです。それは六人の女のひとをころして、六分の一づつをくっつけてとってもきれいな女の人を一人つくるというおはなしです。むずかしいじゅんもんをとなえると生きかえるといいます。

お母さんにはなしたら、わたしがしんだらわたしの体をつかってせんせいじゅつさつじんじけんのような女の人をつくってねといいました。

ぼくはそのとおりやることをそうぞうして、ぞくぞくしました。

** 6) 中字2

ぼくはもう18歳になった。かおりお母さんがそう教えてくれた。

ぼくは、環境汚染、薬、ダイオキシン、農薬、農業の本を読でいる。日本の環境はひどく汚れている。

水道水の消毒のため塩素が使われる。これはやがてトリハロメタンに変化する。これがガンを引き起す。

だから水にとても興味がある。浴槽の栓を抜いたときにできる左巻きの渦をじっと眺めているのが好きだ。

** 7) 細字1

ぼくは鎌倉生まれ。旭屋架十郎という映画スターの一人息子で、21歳の今日まで父の加護のもとで何不自由なく育った。父は大スターである上に実業家である。ぼくは父が所有するこのマンションの4階、2LDKの一室に住んでいる。

父はめったに顔を見せないが、香織お母さんは毎日のように来てくれる。お母さんはとてもいい人だ。ぼくは両親に恵まれとても幸運だ。

国道をはさんで海に面したこのマンションからは江ノ島とその上の鉄塔が見える。マンションのどこからでも見える。4階の廊下の先の小窓からも見える。マンションの裏手には江の電が走っている。さらにその山手には、サーフボードショップ、ビーチという喫茶店、救急病院などが道沿にある。マンションの両隣には、焼肉レストランとシーフード・レストランがある。

ぼくは、父が与えてくれたこの環境をとても気に入っている。

** 8) 細字2

周囲のあらゆるものは毒で汚れている。食べ物には防腐剤、殺虫剤、合成着色料が施されている。

皮ごと食べてしまう猿に奇形の子供猿が増えているという日本のデータがある。かって、0.01%だった出現率が20%にも増加したという。

人間もこのようになってしまうのでないかと心配だ。香織さんに話をすると目を丸くするが、結局、平気でぱくぱく食べてしまう。

紅茶を飲むとき、レモンをスライスして茶碗に入れる。ぼくは嫌なので四つ折りスライス片の先っぽだけをつけようとする。うまくできないから香織さんがやってくれる。

香織さんは、そんな本ばかり読まないでもっと楽しい本を読みなさいという。そして、ここの海や空気は綺麗だという。そうでないといおうとしたが、やめた。みんなそんな大事なことを気にしないでいるから、空気や水がどうしようもないほど汚れてしまったのだ。

** 9) 追加3

ぼくは20日間、交通事故による昏睡状態であった。4月2日に江ノ島の鉄塔に登ろうと急に思い立って、自動車で向かった帰り、トラックに対面衝突して病院にかつぎこまれた。

自室に戻って4月23日に意識が戻った。それから5日間は、床ずれ、骨折からくるあらゆる痛みに泣きわめいた。5日めに香織さんがぼくがまったく記憶を無くしていることに気が付いた。

それからたくさんの本を読み、漢字を思い出し、文章を書いた。NHK教育テレビを毎日3時間ずつ視聴した。これが効を奏して、5月14日には殆どのことを思い出した。21歳の自分に戻れたのだ。

香織さんには看護婦の経験があるという。自室に戻った4月10日からずっと看病してくれた。ぼくは香織さんに頭があがらない。

** 10) 細字3

ぼくの名前は三崎陶太。父は旭屋架十郎という有名な映画俳優である。正直いって、そのことが子供のころからとても苦痛だった。母は五つのとき死んだ。そうしたら父が身の回りの世話をする女の人をつけてくれた。

周りにはいつも綺麗な女性がいた。成長して下品な欲求にもめざめてきた。でも女の子にはあまり興味がない。珍しい話題を豊富にもっていたりすれば違っていたかもしれないが、鎌倉にはいない。むしろ男の子の方が好きだった。

香織さんは美人で性格のよい女性だ。そして楽天的だ。そんなところがとてもいい。ぼくが、1999年に世界が終わるって信じるか尋ねると、2000年も、2500年になっても、この世は存在していると答える。

一方、ぼくは固く信じている。たとえ存在していたとしても、その世界はずいぶん違っていると思う。人間は、何だか動物みたいになって、核で被爆して皮膚の色が黒く焦げただれている。太陽も雲のない日の真っ昼間でも輝かない。今みたいな春も薄ら寒い。薄気味悪い怪物が世界をうろついている。

そう信じているのに、そんな気分でずっといるのは寂しい。そばでそんなことはないと笑い飛ばしてくれる人がいると心が軽くなる。

** 11) 細字4

いつか香織さんが海は綺麗といったが、全然違う。

昭和40年代のなかば京浜・京葉工業地帯にはさまれた東京湾に水質汚濁事件が発生した。水銀を使う周辺工場の廃棄物不法投棄によるものである。川から流入する農薬の有機塩素系化学物質やPCBの汚染も広範囲に及んでいる。

海の汚染で引き起こされる現象は赤潮である。これは窒素やリンの栄養塩類が流入することで大量の植物プランクトンが発生し魚類が大量死するものである

空気の汚染も問題だ。昭和40年代後半、川崎市で公害病認定患者の自殺があい次いだ。昭和54年に埼玉医科大学の教授の研究発表、川崎市における犬肺の金属含有量と病理組織学的変化において、川崎市の家庭に住んで死んだ犬を解剖し肺の汚れを調べた結果をまとめたものである。調べた犬250匹のうち、9匹の肺から腫瘍が見つかり、4匹が肺ガンだったという。犬に責任はないのに可哀想なことだ。

** 12) 細字5

5月26日は大事件が発生した。地球が破滅に瀕した日だ。朝9時、いつもどおり香織さんが新聞をもってやって来た。北海道の父から電話があった。ロケは順調らしいが5月30日まで北海道は出られないという。

新聞で、梶原一騎が東京の愛宕署に傷害容疑で逮捕、国立予防衛生研究所技官が中央薬事審議会に提出された新薬承認申請の資料を他のライバル会社に横流しした容疑で逮捕されたことを知る。

*** 1) 赤鬼になった香織さん

ぼくは父主演のSF映画、「今日ですべてが終りだ」を知ているって香織さんに尋ねた。ここから異変が始まった。なんて子なのと叫んだら、香織さんは赤鬼になった。食卓の卵焼きをぼくの顔にぶつけ、床に倒れた。

そこに、男の人、秘書の加鳥さんがやってきた。陶太君、こんなところに押し込められてどうしたの、と尋いてきた。香織さんに気付いて近付くと、さわらないで、気持が悪い、といって、二人は掴み合いになった。

*** 2) 強盗の出現

そこに、口をマスクで隠し、顔全体はストッキングを被った強盗がやってきた。加鳥さんは香織さんから離れた。銃弾が発射された。香織さんは台所からもってきた包丁で切りつけた。加鳥さんは電話台で反撃し、強盗の覆面に手を伸ばした。香織さんが背後から刺した。銃弾が発射、ピーンという金属音が響いた。加鳥さんが包丁で香織さんを刺した。強盗はその背中を撃った。加鳥さんは絶命した。

強盗は催眠スプレーをぼくに吹き掛け、何も盗らず逃走した。あとには、加鳥さんの死体、瀕死の香織さん、ぐにゃりと曲った包丁が残った。

*** 3) 助けを求める

助けを呼ぶため、119に電話した。無意味な数字が読み上げられた。父の家、友人の家にもした。無駄だった。廊下に出た。小窓から江ノ島を見たが、鉄塔が消えていた。

1階のロビーでは半ズボンの上にまわしをつけた男が相撲をとっていた。まわりの男たちに助けを求めたが怪訝な顔と爆笑が返ってきた。

*** 4) 世界が壊れかかる

好天のなか太陽が輝いていたが、今日は何故か小さかった。

国道に向った。巨大なウサギがサンダルを履いていた。駐車場の車はすべて真っ黒だった。もう一度江ノ島を見た。鉄塔がやはり消えていた。背後のマンション全体が黒ずんで汚れていた。

江の電の線路に向った。途中の舗装が剥れ土がむき出しになっていた。商店街のサーフボードショップ、喫茶店、救急病院も消えていた。瓦礫の小山の間にバラックが並んでいた。戸口脇の板塀にトカゲの絵を描いた家があった。老人にすいません、ここにあった病院は知りませんか、と尋ねたがまったく反応がなかった。ぼくはこの世界では透明人間だ。

太陽がみるみる死んでゆく。風が冷える。世界は今日から氷河期に入るのだ。胸のポケットの懐中時計は11時5分前だった。林のほうに向かう。店の屋根の看板に、ヤマハ、その隣りに、サンヨーという文字が読める。林の奥に入った。恐竜が出現してぼくの左腕を食いちぎった。逃走した。

これまで見たこともないほど痩せた人間に出会った。ここで何があったのですかと尋ねた。突然無意味な数字が口から飛び出してきた。バラックから不思議な人影が出てきた。体は人間、頭は豚、狐、鰐、鼠、猫だった。

この世界は壊れかけている。中央分離帯もある広い道路には人も車も見えない。たまに走ってくる車はポンコツである。大きなビルディングも廃墟だ。

*** 5) 両性具有者の復活

ぼくはマンションに帰ることにした。石岡和己の占星術殺人事件の実験を行なう。

部屋のダイニングルームには二体の死体が横たわっていた。下駄箱からノコギリをもってきた。香織さんの下腹部に刺さった包丁を抜いた。二人の衣服を脱がせた。香織さんの胸は小さかった。

二人の死体を浴室に運んだ。ここで体を洗浄した。香織さんの死体を切断し、下半身、上半身を隣の脱衣場に運んだ。加鳥さんの切断に取り掛かったとき、臭気に耐えられなくなった。脱衣場にある換気扇のスイッチを押すため移動したが、疲れで足がもつれて、転倒、失神した。

** 13) 細字6

意識が戻ってやっと換気ができた。元気が回復したので加鳥さんの切断を完了した。そこで、ダイニングルームで休憩をとった。もう夜になっていた。

香織さんの上半身をソファベッドに載せた。続いて加鳥さんの下半身を運こび、二つを繋き合せて、ベッドの上に座らせた。両性具有の体が完成した。占星術殺人事件の教えるとおり、死者復活の儀式を行なった。呪文を何度も唱えた。

何度も呪文を唱えているうちに意識が遠のいてきた。

** 14) 追加5

目が覚めると事態は何も変わっていなかった。部屋には異臭がたちこめ、横には切断された香織さんの上半身と、加鳥さんの下半身とが、冷たくなって載っているだけだった。

*エピローグ

喬子は自動車事故で子供の出来ない体となった。修は下半身不随となるという。陶太は喬子とともに生きていこうと決意していた。

(おわり)

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謎解き島田、暗闇坂の人喰いの木 [島田荘司]

はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

本文

プロローグ・スコットランド

クララの殺害

1945年4月、スコットランド、フォイヤーズ村のはずれの山の中で一人こつこつと建物を造っている男がいた。最初は父が手伝っていたが外郭の完成とともに村の自宅にもどり、男だけが作業を続けた。

建物は入口の他に窓が全然ない不思議な構造であった。入口に立てばネス湖が見降ろせた。

男は非常に内気な性格であったので、特に女性と口を利くのは苦手であった。友達になれるのは十歳くらいの女の子であった。男は30歳、ロンドンで会社を経営していて経済的には豊かであった。

ある時、ダレスという町からやってくるクララという女の子と仲良くなった。金色の巻き毛をしたびっくりするほどの美少女だった。やがて別れるのが辛らくなったので殺して、秘密の家にもどり抱いて眠った。さらに体をバラバラにしてそれを北の壁に釘で止め、しげしげ眺めて満足していた。

それからセメントで女の子の体を壁に塗り込めてしまった。十年近く経過して、ダレス村の警官が行方不明の女の子がここに通っていたことを突き止めた。秘密の家も発見したので、北の壁をくずして調べたが死体は発見されなかった。結局、誘拐犯も死体も不明のままとなった。

ふたたび警告

この後に、ネタばれの内容がつづく。本作品を未読の方に閲覧をすすめない。


暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/06/06
  • メディア: 文庫




* 1984年、馬車道、9月

森真理子の一方的お見合い

1984年夏の終り、石岡が御手洗と共同生活をしている馬車道の部屋に電話があった。石岡のファンとなのる女性だった。森真理子という名前である。

翌日3時に伊勢佐木町の喫茶店で会った。真理子は25歳、横浜西口のデパート勤務という。石岡の文筆業のこと、結婚歴を尋ね、占いの話しをした。やがて、軽食のできる別の場所に移り、ジョッキでビールを飲んだ。

恋人藤並卓

そのあたりから話がほぐれて、真理子の恋人、藤並卓のこととなった。背が高くハンサムで優しいが、人を寄せつけないところがあるという。7年間付き合って本当のことを教えてくれないことを知った。

ある時、決心して、暗闇坂上の卓のマンションに行った。すると奥さんが出てきた、また、そこに卓も帰ってきた。少し話をして、帰った。送ってくれたとき卓は奥さんがなかなか離婚を認めてくれないといった。おととい会ったとき、離婚届の用紙をもっていたという。

石岡は御手洗にこの話をしたら、皮肉な表情を浮かべて、やんわりと、それは女性が一方的に申し出たお見合いであったという。石岡の合否は次のデートの申し出があるかないかによって判明するといった。

公表の時期

これが暗闇坂の人喰いの木事件の発端である。事件の当事者の要望により公表を控えていたが、1990年の今、書くことが可能となった。

昭和16年、くらやみ坂

淳子の死亡

淳子という少女が失踪した。兄の照夫が他の男の子と暗闇坂で戦車遊びをしていたときであった。淳子は坂を大楠のあるほうに登っていってそのまま帰ってこなかった。学校にいても淳子のことが気になってしようがなかった。校庭の欅を見たとき、突然暗闇坂の大楠のことを思い出して怖くなった。

昔、あの大楠の下でたくさんの罪人の首が切られた。その生き血を吸ってあのように大きく成長したという。そのため、幹の途中にある空洞に耳をつけると恨みをもって死んで人々の悲鳴が聞こえるという。

暗闇坂には八百屋がトラックに野菜を積んで一日おきにやってくる。たくさん集まってきていた主婦たちもだんだんいなくなり、3人だけが残った。そのうちの一人があっと声をあげて、地面を見た。拾いあげてみると赤いリボンだった。そこには血がついていた。驚いて上をみると少女が大楠の枝から垂れ下がっていた。

* 屋根の上の死者、9月23日

1 卓の死

暗闇坂の建物の変遷と大楠

79年当時、暗闇坂の上には蔦のからまった3階建の西洋館があった。これは元々、昭和7年(1932)に建てられた硝子工場の社長の自宅であった。その当時は硝子工場と倉庫があった。戦後、裕福なスコットランド人のジェイムズ・ペインが購入し、ここに外国人子女のための学校を開設した。そのため、西洋館は校長宿舎とし、校舎、グランドが建設された。

昭和45年(1970)、学校は閉鎖された。この原因は校長ジェイムズ・ペインと日本人妻藤並八千代との間の離婚であるという。この後に校舎、グランドが取り壊され、アパート2棟、銭湯が建設された。西洋館は家族の住居となった。

79年当時は、銭湯は閉鎖され、アパート2棟は5階建のマンションとなっている。このようにめまぐるしい変遷をずっと見続けてきたのは、この西洋館と大楠といえる。

徳山涼一郎の発見

1984年9月21日、神奈川県に台風が来襲、翌日早朝、暗闇坂の玩具屋、徳山涼一郎は後片付けをしているときに、昨日の夢を思い出した。

学校があったころの夢である。西洋館の屋根の上で青銅のにわとりが毎日正午に奇妙なメロディーとともにはばたいていた。それが屋根から飛び立つものだった。

不思議な気持で店の前から西洋館の屋根を望むと、にわとりが消滅していた。さらににわとりがあったあたりに人影らしきものが見えた。三角形の屋根の頂上に人が馬乗りに跨がっている。やがて朝の散歩者も気付き、藤並家の人間らしいと大騒ぎとなって警察に通報された。

2 卓の死亡記事

御手洗が石岡に森真理子の恋人藤並卓変死の新聞記事を見せた。それは、21日午後10時ころ、心不全で屋根の上で死亡したというものだった。薄手のグリーンのセーターとコールテンのズボンとい軽装であった。

御手洗は早速、マンションを訪問し、何も知らなかった森真理子に事実を告げ、話を聞きたいと申し入れた。

3 人喰いの木の絵

ある人物が人喰いの木の絵を描いている。そこでは大きな木の幹が縦に裂けてそこから4体の骸骨が溢れでている。幹の一番上はワニ口に裂け、その口に上半身が呑み込まれ、下半身だけが空に突き出ている人間がいる。

大きな木のすぐそばに古い西洋館が建っていて、その屋根の上には馬乗りになった人がじっとこの木が人を喰べているところを見下ろしているものだった。

4 真理子の調査依頼

二人が約束の場所で朝食を終えたころ、森真理子がやってきた。御手洗は真理子の気持を引き立たせるため、石岡があなたのことばかり噂していたという。

気分を良くした真理子に卓のこときく。見た目と異なり女性問題とは無縁。怜悧な人物にありがちな人を寄せつけない人柄。心臓が悪かったとは聞いいない。覗きの趣味などない。

一風変ったところがあった。自分と公園を散歩していたとき何を思ったか池の鯉に怒りだし、石で殺そうとした。

借金はない。仕事は長続きしなかったがお金に苦労はしていなかった。

嫌いなところは、子供のころ猫を生きたまま解剖したり、犬を木から吊してバットで殴殺したりしたところという。

御手洗は、卓がこのような奇妙な死をとげたのに警察にまかせておくと、自殺ないし事故死として処理される。真相は闇に葬りされれるという。

さらに真理子が卓の不可解な人柄にとまどいつつ、憧れていたこと、裕福な家庭の卓と結婚する密かな期待を抱いていたことをさりげなく触れて、卓の調査を自分たちに依頼するかと尋ねた。その際、石岡がこの事件の本を出版するので費用負担はまったくないと付言することを忘れなかった。真理子はすると答えた。

5 暗闇坂を尋ねる

伊勢佐木町から徒歩で長者町を抜け、大岡川を渡り、京急電鉄の日の出町駅から戸部駅に至り、下車。商店街を抜け、御所山という信号を右折して、坂を登る。坂は手前にゆっくりと湾曲している。左手に「くらやみざか」という石碑が立っている。途中で真理子が暗闇坂の刑場には台上にいくつもの首が並べられていた。それらが倒れないよう両側から粘土で支えがしてあったという。

石碑を過ぎて前方に大谷石でできた石垣が見え、その上に巨大な楠が立っていた。

6 建物、敷地の説明

坂の頂上に至り、振り返ると左手前方に平地が広がる。敷地の形状は扇を三分の一ほど広げたもので、手間が縁のほう、奥が要のほうである。ただし要に両側が集約する前にすこし切り取った形となっている。

その手前の右から西洋館、藤棚湯、マンション、その向う残りの平地が駐車場である。西洋館の屋根の嶺は大楠を向いていた。

西洋館の周囲は低い煉瓦塀とその上に植え込まれたからたちの垣根が取り巻いている。正門は南側、坂の反対側に設けられていた。

その南に廃墟となった藤棚湯があった。敷地は壁で囲まれていず、建物はセメント敷きの上に建設されている。道に面した東側の正面入口はしっかりと閉鎖されている。裏側に回るとドアが壊されて容易に中に侵入できる。右手に巨大なかまど、その上に高々と聳える煙突がある。左手に燃料小屋がある。金属扉は簡単に開き、なかには、まだ相当量の石炭と薪があった。

さらに南にハイム藤並があった。

7 郁子を尋ねる

躊躇する真理子をなだめ安心させながら御手洗は4階北西角にある401号室の藤並郁子を尋ね、自ら私立探偵と紹介する。怪訝な顔の郁子に卓を殺害した犯人をすみやかに捜索する必要があることと、その証人を連ているという。真理子を引き合わせ、彼女の依頼で動いているという。

真理子が依頼することに疑問を示す郁子に、妻である郁子が最適であることを認める。そして警察は事故死と考えているようだが、納得しているのか尋ね、真理子は将来的に石岡と結婚する気持であるが、かっての縁で依頼してきた。郁子に調査を依頼する気持があるか尋ねる。

応接間に案内

たちまち、雰囲気が変って、御手洗たちは部屋に案内される。応接間で御手洗は、郁子が9年前に見合い結婚したこと、卓に心臓の欠陥がなかったこと、最近異変がなかったこと、屋根に登るような理由がないことを確認した。

複雑な家族関係

母屋、西洋館の人々に話が移るにつれ、豊かな資産、複雑な家族事情が明きらかになってゆく。

藤並八千代は大正12年(1923)生まれ、ジェイムズ・ペインと結婚し、卓、昭和21年(1946)生まれ、譲、昭和22年(1947)生まれ、玲王奈、昭和38年(1963)生まれ、の3子をもつ。昭和45年(1970)に離婚。昭和49年(1974)に三本照夫と再婚する。ここに連れ子、三幸、昭和43年(1968)生まれがいる。なお、玲王奈は現在、人気モデルのレオナとして活躍している。

母屋には八千代、照夫、三幸が住む。3子とも部屋をもつが譲を除き不使用。マンションの401号室に卓と郁子、その上の501号室にレオナ、さらに下の301号室に譲が住んでいる。

子供の結婚

八千代は子供の結婚には無関心、子供つくれともいわない。郁子には子供はいない。譲は現在、千夏という水商売出身の女性と同棲中。子供はいない。

西洋館、賃貸用のマンション、貸駐車場、廃墟の藤棚湯、これら建物、敷地はすべて藤並家の資産。ただしマンションはローン返済中。卓、譲とも職に就いたが長続きせず、結局無職。譲は世界の死刑制度の研究に従事している。資産の上りから経済的には豊かである。

西洋館の家事は、照夫、三幸が行ない、近くの牧野写真館の夫妻が手伝う。

譲についてきくと八千代が頭蓋骨陥没骨折のため藤棚総合病院に入院、その看護で病院という。八千代の怪我の事情には沈黙。

9月21日の行動

最後に御手洗が、9月21日午後10時前後に郁子が在宅であったことを確認する。卓は8時に部屋を出た。そのまえ7時に電話があったという。

8 千夏に会う

301号室を尋ねると酔った千夏が出る。私立探偵と紹介すると機嫌良く中に案内される。リビングで乾杯してから話をきく。

ここの家族は皆なおかしい。

1) 譲は気味の悪い死刑の研究に没頭している。この前、小鳥をアルコールに漬けて殺した。殺すのが好きらしい。
2) 卓はむっつりとして二枚目を鼻にかけている。
3) レオナは高慢で我侭
4) 郁子は普通そうだが、本心では財産狙い
5) 八千代は良く分からない。これまで一度も喋ったことがない。
6) 照夫は普通
7) 三幸は良い子
8) ジェイムズ・ペインは典型的英国紳士

八千代発見時、卓は屋根にいなかった

八千代は9月21日午後10時ころ、大楠の前で倒れていた。照夫と三幸が発見し、病院に搬送した。そのとき屋根の上には誰もいなかった。

昭和20年(1945)、くらやみ坂

涼一郎の体験

夏、涼一郎、4歳が親戚の光二、7歳と閉鎖された硝子工場跡地で遊んでいた。母親からはきつく止められていたが、母親の目を盗んで遊んでいた。

夕方、跡地の端にある高い煙突のある建物を見にいった。そのとき付設されている竃の扉が突然開いた。なかから子供が飛び出してきて、二人に気付かないまま駆け出していった。涼一郎と同じ年頃の子供だった。

敷地を横切り、無人となった西洋館の角で折れて大楠に向った。後を追い掛て見ると、幹に立て掛けてあった梯子のようなものでたちまち上に登り幹の途中の窪みのところに隠れた。夕闇が濃くなって隠れたはずの子供の様子が分からない。そのまま二人はじっと凝視めていた。

突然、きゃーという女の子の悲鳴が響いた。両手を上にあげてもがいている人影が見えた。だんだん体が沈んでゆきやがて見えなくなった。二人は恐怖の余りそのまま後も振り返らず家に逃げ帰った。

* 飛び去ったにわとり

御手洗が西洋館の門前に佇み敷地内にある大楠が実見できないことを慨嘆する。

涼一郎の話し

藤棚総合病院に向う途中で暗闇坂の玩具屋に立ち寄る。徳山涼一郎の目撃譚、人喰いの木の噂を聞く。

大楠は怖ろしい木である。その土地は祟られている。
1) 大楠は人を喰い殺す。幹の上部に窪みがあり、そこが口となっている。耳を当てると悲鳴が聞こえる。昭和16年に死亡した女の子がその実例である。
2) 巨人が生まれ代ったもの。殺された女の子の指の先は溶けていた。
3) 夢のお告げがあった。それは青銅のにわとりが飛び立つもの。

そして発見時の様子を実演した。

昭和33年(1958)、くらやみ坂

涼一郎の恐怖体験

夏休み、高校2年生の徳山涼一郎と大学生の光二が会った。女の子を喰べたあの大楠をもう一度見ようという話しになった。

その頃には硝子工場はなく、外国人子女のための学校が開設されていた。大楠は校長宿舎となっている敷地に所在した。夜、二人は宿舎の金網を乗り越えて大楠のところに忍び込んだ。

大楠の窪みに登り、空洞に耳をあてると悲鳴が聞こえた。懐中電灯の光のなかに茶色の骸骨が見えた。二人はまた家に逃げ帰った。翌年、光二はバイク事故で死んだ。涼一郎はこのことは誰にも話さない。自分だけの秘密にしようと思った。

* 人を喰う楠

1 藤棚総合病院

御手洗、石岡、森真理子が藤棚総合病院を訪問する。212号室を尋ねると、照夫、譲から敵意に似た応対をうける。御手洗は突然、ウツボカズラ、動植物の食物消化の機構の演説を始める。譲がすこし興味を示す。依頼により調査している私立探偵であることを紹介して、待合コーナーで譲、照夫と話しをする。真理子が二人に引き合わされる。

家の様子が譲から明きらかになる。

1) 西洋館の構造は屋根裏部屋を含めて3階建て
2) 1階は、ホール兼食堂、八千代の居室、厨房、トイレ、物置部屋
3) 2階は、照夫、譲、卓の居室
4) 屋根裏は、レオナ、三幸、物置
5) 屋根裏の窓は嵌め殺し

食事は牧野写真館の老夫婦が作る。譲は資料室として活用、卓、レオナは空き室同然。
死の10日前に、卓は真理子に青銅のにわとりと音楽について面白いことがあると漏らしたという。

2 西洋館へ

やがて5人は藤棚総合病院を離れ西洋館に向う。真理子の関与に不審がる譲に御手洗が、この事件をどう思っているかきく。警察にまかせればよい、とくに不審を追求する気持ちがないというものだった。

藤棚商店街の舗道に2羽の鳩がいた。譲は突然ヨーロッパで鳩を轢き殺した話しを始めた。何かツボにはまったようにけたたましく笑い続けた。真理子が体調不良を理由に辞去した。

なおも御手洗は譲に家族のことをきく。

1) 八千代は偏屈、突然怒りだし家族に当たる。
2) ジェイムズ・ペインは元々、画家。父の軍需物質製造に関わり財を成して、昭和20年(1945)、来日。当時伊勢佐木町の料亭に出ていた八千代に一目惚れして結婚した。
3) 離婚の理由は不詳。仙台の下宿から帰郷すると、八千代が日本に飽きて英国に帰国したという。

3 大楠を見る

西洋館の門からなかを望む。右側に本格的な庭園がある。ゆるやかにうねる石畳を踏んで西洋館に向う。譲がジェイムズ・ペインが英国から職人を呼んで相当改修したという。玄関に立ったとき御手洗が大楠を見たいといった。

大楠は館の裏手にあった。圧倒的な大きさである。樹高26メートル、東西26メートル、南北31メートル、日本最大級である。御手洗が明日これに登るという。

4 応接間に入る

玄関は土間だった。靴を抜いで上がり、廊下に沿って右に進み、応接室と記されたドアを開けてなかに入った。広間だった。長方形のテーブルと椅子があり、その向うの壁には暖炉があった。その横に石炭、薪、固形燃料が置かれていた。

ジェイムズ・ペインの作品はない

全体に古びていた。漆喰の天井にはひび割れがあった。床の四隅はひわっていた。壁には油絵が懸けられていたが黒ずんでいた。石岡の質問に譲がジェイムズ・ペインが描いたものはない。スケッチも残されていないという。

三幸に話しをきく

紅茶をもってきた三幸に話しをきく。大楠の話しが分かる。動物の肉はみな挽肉にして喰べるという。卓の靴は藤棚湯と大楠のところに落ちていた。最後に御手洗に協力すると申し出てくれた。

譲がジェイムズ・ペインについて話す

譲がいう。にわとりは、ジェイムズ・ペインが英国の自宅にあったものを職人を呼び寄せた際にいっしょにもってこさせた。骨董趣味があって毎日定時に街に美術品を漁りに出た。室内の改造、校舎、体育館の設計も自分でやった。

何故、作品が残っていないのか分からないが、子供のころ、抱かれた父の体から油絵具の臭いがしたという。

5 夕食をとる

玄関ホールで夕食が始まる。譲、御手洗、石岡、千夏。郁子が千夏を忌避する。牧野夫婦が給仕し、三幸、郁子が手伝う。

御手洗が牧野省二郎にきく。写真館は自分で三代目。大楠の写真は種々もっているが、自分が撮ったのはペイン校時代のもの。古い刑場の写真もある。

譲が一言述べてから乾杯、食事が始まる。求めに応じて御手洗が犯罪について語る。脳は通常、人間を規律、規制するがたがが外れるとおぞましい犯罪が生まれる。このたがは多くの場合は、貧しさである。美食に飽きたヨーロッパの貴族のおぞましい犯罪にその例を見ることができる。開国以来ずっと貧しかったこの国の民に豊かさが与えれたときに何をするか分からない。さらにフランスの貴族の犯罪、フランス革命の時代の逸話を紹介した。

* 暗号

1 屋根裏部屋でオルゴールの修理

三幸の案内で三階屋根裏の中央の部屋に入る。そこにはにわとりを駆動する機械装置が残っていた。そこで、オルゴールのドラム、拡声装置を発見した。御手洗はその音楽を調べるといいだした。徹夜作業になりそうなので、石岡、御手洗の二人の宿泊の部屋を三幸に依頼した。

石岡は譲に部屋にくるよう誘われた。

2 晒し首とメロディー

二階、譲の部屋で世界の死刑の話しを次々と聞いた。壁には暗闇坂刑場の晒し首の写真が掲げらえていた。気分が悪くなった石岡を救うように音楽、奇妙なメロディーが聞こえてきた。譲が聴き覚えがあるという。譲とともに三階の部屋を訪ずれる。

御手洗が譲にいわれをきく。4、5歳にたしかに聴いた。しかし父から何も聞いていないという。御手洗はこれは暗号であるという。一晩かけて解読すると宣言した。

3 不明人(八千代)の囁き

ある人物がこのメロディーを評する。悪魔の音楽である。大楠が騒ぎだした。枝をするする伸ばし始める。

4 屋根のうえの御手洗

外の物音で眼が覚めた石岡は、窓の外を眺める。霧雨が降っていた。梯子が立て掛けられて、御手洗が登っていった。下には譲と照夫がいた。

譲の隣りで傘をさして見上げる。御手洗が屋根の頂に跨がって譲に卓の位置を確認している。にわとりの台座があるすぐそばった。

いっこうに降りない御手洗に飽きらめて朝食を取っていたが、突然外で鈍い音が響いたので驚いて飛び出した。背後に御手洗が出現した。屋根の上から写生した敷地図をみせ、庭園がbの字を裏返しにした形になっているという。あの音は暗闇坂で自動車が衝突した音だという。

そこに卓の遺体を返還に訪れた2人の刑事が御手洗に呼びかけた。高圧的な口調に大いに反発したが御手洗は物置からピッケルを持ち出し、梯子を大楠に懸けて幹の途中にある空洞のところに登った。そして石岡を呼んだ。刑事は怪訝そうに眺めていた。

石岡が空洞の奥を見る

怖がる石岡を励まし空洞のところまで誘導した御手洗は音を聞けといった。まさに魑魅魍魎の声がした。さらに空洞の奥を見ろという。雷鳴が響いて光のなかに黒い乱れた髪と茶色のしゃれこうべが見えた。

* 木に喰べられていた者たち

1 4体の死体を発見

御手洗がこの大楠は人を喰べるという。あっけにとられる刑事にかまわず、ピッケルで幹の樹皮を剥ぎとっていった。何度か繰り返すうちにぽっかりと1メートル四方の空洞の口が開いた。なかに4体の死体が発見された。

2 暗号の解読

大騒ぎの警察をほうって、玄関ホールの暖炉で暖を取っている御手洗に暗号の謎をきく。

1) 音符を音階に応じて、a、b、c、アルファベット36文字に対応させる。例えば、ドはcである。その2度下のラがaである。

2) この解読表をもとにして、あのメロディーを解読すると、under the tree、となる。つまり「木の下」に何かあるという意味になる。

これで、幹の根元の空洞の存在を推理した。あの死体はメロディーが作られた昭和25、6年(1950、51)より新しいものという。あの死体には奇妙なところがある。頭蓋骨と他の骨を比べると明きらかのように通常は残っている皮膚や脂肪がまったく頭蓋骨に見られない。ところが頭髪は頭蓋骨に付着している。

刑事2人がやってきた。先程の無礼を詫び、御手洗に死体の身元をきく。現在不詳だがさらなる調査により有用な情報を提供する用意がある。それにはお願いがある。八千代の書斎、かってジェイムズ・ペインの書斎であったものを御手洗が調査する必要がある。それを照夫が認めるよう警察から取り計らってほしいという。

* 書斎

1 隠し扉

書斎に、御手洗、石岡、二人の刑事、照夫が入った。なかは東洋美術の優れた集大成といえる品々が納められていた。西洋的といるものは、デスク、椅子、黒電話、ソファーぐらいなものだった。

壁には書画、掛け軸が壁面が隠れるほど掛けられ、デスクの上に青銅の置物、竹籠のなかにキセル数本、印籠数個が無造作に入っている。ことに目を引いたのは窓ぎわのデスクの上に置かれた数々の日本人形である。精密な写実性をもつ優れた作品群であった。

御手洗は人形を見た後、デスク後の本棚の書籍を見る。大半は英文字である。その横にある引き戸式の押入のなかには、色とりどりのボール箱が何段もの棚に納められている。しゃがむと柳行李が三つ、一番下のは南京錠がかかっている。苦労して鍵を見つけだし開けると中には、日記帳、覚書、唐草模様の風呂敷包みがあった。

風呂敷包みのなかには人形制作に必要な部材がばららばのまま納められていた。奇妙なことにその頭の部分が少なかった。柳行李を押しのけて御手洗が床に隠し扉を発見した。打ちつけられた釘を抜いてやっとのことで引き開ける。期待に反してそこには黒ずんだセメントの床があるだけだった。

照夫はこの扉の存在はまったく知らない。昭和49年(1974)再婚時以前のものだった。

* 舞い戻ったにわとり、9月24日

1 レオナとにわとり、遺書

昼食後、御手洗はすぐ書斎に籠った。石岡は玄関ホールで戻ってきた三幸と話す。今度の事件は大楠の怖さを知ってるので納得できるところがある。実は、父照夫の妹が昭和16年(1941)にやはり大楠に喰べられたという。父はパン屋だった。ペイン校に給食のパンを供給していた。再婚は世話する人の勧めに従ったもの。

人形の設計図を発見

御手洗が三幸と石岡を書斎に呼んで、ジェイムズ・ペインが作成した人形の設計図を示す。それは機械装置を収納した箱とその上の4体の人形から成る。機械装置により4体が連動して上下する。連動は自動車の多気筒エンジンのシリンダーのようである。上にあるとき空気弁が開き口から音が出る。

ジェイムズ・ペインは日本では余暇を趣味のこのような機械作りに充てていた。どこかに制作物があるはずという。しかし、三幸はここにはないと断言した。

レオナが登場

書斎に松崎レオナが来室、青銅の青銅のにわとりならみつかったと声を掛ける。御手洗との間で英語でのやりとりがある。二人の間に緊張が走る。やがて、御手洗がにわとり発見の詳細を尋きレオナが説明する。

青銅のにわとりの発見

レオナのもっているfm番組で青銅のにわとりの失踪を話したのが発端で、情報が寄せられた。それによれば卓が死亡したころ、暗闇坂を通ったトラックの背に落ちたにわとりが多摩川土手まで運ばれて発見されたという。

卓の遺書

さらにレオナの部屋のワープロのなかに卓の遺書があったことを知らせた。

その内容は、「とびおり自殺をするわたしを、あわれんでくれ。云々。卓」であった。

これはワープロに保存されず、プリントアウトもされずそのまま残されていたという。卓はレオナから預かった鍵で自由に部屋に入れたという。

4人の検死結果

刑事2人が来室、検死結果を説明する。4人はすべて女児、7、8歳から14、5歳、日本人。 死亡推定時期は昭和29年(1953)から昭和49年の間。頭蓋骨にあった頭髪は膠で人工的に貼りつけたものという。

2 レオナの部屋を尋ねる

御手洗、石岡、レオナ、刑事2人がレオナの部屋に入る。

部屋の間取りは、玄関からホール、向うのベランダ、左手に寝室、その手前に衣装部屋、寝室に隣接して浴室。ホールの右手にトイレ。ホールは白黒で統一され、寝室はアンチックで整えられていた。

1) 玄関ドアの鍵、ベランダのガラスドアの鍵は施錠
2) ワープロは寝室のオルガンの上に設置。場所はいろいろ。今回はたまたまここに置いた。
3) ビニールの安楽椅子は横倒しでベランダに放置
4) 衣装部屋のにわとりの足の部分が強引にもぎ取られていた。

ジェイムズ・ペイン

1 不明人(八千代)がj.pの貧民窟訪問を語る

女、おそらく八千代の手記である。

時には散歩に同行することもありました。ジェイムズ・ペインは、緑の多い場所、見晴らしのよい場所より、日の出町、黄金町の貧民窟を好んでいました。そうでなければ、書画骨董を扱う店に出かけました。

貧民窟にはいつも浮浪者が横行し、病人が横たわっていました。ときには近くの運河に死体が浮いていました。元気なものは酔っぱらいか薬物中毒者でした。

粗末なバラックの小屋が並び、広場では焚き火がたかれ女たちや子どもたちが集まっていました。外部の人間には反感を示し、いたずらや、時にはひったくりの被害に会うこともありました。

ジェイムズ・ペインは教育者はこのような場所も知っておく必要があるといって、けっして嫌がりません。貧しい家庭に缶詰やハムを与えることもありました。特に子どもが好きで、ポケットの中にはいつもチョコレート、チューインガムがありました。薄汚れた女の子に小銭を与えて、この子は可愛い、きっと綺麗な日本人形になるというのでした。

2 スコットランド行き

夕食後、御手洗は書斎に籠り調査を再開した。石岡の他にレオナ、三幸も付き合った。三幸は明日早いので引き上げた。レオナにジェイムズ・ペインの人柄につきいろいろと尋ねた。

調査の一端を示す。蔵書の行間のメモ書きに、英国の業者に水銀10キログラムを注文とある。家族に秘密にしておきたいのか不可解。スコットランドで美少女が誘拐された話しの走り書きが残っている。レオナは御手洗の言葉に父を誹謗をする調子を感じる。少し苛立った。

御手洗が突然、明日、スコットランドに行くと宣言する。呆れる石岡に同行を求める。そこにレオナが強引に割り込んで同行を御手洗に了承させた。

* 壁の中のクララ、9月26日

1 機中で謎を解く

9月26日、成田から出発。レオナはファーストクラス、二人はエコノミークラスに機上する。

調査の結果にもとづき、御手洗が石岡にジェイムズ・ペインについて説明する。彼は二重人格で性格破綻者。これからスコットランドのフォイヤーズに行く。彼の父がその山中にドイツの爆撃防御用建築物を建てた。その際、父は3重の煉瓦で外郭を作り、あとは彼に任せた。彼はロンドンの会社を人に任せ、フォイヤーズでその仕上を行なった。

さらに難解な崩し字のなかから奇妙な物語りを発見したという。

2 手記、ジェイムズ・ペイン

ジェイムズ・ペインの手記である。

おお、クララ、お前は可愛い。
繊細な睫毛、金色の巻き毛、深い深い湖の緑をたたえた瞳
どうか大人にならないでおくれ。
その秘密を永遠にとどめておいておくれ。
ついに私はお前の体をバラバラにして秘密を解き明かす。
二粒の宝石、瞳をもって私は踊り出す。
そして誘拐の家、北の壁の中央に塗り込めた。

* 英国紀行

1 石岡の推理

御手洗はこの誘拐の家の北の壁からクララを発見しようという。石岡はジェイムズ・ペインが日本に立ち戻って卓を殺害、八千代に傷害を与えたと推理する。

2 インバネスに到着

3人は朝7時にガトウィック空港に到着。鉄道で北上し、夕方、インバネスに到着した。

* 巨人の家

1 ジェイムズ・ペインについてきく

翌朝8時レンタカーで南西に向け、ネス湖の近くのフォイヤーズに向う。昼頃、到着。レストランのエミリーズで昼食を取る。女主人からペイン家の様子をきく。

1) 家は廃屋、取り壊された。
2) 父、兄は既に死亡
3) ジェイムズ・ペインは一度も帰村せず。
4) ロンドンの会社は共同経営、現在ペイン家とは無縁
5) 誘拐の家はないが、巨人の家というのがある。

警官エマーソンの登場

警官エリック・エマーソンが犬を連れてやってくる。犬好きの御手洗とすぐ意気投合、いろいろと話しを聞く。ジェイムズ・ペインの手記を見せた。エマーソンがネス湖のほとりから少女をさらって喰べていた巨人の伝説を語る。長い間、巨人の家に住んでいたが飽きて泳いで東の国にいってしまった。そこで巨木に姿を変えたという。

この村出身のジェイムズ・ペインがこの手記を書いたというと、驚いて壁を壊す必要があるという。御手洗が協力を申し出て、二人は霧雨のなかを歌を歌いながら山道を登る。

2 巨人の家へ

途中でエマーソン宅からピッケル、ハンマー、ノミを持ち出した。石岡がそれを載せた一輪車を押す。警官、御手洗は先行する。ようやく頂に着いたころ御手洗が戻ってきて、村の道を指して、bの字を裏返した形となっていることを指摘する。下り坂となりネス湖が見えた。

建物は山の斜面に半分が埋没していた。山側は雨水や不審者防止用にスレートの屋根、鍵がついた扉が付設されている。道がその扉のところ辿りつくようにこれも付設されいる。このとおり建物を尋ねれば、屋根の部分からなかに入ることとなる。

部屋を降りる

エマーソンが天井のランプに点灯した。中央の階段の両側にほぼ正方形の平らなスペースがある。そこにはそれぞれ穴が開いている。落ちれば大怪我が間違いない暗闇への口が開いていた。

階段の踏面と踏面の段差が何と1メートル20センチ以上もある。エマーソンは、脇のスペースにまず乗って、階段を慎重に降りていった。御手洗、石岡、レオナと続く。

一階床にはセメントの瓦礫が多量に散乱している。部屋には巨人も入れるような縦長の開口部が開けられていた。エマーソン、御手洗はその穴から入っていった。石岡は、奇妙なことに気がついた。部屋の床高が1メートル30センチくらいある。両側の部屋は一階床か浮かせて作られている。

小人の気分

部屋のなかの床には横長の開口部がある。その周囲に3つのクッションが置かれていた。エマーソンが巨人がここに腰掛けると解説してくれた。改めて一階の床に降りて、浮かんだ床面の下を潜ってこの開口部に顔を出す。床に引き上げられた石岡は自分が小人になったような気持となった。

死体は見つからない

手記には北側壁の中央とある。セメントを剥した。厚みが10センチメートルである。その下から外郭部の煉瓦壁が顔をだす。これでは死体を塗り込められない。念の為、他の壁も点検した。同じだった。こうして死体発見は失敗に終った。

* 木に喰べられる男

1 エミリーズで少憩

午後3時、エミリーズで遅い昼食を取る。レオナが日本への国際電話を申し込む。食後の紅茶を飲んでいるとき、電話に出ていたレオナが蒼白な顔で戻ってきた。八千代と譲が死亡したという。失神しそうなレオナを部屋に休ませたあと、事情を確かめる。

譲と八千代の死

日本を出発した9月26日に再度台風が来襲した。翌朝、照夫が大楠の根元に倒れている八千代を発見し、そこで思わず見上げた大楠の幹の空洞に上半身を隠し、下半身を見せている譲を発見したという。

1) 八千代は人に呼ばれたとメモを残し失踪
2) 全身打撲で死亡
3) 体の下に「レオナ、男」というダイイングメッセージ
4) 譲は靴下を履いていた。
5) 靴は片方は藤棚湯、もう片方は西洋館
6) ズボンのポケットに遺書。この筆跡は卓のもの

大楠と対決する御手洗

帰国の機中でレオナは御手洗と石岡に家族のこと、とくに八千代のことを次から次へと語り続けた。帰国後、西洋館にもどり、御手洗は大楠と対決した。レオナと石岡は西洋館のかってレオナが使っていた部屋にいてそんな御手洗を見続けた。

午前2時になる。レオナに休むよういうが御手洗が起きているので寝ないという。石岡が事件の経緯を反芻しているとき、突然レオナの泣き声が響いた。そして大楠のところにゆくという。必死になだめていると三幸が顔をだした。あとを三幸に頼んで階下に降りた。

御手洗が雲隠れ

御手洗がいない。幹の瘤にかかっていたブルゾンを発見した。藤棚湯のところにいった。御手洗の靴の片方が落ちていた。西洋館の屋根上に人影はない。急に怒りが込み上げてきて、物置にかけつけピッケルを取り出して大楠の前に立った。

大楠を見上げていると月光が陰るのを感じ思わず背後に月を探した。煙突の天っぺんに人影がある。御手洗と大声で叫んだ。人影は動かない。藤棚湯のところにまたかけつけた。御手洗が降りてきた。そして、ほとんどすべてが分かったと宣言した。

レオナの異常

西洋館に戻ろうとするとレオナの異常な姿を見つけた。大楠の前で歌いながら、突然しゃがんで素手で地面を堀おこし始めた。御手洗が制止してマンションに連れ戻そうとしたとき、そこに放置されていたピッケルに気がついた。

ピッケルをふるう御手洗

突然狂ったように御手洗はそれで大楠の樹皮を剥ぎ取り始めた。呆然とする二人の前に、造り物の大楠の下に隠されていた本物の大楠が出現した。

2 クララの発見

御手洗はジェイムズ・ペインが英国から呼んだ職人が造りあげたものだという。ここを購入しペイン校を建設する間のことだろうという。

マンションのレオナの部屋にゆく。帰国後、部屋にいっさい立ち入ってないことを確認して中に入る。御手洗が黒い金属片をドアノブに差しこんでから開ける。藤棚湯の裏手で拾ったという。ホールの床を注意深く調べてから、わずかに水滴の跡が残っているという。

ベランダに出ると、卓のときと同じようにビニールの安楽椅子が横倒しとなっていた。ベランダにいた御手洗にレオナがエマーソンから電話があった。クララが巨人の家で発見されたという。

* 火事

1 三幸が失踪する

御手洗と石岡が西洋館応接室で少憩していたとき、けたたましい音をたてて照夫が飛び込んできた。三幸が失踪した。このような英文があった。それは、「三幸は自殺する。云々。j.p」と記されていた。

屋根の上を見ている照夫に御手洗が事情をきく。三幸のことを告げる変な外人の電話があった。部屋に行くといない。さっきの英文を発見したといって大楠に向う。

本物の大楠の出現に一瞬驚いたが、すぐ周囲、幹の上の探索に移る。正門の外に出た御手洗が藤棚湯の煙突の先端を見上げ照夫を呼ぶ。先端にかすかな光りが見える。照夫に先端からロープが伸びていると指摘する。照夫はそれを無視したように藤棚湯の裏手の暗がりに向う。

火事の発生

突然、どんという音とかすかな地面の震えが伝わってきた。西洋館の一階から紅蓮の炎が吹き出していた。たちまち、二階、三階へと火が拡がってゆく。御手洗の声で石岡は火の中に飛び込もとする照夫を押さた。

三幸が出現、照夫と抱き合った。なかには牧野夫婦がいると声がした。郁子、千夏が立っていた。野次馬も集ってきた。御手洗は、すべてが終ったといい、レオナの肩に手を置いた。

* 御手洗の行動

御手洗が事件に口を塞ぐ

御手洗は石岡の執拗な問い掛けにもかかわらず、言を左右にして真相を語ろうとはしなかった。小説にしたいという石岡に5年待てといった。

牧野夫妻焼死の事情は新聞記事で分かった。牧野省二郎は週三回腎臓透析をうけていた。将来を悲観しての自殺、夫人はそれに付き合ったことのようだ。

レオナは84年暮れに単身渡米した。それからハリウッドで華々し活躍をみせている。千夏は慰謝料を手に部屋を出た。照夫と三幸がそのあとに入居した。郁子は今も一人暮しを続けている。

レオナの登場

世間の関心もようやく薄らいだ、1986年。その5月11日、レオナが来訪した。華やかなスターの登場だった。英語での冒頭の挨拶からレオナは御手洗へいの思いを伝えるが、まったく受け付けられない。

レオナは23歳と、女優としてはもう中堅である。何があっても驚かない。事件の真相を教えてほしいという。御手洗は石岡にローソク、懐中電灯、長靴を用意するよう頼んだ。

* 怪奇美術館

坑道を潜る

馬車道の事務所からレオナの乗用車で、ハイム藤並の駐車場に停車する。レオナを待って、晴天下の大楠の前に立つ。地面に隠された入口を探しあてた御手洗が先導し、石岡、レオナが続く。坑道は消失した西洋館のほうに向っている。

4体の日本人形

坑道を降りている御手洗の長靴から水音が響いてきた。広い空間に着いたようだ。西洋館の地下室という。石岡が照らし出した天井には無数の大楠の根がからみあい走っていた。ところどころから、老婆のひからびた手のようなものがぶら下がっていた。これから始まる怪奇の世界を暗示しているようだった。

御手洗の懐中電灯が机の上の防水布を照らしている。近づいた石岡に指示し、ゆっくりと防水布を持ち上げた。下から高さ50センチ、4体の人形が表われた。左右1メートル4、50、幅4、50センチ、高さ1メートルの黒い箱の上に立っていた。

設計図があった人形の機械装置だという。音はしなかったが横についたハンドルを回すと人形たちが愛らしい口を上下動に連動させて開閉する。とても可愛いと石岡が感心する。

御手洗は、この顔のは人間の皮膚を使って作ったものだという。南米の食人種が白人宣教師の頭から頭蓋骨を抜きとって、その後に小石を詰める。火で焙って収縮させると、少し小さめの小石と取り替える。これを繰り返してこんな大きさにして保存した実例がある。ジェイムズ・ペインはこれを活用したらしいという。

血管模型

御手洗が石岡に、こちらは死のアートと呼べるような凄いものだといって、子どものミイラを見せた。それは全身の血管がすべて残り、それが骨とミイラ化した薄い肉に密着、絡みついていた。御手洗はこれは、生きている子どもの動脈に水銀を大量に注入して作ったもの。心臓が止まってからでではできないという。

ジェイムズ・ペインのミイラ

レオナが失神した。御手洗が助け起して、どうするかきく。気丈にこのまま続けるよう促す。御手洗はさらに奥に進む。そこでボロボロの衣服をまとったミイラを照らし出した。異様な立ち姿をしている。踊っているように両手を上げ、頭部を少しかしげ、片足を水中、片足は空中に持ち上げている。

ミイラは大楠の根に支えられていた。右側の虚ろな眼窩から根が這い出していた。この大楠は死者を栄養にして生きている。御手洗がジェイムズ・ペインという。

行き止まり

さらに奥に進むとやっと行き止まりの壁があった。上からコンクリートが垂れ下がっている。ジェイムズ・ペインの書斎押入の隠し扉を塞いだ名残りである。

壁画

御手洗が最後に一つ見るべきものがあるという。見事な筆致で描かれた壁画であった。それには、大楠の幹から白骨死体、幹の上部からy字型に足を広げ、上半身を幹の中に埋めた男、藤並家の母屋、その屋根に馬乗りの姿勢でこの殺人大楠を見降ろしている男が描かれていた。

信じがたい絵だと御手洗がいう。おそらく1940年代に描かれたから、40年後に起きる大事件を予言しているという。

御手洗がもう一つの壁画を示す。スコットランドのフォイヤーズ村、巨人の家、金髪の少女が描かれていた。少女は手、足、首が切断されて壁ぎわに立っていた。犯人以外に知り得な事実がここに描かれている。

非常出口

外に出た3人は急ぎこの入口に蓋をし、土、雑草をのせ何もなかったかのように復旧した。

御手洗はこれは地下室から地下坑道を通って脱出するための非常出口であるという。地下室で不要となった死体をそのままできないので、ここに遺棄したという。

幹の間隙

御手洗の謎解きは続く。本物の幹と造り物の幹の間には間隙がある。空洞に耳を近づけると風通が悲鳴のように聞こえた。

チャイムの暗号

チャイの暗号は地下の美術館の存在を近隣に知らせるものだったといった。

* 巨人の犯罪

御手洗、石岡がレオナともに部屋に行く。少憩の後、謎解きが始まる。レオナが巨人の家の謎解きを求める。

元の姿

これは土砂崩れで90度回転したために巨人に家といわれるようになった。そこで元の姿を説明する。

1) 直方体の建物。入口から奥を見ると、奥深い形。外から見て真ん中の下方に入口、他に開口部はない。

2) 中の構造は2階建。真ん中に階段。この両側に各階2室。一階は入口から入り左右方向の通路がら入る。入口あり。

3) 階段を登って2階の床。左右方向の通路から2階の部屋に入る。入口あり。

4) 入口から奥の方向が南北方向である。奥の壁がクララを塗り込めた壁である。

現在の姿

土砂崩れにより建物の南北方向の水平が90度立ち上がり垂直方向に変化した。建物の半分が埋没し、山の傾斜に沿い上半分が姿をみせる現在の姿に変った。

村が設置した入口を入ると、そこから一段目への段差が元通路の幅以上であるので両脇の元一階の部屋の壁に降りる。そこから元一段目の蹴上を踏面として降りてゆく。このように降りて元北側壁の床に至る。

巨人のベンチ

もし巨人が下に降り立ったなら左右の部屋に入ろとすして、浮浪者が階段の元壁に開けた開口部から入り込むだろう。すると元の入口壁と入口を腰掛け部分とする丁度良いベンチとなる。これは警官エマーソンがいっていたこと。

卓、譲の殺害

次に卓の謎に進む。犯人は卓の殺害を決意、嵐の夜に決行した。501号室で待合せ、酔わせ歯と歯茎の間に毒物を注射し、昏睡せしめた。ワープロで遺書を打ち込み、藤棚湯の煙突のてっぺんからの飛び降り自殺を偽装した。

このため煙突の円周に二本の棒を渡し、その棒からそれぞれ大きな網の袋をぶら下げる。石炭を少しずつ運び袋に詰めていく。長い時間をかけて満杯にする。これまでが事前の準備である。

この後、棒を介し長いロープで卓と袋を結びつける。そして棒を壊し、袋を落下させる。するとロープで結びつけられた卓は煙突のてっぺんまで引き上げられる。いつしか結びがゆるみ落下する。このような計画だった。

犯人は、501号室のベランダの長椅子に卓を寝かせ、足をロープの端に結んだ。他の端ををベランダ下の地上まで垂らした。それを煙突の頂上までもってゆき、袋に結びつけた。二つの石炭袋を使ったのは安全策であった。

二本の棒にはあらかじめアルコールなどを染み込ませていた。これに点火し、素早く現場を離れ、アリバイ作りをするつもりだった。

計画の齟齬

実際の犯行には多くの齟齬が生じた。ベランダから卓はブランコに乗せられたように飛び出し、台風の強風より、西洋館の屋根に飛された。その衝撃でそれまであった青銅のにわとりが弾きとばされ、丁度、暗闇坂を下っていたトラックの荷台に落下した。

譲のときの齟齬は、風のあおられ大楠の幹に落下したことである。

実は計画の齟齬はもっと大きかった。譲は別の方法で殺害するつもりだったが、犯人の大怪我で変更を余儀なくされた。

八千代の犯行

暴風雨のなか高齢をおして高い煙突を登り降りした犯人、八千代は梯子から足を踏みずし瀕死の重傷を負った。

八千代は、卓、譲、その次にレオナを殺害する計画だったが、ついに譲のときに大楠の前で力つきて死亡した。ジェイムズ・ペインを殺害したのは八千代である。

犯行の決意

ジェイムズ・ペインは、一見、典型的英国紳士であったが、実は狂気の殺人者であった。八千代はこの夫を殺害した。子どもについてもおそれていた異常性がだんだんと発現した。少くとも八千代はそう考えた。

八千代は、子どもたちに結婚しないように頼んだが、卓は結婚した。次に二人の息子に子供を作らないよう願ったが、妻、愛人ともにそれを承服しなかった。このままではレオナも含め子どもができる可能性が高い。ついに八千代は三人の子どもの殺害を決意した。

色々な齟齬

以上のほかに齟齬はいろいろとあった。卓のとき石炭袋が一つ落ちず、一つ残っていた。また、譲の遺書は卓のために用意したものを転用した。卓のときは気が変わっワープロの遺書にしたが、プリントアウトが分からず、やむなく電源を入れたままに放置した。

最後は、瀕死の転落である。大楠の前で八千代はレオナに、男を作るな、子どもは生むな、という遺書を残したかった。

火事の夜のこと

火事の夜におこった不思議な出来事を石岡に尋かれ、御手洗がいう。

照夫犯人説を否定しきれなかった。照夫には妹をあの大楠に殺されている過去、藤並家の家族への復讐、財産横領の動機がある。

三幸殺害を匂わる状況を作り、マンションに渡されるロープ、煙突の頂の光を見せて、その反応を見た。犯人を思わす反応はなかった。

照夫に渡した脅迫の英文は御手洗が書き、電話の伝言は御手洗が吹き込み、レオナに依頼して然るべき時間に電話してもらった。

* 1986年、暗闇坂

1 レオナの感謝

近くのレストランで夕食を取る。レオナは事件が終結したのに御手洗が沈黙を守っていることを心から感謝する。そうでなければ彼女はマスコミの好餌となりおそらく自殺していたという。

八千代の手記

さらに、先週、藤棚総合病院院長に託された八千代の手記がレオナのもとに送られてきた。犯行の告白を発見し、ひどいショックをうけた。あらためて御手洗に感謝するという。

感謝の言葉には並々ならない御手洗への思いがこめられていたが、御手洗の応対はそっけなかった。遺伝について、親の形質がどのように子どもに伝わるかはまだまだ分かっていない。八千代が信じたことをそのまま信じることはないと付言する。さらにレオナの才能を認め、その成果を大衆に返してゆく必要があるという。

わかれ際、レオナは八千代の手記を手渡す。さらに、あと3年事件の公表を控えてほしいと依頼する。

2 手記作成の経緯

この手記は八千代が、彼女とジェイムズ・ペインについて語ったもの。ペインが死亡後、書斎で書き溜めてきたものだろう。彼女の計画では、3人の子どもの殺害に成功したなら、自分の命とともに手記も抹殺するつもりだった。しかし、譲殺害の夜、落命の危険を察知して、普段から親しかった藤棚総合病院院長に託した。しかし、レオナへの送付は、躊躇により、院長の死後となった。

石岡は、物語をこの手記の紹介により終えるという。

* エピローグ・手記

私がどのような経緯であの大楠に一生を支配されたかをお話ししたい。

八千代の経歴

私は横須賀の商家の一人娘として生まれた。父親のハイカラ好みからピアノ、バイオリンを習い、横浜のミッション系の女学校に入学しました。そのため下宿生活が必要となりました。

取引上の縁のある硝子工場の社長さんに無理をいって社長宅に下宿させてもらいました。それが暗闇坂の大楠のある西洋館でした。社長さんには別に愛人がいるらしく夫婦仲は良くありませんでした。そのため奥さんは、私に八つ当たりをするのです。映画を見るのは駄目、読書も小説は駄目、家に友だちを呼ぶのも駄目、楽しそうにしていると機嫌が悪くなりました。

いきおい、私は部屋に閉じ込もってオルガンをひいたり、読書をする生活となりました。それで私は早く帰って、一人で家の周囲や工場の敷地で遊ぶことになりました。そこによくくる子どもたちや野良犬が私の遊び相手でした。それが思えば私の不幸でした。

野良犬の不幸

皆なに虐められ神経質でよく吠える犬がいました。私は妙に気になって、工場の人の近よらない場所に縄につないで世話していました。あれは金曜日の午後でした。昨夜、犬に餌をあげることができず、ずっと学校で気になっていましたので、すぐ野良犬のところに出かけました。そこで見た光景は一生忘れることができません。4、5歳の女の子が死んでいました。犬にずたずたに噛まれて首などは胴体からはずれそうになっていました。

泣き出しました。人に知らせようとして、はたと困りました。いじわるな奥さん、仕事で父が世話になっている社長さん、父や母を考えるとこのまま隠してしまおうと考えました。

下宿に引っ越してきたとき使った毛布で女の子をくるみ部屋に運びこみました。幸い奥さんは買い物で外出中、2人の息子も別居でしたので見つかりませんでした。 翌朝、女の子は近所のパン屋さんの子だと分かりました。昼、学校が終了して下宿に帰るとき怖くてしかたがありませんでした。しかし何事もなく、部屋に戻りました。死臭がしました。

何とかしなくてはと考えました。あの大楠の下にトラックを停めて、野菜を売る八百屋さんがいました。昼から夕方遅くまでいつも近所の奥さんで賑わったいました。私は奥さんに頼まれて買い物をしたことがあります。そのとき、野菜を傷めないよう運転するのは大変だ。幌がないころ、いつもおっことしていたといってました。

死体の処理

私は大楠の枝の上から女の子の死体を吊るして幌の上に乗せる。すると途中でころげ落ちると考えました。これしか窮地を脱出する方法はないと考えました。

それで実行しました。本当に大変でした。これも引越しのときのものです。長い縄の一方の端に死体を吊るすことにして、大楠の枝の先に苦労してひっかけました。次に二つの端を一つにして、それに石を結びつけました。それを屋根裏部屋の窓から部屋に投げ込みました。やっとの思いで成功しました。

部屋で女の子を結びつけて、窓から落とすとともに急いで片方の端をひっぱりました。無事に大楠の枝に隠れました。そこで下の様子を窺ってしばらく時間を待ちました。八百屋さんが片付けを始める音が聞こえました。今だと思って縄をひっぱりましたが動きません。慌ててもっと力を入れてひっぱると縄が切れました。トラックは行ってしまいました。

その夜から高熱を出して寝込みました。熱にうなされながら両親に遺書を書くことを考えていました。月曜日は風の強い日でした。大楠の枝にぶらさがっている女の子が発見されました。

(その概要は、「昭和16年、くらやみ坂」のとおり)

ジェイムズ・ペインとの結婚

戦争が始まったこともあるのでしょう。一時の大騒ぎも戦争にまぎれて立ち消えとなりました。この頃から私の生活はがらりと変わりました。両親と信州に疎開していたのですが、父は東京で空襲にあい死亡、母は疎開先で病死し、私は一人ぼっちとなりました。財産はあったはずなのに私は無一文となり、おばのところに預けられました。

終戦後すぐ、おばの家を出て横浜の料亭に働きに出ました。ピアノ、バイオリンがひけて英語が喋れる芸者として重宝がられたのです。ここでジェイムズ・ペインに出会いました。当初非常に優しい男と思いました。外国人子女のため学校の土地捜しを手伝ってくれといわれ、通訳を務めました。

土地はすぐ見つかりました。あの硝子工場の跡地でした。購入が決まったあと、ジェイムズは私にプロポーズしました。おかみさんも勧めるので半ば自暴自棄の気持で受け入れました。恐ろしい運命の力で大楠のところに戻ることとなりました。

ジェイムズ・ペインの異常の発見

昭和21年7月、改装の終わった西洋館に移り、結婚式を挙げました。私のお腹には卓がいました。ささやかな幸せを感じました。しかし、ジェイムズ・ペインは仮面を被った英国紳士でした。

非常に規則正しい生活を送っています。朝6時45分起床、朝食。学校で9時に朝礼。午前中勤務。帰宅し三階にあがってにわとりを羽ばたかせてから、昼食。あと4時まで書斎。4時から街へ散歩か骨董品漁り。8時に夕食、また、書斎。二階の夫婦の部屋には10時半に入るというものでした。これは秘密の世界を他人の眼から守る周到な企みでした。

(ここに「1 不明人(八千代)がj.pの貧民窟訪問を語る」が挿入される。)

1年もするとジェイムズ・ペインは私に妙によそよそしい態度を示し始めました。勝手に書斎の掃除をすると不機嫌になりました。ついには鍵をかけ勝手に入れないようにしました。夫の愛情を疑いました。

4時には横浜の街に出ますが、妙なことに気づくようになりました。街で人間の子どもを買っているのではと疑い始めました。私を表に追い払い、十歳くらいの子どもを家に連れ込んいるのです。こっそり帰ってきてみると書斎のなかから子どもの声がする。何とジェイムズ・ペインは日本語を喋っているのです。その子は翌日には失踪しています。こんなことが何カ月おきかに4、5回ありました。

ひそかに書斎の鍵を複製し探ってみました。秘密の地下室を発見しました。そのなかに女の子の死体が転がっていました。生首が4つ置いてありました。地下室の天井には大楠の根っ子がたくさんはえずり回る気味の悪い部屋です。大楠に食べられた人間を描いた壁画もだいぶ出来上がっていました。

ジェイムズ・ペインの殺害

その時私は2人の男の子を生み、3人目がお腹にいました。3人目を産んで数年後、さんざん悩んだ末、夫を殺害しました。私は硝子工場の特殊ガラスを作る際に使う毒薬を密かに入手していました。これをジェイムズ・ペインの歯と歯茎の間に注射して殺害しました。地下室の入口はセメントで塗り込めました。

ジェイムズ・ペインは帰国したことにして学校は閉校にしました。問題にならず何とかできました。その後じっくりと書斎を調べていてジェイムズ・ペインのスコットランドにおける殺人を知りました。その覚書は処分しました。記憶に頼りその内容を記します。

(ここに「2 手記、ジェイムズ・ペイン」が挿入される。)

大楠の意志

私はだんだんあの大楠が怖くてたまらない気持になりました。照夫と再婚して昭和16年のあの女の子の兄としり愕然としました。私の運命はあの大楠にしっかりとからめとられているのです。あの木の怖さは玩具屋のご主人の話しにもありました。これは牧野写真館のご主人から聞いものです。

(ここに「昭和20年、くらやみ坂」と「昭和33年、くらやみ坂」が挿入される。)

私の子どもに父親譲りの異常が芽吹いたのはあの大楠の意志にちがいありませ。ジェイムズ・ペインにあのメロディーを作らせたのも大楠の意志です。だから、私が子どもを殺害すると決意したのもあの大楠が命じる意志です。

私は卓を昭和16年の事件を参考にして殺害しました。すると、御手洗と石岡という男たちがやってきました。あのメロディーをピアノで弾いたと聞いたとき大楠の意志をまた感じました。

(ここに「暗号 3 不明人(八千代)の囁き」が挿入される。)

私は譲を殺害するつもりです。私が死亡したときは、この手記をレオナに渡すよう院長先生に託します。また、私が死んだら牧野写真館夫婦に西洋館を焼却するよう頼んであります。

レオナへの願い

レオナにいいます。どうか子どもを作らないでください。

(おわり)

謎解き島田、占星術殺人事件 [島田荘司]

はじめに

壮大な構想と迷路のような複雑な筋で読者を幻惑し、最後に感動の結末を与える島田荘司さんの「謎解き島田」を提供する。中身はいわゆるネタばれに溢れてる。本作品を未読の方にはすすめられない。

本文

1 平吉の手記

私、梅沢平吉は、自分のためこの小説を書いた。遺言書としてこれを残す。もしこの創作が遺産を産むならば、然るべき相続がなされるよう希望する。

昭和11年2月21日(金) 梅沢平吉

私は内なるデーモンに狂わされ、揺り動かされて生きてきた。私は部屋を横切る子牛ほどの蛤や、部屋の陰という陰に潜むやもりを幻視した。地面に転倒し体を硬直させ口中に泡を生じてデーモンの爆笑を幻聴した。

デーモンは私に、神であり、魔女であり、完全な女であるアゾートの制作を要求する。このアゾートこそが私が30年以上キャンパスの上に追い求めてきた理想の女である。

私は、人間の体を頭部、胸部、腹部、腰部、大腿部、下足部の6部分に分けて理解している。

西洋占星術では人体を宇宙の投影物であり、縮小形と理解する。従ってこの6部分を守護する惑星、太陽、月が存在する。

1) 頭部は牡羊座であり火星が守護し、
2) 胸部は女性の場合、蟹座であり月が守護し、
3) 腹部は乙女座であり水星が守護し、
4) 腰部は女性の場合、蝎座であり冥王星が守護し、
5) 大腿部は射手座であり木星が守護し、
6) 下足部は水瓶座であり天王星が守護する。

次にある私の5人の娘、1)から5)、および、弟の2人の娘、6)から7)の星座は次のとおりである。

1) 和栄が明治37年の山羊座
2) 友子が明治43年の水瓶座
3) 亜紀子が明治44年の蝎座
4) 夕紀子が大正2年の蟹座
5) 登紀子が大正2年の牡羊座
6) 冷子が大正2年の乙女座
7) 野風子が大正4年の射手座

従って、アゾートは次から構成される。

1) 頭部は牡羊座の登紀子、
2) 胸部は蟹座の夕紀子、
3) 腹部は乙女座の冷子、
4) 腰部は蝎座の亜紀子、
5) 大腿部は射手座の野風子、
6) 下足部は水瓶座の友子、

次の秘儀を行ない、アゾートを制作する。

1) 鋸により切り取られた各部を、十字架をレリーフした板の上に組み合わせる。
2) ある種の塩と香である隠された火を用意する。
3) 12星座の羊、牛、乳児、蟹、獅子、乙女、蝎、山羊、魚等のうち、手に入る限りの肉片と血、それにひき蛙と蜥蜴を鍋で煮る。
4) 呪文を唱える。
5) 鍋により作成された混合物を哲学の卵に密封する。
6) 魔術的万能薬となった混合物によりアゾートを不壊とし、ここに完成する。

私は芸術家として創造に命を懸けてきた。アゾートを創造しようとするのは、狂気の産物ではない。芸術家として当然の行為である。

ここで私自身について語る。

十代に私の運命を西洋占星術師に占っもらった。ことごとく当たっていることに気付いて西洋占星術にのめり込むこととなった。

私の生年、星は次のとおりである。

1) 明治19年1月26日、午後7時31分、東京で誕生、
2) 太陽宮は水瓶座、上昇宮は乙女座、上昇点に土星

私の運命はこれらの星に支配されている。それが次の事実に表われている。

1) 魚座の妙を初めての妻とし、やがて離縁し、獅子座の勝子を第二の妻とした。28歳の時、結婚前の勝子に子、夕紀子を生ませ、同時に妙の子、登紀子を生ませた。

妙は都下、保谷に煙草屋を営んでいる。こちらに引き取った登紀子がときどき訪問している。私は前妻に負い目を感じている。従って、アゾートがもたらす資産の全てをやっても良いと思っている。

2) 私は現在、庭の隅の土蔵を改造したアトリエに一人こもり、母屋には足を踏み入れることさえ稀である。

3) 19歳の時、日本を旅立ち、仏蘭西を中心に欧州を放浪した。この生活が私に神秘主義的な人生観を植えつけるに至った。

4) 私の周囲の女たちは運命的因縁に翻弄される。妙は離縁された。二度目の妻、勝子にとり私は二度目の夫であるが、私は現在死を決意しているから勝子は二度目の夫も失なうだろう。私の母も父との結婚に失敗している。祖母も失敗しているらしい。勝子の連れ子の長女和栄も先頃離縁された。

5) 友子はもう26歳、亜紀子も24歳。どうやら結婚を諦めている。私は他人の眼を気にしないでアトリエ生活に満足し、その静謐を乱すことに反対である。しかし、勝子と娘たちは600坪の土地を活用した文化長屋建設を私に迫っている。弟良雄夫婦も賛成である。私は家族、弟から疎まれている。

土蔵は敷地の北西隅に所在し、生来孤独を好む私の気に入りの場所であった。これをアトリエに改造した。天窓を作った。すべての窓を鉄格子で保護した。2階の床を抜き高い天井の平屋とした。室内に流しを付設した。北と西の窓を塗り潰し広い壁とした。東には扉の横に便所を付設した。窓は南にのみ所在することとなった。

仕事場のみならず、生活にも快適なので、室内には軍病院用車付き金属製寝台を据え付け寝泊まりできるようにした。私は高い窓が好きである。改造前の2階窓が残っている。私は気分が良くなり、思わずカプリ島や月下の蘭を口ずさむ。

北と西の壁には百号の11の大作が並べてある。遠からず12番目が加わるだろう。

明治39年、巴里で初めて富口安栄に会った。孤独な二人はたちまち恋に落ちた。22歳のとき、帰国した。結婚するつもりであったが、安江の奔放さに別れた。26歳で妙と結婚した。結婚後銀座で画廊カフェを経営している安江と再会した。離婚していた。息子の平太郎は私の子供であると匂わせた。妙は人形のような大人しい女である。芸術家の激しさが勝子という対称的な女に私を向かわせた。

私は若いときに理想の女に出会い。それを生涯追い掛けているようである。府立高等(現在の都立大学)の近くの洋装店のショウ・ウィンドウのマネキンに魅了された。駅前に行くときは必ず見た。遠回りをしてでも眺めていた。多いときには、日に5度、6度も見た。

私は煙草の煙がわずらわしいのであまり酒場には行かないが、柿の木という店で、マネキン人形工房の経営者を知った。その縁で工房を覗かせてもらった。しかし勿論、登紀江はいなかった。私はあのマネキンをこう呼んでいた。忘れもしない、3月21日、登紀江はウィンドウから消えた。衝撃を受けた。渡仏したのは登紀江に会えるかもしれないという気持もあったからである。

後年、初めて、娘をもった。くしくも3月21日生まれであった。私は迷うことなく登紀子と命名した。私は登紀子に完璧な肉体を与えようとしている。登紀子の頭部に他の娘の優れた肉体の部分を与えようとしている。

私はオランダ人の無名彫刻作家、アンドレ・ミヨーの作品に衝撃を受けた。男の首吊り死体、母と娘の死体、水死断末魔の男。会場の水族館の暗い室内から見ると、これらが明るい水槽の中に浮かび上がる。圧倒され虚脱感が1年間続いた。これに対抗するのはアゾートしかないと確信するに至った。

アゾート制作の場所は厳密に数学的計算により決められる。それは新潟県の某所である。

制作により残された娘たちの肉体は日本帝国のなかの星座に所属する場所に帰される。即ち次のとおりである。

私は、土地が産出する金属により星座が決まると考えている。即ち、火星、鉄は牡羊座、もしくは蝎座、月、銀は蟹座である。

従って、次のとおりとなる。

1) 登紀子は、鉄を産する場所
2) 夕紀子は、銀を産する場所
3) 冷子は、水銀を産する場所
4) 亜紀子は、鉄を産する場所
5) 野風子は、錫を産する場所
6) 友子は、鉛を産する場所

アゾート制作は個人の為ではない。日本帝国の為である。従って帝国の中心に置かれねばならない。

大陸を飾る美しい弓として日本列島は弧状に展開している。東北から南西に伸び、矢が南北に番えられている。その範囲の確定は困難だが次のようになる。

1) 東北端はハルムコタン(東経154度36分、北緯49度11分)
2) 南西端は与那国島(東経123度0分)
3) 南端は硫黄島。矢尻に当たる(北緯24度43分)
4) 真の南端は波照間島(北緯24度3分)

日本帝国の南北を貫く中心線が東経138度48分である。この北端に位置する弥彦山は重要である。私を呼んでいる。この中心線の南から4、6、3の数字が並ぶ。これらの合計がデーモンが喜ぶ13である。この中心にアゾートは設置されるであろう。

(終り)

再度の警告
ここからはネタばれの内容がつづく。未読の方にはすすめられない。


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